説明

太陽電池用封止膜及びこれを用いた太陽電池

【課題】高温環境下であっても優れた絶縁性を有し、エチレン−極性モノマー共重合体を主成分とする太陽電池用封止膜を提供する。
【解決手段】エチレン−極性モノマー共重合体と、架橋剤とを含む太陽電池用封止膜であって、60℃雰囲気における体積固有抵抗が1.0×1013〜5.0×1014Ω・cmであることを特徴とする太陽電池用封止膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−極性モノマー共重合体を主成分とする太陽電池用封止膜に関し、特に高温環境下での使用においても高い絶縁性を維持することができる太陽電池用封止膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源の有効利用や環境汚染の防止等の面から、太陽光を電気エネルギーに直接、変換する太陽電池が広く使用され、さらなる開発が進められている。
【0003】
太陽電池は、一般に、図1に示すように、表面側透明保護部材11と裏面側保護部材(バックカバー)12との間に表面側封止膜13Aおよび裏面側封止膜13Bを介して、シリコン発電素子などの太陽電池用セル14を複数、封止した構成とされている。このように太陽電池では、高い発電量を得るために、電池内部で複数の太陽電池用セル14を直列接続又は並列接続し、絶縁性の表面側封止膜13A及び裏面側封止膜13Bで封止される。
【0004】
従来の太陽電池に用いられる表面側透明保護部材には、電池内に太陽光をなるべく効率よく入射させて太陽電池用セルに集光するために、ガラス基板などの透明基板が用いられている。一方、裏面側保護部材には、電池内部への水分侵入などを防止するために、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのプラスチックフィルムや、これらのプラスチックフィルム表面に銀からなる蒸着膜が形成されたものが用いられている。
【0005】
また、表面側および裏面側に用いられる封止膜には、電池内部への異物や水分の侵入を防止するとともに、電池内部の太陽電池セルや電極間の絶縁性を確保できることが求められ、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)などのエチレン−極性モノマー共重合体からなるフィルムが用いられている。
【0006】
EVAからなる封止膜を用いた太陽電池は、一般的には、EVAおよび架橋剤などを含むEVA組成物を加熱圧延して成膜することにより封止膜を形成した後、表面側透明保護部材、表面側封止膜、太陽電池用セル、裏面側封止膜及び裏面側保護部材をこの順で積層し、135〜180℃程度の温度で加熱加圧してEVAを架橋硬化させて接着一体化することにより製造される(特許文献1)。
【0007】
このように封止膜として用いられるEVA膜では、有機過酸化物などの架橋剤を用いて架橋密度を向上させることにより、膜強度や耐久性を向上させている。架橋剤の活性化方法には、熱分解法、レドックス分解法及びイオン分解法などがあるが、熱分解法を用いるのが一般的である。
【0008】
【特許文献1】特許第3473605号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
太陽電池では、入射した太陽光から発電した電気を確実に電池外部へ取り出すことが必要である。しかしながら、太陽電池は、数十年以上とも言われるほど長期間に亘って、屋外などの高温、高湿度、風雨に曝される過酷な環境下で使用される。特に、高温環境下での使用において、従来の太陽電池では絶縁不良が発生して発電性能の低下を招くとの問題があった。したがって、エチレン−極性モノマー共重合体からなる封止膜には、高温環境下であっても優れた絶縁性を有することが求められている。
【0010】
そこで、本発明は、高温環境下であっても優れた絶縁性を有し、エチレン−極性モノマー共重合体を主成分とする太陽電池用封止膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
エチレン−極性モノマー共重合体膜の電気絶縁性を示す尺度としては種々のものが知られているが、なかでも厚さ方向の抵抗を測定できることから体積固有抵抗が有用である。太陽電池用封止膜において優れた絶縁性を確保するには高い体積固有抵抗を有するのが望ましい。しかしながら、従来では体積固有抵抗の測定は、一般的には、室温(25℃)で行われており、このような温度雰囲気において高い体積固有抵抗を有する太陽電池用封止膜であっても、十分な絶縁性を確保することができない場合があった。
【0012】
本願発明者は、このような観点に着目し種々の検討を行った結果、60℃雰囲気において、所定の体積固有抵抗を有する太陽電池用封止膜であれば、高温環境下であっても優れた絶縁性を有することを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、エチレン−極性モノマー共重合体及び架橋剤を含む太陽電池用封止膜であって、60℃雰囲気における体積固有抵抗が1.0×1013〜5.0×1014Ω・cmであることを特徴とする太陽電池用封止膜により上記課題を解決する。
【0014】
本発明の太陽電池用封止膜の好ましい態様を以下に列記する。
【0015】
(1)前記エチレン−極性モノマー共重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合体である。
【0016】
