説明

太陽電池モジュール用表面保護シート

【課題】 太陽光を透過する透過性に富むと共に強度に優れ、かつ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐風性、耐降雹性、耐薬品性、耐突き刺し性等の諸堅牢性に優れ、また、熱硬化性透明樹脂層の膜厚を自由に制御できる特徴により、異なる用途に応じて一原料での対応が効く為、材料の在庫管理の容易性に優れ、安価で安全な太陽電池モジュール用表面保護シート。
【解決手段】基材フィルムと、この上に形成された熱硬化性透明樹脂層とを有する太陽電池モジュール用表面保護シートであって、熱硬化性透明樹脂層が、ビニルエステル樹脂と、ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが−20℃以下となるモノマーと、上記ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが120℃以上のモノマーとを共重合させてなる樹脂を有するものであることを特徴とする太陽電池モジュール用表面保護シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の特性を有し、安価で安全な太陽電池モジュール用表面保護シート、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、クリーンなエネルギー源としての太陽電池が注目され、現在、種々の形態からなる太陽電池モジュールが開発、提案されている。
【0003】
太陽電池モジュールは、当初、電卓への適用を始めとし、その後、各種の電子機器などに応用され、民生用の利用として、その応用範囲は急速に広まりつつあり、さらに、今後、最も重要な課題として、大規模集中型太陽電池発電の実現であるとされている。
【0004】
一般に、太陽電池モジュールは、例えば、結晶シリコン太陽電池素子あるいはアモルファスシリコン太陽電池素子等を製造し、そのような太陽電池素子を使用し、表面保護シート層、充填剤層、光起電力素子としての太陽電池素子、充填剤層、および、裏面保護シート層等の順に積層し、真空吸引して加熱圧着するラミネーション法等を利用して製造されている。
【0005】
太陽電池モジュール用表面保護シートとして、現在、ガラス板等が最も一般的に使用され、その他、近年フッ素系樹脂シートを用いた透明複合樹脂シート等も注目され、その開発が急速に進められている。一般に、太陽電池モジュール用表面保護シートとしては、太陽電池が、太陽光を吸収して光起電力することから、太陽光を透過する透過性に富むと共に強度に優れ、かつ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐風圧性、耐降雹性、耐薬品性、耐突き刺し性等の諸堅牢性に優れ、特に、水分、酸素等の侵入を防止する防湿性に優れ、さらに、表面硬度が高く、かつ、表面の汚れ、ゴミ等の蓄積を防止する防汚性に優れ、太陽電池モジュールの信頼性試験として用いられる代表的な耐湿熱促進試験条件85℃85%中に2000h放置後、及び耐湿熱サイクル試験条件85℃85%1時間保持後−40℃1時間保持を10サイクル行った後のいずれにおいても、破断強度を初期値の50%以上維持できる、より好ましくは80%以上維持できる程の耐加水分解劣化性を持ち、極めて耐久性に富み、その保護能力性が高いこと、その他等の条件を充足することが必要とされている。
【0006】
しかしながら、例えば、太陽電池モジュール用表面保護シートとして、現在、最も一般的に使用されているガラス板等は、太陽光の透過性に優れ、かつ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐薬品性、耐突き刺し性等の諸堅牢性に優れ、また、防湿性等にも優れ、更に、表面硬度が硬く、かつ、表面の汚れ、ゴミ等の蓄積を防止する防汚性に優れ、上述したような耐加水分解劣化性を持ち、その保護能力性が高い等の利点を有するが、強度、可塑性、耐衝撃性、軽量性等に欠け、更に、その加工性、施工性等に劣り、かつ、低コスト化等に欠けるという問題点がある。
【0007】
また、太陽電池モジュール用表面保護シートとして、強度に優れたフッ素系樹脂シート等を使用する場合には、ガラス板等と比較して、強度、可塑性、耐衝撃性、軽量性等に富みながら、上述したような耐加水分解劣化性を持つものではあるが、耐熱性、耐水性、耐光性、耐薬品性、耐突き刺し性等の諸堅牢性に劣り、特に、防湿性、防汚性等に欠けるという問題点がある。また、フッ素フィルムという廃棄・処理方法によっては環境への高負荷も懸念される材料を使用している点も、クリーンエネルギーを標榜するシステムの部材として最適ではないと思われ、高価である点も課題となるところである。
【0008】
太陽電池モジュール用表面保護シートとして、強度に優れた樹脂シート等を使用する場合の問題点を改良すべく更に種々検討され、例えば、耐候性フィルムとバリアフィルムをラミネート積層した耐湿性の高い透明複合フィルムからなる太陽電池モジュール用表面保護シートが提案されている(特許文献1参照)。
【0009】
しかしながら、上記で提案された太陽電池モジュール用表面保護シートは、上述したような諸特性、諸条件等をそれなりに充足し得るものではあるが、未だ充分に満足し得るものではなくさらに改善の余地があり、特に、上記で提案された太陽電池モジュール用表面保護シートが、上述したような耐加水分解劣化性を持ち、更に可塑性、透明性、耐熱性等の要求特性を満たすためには、耐候性フィルムまたはバリアフィルム基材にフッ素系樹脂を用いることが想定され、相変わらず使用後廃棄処理する際に、環境汚染あるいは環境破壊を発生させるというおそれがあり、高価になるという問題点もある。
【0010】
また、フッ素代替フィルムとして、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、メタクリル樹脂、シクロオレフィンポリマーなどの樹脂が選択される場合も想定されるが、上述したような耐加水分解劣化性を持ち、さらに可塑性、透明性、耐熱性等の要求特性を完全に満たすものがないのが実状である。
【0011】
また、上記で提案された耐候性フィルムとバリアフィルムのラミネートにより積層する太陽電池モジュール用表面保護シートにおいては、軽量性や低コストが表面保護シートに求められる場合や、強靭性が表面保護シートに求められる場合など、異なる用途に応じて表面保護シートを製造する際に、膜厚の異なるフィルム材料が必要となるため、在庫管理が困難となり、低コスト化に欠けるという問題点を有する。
【0012】
【特許文献1】特開平10−25357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は、太陽光を透過する透過性に富むと共に強度に優れ、かつ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐風性、耐降雹性、耐薬品性、耐突き刺し性等の諸堅牢性に優れ、特に、水分、酸素等の侵入を防止する防湿性に優れ、その長期的な性能劣化を最小限に抑え、特に、上述したような耐加水分解劣化性を持ち、極めて耐久性に富み、その保護能力性に優れ、また、熱硬化性透明樹脂層の膜厚を自由に制御できる特徴により、異なる用途に応じて一原料での対応が効くため、材料の在庫管理の容易性に優れ、安価で安全な太陽電池モジュール用表面保護シートを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、太陽電池モジュールを構成する表面保護シート層について、上述したような問題点を解決すべく種々研究の結果、まず、基材フィルムの少なくとも一方の面に、透明、かつ、水蒸気バリア性、酸素バリア性等に優れた無機酸化物の蒸着膜を設け、さらに、この無機酸化物の蒸着膜を設けた基材フィルムの少なくとも一方の面に、ビニルエステル樹脂と、このビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーした場合のTgが−20℃以下のモノマーと、上記ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが120℃以上のモノマーと、ラジカル重合開始剤とを含む樹脂組成物を薄膜状にキャスティングし、重合と同時にフィルム状に成型せしめて熱硬化性透明樹脂層を積層して太陽電池モジュール用表面保護シートを製造したところ、太陽光を透過する透過性に富むと共に強度に優れ、かつ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐風性、耐降雹性、耐薬品性、耐突き刺し性等の諸堅牢性に優れ、特に、水分、酸素等の侵入を防止する防湿性に優れ、その長期的な性能劣化を最小限に抑え、さらに、上述したような信頼性試験後においても、破断強度を初期値の80%以上維持できる程の耐加水分解劣化性を持ち、極めて耐久性に富み、その保護能力性に優れ、また、熱硬化性透明樹脂層の膜厚を自由に制御できる特徴により、異なる用途に応じて一原料での対応が効くため、材料の在庫管理の容易性に優れ、安価で安全な太陽電池モジュール用表面保護シートを安定的に製造し得ることを見出して本発明を完成したものである。
