説明

太陽電池モジュール及び製造方法

【課題】 フレームレスであっても、耐候性に優れ、湿分がCIS系太陽電池デバイスまで侵入することを防止でき、発電効率の低下を防止できる太陽電池モジュール及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 基板ガラス11と、基板ガラス11上に形成されたCIS系薄膜太陽電池デバイス12と、CIS系薄膜太陽電池デバイス12の受光面側に取り付けられたカバーガラス14と、基板ガラス11及びカバーガラス14を接着保持する充填材13とを有し、CIS系薄膜太陽電池デバイス12の端部から、基板ガラス11端部及びカバーガラス14の端部までの間に太陽電池デバイス12が形成されていないエッジスペースSを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CIS(CuInSe2 系であってCIS,CIGS、CIGSS等を含む総称)系薄膜太陽電池モジュールに関する技術であって、フレームレスの太陽電池モジュールとして好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からCIS系薄膜太陽電池モジュールは、サブストレートとして基板表面に金属裏面電極層、p形光吸収層、高抵抗バッファ層、n形窓層(透明導電膜)などの各層を積層してCIS系薄膜太陽電池モジュールを構成し、その上にEVA(Ethylence-Vinyl Acetate)樹脂などの充填材をいれて、上面のカバーガラスをラミネートして取り付け、これをアルミなどのフレームで囲って太陽電池モジュールの端部をカバーしている。このように、フレームにより端部を囲うことで、カバーガラスの端部から水などの湿分が侵入することを防止し、耐候性を高めている。
【0003】
一方、太陽電池モジュールの軽量化、製造コストの低減のためには、アルミフレームを取り付けないフレームレスの太陽電池モジュールがある。
このようなフレームレスの太陽電池モジュールとしては、受光面側フィルムと、受光面側充填材と、接続タブで電気的に接続された複数の太陽電池素子と、裏面側充填材と、裏面側フィルムとを重ねるように順次配設して成る太陽電池モジュールであって、前記受光面側フィルムの周縁部と前記裏面側フィルムの周縁部とを熱融着した構造が提案されている(特許文献1参照)。
また、別のフレームレスの太陽電池モジュールとしては、フレームレス太陽電池モジュールを、勾配を有する住宅屋根等の被取付け部材に敷設する際、被取付け部材の勾配方向に隣接する太陽電池モジュール間に、棒状目地材を挟んで太陽電池モジュールを敷設し、棒状目地材の全体が太陽電池モジュールの表面から突出しないようにした構造が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−86390
【特許文献2】特開2002−322765
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、フレームレスの太陽電池モジュールでは、太陽光照射面のカバーガラスと基板ガラスの間のEVA樹脂等の充填材が露出してしまい、耐候性能の悪化を招いてしまうという問題がある。特に、風雨にさらされた状態で使用されると、屋外暴露により基板端部から湿分が侵入してしまい、太陽電池の発電効率の低下を招いてしまうという問題があった。
【0006】
また、先行特許1のように、受光面側フィルムの周縁部と裏面側フィルムの周縁部とを熱融着したフィルムを用いても、屋外暴露により端部のフィルムが劣化して湿分が侵入してしまうという問題があった。
また、先行特許2のように、棒状目地材を挟んで太陽電池モジュールを敷設した場合には、敷設するための作業が煩雑となるばかりか、棒目地材を使用する分だけコストが高くなってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、フレームレスであっても、耐候性に優れ、湿分がCIS系太陽電池デバイスまで侵入することを防止でき、発電効率の低下を防止できる太陽電池モジュール及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る太陽電池モジュールは、基板ガラスと、上記基板ガラス上に形成されたCIS系薄膜太陽電池デバイスと、上記CIS系薄膜太陽電池デバイスの受光面側に取り付けられたカバーガラスと、上記基板ガラス及び上記カバーガラスを接着保持する充填材と、を有する太陽電池モジュールであって、上記CIS系薄膜太陽電池デバイスの端部から、上記基板ガラス端部及びカバーガラスの端部までの間に、上記太陽電池デバイスが形成されていないエッジスペースを設けたことを特徴とする。