(2)前記エチレン−酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル含有量が、前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して20〜28質量部である。
【0017】
(3)前記架橋剤の含有量が、前記エチレン−極性モノマー共重合体100質量部に対して、0.1〜1.0質量部である。
【0018】
(4)前記架橋剤が、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサンである。
【0019】
(5)さらに架橋助剤を、前記エチレン−極性モノマー共重合体100質量部に対して、0.1〜3.0質量部含む。
【0020】
(6)前記架橋助剤が、トリアリルシアヌレート及び/又はトリアリルイソシアヌレートである。
【0021】
(7)シランカップリング剤を、前記エチレン−極性モノマー共重合体100質量部に対して、0.1〜0.7質量部含む。
【0022】
(8)前記シランカップリング剤が、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高温環境下においても絶縁性に優れる太陽電池用封止膜を提供することが可能となる。したがって、このような太陽電池用封止膜を用いた太陽電池は、屋外など、高温に晒される極めて過酷な環境下に長期間に亘り設置されても、絶縁不良の発生が著しく低下され、優れた安全性及び信頼性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の太陽電池用封止膜は、60℃雰囲気において1.0×1013〜5.0×1014Ω・cmの体積固有抵抗を有することを特徴とする。このように、体積固有抵抗を60℃雰囲気で規定したのは、常温よりも体積固有抵抗の差が出やすく、封止膜の絶縁性能を評価しやすいためである。したがって、60℃雰囲気における体積固有抵抗が上記値を満たす太陽電池用封止膜であれば、60℃以上の高温環境下であっても優れた絶縁性を有する。
【0025】
本発明の太陽電池用封止膜は、60℃雰囲気における体積固有抵抗が、1.0×1013〜5.0×1014Ω・cmであるが、より好ましくは2.0×1013〜5.0×1014Ω・cm、特に好ましくは3.0×1014〜5.0×1014Ω・cmである。
【0026】
(エチレン−極性モノマー共重合体)
本発明の太陽電池用封止膜は、エチレン−極性モノマー共重合体及び架橋剤を含む。
【0027】
エチレン−極性モノマー共重合体の極性モノマーとしては、不飽和カルボン酸、その塩、そのエステル、そのアミド、ビニルエステル、一酸化炭素などを例示することができる。より具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸、これら不飽和カルボン酸のリチウム、ナトリウム、カリウムなどの1価金属の塩やマグネシウム、カルシウム、亜鉛などの多価金属の塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル等の不飽和カルボン酸エステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、一酸化炭素、二酸化硫黄などの一種又は二種以上などを例示することができる。
【0028】
エチレン−極性モノマー共重合体としてより具体的には、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体のようなエチレン−不飽和カルボン酸共重合体、前記エチレン−不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基の一部又は全部が上記金属で中和されたアイオノマー、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン−アクリル酸nブチル共重合体のようなエチレン−不飽和カルボン酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸イソブチル−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸nブチル−メタクリル酸共重合体のようなエチレン−不飽和カルボン酸エステル−不飽和カルボン酸共重合体及びそのカルボキシル基の一部又は全部が上記金属で中和されたアイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体のようなエチレン−ビニルエステル共重合体などを代表例として例示することができる。
【0029】
なかでも、エチレン−極性モノマー共重合体として、最も好ましくは、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が挙げられる。これにより、安価であり、高い透明性を有する太陽電池用封止膜が得られる。
【0030】
エチレン−酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニルの含有量は、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して20〜28質量部、さらに22〜28質量部、特に24〜28質量部とするのが好ましい。酢酸ビニルの含有量が、20質量部未満であると加工性が低下し、得られるフィルムが硬質になりすぎる恐れがあり、28質量部を超えると太陽電池用封止膜の体積固有抵抗や加工性が低下する恐れがある。
