説明

太陽光選択的吸収コーティング及び製造方法

太陽光吸収及び低放射率特性を有する太陽光選択的吸収コーティング及び製造方法。コーティングは、金属、誘電体またはセラミック材料の支持体(1)と、支持体それ自体に適用されかつ低放射率特性を付与する少なくとも1つの中〜遠赤外線高反射性金属層(2)と、高反射性金属層に適用される、サブナノメートル厚さの交互になった誘電体層及び金属層の多層構造体(3)と、太陽光スペクトルの反射防止層として機能する少なくとも1つの誘電体層(4)とを備える。このコーティングは、パラボラトラフ型太陽炉用の吸収管、温水、加熱または家庭内冷却用の太陽電池パネルにおける選択的吸収コーティングとして、タワー型太陽熱発電所の捕捉システム及びスターリングディッシュシステムの捕捉システムにおける吸収管及び吸収シートの両方の形態において適用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体(i)と、低放射率特性を付与する1つ以上の金属層と、サブナノメートルの厚さの複数の誘電体層と金属層とが交互になった、太陽エネルギー吸収が行われる構造体(ii)と、反射防止特性を付与する層または多層構造体(iii)とを含む選択的吸収コーティングに言及するものである。
【0002】
本発明は、この太陽光選択的吸収コーティングの製造方法及びプロセス並びにその使用も含む。
【背景技術】
【0003】
熱を捕獲するということに関し、太陽エネルギーの捕獲は、家庭レベルでの温水の生産、加熱、冷却及び太陽熱発電所での発電の観点から、技術的にも経済的にも重要になりつつある。
【0004】
これらのシステムは、太陽エネルギーの吸収が最大となり、また考え得るエネルギー損失を最小限に抑えることを必要とする。このことを念頭において、これらのシステムは、伝導及び対流による損失を低減し、かつ、高い太陽エネルギー吸収能及び低放射率特性によって遠赤外領域での熱放射によるエネルギー損失を低減するコーティングを有する真空管または同様の構造体に構成される。
【0005】
この結果、家庭及び発電において、選択的吸収コーティングは重要な役割を果たす。吸収コーティングについては数多くの記録があり、例えば特許文献1〜8及びその他に記載されるものである。これらの文献の全てにおいて、吸収コーティングは、低放射率特性を付与する金属層と、金属元素をドープした、太陽放射の吸収層として機能する1つ以上の誘電体「サーメット(cermet)」の層と、反射防止特性を付与する誘電体層とから成る。これらの吸収コーティングの幾つかは、様々な材料の拡散に対するブロッキング層として機能する追加の誘電体層も有する。サーメット層は、吸収能が共ドーパント金属元素によってもたらされる吸収層であり(複素屈折率)、共ドーパント金属元素の濃度は各層において一定であるまたは段階的に異なる。
【0006】
サーメットは一般的に、Mo、Ni、Ta、Al等の金属元素をドープした酸化物または金属窒化物であり、金属元素は通常、反応性陰極噴霧「反応性スパッタリング」での共堆積技法によって堆積される。反応性スパッタリングによる共堆積は、不活性ガスに加えて、堆積チャンバに残留した反応ガス(酸素、窒素等)の存在下でのスパッタリングによる2種類の材料の同時蒸発から成る。残留ガスが蒸発した材料の一方と反応することによって対応する誘電性化合物が生成され、もう一方の化合物の一部は金属の形態で堆積される。反応ガスは、誘電性化合物を生成する材料及びドーピング金属の両方と反応するため、適切な吸収能を有するサーメットを得るためには、化学量論的プロセスを厳密に制御する必要がある。この化学量論的プロセスは、反応ガスの消費に応じて真空チャンバ内のガスの組成及び部分圧力によって調節され、したがってその状態の蒸発速度、すなわち陰極の電力に左右され、これが化学量論的プロセスの正確な制御を極めて困難にし、特定のフィードバック機構を必要とし、これがコーティングの特性に悪影響を与える可能性がある。
【0007】
同様に、共ドーパント金属の一部も反応ガスと反応して誘電性化合物を生成するため、この金属は層の吸収に貢献しなくなり、高濃度の共ドーパント金属が必要となる。加えて、この技法では、共ドーパント金属の選択に制限もある。共ドーパント金属の反応ガスに対する親和性が、誘電性化合物を生成する主金属よりずっと低くあるべきだからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/121389号
【特許文献2】米国特許第4582764号
【特許文献3】米国特許第4628905号
【特許文献4】米国特許第5523132号
【特許文献5】米国特許出願第2004/0126594号
【特許文献6】米国特許出願第2005/0189525号
【特許文献7】米国特許出願第2007/0209658号
