説明

天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法

【課題】アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属成分を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造して触媒成分の分散度を向上させ、触媒と支持体間の相互作用を増加させることによって、凝集現象を減少させると同時に、触媒の耐久性を増加させるという効果を提供すること。
【解決手段】本発明は天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は天然セルロース繊維内に自ら含有されているアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属成分を触媒金属粒子の分散剤及び助触媒として用いて触媒を製造する方法に関する。より詳しくは、天然セルロース繊維構造内に自ら含有されているCa、Mg、Kなどのアルカリ及びアルカリ土類金属成分を分散剤及び性能向上剤の用途として用いて触媒を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、触媒分野の主な研究動向を見ると、最大の関心テーマは物理的及び化学的に安定していながらも、特定反応に適合した均一な分布の気孔を有し、表面積の大きい支持体を製造することである。その次の関心テーマは触媒粒子をナノ規模に最小化すると同時に、高分散状態で担持することによって、最小のコストで最大の活性を示す触媒を製造することである。
【0003】
特に、ナノ金属触媒を高温の触媒反応に適用する場合、大部分の金属粒子が凝集(agglomeration)する現象が現れる。そのため、最初に製造された触媒粒子の分散度が非常に優れているとしても、高温の反応に露出すると同時に、触媒が急激に凝集することにより、非活性化する現象が現れるという問題がある。
【0004】
近年、貴金属触媒のコストが大きく上昇することによって、金、白金のような貴金属触媒を用いる燃料電池用及び水素製造用触媒などではこのような金属の凝集による非活性化が、解決しなければならない最も大きな問題として浮上している。このような短所を克服すべく、金属の間に立体障害(steric hindrance)を与えるために反応活性のない金属を分散させたり、金属と支持体間の相互作用を増加させることによって、高温の触媒反応時に触媒の移動及び凝集を防止する技術に関する研究が多様に行われている。しかし、これまで代表的に提示するだけの研究結果は発表されていないのが現状である。
【0005】
Vizcainoらは(Catalysis Today 146(2009)63−70)Cu−Ni/SBA−15触媒にMg−及びCa−金属を追加することによって、エタノールの水蒸気改質反応に効果的な触媒を製造した。同氏らは添加されたCa及びMg成分がCuNi触媒の分散度を向上させ、支持体と金属触媒間の相互作用(interaction)を強化させることによって、触媒性能を向上させ、コックの生成による非活性化を減少させると報告した。このようなアルカリ土類金属の添加による触媒性能の向上及び耐久性の向上に関する研究結果は、前記論文以外にも多様な文献などによって発表された例がある(Cortrightら、Nature 418(2002)964;Polら、Carbon 42(2004)111)。しかし、同氏らは主に改質反応用触媒に対して人為的にアルカリ金属及びアルカリ土類金属を添加する方法に関する研究を行った。天然セルロース繊維内に自ら含有されているCa及びMgなどの成分を活用する技術に関する研究結果は未だ発表されていない。
【0006】
そこで、本発明者らは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属成分を人為的に添加する工程なしに触媒性能及び耐久性の向上した触媒を製造するために研究を続けた。その結果、天然セルロース繊維自体の構造内に存在する高分散状態のアルカリ金属及びアルカリ土類金属ナノ粒子を分散剤及び性能向上剤として用いる方法を開発した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、天然セルロース繊維を熱処理して前記天然セルロース繊維内に存在する不純物を除去し、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を前記繊維構造の内部及び表面にナノ粒子の形態に分散させ、前記熱処理した天然セルロース繊維の表面に官能基を置換させるために酸性溶液で化学処理してセルロース触媒支持体を製造し、かつ前記化学処理されたセルロース触媒支持体の表面に金属触媒ナノ粒子を化学気相蒸着法又は含浸法を用いて担持させる段階を含む、天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法を提供する。
【0009】
以下、本発明における触媒の製造方法を段階別に具体的に説明する。
【0010】
本発明は活性化(activation)のような特定の前処理工程がなくても、大きい表面積が得られる天然セルロース素材を原料として用いる。また、分散剤及び助触媒を人為的に添加する過程なしに、セルロース構造内に自ら含有されているK、Ca及びMgなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属成分を分散剤及び性能向上剤として用いた。その結果、高温反応に用いられる触媒の活性及び耐久性を顕著に向上させることができた。
【0011】
従来は、金属担持触媒を高温の触媒反応に用いる場合、温度の上昇による金属粒子の分散度の低下を防ぎ、金属粒子の焼結及び凝集を防止し、さらに反応の進行に伴う反応副産物の沈積による非活性化を減少させるために、触媒金属以外にK、Ca、Mgなどのアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を人為的に添加して用いた。即ち、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を助触媒として用いた。
【0012】
