説明

太陽電池封止材

【課題】 太陽電池封止材の透明性や柔軟性等に実質的に悪影響を及ぼすことなく特定の添加剤を配合することによって赤外線に基づく太陽電池素子の温度上昇を抑制し、太陽電池の発電効率の低下を抑制する処方を提供する。
【解決手段】 不飽和カルボン酸単位含有量が4重量%以上であって、融点が85℃以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A)及び少なくとも1200〜3000nmの波長領域の赤外線を遮蔽する透過波長選択剤(B)を含有し、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A)100重量部に対する透過波長選択剤(B)の配合割合が0.01〜10重量部である樹脂組成物からなる太陽電池封止材、及びそれを用いた太陽電池モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度上昇に基づく発電効率の低下を抑制する太陽電池封止材に関する。とくには、集光型太陽電池モジュールの封止材として有用な太陽電池封止材に関する。
【背景技術】
【0002】
無尽蔵な自然エネルギーを利用し、二酸化炭素の削減やその他の環境問題の改善が図れる水力発電、風力発電並びに太陽光発電などが脚光を浴びている。このうち太陽光発電は、太陽電池モジュールの発電効率等の性能向上が著しい一方、価格の低下が進んだこと、国や自治体が住宅用太陽光発電システム導入促進事業を進めてきたことから、近年その普及が著しく進んでいる。しかしながら更なる普及には一層の低コスト化が必要であり、そのため発電効率の一層の向上に向けた研究も日夜続けられている。
【0003】
一般に太陽電池は高温時に発電効率が低下することが従来から問題になっており、とくに集光型太陽電池は温度が上昇しやすく、発電効率の低下が大きいと考えられている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−56189号公報
【特許文献2】特開2003−69068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の目的は、太陽電池封止材の透明性や柔軟性等に実質的に悪影響を及ぼすことなく特定の添加剤を配合し、もって太陽電池素子の温度上昇を抑制し、発電効率の改善を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、不飽和カルボン酸単位含有量が4重量%以上であって、融点が85℃以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A−1)及び少なくとも1200〜3000nmの波長領域の赤外線を遮蔽する透過波長選択剤(B)を含有し、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A−1)100重量部に対する透過波長選択剤(B)の配合割合が0.01〜10重量部である樹脂組成物(C)からなる太陽電池封止材に関する。また透過波長選択剤(B)としては、金属酸化物、金及び銀から選ばれる少なくとも1種の無機物が好ましく、とくに酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アンチモン及びこれらの2種以上の金属が複合化された金属酸化物から選ばれる金属酸化物が好ましい。
【0007】
本発明はまた、上記樹脂組成物(C)の層と、不飽和カルボン酸単位含有量が4重量%以上であって、融点が85℃以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A−2)を含有し、透過波長選択剤(B)を含有しない樹脂組成物(D)の層とが積層されてなる太陽電池封止材に関する。
【0008】
上記(A−1)及び(A−2)としては、いずれもアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸共重合体とアイオノマーのブレンドであって、平均中和度が1〜30%のものが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の太陽電池封止材は、太陽光中の発電に関わる波長領域の光線の透過を実質的に妨げることなく、発電に寄与しないが太陽電池素子の温度上昇の原因となる1200nm以上の波長の赤外線を選択的に遮蔽することができるので、太陽電池モジュールにおける太陽電池素子の温度上昇が抑制され、発電効率の低下を抑制することができる。とくに集光型太陽電池の封止材として本発明のものを使用すると、発電効率の改善効果が顕著に表れる。本発明の太陽電池封止材はまた、太陽電池素子に対して、あるいは上部保護材としてガラス、下部基板保護材として金属などを使用する場合はこれら保護材に対して、架橋剤やシランカップリング剤を使用しなくても優れた接着性を示し、また透明性、耐熱性においても優れている。とくに成分(A−1)又は(A−1)と(A−2)として、選択されたアイオノマーを使用することにより、例えば、150℃における貯蔵弾性率が103Pa以上、好ましくは5×103Pa以上で、光線透過率が85%以上、好ましくは90%以上の封止材料を容易に得ることができる。また架橋剤の使用が省略できるので、太陽電池モジュール製造工程における生産性を著しく高めることが可能であり、太陽電池モジュールの製造コストを大幅に低減させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の太陽電池封止材は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマー(A−1)を主成分とし、少なくとも1200〜3000nmの波長領域の赤外線を遮蔽する透過波長選択剤(B)を含有する樹脂組成物(C)から構成される。前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマー(A−1)は、不飽和カルボン酸単位含有量が4重量%以上、好ましくは5〜20重量%のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーであって、DSCによる融点が85℃以上、好ましくは90〜110℃のものである。かかる共重合体又はそのアイオノマーは、エチレン・酢酸ビニル共重合体の場合のように、コモノマー含量の高いエチレン共重合体を使用しなくても優れた透明性を有しているという利点がある。
