説明

大電流放電用二次電池

【課題】大電流放電時でも高出力を発揮し、電池異常時の安全性を確保することができる大電流放電用二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池20は、溶着層のPPフィルムを有する2枚のフィルム1、1’が電池容器に使用されている。フィルム1、1’の間には電極群4が封入されている。フィルム1、1’はPPフィルム同士が熱溶着された溶着部9を有している。フィルム1、1’の対向する2辺には、正極端子2、負極端子3がそれぞれ配設されている。溶着部9には、正極端子2、負極端子3がそれぞれ配設された2辺以外の辺に樹脂フィルム11が挟み込まれて熱溶着されている。樹脂フィルム11には、溶着層のPPフィルムより軟化温度が低いPEフィルムが使用されている。電池異常時に、樹脂フィルム11が溶着層のPPフィルムより早く軟化し溶着部9に隙間が生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大電流放電用二次電池に係り、特に、熱溶着性フィルム同士が熱溶着された溶着部を有するフィルム状密閉容器に電極群が収容された大電流放電用二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車やハイブリッド車などの大電流充放電用電源には、複数個の二次電池を直列ないし直並列に接続した組電池が用いられていた。一般に、このような大電流充放電用電源では、例えば、40〜100個の円筒型二次電池が使用されている。
【0003】
円筒型二次電池に用いられる円筒型容器には、コスト低減のため、鉄系材料を用いるのが一般的である。ところが、鉄は比重が大きいため、電池の重量あたりのエネルギー効率を上げる(軽量化を図る)上で大きな制約となっていた。この問題は、射出成形の樹脂製容器を用いた小型の密閉式鉛電池においても共通しており、重量がさほど軽くならない上に、肉厚の関係で体積あたりのエネルギー効率を上げることが難しい、という問題があった。このため、古くから内層にガスバリア層としてアルミニウム箔などを組込み、熱溶着層に熱溶着性フィルムを用いた、いわゆるラミネートフィルム(以下、単にフィルムという。)を電池容器として用いたフィルム型二次電池(ラミネートセル)の技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このようなフィルム型二次電池では、熱溶着性フィルム同士が熱溶着された溶着部を有するフィルム状密閉容器に電極群が収容されている。
【0004】
また、二次電池においては、充電装置の故障や誤用などのために万一過充電状態となった場合や、高温環境下で使用された場合には、二次電池が異常状態となり、温度上昇に伴う電解液の気化や分解等で発生したガスにより電池内圧が上昇する。このような場合に備え、円筒型二次電池では、電池内部に脆弱な接合部を形成しておくことで、内圧上昇により接合部が破断して電流を遮断する電流遮断機構(安全機構)が組込まれる。ところが、フィルム型二次電池では、極めて単純な構造のため、このような電流遮断機構を電池内部に組込むことが難しい。このため、電池異常時の内圧上昇で二次電池が膨張すると、フィルムの溶着部が剥離して電池外部にガスを噴出する。この発熱及びガス噴出により正負極間が短絡すると、短絡電流による急激な発熱が生じ、活物質の熱暴走反応(多量のガス発生を伴う急激な発熱反応)を引き起こす、という問題があった。
【0005】
これを解決するために、矩形状の1辺から正極端子および負極端子が取出され、正極端子および負極端子の間の溶着部に熱溶着性フィルムより融点の低い樹脂フィルムが挟み込まれて熱溶着されたフィルム型二次電池の技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。また、溶着部に低融点の樹脂フィルムを挟み込む場合に、樹脂フィルムに電解液が付着することを避けるために樹脂フィルムの端部が溶着部の境界に挟まれないようにする技術も開示されている(特許文献3参照)。これらの技術では、低融点の樹脂フィルムを挟み込むことで、溶着部に脆弱な部分が形成される。このため、電池異常時に温度、内圧が上昇すると、低融点の樹脂フィルムが熱溶融してガス放出経路が形成されるため、内圧を低減することができる。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−230354号公報
【特許文献2】特開2001−93489号公報
