説明

太陽電池及びその電極形成用導電性ペースト

【課題】結晶系シリコン太陽電池の太陽電池基板と、インターコネクト用の金属リボンとの間に高い接着強度を得ることのできる、結晶系シリコン太陽電池の表面電極及び裏面電極形成用の導電性ペーストを得る。
【解決手段】銀を含む導電性粒子と、酸化バナジウム粒子とを含む、太陽電池の電極形成用導電性ペーストである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の電極形成用導電性ペースト、特に単結晶シリコン又は多結晶シリコン等の結晶系シリコンを基板として用いた結晶系シリコン太陽電池の表面又は裏面電極形成用導電性ペースト、その電極形成用導電性ペーストを用いる太陽電池の製造方法及びその製造方法によって製造される太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶シリコンあるいは多結晶シリコンを平板状に加工した結晶系シリコンを基板に用いた結晶系シリコン太陽電池は、近年、その生産量が大幅に増加している。これらの太陽電池は、発電した電力を取り出すための電極を有する。
【0003】
一例として、結晶系シリコン太陽電池の断面模式図を図1に示す。結晶系シリコン太陽電池では、一般に、p型結晶系シリコン基板4の光入射側である表面にn型拡散層(n型シリコン層)3を形成する。n型拡散層3の上には、反射防止膜2を形成する。さらに、スクリーン印刷法などによって導電性ペーストを用いて光入射側電極1(表面電極)のパターンを反射防止膜2上に印刷し、導電性ペーストを乾燥及び焼成することによって光入射側電極1が形成される。この焼成の際、導電性ペーストが反射防止膜2をファイアースルーすることによって、光入射側電極1は、n型拡散層3に接触するように形成することができる。なお、ファイアースルーとは、絶縁膜である反射防止膜を導電性ペーストに含まれるガラスフリット等でエッチングし、光入射側電極1とn型拡散層3とを導通させることである。p型シリコン基板4の裏面側からは光を入射させなくてもよいため、一般に、ほぼ全面に裏面電極5を形成する。p型シリコン基板4とn型拡散層3の界面にはpn接合が形成されている。太陽光等の光は、反射防止膜2及びn型拡散層3を透過して、p型シリコン基板4に入射し、この過程で吸収され、電子−正孔対が発生する。これらの電子−正孔対は、pn接合による電界によって、電子は光入射側電極1へ、正孔は裏面電極5へと分離される。電子及び正孔は、これらの電極を介して、電流として外部に取り出される。
【0004】
結晶系シリコン太陽電池において、変換効率等の太陽電池特性に及ぼす電極の影響は大きく、特に光入射側電極の影響は非常に大きい。この光入射側電極は、n型拡散層との界面での接触抵抗が十分に低く、オーミックに電気的接触することが必要である。また、電極自体の電気抵抗も十分に低いことが必要であり、したがって、電極材料自体の抵抗(導体抵抗)が低いことも重要となる。また、生産性の向上及び長寿命化のためには、電極材料にはんだ付けされるインターコネクト用の金属リボンの接着強度が高いことがさらに重要である。
【0005】
従来の太陽電池、特に結晶系シリコン太陽電池の電極形成には、導電性粒子、ガラスフリット、有機バインダ、溶剤及びその他の添加物を含む導電性ペーストが用いられている。導電性粒子としては、主に銀粒子を用いる。このような導電性ペーストを用いる例として、特許文献1には、銀粉末と、有機質ビヒクルと、ガラスフリットと、ホウ素粉末、無機ホウ素化合物及び有機ホウ素化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種とを含む導電性ペーストを用いてp型導電層上に電極を形成する太陽電池の製造方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、a)導電性銀粉末と、b)Zn含有添加剤と、c)鉛フリーである1種又は複数のガラスフリットとが、d)有機媒体中に分散されていることを特徴とする厚膜導電性組成物が開示されている。