本発明は、前記言及した人為的な添加過程がなくても、天然セルロース素材がアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属成分を自ら含有する。前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属成分は別途の処理過程がなくても、天然セルロース内に自ら高分散されたナノ粒子の状態で存在することを確認した。また、本発明によれば、天然セルロース繊維に熱処理を施せば、天然セルロース内に含有されている低沸点の不純物であるワックス又はペクチンのような物質が除去され、繊維内に存在するアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属成分が多孔性繊維の内部及び外部に露出すると同時に、金属の結晶性が向上する。このような現象に基づいて天然セルロース繊維の炭化体を高性能触媒支持体及び触媒自体として活用しようとするものである。
【0013】
このようなセルロース構造体の表面に多様な金属触媒粒子を担持する場合、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属成分の影響により金属触媒粒子の分散度が向上し、金属と支持体間の相互作用が強化される。また、高温触媒反応において問題となる金属触媒粒子の凝集現象及び焼結を減少させ、結果として触媒の耐久性を大きく向上させるという効果が得られる。
【0014】
従来は、金属触媒粒子の凝集現象及び焼結を減少させ、触媒の耐久性を向上させるために、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属成分を人為的に添加した。しかし、本発明で提示した天然セルロース素材を原料とした触媒支持体の場合、セルロース繊維内に自ら高分散されたナノ金属粒子を有しているので、これを分散剤及び性能向上剤の用途として直接的に使用できるという長所がある。
【0015】
本発明で利用できる天然セルロースの種類には制限がない。天然セルロースバイオマスはいずれも本発明の材料として利用され得る。例えば、ヘネケン繊維、ケナフ(kenaf)、アバカ(abaca)、竹(bamboo)、大麻(hemp)、亜麻(flax)、黄麻(jute)、パイナップル、ラミー(ramie)、サイザル(sisal)麻、稲わら(rice straw)、大麦わら(barley straw)、麦わら(wheat straw)、もみ殻(rice husk)及びこれらの混合物からなる群より選択されることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0016】
前記天然セルロース繊維を熱処理する段階は、天然セルロース繊維からワックス及びペクチンなどの不純物を熱処理を通じて除去し、表面積及び気孔度を向上させるための段階である。そして、前記熱処理を施せば、天然セルロース繊維内にアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属成分の結晶性が向上し、前記天然セルロース繊維内に存在するアルカリ金属又はアルカリ土類金属がセルロース繊維内にナノ粒子の形態で均一に分散する。
【0017】
前記アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、本技術分野において広く知られているものであれば、いずれもこれに含まれ得る。例えば、前記アルカリ金属は、リチウム、ソジウム、ポタシウム及びこれらの混合物からなる群より選択され、前記アルカリ土類金属はカルシウム、マグネシウム及びこれらの混合物からなる群より選択されることができるが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0018】
本発明の一実施形態において、前記天然セルロース繊維を数十〜数百μmの細い繊維に分離した後、これを液体窒素に含浸させた状態で1〜2mm長さの短い繊維に切断する。その後、切断された天然セルロース繊維を水素:窒素=1:1の雰囲気で500〜1800℃まで5〜20℃/分の昇温速度で加熱した後、500〜1800℃で0.5〜2時間維持することによって、炭化した状態で製造できる。また、改質反応のような高温触媒反応の場合、1100℃以上の高温で処理するほど支持体の安定度が増加して触媒反応に使用するのに適している。この過程で天然セルロース繊維が有している不純物成分が除去されることによって、繊維自体の壁厚が減少し、不純物(主に、ワックス、脂肪成分)が存在していた空間は内部気孔で維持され得る。1100℃よりも高い温度で処理されたセルロース繊維の場合には高温処理により気孔が広くなり、気孔の体積が減少すると同時に、表面積が急激に減少する傾向が現れる。炭化温度が増加するほど試料の炭素含有量と比較した金属含有量の比率が変化するので、炭化体の用途によって炭化処理温度を変化させることができる。
【0019】
その後、前記熱処理した天然セルロース繊維の表面に官能基を置換するために、酸性溶液で化学処理してセルロース触媒支持体を製造する。より詳しくは、前記熱処理した天然セルロース繊維の表面にCO−、CH−、O−C=O、CO2、CO3などの官能基を置換させるために、酸性溶液で化学処理してセルロース触媒支持体を製造できる。
【0020】
本発明の一実施形態において、天然セルロース繊維の表面に官能基を置換させるために、酸性溶液で化学処理する過程は前記熱処理された天然セルロース繊維を0.1〜0.5molの硫酸水溶液に浸漬した後、−0.15〜1.3Vの電圧範囲で掃引速度(sweep rate)を50mV/sにして10〜60回繰り返し処理する。その後、100〜150℃の30%硝酸溶液(又は14Nの硝酸溶液)に浸漬した後、10分〜20時間処理するか、硝酸(14M、50ml)と硫酸(98%、50ml)の混合溶液、又は98%の硫酸と70%の硝酸を3:1の体積比で混合した溶液に前記天然セルロース繊維を浸漬し、50〜70℃でリフラックスさせながら、5分〜6時間処理できる。このように処理された天然セルロース繊維を蒸留水で十分に洗浄し、濾過した後、110℃で12時間乾燥させて最終的に触媒支持体として用いられるセルロース触媒支持体が得られる。
【0021】
その後、前記化学処理されたセルロース触媒支持体の表面に金属触媒ナノ粒子を化学気相蒸着法又は含浸法を用いて担持させる。
【0022】
前記セルロース触媒支持体の表面に担持される金属触媒ナノ粒子としては、白金、金、銀、ニッケル、コバルト、ルテニウム、パラジウム又はモリブデンナノ粒子を用いることができる。このような金属触媒ナノ粒子をセルロース触媒支持体の表面に担持させるためには、化学気相蒸着法又は含浸法を用いることができる。
【0023】