【特許文献3】特開2005−276700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の技術では、樹脂フィルムが正極端子および負極端子の間に位置するため、樹脂フィルムの熱溶融に伴い、電池内圧の上昇と相俟って、溶着部が剥離すると正極端子および負極端子が短絡して熱暴走反応に移行しやすくなる、という問題がある。また、特許文献2、3の技術では、正極端子および負極端子が矩形状の一辺から導出されているため、電極群から端子までの距離が長くなり内部抵抗が大きくなることから、大電流放電時の出力を低下させる要因となり、特にエンジン始動時に大電流放電が不可欠のハイブリッド車用電源に使用される二次電池としては不適であった。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、大電流放電時でも高出力を発揮し、電池異常時の安全性を確保することができる大電流放電用二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、熱溶着性フィルム同士が熱溶着された溶着部を有するフィルム状密閉容器に電極群が収容された大電流放電用二次電池において、前記電極群から導出された正極端子と負極端子とが前記密閉容器の対向する2辺にそれぞれ配設されており、前記溶着部の少なくとも一部に前記熱溶着性フィルムより低い温度で軟化する樹脂フィルムが挟み込まれて熱溶着されていることを特徴とする。
【0010】
本発明では、電極群から導出された正極端子と負極端子とが密閉容器の対向する2辺にそれぞれ配設されており、電極群から最短距離で端子までの導電経路が形成されるため、内部抵抗が小さく大電流放電時でも高出力を発揮することができ、溶着部の少なくとも一部に熱溶着性フィルムより低い温度で軟化する樹脂フィルムが挟み込まれて熱溶着されているため、電池異常時に温度および内圧が上昇したときに、密閉容器の耐圧限度に達する前に樹脂フィルムが熱溶融して内圧を解放する解放経路が形成されるので、内圧を低減して電池機能を穏やかに終了させることができ、電池異常時の安全性を確保することができる。
【0011】
この場合において、樹脂フィルムの軟化温度を熱溶着性フィルムの軟化温度より40°C以上低くすれば、密閉容器の耐圧限度に達する前に確実に樹脂フィルムを熱溶融させることができる。また、樹脂フィルムをポリオレフィン系樹脂としてもよい。また、樹脂フィルムが正極端子と負極端子とがそれぞれ配設された2辺以外の溶着部に挟み込まれて熱溶着されていれば、正極端子と負極端子とが配設された溶着部では熱溶着フィルム同士の熱溶着により密閉性が維持されるので、通常充放電時の電池機能を確保することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、正極端子と負極端子とが密閉容器の対向する2辺にそれぞれ配設されており、電極群から最短距離で端子までの導電経路が形成されるため、内部抵抗が小さく大電流放電時でも高出力を発揮することができ、溶着部の少なくとも一部に熱溶着性フィルムより低い温度で軟化する樹脂フィルムが挟み込まれて熱溶着されているため、電池異常時に、樹脂フィルムが熱溶融して内圧を解放する解放経路が形成されるので、内圧を低減して電池機能を穏やかに終了させることができ、安全性を確保することができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明をラミネートフィルムを電池容器としハイブリッド車用電源に使用するリチウムイオン二次電池に適用した実施の形態について説明する。本実施形態のリチウムイオン二次電池は、複数個が直列ないし直並列接続された電池モジュールとして使用される。
【0014】
(構成)
図1に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池20は、電池容器に2枚の矩形状の可撓性フィルムのラミネートフィルム(以下、単に、フィルムという。)1、1’が使用されている。
【0015】
図2に示すように、フィルム1は、内層にガスバリア層となるアルミニウム箔1bを有している。アルミニウム箔1bの一方の面には溶着層となる熱溶着性フィルムとしてのポリプロピレン(以下、PPと略記する。)フィルム1aが貼り合わされており、他方の面にはポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)フィルム1cが貼り合わされている。フィルム1は、本例では、厚さ約120μmに設定されている。フィルム1’は、フィルム1と同様に、PPフィルム1’a、アルミニウム箔1’bおよびPETフィルム1’cで構成されている。図1に示すように、フィルム1’は平面状の平面状フィルムであり、フィルム1は略中央部が凸状に成形されたカップ状フィルムである。フィルム1、1’は、PPフィルム1a、1’aが対向するように配置されている。フィルム1、1’の間には、電極群4が配置されている。フィルム1、1’の対向する2辺には、正極端子2及び負極端子3がそれぞれ2つずつ先端部を互いに反対方向の外側に突出させて配設されている。フィルム1、1’