【特許文献8】国際公開第97/00335号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の難点を全て解決しようとするものであり、各サーメット層は、10nm未満、主に1nm未満の極めて薄い層から成る誘電体/金属交互多層構造体に置き換えられる。誘電体層は反応性スパッタリングによって堆積され、誘電体コーティングが堆積されるチャンバまたはチャンバの一部には不活性ガス及び反応ガスが含まれる。金属層はDCスパッタリングによって堆積され、不活性ガスだけが、金属層が堆積されるチャンバまたはチャンバの一部に導入される。結果として、化学量論的プロセスの精密な制御が不要となるが、これは、誘電体層の堆積は蒸発した金属の全反応を確実に行う複数のガスの組成を必要とするが、交互層の金属の性質は、プロセスガスとして導入される不活性ガスによって決定されるからである。両タイプの材料の堆積は異なるチャンバまたは同じ堆積チャンバの隔離された部位で行われることから、ガスの混合は最小限に抑えられ、金属層の構成成分の化学反応は起こらない。同様に、誘電体層及び金属層の堆積は異なる場所で異なるガス組成物を使用して行われることから、誘電体層及び金属層の組成に制限はなく、同じ金属材料から形成することさえ可能であり、ある金属元素から誘電体層を形成し(ある金属の酸化物または窒化物等)、同じ元素から金属層を形成する。
【0010】
本発明の太陽光選択的コーティングは、太陽エネルギーを吸収し、その太陽エネルギーを低放射率特性でもって熱に変換するように設計され、製造プロセスは容易となり、また製造プロセスはよりロバストで信頼性の高いものとなり、コーティングの設計及び最適化にはより多くの可能性が生じる。金属または誘電体になり得る、コーティングの機械的安定性及び熱安定性を確保する支持体上に堆積されるコーティングは、基本的に
支持体上に堆積されるコーティングの低放射率特性を付与する少なくとも1つの遠赤外線高反射性金属層(スペクトル域の波長5〜50μm)と、
この反射層上に堆積される多層構造体であって、太陽放射吸収特性を付与し、交互になった極めて薄い(10nm未満、一般には1nm未満)金属層及び誘電体層によって形成され、一方の金属層及びもう一方の誘電体層が構造体全体にわたって均質になり得て、様々なゾーンにおいて差別化されたまたは構造体に沿って厚さが段階的に変化する多層構造体と、
この多層吸収構造体上に堆積される、反射防止層として機能する少なくとも1つの誘電体層とを含むことを特徴とする。
【0011】
鋼、ステンレススチール、銅、アルミニウム等の金属要素及びガラス、石英、セラミック材料、ポリマー等の非金属要素が、本発明において支持体材料として含まれる。この支持体を、コーティングの接着性、ひいてはコーティングの機械的安定性及び環境安定性を最適化する処理(表面層の酸化、熱処理、洗浄処理等)に供することができる。
【0012】
同様に、本発明は、太陽エネルギーを吸収し、中〜遠赤外線反射性であるコーティングを含み、このコーティングは、支持体上の中〜遠赤外線高反射性の1つ以上の金属層と、薄い金属層と誘電体層とが交互になった多層構造体と、太陽エネルギーに対する反射防止構造体を形成する1つ以上の誘電体層とを含む。本発明のこのコーティングは他に類をみないものであるが、これは支持体上に堆積された高反射性金属層が、銀(Ag)、金(Au)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)及びこれらの合金または混合物から形成される群から選択される金属材料を含むからである。
【0013】
本発明の別の特色として、多層吸収構造体の誘電体層は、金属酸化物及び/または金属窒化物要素から成り、屈折率は1.4〜2.4である。本発明のコーティングは、金属酸化物が、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化インジウム及びこれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする。これに対応して、本発明のコーティングは他に類をみないものであるが、これは金属元素の窒化物が、窒化ケイ素、窒化クロム、窒化アルミニウム及びこれらの混合物から形成される群から選択されるからである。
【0014】
同様に、本発明のコーティングは他に類をみないものであるが、これは多層吸収構造体の一部を形成する金属層が、銀(Ag)、金(Au)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)及びこれらの合金または混合物から形成される群から選択される金属から形成されるからである。
【0015】
本発明は、反射防止構造体として機能する1つ以上の誘電体層の存在も想定していて、誘電体層は、金属酸化物及び/または金属窒化物要素から形成され、屈折率は1.4〜2.4である。本発明のコーティングは他に類をみないものであるが、これは金属酸化物が、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化インジウム及びこれらの混合物から形成される群から選択されるからである。これに対応して、本発明のコーティングは他に類をみないものであるが、これは金属元素の窒化物が、窒化ケイ素、硝酸クロム、窒化アルミニウム及びこれらの混合物から形成される群から選択されるからである。