本発明の一実施形態において、化学気相蒸着法を用いてセルロース触媒支持体の表面に金属触媒ナノ粒子を担持させる段階は、以下のように遂行され得る。まず、ナノ粒子形態の分散段階、そしてセルロース繊維を化学処理してセルロース触媒支持体を製造する段階を経て製造されたセルロース触媒支持体を加熱炉(Furnace)の中央に位置する石英管の中央に位置させ、100〜120℃で6〜10Torrの圧力で30〜120分間維持して石英管内部の不純物を除去した後、ここに窒素(50〜300sccm)を流しながら、1時間以上維持する。化学気相蒸着法を用いて金属触媒ナノ粒子のために石英管内部の温度を10℃/分の昇温速度で80〜300℃まで変化させ、反応温度に到達する時点で気相の金属前駆体物質を流し始めることによって、セルロース触媒支持体の表面に金属触媒ナノ粒子が担持されるようにする。金属前駆体はオーブン(heating oven)内に設置された気化器(evaporator)内に予め注入して用いる。一例として、白金前駆体(MeCpPtMe3)の場合は60〜80℃で加熱させ、反応温度に到達する時点で連結管のコックを開放することによって、気相の金属前駆体が反応器内部のセルロース触媒支持体まで伝達されるようにする。セルロース触媒支持体は反応温度(80〜300℃)で30分〜24時間まで維持し、反応時間が増加するほどセルロース触媒支持体の表面に担持された金属触媒ナノ粒子の量が増加する。
【0024】
前記白金粒子をセルロース触媒支持体の表面に担持するための白金前駆体として、メチルトリメチルシクロペンタジエチル白金(MeCpPtMe3)、Pt(Me)3(Cp)、Pt(Tfacac)2、Pt(Me)(CO)(Cp)、Pt(Me)2(COD)、[PtMe3(acac)]2(acac;アセチルアセトナートリガンド))、PtCl2(CO)2、Pt(PF34、Pt(acac)2及びPt(C243からなる群より選択されることができるが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0025】
金属前駆体としては、これ以外にもルテニウムの場合はルテニウムクロライド(RuCl3)、ルテニウムアセチルアセトネート((C5723Ru)、ビスエチルサイクロペンタジエニルルテニウム((C652Ru)、ビス(2,4−ダイメチルペンタジエニル)ルテニウム(II)(Ru[(CH32552)、銀の場合はシルバー2,2−ダイメチルブチレート複合体(Ag2(CH3CH2C(CH32COO)2(PMe32)、パラジウムの場合はパラジウムジアセテート(CH3COO)2Pd、ニッケルの場合はニッケルナイトレート(Ni(NO32)又はニッケルカルボニル(Ni(CO)4)を用いることができ、コバルトの場合はダイカルボニルサイクロペンタジエニルコバルト、Co(CO)3NO又はCo(NO32、モリブデニウムの場合はMo(CO)6を用いることができる。
【0026】
本発明において化学気相蒸着法を用いる場合の長所は、反応時間が増加しても、金属触媒のナノ粒径が増加するか、分散度が減少せず、一定のナノ規模を維持しながら、担持量のみ効果的に増加させることができるという点にある。
【0027】
本発明の一実施形態において、含浸法を用いてセルロース触媒支持体の表面に金属触媒ナノ粒子を担持させる段階は、以下のように遂行され得る。まず、前記酸性溶液で化学処理して製造されたセルロース触媒支持体に金属触媒ナノ粒子を担持するための金属前駆体としては、前述した金属前駆体を用いることができる。前述した金属前駆体を溶解させた水溶液(0.1〜1mol)に前記セルロース触媒支持体を沈殿させ、5分〜3時間超音波を加え、次いでセルロース触媒支持体が沈殿した状態で12時間維持する。セルロース触媒支持体が沈殿したスラリ状態の溶液を濾過した後、100〜120℃のオーブンで12時間以上乾燥させた後、再び400〜600℃窒素雰囲気の加熱炉で2〜6時間焼成することによって、最終的にセルロース触媒支持体の表面に担持された触媒が得られる。
【0028】
前記セルロース触媒支持体の表面に白金触媒ナノ粒子が担持された触媒の場合、テトラリン又はベンゼンの水素化反応、メタノール及びエタノール、以外にフェノールなどの酸化反応などに効果的である。
【0029】
前記セルロース触媒支持体の表面に白金触媒ナノ粒子を担持した後、助触媒としてルテニウム或いはコバルトを追加的に担持した触媒の場合、燃料電池の電極反応でそれぞれCOによる被毒を減少させたり、酸素還元反応を促進させる用途として非常に有用である。
【0030】
前記セルロース触媒支持体の表面にパラジウムナノ粒子が担持された触媒の場合、炭化水素の選択的水素化反応、燃料電池電極で白金触媒に代わる触媒として非常に有用である。
【0031】
前記セルロース触媒支持体の表面に銀ナノ粒子が担持された触媒の場合、吸着剤として非常に有用であり、他の貴金属触媒(パラジウムなど)に助触媒として用いる場合、炭化水素の選択的水素化反応に有用であり、COの酸化反応、プロパンの脱水素化反応、窒素酸化物(NOx)の還元反応、ベンジルアルコールの酸化反応など、非常に多様な反応に適用できる。
【0032】
前記セルロース触媒支持体の表面にニッケル触媒ナノ粒子が担持された場合、水素の製造のための改質反応に非常に効果的に用いることができ、これ以外にも脱硫、脱窒、脱金属反応などに非常に効果的に用いることができる。
【0033】
前記セルロース触媒支持体の表面にモリブデン触媒ナノ粒子が担持された場合、脱硫、脱窒、脱金属反応などに非常に効果的に用いることができる。
【0034】
前記セルロース触媒支持体の表面にコバルト触媒ナノ粒子が担持された触媒の場合、脱硫、脱窒、脱金属反応で助触媒として使用され得、燃料電池用白金触媒に助触媒として使用され得、フィッシャー−トロプシュ(Fisher-Tropsch)反応用触媒、炭化水素の酸化反応及び部分酸化反応用触媒、改質反応、エタノールなどのアミン化反応用触媒、水素化反応用触媒、水性ガス置換反応用触媒などとして使用され得る。
【発明の効果】
【0035】
本発明はアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属成分を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造し、触媒成分の分散度を向上させ、触媒と支持体間の相互作用を増加させることによって、凝集現象を減少させると同時に、触媒の耐久性を増加させるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態によって、電子ビーム処理を経たヘネケン繊維を多様な温度で熱処理(炭化)した後の表面形状の変化を走査電子顕微鏡(SEM)で分析した写真である。H2とN2の大気条件(H2:N2=1:1の体積比)で2時間行い、25℃からスタートして10℃/分の比率で昇温させた(以下の熱処理条件は、いずれも同一である)。