は、周縁部にPPフィルム1a、1’a同士が熱溶着された溶着部9を有している。このため、電極群4は周縁部に溶着部9を有するフィルム状密閉容器に収容されており、リチウムイオン二次電池20は密閉構造とされている。溶着部9には、各正極端子2および各負極端子3が封止材10を介して挟み込まれ熱溶着されている。
【0016】
また、図2に示すように、溶着部9には、正極端子2および負極端子3がそれぞれ配設された2辺以外の辺の一方の略中央部に、矩形状の樹脂フィルム11が挟み込まれて熱溶着されている。樹脂フィルム11には、軟化温度がPPフィルム1a、1’aの軟化温度より低い材質が選択されている。すなわち、樹脂フィルム11は、PPフィルム1a、1’aより低融点である。本例では、PPフィルム1a、1’aの軟化温度が約150°Cであるのに対して、樹脂フィルム11には、軟化温度約80°Cのポリエチレン(以下、PEと略記する。)フィルムが使用されている。樹脂フィルム11は、本例では、フィルム1、1’の辺に沿う長手方向の長さが約30mmであり、長手方向と直交する幅方向の大きさが溶着部9の溶着幅より大きく、厚さが約30μmである。
【0017】
電極群4は、正極板19枚と負極板20枚とが交互に重ねられている。各正極板は、熱溶着で袋状に成形されたセパレータに挿入されている。セパレータには、例えば、厚さ25μm、幅100mmのポリエチレン製多孔膜が用いられている。正極板および負極板は、正極端子2および負極端子3が互いに反対方向に導出されるように重ねられている。2つの正極端子2、2つの負極端子3は、フィルム1、1’の対向する2辺と直交する中心線Mに対して対称となるようにそれぞれ配設されている。
【0018】
正極端子2と一体に形成された正極ストラップ部5には、厚さ0.3mmのアルミニウム合金A3003−H12が用いられており、電解液に接するおそれのない正極端子2の部分(電池外部に露出した部分)にのみ、片面に厚さ0.1mmのニッケル板がクラッド加工されている。一方、負極端子3と一体に形成された負極ストラップ部7には、厚さ0.3mmの銅板C1020−1/2Hが用いられており、電池外部に露出した負極端子3の部分にのみ両面に厚さ0.05mmのニッケル板がクラッド加工されている。正極ストラップ部5、負極ストラップ部7は、正極集電体の無地部6、負極集電体の無地部8にそれぞれ超音波溶接で接合されている。電極群4の厚さはおよそ4.8mmである。
【0019】
リチウムイオン二次電池20の組立時には、電極群4がフィルム1の略中央部に載置され、電極群4の上側にフィルム1’が載せられ、4辺が熱溶着されて溶着部9が形成される。この際、正極端子2、負極端子3を配設していない辺の一部に熱溶着せずに残しておいたフィルム1、1’の合わせ面から注射器を用いて所定量の非水電解液が注入される。この合わせ面の熱溶着時には、樹脂フィルム11が挟み込まれて熱溶着される。フィルム1、1’の4辺が熱溶着で封止されてリチウムイオン二次電池20を完成した。溶着部9の溶着幅は、本例では、全周にわたって約10mmに設定されている。正極端子2、負極端子3は、それぞれ正極ストラップ部5、負極ストラップ部7を介して電池容器の対向する2辺から2つずつ導出されている。
【0020】
電極群4を構成する正極板の作製時には、正極活物質としてマンガン酸リチウム等のリチウム遷移金属複酸化物と、導電材として炭素粉末と、結着剤としてポリフッ化ビニリデンとが、溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンに分散して混合されてスラリが作製される。このスラリが正極集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗布され、乾燥後、プレスされて一体化される。このとき、アルミニウム箔の1辺には、スラリが塗工されない無地部6が形成される。その後、幅94mmに切断されて短冊状の正極板が作製される。塗工部の幅86mm、無地部6の幅10mmに設定されている。
【0021】
一方、負極板の作製時には、負極活物質として炭素粒子と、結着剤としてポリフッ化ビニリデンとが溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンに投入され混合されて、スラリ状の溶液が作製される。このスラリが負極集電体である厚さ10μmの銅箔の両面に塗布され、乾燥後、プレスされて一体化される。このとき、銅箔の1辺には、スラリが塗工されない無地部8が形成される。その後、幅96mmに切断されて短冊状の負極板が作製される。塗工部の幅88mm、無地部8の幅10mmに設定されている。
【0022】
(作用等)
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池20の作用等について説明する。
【0023】
