説明

太陽電池及び太陽電池製造用スクリーン製版

【課題】リード線を太陽電池セルの裏面銀電極に接続する際に十分な接着強度を有し、かつ特性低下せず、安価に製造し得る太陽電池及びこれの製造に用いるスクリーン製版を提供する。
【解決手段】少なくとも裏面にバスバー電極106を有する太陽電池であって、該バスバー電極線幅が2.0mm以上2.5mm未満で、最大厚みが9.0μm以上であって、電極最大厚みに対する最小厚みの割合が0〜80%、もしくは、該バスバー電極線幅が2.5mm以上3.0mm未満で、最大厚みが6.6μm以上であって、電極最大厚みに対する最小厚みの割合が0〜80%、もしくは、該バスバー電極線幅が3.0mm以上5.0mm以下で、最大厚みが4.0μm以上であって、電極最大厚みに対する最小厚みの割合が30〜80%の太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価で高効率の太陽電池、及びその作製に用いるスクリーン製版に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な太陽電池セルは、図1〜3に示したように、シリコン等のP型半導体基板100に、n型となるドーパントを拡散して、N型拡散層101を形成することによりPN接合を形成している。N型拡散層101の上には、SiNx膜のような反射防止膜102が形成されている。P型半導体基板100の裏面側には、アルミニウムペーストが塗布され、焼成することによりBSF層103とアルミニウム電極104が形成される。また、受光面側には集電用のフィンガー電極107と、そこから電流を集めるために形成されたバスバー電極105とよばれる太い電極と、裏面側にはバスバー電極106が、銀などを含む導電性ペーストを塗布して、焼成することにより形成される。
【0003】
また、太陽電池セルは、所定の電圧及び電流を得るために複数の太陽電池セルを直列又は並列に接続して太陽電池モジュールとして構成されて使用される。この場合の接続方法としては、表面のバスバー電極105と、太陽電池セルの裏面に形成されたバスバー電極106とを、リード線を用いて半田付けするのが一般的である。該リード線としては半田で被覆した銅線が主に用いられる。
【0004】
昨今、太陽電池は環境問題を背景に、クリーンエネルギーの一つとして需要は拡大しつつあるが、一般の商用電力と比較してエネルギーコストの高いことがその普及の障害となっている。太陽電池製造コストの削減は重要な課題であるが、同時に太陽電池の性能は最低限維持しなくてはならない。
【0005】
これまでに太陽電池製造に関わるコスト削減対策の一つとして、裏面銀電極を薄膜化することを検討した。しかし、電極を薄膜化するとリード線を半田付けした際の接着強度が低下し、十分な信頼性が得られなかった。
【0006】
これまで報告されてきた電極接着強度を向上させる方法としては、電極バスバー上に、銅箔を厚く接着して接着強度を高めたり(特許文献1:特開2000−340812号公報)、電極に穴を空け半田を充填して接着強度を高めたり(特許文献2:特開2005−243790号公報)、ペースト材料を検討して接着強度を高めたり(特許文献3:特開2007−281023号公報)、いくつか提案がなされている。しかしながらこれらは、工数を必要としたり、材料にコストがかかってしまう。
【0007】
これに対し、特開2006−339342号公報(特許文献4)では接着強度を向上させるために、パターンの異なる2版を用いてバスバーに凹凸を形成することによりコスト削減を目指した。しかしながら、電極幅を細くする場合にはリード線も細くしなくてはならず、接着面積の減少により十分な接着強度が得られないことが分かった。また、2回別版で印刷を行うために、工数が多く、コストがかかってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−340812号公報
【特許文献2】特開2005−243790号公報
【特許文献3】特開2007−281023号公報
【特許文献4】特開2006−339342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、リード線を太陽電池セルの裏面銀電極に接続する際に十分な接着強度を有し、かつ特性低下せず、安価に製造し得る太陽電池及びこれの製造に用いるスクリーン製版を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、下記の太陽電池及びスクリーン製版を提供する。
請求項1:
少なくとも裏面にバスバー電極を有する太陽電池であって、
