説明

天然脂肪酸の発酵で得られる不飽和二酸のメタセシスによる脂肪二酸の合成方法

【課題】一般式:CH3-(CH2)p-CH=CH-(CH2)q-COOR(ここで、RはHまたは1〜4Cアルキル基、pとqは2〜11の指数)の1分子当り少なくとも10個の隣接炭素原子を有する天然の長鎖の不飽和脂肪酸またはエステルから出発して、一般式:ROOC-(CH2)n-(CH=CH)a-(CH2)mCOOR1(ここで、nとmはそれぞれ整数で、両者の合計は6〜15、aは0または1、RとR1はHまたは1〜4Cアルキル基)のジアシッドまたはジエステルを合成する方法。
【解決手段】第1段階で発酵によって上記の天然の脂肪酸またはエステルを少なくとも一つのモノ不飽和ジカルボン酸またはジカルボキシレートへ酸化し、第2段階で、第1段階の生成物を式:R2OOC-(CH2)x-CH=CH-R3(ここで、R2はHまたは1〜4Cアルキル基、xは0、1または2、R3はH、CH3またはCOOR2)の化合物でクロス−メタセシスして式:ROOC-(CH2)q-CH=CH(CH2)x-COOR2の不飽和化合物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然のモノ不飽和脂肪酸または脂肪酸エステルから出発する飽和または不飽和の短鎖の脂肪ジアシッド(二酸)またはジエステルのクロス-メタセシス(metathese croisee)による合成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最もよく知られた不飽和ジアシッドまたはジエステルは4〜6個の炭素原子を有する鎖から成るもの、例えばC4酸のマレイン酸、フマル酸、C5酸のシトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、C6酸の2-メチレングルタル酸およびムコン酸である。一方、長鎖ジアシッドで重要なのは一般に不飽和カルボン酸の縮合で得られるダイマーのみである。これらジアシッドの性質、合成法および用途は非特許文献1に記載されている。
【0003】
飽和ジアシッドは種々の方法で工業的に得られるが、いくつかの欠点がある。その概要は上記非特許文献1の第523〜536頁に記載されている。これらの方法は植物脂肪酸の劣化方法、例えばオゾン分解または酸化反応によって区別できる。
【0004】

【0005】
オレイン酸、ペトロセリン酸およびエルカ酸のオゾン分解によって炭素原子数がそれぞれ9、6、13から成るジアシッドが製造できる。上記の式はペトロセリン酸の反応プロセスを示す。
【0006】
他の例はリシノール酸を180℃以上の温度で水酸化ナトリウムの作用で開裂する方法である。工業的に用いられているこの方法で炭素原子数が10のジアシッドを得ることができる。同じ方法をレケロ(lesquerolic)酸に適用すると下記の式に示すような炭素原子数が12のジアシッドが形成される。この方法は再生可能な出発材料を使用できるという利点があるが、基本的にあまり知られていないC10ジアシッドであるレケロ酸に限定される。従って、この方法もほとんど使用されていない。
【0007】