本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、電池容器としてフィルム1、1’で構成されたフィルム状密閉容器が用いられているので、鉄系材料の電池容器を用いた電池と比較して、電池の軽量化を図ることができる。また、本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、PPフィルム1a、1’a同士が熱溶着された溶着部9に樹脂フィルム11が挟み込まれて熱溶着されている。樹脂フィルム11には、軟化温度がPPフィルム1a、1’aより低いPEフィルムが使用されている。このため、温度上昇を伴う電池異常時には、樹脂フィルム11がPPフィルム1a、1’aより早く軟化ないし溶融する。樹脂フィルム11が軟化すると、電池内圧が上昇していることから、溶着部9に隙間が生じて電池内で発生したガスを放出する放出経路(電池内圧を解放する解放経路)が形成される。この放出経路を介してガスが放出され始めると、電池内圧が上昇していることとも相俟って、樹脂フィルム11の長さの範囲で、溶着部9に生じた隙間が広がる(フィルム1、1’間が剥がれる)。これにより、電池内で発生したガスの放出が促進されるので、電池内圧を低下させることができる。更に、ガス放出に伴う非水電解液の揮発により気化熱が奪われるので、電池温度を低下させることができる。従って、リチウムイオン二次電池20では、電池機能を穏やかに終了させることができ、電池異常時の安全性を確保することができる。
【0024】
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、正極端子2および負極端子3がフィルム1、1’の対向する2辺にそれぞれ配設されている。このため、電池異常時に、樹脂フィルム11が軟化してガスが放出されても、正極端子2および負極端子3の接触を抑制することができる。これにより、正極端子2および負極端子3間の内部短絡が抑制されるので、急激な温度、圧力の上昇を伴う熱暴走反応への移行を抑制し、電池異常時の安全性を確保することができる。
【0025】
更に、本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、電極群4を構成する正極板および負極板は、正極端子2および負極端子3が互いに反対方向に導出されるように重ねられており、正極端子2および負極端子3がフィルム1、1’の対向する2辺にそれぞれ2つずつ配設されている。このため、正極板、負極板から正極端子2、負極端子3までの導電距離が最短となり、内部抵抗を低下させることができる。これにより、大電流放電時でも出力低下を抑制し高出力を確保することができる。従って、本実施形態のリチウムイオン二次電池20は、電池異常時の安全性に優れ、大電流放電時でも高出力を発揮するため、特に発進時に大電流放電が不可欠のハイブリッド車用電源等の二次電池として好適に使用することができる。
【0026】
従来電池容器がフィルムで構成されたリチウムイオン二次電池では、過充電時や高温環境下での使用時に電池温度が異常に上昇する電池異常時に非水電解液の気化や分解ガスの発生により電池内圧が上昇すると、フィルムの熱溶着部が剥離し、発生したガスが電池外部に噴出する。このとき、正極板と負極板とが短絡すると、短絡電流による急激な発熱が起こり、熱暴走反応に移行して激しい反応を引き起こす。また、正極端子および負極端子が同一辺に挟み込まれている(正極端子および負極端子の取り出し方向が同一方向である)場合には、正負極板から正負極端子までの導電経路が長くなり内部抵抗が増大するため、大電流放電時の出力を低下させる要因となる。このような電池異常時に生じる電池温度や内圧の上昇は、電池容量が大きくなるほど急激に(激しく)なる傾向にある。一般に、大電流放電用二次電池では、小型民生用の二次電池と比較して、電池容量が大きいため、電池異常時の安全性を確保することが極めて重要である。これに加えて、ハイブリッド車用電源等に使用される場合には、エンジン始動時に大電流(例えば、500A以上)の放電が要求され、回生時に大電流充電が要求されるため、内部抵抗を低減して高出力を確保することも重要である。本実施形態は、これらを解決することができるリチウムイオン二次電池20である。
【0027】
なお、本実施形態では、樹脂フィルム11を正極端子2および負極端子3が配設された2辺以外の溶着部9に挟み込む例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、2つの正極端子2の間や2つの負極端子3の間に挟み込み熱溶着するようにしてもよい。このようにした場合でも、正極端子2および負極端子3が対向する2辺に配設されているので、樹脂フィルム11が軟化しても正極端子2および負極端子3の接触を回避することができ、上述した効果を得ることができる。正極端子2、負極端子3の配設された部分では通常充放電での長期間の使用に耐える信頼性を要求されることを考慮すれば、樹脂フィルム11を挟み込む部分は、正極端子2および負極端子3が配設された2辺以外とすることが望ましい。また、本実施形態では、樹脂フィルム11を溶着部9の1箇所に挟み込む例を示したが、2箇所以上に挟み込むようにしてもよい。更に、樹脂フィルム11の大きさについても特に制限されるものではない。