該バスバー電極線幅が2.0mm以上2.5mm未満で、最大厚みが9.0μm以上であって、電極最大厚みに対する最小厚みの割合が0〜80%、もしくは、
該バスバー電極線幅が2.5mm以上3.0mm未満で、最大厚みが6.6μm以上であって、電極最大厚みに対する最小厚みの割合が0〜80%、もしくは、
該バスバー電極線幅が3.0mm以上5.0mm以下で、最大厚みが4.0μm以上であって、電極最大厚みに対する最小厚みの割合が30〜80%
であることを特徴とする太陽電池。
請求項2:
少なくともバスバー用開口部内に50%以下の閉口部を有することを特徴とする太陽電池裏面用スクリーン製版。
請求項3:
最近接する開口部の距離が100μm以下であることを特徴とする請求項2記載のスクリーン製版。
請求項4:
請求項2又は3のいずれか1項に記載のスクリーン製版で製造されたバスバー電極を裏面に有する太陽電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、バスバー表面に凹凸を形成することで電極表面積が大きくなり、リード線接着時の接着強度が向上してはがれにくくなる。このとき特性低下も見られない。また、電極ペースト使用量を節約できるため、コスト削減に極めて有効である。更に、本発明の具現化は、スクリーン製版の軽微な設計変更で可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一般的な太陽電池の電極の断面図である。
【図2】一般的な太陽電池の表面形状を示す平面図である。
【図3】一般的な太陽電池の裏面形状を示す裏面図である。
【図4】図3のパターンで印刷した後のバスバー電極の断面図である。
【図5】本発明に係る、印刷パターンの形状の一例を示す正面図である。
【図6】図5のパターンで印刷した後のバスバー電極の断面図である。
【図7】本発明に係る、印刷パターンの形状の他の例を示す平面図である。
【図8】図7のパターンで印刷した後のバスバー電極の断面図である。
【図9】本発明に係る、印刷パターンの形状の別の例を示す平面図である。
【図10】(A)は本発明に係る、印刷パターンの形状を示す平面図であり、(B)はAの拡大図である。
【図11】バスバー厚さと、引張強度の関係を示すグラフである。
【図12】バスバー幅と、引張強度の関係を示すグラフである。
【図13】バスバー幅と厚さの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の太陽電池の作製方法の一例を以下に述べる。但し、本発明はこの方法で作製された太陽電池に限られるものではない。
【0014】
高純度シリコンにホウ素あるいはガリウムのようなIII族元素をドープし、比抵抗0.1〜5Ω・cmとしたアズカット単結晶{100}p型シリコン基板表面のスライスダメージを、濃度5〜60質量%の水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような高濃度のアルカリ、もしくは、ふっ酸と硝酸の混酸などを用いてエッチングする。単結晶シリコン基板は、CZ法、FZ法いずれの方法によって作製されてもよい。
【0015】
引き続き、基板表面にテクスチャとよばれる微小な凹凸形成を行う。テクスチャは太陽電池の反射率を低下させるための有効な方法である。テクスチャは、加熱した水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ溶液(濃度1〜10質量%、温度60〜100℃)中に10〜30分程度浸漬することで容易に作製される。上記溶液中に、所定量の2−プロパノールを溶解させ、反応を促進させることが多い。
【0016】
テクスチャ形成後、塩酸、硫酸、硝酸、ふっ酸等、もしくはこれらの混合液の酸性水溶液中で洗浄する。経済的及び効率的見地から、塩酸中での洗浄が好ましい。清浄度を向上するため、塩酸溶液中に、0.5〜5質量%の過酸化水素を混合させ、60〜90℃に加温して洗浄してもよい。
【0017】
この基板上に、オキシ塩化リンを用いた気相拡散法によりエミッタ層を形成する。一般的なシリコン太陽電池は、PN接合を受光面にのみ形成する必要があり、これを達成するために基板同士を2枚重ね合わせた状態で拡散したり、拡散前に裏面にSiO2膜やSiNx膜などを拡散マスクとして形成して、裏面にPN接合ができないような工夫を施す必要がある。拡散後、表面にできたガラスをふっ酸などで除去する。
【0018】
次に、受光面の反射防止膜形成を行う。製膜には前述のプラズマCVD装置を用いSiNx膜を約100nm製膜する。反応ガスとして、モノシラン(SiH4)及びアンモニア(NH3)を混合して用いることが多いが、NH3の代わりに窒素を用いることも可能であり、また、プロセス圧力の調整、反応ガスの希釈、更には、基板に多結晶シリコンを用いた場合には基板のバルクパッシベーション効果を促進するため、反応ガスに水素を混合することもある。