【0016】
本発明において、用語「合金(metallic alloy)」とは、これらの金属がこれらの金属間で、または、その他の金属との間で形成可能ないずれの合金をも意味する。
【0017】
本発明の別の特色として、中〜遠赤外線反射金属層及び反射防止構造体の誘電体層のそれぞれの層の厚さは、1〜500nmである。加えて、本発明の別の特色として、多層吸収構造体の金属層及び誘電体層のそれぞれの厚さは10nm未満であり、多層構造体の層の総数は20より多い。多層構造体を、さまざまに異なる差別化ゾーンに含まれる均一ゾーン(全ての誘電体層が同じ材料のものであり、また同じ厚さを有し、全ての金属層が同じ金属、同じ厚さのものである)として構成することができ、差別化ゾーンの各ゾーンは均一ゾーンとして構成されるとともに、誘電体層に使用される材料において、及び/または金属層に使用される金属及び/または金属層または誘電体層のそれぞれの厚さにおいて、その他のゾーンとは異なっている。或いは、多層構造体を、金属層及び/または誘電体層の厚さが段階的に変化する段階的変化ゾーンとして構成することができる。好ましくは、多層構造体を少なくとも2つの差別化ゾーンで構成し、これらのゾーンの一方の層の組成及び/または厚さは、もう一方のゾーンの組成及び/または厚さとは異なる。
【0018】
概して、コーティングの層の総数は25より多く、総厚は100nm〜2000nmである。
【0019】
本発明の目的は、コーティングの様々な層を、真空における気相での物理的堆積技法(PVD:物理気相成長)(熱蒸着、電子銃、イオン注入、「スパッタリング」等)、気相での化学的堆積(CVD:化学気相成長)または電解浴によって堆積することであり、スパッタリング技法が、この作業における好ましい方法である。
【0020】
本発明の別の目的は、太陽熱発電所のパラボラシリンダコレクタ(parabolic cylinder collector)用の吸収管におけるコーティングの使用である。
【0021】
本発明の別の目的は、温水、加熱または家庭内冷却のための太陽電池パネルにおける吸収管及び吸収プレートの両方の形態でのコーティングの利用である。
【0022】
本発明は、コーティングを、タワー型太陽熱発電所の捕獲システムで使用可能であるという利点も有し、タワー型太陽熱発電所において、多数のヘリオスタットで反射した太陽エネルギーはタワーに設置された捕獲システムに集められる。
【0023】
また、最後に、スターリングディッシュ(stirling dish)システムの捕獲システムにおいてコーティングを使用することも本発明の目的である。
【0024】
本発明のコーティングの利点及び特性を説明し、また本発明の特色をより深く理解することを目的として、理想的なシナリオについて、本明細書に同封した一連の図面に基づいて詳細に説明する。図面では以下が表されるが、これは説明のためであって限定を目的とするものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のコーティングの横断面図であり、多層吸収構造体の誘電体層及び金属層の材料及び厚さは構造体全体にわたって同じである。
【図2】本発明のコーティングの横断面図であり、多層吸収構造体は2つのゾーンに分割され、誘電体層及び金属層は各ゾーンにおいて組成及び厚さが異なる。
【図3】本発明のコーティングの横断面図であり、多層吸収構造体は幾つかのゾーンに分割され、誘電体層及び金属層は各ゾーンにおいて組成及び厚さが異なる。
【図4】本発明のコーティングの横断面図であり、多層吸収構造体は1つの領域しか含まず、ゾーン内において誘電体層及び金属層は段階的に厚さが変化する。
【図5】実施例1の構造体の可視/赤外スペクトル域における反射率を、太陽エネルギースペクトル及び400℃での熱放射スペクトルと共に示す。
【図6】実施例2の構造体の可視/赤外スペクトル域における反射率を、太陽エネルギースペクトル及び400℃での熱放射スペクトルと共に示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の太陽放射選択的吸収コーティングは、図1〜4に示されるように、少なくとも1つの支持体(1)と、低放射率特性を付与する少なくとも1つの金属反射層(2)と、誘電体層(5)と金属層(6)とが交互になった、太陽放射の吸収構造体として機能する多層構造体(3)と、反射防止構造体として機能する少なくとも1つの誘電体層(4)とを含む。
【0027】
支持体(1)は、コーティングの機械的安定性を確保する金属材料または誘電体または両方の組み合わせになり得る。