【0008】
また、モノカルボン酸をN24の作用で酸化分解する方法も挙げられる。ステアリン酸の酸化反応でセバシン酸とカプリル酸の混合物が得られ、パルミチン酸からはコルク酸を得ることができる。
また、さらに小さい分子からジアシッドを得るために、カルボニル化の変形方法を用いることもできる。
【0009】
最後に、パラフィン系炭化水素や飽和または不飽和脂肪酸エステル基材のイースト、真菌またはバクテリアによる発酵して、基材の化合物を酸化させる方法を挙げることができる。この方法が非特許文献2や特許文献2〜8に記載されている。この方法は各種の長鎖ジアシッドを得ることができる。
【0010】
化学産業、特にポリマー、例えばジアシッド/ジアミン型ポリアミドやテクニカルポリマーの生産分野では、飽和または不飽和ジアシッドの全ての範囲を利用できることが必要である。これらのジアシッドは簡単な化学反応によって同じ鎖長のジアミンに変換可能な出発材料から構成される。不飽和ジアシッドは高級ポリマーのモノマーとして使われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許第0,346,241号公報
【特許文献2】フランス特許第FR2445 374号公報
【特許文献3】米国特許第US 4474 882号明細書
【特許文献4】米国特許第US 3 823 070号明細書
【特許文献5】米国特許第US 3 912 586号明細書
【特許文献6】米国特許第US 6 660 505号明細書
【特許文献7】米国特許第US 6 569 670号明細書
【特許文献8】米国特許第US 5 254 466号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Ulimann's Encylopedia, Vol. A8, p 533-536
【非特許文献2】W. H. Eschenfeldt et al., "Transformation of Fatty Acids Catalyzed by Cytochrome P450 Monooxygenase Enzymes of Candida tropicalis
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、天然起源の再生可能な材料を使用して、実質的ほぼ全ての範囲の飽和または不飽和なジアシッドを得ることができる型のプロセスを見出す必要がある。
本発明の目的は、天然起源の脂肪酸から出発して、下記一般式:
ROOC−(CH2n−(CH=CH)a−(CH2m−COOR
の全ての範囲の飽和または不飽和のジアシッドまたはジエステルを製造する方法を提起することにある。
【0014】
本明細書ではジアシッドとジエステルとを区別しないで「ジアシッド」という用語で表すことにする。すなわち、本発明方法では脂肪酸を酸の形でも、エステルの形でも処理できる。その一つの形から他方の形へはアルコーリシス、エステル化または加水分解によって簡単に変えることができる。
【0015】
本発明の解決方法は、天然の長鎖のモノ不飽和脂肪酸から出発し、それを発酵によってジアシッドに酸化し、それをアクリル型化合物でクロス-メタセシスする。上記の天然の長鎖の脂肪酸は植物または動物資源から得られる酸を意味し、藻を含み、一般には植物、従って1分子当り少なくとも10個、好ましくは少なくとも14個の炭素原子を有する再生可能な植物界を含む。
【0016】
そうした脂肪酸の例としては下記を挙げることができる:C10酸、オブツシル酸(シス-4-デセン酸)、カプロレン酸(シス−9-デセン酸)、C12酸、ラウロレン酸(シス-5-ドデセン酸)、リンデリン酸(シス-4-ドデセン酸)、C14酸、ミリストレイン酸(シス-9-テトラデセン酸)、フィセテリン酸(シス-5-テトラデセン酸)、ツズ酸(シス-4-テトラデセン酸)、C16酸、パルミトオレイン酸(シス-9-ヘキサデセン酸)、C18酸、オレイン酸(シス−9−オクタデセン酸)、エライジン酸(トランス−9−オクタデセン酸)、 バシン酸(シス-11-オクタデセン酸)、リシノレイン酸(12-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸)、 リシノール酸(12-ヒドロキシ-シス-9-オクタデセン酸)、C20酸、ガドレン酸(シス-9-エイコセン酸)、ゴンド酸(シス-11-エイコセン酸)、シス-5-エイコセン酸、レスケロリン酸(14-ヒドロキシ-シス-11-エイコセノ酸)、C22酸、セトレイン酸(シス-11-ドコセノ酸)、エルカ酸(シス-13-ドコセノ酸)。
