説明

太陽電池の電極形成用組成物及び該電極の形成方法並びに該形成方法により得られた電極を用いた太陽電池

【課題】本発明の太陽電池の電極形成用組成物を用いて形成された電極は、長年使用しても高導電率及び高反射率を維持することができ、経年安定性に優れた電極が得られる。
【解決手段】太陽電池の電極形成用組成物は金属ナノ粒子を分散媒に分散して構成される。上記金属ナノ粒子は75質量%以上の銀ナノ粒子を含有する。また金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾される。更に金属ナノ粒子は一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有する。分散媒は1,2−プロパンジオール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド又はN−メチルホルムアミドのいずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の電極を形成するための組成物と、この組成物を用いて電極を形成する方法並びにこの形成方法により得られた電極を用いた太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電極の形成方法として、0.03μm以下の粒径の金属超微粒子を100〜200程度の低分子量の有機溶媒に分散させた溶液を光電変換半導体層に塗布・焼成することにより下層電極層を形成し、金属超微粒子の含有質量濃度が下層電極層の形成に用いた溶液と同じか或いは下層電極層の形成に用いた溶液より高い濃度の溶液を光電変換半導体層に塗布・焼成することにより上層電極層を形成する太陽電池の金属電極形成方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この金属電極形成方法では、金属超微粒子を分散させかつ粘度を10000cps程度に調整した溶液をスクリーン印刷法等により光電変換半導体層に塗布した後に、100〜250℃、好ましくは250℃の温度に30分以上保持して焼成することにより、金属電極(下層電極層又は上層電極層)を形成する。
【0003】
このように構成された太陽電池の金属電極形成方法では、金属超微粒子を有機溶媒に分散させた溶液を光電変換半導体層に塗布した後に、100〜250℃の低温で焼結することにより、高真空プロセスを用いずに、高い反射率及び導電率を有しかつ大きな面積の金属電極を得られるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3287754号(請求項1、段落[0024]、段落[0035])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の特許文献1に示された太陽電池の金属電極形成方法では、焼成後の金属電極中の金属超微粒子を安定化させるために、所定の導電性を確保しながら金属超微粒子を100〜200程度の低分子量の有機物で保護する必要がある。一方、有機溶媒に分散させた金属超微粒子を低温で焼結化させるために、この金属超微粒子のサイズを小さくすると、金属超微粒子の比表面積が増大し、上記有機物の占める割合が大きくなる。このため、上記従来の特許文献1に示された太陽電池の金属電極形成方法では、有機溶媒に分散させた金属超微粒子の低温焼結化は、上記有機物を熱により脱離、或いは分解(分離・燃焼)させなければ実現できず、特に有機溶媒に分散させた金属超微粒子を220℃以下で焼成して得られた金属電極について耐候性試験を行うと、具体的には、温度を100℃に保ちかつ湿度を50%に保った恒温恒湿槽に金属電極を1000時間収容すると、上記有機物が変質又は劣化して、導電性及び反射率が低下してしまう問題点があった。
【0006】
本発明の目的は、長年使用しても高導電率及び高反射率を維持することができ、経年安定性に優れた電極を得ることができる、太陽電池の電極形成用組成物及び該組成物を用いた太陽電池用電極の形成方法を提供することにある。
【0007】
本発明の別の目的は、130〜400℃という低温の焼成プロセスにより、長年使用しても高導電率及び高反射率を維持することができ、経年安定性に優れた電極を得ることができる、太陽電池の電極の形成方法及び該形成方法により得られた電極を用いた太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、金属ナノ粒子が分散媒に分散した太陽電池の電極形成用組成物であって、金属ナノ粒子が75質量%以上の銀ナノ粒子を含有し、金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾され、金属ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有し、分散媒が1,2−プロパンジオール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド又はN−メチルホルムアミドのいずれかであることを特徴とする。
【0009】
この本発明の第1の観点に記載された組成物では、一次粒径10〜50nmとサイズの比較的大きな金属ナノ粒子を多く含むため、金属ナノ粒子の比表面積が減少し、保護剤の占める割合が小さくなるため、この組成物を用いて太陽電池の電極を形成すると、上記保護剤が焼成時の熱により脱離し又は分解し、或いは離脱しかつ分解することにより、実質的に有機物を含有しない銀を主成分とする電極が得られる。
【0010】
本発明の第4の観点は、第1又は第2の観点に基づく電極形成用組成物を基材上に湿式塗工法で塗工して焼成後の厚さが0.1〜2.0μmの範囲内となるように成膜する工程と、上面に成膜された基材を130〜400℃で焼成する工程とを含む太陽電池の電極の形成方法である。
【0011】
この本発明の第4の観点に記載された太陽電池の電極の形成方法では、130〜400℃という低温での焼成により、金属ナノ粒子の表面を保護していた保護剤が脱離し又は分解し、或いは離脱しかつ分解することにより、実質的に有機物を含有しない銀を主成分とする電極が得られる。
【発明の効果】
【0012】