【0028】
次に、金属反射層(2)は、少なくとも1つの中〜遠赤外線高反射性層(波長2.5〜20μm)から成り、この金属層は支持体それ自体の上に堆積されている。
【0029】
次に、多層吸収構造体(3)は、一連の交互になった誘電体層(5)及び金属層(6)から成り、これらの層は金属反射層(2)上に堆積され、同じまたは異なる、厚さ及び/または組成になり得る。
(a)誘電体層(5)は互いに同じ、すなわち同じ材料及び厚さになり得て、金属層(6)についても同じことが言え、誘電体層と金属層とが図1のただひとつの差別化ゾーンの多層構造体を構成する。
(b)同様に、図2に示されるように、異なる材料及び/または厚さの2種類の誘電体層(5)がある場合があり、同じことが金属層(6)にも言え、誘電体層と金属層とが2つの差別化ゾーンで吸収構造体を構成し、第1ゾーン(7)は1種類の誘電体層と金属層とから成り、第2ゾーン(8)は別の種類の誘電体層と金属層とから成る。
(c)図3に示されるように、幾つかの種類の誘電体層(5)と幾つかの種類の金属層(6)とがある場合があり、これらの誘電体層と金属層とがn個のゾーンの構造体を構成し、nは限定されないゾーン数であり、多層吸収構造体は第1ゾーン(7)と、第2ゾーン(8)と最後の第nゾーン(9)に至るまでのゾーンから成り、各ゾーンはある種類の誘電体層とある種類の金属層とから形成される。
(d)同様に、図4に示されるように、吸収構造体は、構造体に沿って段階的に厚さが変化する誘電体層(5)と金属層(6)とから成っていてよく、これらの誘電体層と金属層とが単一ゾーンを構成しているが、異なる層(金属層及び/または誘電体層)において厚さは異なる。
【0030】
反射防止構造体(4)は、太陽エネルギー反射防止特性を付与する少なくとも1つの誘電体層から成る。
【0031】
図1〜4は、本発明の選択的吸収コーティングの特定の実施例を示すものであり、反射層(2)が支持体(1)上に配置され、この反射層の上に単一ゾーン、2つのゾーン、n個のゾーンまたは単一ゾーンではあるが誘電体層及び金属層の厚さが同ゾーン内で変化するゾーンから成る多層吸収構造体(3)が配置され、反射防止層(4)がこの多層構造体上に配置される。
【0032】
支持体(1)は、金属(鋼、ステンレススチール、銅、アルミニウム等)、誘電体(ガラス、石英、ポリマー材料、セラミック材料等)または異なる材料の組み合わせに対応する。
【0033】
金属反射層(2)に関し、銀(Ag)、金(Au)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、これらの2つ以上の混合物またはこれらの金属の合金が使用される。これらの金属層(2)は、5〜1000nmの厚さを有する。
【0034】
様々な構成の多層吸収構造体の誘電体層(5)は、1.4〜2.4の屈折率を有する。これを目的として、金属酸化物及び/または金属元素窒化物、例えば酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、二酸化ケイ素、ケイ素/アルミニウム、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化ニオブ、酸化タンタルまたはこれらの混合物、窒化ケイ素、窒化クロム、窒化アルミニウムまたはこれらの混合物が使用される。誘電体層(5)の厚さは10nm未満、好ましくは1nm未満であり、誘電体層の数は10より多く、吸収層構造体(3)の誘電体層の総厚は5〜1000nmである。
【0035】
様々な構成の多層吸収構造体の金属層(6)を実現するために、銀(Ag)、金(Au)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、これらの合金または混合物が使用される。金属層(6)の厚さは10nm未満、好ましくは1nm未満であり、金属層の数は10より多く、多層吸収構造体(3)の金属層の総厚は5〜1000nmである。
【0036】
反射防止構造体(4)を形成する層は、1.4〜2.4の屈折率を有する。これを目的として、金属酸化物及び/または金属元素の窒化物が使用され、例えば酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、ケイ素/アルミニウム酸化物、酸化ニッケルまたはこれらの混合物、窒化ケイ素、窒化アルミニウムまたはこれらの混合物である。反射防止構造体の誘電体層の厚さは5〜1000nmである。
【0037】
最後に、コーティングと支持体との接着性を上昇させるために、この支持体を多様な処理(表面層の酸化、熱処理、洗浄処理等)に供することができるが、これはコーティングの接着性の改善が機械的安定性及び環境安定性の上昇を意味するからである。
【0038】