【0019】
次いで、裏面電極及び受光面の電極をスクリーン印刷法で形成する。上記基板の裏面に、銀粉末とガラスフリットを有機物バインダで混合したペーストをバスバー状にスクリーン印刷したのち、アルミニウム粉末を有機物バインダで混合したペーストをバスバー以外の領域にスクリーン印刷する。印刷後、5〜30分間,700〜800℃の温度で焼成して、裏面電極が形成される。裏面電極形成は印刷法による方が好ましいが、蒸着法、スパッタ法等で作製することも可能である。
【0020】
裏面バスバーを図3で示されるパターンで印刷すると、裏面バスバー106の表面はフラットになる(図4)。これまでの実験で十分な接着強度(=2N以上)を有するためには、少なくともバスバー厚みが6.2μm(図11実線)か、バスバーの幅が2.3mm(図12実線)必要であり、これらの値以下になると急激に接着強度が減少することがわかった。図11〜13のような引張強度の等強度線が描ける。この図より、バスバー幅が2.0〜2.5mmのときの引張強度はある程度の厚さが必要であることが分かる。導電性ペースト粘度によって吐出量が変化すると、引張強度が得られないことがある。多少バスバー厚さが小さくても十分な引張強度を得られるような太陽電池セルを安定的に作ることは必須である。
【0021】
これを解決するためには裏面バスバーに凹凸を形成して表面積を多くして、接着強度を高める手法が効果的である。
【0022】
電極に凹凸を形成する手法としては、例えば、印刷後に凹凸を圧着して溝を作ったり、電極を削ったりする方法が考えられる。しかし、基板を圧着すると割れが発生したり、基板を傷める原因となる。また、スクリーン印刷パターンが異なる2版を用いて2度印刷することでバスバーに凹凸を形成する方法が報告されている(特許文献4:特開2006−339342号公報)。これも工数が増えてしまうという問題があった。より良い手法は、スクリーン製版のバスバー印刷パターンに閉口部を有することで実現する。最も簡単なパターンは図5に示すような開口部208aの中央部に閉口部208bを一つ有するパターンである。この版を使用して印刷した裏面バスバー106の横断面を図6に示す。リード線との接着面積を増やして、接着強度を向上させることができる。更に図7のように開口部、閉口部を連続的に有するパターンで印刷すれば、図8に示すような横断面図となり、更に接着面積が増して接着力は向上して効果的である。また、従来の箱型バスバー電極に比べて、ペースト使用量が少なく、接着強度を保つことができる。更に、図9に示すような、矩形や菱形パターンにするのも良い。
【0023】
図7に示されるパターンを用いて凹凸形成した場合の引張強度を図11、図12に破線で示す。バスバー厚10mm一定の場合はバスバー幅3〜4mmのとき、フラットな電極に比べ凹凸電極では引張強度が向上した。一方、バスバー幅が4mm一定のときは、引張強度は維持され、必要厚みを2μmほど減らすことができた。この結果を、図13に破線で示す。
【0024】
本発明に係る裏面バスバーの凹凸型の形状は、特に限定されるものではないが、上述したように、例えば横断面形状としては図5で示される製版パターンで印刷された図6のような凹型や、図7で示される製版パターンで印刷された図8のような連続的に凹凸形状を持つものが挙げられる。あるいは図9で示される製版パターンで印刷され、バスバー縦横の断面図が図8のようになったものも含む。
【0025】
従って、本発明においては、裏面のバスバー電極は、
バスバー電極線幅が2.0mm以上2.5mm未満で、最大厚みが9.0μm以上であって、電極最大厚みに対する最小厚みの割合が0〜80%、もしくは、
バスバー電極線幅が2.5mm以上3.0mm未満で、最大厚みが6.6μm以上であって、電極最大厚みに対する最小厚みの割合が0〜80%、もしくは、
該バスバー電極線幅が3.0mm以上5.0mm以下で、最大厚みが4.0μm以上であって、電極最大厚みに対する最小厚みの割合が30〜80%であることが必要である。
なお、電極最大厚みXと最小厚みYの比は
(Y/X)×100
で表される。
【0026】
また、上記凹凸をスクリーン製版にて形成する場合、スクリーン製版はバスバー用開口部内に50%以下の閉口部を有することが好ましく、最近接する開口部間の距離は100μm以下であることが好ましい。
【0027】