特許文献1には、この厚膜導電性組成物に、(a)Zn、Gd、Ce、Zr、Ti、Mn、Sn、Ru、Co、Fe、Cu、及びCrから選択された金属と、(b)Gd、Ce、Zr、Ti、Mn、Sn、Ru、Co、Fe、Cu、及びCrから選択された1種又は複数の金属の金属酸化物と、(c)焼成によって(b)の金属酸化物を生成することができる任意の化合物と、(d)これらの混合物とから選択された、追加の金属/金属酸化物添加剤をさらに含むことが記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、無機のガラス状又は結晶性の表面をエッチングするための非ニュートン流動性を有する、プリント可能、均質な、粒子を含まないエッチング媒体が記載されている。また、特許文献3には、このエッチング媒体が、マンガン及びバナジウム等からなる群から選ばれる元素を含むガラスの表面のためのエッチング媒体であることが記載されている。また、特許文献3には、そのエッチング媒体が、太陽電池など酸化シリコン及び窒化シリコン−ベースのガラス層等のエッチング工程に用いることができることが記載されている。
【0008】
また、特許文献4には、混合物から作成されるコンタクトを含む太陽電池であって、焼成の前に、該混合物が、a.固体部分と、b.有機部分と、を含み、c.該固体部分が、i.導電性金属成分約85〜約99重量%と、ii.ガラス成分約1〜約15重量%と、を含み、該ガラス成分が鉛を含まないことを特徴とする太陽電池が記載されている。また、ガラス成分(ペーストガラス)には、Vが含まれることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−93433号公報
【特許文献2】特開2006−332032号公報
【特許文献3】特表2003−531807号公報
【特許文献4】特表2008−543080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
結晶系シリコン太陽電池において、結晶系シリコン太陽電池セル間の電気的接続は、インターコネクト用の金属リボンを太陽電池セルに形成された電極にはんだ付けすることにより行われている。したがって、結晶系シリコン太陽電池の初期不良を無くし、太陽電池特性を長期に渡って安定した高さに維持するためには、インターコネクト用の金属リボンの太陽電池基板に対する接着強度が高いことが必要である。
【0011】
そこで、本発明は、結晶系シリコン太陽電池の太陽電池基板と、太陽電池基板に太陽電池の表面電極及び裏面電極を介してはんだ付けされたインターコネクト用の金属リボンとの間の接着強度が高い太陽電池を得ることを目的とする。また、本発明は、結晶系シリコン太陽電池の太陽電池基板と、インターコネクト用の金属リボンとの間に高い接着強度を得ることのできる、結晶系シリコン太陽電池の電極形成用の導電性ペーストを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、銀を含む導電性粒子と、酸化バナジウム粒子とを含む、太陽電池の電極形成用導電性ペーストである。
【0013】
本発明の電極形成用導電性ペーストの好ましい態様を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることができる。
(1)酸化バナジウム粒子を、導電性ペースト100重量部に対し、0.01〜0.3重量部含む。
(2)酸化マンガン粒子をさらに含む。
(3)酸化マンガン粒子を、導電性ペースト100重量部に対し、0.01〜0.5重量部含む。
(4)太陽電池が、単結晶シリコン太陽電池又は多結晶シリコン太陽電池である。
【0014】
また、本発明は、太陽電池基板上に、電極形成する工程を含む太陽電池の製造方法であって、電極形成する工程が、上述の電極形成用導電性ペーストを、太陽電池用基板の表面電極、裏面電極並びに/又は表面電極上及び/若しくは裏面電極上のはんだ付け用パッド部を形成するために印刷する工程と、電極形成用導電性ペーストを乾燥し、焼成する工程とを含む、太陽電池の製造方法である。
【0015】