【0031】
(架橋剤)
本発明の太陽電池用封止膜は、エチレン−極性モノマー共重合体の他に、架橋剤を少なくとも含む。これにより、架橋の際の高い反応性を維持しながら、膜強度や耐久性に優れる太陽電池用封止膜を得ることができる。
【0032】
本発明において、上述した体積固有抵抗が所望の値を有する太陽電池用封止膜とするには、主に架橋剤の含有量および種類によって調整することができる。
【0033】
前記太陽電池用封止膜における架橋剤の含有量は、エチレン−極性モノマー共重合体100質量部に対して、好ましくは0.1〜1.0質量部、より好ましくは0.1〜0.7質量部、特に好ましくは0.3〜0.65質量部である。このような架橋剤の含有量とすることにより、体積固有抵抗を上述した所定の値とすることができ、優れた絶縁性を有する太陽電池用封止膜が得られる。
【0034】
前記架橋剤としては、接着力、透明性、耐湿性、耐貫通性の温度依存性が改善された封止膜が得られることから、有機過酸化物を用いるのが好ましい。
【0035】
前記有機過酸化物としては、100℃以上の温度で分解してラジカルを発生するものであれば、どのようなものでも使用することができる。有機過酸化物は、一般に、成膜温度、組成物の調整条件、硬化温度、被着体の耐熱性、貯蔵安定性を考慮して選択される。特に、半減期10時間の分解温度が70℃以上のものが好ましい。
【0036】
前記有機過酸化物としては、樹脂の加工温度・貯蔵安定性の観点から例えば、2,5−ジメチルヘキサン、2,5−ジハイドロパーオキサイド、3−ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン、ジクミルパーオキサイド、α,α'−ビス(tert−ブチルパーオキシソプロピル)ベンゼン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ブタン、tert−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、2,2−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(tert−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート;ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0037】
有機過酸化物として、特に好ましくは、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサンが挙げられる。この有機過酸化物であれば、優れた絶縁性を有する太陽電池用封止膜が得られる。
【0038】
(架橋助剤)
さらに、本発明の太陽電池用封止膜は、必要に応じて、架橋助剤を含んでいてもよい。前記架橋助剤は、エチレン−極性モノマー共重合体のゲル分率を向上させ、絶縁性を向上させることができる。また、上述した体積固有抵抗が所望の値を有する太陽電池用封止膜とするには、主に架橋助剤の含有量および種類を調整するのが好ましい。
【0039】
前記架橋助剤は、エチレン−極性モノマー共重合体100質量部に対して、好ましくは0.1〜3.0質量部、より好ましくは0.1〜1.0質量部で使用される。このような架橋助剤の含有量であれば、架橋助剤の添加によるガスの発生もなく、エチレン−極性モノマー共重合体のゲル分率を向上させることができる。
【0040】
前記架橋助剤(官能基としてラジカル重合性基を有する化合物)としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の3官能の架橋助剤の他、(メタ)アクリルエステル(例、NKエステル等)の単官能又は2官能の架橋助剤等を挙げることができる。なかでも、トリアリルシアヌレートおよび/またはトリアリルイソシアヌレートが好ましく、特にトリアリルイソシアヌレートが好ましい。
【0041】
(接着向上剤)
本発明の太陽電池用封止膜は、太陽電池内部の封止性能を考慮すると、優れた接着力を有するのが好ましい。したがって、前記太陽電池用封止膜は、接着向上剤をさらに含んでいるのがよい。
【0042】
前記接着向上剤としては、シランカップリング剤を用いることができる。これにより、優れた接着力を有する太陽電池用封止膜を形成することが可能となる。
【0043】
前記シランカップリング剤の含有量は、エチレン−極性モノマー共重合体100質量部に対して、0.1〜0.7質量部、特に0.3〜0.65質量部であることが好ましい。これにより安定した接着力と高い体積固有抵抗を有する太陽電池用封止膜が得られる。
【0044】
前記シランカップリング剤としては、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。なかでも、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが特に好ましく挙げられる。
【0045】
(その他)
本発明の太陽電池用封止膜は、膜の種々の物性(機械的強度、透明性等の光学的特性、耐熱性、耐光性、架橋速度等)の改良あるいは調整のため、必要に応じて、受酸剤、可塑剤、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及び/又はエポキシ基含有化合物などの各種添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0046】