【0015】
すなわち、本発明においては、基材フィルムと、この基材フィルム上に形成された熱硬化性透明樹脂層とを有する太陽電池モジュール用表面保護シートであって、上記熱硬化性透明樹脂層が、ビニルエステル樹脂と、このビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが−20℃以下となるモノマーと、上記ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが120℃以上のモノマーとを共重合させてなる樹脂を有するものであることを特徴とする太陽電池モジュール用表面保護シートを提供する。
【0016】
上記構成により、本発明の太陽電池モジュール用表面保護シートは、上記の樹脂が有する機械的特性、化学的特性、物理的特性等の優れた特性、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐防湿性、耐汚染性、耐薬品性、その他等の諸特性を利用でき、これにより、耐久性、保護機能性等を有し、また、上記の樹脂の可撓性や機械的特性、化学的特性等から軽量性、加工性、取り扱い易さ等の利点を有することができる。
【0017】
さらに、上記熱硬化性透明樹脂層が、紫外線吸収剤、光安定化剤、および酸化防止剤を含むことが好ましい。太陽電池モジュール用表面保護シートとしての好適な特性を付与できるからである。
【0018】
また、本発明においては、基材フィルムと、この基材フィルム上に形成された熱硬化性透明樹脂層とを有する太陽電池モジュール用表面保護シートであって、上記太陽電池モジュール用表面保護シートが、耐湿熱促進試験条件85℃85%中に2000h放置後、および耐湿熱サイクル試験条件85℃85%1時間保持後−40℃1時間保持を10サイクル行った後のいずれにおいても、破断強度を初期値の50%〜120%の範囲内で維持できることを特徴とする太陽電池モジュール用表面保護シートを提供する。
【0019】
本発明の太陽電池モジュール用表面保護シートが、上述したような破断強度を維持することにより、クラックの生成を防止し、太陽電池モジュールに使用した場合に、発電効率の劣化を防止することができる。
【0020】
また、上記熱硬化性透明樹脂層が、上述したような樹脂を有することが好ましい。より効果的に太陽電池モジュール用保護シートとしての好適な特性を得ることができるからである。
【0021】
また、上記基材フィルムの少なくとも一方の面に、無機酸化物の蒸着膜を設け、さらに、この無機酸化物の蒸着膜を設けた基材フィルムの少なくとも一方の面に、上記熱硬化性透明樹脂層を設けてもよい。基材フィルム上に無機酸化物の蒸着膜を設けることにより、水蒸気バリア性、酸素バリア性等に優れ、さらに、熱硬化性透明樹脂層を設けることにより、耐加水分解劣化性、耐久性、その保護能力性に優れるからである。
【0022】
さらに、上記無機酸化物の蒸着膜の膜厚が、50Å〜4000Åの範囲内であることが好ましい。50Åより薄い場合は、バリア性の効果を奏することが困難になり、4000Åより厚い場合は、クラック等が発生し易くなると考えられるからである。
【0023】
また、本発明においては、上述したような太陽電池モジュール用表面保護シートを用いてなることを特徴とする太陽電池モジュールを提供する。本発明の太陽電池モジュール用表面保護シートを用いてなる太陽電池モジュールは、上述したような太陽電池モジュール用表面保護シートの利点を有し、かつコスト的に有利であるという利点を有するものである。
【0024】
また、本発明においては、基材フィルムと、上記基材フィルム上に形成された熱硬化性透明樹脂層とを有する太陽電池モジュール用表面保護シートの製造方法であって、上記熱硬化性透明樹脂層が、上記基材フィルムの少なくとも一方の面に、ビニルエステル樹脂と、このビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが−20℃以下となるモノマーと、上記ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが120℃以上のモノマーと、ラジカル重合開始剤とを含む樹脂組成物をキャスティングし、その後重合させてフィルム状に形成されるものであることを特徴とする太陽電池モジュール用表面保護シートの製造方法を提供する。
【0025】
上記構成により、本発明により得られる太陽電池モジュール用表面保護シートは、上記の樹脂が有する機械的特性、化学的特性、物理的特性等の優れた特性、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐防湿性、耐汚染性、耐薬品性、その他等の諸特性を利用でき、これにより、耐久性、保護機能性等を有し、また、上記の樹脂の可撓性や機械的特性、化学的特性等から軽量性、加工性、取り扱い易さ等の利点を有することができる。
【0026】
また、上記熱硬化性透明樹脂層の膜厚が、10μm〜200μmの範囲内であることが好ましい。200μmより厚い場合は、硬化速度および乾燥速度が律速となり、迅速な硬化が困難となり、10μmより薄い場合は、強靭性が低くなると考えられるからである。また、この範囲内で膜厚を自由に制御できることにより、異なる用途に応じて一原料での対応が効くため、材料の在庫管理の容易性に優れ、安価で安全な太陽電池モジュール用表面保護シートを安定的に製造することができるからである。
【0027】
さらに、上記樹脂組成物を重合させる際に、加熱または高エネルギー線を照射して、重合開始剤が生成するラジカルにより硬化させてもよい。迅速な硬化が可能となるからである。
【発明の効果】
【0028】
本発明の太陽電池モジュール用表面保護シートは、基材フィルムと、この基材フィルム上に形成された熱硬化性透明樹脂層とを有しており、この熱硬化性透明樹脂層が、ビニルエステル樹脂と、このビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが−20℃以下となるモノマーと、上記ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが120℃以上のモノマーとを共重合させてなる樹脂を有するため、上記の樹脂が有する機械的特性、化学的特性、物理的特性等の優れた特性、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐防湿性、耐汚染性、耐薬品性、その他等の諸特性を利用でき、これにより、耐久性、保護機能性等を有し、また、樹脂の可撓性や機械的特性、化学的特性等から軽量性、加工性、取り扱い易さ等の利点を有するといった効果を奏する。
【0029】
また、本発明の太陽電池モジュール用表面保護シートは、耐湿熱促進試験条件85℃85%中に2000h放置後、および耐湿熱サイクル試験条件85℃85%1時間保持後−40℃1時間保持を10サイクル行った後のいずれにおいても、破断強度を初期値の50%〜120%の範囲内で維持できるため、クラックの生成を防止し、太陽電池モジュールに使用した場合に、発電効率の劣化を防止することができるといった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明には、太陽電池モジュール用表面保護シート、および太陽電池モジュール用表面保護シートの製造方法が含まれる。以下、太陽電池モジュール用表面保護シートとその製造方法について説明する。本発明において、シートとは、シート状物ないしフィルム状物のいずれの場合も意味するものであり、また、フィルムとは、フィルム状物ないしシート状物のいずれの場合も意味するものである。
【0031】
A.太陽電池モジュール用表面保護シート
まず、太陽電池モジュール用表面保護シートについて説明する。