また、本発明は、上述の製造方法で製造される太陽電池である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、結晶系シリコン太陽電池の太陽電池基板と、太陽電池基板に太陽電池の表面電極及び裏面電極を介してはんだ付けされたインターコネクト用の金属リボンとの間の接着強度が高い太陽電池を得ることができる。また、本発明により、結晶系シリコン太陽電池の太陽電池基板と、インターコネクト用の金属リボンとの間に高い接着強度を得ることのできる、結晶系シリコン太陽電池の電極形成用の導電性ペーストを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】結晶系シリコン太陽電池の電極形成用導電性ペーストの焼成直前の表面電極付近の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書では、「結晶系シリコン」は単結晶又は多結晶シリコンを包含する。また、「結晶系シリコン基板」は、電気素子又は電子素子の形成のために、結晶系シリコンを平板状など、素子形成に適した形状に成形した材料のことをいう。結晶系シリコンの製造方法は、どのような方法を用いても良い。例えば、単結晶シリコンの場合にはチョクラルスキー法、多結晶シリコンの場合にはキャスティング法を用いることができる。また、その他の製造方法、例えばリボン引き上げ法により作製された多結晶シリコンリボン、ガラス等の異種基板上に形成された多結晶シリコンなども結晶系シリコン基板として用いることができる。また、「結晶系シリコン太陽電池」とは、結晶系シリコン基板を用いて作製された太陽電池のことをいう。また、太陽電池特性を表す指標として、光照射下での電流−電圧特性の測定から得られる曲線因子(フィルファクター、以下、「FF」ともいい、フィルファクターの値を「FF値」という)を用いる。
【0019】
本発明は、結晶系シリコン太陽電池の太陽電池基板と、太陽電池基板に太陽電池の表面電極及び裏面電極を介してはんだ付けされたインターコネクト用の金属リボンとの間の接着強度が高い太陽電池を得ることを目的とする。本発明の発明者らが鋭意努力をした結果、太陽電池の電極形成用導電性ペーストが酸化バナジウム粒子を含むことによって、インターコネクト用の金属リボンの太陽電池基板に対する接着強度(以下、「リボン接着強度」ともいう)が高くなることを見出し、本発明に至った。なお、酸化バナジウム粒子は、ガラスフリットとは別の粒子として添加することが、高いリボン接着強度を得るために必要である。以下、本発明の電極形成用導電性ペーストについて、詳しく説明する。
【0020】
本発明の電極形成用導電性ペーストは、結晶系シリコン太陽電池のn型シリコン層への電極を形成するための、銀を主要成分とした導電性ペーストである。本発明の電極形成用導電性ペーストは、酸化バナジウム粒子を含むことを特徴とする。酸化バナジウムとしては、どのような価数のものであっても用いることができるが、大気中で安定であることから五酸化バナジウム(V)を用いることが好ましい。本発明の電極形成用導電性ペーストは、ガラスフリット、有機バインダ、溶剤及びその他の添加物を、必要に応じてさらに含むことができる。
【0021】
本発明の電極形成用導電性ペーストにおいて、酸化バナジウム粒子の添加量は、導電性ペースト100重量部に対して0.01〜0.3重量部であることが好ましく、0.02〜0.3重量部であることがより好ましく、0.02〜0.2重量部であることがさらに好ましい。酸化バナジウム粒子の添加量が、導電性ペースト100重量部に対して0.01重量部未満である場合には、十分なリボン接着強度を得ることが困難である。また、酸化バナジウム粒子の添加量が、導電性ペースト100重量部に対して0.3重量部を超えると、太陽電池の特性(FF)が低下する傾向にある。
【0022】
本発明の電極形成用導電性ペーストは、酸化マンガン粒子をさらに含むことが好ましい。酸化マンガン粒子をさらに含む導電性ペーストを用いた場合には、長期に渡る高いリボン接着強度の安定性を得ることができるためである。酸化マンガンとしては、どのような価数のものでも用いることができるが、長期に渡る高いリボン接着強度の安定性を確実に得ることができる点から二酸化マンガン(MnO)を用いることが好ましい。
【0023】