【0028】
また、本実施形態では、樹脂フィルム11としてPEフィルムを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、軟化温度がフィルム1、1’の溶着層を構成する熱溶着性フィルムの軟化温度より低い(低融点の)フィルムであればよい。フィルム1、1’の溶着層には一般的にPPフィルムが用いられていることを考慮すれば、例えば、PEやPP等のポリオレフィン系樹脂のフィルムを使用することが好ましい。
【0029】
更に、本実施形態では、フィルム1、1’としてPPフィルム1a、1’a/アルミニウム箔1b、1’b/PETフィルム1c、1’cの3層で構成されたフィルムを例示したが、本発明はフィルムの構成に特に制限されるものではなく、電池容器として使用可能な可撓性フィルムであればいかなる構成のフィルムでも使用することができる。また、本実施形態では、矩形状のフィルム1、1’を使用する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。正極端子2および負極端子3を配設するために対向する2辺を有していればよく、対向する2辺以外については、例えば、円弧状としてもよい。更に、本実施形態では、2枚のフィルム1、1’を使用し4辺を熱溶着することで密閉容器を構成する例を示したが、1枚のフィルムを使用し長手方向の中央部を折り返すようにしてもよい。この場合には、3辺を熱溶着することで密閉容器を構成することができる。
【0030】
また更に、本実施形態では、正極端子2および負極端子3をそれぞれ2つずつ配設する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、1つずつや3つずつとしてもよい。大電流充放電を考慮すれば、通電面積を確保する上で複数ずつ配設されていることが好ましい。また、本実施形態では、短冊状に形成した正極板および負極板を交互に積層した電極群4を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、帯状に形成した正極板及び負極板を扁平状に捲回するようにしてもよい。
【0031】
更にまた、本実施形態では、リチウムイオン二次電池20を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、電池容器に可撓性フィルムを使用した二次電池に適用することができる。また、リチウムイオン二次電池に用いられる正負極活物質等の材料に制限のないことはもちろんである。
【実施例】
【0032】
次に、本実施形態に従い製造したリチウムイオン二次電池20の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例のリチウムイオン二次電池についても併記する。
【0033】
下表1に示すように、実施例1〜実施例3では、樹脂フィルム11を代えてリチウムイオン二次電池20を製造した。樹脂フィルム11には、実施例1では軟化温度約80°CのPEフィルム、実施例2では軟化温度約110°CのPPフィルム、実施例3では軟化温度約140°CのPPフィルムをそれぞれ用いた。一方、比較例1では、樹脂フィルム11を挟み込まないこと以外は本実施形態と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造した。従って、比較例1は従来のリチウムイオン二次電池である。なお、PPフィルム1a,1’aの軟化温度は約150°Cである。
【0034】
(安全性評価)
各実施例および比較例のリチウムイオン二次電池20の100個ずつについて、5V、1CA(3.2A)で過充電となるまで充電したときの発火の有無(安全性)を評価した。安全性の評価結果を下表1に合わせて示した。なお、表1において、低融点フィルムは樹脂フィルム11を示している。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、低融点フィルムを挟み込んでいない比較例1のリチウムイオン二次電池では、理論容量に対して約110%の充電時(つまり約10%の過充電時)に内圧、温度が徐々に上昇し始め、約230〜260%充電に達したところで、試験した100個の全てが発火に至った。
【0037】