【0009】
本発明の一の観点にかかる太陽電池モジュールの製造方法は、基板ガラスと、上記基板ガラス上に形成されたCIS系薄膜太陽電池デバイスと、上記カバーガラスと同じ大きさに形成され、上記CIS系薄膜太陽電池デバイスをカバーするカバーガラスと、を有し、上記CIS系薄膜太陽電池デバイスの端部から、上記基板ガラス端部及びカバーガラスの端部までの間に、上記太陽電池デバイスが形成されていないエッジスペースが設けられた太陽電池モジュールを製造するための方法であって、上記基板ガラス上にエッジスペースに相当する部分に、金属製マスク板を配置し、上記金属製マスク板を配置した状態で、上記CIS系薄膜太陽電池デバイスを成膜し、成膜完成後に、上記金属製マスク板を取り除くことで、上記エッジスペースを形成し、上記エッジスペースを形成した基板ガラス上に、上記カバーガラスを取り付けることを特徴とする。
【0010】
また、上記金属製マスク板は、ステンレス製であってもよい。
【0011】
本発明の別の観点にかかる太陽電池モジュールの製造方法は、基板ガラスと、上記基板ガラス上に形成されたCIS系薄膜太陽電池デバイスと、上記カバーガラスと同じ大きさに形成され、上記CIS系薄膜太陽電池デバイスをカバーするカバーガラスと、を有し、上記CIS系薄膜太陽電池デバイスの端部から、上記基板ガラス端部及びカバーガラスの端部までのA間に、上記太陽電池サブモジュールが形成されていないエッジスペースが設けられた太陽電池モジュールを製造するための方法であって、上記基板ガラス上に上記CIS系薄膜太陽電池デバイスを成膜し、成膜完成後に、上記エッジスペースに相当する部分のCIS系薄膜太陽電池デバイスを削ることで上記エッジスペースを形成し、上記エッジスペースを形成した上記CIS系薄膜太陽電池デバイス上に、上記カバーガラスを取り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エッジスペースを設けたことで、太陽電池サブモジュールの端部から湿分が浸入した場合であっても、その湿分がCIS系太陽電池デバイスまで到達することを防止でき、CIS系薄膜太陽電池デバイスの発電効率の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の第一の実施形態について図を参照して説明する。
図1、図3に本発明にかかる太陽電池モジュールを示す。
太陽電池モジュール1は、図1、図3に示すように、基板ガラス11と、この基板ガラス11上に積層されたCIS系薄膜太陽電池デバイス12と、EVA樹脂などの充填材13と、この充填材13を介して基板ガラス11に取り付けられたカバーガラス14から構成されている。
基板ガラス11は、その上にCIS系薄膜太陽電池デバイス12が形成される基板となるものである。この基板ガラス11の裏面側には、EVA樹脂などの充填材を介して、例えばフッ素系樹脂、PETやアルミニウム箔などを貼り合わせてなるフィルムが貼られていてもよい。
CIS系薄膜太陽電池デバイス12は、金属裏面電極層、p形光吸収層、高抵抗バッファ層、n形窓層(透明導電膜)などの薄膜を積層して形成されたデバイスであり、このデバイスが太陽光等の光を受けることにより発電する。
EVA樹脂などの充填材13は、基板ガラス11と、カバーガラス14との間を埋めると共に、これらを一体に取り付けるための充填材である。このEVA樹脂などの充填材13は、基板ガラス11とカバーガラス14との間に挟まれた状態で、加熱されながらプレスされることで溶けて広がり、その隙間を埋めるとともに、基板ガラス11とカバーガラス14を接着することができる。
カバーガラス14は、太陽電池モジュール1の受光面に設けられたガラスであって、強化ガラスなどにより構成することができる。このカバーガラス14の大きさは、基板ガラス11と同じ大きさに形成されている。
【0014】
基板ガラス11及びカバーガラス14の端部と、CIS系薄膜太陽電池12との間には、図1、図3に示すように、エッジスペースSが基板ガラス11上に枠状に形成されている。このエッジスペースSの一端部の幅は、本例では、15mmとなっている。これは、10mm以下とすると、端部からの湿分の侵入により、CIS薄膜太陽電池デバイス12が湿り、発電効率が低下してしまうことを防止するためである。また、エッジスペースSの幅が大きすぎると、太陽電池モジュール1自体の出力が低下してしまう。