以上述べたように、本発明によれば、分散媒に分散された金属ナノ粒子が75質量%以上の銀ナノ粒子を含有し、炭素骨格が炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で金属ナノ粒子を化学修飾し、更に金属ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有し、更に分散媒が1,2−プロパンジオール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド又はN−メチルホルムアミドのいずれかであるので、この組成物中の金属ナノ粒子の比表面積が比較的減少し、保護剤の占める割合が小さくなる。この結果、この組成物を用いて太陽電池の電極を形成すると、上記分散媒中の有機分子が焼成時の熱により脱離し又は分解し、或いは離脱しかつ分解することにより、実質的に有機物を含有しない銀を主成分とする電極が得られる。従って、上記電極の形成された太陽電池を長年使用しても、有機物が変質又は劣化するということがなく、導電率及び反射率が高い状態に維持されるので、経年安定性に優れた電極を得ることができる。
【0013】
また上記電極形成用組成物を基材上に湿式塗工法で塗工して焼成後の厚さが0.1〜2.0μmの範囲内となるように成膜し、この上面に成膜された基材を130〜400℃で焼成すれば、金属ナノ粒子の表面を保護していた保護剤が脱離し又は分解し、或いは離脱しかつ分解することにより、実質的に有機物を含有しない銀を主成分とする電極が得られる。この結果、上記と同様に、電極の形成された太陽電池を長年使用しても、導電率及び反射率が高い状態に維持されるので、経年安定性に優れた電極を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0015】
本発明の組成物は、金属ナノ粒子が分散媒に分散した太陽電池の電極形成用組成物である。上記金属ナノ粒子は75質量%以上、好ましくは80質量%以上の銀ナノ粒子を含有する。また金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾される。更に金属ナノ粒子は一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上、好ましくは75%以上含有する。ここで、銀ナノ粒子の含有量を全ての金属ナノ粒子100質量%に対して75質量%以上の範囲に限定したのは、75質量%未満ではこの組成物を用いて形成された太陽電池の電極の反射率が低下してしまうからである。また金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1〜3の範囲に限定したのは、炭素数が4以上であると焼成時の熱により保護剤が脱離或いは分解(分離・燃焼)し難く、上記電極内に有機残渣が多く残り、変質又は劣化して電極の導電性及び反射率が低下してしまうからである。また一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の含有量を、数平均で全ての金属ナノ粒子100%に対して70%以上の範囲に限定したのは、70質量%未満では金属ナノ粒子の比表面積が増大して保護剤割合が大きくなり、焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し易い有機分子であっても、この有機分子の占める割合が多いため、電極内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して電極の導電性及び反射率が低下したり、或いは金属ナノ粒子の粒度分布が広くなり電極の密度が低下し易くなって、電極の導電性及び反射率が低下してしまうからである。更に上記金属ナノ粒子の一次粒径を10〜50nmの範囲内に限定したのは、統計的手法より一次粒径が10〜50nmの範囲内にある金属ナノ粒子が経時安定性(経年安定性)と相関しているからである。
【0016】
一方、銀ナノ粒子を含む金属ナノ粒子の含有量は、金属ナノ粒子及び分散媒からなる組成物100質量%に対して2.5〜95.0質量%、好ましくは3.5〜90.0質量%含有する。また分散媒は、1,2−プロパンジオール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド又はN−メチルホルムアミドのいずれかである。ここで、銀ナノ粒子を含む金属ナノ粒子の含有量を金属ナノ粒子及び分散媒からなる組成物100質量%に対して2.5〜95.0質量%の範囲に限定したのは、2.5質量%未満では特に焼成後の電極の特性には影響はないけれども、必要な厚さの電極を得ることが難しく、95.0質量%を越えると組成物の湿式塗工時にインク或いはペーストとしての必要な流動性を失ってしまうからである。分散媒を1,2−プロパンジオール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド又はN−メチルホルムアミドのいずれかに限定したのは、これらの分散媒を使うと金属ナノ粒子が長期間凝集を起こさず安定であり、その結果湿式塗工法により塗工して得られた膜は低温で焼結でき、また焼成後の電極の導電性と反射率が良好であるからである。
【0017】
一方、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子は、Au、Pt、Pd、Ru、Ni、Cu、Sn、In、Zn、Cr、Fe及びMnからなる群より選ばれた1種又は2種以上の混合組成又は合金組成からなる金属ナノ粒子であり、この銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子は全ての金属ナノ粒子100質量%に対して0.02質量%以上かつ25質量%未満、好ましくは0.03質量%〜20質量%含有する。ここで、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子の含有量を全ての金属ナノ粒子100質量%に対して0.02質量%以上かつ25質量%未満の範囲に限定したのは、0.02質量%未満では特に大きな問題はないけれども、0.02〜25質量%の範囲内においては、耐候性試験(温度100℃かつ湿度50%の恒温恒湿槽に1000時間保持する試験)後の電極の導電性及び反射率が耐候性試験前より悪化しないという特徴があり、25質量%以上では焼成直後の電極の導電性及び反射率が低下し、しかも耐候性試験後の電極が耐候性試験前の電極より導電性及び反射率が低下してしまうからである。