本発明の太陽電池モジュール用表面保護シートは、基材フィルムと、この基材フィルム上に形成された熱硬化性透明樹脂層とを有する太陽電池モジュール用表面保護シートであって、上記熱硬化性透明樹脂層が、ビニルエステル樹脂と、このビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが−20℃以下となるモノマーと、上記ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが120℃以上のモノマーとを共重合させてなる樹脂を有するものであることを特徴とするものである。
【0032】
また、本発明の太陽電池モジュール用表面保護シートの他の態様は、基材フィルムと、この基材フィルム上に形成された熱硬化性透明樹脂層とを有する太陽電池モジュール用表面保護シートであって、耐湿熱促進試験条件85℃85%中に2000h放置後、および耐湿熱サイクル試験条件85℃85%1時間保持後−40℃1時間保持を10サイクル行った後のいずれにおいても、破断強度を初期値の50%〜120%の範囲内で維持できることを特徴とするものである。
【0033】
このような太陽電池モジュール用表面保護シートについて、具体的に図面を用いて説明する。
図1は、本発明の太陽電池モジュール用表面保護シートの層構成について例示する概略断面図である。太陽電池モジュール用表面保護シートAは、図1に示すように、基材フィルム1の一方の面に、無機酸化物の蒸着薄膜2を設け、さらに、この無機酸化物の蒸着膜2の上に、ビニルエステル樹脂と、このビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが−20℃以下となるモノマーと、上記ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが120℃以上のモノマーと、ラジカル重合開始剤とを含む樹脂組成物をキャスティングし、その後重合させてフィルム状に形成される熱硬化性透明樹脂層3を設けた構成からなることを基本構造とするものである。
以下このような太陽電池モジュール用表面保護シートの各構成について説明する。
【0034】
1.基材フィルム
本発明における太陽電池モジュール用表面保護シートを構成する基材フィルムとしては、太陽光を透過する透明性に優れ、機械的、化学的、および物理的強度に優れ、具体的には、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐風圧性、耐降雹性、耐薬品性等の諸堅牢性に優れ、特に、耐候性に優れていると共に水分、酸素等の侵入を防止する防湿性に優れ、また、表面硬度が高く、かつ、表面の汚れ、ゴミ等の蓄積を防止する防汚性に優れ、極めて耐久性に富み、その保護能力性が高いこと等の特性を有することが好ましい。さらに、後述する無機酸化物の蒸着膜を形成する蒸着条件等に耐え、それら無機酸化物の蒸着膜等の特性を損なうことなく良好に保持し得ることが好ましい。
【0035】
このような基材フィルムの材料としては、具体的には、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂、その他等の樹脂を挙げることができる。中でも、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、または、ポリエステル系樹脂が好ましいものである。
【0036】
上記のような樹脂からなる基材フィルムを使用することにより、太陽電池モジュール用表面保護シートは、樹脂が有する機械的特性、化学的特性、物理的特性等の優れた特性、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐防湿性、耐汚染性、耐薬品性、その他等の諸特性を利用でき、これにより、耐久性、保護機能性等を有し、また、樹脂の可撓性や機械的特性、化学的特性等から軽量性、加工性、取り扱い易さ等の利点を有するのである。
【0037】
基材フィルムの形成方法としては、例えば、上記のような樹脂の1種ないしそれ以上を使用し、押し出し法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法、その他等の製膜化法を用いて、樹脂を単独で製膜化する方法、あるいは、2種以上の樹脂を使用して多層共押し出し製膜化する方法、さらには、2種以上の樹脂を使用し、製膜化する前に混合して製膜化する方法等が挙げられる。さらに、例えば、テンター方式、あるいは、チューブラー方式等を利用して1軸ないし2軸方向に延伸してなる樹脂フィルムを使用することができる。
【0038】
本発明に用いられる基材フィルムの膜厚は、9〜300μmの範囲内が好ましく、より好ましくは12〜200μmの範囲内である。
【0039】
さらに、樹脂の1種ないしそれ以上を使用し、その製膜化に際して、例えば、フィルムの加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、その他等を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤等を添加することができる。また、その添加量としては、ごく微量から数十%まで、その目的に応じて、任意に添加することができる。
【0040】
また、上記添加剤としては、一般的に、例えば、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、充填剤、強化繊維、補強剤、帯電防止剤、難燃剤、耐炎剤、発泡剤、防カビ剤、顔料、その他等を使用することができ、さらには、改質用樹脂等も使用することができる。中でも、特に、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、強化繊維等を練り込み加工してなる基材フィルムを使用することが好ましい。
【0041】
上記紫外線吸収剤は、太陽光中の有害な紫外線を吸収して、分子内で無害な熱エネルギーへと変換し、高分子中の光劣化開始の活性種が励起されるのを防止するものである。具体的には、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サルチレート系、アクリルニトリル系、金属錯塩系、ヒンダードアミン系、および、超微粒子酸化チタン(粒子径:0.01μm〜0.06μm)あるいは超微粒子酸化亜鉛(粒子径:0.01μm〜0.04μm)等の無機系等の紫外線吸収剤からなる群から選択される少なくとも1種のものを使用することができる。
【0042】
また、上記光安定化剤は、高分子中の光劣化開始の活性種を捕捉し、光酸化を防止するものである。具体的には、例えば、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダートピペリジン系化合物、およびその他等からなる群から選択される少なくとも1種のものを使用することができる。
【0043】
また、上記酸化防止剤は、高分子の光劣化あるいは熱劣化等を防止するものである。具体的には、例えば、フェノール系、アミン系、硫黄系、燐酸系、およびその他等からなる群から選択される少なくとも1種のものを使用することができる。
【0044】
さらに、上記紫外線吸収剤、光安定化剤あるいは酸化防止剤としては、例えば、ポリマーを構成する主鎖または側鎖に、上記のベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系化合物からなる光安定化剤、あるいはフェノール系等の酸化防止剤を化学結合させてなるポリマー型の紫外線吸収剤、光安定化剤あるいは酸化防止剤等も使用することができる。
【0045】
また、上記強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、天然繊維、その他等を使用することができる。また、それらは、長ないし短繊維状物、または、織布ないし不織布状物、その他等で使用することができる。
【0046】
上記紫外線吸収剤、酸化防止剤、強化繊維等の含有量としては、その粒子形状、密度、その他等によって異なるが、0.1〜10重量%の範囲内が好ましい。
【0047】