このエッジスペースSの幅と耐候性の関係を図4に示す。図4は、基板ガラスの端部から10mm、15mm、20mm、30mmの上記エッジスペースを設けて金属裏面電極層を積層してEVA樹脂を充填材としてカバーガラスと貼り付け、JISC8917の付属書11(規定)耐湿性試験B−2を実施した結果である。1508時間経過した時点で金属裏面電極の端部が侵入した湿分により変色が見られた。しかし、エッジスペースSの幅を15mm以上とした場合には、2008時間経過した時点でも、湿分の侵入による金属裏面電極の端部の変色は見られなかった。このため、最も好適な例としてはエッジスペースSの幅を15mmとすることで、耐候性の良い太陽電池モジュール1を作製することができる。
なお、この幅は15mmに限定されるものではなく、10mm以上、好ましくは15mm以上であればよい。
【0015】
次に、上述の太陽電池モジュールの製造方法について説明する。
<実施形態1>
実施形態1として、製造工程でエッジスペースS部分に、マスク板Mをした状態でCIS系薄膜太陽電池デバイス12を成膜して、このマスク板Mを取り外すことでエッジスペースSを形成する例について説明する。
まず、基板ガラス11上のエッジスペースSに相当する部分に、図2に示すマスク板Mを配置する。
このマスク板Mは、図2に示すようにステンレス等の金属により中空枠状に形成されている。このマスク板Mの一端部の幅Hは、エッジスペースSの幅と同じに形成されており、10mm以上、好ましくは15mm以上であればよい。
【0016】
基板ガラス11上にマスク板Mを配置した状態で、CIS系薄膜太陽電池デバイス12を成膜する。この成膜は、金属裏面電極層、p形光吸収層、高抵抗バッファ層、n形窓層(透明導電膜)などの各層を積層して形成する。
これにより、基板ガラス11及びマスク板M上にCIS系薄膜太陽電池デバイス12が成膜される。
なお、マスク板Mはステンレス製の金属製とすることで、成膜工程でマスク板Mが変質してエッジスペースSをマスキングできなくなったり、またマスク板Mの変質によりCIS系太陽電池デバイス12へ悪影響を与えることを防止できる。
【0017】
成膜完成後に、ピッキング装置等によりマスク板Mを基板ガラス11上から取り除く。
これにより、マスク板Mが配置されていた部分には、CIS系薄膜太陽電池デバイスが成膜されていないエッジスペースSが形成される。つまり、基板ガラス11上面には、その端部に沿って枠状にエッジスペースSが形成されることになる。
【0018】
この状態で、エッジスペースSを形成した基板ガラス11及びCIS系薄膜太陽電池デバイス12上に、カバーガラスと同寸法またはそれ以上の寸法のシート状のEVA樹脂などの充填材13を配置して、その上にカバーガラス14を置く。
そして、カバーガラス14、EVA樹脂などの充填材13、基板ガラス11の順に積層し、ラミネータで加熱しながら脱泡、加圧するとCIS系太陽電池デバイス12及びエッジスペースSを溶解したEVA樹脂などの充填材13がカバーガラス14と基板ガラス11を固着する。さらに加熱することでEVA樹脂は、架橋された状態となる。
【0019】
これにより、基板ガラス11及びカバーガラス14の端部から所定の幅(例えば、15mm)の距離を置いて、CIS系薄膜太陽電池デバイス12が成膜されていることから、例えばその側端部に金属フレームを取り付けなくとも、雨水等の外部の湿分がCIS系薄膜太陽電池デバイス12へ影響することを防止できる。つまり、外部の湿分があっても、十分な幅を持って形成されたエッジスペースSに充填されたEVA樹脂などの充填材13により侵入を防ぐことができ、CIS系薄膜太陽電池デバイス12の発電効率が低下することを防止できる。
【0020】
<実施形態2>
上述の製造方法は、マスク板Mを用いる場合について説明したが、これに限らずCIS系薄膜太陽電池デバイス12の成膜後に、エッジスペースSに応じて成膜部分を削るようにしてもよい。この場合の製造方法について説明する。
【0021】
まず、基板ガラス11上の全面にCIS系薄膜太陽電池デバイス12を成膜する。
成膜完成後、エッジスペースSに相当する部分、即ち基板ガラス11の端部から例えば15mmの幅で、この幅は10mm以上あれば良く、好ましくは15mmであり、CIS系薄膜太陽電池デバイス12を枠状に削り取る。この処理は、例えばサンドブラスターや超音波を利用した膜剥離装置を利用して、CIS系薄膜太陽電池デバイス12を削り取ることができる。
これにより、エッジスペースSに相当する部分のCIS系薄膜太陽電池デバイス12が、枠状に削り取られてエッジスペースSが形成される。
【0022】
この状態で、基板ガラス11及びCIS系薄膜太陽電池デバイス12上に、シート状のEVA樹脂などの充填材13を被せて、このEVA樹脂などの充填材13を挟むようにしてカバーガラス14を配置する。