【0018】
このように構成された太陽電池の電極形成用組成物の製造方法を説明する。
【0019】
(a) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を3とする場合
先ず硝酸銀を脱イオン水等の水に溶解して金属塩水溶液を調製する。一方、クエン酸ナトリウムを脱イオン水等の水に溶解させて得られた濃度10〜40%のクエン酸ナトリウム水溶液に、窒素ガス等の不活性ガスの気流中で粒状又は粉状の硫酸第一鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第一鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製する。次に上記不活性ガス気流中で上記還元剤水溶液を撹拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合する。ここで、金属塩水溶液の添加量は還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が30〜60℃に保持されるようにすることが好ましい。また上記両水溶液の混合比は、金属塩水溶液中の金属イオンの総原子価数に対する、還元剤水溶液中のクエン酸イオンと第一鉄イオンのモル比がいずれも3倍モルとなるようにする。金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の撹拌を更に10〜300分間続けて金属コロイドからなる分散液を調製する。この分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションや遠心分離法等により分離した後、この分離物に脱イオン水等の水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理し、その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、金属ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有するように調製する、即ち数平均で全ての金属ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の占める割合が70%以上になるように調整する。なお、金属ナノ粒子と記載したが、この(a)の場合では、数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子の占める割合が70%以上になるように調整している。更に引き続いて1,2−プロパンジオール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド又はN−メチルホルムアミドのいずれかで置換洗浄して、金属(銀)の含有量を2.5〜50質量%にする。
【0020】
数平均の測定方法は、先ず、得られた金属ナノ粒子をTEM(Transmission Electron Microscope、透過型電子顕微鏡)により約50万倍程度の倍率で撮影する。次いで、得られた画像から金属ナノ粒子200個について一次粒径を測定し、この測定結果をもとに粒径分布を作成する。次に、作成した粒径分布から、一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子が全金属ナノ粒子で占める個数割合を求める。
【0021】
これにより銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が3である分散体(太陽電池の電極形成用組成物)が得られる。なお、この分散体100質量%に対する最終的な金属含有量(銀含有量)は2.5〜95質量%とするとともに、溶媒は1,2−プロパンジオール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド又はN−メチルホルムアミドのいずれかを使用する。
【0022】
(b) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を2とする場合
還元剤水溶液を調製するときに用いたクエン酸ナトリウムをりんご酸ナトリウムに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子を化学修飾する有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が2である分散体(太陽電池の電極形成用組成物)が得られる。
【0023】
(c) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1とする場合
還元剤水溶液を調製するときに用いたクエン酸ナトリウムをグリコール酸ナトリウムに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子を化学修飾する有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が1である分散体(太陽電池の電極形成用組成物)が得られる。
【0024】
(d) 銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を3とする場合
銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を構成する金属としては、Au、Pt、Pd、Ru、Ni、Cu、Sn、In、Zn、Fe、Cr又はMnが挙げられる。金属塩水溶液を調製するときに用いた硝酸銀を、塩化金酸、塩化白金酸、硝酸パラジウム、三塩化ルテニウム、塩化ニッケル、硝酸第一銅、二塩化錫、硝酸インジウム、塩化亜鉛、硫酸鉄、硫酸クロム又は硫酸マンガンに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が3である分散体(太陽電池の電極形成用組成物)が得られる。