【0017】
これらの多様な酸は各種の植物、例えばヒマワリ、菜種、ヒマ、bladderpod、オリーブ、大豆、掌木、コエンドロ、オランダミツバ、イノンド、ニンジン、ウイキョウ、またはリメントアルバ(メドウフォーム)等の植物から抽出される植物油から得られる。
【0018】
また、陸上または海中の動物界からも得られる。後者の場合には魚や藻や哺乳類の形で得られ、一般には魚、例えばタラや、海洋哺乳類、例えば鯨類またはドルフィン等の脂肪から得られる。
【0019】
本発明は、短鎖の脂肪酸またはエステルの合成に関するものである。本発明で短鎖のジアシッドまたはジエステルとは主鎖中に6〜16の互いに隣接する炭素原子を有する分子を意味し、それより高級な出発ジアシッドから合成され、出発不飽和脂肪酸またはエステルの主鎖の長さに対する主鎖の長さの比が0.35〜0.9、好ましくは0.4〜0.8、より好ましくは0.5〜0.7である分子を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、下記一般式:
CH3−(CH2p−CH=CH−(CH2q−COOR
(ここで、RはHまたは1〜4つの炭素原子を有するアルキル基を表し、pとqは2〜11の指数で、互いに同一でも異なっていてもよい)
の1分子当り少なくとも10個の隣接炭素原子を有する天然の長鎖の不飽和脂肪酸またはエステルから出発して、
下記一般式:
ROOC−(CH2n−(CH=CH)a−(CH2mCOOR1
(ここで、nとmはそれぞれ整数を表し、互いに同一でも異なっていてもよく、両者の合計は6〜15であり、aは0または1に等しい指数を表し、RとR1はHまたは1〜4つの炭素原子を有するアルキル基を表す)
のジアシッドまたはジエステルを合成する方法であって、
第1段階で、微生物による発酵によって上記の天然の脂肪酸またはエステルを少なくとも一つのモノ不飽和ジカルボン酸またはジカルボキシレートへ酸化し、
第2段階で、第1段階の生成物を式:
2OOC−(CH2)x−CH=CH−R3
(ここで、R2はHまたは1〜4つの炭素原子を有するアルキル基、xは0、1または2であり、R3はH、CH3またはCOOR2で、最後の場合は環状分子を形成していてもよい)
の化合物でクロス−メタセシスして、下記式:
ROOC−(CH2q−CH=CH(CH2x−COOR2
の不飽和化合物とし、
第3段階(任意段階)で、二重結合の水素化によって不飽和化合物を飽和化合物に変換する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上記のクロス-メタセシスはアクリル酸を用いて実行される。その場合はR2=H、x=0、R3=Hである。x=1、R2=H、R3=CH3の場合、化合物はHOOC−CH2−CH=CH−CH3で、例えばブタジエンのヒドロキシカルボニルル化で得られる。この場合、クロス-メタセシスで生じるプロピレンは反応媒体から除去する。
【0022】
3がCOOR2の場合にはR2OOC−(CH2)−CH=CH−R3はx=0の対称分子であるのが好ましい。R3がCH3の場合にはR2OOC−(CH2)x−CH=CH−R3はクロス−メタセシスによって脂肪酸と反応し、この反応でジアシッドおよびより短い脂肪酸ができるが、プロピレンもできる。このプロピレンは形成中に反応媒体から除去して所望の生成物の方へ反応を置換する。
【0023】
2OOC−(CH2)x−CH=CH−COOR2が環状分子、例えば無水マレイン酸を形成する場合には、クロス-メタセシスで無水官能基を含む不飽和脂肪酸になる。それを加水分解するとジアシッドおよび脂肪酸が遊離される。
【0024】
本発明方法では天然起源の脂肪酸またはエステルすなわちオイルまたは脂肪中に存在するものが使用される。このオイルまたは脂肪は類似式のエステルまたは酸の混合物中に入るエステルまたは酸から構成される。例えば、ヒマワリ油はオレイン酸に加えてリノール酸を含み、ひまし油はリシノール酸に加えてオレイン酸とリノール酸とを同時に含み、菜種油はオレイン酸の他にリノール酸、リノレン酸、ガドレイン酸を同時に含む。続くメタセシス反応段階で生成物の分離を行なうのであれば、ジ飽和酸またはポリ不飽和酸が存在しても反応の進行に大きな影響は与えない。