【図2】互いに異なる熱処理温度で炭化したヘネケン繊維のラマンスペクトラムである。(a)は500℃、(b)は700℃、(c)は900℃、(d)は1100℃、そして(e)は1300℃である。
【図3】本発明の一実施形態によるヘネケン繊維(1100℃)とNi/セルロース(1100℃)のTEMイメージ(a)及びEDAXパターン(b)である。
【図4】(a)Ni/Al23(改質反応前:raw)、(b)Ni/Al23(168時間改質反応に使用した後)、(c)Ni/セルロース(1100℃)(raw)、そして(d)Ni/セルロース(1100℃)(168時間改質反応に使用した後)のXRDパターン分析を示すものである。
【図5】(a)はNi/セルロース(1100℃)のXPSスペクトラムを示すものであり、(b)は(i)Ni/Al23、(ii)Ni/セルロース(1100℃)(raw)、そして(iii)Ni/セルロース(1100℃)(168時間改質反応に使用した後)に対するNi2p3/2XPSスペクトラムを示すものである。
【図6】(a)Ni/セルロース(700℃)、(b)Ni/セルロース(900℃)、(c)Ni/セルロース(1100℃)、そして(d)Ni/Al23を用いてメタンの二酸化炭素改質反応を行った結果を示すものであり、メタンの転換率(solid line)、二酸化炭素の転換率(dashed line)、そして水素収率(dotted line)である。
【図7】本発明の一実施形態によって700℃で炭化処理を経たヘネケン繊維のED−XRF分析結果である。
【図8】本発明の一実施形態によって700℃で炭化処理を経たケナフ繊維のSEM分析結果である。
【図9】本発明の一実施形態によって700℃で炭化処理を経たケナフ繊維のED−XRF結果である。
【図10】本発明の一実施形態によって700℃で炭化処理を経た稲わら繊維のSEM分析結果である。
【図11】本発明の一実施形態によって700℃で炭化処理を経た稲わら成分のED−XRF結果である。
【図12】本発明の一実施形態によって700℃で炭化処理を経た稲わらのTEM結果と、TEM写真で白色の粒子として現れる部分をそれぞれEDAXを用いて分析した結果である。
【図13】本発明の一実施形態によって700℃で炭化処理を経た稲わらのSTEMを用いたマッピング(mapping)結果である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の理解を促進するために好適な実施形態を提示するが、下記の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で多様な変更及び修正が可能であることは当業者にとって明白であり、このような変形及び修正が添付された特許請求の範囲に属することも当然である。
【実施例】
【0038】
実施例1
ヘネケン繊維を用いたセルロース触媒支持体の製造及びこれを触媒支持体として用いたニッケルナノ触媒の製造
【0039】
(1)天然ヘネケン繊維を特定の熱処理条件で処理する段階
天然状態のヘネケン繊維の不純物を除去し、表面積及び気孔度を向上させるために特定の熱処理条件で熱処理を施した。ヘネケン繊維を数十〜数百μmの細い繊維に分離した後、これを液体窒素に含浸させた状態で1〜2mm長さの短い繊維に切断する。切断されたヘネケン繊維は水素が5〜50%含まれている窒素混合気体雰囲気で500〜1500℃まで5〜20℃/分の昇温速度で加熱した後、次いで500〜1500℃で1時間維持することによって、ヘネケン繊維を炭化させた。
【0040】
(2)前記熱処理を経たヘネケン繊維を化学処理を経て表面に官能基を導入することで、金属ナノ触媒の担持を容易にする段階
前記段階(1)で熱処理されたヘネケン繊維を0.5molの硫酸水溶液に浸漬した後、−0.15〜1.3Vの電圧範囲で掃引速度を50mV/sにし、10〜60回処理した。硝酸(14M、50ml)と硫酸(98%、50ml)を3:1の体積比で混合した溶液にヘネケン繊維を浸漬し、60℃でリフラックスさせながら、10分間処理した。処理された試料は蒸留水で十分に洗浄し、濾過した後、110℃で12時間乾燥させて最終的に触媒支持体として用いられるセルロース触媒支持体を製造した。
【0041】
(3)前記段階1及び2の前処理段階を順次経て製造されたセルロース触媒支持体の表面に化学気相蒸着法を用いて金属ナノ触媒を担持する段階
前記段階1及び2を順次経たセルロース触媒支持体の表面に含浸法によりニッケルナノ触媒の担持のためには、表面処理を経たセルロース炭化体を準備し、ニッケル前駆体としては、ニッケルナイトレート(Ni(NO32)を用いてこれを蒸留水に溶解させて1molの前駆体水溶液を製造した。セルロース炭化体が十分に浸る程度にNi水溶液を添加し、超音波を30分間加える段階を2〜5回繰り返して支持体の細孔内部まで水溶液が十分に伝達されるようにした。その後、セルロース炭化体がNi水溶液に浸漬された状態で12〜24時間放置した後、濾過紙を使用して濾過し、110℃のオーブンで12時間以上乾燥させ、次いで窒素雰囲気の450℃の加熱炉で4時間焼成して最終的にNi粒子が担持されたセルロース触媒を得た。
【0042】
実施例2
ケナフ(kenaf)を用いたセルロース触媒支持体の製造及びこれを触媒支持体として用いたニッケルナノ触媒の製造
ヘネケン繊維の代わりに、ケナフを原料として用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でセルロース触媒支持体を製造し、この触媒支持体を用いたニッケルナノ触媒を製造した。
【0043】
実施例3
稲わら(rice straw)を用いたセルロース触媒支持体の製造及びこれを触媒支持体として用いたニッケルナノ触媒の製造
ヘネケン繊維の代わりに、稲わら(rice straw)を原料として用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でセルロース触媒支持体を製造し、この触媒支持体を用いたニッケルナノ触媒を製造した。
【0044】
比較例
常用のガンマアルミナ(γ−Al23)を触媒支持体として用い、初期含浸法を用いたアルミナ担持ニッケル触媒の製造
【0045】
(1)ガンマアルミナにニッケル前駆体を初期含浸法により担持する段階
ガンマアルミナ(γ−Al23、97%、Strem)を支持体として用い、ニッケル前駆体としては、ニッケルナイトレート(Ni(NO32)を用いてこれを蒸留水に溶解させて1molの前駆体水溶液を製造した。その後、110℃のオーブンで12時間以上乾燥した状態のアルミナを用い、初期含浸法を用いてアルミナ担持ニッケル触媒を製造した。
【0046】
(2)乾燥及び焼成過程を通じた酸化物状態の金属触媒の製造段階