【0025】
なお、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1や2とする場合、金属塩水溶液を調製するときに用いた硝酸銀を、上記種類の金属塩に替えること以外は上記(b)や上記(c)と同様にして分散体を調製する。これにより、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が1や2である分散体(太陽電池の電極形成用組成物)が得られる。
【0026】
金属ナノ粒子として、銀ナノ粒子とともに、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含有させる場合には、上記(a)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体を第1分散体とし、上記(d)の方法で製造した銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含む分散体を第2分散体とすると、75質量%以上の第1分散体と25質量%未満の第2分散体とを第1及び第2分散体の合計含有量が100質量%となるように混合する。なお、第1分散体は、上記(a)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体に留まらず、上記(b)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体や上記(c)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体を使用しても良い。
【0027】
このように製造された分散体(太陽電池の電極形成用組成物)を用いて電極を形成する方法を説明する。
【0028】
先ず上記分散体(太陽電池の電極形成用組成物)を基材上に湿式塗工法で塗工する。この湿式塗工法での塗工は、焼成後の厚さが0.1〜2.0μm、好ましくは0.3〜1.5μmの範囲内となるように成膜する。上記基材は、シリコン、ガラス、透明導電材料を含むセラミックス、高分子材料又は金属からなる基板のいずれか、或いはシリコン、ガラス、透明導電材料を含むセラミックス、高分子材料及び金属からなる群より選ばれた2種以上の積層体であることができる。また基材は太陽電池素子又は透明電極付き太陽電池素子のいずれかであることが好ましい。透明電極としては、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、アンチモンドープ酸化錫(Antimony Tin Oxide:ATO)、ネサ(酸化錫SnO2)、IZO(Indium Zic Oxide)、AZO(アルミドープZnO)等などが挙げられる。上記分散体は太陽電池素子の光電変換半導体層の表面や、透明電極付き太陽電池素子の透明電極の表面に塗布される。更に上記湿式塗工法は、スプレーコーティング法、ディスペンサコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法又はダイコーティング法のいずれかであることが特に好ましいが、これに限られるものではなく、あらゆる方法を利用できる。スプレーコーティング法は分散体を圧縮エアにより霧状にして基材に塗布したり、或いは分散体自体を加圧し霧状にして基材に塗布する方法であり、ディスペンサコーティング法は例えば分散体を注射器に入れこの注射器のピストンを押すことにより注射器先端の微細ノズルから分散体を吐出させて基材に塗布する方法である。スピンコーティング法は分散体を回転している基材上に滴下し、この滴下した分散体をその遠心力により基材周縁に拡げる方法であり、ナイフコーティング法はナイフの先端と所定の隙間をあけた基材を水平方向に移動可能に設け、このナイフより上流側の基材上に分散体を供給して基材を下流側に向って水平移動させる方法である。スリットコーティング法は分散体を狭いスリットから流出させて基材上に塗布する方法であり、インクジェットコーティング法は市販のインクジェットプリンタのインクカートリッジに分散体を充填し、基材上にインクジェット印刷する方法である。スクリーン印刷法は、パターン指示材として紗を用い、その上に作られた版画像を通して分散体を基材に転移させる方法である。オフセット印刷法は、版に付けた分散体を直接基材に付着させず、版から一度ゴムシートに転写させ、ゴムシートから改めて基材に転移させる、インクの撥水性を利用した印刷方法である。ダイコーティング法は、ダイ内に供給された分散体をマニホールドで分配させてスリットより薄膜上に押し出し、走行する基材の表面を塗工する方法である。ダイコーティング法には、スロットコート方式やスライドコート方式、カーテンコート方式がある。
【0029】
次に上面に成膜された基材を大気中で130〜400℃、好ましくは140〜200℃の温度に、10分間〜1時間、好ましくは15〜40分間保持して焼成する。ここで、基材上に形成された分散体の膜厚を、焼成後の厚さが0.1〜2.0μmの範囲内となるように限定したのは、0.1μm未満では太陽電池に必要な電極の表面抵抗値が不十分となり、2.0μmを越えると特性上の不具合はないけれども、材料の使用量が必要以上に多くなって材料が無駄になるからである。また基材上に形成された分散体の膜の焼成温度を130〜400℃の範囲に限定したのは、130℃未満では金属ナノ粒子同士の焼結が不十分になるとともに保護剤の焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し難いため、焼成後の電極内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して導電性及び反射率が低下してしまい、400℃を越えると低温プロセスという生産上のメリットを生かせない、即ち製造コストが増大し生産性が低下してしまうからである。更に基材上に形成された分散体の膜の焼成時間を10分間〜1時間の範囲に限定したのは、10分間未満では金属ナノ粒子同士の焼結が不十分になるとともに保護剤の焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し難いため、焼成後の電極内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して電極の導電性及び反射率が低下してしまい、1時間を越えると特性には影響しないけれども、必要以上に製造コストが増大して生産性が低下してしまうからである。