本発明の電極形成用導電性ペーストにおいて、長時間過酷な環境に暴露された場合にも高いリボン接着強度を得るために、酸化マンガン粒子の添加量は、導電性ペースト100重量部に対して0.01〜0.5重量部であることが好ましく、0.015〜0.2重量部であることがより好ましく、0.02〜0.1重量部であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の電極形成用導電性ペーストに含まれる導電性粒子の主要成分は、銀である。本発明の電極形成用導電性ペーストには、太陽電池電極の性能が損なわれない範囲で、銀以外の他の金属を含むことができる。しかし、低い電気抵抗及び高い信頼性を得る点から、導電性粒子は銀からなることが好ましい。
【0025】
導電性粒子の粒子形状及び粒子寸法は、特に限定されない。粒子形状としては、例えば、球状及びリン片状等のものを用いることができる。粒子寸法は、一粒子の最長の長さ部分の寸法をいう。導電性粒子の粒子寸法は、作業性の点等から、0.05〜20μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることがさらに好ましい。
【0026】
一般的に、微小粒子の寸法は一定の分布を有するので、全ての粒子が上記の粒子寸法である必要はなく、全粒子の積算値50%の粒子寸法(D50)が上記の粒子寸法の範囲であることが好ましい。また、粒子寸法の平均値(平均粒子寸法)が、上記範囲にあってもよい。本明細書に記載されている導電性粒子以外の粒子についても同様である。
【0027】
本発明の電極形成用導電性ペーストに含まれるガラスフリットは、Pbを含むガラスフリットであっても良く、またPbフリー系ガラスフリットであってもよい。本発明の電極形成用導電性ペーストでは、ガラスフリットの種類に関係なく、ガラスフリットとは別の粒子として、酸化バナジウム粒子又は酸化バナジウム粒子及び酸化マンガン粒子を添加することにより、高い強度を得ることができる。
【0028】
本発明の電極形成用導電性ペーストに含まれることができるPbを含むガラスフリットは、PbO−SiO−B系及びBi−PbO−SiO−B系等を例示することができる。
【0029】
また、本発明の電極形成用導電性ペーストに含まれることができるガラスフリットとして、Pbフリー系ガラスフリット(例えばBi−B−SiO−CeO−LiO−NaO系及びSiO−B−LiO系等)を用いることができるが、それらに限定されるものではない。ガラスフリットの形状は特に限定されず、例えば球状、不定形等のものを用いることができる。また、粒子寸法も特に限定されないが、作業性の点等から、粒子寸法の平均値(平均粒子寸法)は0.01〜10μmの範囲が好ましく、0.05〜1μmの範囲がさらに好ましい。なお、粒子寸法とは、一粒子の最長の長さ部分の寸法をいう。本発明の電極形成用導電性ペーストへのガラスフリットの添加量は、導電性粒子100重量部に対し、通常0.1〜10重量部であり、好ましくは1〜5重量部である。
【0030】
本発明の電極形成用導電性ペーストは、ZnOを含むことができる。本発明の電極形成用導電性ペーストへのZnOの添加量は、導電性粒子100重量部に対し、通常0.1〜20重量部であり、好ましくは5〜10重量部である。本発明の電極形成用導電性ペーストは、ZnOを含むことによって、リボン接着強度の安定性を確実にすることができる。
【0031】
本発明の電極形成用導電性ペーストは、有機バインダ及び溶剤を含むことができる。有機バインダ及び溶剤は、導電性ペーストの粘度調整等の役割を担うものであり、いずれも特に限定されない。有機バインダを溶剤に溶解させて使用することもできる。
【0032】
有機バインダとしては、セルロース系樹脂(例えばエチルセルロース、ニトロセルロース等)、(メタ)アクリル系樹脂(例えばポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート等)を用いることができる。有機バインダの添加量は、導電性粒子100重量部に対し、通常0.5〜30重量部であり、好ましくは1〜5重量部である。
【0033】