したがって、本発明のコーティングを得るために、第1金属層(2)が金属または誘電体の支持体(1)上に配置され、この上に多層吸収構造体を形成する層の最初の層が堆積され、この第1層は誘電体(5)または金属(6)材料のものである。この第1層の後に、金属層(6)及び誘電体層(5)の残りが交互に堆積され、またこれらの層は同じまたは異なる厚さ及び/または組成を有し得て、多層吸収構造体を形成している。多層吸収構造体の最後の層を堆積した後、反射防止構造体を形成する様々な層が追加される。
【0039】
透明な支持体(1)に様々な層(2、4、5、6・・・・)を連続的に追加するために、金属及び/または誘電性化合物堆積手順(化学気相成長(CVD)、物理気相成長(PVD)等)が使用される。PVD法における好ましいやり方は「マグネトロンスパッタリング」である。
【0040】
太陽光吸収度及び熱放射率を測定するために、コーティングの分光学的研究を行い、可視/赤外スペクトル域における反射率を、太陽エネルギースペクトル及び400℃での熱放射スペクトルと共に研究したところ、太陽エネルギースペクトル域における反射率の値は低く、これは高い吸収度を意味し(95%以上)、また熱放射域における反射率の値は高く、これは低放射率を意味する(0.2以下)。
【0041】
当然のことながら、記載の手順には当業者に既知の変形があり、使用する材料及び得られるコーティングの用途に応じて手順は異なる。
【0042】
本発明の太陽光選択的吸収コーティングは、タワー型太陽熱発電所の吸収要素及びスターリングディッシュシステムの吸収要素における鋼、ステンレススチール、銅、アルミニウム及びセラミック材料から形成される群から選択される積層材料用または管用のコーティングとして、またはパラボラシリンダコレクタを備えた太陽熱発電所の吸収管において使用することができる。
【0043】
本発明によるコーティングの幾つかの実施例を、様々な波長でのその反射率特性及び吸収度と共に以下に示す。これらの実施例によって、コーティングの特性を可視化することができる。
【実施例】
【0044】
実施例1:モリブデン(Mo)及びアルミニウム/ケイ素酸化物(SiAlO)をベースとした2つのゾーンから成る吸収構造体を有する選択的吸収コーティング。
ステンレススチール304の支持体(1)上に、Moの層(300nm)を堆積する。このMo層上に、2つの差別化ゾーンから成る多層吸収構造体が堆積される。第1ゾーンは総厚52nmを有し、交互になった285層の厚さ0.08nmのSiAlOと別の285層の厚さ0.1nmのMoとから成る。第2ゾーンは総厚57nmを有し、交互になった390層の厚さ0.08nmのSiAlOと別の390層の厚さ0.06nmのMoとから成る。これらの層のそれぞれの厚さは、水晶微量天秤で測定されたデータから得られた平均厚さを意味すると理解される。多層吸収構造体の上には、厚さ87nmのSiAlOの反射防止層が堆積されている。
【0045】
太陽光吸収度及び熱放射率を求めるために、実施例1のコーティングの分光学的研究を行った。図5は、可視/赤外スペクトル域における反射率を、太陽エネルギースペクトル及び400℃での熱放射スペクトルと共に示す。このコーティングは、太陽エネルギースペクトル域において低い反射率を示し、これは高い吸収度を意味し、熱放射域における反射率は高く、これは低放射率を意味する。全体では、太陽光吸収度約97.5%が得られ、400℃での放射率は約0.15であり、これは太陽熱発電所用の太陽炉及びCCP太陽炉におけるコーティングの使用が適切であることを示す。
【0046】
実施例2:ニッケル(Ni)及びケイ素/アルミニウム酸化物(SiAlO)をベースとした2つのゾーンから成る吸収構造体を有する選択的吸収コーティング。
ステンレススチール304の支持体(1)上に、Niの層(110nm)を堆積する。このNi層上に、2つの差別化ゾーンから成る多層吸収構造体が堆積される。第1ゾーンは総厚78nmを有し、交互になった340層の厚さ0.085nmのSiAlOと別の340層の厚さ0.145nmのNiとから成る。第2ゾーンは総厚55nmを有し、交互になった490層の厚さ0.08nmのSiAlOと別の490層の厚さ0.03nmのNiとから成る。これらの層のそれぞれの厚さは、水晶微量天秤で測定されたデータから得られた平均厚さを意味すると理解される。多層吸収構造体の上には、厚さ67nmのSiAlOの反射防止層が配置される。
【0047】
太陽光吸収度及び熱放射率を求めるために、実施例2のコーティングの分光学的研究を行った。図6は、可視/赤外スペクトル域における反射率を、太陽エネルギースペクトル及び400℃での熱放射スペクトルと共に示す。このコーティングは、太陽エネルギースペクトル域において低い反射率を示し、これは高い吸収度を意味し、熱放射域における反射率は高く、これは低放射率を意味する。全体では、太陽光吸収度約97.5%及び400℃での放射率約0.08が得られた。これは太陽熱発電所用のCCP太陽炉におけるコーティングの使用が適切なことを実証している。
【符号の説明】
【0048】
上記の図面において、参照番号は以下の部品及び要素に対応する。