【0025】
第1段階は微生物の存在下での発酵によって実行される。すなわち任意のバクテリア、真菌またはイーストを使用してフィードストックの脂肪酸またはエステルの酸化を行なうことができる。特に、この発酵はオキシゲナーゼ型の酸化酵素を含む微生物の存在下で実行できる。例えば、下記非特許文献3および特許文献9〜15に記載されているチトクロームP450モノオキシゲナーゼ酵素を含むカンジダトロピカリス(Candida tropicalis)株の存在下で実行できる。
【非特許文献3】W. H. Eschenfeldt et al., "Transformation of Fatty Acids Catalyzed by Cytochrome P450 Monooxygenase Enzymes of Candida tropicalis"、Applied and Environmental Microbiology, Oct. 2003, pp 5992-5999
【特許文献9】フランス特許第FR 2 445 374号公報
【特許文献10】米国特許第US 4474 882号明細書
【特許文献11】米国特許第US 3 823 070号明細書
【特許文献12】米国特許第US 3 912 586号明細書
【特許文献13】米国特許第US6660505号明細書
【特許文献14】米国特許第US56569670号明細書
【特許文献15】米国特許第US5254466号明細書
【0026】
脂肪酸、脂肪酸エステルおよびトリグリセライドを無差別に発酵できる。すなわち、微生物はアルコールおよびグリセリンを代謝できる。
【0027】
第2段階で行なうメタセシス反応は、比較的限定された工業用途ではあるが、古くから公知である。脂肪酸(エステル)の変換での使用に関しては下記文献を参照できる。
【非特許文献4】J.C. Mol, Catalytic metathesis of unsaturated fatty acid esters and oil"、Topics in Catalysis, Vol. 27, Nos. 1-4, February 2004 (Plenum Publishing Corporation)
【0028】
メタセシス反応の触媒は多くの研究のテーマになっており、精密な触媒系が開発されている。例としては下記文献に記載のタングステン錯体が挙げられる。
【非特許文献5】Schrock et al., J. Am. Chem. Soc., 108 (1986), 2771
【非特許文献6】Basset et al., Angew. Chem., Ed. Engl., 31(1992), 628
【0029】
近年では下記のルテニウム-ベンジリデン錯体であるGrubbsの触媒がある。
【非特許文献7】Grubbs et al., Angew. Chem., Ed. EngI., 34 (1995), 2039, and Organic Lett., 1 (1999), 953
【0030】
これは均一触媒である。また、金属、例えばレニウム、モリブデンおよびタングステンベースにしたアルミナまたはシリカ上に担持させた不均一触媒も開発されている。さらに、固定触媒、すなわち主活性成分が均一触媒、特にルテニウム−カルベン錯体触媒で、それを不活性支持体上に固定した触媒を製造する方法の研究も行なわれている。この研究の目的は副反応、例えば存在する反応物間の「ホモ−メタセシス(homo metatheses)」に対する反応の選択性を増加させることにある。これは触媒の構造だけでなく反応媒体および添加剤の効果にも関係する。
【0031】
本発明方法ではメタセシス活性および選択性のある全ての触媒を使用できるが、ルテニウムとレニウムとをベースにした触媒を使用するのが好ましい。
【0032】
以下、第2段階の例を短鎖脂肪ジアシッドの合成で示す。説明を簡単にするために、以下では全ての機構を酸の形で説明するが、メタセシスをエステルを用いて行なうこともでき、その方が効果的なこともある。同様に、以下では反応を酸(またはエステル)のシス異性体で示すが、同じ機構をトランス異性体にも等しく適用できる。
【0033】
オレインジアシッドとアクリル酸とを使用して第2段階の反応過程を行なう場合は以下のようになる:

アクリル酸を過剰に使用した場合には、さらに下記逐次反応が起こる:

【0034】
α、ω-ウンデカン二酸は必要に応じて下記プロセスに従って水素化して飽和α、ω-2-ウンデセン二酸に変換できる。:

【0035】
過剰なアクリル酸を用いてクロス-メタセシス反応をすることで9−デセン酸が形成され、それがアクリル酸とさらにクロス-メタセシスして下記式の化合物:HOOC-CH=CH-(CH2)7-COOHとエチレンとが作られるのが観測できる。このプロセスの重要な利点は簡単に除去可能なエチレン以外の副精製物ができない点にある。この反応の反応機構は下記のシェーマ1に示してある。
【0036】
ある種の発酵条件下ではオレイン酸が9−オクタデセン二酸に酸化される。
【0037】
2つの同じジアシッドを生産するためにこのジアシッドとアクリル酸と使用した第2段階の反応過程は下記の機構で記載できる:

【0038】
過剰にアクリル酸を使用すると下記の逐次反応が起こる:

【0039】
シェーマ1

【0040】
マカダミヤオイルまたはシーバックソーンオイルは一定発酵条件ではこれらの油中に存在するパルミトオレイン酸から出発して部分的に酸化されてC16ジアシッド、α、ω−7−ヘキサデセン二酸になる。
【0041】
このジアシッドとアクリル酸とを用いて2つの異なるジアシッドを作る第2段階の反応過程は下記の機構で記載できる:

【0042】
過剰なアクリル酸を使用すると下記の逐次反応が起こる:

【0043】
シェーマ2


【0044】
パルミトオレイン酸は発酵でα、ω-7-ヘキサデセン二酸に変換できる。
【0045】
本発明方法の第2段階では下記プロセスに従って長さの異なる2つのα、ωジアシッドが得られる:

【0046】
過剰なアクリル酸を使用すると下記の逐次反応が起こる:

【0047】
これらの2つの酸は水素化されてそれぞれC11形およびC9形のジアシッドにすることができる。
【0048】
ペトロセレン(Petroselenic)酸は発酵でα、ω-6-オクタデセン二酸に変換される。本発明方法の第2段階では下記プロセスに従って長さの異なる2つのα、ω−ジアシッドが得られる:

【0049】
過剰なアクリル酸を使用すると下記の逐次反応が起こる:

【0050】
ガドレイン酸は発酵でα、ω-9-エイコセン二酸に変換される。本発明方法の第2段階では下記プロセスに従って長さの異なる2つのα、ω−ジアシッドが得られる:

【0051】
過剰なアクリル酸を使用すると下記の逐次反応が起こる:

【0052】
以下、本発明方法の実施例を示す。
【実施例】
【0053】
実施例1
オレイン酸の発酵
この実施例ではソルビトール、微量元素、尿素およびオレイン酸を含む脱イオン水中でpH=7でオキシゲナーゼ酵素を含むイーストを培養する。混合物を120℃で15分間殺菌する。その後、イースト株を培地に接種する。培養中は30℃に維持する。pHを7〜7.5に維持するために水酸化ナトリウム溶液を連続的に加える。48時間培養後、不飽和ジアシッドをジエチルエーテルで抽出して回収する。蒸留して溶剤を除去回収し、再結晶後に9-オクタデセン二酸に対応する融点が69℃の結晶を回収した。
【0054】
実施例2
エルカ酸の発酵
エルカ酸を用いて実施例1を繰り返した。9-ドコセン二酸が得られる。
【0055】
実施例3
アクリル酸による9-オクタデセン二酸のクロス-メタセシス
この実施例は第2段階のアクリル酸によるクロス-メタセシスで実施例1で得られた9-オクタデセン二酸から出発してC11ジアシッドを合成する例を示す。この反応には下記文献に記載のビスピリジン−ルテニウム型の複合触媒に類似したものを使用した
【非特許文献8】Chen-Xi Bai et al., Org. Biomol. Chem., (2005), 3, 41 39-4142
【0056】
反応は9-オクタデセン二酸の2倍のモル濃度のアクリル酸を用いて、CH2Cl2中で、9-オクタデセン二酸に対して1モル%の濃度の上記触媒の存在下で、80℃の温度で12時間行なった。エステルまたは酸の形で得られた生成物は従来法に従って100%の収率で水素化できた。
【0057】
実施例4
9-オクタデセン二酸のクロス-メタセシス
実施例2のジアシッドの9-オクタデセン二酸を用いて実施例3を繰り返した。2-ウンデセン二酸と2-ペンタデセン二酸を実質的に等モル収率で得た。
【0058】
実施例5
アクリル酸メチルによる不飽和C18ジエステルのクロス-メタセシス
窒素でパージした50mlのシュレンク管中に170mgのメチル9-オクタデセンジオエート(octadecenedioate)(0.5mmol)と、170mgのメチルアクリレート(2mmol)と、ベンゾフェノンナトリウム上で蒸留した10mlのトルエンとを入れた。100℃に加熱し、磁気撹拌下に注射器および押出し注射器を用いて0.3mg(0.5 x l0-3mmol)のAldrichから入手可能な第二世代のHoveyda-Grubbs触媒の(1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)-2-イミダゾリジニリデン)ジクロロ(O-イソプロポキシフェニルメチレン)ルテニウム)(2mlのトルエン溶液)を2時間かかって加える。添加終了後にさらに4時間反応を続ける。反応液をガスクロマトグラフィで分析する。不飽和ジエステルの変換率は99%以上である。2−メチルウンデセジオエートの収率は95%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式:
CH3−(CH2p−CH=CH−(CH2q−COOR
(ここで、RはHまたは1〜4つの炭素原子を有するアルキル基を表し、pとqは2〜11の指数で、互いに同一でも異なっていてもよい)
の1分子当り少なくとも10個の隣接炭素原子を有する天然の長鎖の不飽和脂肪酸またはエステルから出発して、
下記一般式:
ROOC−(CH2n−(CH=CH)a−(CH2mCOOR1
(ここで、nとmはそれぞれ整数を表し、互いに同一でも異なっていてもよく、両者の合計は6〜15であり、aは0または1に等しい指数を表し、RとR1はHまたは1〜4つの炭素原子を有するアルキル基を表す)
のジアシッドまたはジエステルを合成する方法において、
第1段階で、バクテリア、真菌またはイーストのようなオキシゲナーゼ酵素から成る微生物による発酵によって上記の天然の脂肪酸またはエステルを少なくとも一つのモノ不飽和ジカルボン酸またはジカルボキシレートへ酸化し、
第2段階で、第1段階の生成物を式:
2OOC−(CH2)x−CH=CH−R3
(ここで、R2はHまたは1〜4つの炭素原子を有するアルキル基、xは0、1または2であり、R3はH、CH3またはCOOR2で、最後の場合は環状分子を形成していてもよい)
の化合物でクロス−メタセシスして、下記式:
ROOC−(CH2q−CH=CH(CH2x−COOR2
の不飽和化合物とし、
第3段階(任意段階)で、二重結合の水素化によって不飽和化合物を飽和化合物に変換する。
【請求項2】
第1段階の発酵をチトクロームP450モノオキシゲナーゼ酵素を含むカンジダトロピカリス(tropicalis)株の存在下で実行する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2段階のメタセシスをアクリル酸を用いて実行する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第2段階の触媒がルテニウムとレニウムとをベースにしたものである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
オレイン酸から出発して式:HOOC−CH=CH−(CH27COOHの2−ウンデセンジオイック酸を合成する請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
エルカ酸から出発して2−ウンデセンdioicな酸および2−ペンタデセンdioic酸を合成する請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−539225(P2010−539225A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525401(P2010−525401)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【国際出願番号】PCT/FR2008/051664
【国際公開番号】WO2009/047444
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】