溶剤としては、アルコール類(例えばターピネオール、α−ターピネオール、β−ターピネオール等)、エステル類(例えばヒドロキシ基含有エステル類、2,2,4―トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチラート、ブチルカルビトールアセテート等)を使用することができる。溶剤の添加量は、導電性粒子100重量部に対し、通常0.5〜30重量部であり、好ましくは10〜25重量部である。
【0034】
さらに、本発明の電極形成用導電性ペーストには、添加剤として、可塑剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、安定剤、密着促進剤などを、必要に応じて配合することができる。これらのうち、可塑剤としては、フタル酸エステル類、グリコール酸エステル類、リン酸エステル類、セバチン酸エステル類、アジピン酸エステル類、クエン酸エステル類などを用いることができる。
【0035】
次に、本発明の電極形成用導電性ペーストの製造方法について説明する。本発明の電極形成用導電性ペーストは、有機バインダ及び溶剤に対して、導電性粒子及び酸化バナジウム粒子を添加し、好ましくはさらに酸化マンガン粒子を添加し、さらに必要に応じてガラスフリットを添加し、混合し、分散することにより製造することができる。
【0036】
混合は、例えばプラネタリーミキサーで行なうことができる。また、分散は、三本ロールミルによって行なうことができる。混合及び分散は、これらの方法に限定されるものではなく、公知の様々な方法を使用することができる。
【0037】
次に、図1を用いて、本発明の電極形成用導電性ペーストを用いた結晶系シリコン太陽電池の製造方法について説明する。
【0038】
図1は、表面電極1付近の導電性ペースト焼成直前の断面模式図を示す。図1に示す結晶系シリコン太陽電池は、光入射側に形成された表面電極1、反射防止膜2、n型拡散層(n型シリコン層)3、p型シリコン基板4、裏面電極5を有する。
【0039】
本発明の太陽電池の製造方法では、上述の本発明の電極形成用導電性ペーストを、太陽電池用基板の表面電極、裏面電極並びに/又は表面電極上及び/若しくは裏面電極上のはんだ付け用パッド部を形成するために印刷する工程を含む。
【0040】
本発明の電極形成用導電性ペーストは、表面電極1及び裏面電極5のどちらを形成する場合においても用いることができる。すなわち、本発明の電極形成用導電性ペーストは、n型シリコン表面及びp型シリコン表面の両方の電極形成用に用いることができる。本発明の電極形成用導電性ペーストを、単結晶シリコン又は多結晶シリコンの太陽電池用基板の表面電極1を形成するために用いる場合には、シリコン基板のn型シリコン層上に直接印刷してもよいし、n型拡散層(n型シリコン層)3上の反射防止膜2上に印刷することもできる。本発明の電極形成用導電性ペーストを、反射防止膜2上に印刷する場合には、後の焼成の際に導電性ペーストが反射防止膜2をファイアースルーし、n型拡散層3上に表面電極1が形成される。
【0041】
また、本発明の電極形成用導電性ペーストは、太陽電池用基板の表面電極1上及び裏面電極5上の少なくとも一つの電極上に、はんだ付け用パッド部を形成する場合にも用いることができる。したがって、本発明の電極形成用導電性ペーストは、太陽電池用基板の表面電極1、裏面電極5、表面電極1上のはんだ付け用パッド部及び裏面電極5上のはんだ付け用パッド部の少なくとも一つを形成するために用いることができる。
【0042】
なお、高い光電変換効率を得るという観点から、結晶系シリコン基板の光入射側の表面には、ピラミッド状のテクスチャ構造を有することが好ましい。
【0043】
図1に示す構造のものを製造するために、本発明の電極形成用導電性ペーストを、スクリーン印刷法等の方法で、表面にn型拡散層3を有する結晶系シリコン基板上、又はn型拡散層3上に形成された反射防止膜2上に電極パターンを印刷する。
【0044】
また、はんだ付け用パッド部の形成の場合には、太陽電池用基板上の表面電極1上又は/及び裏面電極5上に所定のパッドパターンとなるように、本発明の電極形成用導電性ペーストを印刷する。
【0045】