1:支持体
2:金属反射層
3:多層吸収構造体
4:反射防止誘電性構造体
5:誘電体層
6:金属層
7:多層構造体ゾーン1
8:多層構造体ゾーン2
9:多層構造体ゾーンn

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光吸収特性及び低放射率を有する太陽光選択的吸収コーティングであって、
金属、誘電体またはセラミック材料の支持体(1)と、
この支持体(1)上に堆積された中〜遠赤外線高反射性の少なくとも1つの金属層(2)と、
この金属反射層(2)上に堆積された、交互になった誘電体層(5)及び金属層(6)から構成される多層吸収構造体(3)と、
この多層吸収構造体(3)上に堆積された少なくとも1つの反射防止誘電体層(4)とから構成され、
多層吸収構造体(3)の誘電体層(5)が互いに同じまたは異なる厚さ及び/または組成になり得て、多層吸収構造体(3)の金属層(6)が互いに同じまたは異なる厚さ及び/または組成を有し得て、多層吸収構造体(3)の金属層(6)及び誘電体層(5)のそれぞれの厚さが10nm未満、好ましくは1nm未満であり、多層吸収構造体(3)の総厚が5〜1000nmであり、太陽光選択的吸収コーティングの誘電体質の層が、誘電体層が堆積されるチャンバまたはチャンバの一部に不活性ガス及び反応ガスを含んだ反応性スパッタリングによって堆積され、太陽光選択的吸収コーティングの金属層が、金属シートが堆積されるチャンバまたはチャンバの一部に不活性ガスだけを導入してDCスパッタリングによって堆積される
ことから他に類をみない太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項2】
多層吸収構造体(3)が、組成及び厚さが均一な誘電体層(5)と組成及び厚さが均一な金属層(6)とを備えた均一領域である
ことから他に類をみない、請求項1に記載の太陽光吸収特性及び低放射率を有する太陽光吸収コーティング。
【請求項3】
多層吸収構造体(3)が2つ以上の均一領域から成り、誘電体層(5)が材料及び/または厚さにおいて領域毎に異なり、金属層(6)が材料及び/または厚さにおいて領域毎に異なる
ことから他に類をみない、請求項1に記載の太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項4】
均一領域において、金属層(6)同士及び/または誘電体層(5)同士が異なる厚さを有する
ことから他に類をみない、請求項2及び3に記載の太陽光吸収特性及び低放射率を有する太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項5】
金属層(6)及び/または誘電体層(5)の厚さが領域全体にわたって段階的に変化する
ことから他に類をみない、請求項4に記載の太陽光吸収特性及び低放射率を有する太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項6】
均一領域において、金属層(6)同士及び/または誘電体層(5)同士が同じ厚さを有する
ことから他に類をみない、請求項2及び3に記載の太陽光吸収特性及び低放射率を有する太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項7】
支持体(1)が、鋼、ステンレススチール、銅、アルミニウム及びこれらの組み合わせから形成される群の金属材料である
ことから他に類をみない、請求項1に記載の太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項8】
金属材料の支持体(1)が、表面層を酸化するための処理または熱処理に供されている
ことから他に類をみない、請求項7に記載の太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項9】
支持体(1)が、ガラス、石英、ポリマー材料、セラミック材料及びこれらの組み合わせから形成される群の誘電体である
ことから他に類をみない、請求項1に記載の太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項10】
高反射性金属層(2)が、銀(Ag)、金(Au)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)群、これらの2つ以上の混合物またはこれらの金属の合金から選択される金属材料から成る
ことから他に類をみない、請求項1に記載の太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項11】
吸収構造体(3)の誘電体層(5)が金属酸化物及び/または金属元素の窒化物から成り、屈折率が1.4〜2.4である
ことから他に類をみない、請求項1に記載の太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項12】