また、基材フィルムの表面は、後述する無機酸化物の蒸着膜との密着性等を向上させるために、必要に応じて、あらかじめ、所望の表面処理層を設けることができるものである。上記表面処理層としては、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガスもしくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理、その他等の前処理を任意に施し、例えば、コロナ処理層、オゾン処理層、プラズマ処理層、酸化処理層、その他等を形成して設けることができる。表面前処理は、基材フィルムと後述する無機酸化物の蒸着膜との密着性等を改善するための方法として実施するものであるが、密着性を改善する方法として、その他、例えば、基材フィルムの表面に、あらかじめ、プライマーコート剤層、アンダーコート剤層、アンカーコート剤層、接着剤層、あるいは、蒸着アンカーコート剤層等を任意に形成して、表面処理層とすることもできる。上記表面処理層としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンアルイハポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂あるいはその共重合体ないし変性樹脂、セルロ−ス系樹脂、その他等をビヒクルの主成分とする樹脂組成物を使用することができる。
【0048】
2.無機酸化物の蒸着膜
次に、本発明における太陽電池モジュール用表面保護シートを構成する無機酸化物の蒸着膜について説明する。
【0049】
無機酸化物の蒸着膜としては、例えば、物理気相成長法、または、化学気相成長法、あるいは、その両者を併用して、無機酸化物の蒸着膜の1層からなる単層膜あるいは2層以上からなる多層膜または複合膜を形成して製造することができるものである。
【0050】
まず、物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜について説明する。上記物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法(PVD法)を用いて無機酸化物の蒸着膜を形成することができる。具体的には、金属酸化物を原料とし、これを加熱して基材フィルムの上に蒸着する真空蒸着法、または、原料として金属または金属酸化物を使用し、酸素を導入して酸化させて基材フィルムの上に蒸着する酸化反応蒸着法、さらに酸化反応をプラズマで助成するプラズマ助成式の酸化反応蒸着法等を用いて蒸着膜を形成することができる。蒸着材料の加熱方式としては、例えば、抵抗加熱方式、高周波誘導加熱方式、エレクトロンビーム加熱方式(EB)等にて行うことができる。
【0051】
上記物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜の形成方法について、具体例を挙げる。図2は、巻き取り式真空蒸着装置の例を示す概略構成図である。図2に示すように、巻き取り式真空蒸着装置21の真空チャンバー22の中で、巻き出しロール23から繰り出す基材フィルム1は、ガイドロール24、25を介して、冷却したコ−ティングドラム26に案内される。この冷却したコーティングドラム26上に案内された基材フィルム1の上に、るつぼ27で熱せられた蒸着源28、例えば、金属アルミニウム、あるいは、酸化アルミニウム等を蒸発させ、さらに、必要ならば、酸素ガス吹出口29より酸素ガス等を噴出し、これを供給しながら、マスク30を介して、例えば、酸化アルミニウム等の無機酸化物の蒸着膜を製膜化し、次いで、例えば、酸化アルミニウム等の無機酸化物の蒸着膜を形成した基材フィルム1を、ガイドロール31、32を介して送り出し、巻き取りロール33に巻き取ることによって、無機酸化物の蒸着膜を形成することができる。
【0052】
また、上記のような巻き取り式真空蒸着装置を用いて、まず、第1層の無機酸化物の蒸着膜を形成し、次いで、同様にして、この無機酸化物の蒸着膜の上に、さらに、第2層の無機酸化物の蒸着膜を形成するか、あるいは、上記のような巻き取り式真空蒸着装置を用いて、これを2連に連接し、連続的に、無機酸化物の蒸着膜を形成することにより、2層以上の多層膜からなる無機酸化物の蒸着膜を形成することができる。
【0053】
上記物理気相成長法において、無機酸化物の蒸着膜としては、基本的に金属酸化物を蒸着した薄膜であれば使用可能であり、例えば、Si、Al、Mg、Ca、K、Sn、Na、B、Ti、Pb、Zr、Y等の金属の酸化物の蒸着膜を使用することができる。好ましいものとしては、Si、Al等の金属酸化物が挙げられる。
【0054】
上記金属酸化物は、例えば、SiO、AlO、MgO等のようにMO(式中、Mは金属元素を表し、Xの値は金属元素によってそれぞれ範囲が異なる。)で表される。Xの値としては、Siは0〜2、Alは0〜1.5、Mgは0〜1、Caは0〜1、Kは0〜0.5、Snは0〜2、Naは0〜0.5、Bは0〜1.5、Tiは0〜2、Pbは0〜1、Zrは0〜2、Yは0〜1.5の範囲をとることができるが、X=0の場合、完全な金属であり、透明ではないため使用することができない。また、Xの範囲の上限は、完全に酸化した値である。一般的に、Si、Al以外は、使用される例に乏しく、Xの値が、Siは1.0〜2.0、Alは0.5〜1.5の範囲内であることが好ましい。
【0055】
上記無機酸化物の蒸着膜の膜厚は、使用する金属、または金属酸化物の種類等によって異なるが、例えば、50〜4000Åの範囲内が好ましく、より好ましくは、100〜1000Åの範囲内で任意に選択して形成する。上述した範囲未満の場合は、バリア性の効果を奏することが困難になり、上述した範囲より厚い場合は、クラック等が発生し易くなることから、好ましくないものである。
【0056】
また、上記無機酸化物の蒸着膜としては、使用する金属、または金属酸化物としては、1種または2種以上の混合物で使用し、異種の材質で混合した無機酸化物の蒸着膜を構成することもできる。
【0057】
次に、化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜について説明する。上記化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜としては、例えば、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(CVD法)等を用いて無機酸化物の蒸着膜を形成することができる。
【0058】
具体的には、基材フィルムの一方の面に、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリヤーガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、さらに、酸素供給ガスとして、酸素ガス等を使用し、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いて酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を形成する。
【0059】
上記低温プラズマ発生装置としては、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、マイクロ波プラズマ等の発生装置を使用することができ、高活性の安定したプラズマを得るためには、高周波プラズマ方式による発生装置を使用することが好ましい。
【0060】
上記の低温プラズマ化学気相成長法による無機酸化物の蒸着膜の形成方法について具体例を挙げる。図3は、低温プラズマ化学気相成長装置の例を示す概略構成図である。図3に示すように、低温プラズマ化学気相成長装置41の真空チャンバー42内に配置された巻き出しロール43から基材フィルム1を繰り出し、さらに、この基材フィルム1を、補助ロール44を介して所定の速度で冷却・電極ドラム45周面上に搬送する。ガス供給装置46、47および、原料揮発供給装置48等から酸素ガス、不活性ガス、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガス、その他等を供給し、それらからなる蒸着用混合ガス組成物を調整しなから原料供給ノズル49を通して真空チャンバー42内にこの蒸着用混合ガス組成物を導入し、そして、冷却・電極ドラム45周面上に搬送された基材フィルム1の上に、グロ−放電プラズマ50によってプラズマを発生させ、これを照射して、酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を形成し、製膜化する。その際に、冷却・電極ドラム45は、チャンバー外に配置されている電源51から所定の電力が印加されており、また、冷却・電極ドラム45の近傍には、マグネット52を配置してプラズマの発生が促進されている。次いで、酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を形成した基材フィルム1は、補助ロール53を介して巻き取りロ−ル54に巻き取って、無機酸化物の蒸着膜を製造することができるものである。なお、図3中、55は、真空ポンプを表す。