【0011】
ここに不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸などであり、とくにアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体としては、柔軟性付与に効果的であるところから、ビニルエステルや(メタ)アクリル酸エステルなどが共重合されたものを使用してもよいが、一般的にはこれら共重合成分を含むものは融点が低くなるので、多量に含有するものは使用できない。
【0012】
本発明におけるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーとしては、その金属種として、リチウム、ナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムなどの多価金属などを例示することができる。このようなアイオノマーを使用する利点は、透明性、高温における貯蔵弾性率が高いことである。アイオノマーとしては、例えば中和度が80%以下程度のものを使用することが望ましいが、ガラスあるいは太陽電池素子に対する接着性や柔軟性等を勘案すると、あまり中和度の高いものを使用するのは得策ではなく、例えば中和度が60%以下、とくに30%以下のものを使用するのが好ましい。
【0013】
不飽和カルボン酸単位含有量が4重量%より少ないような上記共重合体又はそのアイオノマーを使用した場合には透明性が優れたものが得られず、また太陽電池素子などに対する接着性についても不充分なものとなる。また不飽和カルボン酸単位含有量が大きくなると、透明性に関してはより優れたものが得られるが、その含有量が大きくなりすぎると融点が低くなり、また吸湿性が増すなどの問題がでてくる。本発明においては融点が85℃以上のものと規定しているため、その含有量には限度がある。
【0014】
本発明においては、上記共重合体やアイオノマーとして、融点が85℃より低いものを使用した場合には耐熱性が充分でなく、また太陽電池モジュールを加熱圧着法で製造するときに、封止材料が必要以上に流れ出してバリを生じる恐れがあるので好ましくない。
【0015】
上記共重合体やアイオノマー(A−1)としては、透明性、接着性及び耐熱性のバランスを考慮すると、不飽和カルボン酸単位含有量が5〜20重量%、好ましくは7〜17重量%のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体のアイオノマーであって、中和度が1〜30%、好ましくは5〜20%、融点が90〜110℃、好ましくは92〜105℃のものを使用するのがとくに好ましい。あるいは不飽和カルボン酸単位含有量が5〜20重量%、好ましくは7〜17重量%、融点が90〜110℃のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体と、不飽和カルボン酸単位含有量が5〜20重量%、好ましくは7〜17重量%、融点が90〜110℃のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体アイオノマーのブレンドであって、後者アイオノマーの金属成分と両者の不飽和カルボン酸成分を勘案した平均中和度が1〜30%、好ましくは5〜20%のものを使用するのがとくに好ましい。上記アイオノマーのみを使用する場合にも、不飽和カルボン酸単位含有量が1重量%以上異なる2種以上のアイオノマーを併用するのが望ましく、また後者のように共重合体とアイオノマーをブレンドして用いる場合にも、不飽和カルボン酸単位含有量が1重量%以上異なるものを使用するのが好ましい。後者の場合の例として、例えば融点が90〜105℃のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体20〜95重量部、好ましくは50〜80重量部と、不飽和カルボン酸酸単位含有量が該共重合体より1重量%以上少なく、融点が1℃以上高いアイオノマー80〜5重量部、好ましくは50〜20重量部のブレンドのようなものを例示することができる。
【0016】
上記共重合体又はそのアイオノマー(A−1)としてはまた、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)(JIS K7210−1999、以下同じ)が0.1〜500g/10分、とくに1〜200g/10分のものを使用するのが好ましい。MFRが低いものを使用した場合には、若干低めの融点のものを使用しても上記のような封止材料の流れによるトラブルが生じ難いという利点はあるが、過度にMFRの低いものを使用すると加工性が悪くなる。一方、過度にMFRの高すぎるものを使用すると、モジュール作成時に端部からはみ出してラミネート内に付着する量が多くなり、それを取り除く作業に手間がかかり、生産効率が悪くなる。
【0017】