誘電体(5)が、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化ニオブ、酸化タンタル、これらの混合物から形成される群から選択される金属酸化物及び/または、窒化ケイ素、窒化クロム、窒化アルミニウム、これらの混合物から形成される群から選択される金属元素の窒化物である
ことから他に類をみない、請求項11に記載の太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項13】
吸収構造体(3)の金属層(6)が、銀(Ag)、金(Au)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、これらの2つ以上の混合物及びこれらの金属の合金から形成される群から選択される金属材料から成る
ことから他に類をみない、請求項1に記載の太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項14】
反射防止誘電体層(4)が金属酸化物及び/または金属元素の窒化物から成り、屈折率が1.4〜2.4である
ことから他に類をみない、請求項1に記載の太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項15】
反射防止誘電体層(4)が、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化ニオブ、酸化タンタル、これらの混合物から形成される群から選択される金属酸化物または窒化ケイ素、窒化クロム、窒化アルミニウム、これらの混合物から形成される群から選択される金属元素の窒化物である
ことから他に類をみない、請求項14に記載の太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項16】
高反射性金属層(2)のそれぞれの厚さが5〜1000nmである
ことを特徴とする、請求項1に記載の太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項17】
反射防止誘電体層(4)のそれぞれの厚さが5〜1000nmである
ことから他に類をみない、請求項1に記載の太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項18】
95%より高い太陽光吸収度及び0.2未満の400℃での放射率を有する
ことから他に類をみない、請求項1に記載の太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項19】
ステンレススチールの支持体(1)と、
300nmのモリブデンの高反射性金属層(2)と、
2つの差別化領域によって構成され、第1領域が総厚52nmを有し、交互になった285層の厚さ0.08nmのケイ素/アルミニウム酸化物(SiAlOx)(5)と別の285層の厚さ0.1nmのMo(6)とを含み、第2領域が総厚57nmを有し、交互になった390層の厚さ0.08nmのSiAlOx(5)と別の390層の厚さ0.06nmのMo(6)とを含む多層構造体(3)と、
厚さ87nmのSiAlOxの反射防止層(4)とから成る
ことから他に類をみない、請求項3に記載の太陽光吸収特性及び低放射率を有する太陽光選択的吸収コーティング。
【請求項20】
ステンレススチールの支持体(1)と、
110nmのニッケルの高反射性金属層(2)と、
2つの差別化領域によって構成され、第1領域が総厚78nmを有し、交互になった340層の厚さ0.085nmのケイ素/アルミニウム酸化物(SiAlOx)(5)と別の340層の厚さ0.145nmのNi(6)とを含み、第2領域が総厚55nmを有し、交互になった490層の厚さ0.03nmのSiAlOx(5)と別の490層の厚さ0.03nmのNi(6)とを含む多層構造体(3)と、
厚さ67nmのSiAlOxの反射防止層(4)とから成る
ことから他に類をみない、請求項3に記載の太陽光吸収特性及び低放射率を有する太陽光選択的吸収コーティング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−506021(P2012−506021A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531521(P2011−531521)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際出願番号】PCT/ES2009/000489
【国際公開番号】WO2010/046509
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(510208642)アベンゴア ソーラー ニュー テクノロジーズ ソシエダ アノニマ (2)
【Fターム(参考)】