【0061】
また、上記のような低温プラズマ化学気相成長装置を用いて、まず、第1層の無機酸化物の蒸着膜を形成し、次いで、同様にして、この無機酸化物の蒸着膜の上に、さらに、第2層の無機酸化物の蒸着膜を形成するか、あるいは、上記のような低温プラズマ化学気相成長装置を用いて、これを2連に連接し、連続的に、無機酸化物の蒸着膜を形成することにより、2層以上の多層膜からなる無機酸化物の蒸着膜を形成することができる。
【0062】
上記酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を形成する有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスとしては、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、その他等を使用することができる。有機珪素化合物の中でも、その取り扱い性、形成された蒸着膜の特性等の点から、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、または、ヘキサメチルジシロキサンを使用することが好ましい。また、上記不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス等を使用することができる。
【0063】
上記酸化珪素の蒸着膜は、有機珪素化合物等のモノマーガスと酸素ガス等とが化学反応し、その反応生成物が基材フィルムの上に密着し、緻密な、柔軟性等に富む薄膜を形成することができ、通常、一般式SiO(ただし、Xは、0〜2の数を表す)で表される酸化珪素を主体とする連続状の蒸着膜である。中でも、透明性、バリア性等の点から、Xが1.3〜1.9の範囲内である酸化珪素の蒸着膜を主体とする薄膜であることが好ましいものである。Xの値は、モノマーガスと酸素ガスのモル比、プラズマのエネルギー等により変化するが、一般的に、Xの値が小さくなればガス透過度は小さくなるが、膜自身が黄色性を帯び、透明性が悪くなる。
【0064】
また、上記酸化珪素の蒸着膜は、SiとOを必須構成元素として有し、さらに、CとHのいずれか一方、または、その両者の元素を微量構成元素として含有する酸化珪素の蒸着膜からなり、かつ、その膜厚が、50Å〜4000Åの範囲内が好ましく、より好ましくは、100Å〜1000Åの範囲内であり、さらに、上記必須構成元素と微量構成元素の構成比率が、膜厚方向において連続的に変化しているものであることが好ましい。さらに、上記酸化珪素の蒸着膜は、Cからなる化合物を含有する場合には、その膜厚の深さ方向において炭素の含有量が減少していることを特徴とするものである。
【0065】
上記酸化珪素の蒸着膜について、例えば、X線光電子分光装置(Xray Photoelectron Spectroscopy、XPS)、二次イオン質量分析装置(Secondary Ion Mass Spectroscopy、SIMS)等の表面分析装置を用い、深さ方向にイオンエッチングする等して分析する方法を利用して、酸化珪素の蒸着膜の元素分析を行うことより、上述したような物性を確認することができる。
【0066】
また、上記酸化珪素の蒸着膜の膜厚としては、50Å〜4000Åの範囲内が好ましく、より好ましくは、100〜1000Åの範囲内である。上述した範囲より厚くなると、その膜にクラック等が発生し易くなるので好ましくなく、また、上述した範囲未満であると、バリア性の効果を奏することが困難になることから好ましくないものである。上記膜厚は、例えば、株式会社理学製の蛍光X線分析装置(機種名:RIX2000型)を用いて、ファンダメンタルパラメーター法で測定することができる。上記酸化珪素の蒸着膜の膜厚を変更する手段としては、蒸着膜の体積速度を大きくすること、すなわち、モノマーガスと酸素ガス量を多くする方法や蒸着する速度を遅くする方法等によって行うことができる。
【0067】
また、上記無機酸化物の蒸着膜としては、使用する材料も1種または2種以上の混合物で使用し、また、異種の材質で混合した無機酸化物の蒸着膜を構成することもできる。
【0068】
ところで、無機酸化物の蒸着膜として、例えば、物理気相成長法と化学気相成長法の両者を併用して異種の無機酸化物の蒸着膜の2層以上からなる複合膜を形成して使用することもできるものである。
【0069】
異種の無機酸化物の蒸着膜の2層以上からなる複合膜としては、まず、基材フィルムの上に、化学気相成長法により、緻密で、柔軟性に富み、比較的にクラックの発生を防止し得る無機酸化物の蒸着膜を設け、次いで、この無機酸化物の蒸着膜の上に、物理気相成長法による無機酸化物の蒸着膜を設けて、2層以上からなる複合膜からなる無機酸化物の蒸着膜を構成することが好ましい。
【0070】
勿論、上記とは逆に、基材フィルムの上に、先に、物理気相成長法により、無機酸化物の蒸着膜を設け、次に、化学気相成長法により、緻密で、柔軟性に富み、比較的にクラックの発生を防止し得る無機酸化物の蒸着膜を設けて、2層以上からなる複合膜からなる無機酸化物の蒸着膜を構成することもできるものである。
【0071】
3.熱硬化性透明樹脂層
次に、本発明における太陽電池モジュール用表面保護シートを構成する熱硬化性透明樹脂層について説明する。
上記熱硬化性透明樹脂層は、ビニルエステル樹脂と、このビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが−20℃以下となるモノマーと、ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが120℃以上のモノマーとを共重合させてなる樹脂を有するものであることを特徴とするものである。
【0072】
上記ビニルエステル樹脂は、その一部、少なくともビニルエステル樹脂の30重量%以上が、理論分子量が800以上の範囲であること好ましい。可撓性とその他の物性の発現に好ましく、これより分子量が小さくても、また30重量%未満でも硬化物は脆さが目立つようになるからである。
【0073】
また、上記ビニルエステル樹脂の原料であるエポキシ化合物としては、ノボラック系エポキシ化合物とビスフェノール型エポキシ化合物が一般的に利用されているが、本発明においてはビスフェノールA型エポキシ化合物から製造されるビニルエステル樹脂が特に好適に用いられる。ビスフェノール型が本質的にタフさに有利な分子骨格構造を有しているからである。
【0074】
上記ビニルエステル樹脂は、上記エポキシ化合物を原料とせずに、対応するジオール化合物とアクリル酸またはメタクリル酸とのエステル化反応によって製造されるものも利用可能である。
【0075】
上記ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが−20℃以下となるモノマーとしては、例えばイソデシルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、イソアミルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシートリエチレングリコールアクリレート、 フェノキシエチルアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレートイソノニルアクリレート、イソステアリルアクリレート、各種のウレタンアクリレート、エポキシアクリレート等が挙げられる。
【0076】
上記ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが120℃以上となるモノマーとしては、例えばイソボルニルメタクリレート、モルホリンアクリレート、トリシクロデカニルアクリレート、トリシクロデカニルメタクリレート、アクリルアミド、N−ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0077】
なお、ここでいうホモポリマーとした場合のTgは、セイコーインスツルメンツ製 「EXTAR 6000」を用いて、示差走査熱量測定(DSC;Differential Scanning Calorimeter)により測定することができる。
【0078】