本発明のバスバーの凹凸は、開口部と閉口部を有するスクリーン製版と、ペーストのにじみを利用している。開口部は50%超でないと、本発明に係るペーストにじみを利用した印刷はできない。開口部間の距離が100μmを超えると、ペーストのにじみが足りず、バスバーが分裂し、基板が露出する。このとき、基板とリード線を接着しにくいので、モジュール強度としては不十分となってしまう。一方、閉口部が少なすぎる場合、ペーストは開口間を充填するものの、凹凸ができにくいために表面積が稼げず接着強度は従来並みとなる。また、銀使用量の削減効果も小さい。
【0028】
最後に、受光面電極として銀粉末とガラスフリットを有機物バインダと混合した銀ペーストをスクリーン印刷した後、熱処理によりSiNx膜に銀粉末を貫通させ(ファイアースルー)、電極とシリコンを導通させる。裏面電極及び受光面電極の焼成は一度に行うことも可能である。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明の有効性を確認するため、以下に示す手法で太陽電池の作製を行った。
バスバー電極の線幅は2.5mm、電極最大厚みは12μm、電極最大厚さに対する最小厚さの比を30%としたものに本発明の印刷パターンBを、更に比較のために、バスバー電極の線幅、電極最大厚みを同様にして、電極最大厚さに対する最小厚さの比を81%としたものに従来の印刷パターンAを、以下に示すパターンで印刷した。
印刷パターンは、従来のパターンA(開口割合100%:図3)と、本発明のパターンB(開口割合71%:図10:開口100μmと閉口40μmが交互に連続しているパターン)の2種類を用意し、それぞれのパターンをST150、ST250、ST350の3種類のメッシュで製版を作製した。
【0030】
拡散厚さ250μm、比抵抗1Ω・cmの、ホウ素ドープ{100}p型アズカットシリコン基板60枚に対し、熱濃水酸化カリウム水溶液によりダメージ層を除去後、水酸化カリウム/2−プロパノール水溶液中に浸漬しテクスチャ形成を行い、引き続き塩酸/過酸化水素混合溶液中で洗浄を行った。次に、オキシ塩化リン雰囲気下、870℃で裏面同士を重ねた状態で熱処理し、エミッタ層を形成した。拡散後、ふっ酸にてガラスを除去し、洗浄、乾燥させた。
【0031】
以上の処理の後、プラズマCVD装置を用いてSiNx膜を受光面反射防止膜として全試料に対し形成した。次に、裏面電極として銀ペーストをスクリーン製版A,B、メッシュ3種類で10枚ずつ印刷し乾燥した。次いで裏面電極としてアルミニウムペーストを、受光面に銀ペーストをスクリーン印刷し、乾燥した。水準A,Bを780℃の空気雰囲気下で焼成し、I−V測定を行ったところ、パターンA,Bの特性は同等であった。次に、引張強度試験を行った。接着引張強度は、バスバーに2mm幅のリード線をはんだ付けし、接着したリード線を垂直方向に引っ張り、リード線が基板から剥離するときの力のピークと定義する。測定結果2N以上を合格とした。結果は、パターンAではST150メッシュのみ合格であった。パターンBでは剥離は起こらなかった。
【0032】
【表1】

【0033】
従来の印刷パターンでは、裏面銀電極を薄くしていくと、剥離が確認される電極厚みでも、本発明による印刷パターンを用いれば、剥離は観測されなかった。
【符号の説明】
【0034】
100 P型半導体基板
101 N型拡散層
102 反射防止膜
103 BSF層
104 アルミニウム電極
105 表面バスバー電極
106 裏面バスバー電極
107 フィンガー電極
208a バスバー開口部
208b バスバー閉口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも裏面にバスバー電極を有する太陽電池であって、
該バスバー電極線幅が2.0mm以上2.5mm未満で、最大厚みが9.0μm以上であって、電極最大厚みに対する最小厚みの割合が0〜80%、もしくは、
該バスバー電極線幅が2.5mm以上3.0mm未満で、最大厚みが6.6μm以上であって、電極最大厚みに対する最小厚みの割合が0〜80%、もしくは、
該バスバー電極線幅が3.0mm以上5.0mm以下で、最大厚みが4.0μm以上であって、電極最大厚みに対する最小厚みの割合が30〜80%
であることを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
少なくともバスバー用開口部内に50%以下の閉口部を有することを特徴とする太陽電池裏面用スクリーン製版。
【請求項3】
最近接する開口部の距離が100μm以下であることを特徴とする請求項2記載のスクリーン製版。
【請求項4】
請求項2又は3のいずれか1項に記載のスクリーン製版で製造されたバスバー電極を裏面に有する太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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