【0030】
上記太陽電池の電極形成用組成物では、一次粒径10〜50nmとサイズの比較的大きい金属ナノ粒子を多く含むため、金属ナノ粒子の比表面積が減少し、保護剤の占める割合が小さくなる。この結果、上記組成物を用いて太陽電池の電極を形成すると、上記保護剤中の有機分子が焼成時の熱により脱離し又は分解し、或いは離脱しかつ分解することにより、実質的に有機物を含有しない銀を主成分とする電極が得られる。従って、上記電極の形成された太陽電池を長年使用しても、有機物が変質又は劣化するということがなく、電極の導電率及び反射率が高い状態に維持されるので、経年安定性に優れた電極を得ることができる。具体的には、上記電極を、温度を100℃に保ちかつ湿度を50%に保った恒温恒湿槽に1000時間収容した後であっても、波長750〜1500nmの電磁波、即ち可視光領域から赤外線領域までの電磁波を80%以上電極により反射できるとともに、電極の導電性、即ち電極の体積抵抗率を2×10-5Ω・cm(20×10-6Ω・cm)未満と極めて低い値に維持できる。このようにして形成された電極を用いた太陽電池は、長年使用しても高導電率及び高反射率を維持することができ、経年安定性に優れる。
【実施例】
【0031】
<実施例1>
先ず硝酸銀を脱イオン水に溶解して金属塩水溶液を調製した。一方、クエン酸ナトリウムを脱イオン水に溶解させて得られた濃度26%のクエン酸ナトリウム水溶液に、温度35℃の窒素ガス気流中で粒状の硫酸第一鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第一鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製した。次に上記窒素ガス気流を温度35℃に保った状態で、マグネチックスターラーの撹拌子を100rpmの回転速度で回転させて上記還元剤水溶液を撹拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合した。ここで、金属塩水溶液の添加量は還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が40℃に保持されるようにした。また上記両水溶液の混合比は、金属塩水溶液中の金属イオンの総原子価数に対する、還元剤水溶液中のクエン酸イオンと第一鉄イオンのモル比がいずれも3倍モルとなるようにした。金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の撹拌を更に15分間続けて金属コロイドからなる分散液を得た。この分散液のpHは5.5であり、分散液中の金属粒子の化学量論的生成量は5g/リットルであった。この得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように調整した。更に引き続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して、金属(銀)の含有量を70質量%にした。この分散体を実施例1とした。
【0032】
<実施例2>
実施例1と同様にして得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で90%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が90%になるように調整した。更に引き続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して、金属の含有量を70質量%にした。この分散体を実施例2とした。
【0033】
<実施例3>
実施例1と同様にして得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で100%含有するように調製した。更に引き続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して、金属の含有量を70質量%にした。この分散体を実施例3とした。
【0034】
<実施例4>
還元剤水溶液の調製時にクエン酸ナトリウムに替えてりんご酸ナトリウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように調整した。更に引き続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して、金属の含有量を70質量%にした。この分散体を実施例4とした。
【0035】
<実施例5>
還元剤水溶液の調製時にクエン酸ナトリウムに替えてグリコール酸ナトリウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように調整した。更に引き続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して、金属の含有量を70質量%にした。この分散体を実施例5とした。
【0036】
<実施例6>
実施例1と同様にして得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100質量%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように調整した。更に引き続いてエチレングリコールで置換洗浄して、金属の含有量を70質量%にした。この分散体を実施例6とした。
【0037】
<実施例7>
実施例1と同様にして得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100質量%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように調整した。更に引き続いてジメチルスルホキシドで置換洗浄して、金属の含有量を70質量%にした。この分散体を実施例7とした。