本発明に用いられる熱硬化性透明樹脂層は、上記ビニルエステル樹脂と、このビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが−20℃以下となるモノマーと、上記ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが120℃以上のモノマーと、ラジカル重合開始剤とを有する樹脂組成物を硬化させたものである。
【0079】
この樹脂組成物中における、ビニルエステル樹脂成分:ホモポリマーとした場合のTgが−20℃以下のモノマー成分:ホモポリマーとした場合のTgが120℃以上のモノマー成分の構成比率は、全体を100としたとき、重量比で20〜85:10〜45:5〜40の範囲が好ましい。ビニルエステル樹脂成分が、20未満では熱硬化性透明樹脂層のタフさが乏しく、硬化収縮によるクラックが生じやすくなり、85を超えると可撓性の発現が不十分となる。ホモポリマーとした場合のTgが−20℃以下のモノマー成分が、10未満では可撓性の発現が不十分となり、45を超えると強度、弾性率の低下が著しく実用的に不利となる。ホモポリマーとした場合のTgが120℃以上のモノマー成分が、5未満では本発明の目的である強度、弾性率の低下が著しく実用的に問題となり、40を超えると破断伸びの低下が著しくなる。
【0080】
さらに、熱硬化性透明樹脂層は、紫外線吸収剤、光安定化剤、および酸化防止剤を含んでいてもよい。
【0081】
上記紫外線吸収剤の使用量は、上記樹脂組成物において、0.1重量%〜10重量%の範囲内が好ましく、より好ましくは0.3重量%〜10重量%の範囲内で添加する。
【0082】
また、上記光安定化剤の使用量は、上記樹脂組成物において、0.1重量%〜10重量%の範囲内が好ましく、より好ましくは、0.3重量%〜10重量%の範囲内で添加する。
【0083】
なお、上記紫外線吸収剤、および光安定化剤に関する説明は、上述した「1.基材フィルム」に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0084】
上記樹脂組成物には、この他に一般的に用いられているモノマー、オリゴマーを併用して低コスト化を図ったり、硬化性、耐水性、接着性、難燃性等の性質を改良することができる。それらのモノマー、オリゴマーとしては、フェノキシエチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリスーオキシエチレンアクリレート、トリメチロールプロパントリスーオキシエチレンメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセリンジアクリレート、グリセリンジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート等のアクリル酸エステルモノマーやメタクリル酸エステルモノマー;スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル等のその他のビニルモノマーを挙げることができる。また、難燃化のためにこれらのハロゲン置換化合物を利用することもできる。
【0085】
上記樹脂組成物を硬化させるには、従来不飽和ポリエステルで用いられている硬化方法、例えばUV硬化等も採用しうるし、有機過酸化物を用いて加熱硬化することもできる。樹脂組成物に添加するラジカル重合開始剤としては以下のようなものが挙げられる。光重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、ベゾフェノン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モンフォリノプロパノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド等が挙げられる。また、有機過酸化物開始剤としては、ジアルキルパーオキサイド、アシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、パーオキシエステル等公知のものを用いることができる。具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイル)パーオキシヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジブチルパーオキシヘキサンが挙げられる。
【0086】
上記ラジカル重合開始剤の使用量は、上記樹脂組成物に対して0.2〜4重量%の範囲内が好ましい。
【0087】
また、上記樹脂組成物には、硬度、耐久性、耐候性、耐水性等を改良するために、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤の他に、消泡剤、レベリング剤、離型剤、はっ水等の添加剤を加えてさらに一層の性能改善を図ることもできる。
【0088】
上記熱硬化性透明樹脂層の膜厚は、10μm〜200μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは、20μm〜100μmの範囲内である。上述した範囲より厚くなると、硬化速度、および乾燥速度が律速となり、迅速な硬化が困難となり、好ましくなく、また、上述した範囲未満であると、強靭性が低くなることから好ましくないものである。
【0089】
また、本発明に用いられる熱硬化性透明樹脂層は、全光線透過率が87%以上、例えば93%といったアクリル板を凌ぐ性能も実現する。
【0090】
上記熱硬化性透明樹脂層の形成方法に関しては、後述する「B.太陽電池モジュール用表面保護シートの製造方法」に記載するので、ここでの説明は省略する。
【0091】
4.その他
本発明の太陽電池モジュール用表面保護シートの特性について説明する。
本発明の太陽電池モジュール用表面保護シートは、太陽電池モジュールの信頼性試験として用いられる代表的な耐湿熱促進試験条件85℃85%中に、2000h放置後、破断強度維持率は、50%〜120%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、80%〜100%の範囲内である。80%、さらには、50%以上で維持できないと、試験中に太陽電池モジュール用表面保護シートにクラック等が生じやすくなり、太陽電池モジュールに用いた場合、発電効率の劣化が激しくなり、好ましくない。また、破断強度維持率が上記範囲を超えると、太陽電池モジュール用表面保護シートの結晶度が上がり、可撓性が劣り、クラック等が生じやすくなり、太陽電池モジュールに用いた場合、発電効率の劣化が激しくなり、好ましくないものである。
【0092】
また、本発明の太陽電池モジュール用表面保護シートを、太陽電池モジュールの信頼性試験として用いられる代表的な耐湿熱サイクル試験条件85℃85%1時間保持後−40℃1時間保持を10サイクル行った後、破断強度維持率は、50%〜120%の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、80%〜100%の範囲内である。80%、さらには、50%以上で維持できないと、試験中に太陽電池モジュール用表面保護シートにクラック等が生じやすくなり、太陽電池モジュールに用いた場合、発電効率の劣化が激しくなり、好ましくない。また、破断強度維持率が上記範囲を超えると、太陽電池モジュール用表面保護シートの結晶度が上がり、可撓性が劣り、クラック等が生じやすくなり、太陽電池モジュールに用いた場合、発電効率の劣化が激しくなり、好ましくないものである。
【0093】
さらに、本発明の太陽電池モジュール用表面保護シートは、耐湿熱促進試験条件85℃85%中に2000h放置後、および耐湿熱サイクル試験条件85℃85%1時間保持後−40℃1時間保持を10サイクル行った後のいずれにおいても、破断強度維持率が初期値の50%〜120%の範囲内、特に80%〜100%の範囲内であることが好ましい。
【0094】
B.太陽電池モジュール用表面保護シートの製造方法
次に、本発明における太陽電池モジュール用表面保護シートの製造方法について説明する。
本発明における太陽電池モジュール用表面保護シートの製造方法は、基材フィルムと、この基材フィルム上に形成された熱硬化性透明樹脂層とを有する太陽電池モジュール用表面保護シートの製造方法であって、この熱硬化性透明樹脂層が、基材フィルムの少なくとも一方の面に、ビニルエステル樹脂と、このビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが−20℃以下となるモノマーと、上記ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが120℃以上のモノマーと、ラジカル重合開始剤とを含む樹脂組成物をキャスティングし、その後重合させてフィルム状に形成されるものであることを特徴とするものである。