初期含浸法によってニッケル前駆体を担持した触媒を110℃のオーブンで12時間以上乾燥させ、450℃の加熱炉で窒素雰囲気を維持しながら、4時間処理することによって、最終的に酸化物状態のアルミナ担持ニッケル触媒を得た。
【0047】
<試験例>
熱処理温度の増加によるセルロース繊維の性状、成分及び金属含有量の変化、セルロース炭化体構造内に存在するアルカリ及びアルカリ土類金属の分布、そして金属と炭化体間の相互作用などを分析した。互いに異なる温度で処理されたセルロースを支持体として用い、ニッケル粒子を担持した触媒をメタンの二酸化炭素改質反応に対して試験し、その結果を整理した。
【0048】
<試験例1>
ヘネケン繊維の熱処理条件に伴う性状の変化
実施例1の段階(1)で天然ヘネケン繊維を用いて多様な温度で熱処理を経た後、結果として得られた試料に対してSEMを用いて分析し、その結果を図1に示した。
【0049】
図1の(a)は500℃で2時間熱処理(水素:窒素=1:1の体積比)を経た後の試料である。(b)は700℃で2時間熱処理(水素:窒素=1:1の体積比)を経た後の試料である。(c)は900℃で2時間熱処理(水素:窒素=1:1の体積比)を経た後の試料である。そして、(d)は1100℃で2時間熱処理(水素:窒素=1:1の体積比)を経た後の試料である。(a)〜(d)の結果を比較すると、処理温度の上昇によってヘネケン構造内のチャネルはそのまま維持されるが、これらを構成している壁厚が薄くなることが確認できる。これは熱処理温度の増加によってワックスやペクチンなどの不純物が順次除去されながら、グラファイトに類似する形態のしっかりとした構造を形成したためであると考えられる。
【0050】
<試験例2>
ヘネケン繊維の熱処理条件に伴う成分の変化
実施例1の段階1で天然ヘネケン繊維を用いて多様な温度で熱処理を経た後、結果として得られた炭化体をラマン(Raman)を用いて性状分析を行い、その結果を図2に示した。
【0051】
図2では無定形炭素に該当する2つのピークが現れ、それぞれ1344cm-1(Dピークに該当)及び1581cm-1(Gピークに該当)で現れる。通常、Dピークの強度とGピークの強度の比(ID/IG)からグラファイト化(graphitization)の程度を判断するようになり、熱処理温度の増加によってグラファイト成分が増加しながら、相対比が減少するのが一般的である。しかし、図2のヘネケン炭化体の場合には1100℃以下で処理された試料の場合、この比がむしろ増加する傾向が現れる。これは(a)〜(d)試料の場合、炭化温度が1100℃以下で一般的なグラファイト化が発生する温度(約1500℃以上)よりは低い温度であるので、グラファイトの程度によるID/IGの差異を論じ難い。しかし、1100℃以下の低い温度ではグラファイト構造をなすための単一基本構造単位(single basic structural unit)が温度の増加に伴い、無秩序な状態から次第に一列に羅列する特性を示しながら、ID/IGの比が増加する。反面、(e)の場合にはID/IGの比が減少することから、1100℃以上では次第にグラファイト化が進むことが分かる。
【0052】
<試験例3>
ヘネケン繊維の熱処理条件に伴う成分の変化
実施例1の段階1で天然ヘネケン繊維を用いて多様な温度で熱処理を経た後、結果として得られた試料に対して熱重量分析(Thermo Gravimetric Analysis;TGA)及びエネルギー分散型エックス線蛍光分析装置(Energy Dispersive X-ray Fluorescence;ED−XRF)を用いて成分分析を行った。即ち、TGAを用いて(空気雰囲気、20〜1000℃まで昇温)残留金属量を分析し、ED−XRFを用いて金属成分の定性分析(含有量比)を同時に行うことで、セルロース繊維内に存在する金属成分の正確な定量及び定性分析を行い、その結果を下記の表1に示した。
【0053】
【表1】

各サンプルは、水素/酸素の雰囲気下(水素:酸素=1:4の体積比)、各温度で2時間熱処理することで炭化させ、そして硫酸(98%硫酸、5ml)及び硝酸(14M硝酸、50ml)の混合容液により60℃で30分処理することで得た。
【0054】
表1に示すように、炭化したセルロース支持体の構造はCa、Mgなど多様な種類のアルカリ土類金属を含んでおり、熱処理温度(炭化温度)が増加するほど、これらの金属成分の含有量も増加することが確認できる。セルロース炭化体は低温で無定形(amorphous)を示し、炭化温度が増加することによって、結晶性が増加したグラファイト形態のしっかりとした構造に変化される。
【0055】
<試験例4>
熱処理を経たヘネケン炭化体のTEM及びEDAX分析
実施例1の段階1で天然ヘネケン繊維を用いて多様な温度で熱処理を経た後、結果として得られた試料に対して透過電子顕微鏡(Transmission Eelectron Microscopy;TEM)を用いて構造分析を実施し、表面の組成をエネルギー分散型エックス線分析(Energy-Dispersive X-ray Analysis;EDAX)を用いて分析し、その結果を図3に示した。
【0056】
図3の(a)は1100℃で熱処理のみを経たヘネケン試料のTEM及びEDAX結果である。図3(a)でグラフの内側に挿入されているTEM結果では全体的に金属成分と見られる黒い粒子が分散していることが確認でき、このような粒子に対してEDAX分析を実施した結果、炭素成分以外にCa粒子が相当部分含まれていることが確認できる。Mg成分も検出されるのが妥当であるが、Caに比べて含有量が少ないので、EDAX結果では現れていないものと考えられる。図4の(b)は1100℃で熱処理されたヘネケン炭化体の表面にニッケル触媒を担持した試料に対するTEM結果であって、全般的に金属粒子が均一に分散していることが確認できる。この試料の表面に対してEDAX分析を実施した結果、炭素のピーク以外に任意に担持したNiのピークが大きく現れることが確認でき、これ以外にもヘネケン繊維に天然に存在するCaのピークが追加して現れることを確認した。
【0057】
<試験例5>
互いに異なる温度で処理されたヘネケン炭化体に担持されたNi触媒のXRD分析