本発明においては、上記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A−1)を主成分とし、これと少なくとも1200〜3000nmの波長領域の赤外線を遮蔽する透過波長選択剤(B)を、(A−1)100重量部に対して、(B)を0.01〜10重量部の割合で配合した樹脂組成物を太陽電池封止材として使用するものである。上記透過波長選択剤(B)としては、金属酸化物、金及び銀から選ばれる少なくとも1種の無機物を使用するのが好ましく、とりわけ酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化マグネシウム及び酸化アンチモンから選ばれる金属酸化物を使用するかあるいはインジウム、錫、亜鉛、マグネシウム及びアンチモンから選ばれる2種以上の金属の複合酸化物を使用するのが好ましい。上記無機物としてはまた、少量の添加で太陽電池封止材中によく分散し、赤外線を効率よく吸収するために、またエチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A−1)の透明性を損なわないために、その粒径が1μm以下、好ましくは500nm以下程度の超微粉を使用するのが好ましい。エチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A−1)にこのような透過波長選択剤(B)を適量配合した樹脂組成物を太陽電池封止材として使用することにより、太陽電池素子の温度上昇が抑制され、発電効率の低下を抑制することができる。
【0018】
本発明の太陽電池封止材を構成する樹脂組成物には、必要に応じ、種々の添加剤を配合することができる。このような添加剤として具体的には、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系やホスファイト系の酸化防止剤、ヒンダードアミン系の光安定剤、光拡散剤、難燃剤、変色防止剤などを例示することができる。
【0019】
シランカップリング剤は、封止材の保護材や太陽電池素子等に対する接着性を向上させるのに有用であり、その例としては、アミノ基又はエポキシ基とともに、アルコキシ基のような加水分解可能な基を有する化合物を挙げることができる。シランカップリング剤として具体的には、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどを例示することができる。シランカップリング剤は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A−1)100重量部に対し、0.1〜5重量部程度配合することが望ましい。
【0020】
本発明の太陽電池封止材に添加することができる紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、サリチル酸エステル系など各種タイプのものを挙げることができる。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクタデシルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−クロロベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどを挙げることができる。
【0021】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、ヒドロキシフェニル置換ベンゾトリアゾール化合物であって、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−メチル−5−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、などを挙げることができる。またトリアジン系紫外線吸収剤としては、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチルオキシ)フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(ヘキシルオキシ)フェノールなどを挙げることができる。サリチル酸エステル系としては、フェニルサリチレート、p−オクチルフェニルサリチレートなどを挙げることができる。
【0022】
本発明の太陽電池封止材は、上記したエチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A−1)及び透過波長選択剤(B)を必須成分として含有し、任意にシランカップリング剤、紫外線吸収剤などの添加剤を配合した樹脂組成物(C)の単層構成で使用することができる。しかしながら樹脂組成物(C)の層と、不飽和カルボン酸単位含有量が4重量%以上であって、融点が85℃以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A−2)を必須成分として含有し、任意にシランカップリング剤、紫外線吸収剤などの添加剤を配合した樹脂組成物(D)の層とからなる積層体として使用することができる。樹脂組成物(D)は、透過波長選択剤(B)を含有していない以外は樹脂組成物(C)で説明したのと全く同様の原料及び配合量のものを使用することができる。とくに(A−1)と(A−2)は実質的に同一のものを使用するのが好ましく、またその他添加剤の種類や配合量も実質的に同一にするのが好ましい。上記積層体においては、樹脂組成物(C)の層と樹脂組成物(D)の層の厚み比率[C]/[D]は、1/99〜90/10の範囲とするのが好ましい。樹脂組成物(C)における透過波長選択剤(B)は、樹脂組成物(C)を単層で使用する場合、あるいは樹脂組成物(C)の層と樹脂組成物(D)の層の積層体として使用する場合は、(C)層の厚みに応じて、前記した範囲内で適正な割合で配合すればよい。
【0023】
本発明の太陽電池封止材を用い、太陽電池素子を上下の保護材で固定することにより太陽電池モジュールを製作することができる。このような太陽電池モジュールとしては、種々のタイプのものを例示することができる。例えば上部透明保護材/封止材/太陽電池素子/封止材/下部保護材のように太陽電池素子の両側から封止材で挟む構成のもの、下部基板保護材の内周面上に形成させた太陽電池素子上に封止材と上部透明保護材を形成させるような構成のもの、上部透明保護材の内周面上に形成させた太陽電池素子、例えばフッ素樹脂系透明保護材上にアモルファス太陽電池素子をスパッタリング等で作成したものの上に封止材と下部保護材を形成させるような構成のものなどを挙げることができる。