これに対して、軟化温度80°CのPEフィルムを挟み込んだ実施例1のリチウムイオン二次電池20では、比較例1と同様に約110%の充電時に内圧、温度が上昇し始めたが、約150%充電に達したところでPEフィルムの軟化温度に達して熱溶着部9に隙間が形成された。これによって、内部のガスが放出されると共に、温度上昇が抑制された。このことは、ガス放出に伴い非水電解液が急速に気化して電池外に放出され、その気化熱が奪われたためと考えられる。さらに、そのまま約8時間充電を続けたが、微小な電流が流れ続けるだけで、いずれのリチウムイオン二次電池20も発火に至ることはなかった。このことは、非水電解液が気化したためにリチウムイオン二次電池20の内部抵抗が急激に上昇して、端子電圧がついに電源電圧(5V)に達し、以後は急速に電流値が低下したためと考えられる。また、軟化温度が110°CのPPフィルムを挟み込んだ実施例2のリチウムイオン二次電池20では、同様に内圧、温度が上昇し、約170%充電に達したところでPPフィルムが軟化し熱溶着部9に隙間が形成され、その後は実施例1のリチウムイオン二次電池20と同様の経過をたどり、同じく発火には至らなかった。
【0038】
一方、軟化温度が140°CのPPフィルムを挟み込んだ実施例3のリチウムイオン二次電池20では、約210%充電に達したところで熱溶着部9に隙間が形成された。評価した100個中79個のリチウムイオン二次電池20については、実施例1、2のリチウムイオン二次電池20と同様の経過をたどり、発火には至らなかった。残りの21個のリチウムイオン二次電池20については、温度上昇が続き、約240〜260%充電に達したところで発火に至った。これは、樹脂フィルム11と、PPフィルム1a、1’aとの軟化温度の差が40°Cに満たないことから、樹脂フィルム11の軟化が遅くなり、電池容器が耐圧限度に達する直前まで内圧、温度の上昇が続いたためと考えられる。従って、樹脂フィルム11の軟化温度をPPフィルム1a、1’aより40°C以上小さくする(軟化温度の差を40°C以上とする)ことが望ましいことが判明した。
【0039】
以上の評価結果から、本実施形態のリチウムイオン二次電池20は、万一充電システム等の故障によって過充電になっても、発火や爆発に至ることがなく、安全性に優れていることが確かめられた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は大電流放電時でも高出力を発揮し、電池異常時の安全性を確保することができる大電流放電用二次電池を提供するため、大電流放電用二次電池の製造、販売に寄与するため、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を適用した実施形態のリチウムイオン二次電池のカップ状フィルムを一部除いた平面図および側断面図である。
【図2】図1のA−A’断面におけるラミネートフィルムと樹脂フィルムとの位置関係を示す断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1、1’ ラミネートフィルム
1a、1’a ポリプロピレンフィルム(熱溶着性フィルム)
2 正極端子
3 負極端子
4 電極群
9 溶着部
11 樹脂フィルム
20 リチウムイオン二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶着性フィルム同士が熱溶着された溶着部を有するフィルム状密閉容器に電極群が収容された大電流放電用二次電池において、前記電極群から導出された正極端子と負極端子とが前記密閉容器の対向する2辺にそれぞれ配設されており、前記溶着部の少なくとも一部に前記熱溶着性フィルムより低い温度で軟化する樹脂フィルムが挟み込まれて熱溶着されていることを特徴とする二次電池。
【請求項2】
前記樹脂フィルムの軟化温度は、前記熱溶着性フィルムの軟化温度より40°C以上低いことを特徴とする請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記樹脂フィルムは、ポリオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池。
【請求項4】
前記樹脂フィルムは、前記正極端子と前記負極端子とがそれぞれ配設された2辺以外の溶着部に挟み込まれて熱溶着されていることを特徴とする請求項1に記載の二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−130370(P2008−130370A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314351(P2006−314351)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(再)委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】