本発明の太陽電池の製造方法では、上述のように印刷した電極形成用導電性ペーストを乾燥し、焼成する工程を含む。すなわち、まず、印刷した電極パターンを、100〜150℃程度の温度で数分間(例えば5分間)乾燥する。同様に、裏面に対しても本発明の電極形成用導電性ペースト又はその他の導電性ペースト(例えば、アルミニウムを主成分とした導電性ペースト)をほぼ全面に印刷し、乾燥することによって、図1に示す構造のものを得る。
【0046】
その後、図1に示す構造のものを、管状炉などの炉を用いて大気中で、500〜850℃程度の温度で0.5〜3分間焼成して、光入射側の表面電極1及び裏面電極5を形成する。反射防止膜2上に本発明の電極形成用導電性ペーストを印刷した場合には、焼成中に高温のペースト材料が反射防止膜2をファイアースルーするために、表面電極1とシリコン基板上のn型拡散層3を電気的に接続することができる。なお、焼成条件は、上記に限定されず、適宜選択できる。
【0047】
全裏面電極型(いわゆるバックコンタクト構造)や、光入射側電極を基板に設けた貫通孔を通じて裏面に導通させる構造の太陽電池においても、本発明の電極形成用導電性ペーストを用いて電極を形成することができる。
【0048】
以上、p型シリコン基板を用いた太陽電池の例について説明したが、n型シリコン基板を用いた結晶系シリコン太陽電池の場合でも、拡散層を形成する不純物をリンなどのn型不純物からホウ素などのp型不純物へ変更し、n型拡散層の代わりにp型拡散層を形成することが異なるだけで、同様のプロセスによって本発明の電極形成用導電性ペーストを用いた太陽電池を製造することができる。
【0049】
本発明の電極形成用導電性ペーストを用いると、インターコネクト用の金属リボンの太陽電池基板に対する接着強度が高くなるので、優れた太陽電池特性を有する長い寿命の太陽電池を得ることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
<導電性ペーストの材料及び調製割合>
実験例に用いた導電性ペーストの組成は、下記のとおりである。
・導電性粒子 :Ag(100重量部)
球状、BET値1.0〜1.2m/g。
・有機バインダ :エチルセルロース(3重量部)。
・溶剤 :エステルアルコール(13重量部)。
・ガラスフリット:Pb系ガラスフリット(PbO−B−SiO)(2重量部)、(BET値4.0〜5.0m/g)。
・添加物 :ZnO(9重量部)(BET値9〜11m/g)。
・V :(BET値1.0〜1.2m/g)。
酸化マンガンは粒子状のVを用いた。酸化バナジウム粒子の導電性ペーストへの添加量は、後述するように実験条件によって変化させて添加した。
・MnO
酸化マンガンは粒子状のMnOを用いた。MnO粒子の導電性ペーストへの添加量は、実験条件によって後述する量で添加した。
【0052】
次に、上述の所定の調製割合の材料を、プラネタリーミキサーで混合し、さらに三本ロールミルで分散し、ペースト化することによって導電性ペーストを調製した。
<太陽電池基板の試作>
【0053】
本発明の電極形成用導電性ペーストの評価は、調整した導電性ペーストを用いて太陽電池を試作し、その特性を測定することによって行なった。太陽電池の試作方法は次のとおりである。
【0054】
基板は、B(ボロン)ドープのP型Si多結晶基板(基板厚み200μm)を用いた。
【0055】
まず、上記基板に酸化ケイ素層約20μmをドライ酸化で形成後、フッ化水素、純水及びフッ化アンモニウムを混合した溶液でエッチングし、基板表面のダメージを除去した。さらに、塩酸と過酸化水素を含む水溶液で重金属洗浄を行なった。
【0056】
次に、この基板表面にウェットエッチングによってテクスチャ(凸凹形状)を形成した。具体的にはウェットエッチング法(水酸化ナトリウム水溶液)によってピラミッド状のテクスチャ構造を片面(光入射側の表面)に形成した。その後、塩酸及び過酸化水素を含む水溶液で洗浄した。
【0057】
次に、上記基板のテクスチャ構造を有する表面に、オキシ塩化リン(POCl)を用い、拡散法によって、リンを温度950℃で30分間拡散させ、n型拡散層を約0.5μmの深さにn型拡散層を形成した。n型拡散層のシート抵抗は、50Ω/□だった。
【0058】