【0024】
太陽電池素子としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、ガリウムー砒素、銅ーインジウムーセレン、カドミウムーテルルなどのIIIーV族やIIーVI族化合物半導体系等の各種太陽電池素子を用いることができる。本発明の太陽電池封止材は、とくにシリコン系太陽電池素子の封止材として有用である。
【0025】
太陽電池モジュールを構成する上部保護材としては、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、フッ素含有樹脂などを例示することができる。下部保護材としては、金属や各種熱可塑性樹脂フィルムなどの単体もしくは多層のシートであり、例えば、錫、アルミ、ステンレススチールなどの金属、ガラス等の無機材料、ポリエステル、無機物蒸着ポリエステル、フッ素含有樹脂、ポリオレフィンなどの1層もしくは多層の保護材を例示することができる。本発明の太陽電池封止材は、これらの上部又は下部保護材に対して良好な接着性を示す。
【0026】
本発明の太陽電池封止材は、通常、シート状で使用される。樹脂組成物(C)からなる単層のシート状太陽電池封止材は、T−ダイ押出機、カレンダー成形機などを使用する公知のシート成形法によって製造することができる。例えばエチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A−1)に、透過波長選択剤(B)、必要に応じて添加されるシランカップリング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の添加剤を予めドライブレンドしてT−ダイ押出機のホッパーから供給し、シート状に押出成形することによって得ることができる。勿論、これらドライブレンドに際して、一部又は全部の添加剤は、マスターバッチの形で使用することができる。またT−ダイ押出やカレンダー成形において、予めエチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A−1)に一部又は全部の添加剤を、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーなどを用いて溶融混合して得た樹脂組成物を使用することもできる。また樹脂組成物(C)の層と樹脂組成物(D)の層とからなる積層シート状太陽電池封止材は、上記したのと同様な条件で共押出法によって製造するか、あるいはそれぞれの単層シートを作成した後それらを積層することによって製造することができる。シート厚みは、単層シートの場合0.1〜1mm程度、積層シートの場合は、樹脂組成物(C)の層が0.01〜1mm程度、樹脂組成物(D)の層が0.05〜1mm程度で、総厚みを0.1〜2mm程度とするのが好ましい。
【0027】
太陽電池モジュールの製造に当たっては、本発明の封止材料のシートを予め作っておき、封止材料が溶融する温度で圧着するという従来同様の方法によって、すでに述べたような構成のモジュールを形成することができる。この場合、封止材料に有機過酸化物を含有させる必要がないので、封止材料のシート成形を高温で生産性よく行うことができるとともに、モジュールの形成においても2段階の接着工程を経る必要はなく、高温度で短時間に完結することができる。本発明の封止材は、太陽電池素子の受光側に使用するのが好ましい。また樹脂組成物(C)の層と樹脂組成物(D)の層からなる積層シート状太陽電池封止材を使用する場合には、樹脂組成物(D)の層が太陽電池素子に当接するように、また樹脂組成物(C)の層が表面保護材に当接するようにするのがよい。さらに本発明の封止材料を押出コーティングすることによって太陽電池素子や上部保護材あるいは下部保護材と積層する方法を採用すれば、わざわざシート成形することなく一段階で太陽電池モジュールを製造することが可能である。したがって本発明の封止材料を使用すれば、モジュールの生産性を格段に改良することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。尚、実施例及び比較例に用いた原料及び物性の評価方法は以下の通りである。
【0029】
1.原料
(1)エチレン・不飽和カルボン酸共重合体及びアイオノマー
EMAA:エチレン・メタクリル酸共重合体(メタクリル酸単位含量15重量%、メルトフローレート(190℃、2160g荷重、JIS K7210−1999、以下同じ)25g/10分)
IO−Zn:メタクリル酸単位含量15重量%のエチレン・メタクリル酸共重合体の亜鉛アイオノマー(亜鉛中和度21%、メルトフローレート16g/10分)
(2)透過波長選択剤
ITO:錫ドープ酸化インジウム、平均粒径30nm
(3)シランカップリング剤:γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM503、信越化学(株)製)
【0030】
[実施例1]
事前に10重量%の上記ITOを含有する上記EMAAのマスターバッチ(MB)を用意した。上記EMAAペレット3500g、ITOのマスターバッチ(MB)1500g及び上記シランカップリング剤(商品名:KBM503)5gを混合し、含浸のため一昼夜放置した。得られた含浸ペレットを、30mmφインフレーションフィルム成形機を用いて、加工温度180℃にて混練、成形して0.05mm厚みのフィルム(c−1)を作成した。
【0031】
一方で、上記EMAAペレット5000g及び上記シランカップリング剤5gを混合し、同様に含浸のため一昼夜放置した。得られた含浸ペレットを、40mmφシート成形機にて厚み0.5mmのシート(d)を作成した。
【0032】