【0038】
<実施例8>
実施例1と同様にして得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100質量%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように調整した。更に引き続いてN−メチルホルムアミドで置換洗浄して、金属の含有量を70質量%にした。この分散体を実施例8とした。
【0039】
<実施例9>
実施例1と同様にして銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第1分散体を得た。一方、実施例1の硝酸銀を塩化金酸に替え、実施例1と同様にして金ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの金ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての金ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの金ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が95質量%、金ナノ粒子が5質量%となるように混合した。この分散体を実施例9とした。
【0040】
<実施例10>
実施例1と同様にして銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第1分散体を得た。一方、実施例1の硝酸銀を塩化白金酸に替え、実施例1と同様にして白金ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの白金ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての白金ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの白金ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が95質量%、白金ナノ粒子が5質量%となるように混合した。この分散体を実施例10とした。
【0041】
<実施例11>
実施例1と同様にして銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第1分散体を得た。一方、実施例1の硝酸銀を硝酸パラジウムに替え、実施例1と同様にしてパラジウムナノ粒子が一次粒径10〜50nmのパラジウムナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全てのパラジウムナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmのパラジウムナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が77質量%、パラジウムナノ粒子が23質量%となるように混合した。この分散体を実施例11とした。
【0042】
<実施例12>
実施例1と同様にして銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第1分散体を得た。一方、実施例1の硝酸銀を三塩化ルテニウムに替え、実施例1と同様にしてルテニウムナノ粒子が一次粒径10〜50nmのルテニウムナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全てのルテニウム粒子100%に対する一次粒径10〜50nmのルテニウムナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が80質量%、ルテニウムナノ粒子が20質量%となるように混合した。この分散体を実施例12とした。
【0043】
<実施例13>
実施例1と同様にして銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第1分散体を得た。一方、実施例1の硝酸銀を塩化ニッケルに替え、実施例1と同様にしてニッケルナノ粒子が一次粒径10〜50nmのニッケルナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全てのニッケルナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmのニッケルナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が99.5質量%、ニッケルナノ粒子が0.5質量%となるように混合した。この分散体を実施例13とした。
【0044】
<実施例14>
実施例1と同様にして銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第1分散体を得た。一方、実施例1の硝酸銀を硝酸第一銅に替え、実施例1と同様にして銅ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銅ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銅ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銅ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が90質量%、銅ナノ粒子が10質量%となるように混合した。この分散体を実施例14とした。
【0045】
<実施例15>
実施例1と同様にして銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第1分散体を得た。一方、実施例1の硝酸銀を二塩化錫に替え、実施例1と同様にして錫ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの錫ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての錫ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの錫ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が95質量%、錫ナノ粒子が5質量%となるように混合した。この分散体を実施例15とした。