次に、n型拡散層を形成した基板の表面に、プラズマCVD法によってシランガス及びアンモニアガスを用いて窒化ケイ素薄膜を約60nmの厚みに形成した。具体的には、NH/SiH=0.5の混合ガス1Torr(133Pa)をグロー放電分解することにより、プラズマCVD法によって膜厚約60nmの窒化ケイ素薄膜(反射防止膜)を形成した。
【0059】
このようにして得られた太陽電池基板を、15mm×15mmの正方形に切断して使用した。
【0060】
光入射側(表面)電極用の導電性ペーストの印刷は、スクリーン印刷法によって行った。上述の基板の反射防止膜上に、膜厚が約20μmになるように2mm角バス電極部と100μm幅フィンガー電極部からなるパターンで印刷し、その後、150℃で約1分間乾燥した。
【0061】
次に裏面電極用の導電性ペーストの印刷を、スクリーン印刷法によって行った。上述の基板の裏面に、アルミニウム粒子、ガラスフリット、エチルセルロース、溶剤を主成分とする導電性ペーストを12mm角で印刷し、150℃で1分間乾燥した。乾燥後の裏面電極用の導電性ペーストの膜厚は約20μmであった。
【0062】
上述のように導電性ペーストを表面及び裏面に印刷した基板を、ハロゲンランプを加熱源とする近赤外焼成炉(日本ガイシ社製 太陽電池用高速焼成試験炉)を用いて、大気中で所定の条件により焼成した。焼成条件は、ピーク温度760℃一定又は720℃、760℃、800℃の範囲でピーク温度を変化させ、大気中、焼成炉のイン−アウト2分間で両面同時焼成した。以上のようにして、太陽電池を試作した。
【0063】
<太陽電池特性の測定>
太陽電池セルの電気特性(FF)の測定は、次のように行った。すなわち、試作した太陽電池の電流−電圧特性を、ソーラーシミュレータ光(AM1.5、エネルギー密度100mW/cm)の照射下で測定し、測定結果から曲線因子(FF)を算出した。なお、試料は10個作製し、測定値は10個の平均値として求めた。
【0064】
<接着強度の測定>
はんだ付けをした金属リボンの接着強度測定用の試料は以下のように作製し測定した。まず基板として、太陽電池特性測定用と同じ、反射防止膜付き15mm角太陽電池基板を用いた。この基板表面のほぼ中央に、幅3mm、長さ12cmのはんだ付けパッドを所定の導電性ペーストを用いて印刷し、乾燥し、焼成して形成した。次に、インターコネクト用の金属リボンである銅リボン(幅1.5mm×全厚み0.16mm、共晶はんだ[スズ:鉛=64:36の重量比]を約40μmの膜厚で被覆)を、フラックスを用いてはんだ付けパッド上に250℃の温度で3秒間はんだ付けした。その後、リボンの一端に設けたリング状部をデジタル引張りゲージ(エイアンドディー社製、デジタルフォースゲージAD−4932−50N)によって基板表面に対して90度方向に引っ張り、接着の破壊強度を測定することによって接着強度の測定を行った。なお、試料は10個作製し、測定値は10個の平均値として求めた。
【0065】
<実験1>
表1に示すように、導電性ペーストへの酸化バナジウムの添加量を、導電性粒子100重量部に対し、0から0.5重量部まで変化させた導電性ペーストを太陽電池の表面電極形成用に用いて太陽電池を試作した。なお、太陽電池作製の際の焼成のピーク温度は全て760℃とした。表1に、得られた太陽電池の太陽電池特性(曲線因子FFの値)及びはんだ付け強度の測定結果を示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示すから明らかなように、酸化バナジウムの添加量が0.01重量部以上の場合には、良好な金属リボンの接着強度を得ることができることが明らかとなった。また、酸化バナジウムの添加量が多くなり、0.3重量部を超える場合には、太陽電池特性(FF)が低下してしまうことが明らかとなった。したがって、導電性粒子100重量部に対して酸化バナジウムの添加量が0.01〜0.3重量部の範囲の導電性ペーストでは、良好な金属リボンの接着強度と、0.75以上という良好な太陽電池特性(FF)を共に得ることができるために好ましいことが明らかとなった。
【0068】
<実験2>