3mm厚みの青色ガラス2枚の間に上記で作成した0.05mmフィルム(c−1)(ITO3%含有)と0.5mmシート(d)(ITO未添加)を挟み、150℃×15分で真空貼り合わせ機にて貼り合わせを行い、紫外線分光光度計にて可視光線領域である650nmの透過率を、また赤外分光光度計にて赤外線領域である2000nm(5000cm−1)の透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0033】
[実施例2]
上記EMAAペレット4850g、10重量%の上記ITOを含むMB150g及び上記シランカップリング剤(商品名:KBM503)5gを混合し、含浸のため一昼夜放置した。得られた含浸ペレットを、40mmφシート成形機にて厚み0.5mmのシート(c−2)を作成した。3mm厚みの青色ガラス2枚の間に得られた0.5mmシート(c−2)を挟み、150℃×15分で真空貼り合わせ機にて貼り合わせを行い、紫外線分光光度計にて可視光線領域である650nmの透過率を、また赤外分光光度計にて赤外線領域である2000nm(5000cm−1)の透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0034】
[実施例3]
上記IO−Znペレット4850g、10重量%の上記ITOを含むMB150g及び上記シランカップリング剤(商品名:KBM503)5gを混合し、含浸のため一昼夜放置した。得られた含浸ペレットを、40mmφシート成形機にて厚み0.5mmのシート(c−3)を作成した。3mm厚みの青色ガラス2枚の間に得られた0.5mmシート(c−3)を挟み、150℃×15分で真空貼り合わせ機にて貼り合わせを行い、紫外線分光光度計にて可視光線領域である650nmの透過率を、また赤外分光光度計にて赤外線領域である2000nm(5000cm−1)の透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0035】
[比較例1]
3mm厚みの青色ガラス2枚の間に実施例1で使用した0.5mmシート(d)を挟み、150℃×15分で真空貼り合わせ機にて貼り合わせを行い、紫外線分光光度計にて可視光線領域である650nmの透過率を、また赤外分光光度計にて赤外線領域である2000nm(5000cm−1)の透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸単位含有量が4重量%以上であって、融点が85℃以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A−1)及び少なくとも1200〜3000nmの波長領域の赤外線を遮蔽する透過波長選択剤(B)を含有し、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A−1)100重量部に対する透過波長選択剤(B)の配合割合が0.01〜10重量部である樹脂組成物(C)からなる太陽電池封止材。
【請求項2】
透過波長選択剤(B)が、金属酸化物、金及び銀から選ばれる少なくとも1種の無機物を主成分とするものである請求項1記載の太陽電池封止材。
【請求項3】
金属酸化物が、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アンチモン及びこれらの2種以上の金属が複合化された金属酸化物から選ばれるものである請求項2記載の太陽電池封止材。
【請求項4】
無機物が、粒径1μm以下の超微粉末である請求項2又は3記載の太陽電池封止材。
【請求項5】
上記成分(A−1)がアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸共重合体とアイオノマーのブレンドであり、平均中和度が1〜30%の範囲にある請求項1〜4のいずれかに記載の太陽電池封止材。
【請求項6】
樹脂組成物(C)が、さらにシランカップリング剤を含有していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の太陽電池封止材。
【請求項7】
請求項1〜6記載の樹脂組成物(C)の層と不飽和カルボン酸単位含有量が4重量%以上であって、融点が85℃以上のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体もしくはそのアイオノマー(A−2)を含有し、透過波長選択剤(B)を含有しない樹脂組成物(D)の層とが積層されてなる太陽電池封止材。
【請求項8】
上記成分(A−2)がアイオノマー又はエチレン・不飽和カルボン酸共重合体とアイオノマーのブレンドであり、平均中和度が1〜30%の範囲にある請求項7に記載の太陽電池封止材。
【請求項9】
樹脂組成物(D)に、さらにシランカップリング剤が配合されてなる請求項7又は8に記載の太陽電池封止材。
【請求項10】
樹脂組成物(C)の層と樹脂組成物(D)の層の厚み比率[C]/[D]が1/99〜90/10の範囲にあることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の太陽電池封止材。
【請求項11】
シート状である請求項1〜10のいずれかに記載の太陽電池封止材。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の太陽電池封止材を用いた太陽電池モジュール。
【請求項13】
上記太陽電池封止材が、太陽電池素子の受光側に使用されてなる請求項12記載の太陽電池モジュール。

【公開番号】特開2006−190867(P2006−190867A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2252(P2005−2252)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000174862)三井・デュポンポリケミカル株式会社 (174)
【Fターム(参考)】