【0095】
上記樹脂組成物を調製するには、各種の一般的に知られている混合用機器を使用し、なるべく均一に混合させるのが好ましい。調製する際は、全ての成分を均一混合してから、最後にラジカル重合開始剤を加えて混合するのが好ましい。
【0096】
また、上記樹脂組成物には、必要に応じて溶剤を使用することができる。溶剤を使用すれば製造加工性が向上し好ましい。溶剤としては、具体的に、 トルエン、キシレン、シクロヘキサノン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、イソプロパノール、ブタノール、ジイソプロピルエーテル、メトキシ−トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトニトリル、2−イソプロポキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、1−エトキシ−2−プロパノール等が挙げられる。
【0097】
上記樹脂組成物の基材フィルムへのキャスティング方法は、樹脂組成物が薄膜状に形成されれば特に限定されるものではない。具体的には、グラビアダイレクトコート法、グラビアリバースコート法、オフセットグラビアコート法、マイクログラビアコート法、スリットリバースコート法、コンマコート法、ロッドコート法、ダイコート法、押し出しコート法等が挙げられる。
【0098】
上記樹脂組成物を硬化させるには、従来不飽和ポリエステルで用いられている硬化方法、例えばUV硬化等も採用しうるし、有機過酸化物を用いて加熱硬化することもできる。また、上記樹脂組成物を薄膜状形態にした後、加熱または高エネルギー線を照射して重合開始剤が生成するラジカルにより、迅速に硬化させることができる。
【0099】
加熱硬化の条件としては、有機過酸化物の種類に応じて最適温度を選定する。一例を挙げてみると、有機過酸化物として、1,1,3,3−トリメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネートを使用するとき、130℃で3分間キュアーすることで完全な硬化が実施できる。また、例えばUV硬化開始剤として、2−ヒドロキシ−2−メチルフェニル−プロパン−1−オンを使用すると、常温で高圧水銀灯の照射装置を用いて10秒間程度の処理で硬化を完了することができる。
【0100】
なお、本発明の太陽電池モジュール用表面保護シートにおける各部材に関する説明は、上述した「A.太陽電池モジュール用表面保護シート」の各項目に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0101】
C.太陽電池モジュール
本発明の太陽電池モジュール用表面保護シートを使用して製造した太陽電池モジュールについて図面を用いて説明する。図4は、図1に示す太陽電池モジュール用表面保護シートAを使用して製造した太陽電池モジュールの例を示す概略断面図である。図4に示すように、図1に示す太陽電池モジュール用表面保護シートAを太陽電池モジュール用表面保護シート11として使用し、順次に、充填剤層12、光起電力素子としての太陽電池素子13、充填剤層14、および、通常の太陽電池モジュール用裏面保護シート層15等を積層し、次いで、これらを一体として、真空吸引して加熱圧着するラミネ−ション法等の通常の成形法を利用し、各層を一体成形体として太陽電池モジュールTを製造することができる。
【0102】
また、上記太陽電池モジュールにおいては、太陽光の吸収性、補強、その他等の目的のもとに、さらに、他の層を任意に加えて積層することができるものである。
【0103】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0104】
以下に実施例を示し、本発明をさらに説明する。
[実施例1]
(基材フィルムへの無機酸化物の蒸着膜の形成)
基材フィルムとして、両面にコロナ処理面を形成した厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、これをプラズマ化学気相成長装置の送り出しロールに装着し、この2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方のコロナ処理面に、下記の条件で厚さ800Åの酸化珪素の蒸着膜を形成した。
【0105】
<蒸着条件>
反応ガス混合比: ヘキサメチルジシロキサン:酸素ガス:ヘリウム=1:10:10(単位:slm)
真空チャンバー内の真空度: 5.0×10−6mbar
蒸着チャンバー内の真空度: 6.0×10−2mbar
冷却・電極ドラム供給電力: 20KW
フィルムの搬送速度: 80m/分
【0106】
(無機酸化物の蒸着膜付き基材フィルムへの熱硬化性透明樹脂層の形成)
紫外線吸収剤としてベンゾフェノン系紫外線吸収剤(1重量%)と、光安定化剤としてヒンダードアミン系光安定化剤(3重量%)とを添加した熱硬化性樹脂組成物(昭和高分子株式会社製、商品名:リゴライト500)を、上記の無機酸化物の蒸着膜付き基材フィルムの無機酸化物の蒸着膜の面にグラビアロールコート法により、膜厚が30.0g/m(乾燥状態)になるようにコーティングし、130℃で5分間加熱し硬化せしめて厚さ30μmの透明なシートを成型し、熱硬化性透明樹脂層を形成した。これら一連の操作により、太陽電池モジュール用表面保護シートを得た。
【0107】
[実施例2]
(基材フィルムへの無機酸化物の蒸着膜の形成)
実施例1と同様にして、基材フィルム上に無機酸化物の蒸着膜を形成した。
【0108】
(無機酸化物の蒸着膜付き基材フィルムへの熱硬化性透明樹脂層の形成)
紫外線吸収剤としてベンゾフェノン系紫外線吸収剤(1重量%)と、光安定化剤としてヒンダードアミン系光安定化剤(3重量%)とを添加した熱硬化性樹脂組成物(昭和高分子株式会社製、商品名:リゴライト500)を、上記の無機酸化物の蒸着膜付き基材フィルムの無機酸化物の蒸着膜の面にグラビアロールコート法により、膜厚が100.0g/m(乾燥状態)になるようにコーティングし、130℃で5分間加熱し硬化せしめて厚さ100μmの透明なシートを成型し、熱硬化性透明樹脂層を形成した。これら一連の操作により、太陽電池モジュール用表面保護シートを得た。
【0109】
[実施例3]
(基材フィルムへの無機酸化物の蒸着膜の形成)
実施例1と同様にして、基材フィルム上に無機酸化物の蒸着膜を形成した。
【0110】
(無機酸化物の蒸着膜付き基材フィルムへの熱硬化性透明樹脂層の形成)
紫外線吸収剤としてベンゾフェノン系紫外線吸収剤(1重量%)と、光安定化剤としてヒンダードアミン系光安定化剤(3重量%)とを添加した熱硬化性樹脂組成物(昭和高分子株式会社製、商品名:リゴライト300)を、上記の無機酸化物の蒸着膜付き基材フィルムの無機酸化物の蒸着膜の面にグラビアロールコート法により、膜厚が30.0g/m(乾燥状態)になるようにコーティングし、130℃で5分間加熱し硬化せしめて厚さ30μmの透明なシートを成型し、熱硬化性透明樹脂層を形成した。これら一連の操作により、太陽電池モジュール用表面保護シートを得た。
【0111】
[実施例4]
基材フィルムとして、両面にコロナ処理面を形成した厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用した。基材フィルム上に、紫外線吸収剤としてベンゾフェノン系紫外線吸収剤(1重量%)と、光安定化剤としてヒンダードアミン系光安定化剤(3重量%)とを添加した熱硬化性樹脂組成物(昭和高分子株式会社製、商品名:リゴライト500)を、グラビアロールコート法により、膜厚が30.0g/m(乾燥状態)になるようにコーティングし、130℃で5分間加熱し硬化せしめて厚さ30μmの透明なシートを成型し、熱硬化性透明樹脂層を形成した。これにより、太陽電池モジュール用表面保護シートを得た。
【0112】
[比較例1]
実施例1と同様にして、基材フィルム上に無機酸化物の蒸着膜を形成した。これにより、太陽電池モジュール用表面保護シートを得た。
【0113】
[比較例2]