次に、導電性ペーストに対する酸化バナジウム添加による、金属リボンの接着強度に対する影響と、焼成ピーク温度との関係を求めるために、焼成ピーク温度を、720℃、760℃及び800℃と変化させて太陽電池を試作した。なお、酸化バナジウムの添加量は、導電性粒子100重量部に対して0.04重量部一定とした。表2に、得られた太陽電池の太陽電池特性(FF)及び金属リボンの接着強度の測定結果を示す。なお、表2に記載の接着強度は、実験番号2−1a(「酸化バナジウム添加なし」の導電性ペーストを720℃で焼成)の接着強度を1.00として規格化した相対接着強度を示している。例えば、表2において、実験2−1bにより得られた太陽電池の金属リボンの接着強度は、実験2−1aのリボン接着強度の1.90倍であったことを示している。
【0069】
表2に示す結果から、焼成条件が720℃から800℃で焼成した場合、酸化バナジウムを添加しない導電性ペーストを用いた太陽電池と比べ、酸化バナジウムを0.04重量部添加した導電性ペーストを用いた太陽電池では、良好な太陽電池特性と金属リボンの接着強度が得られることが分かった。
【0070】
【表2】

【0071】
<実験3〜5>
接着強度の長期安定性を加速試験するために、下記の3種類の導電性ペーストを用いた太陽電池を150℃の温度に所定時間暴露した後の、太陽電池特性(FF)及び金属リボンの接着強度を測定した。なお、表3〜5に記載の相対接着強度は、経過時間0分のときの接着強度を1.00として規格化した接着強度である。
【0072】
・実験3−1〜5
及びMnOの両方とも無添加の導電性ペーストを用いた。表3に結果を示す。
【0073】
・実験4-1〜5
を添加したが、MnOは無添加の導電性ペーストを用いた。Vの添加量は、導電性粒子100重量部に対し0.04重量部だった。表4に結果を示す。
【0074】
・実験5-1〜5
及びMnOの両方とも添加した導電性ペーストを用いた。Vの添加量は、導電性粒子100重量部に対し0.04重量部だった。MnOの添加量は、導電性粒子100重量部に対し0.04重量部だった。表5に結果を示す。
【0075】
表3及び表4の結果から明らかなように、Vを添加した導電性ペーストを用いることにより、導電性ペースト150℃の温度に長時間暴露した後でも高い金属リボンの接着強度を得ることができることが明らかとなった。また、表3〜5の結果から明らかなように、Vに加えてMnOを添加した導電性ペーストを用いることにより、150℃の温度に長時間暴露した後でもさらに高い金属リボンの接着強度を得ることができることが明らかとなった。
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【符号の説明】
【0079】
1 光入射側電極(表面電極)
2 反射防止膜
3 n型拡散層(n型シリコン層)
4 p型シリコン基板
5 裏面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀を含む導電性粒子と、酸化バナジウム粒子とを含む、太陽電池の電極形成用導電性ペースト。
【請求項2】
酸化バナジウム粒子を、導電性ペースト100重量部に対し、0.01〜0.3重量部含む、請求項1記載の電極形成用導電性ペースト。
【請求項3】
酸化マンガン粒子をさらに含む、請求項1又は2記載の電極形成用導電性ペースト。
【請求項4】
酸化マンガン粒子を、導電性ペースト100重量部に対し、0.01〜0.5重量部含む、請求項3記載の電極形成用導電性ペースト。
【請求項5】
太陽電池が、単結晶シリコン太陽電池又は多結晶シリコン太陽電池である、請求項1〜4のいずれか1項記載の電極形成用導電性ペースト。
【請求項6】
太陽電池基板上に、電極形成する工程を含む太陽電池の製造方法であって、電極形成する工程が、
請求項1〜5のいずれか1項記載の電極形成用導電性ペーストを、太陽電池用基板の表面電極、裏面電極並びに/又は表面電極上及び/若しくは裏面電極上のはんだ付け用パッド部を形成するために印刷する工程と、
電極形成用導電性ペーストを乾燥し、焼成する工程と
を含む、太陽電池の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の製造方法で製造される太陽電池。

【図1】
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