実施例1の段階1で天然ヘネケン繊維を用いて多様な温度で熱処理を経た後、結果として得られた試料にNi触媒を担持した後、これをメタンの二酸化炭素改質反応に168時間使用した。反応前/後の触媒を回収してXRD分析を行い、その結果を図4に整理した。Ni/ヘネケン触媒との相対的な比較のために、一般に改質反応に主に用いられるNi/Al23触媒を用いて同一条件で反応を行い、その結果を図4の(a)と(b)に比較して示した。図4の(a)は比較例1で製造されたアルミナに担持されたNi触媒の改質反応前に対する結果であり、NiOとNiAl23などのピークが現れる。図4の(b)は(a)の触媒を用いて改質反応を168時間行った後の結果であり、酸化状態(NiO)の触媒を還元して反応に適用するので、金属状態のNiが主に現れる。図4の(a)から計算されたNiの粒径は9nmであり、(b)から計算された改質反応後のNiの粒径は21nmである。一方、図4の(c)は、本発明によるヘネケン炭化体の表面に担持されたNi触媒に対するものであって、主にNiOピークが現れ、図4の(d)は(c)の触媒を還元後、改質反応に168時間使用した後に分析された結果である。(c)の場合に計算されたNiの粒径は7nmであり、比較例1のアルミナ表面に担持されたNiの粒径(a)に比べて小さい。また、168時間改質反応に用いられた(d)の場合にも約10nmの大きさを示す。Ni触媒はアルミナに担持された場合に比べて本発明のヘネケン炭化体に担持された場合、長時間/高温反応に露出した後も粒径の変化が大きくないことが分かる。このような結果は、Ni/ヘネケン触媒に存在するCa、Mgなどの影響によるものである。具体的に説明すれば、改質反応(reforming)などのための高温反応に用いられた触媒に存在するアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属は、Ni触媒粒子の分散度を向上させる。また、本発明による触媒を高温反応に適用したとき、天然セルロース繊維内のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属は粒子同士の凝集を抑制して耐久性を向上させ、触媒粒子の焼結(sintering)を防止する。このような現象は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属成分が触媒金属であるNiと支持体間の強い相互作用(Strong Metal-Support Interaction;以下SMSI)を誘発するためである。このような影響によって本発明のヘネケン炭化体の表面に担持されたNi粒子は反応後も粒径に大きな変化がなく、反応活性も殆ど変化なしに維持されることが分かり、反応活性試験の結果は、次の<試験例7>の図6に示した。
【0058】
<試験例6>
互いに異なる温度で処理されたヘネケン炭化体に担持されたNi触媒のXPS分析
実施例1の段階1でヘネケン繊維を用いて1100℃で熱処理を施して得られた炭化体の表面にNi触媒を担持し、結果として得られた触媒を用いてメタンの二酸化炭素改質反応に168時間使用した。反応前/後の触媒を回収して光電子分光器(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)で分析を行い、その結果を図5に示した。一般に用いられる触媒との比較のために、比較例1で説明したように含浸法を用いて常用アルミナにNi触媒を担持したNi/アルミナに対して同一の分析を行い、その結果を図5の(b)(i)に示した。
【0059】
図5の(b)(i)に示すNi/アルミナ触媒の場合にNi2p3/2に対する主ピークが855.4eV(ピークI)と861.2eV(ピークII)でサテライト(satellite)ピークが現れ、これはNiOのNi2+に該当する。一般的な場合に前記位置で現れるピークIとピークIIはヘネケン炭化体の場合、図5の(b)(ii)でのように、それぞれ856.1eV(ピークI)と861.8eV(ピークII)で現れる。このようにヘネケン触媒の場合には、アルミナ触媒の場合に比べて相対的に高い結合エネルギーが現れる。これは前記<試験例5>に言及した通り、セルロース繊維内に存在するアルカリ金属であるCa及びMgなどの存在によって支持体と触媒金属間の結合力が増加したためである。このようなアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の存在によるSMSI現象は、窮極的に触媒を高温反応に適用した際に頻繁に発生する凝集現象を顕著に減少させるので、学術的な意味だけでなく、実際の工程上で触媒のコストを大幅に減少させるのに大きく寄与すると見られる。
【0060】
<試験例7>
ヘネケン触媒支持体の担持触媒及び常用の触媒を使用した接触改質反応実験
実施例1と比較例1で製造された触媒をそれぞれ用いてメタンの二酸化炭素改質反応を行い、その結果を図6に示した。
【0061】
図6の(a)は700℃で熱処理されたヘネケンを支持体として用い、ここに20重量%のNi触媒を担持した後、改質反応に使用した結果であり、(b)は900℃で熱処理されたヘネケンを用いて製造されたNi触媒を使用した結果であり、(c)は1100℃で熱処理されたヘネケンを支持体として用いて製造されたNi触媒を使用した結果である。まず、(a)と(b)の場合には初期は改質反応活性を若干示すが、直ちに非活性化が進み、活性を示せない。これは900℃以下で処理されたヘネケン支持体の場合、大部分無定形を示し、高温での改質反応で不安定な状態を示すためであると考えられる。しかし、(c)の場合には比較例1で製造されたNi/アルミナ触媒の初期活性(図6の(d)、CH4転換率74%)に多少小さな初期活性を示すが(CH4転換率68%)、反応時間が約60時間以上経過した後は(c)と(d)の場合に転換率値がほぼ同一に維持され、その後はNi/ヘネケン触媒の場合、転換率がむしろ大きく現れることが分かる。これは前記試験例2のラマン結果に示されるように、ヘネケン炭化体は炭化温度が増加するほど無秩序に配列されていた単一基本構造単位が次第に秩序よく配列されながら、グラファイト構造を形成するようになるためである。温度の上昇に伴い、グラファイト構造を形成することによって、1100℃で炭化したヘネケン繊維はそれ以下の温度、即ち700又は900℃で処理された支持体に比べて高温反応での安全性に優れていると言える。結果的に、このような条件で製造されたヘネケン炭化体に担持されたニッケル触媒は高温の改質反応に使用した場合、反応時間の経過に伴う非活性化が既存のNi/アルミナ触媒に比べて顕著に小さいことが確認できる。破線(dashed line)で示した二酸化炭素の転換率もメタン転換率と類似の傾向を示し、点線(dotted line)で示した水素収率も類似の傾向を示す。
【0062】
このような結果は、前述したように、ヘネケン支持体が天然に含有しているCa又はMgなどのアルカリ土類金属粒子が強い触媒−支持体幹の相互作用(SMSI)を付与することによって、長時間の触媒反応でもNi触媒粒子が互いに凝集せず、高分散状態を維持するためである。