【0046】
<実施例16>
実施例1と同様にして銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第1分散体を得た。一方、実施例1の硝酸銀を硝酸インジウムに替え、実施例1と同様にしてインジウムナノ粒子が一次粒径10〜50nmのインジウムナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全てのインジウムナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの錫ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が80質量%、インジウムナノ粒子が20質量%となるように混合した。この分散体を実施例16とした。
【0047】
<実施例17>
実施例1と同様にして銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第1分散体を得た。一方、実施例1の硝酸銀を塩化亜鉛に替え、実施例1と同様にして亜鉛ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの亜鉛ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての亜鉛ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの亜鉛ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が98質量%、亜鉛ナノ粒子が2質量%となるように混合した。この分散体を実施例17とした。
【0048】
<実施例18>
実施例1と同様にして銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第1分散体を得た。一方、実施例1の硝酸銀を硫酸鉄に替え、実施例1と同様にして鉄ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの亜鉛ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての鉄ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの鉄ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が95質量%、鉄ナノ粒子が5質量%となるように混合した。この分散体を実施例18とした。
【0049】
<実施例19>
実施例1と同様にして銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第1分散体を得た。一方、実施例1の硝酸銀を硫酸クロムに替え、実施例1と同様にしてクロムナノ粒子が一次粒径10〜50nmのクロムナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全てのクロムナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmのクロムナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が95質量%、クロムナノ粒子が5質量%となるように混合した。この分散体を実施例19とした。
【0050】
<実施例20>
実施例1と同様にして銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第1分散体を得た。一方、実施例1の硝酸銀を硫酸マンガンに替え、実施例1と同様にしてマンガンナノ粒子が一次粒径10〜50nmのマンガンナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全てのマンガンナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmのマンガンナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整した。更に引続いて1,2−プロパンジオールで置換洗浄して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が95質量%、マンガンナノ粒子が5質量%となるように混合した。この分散体を実施例20とした。
【0051】
<比較例1>
実施例1と同様にして得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように調整した。更に引き続いて、金属の含有量が70%になるように脱イオン水の量を調整した。この分散体を比較例1とした。
【0052】
<比較例2>
実施例1と同様にして得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で90%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように調整した。更に引き続いて1−メトキシ−2−プロパノールで置換洗浄して、金属の含有量を70質量%にした。この分散体を比較例2とした。
【0053】
<比較例3>
実施例1と同様にして得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で90%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように調整した。更に引き続いてトルエンで置換洗浄して、金属の含有量を70質量%にした。この分散体を比較例3とした。
【0054】
<比較試験1及び評価>