実施例1と同様にして、基材フィルム上に無機酸化物の蒸着膜を形成した。次に、厚さ30μmのポリエチレンテレフタレートフィルムと、上記の無機酸化物の蒸着膜付き基材フィルムの無機酸化物の蒸着膜の面とをポリウレタン系の2液型接着剤によりドライラミネートした。ドライラミネート条件は、接着剤(東洋モートン社製、商品名:AD−76P1)と硬化剤(東洋モートン社製、商品名:CAT−10)を100部:6.5部の割合で用い、塗布量は固形分で5g/mである。これにより、太陽電池モジュール用表面保護シートを得た。
【0114】
[評価]
上記実施例1から実施例4、および比較例1、比較例2により得られた太陽電池モジュール用表面保護シートについて、(1)耐湿熱促進試験後引っ張り強度維持率、(2)耐湿熱サイクル試験後引っ張り強度維持率、(3)出力低下率、(4)水蒸気透過率、および(5)全光線透過率を以下の条件で測定した。結果を表1にまとめる。
【0115】
(1)耐湿熱促進試験後引っ張り強度維持率の測定条件
これは、温度85℃、湿度85%、2000hの環境試験を実施し、試験前後での引っ張り強度の比較評価を行い、試験前の引っ張り強度を100%としたときの試験後の引っ張り強度維持率を測定したものである。太陽電池モジュール用表面保護シートを15mm巾に裁断し、A&D株式会社製の引っ張り試験機(機種名:テンシロン)を用いて測定した。
【0116】
(2)耐湿熱サイクル試験後引っ張り強度維持率の測定条件
これは、温度85℃、湿度85%、1h保持後、温度−40℃1h保持する温湿サイクル試験を10サイクル実施し、試験前後での引っ張り強度の比較評価を行い、試験前の引っ張り強度を100%としたときの試験後の引っ張り強度維持率を測定したものである。太陽電池モジュール用表面保護シートを15mm巾に裁断し、A&D株式会社製の引っ張り試験機(機種名:テンシロン)を用いて測定した。
【0117】
(3)出力低下率の測定条件
JIS規格C8917−1989に基づいて、太陽電池モジュール用表面保護シートを用いた太陽電池モジュールの環境試験を行い、試験前後の光起電力の出力を測定した。
【0118】
(4)水蒸気透過率の測定条件
太陽電池モジュール用表面保護シートについて、温度40℃、湿度90%RHの条件で、MOCON社製の測定機(機種名:PERMATRAN)を使用して測定した。
【0119】
(5)全光線透過率の測定条件
太陽電池モジュール用表面保護シートについて、カラーコンピューターを使用して全光線透過率を測定した。
【0120】
【表1】

【0121】
表1から明らかなように、実施例の太陽電池モジュール用表面保護シートは、比較例のものに対して、耐湿熱促進試験後引っ張り強度維持率、耐湿熱サイクル試験後引っ張り強度維持率、全光線透過率に優れていた。さらに、実施例1〜3の太陽電池モジュール用表面保護シートは、水蒸気透過率が低く、かつ、これらを太陽電池モジュールに用いた場合、出力低下率が低いという利点を有した。
【0122】
また、比較例1、2の太陽電池モジュール用表面保護シートは、水蒸気透過率、全光線透過率に優れているものの、耐湿熱促進試験後引っ張り強度維持率、耐湿熱サイクル試験後引っ張り強度維持率が低く、そのために、それを用いてなる太陽電池モジュールは、出力低下率が高い等の問題点があるものであった。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明における太陽電池モジュール用表面保護シートの一例を示す概略断面図である。
【図2】巻き取り式真空蒸着装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】低温プラズマ化学気相成長装置の一例を示す概略構成図である。
【図4】本発明における太陽電池モジュール用表面保護シートを使用して製造した太陽電池モジュールの一例示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0124】
A … 太陽電池モジュール用表面保護シート
1 … 基材フィルム
2 … 無機酸化物の蒸着膜
3 … 熱硬化性透明樹脂層
T … 太陽電池モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、前記基材フィルム上に形成された熱硬化性透明樹脂層とを有する太陽電池モジュール用表面保護シートであって、
前記熱硬化性透明樹脂層が、ビニルエステル樹脂と、前記ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが−20℃以下となるモノマーと、前記ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが120℃以上のモノマーとを共重合させてなる樹脂を有するものであることを特徴とする太陽電池モジュール用表面保護シート。
【請求項2】
前記熱硬化性透明樹脂層が、さらに、紫外線吸収剤、光安定化剤、および酸化防止剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の太陽電池モジュール用表面保護シート。
【請求項3】
基材フィルムと、前記基材フィルム上に形成された熱硬化性透明樹脂層とを有する太陽電池モジュール用表面保護シートであって、
前記太陽電池モジュール用表面保護シートが、耐湿熱促進試験条件85℃85%中に2000h放置後、および耐湿熱サイクル試験条件85℃85%1時間保持後−40℃1時間保持を10サイクル行った後のいずれにおいても、破断強度を初期値の50%〜120%の範囲内で維持できることを特徴とする太陽電池モジュール用表面保護シート。
【請求項4】
前記太陽電池モジュール用表面保護シートが、耐湿熱促進試験条件85℃85%中に2000h放置後、および耐湿熱サイクル試験条件85℃85%1時間保持後−40℃1時間保持を10サイクル行った後のいずれにおいても、破断強度を初期値の50%〜120%の範囲内で維持できることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の太陽電池モジュール用表面保護シート。
【請求項5】
前記基材フィルムの少なくとも一方の面に、無機酸化物の蒸着膜を設け、さらに、前記無機酸化物の蒸着膜を設けた基材フィルムの少なくとも一方の面に、前記熱硬化性透明樹脂層を設けることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の太陽電池モジュール用表面保護シート。
【請求項6】
前記無機酸化物の蒸着膜の膜厚が、50Å〜4000Åの範囲内であることを特徴とする請求項5に記載の太陽電池モジュール用表面保護シート。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の太陽電池モジュール用表面保護シートを用いてなることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項8】
基材フィルムと、前記基材フィルム上に形成された熱硬化性透明樹脂層とを有する太陽電池モジュール用表面保護シートの製造方法であって、
前記熱硬化性透明樹脂層が、前記基材フィルムの少なくとも一方の面に、ビニルエステル樹脂と、前記ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが−20℃以下となるモノマーと、前記ビニルエステル樹脂と共重合性を有し、かつホモポリマーとした場合のTgが120℃以上のモノマーと、ラジカル重合開始剤とを含む樹脂組成物をキャスティングし、その後重合させてフィルム状に形成されるものであることを特徴とする太陽電池モジュール用表面保護シートの製造方法。
【請求項9】
前記熱硬化性透明樹脂層の膜厚が、10μm〜200μmの範囲内であることを特徴とする請求項8に記載の太陽電池モジュール用表面保護シートの製造方法。
【請求項10】
前記樹脂組成物を重合させる際に、加熱または高エネルギー線を照射して、重合開始剤が生成するラジカルにより硬化させることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の太陽電池モジュール用表面保護シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−257144(P2006−257144A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73064(P2005−73064)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】