【0063】
<試験例8>
ヘネケン触媒支持体の担持触媒及び常用の触媒を使用した接触改質反応実験後のコック生成量の比較
実施例1と比較例1で製造された触媒をそれぞれ用いて、メタンの二酸化炭素改質反応を行い、改質反応に用いられる前と後の触媒をそれぞれ回収して元素分析(Elemental Analysis;EA)を実施することによって、それぞれの触媒で改質反応によって生成されたコック(coke)の量を推定し、その結果を表2に示した。
【0064】
【表2】

a:セルロース炭化体は1100℃で水素/酸素の雰囲気下(水素:酸素=1:1の体積比)で2時間炭化して得た。
【0065】
表2で、改質反応前/後に測定された炭素成分比はそれぞれセルロース炭化体の場合に0.3%増加した反面、常用のアルミナに担持された触媒の場合は7.5%増加し、セルロース支持体の場合にはコックの生成が顕著に減少することが確認できる。
【0066】
結果として、ヘネケン支持体に担持されたNi触媒は既存のNi/アルミナ触媒に比べて高温の触媒反応でも耐久性が顕著に大きいことを確認した。従って、本発明によるヘネケンをはじめとした大部分のセルロース素材は、触媒支持体として多様な反応に非常に効果的に使用され得ることが分かる。
【0067】
<試験例9>
ヘネケン炭化体の金属性分含有量の分析のためのED−XRF結果
図7は、700℃で熱処理されたヘネケン繊維のED−XRF結果である。図7を見ると、700℃で熱処理されたヘネケン繊維内には多様な金属成分が存在し、1%未満の微量元素を除外すれば、主にCa>Mg>Al>K>Clの順に金属成分が存在することが確認できる。TGA分析によって得られた金属含有量が約10〜40%前後であることを勘案すれば、ヘネケンが自ら含有しているCa含有量は7.4〜29.6%前後で非常に大きいことが分かる。
【0068】
<試験例10>
ケナフ炭化体の性状分析及びアルカリ/アルカリ土類金属成分の分析
実施例2のケナフを炭化処理した後に得られたケナフ炭化体のBET表面積、SEMを用いた炭化体の形状、そして自ら含有している金属成分をED−XRFを用いて分析した。
【0069】
まず、ケナフ繊維のBET表面積は下記表3の通りである。表3を見れば分かるように、熱処理温度が増加するほど炭化体の表面積は次第に増加する傾向を示す。これは前述したように、セルロース繊維構造内の不純物(ワックス又はペクチンなど)が除去されることに起因する。
【0070】
【表3】

【0071】
図8は、700℃で炭化処理を経たケナフ繊維の構造をSEMを用いて分析した結果である。炭化体の内部及び外部に多くのチャネル及び気孔が分布していることが確認できる。
【0072】
図9は、700℃で熱処理されたケナフ繊維のED−XRF結果である。図9を見れば、700℃で熱処理されたケナフ繊維内には多様な金属成分が存在し、1%未満の微量元素を除外すれば、主にCa>Al>Fe>K>Tiの順に金属成分が存在することが確認できる。TGA分析によって得られた金属含有量が約10〜40%前後であることを勘案すれば、ケナフが自ら含有しているCa含有量は5〜20%前後で非常に大きいことが分かる。また、これ以外にもアルカリ金属であるKも相当量含有していることが確認できる。
【0073】
<試験例11>
稲わら炭化体の性状分析及びアルカリ/アルカリ土類金属の成分分析
実施例3の稲わらを炭化処理した後に得られた稲わら炭化体のBET表面積、SEMを用いた炭化体の形状、そして自ら含有している金属成分をED−XRFを用いて分析した。
【0074】
まず、炭化処理を経た稲わらのBET表面積は下記表4の通りである。表4のように、熱処理温度が増加するほど炭化体の表面積は次第に増加する傾向を示す。これは前述したように、セルロース繊維構造内の不純物(ワックス又はペクチンなど)が除去されることに起因する。しかし、1100℃で処理した稲わらの場合、表面積が減少する結果を示すが、これは稲わらの特性上、1100℃以上の高温で処理する場合、構造的に割れやすい特性を示し、一部の気孔が崩れる現象が現れる。これにより、表面積が減少するものと考えられる。
【0075】
【表4】

【0076】
図10は、700℃で炭化処理を経た稲わら繊維の構造をSEMを用いて分析した結果である。炭化体の内部及び外部に多くのチャネル及び気孔が分布していることが確認できる。図10の結果において、(a)は繊維の外部表面を示し、(b)はこの表面をさらに拡大した写真であり、(c)は稲わら繊維を垂直方向に切断した内部表面を示し、そして(d)は稲わら繊維を横方向に切断した面を示す。これらの結果では稲わら繊維も内部に数多くのチャネルが存在し、表面積が非常に優れていることが分かる。また、表面屈曲が非常に激しいことから、表面積が非常に優れていることが予測でき、内部/外部に共通して数多くの粒子が存在することが確認される。それらの粒子の成分をED−XRFで確認し、その結果を図11に示した。
【0077】
図11に示すように、表面に存在する粒子の成分は非常に多様であり、1%未満の微量元素を除外すれば、K>Si>Ca>Fe>P>Cl>Mnの順に金属成分が存在することが確認できる。TGA分析により得られた金属含有量が約30〜40%前後で非常に大きく現れることを勘案すれば、稲わら繊維が自ら含有しているKの含有量は15〜20%前後で非常に大きいことが分かる。このような高い金属含有量により稲わら(セルロース)は触媒支持体用として非常に適合した材料である。また、稲わらのセルロース繊維内に前記金属成分が非常に高分散状態で天然に含まれているため、触媒反応に用いられた場合、非常に大きい長所として作用する。また、図11の結果から、アルカリ金属であるK以外にもアルカリ土類金属であるCaも含有量が非常に大きいことが確認できる。従って、本発明のセルロース触媒支持体を改質反応などの高温触媒反応に用いる場合、アルカリ/アルカリ土類金属の固有特性である、触媒金属の分散度の向上、コック生成の低下、触媒の耐久性向上など多様な長所を示すことができる。
【0078】
図12は、700℃で炭化処理を経た稲わらのTEM結果を示すものであり、TEM写真で白色の粒子として現れる部分をそれぞれEDAXを用いて分析した結果を整理したものである。図12でのように、EDAX分析による白色粒子の成分は主にSi又はCaなどで現れることが確認できる。この結果は、図10のED−XRFの結果とも一致する。
【0079】