実施例1〜20及び比較例1〜3の分散体を次の表3及び表4に示される基材上に、焼成後の膜厚が1μmとなるように次の表3及び表4に示される塗工法により塗布した。基材としては、ITO又はPETを用いた。塗工法としては、ナイフコーティング又はスピンコーティングを用いた。ここで分散体を基材上に塗布した塗膜について、その塗工性を目視により確認した。続いて、実施例1〜20の塗膜を、次の表3に示される温度で焼成することにより、基材上に電極を形成した。これらの電極を形成した基材について、耐候性試験を行う前に、各基材に形成された電極の反射率及び導電性を測定するとともに、耐候性試験を行った後に、各基材に形成された電極の反射率及び導電性を測定した。その結果を、表3に示す。また、比較例1〜3についての塗膜の状態を観察した。その結果を、表4に示す。
【0055】
なお、耐候性試験は、電極の形成された基材を、温度を100℃に保ち湿度を50%に保った恒温恒湿槽に1000時間収容することにより行った。
【0056】
また、反射率は、波長750〜1500nmの電磁波(赤外線及び可視光線)を電極に照射し、反射した電磁波を紫外可視分光光度計(V−570:日本分光社製)を用いて測定し、全照射量に対する反射量の割合(%)を算出して求めた。
【0057】
また、金属ナノ粒子の一次粒径は、FE−TEM(電界放出型透過電子顕微鏡:日本電子社製)を用いて計測し、一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める割合は、上記FE−TEMを用いて撮影した金属ナノ粒子の一次粒径の写真から画像処理により粒子径の数を計測して評価した。
【0058】
また導電性は、四端子法により測定し算出した体積抵抗率(Ω・cm)として求めた。具体的には、電極の体積抵抗率は、先ず焼成後の電極の厚さをSEM(電子顕微鏡S800:日立製作所社製)を用いて電極断面から電極の厚さを直接計測し、次に四端子法による比抵抗測定器(ロレスタ:三菱化学社製)を用い、この測定器に上記実測した電極の厚さを入力して測定した。
【0059】
一方、表1及び表2に、実施例1〜20及び比較例1〜3の分散体における一次粒径10〜50nmの金属ナノ粒子の占める割合と、有機分子主鎖の炭素数と、分散体(組成物)の種類及び混合割合と、異種金属(銀以外の金属)の種類及び含有率(銀と銀以外の金属の合計を100質量%としたときの異種金属の含有率)とを示した。また表3及び表4には、反射率、導電性(体積抵抗率)及び耐候性とともに、基材の種類、塗工性及び焼成温度を示した。表3及び表4の塗工性の欄において、『良好』とは、基材上に一様に塗工できた場合を示し、『不良』とは基材が塗液となる分散体を弾いたりして基材上に一様に塗工できなかった場合を示す。更に表3の耐候性の欄において、『良好』とは、反射率が80%以上でありかつ体積抵抗率が20×10-6Ω・cm未満であった場合を示し、『不良』とは反射率が80%未満でありかつ体積抵抗率が20×10-6Ω・cm未満であるか、又は反射率が80%以上でありかつ体積抵抗率が20×10-6Ω・cmを越えるか、或いは反射率が80%未満でありかつ体積抵抗率が20×10-6Ω・cmを越えた場合を示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

表3及び表4から明らかなように、比較例1〜3では、塗工性が悪く、塗膜の状態が、斑になったり、膜に多くの穴が形成されたりと、太陽電池の電極を形成するための組成物として使用するのには不適であることが確認された。これらに対し、実施例1〜20では、基材への塗膜性はいずれも良好であり、耐候性試験前及び耐候性試験後のいずれであっても、電極の反射率が80%以上でありかつ体積抵抗率が20×10-6Ω・cm未満であり、耐候性試験前の初期特性も耐候性も十分に満足するものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子が分散媒に分散した太陽電池の電極形成用組成物であって、
前記金属ナノ粒子が75質量%以上の銀ナノ粒子を含有し、
前記金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾され、
前記金属ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有し、
前記分散媒が1,2−プロパンジオール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド又はN−メチルホルムアミドのいずれかであることを特徴とする太陽電池の電極形成用組成物。
【請求項2】
Au、Pt、Pd、Ru、Ni、Cu、Sn、In、Zn、Fe、Cr及びMnからなる群より選ばれた1種又は2種以上の混合組成又は合金組成からなる金属ナノ粒子を0.02質量%以上かつ25質量%未満含有する請求項1記載の太陽電池の電極形成用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電極形成用組成物を基材上に湿式塗工法で塗工して太陽電池用電極を形成する方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の電極形成用組成物を基材上に湿式塗工法で塗工して焼成後の厚さが0.1〜2.0μmの範囲内となるように成膜する工程と、
前記上面に成膜された基材を130〜400℃で焼成する工程と
を含む太陽電池の電極の形成方法。
【請求項5】
基材がシリコン、ガラス、透明導電材料を含むセラミックス、高分子材料又は金属からなる基板のいずれか、或いは前記シリコン、前記ガラス、前記透明導電材料を含むセラミックス、前記高分子材料及び前記金属からなる群より選ばれた2種以上の積層体である請求項3又は4記載の太陽電池の電極の形成方法。
【請求項6】
基材が太陽電池素子又は透明電極付き太陽電池素子のいずれかである請求項3又は4記載の太陽電池の電極の形成方法。
【請求項7】
湿式塗工法がスプレーコーティング法、ディスペンサコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法又はダイコーティング法のいずれかである請求項3又は4記載の太陽電池の電極の形成方法。
【請求項8】
請求項3ないし7いずれか1項に記載の電極の形成方法により形成した電極を用いたことを特徴とする太陽電池。