この状態で、カバーガラス14、EVA樹脂などの充填材13、基板ガラス11の順に積層し、ラミネータで加熱しながら脱泡、加圧するとCIS系太陽電池デバイス12及びエッジスペースSを溶解したEVA樹脂などの充填材13がカバーガラス14と基板ガラス11を固着する。さらに加熱することでEVA樹脂は、架橋された状態となる。これにより、基板ガラス11及びカバーガラス14の側端部は、EVA樹脂などの充填材13により封止された状態となる。
【0023】
この方法によっても、基板ガラス11及びカバーガラス14の端部から所定の幅(例えば、15mm)の距離を置いて、CIS系薄膜太陽電池デバイス12が成膜されていることから、例えばその側端部に金属フレームを取り付けなくとも、雨水等の外部の湿分がCIS系薄膜太陽電池デバイス12へ影響することを防止できる。つまり、外部の湿分があっても、十分な幅を持って形成されたエッジスペースSに充填されたEVA樹脂などの充填材13により侵入を防ぐことができ、CIS系薄膜太陽電池デバイス12の発電効率が低下することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態にかかる太陽電池モジュールの平面図。
【図2】本実施形態にかかるマスク部材の平面図。
【図3】本実施形態にかかる太陽電池モジュールの断面図。
【図4】本実施形態にかかる太陽電池モジュールのエッジスペースの幅とJISC8917高温高湿試験結果を示した表。
【符号の説明】
【0025】
1 太陽電池モジュール
11 基板ガラス
12 CIS系薄膜太陽電池デバイス
13 充填材
14 カバーガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板ガラスと、上記基板ガラス上に形成されたCIS系薄膜太陽電池デバイスと、
上記CIS系薄膜太陽電池デバイスの受光面側に取り付けられたカバーガラスと、
上記基板ガラス及び上記カバーガラスを接着保持する充填材と、を有する太陽電池モジュールであって、
上記CIS系薄膜太陽電池デバイスの端部から、上記基板ガラス端部及びカバーガラスの端部までの間に、上記太陽電池デバイスが形成されていないエッジスペースを設けた、
ことを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項2】
基板ガラスと、上記基板ガラス上に形成されたCIS系薄膜太陽電池デバイスと、上記カバーガラスと同じ大きさに形成され、上記CIS系薄膜太陽電池デバイスをカバーするカバーガラスと、を有し、上記CIS系薄膜太陽電池デバイスの端部から、上記基板ガラス端部及びカバーガラスの端部までの間に、上記太陽電池サブモジュールが形成されていないエッジスペースが設けられた太陽電池モジュールを製造するための方法であって、
上記基板ガラス上の上記エッジスペースに相当する部分に、金属製マスク板を配置し、
上記金属製マスク板を配置した状態で、上記CIS系薄膜太陽電池デバイスを成膜し、
成膜完成後に、上記金属製マスク板を取り除くことで、上記エッジスペースを形成し、
上記エッジスペースを形成した上記CIS系薄膜太陽電池デバイス上に、上記カバーガラスを取り付ける、
ことを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項3】
上記金属製マスク板は、ステンレス製である、
請求項2記載の太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項4】
基板ガラスと、上記基板ガラス上に形成されたCIS系薄膜太陽電池デバイスと、上記カバーガラスと同じ大きさに形成され、上記CIS系薄膜太陽電池デバイスをカバーするカバーガラスと、を有し、上記CIS系薄膜太陽電池デバイスの端部から、上記基板ガラス端部及びカバーガラスの端部までの間に、上記太陽電池サブモジュールが形成されていないエッジスペースが設けられた太陽電池モジュールを製造するための方法であって、
上記基板ガラス上に上記CIS系薄膜太陽電池デバイスを成膜し、
成膜完成後に、上記エッジスペースに相当する部分のCIS系薄膜太陽電池デバイスを削ることで上記エッジスペースを形成し、
上記エッジスペースを形成した上記CIS系薄膜太陽電池デバイス上に、上記カバーガラスを取り付ける、
ことを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−282944(P2008−282944A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125263(P2007−125263)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電システム共通基盤技術研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】