図13は、700℃で炭化処理を経た稲わらのSTEMを使用したマッピング結果である。これはED−XRF及びTEM−EDAXによって確認された金属成分が実際の試料でいかなる形態で分布しているかを確認するためである。図13でのように、STEMイメージで白色の粒子として示された部分に主にCa、Si、Mg、そしてKなどの成分が存在することが確認できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然セルロース繊維を熱処理して前記天然セルロース繊維内に存在する不純物を除去し、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を前記繊維構造の内部及び表面にナノ粒子の形態に分散させ、
前記熱処理した天然セルロース繊維の表面に官能基を置換させるために酸性溶液で化学処理してセルロース触媒支持体を製造し、かつ
前記化学処理されたセルロース触媒支持体の表面に金属触媒ナノ粒子を化学気相蒸着法又は含浸法を用いて担持させる段階を含む、
天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属はリチウム、ソジウム及びポタシウムからなる群より選択され、前記アルカリ土類金属はカルシウム又はマグネシウムであることを特徴とする請求項1に記載の天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法。
【請求項3】
前記天然セルロース繊維を熱処理する段階は、天然セルロース繊維を液体窒素に含浸させた状態で1〜2mmの長さに切断した後、500〜1800℃まで昇温して0.2〜2時間熱処理して行われることを特徴とする請求項1に記載の天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法。
【請求項4】
前記熱処理は700〜1100℃で行われることを特徴とする請求項3に記載の天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法。
【請求項5】
前記天然セルロース繊維は、ヘネケン繊維、ケナフ(kenaf)、アバカ(abaca)、竹(bamboo)、大麻(hemp)、亜麻(flax)、黄麻(jute)、パイナップル、ラミー(ramie)、サイザル(sisal)麻、稲わら(rice straw)、大麦わら(barley straw)、麦わら(wheat straw)、もみ殻(rice husk)及びこれらの混合物からなる群より選択されるものであることを特徴とする請求項1に記載の天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法。
【請求項6】
前記天然セルロース繊維を酸性溶液で化学処理する段階は、0.1〜0.5molの硫酸水溶液に浸漬させて−0.15〜1.3Vの掃引速度を50mV/sにし、10〜60回処理した後、100〜150℃の30%硝酸溶液又は14Nの硝酸溶液に浸漬させて10分〜20時間化学処理して行われることを特徴とする請求項1に記載の天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法。
【請求項7】
前記天然セルロース繊維を酸性溶液で化学処理する段階は、0.1〜0.5molの硫酸水溶液に浸漬させて−0.15〜1.3Vの掃引速度を50mV/sにし、10〜60回処理した後、硝酸と硫酸の混合溶液に前記天然セルロース繊維を浸漬させ、50〜70℃でリフラックスさせながら、5分〜6時間化学処理して行われることを特徴とする請求項1に記載の天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法。
【請求項8】
前記天然セルロース繊維を酸性溶液で化学処理した後、洗浄し、乾燥させる段階をさらに行ってセルロース触媒支持体を製造するものであることを特徴とする請求項1に記載の天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法。
【請求項9】
前記天然セルロース繊維を酸性溶液で化学処理して表面に置換された官能基は、CO−、CH−、O−C=O、CO2、又はCO3であることを特徴とする請求項1に記載の天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法。
【請求項10】
前記セルロース触媒支持体の表面に担持される金属触媒ナノ粒子は白金粒子であり、白金粒子をセルロース触媒支持体の表面に担持するための白金前駆体として、メチルトリメチルシクロペンタジエチル白金(MeCpPtMe3)、Pt(Me)3(Cp)、Pt(Tfacac)2、Pt(Me(CO)(Cp)、Pt(Me)2(COD)、[PtMe3(acac)]2(acac;アセチルアセトナートリガンド)、PtCl2(CO)2、Pt(PF34、Pt(acac)2及びPt(C243からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法。
【請求項11】
前記セルロース触媒支持体の表面に担持される金属触媒ナノ粒子はニッケル粒子であり、ニッケル粒子をセルロース触媒支持体の表面に担持するためのニッケル前駆体として、ニッケルナイトレート(Ni(NO32)又はニッケルカルボニル(Ni(CO)4)を用いることを特徴とする請求項1に記載の天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法。
【請求項12】
前記セルロース触媒支持体の表面に担持される金属触媒ナノ粒子はコバルト粒子であり、コバルト粒子をセルロース触媒支持体の表面に担持するためのコバルト前駆体として、Co(CO)3NO又はCo(NO32を用いることを特徴とする請求項1に記載の天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法。
【請求項13】
前記セルロース触媒支持体の表面に担持される金属触媒ナノ粒子はモリブデン粒子であり、モリブデン粒子をセルロース触媒支持体の表面に担持するためのモリブデン前駆体として、Mo(CO)6を用いることを特徴とする請求項1に記載の天然セルロース繊維内に含有されているアルカリ金属又はアルカリ土類金属を助触媒及び分散剤として用いて触媒を製造する方法。

【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−232289(P2012−232289A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−288172(P2011−288172)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(508107087)コリア インスティチュート オブ エナジー リサーチ (6)
【Fターム(参考)】