前記受酸剤としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸化物又は複合金属水酸化物が用いられ、発生する酢酸の量、及び用途に応じ適宜選択することができる。前記受酸剤として、具体的には、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、硼酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、フタル酸カルシウム、亜燐酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、メタホウ酸カルシウム、メタホウ酸バリウムなどの周期律表第2族金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、珪酸塩、硼酸塩、亜燐酸塩、メタホウ酸塩など;酸化錫、塩基性炭酸錫、ステアリン酸錫、塩基性亜燐酸錫、塩基性亜硫酸錫、四酸化三鉛、酸化ケイ素、ステアリン酸ケイ素などの周期律表第14族金属の酸化物、塩基性炭酸塩、塩基性カルボン酸塩、塩基性亜燐酸塩、塩基性亜硫酸塩など;酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化鉄;ハイドロタルサイト類等の複合金属水酸化物;水酸化アルミニウムゲル化合物;などが挙げられる。これらは一種単独で用いられてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
前記太陽電池用封止膜において、受酸剤の含有量は、エチレン−極性モノマー共重合体100質量部に対して、好ましくは0.01〜0.15質量部とするのがよい。
【0048】
前記可塑剤としては、特に限定されるものではないが、一般に多塩基酸のエステル、多価アルコールのエステルが使用される。その例としては、ジオクチルフタレート、ジヘキシルアジペート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、ブチルセバケート、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、トリエチレングリコールジペラルゴネートを挙げることができる。可塑剤は一種用いてもよく、二種以上組み合わせて使用しても良い。可塑剤の含有量は、エチレン−極性モノマー共重合体100質量部に対して5質量部以下の範囲が好ましい。
【0049】
前記アクリロキシ基含有化合物及び前記メタクリロキシ基含有化合物としては、一般にアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体であり、例えばアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルやアミドを挙げることができる。エステル残基の例としては、メチル、エチル、ドデシル、ステアリル、ラウリル等の直鎖状のアルキル基、シクロヘキシル基、テトラヒドルフルフリル基、アミノエチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−クロロ−2−ヒドロキシプオピル基を挙げることができる。アミドの例としては、ジアセトンアクリルアミドを挙げることができる。また、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルも挙げることができる。
【0050】
前記エポキシ含有化合物としては、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、フェノール(エチレンオキシ)5グリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、グリシジルメタクリレート、ブチルグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0051】
前記アクリロキシ基含有化合物、前記メタクリロキシ基含有化合物、または前記エポキシ基含有化合物は、それぞれエチレン−極性モノマー共重合体100質量部に対してそれぞれ一般に0.5〜5.0質量部、特に1.0〜4.0質量部含まれていることが好ましい。
【0052】
さらに、前記太陽電池用封止膜は、紫外線吸収剤、光安定剤および老化防止剤を含んでいてもよい。
【0053】
本発明の太陽電池用封止膜が紫外線吸収剤を含むことにより、照射された光などの影響によってエチレン−極性モノマー共重合体が劣化し、太陽電池用封止膜が黄変するのを抑制することができる。前記紫外線吸収剤としては、特に制限されないが、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく挙げられる。なお、上記ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の配合量は、エチレン−極性モノマー共重合体100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましい。
【0054】
本発明の太陽電池用封止膜が光安定剤を含むことによっても、照射された光などの影響によってエチレン−極性モノマー共重合体が劣化し、太陽電池用封止膜が黄変するのを抑制することができる。前記光安定剤としてはヒンダードアミン系と呼ばれる光安定剤を用いることが好ましく、例えば、LA−52、LA−57、LA−62、LA−63LA―63p、LA−67、LA−68(いずれも(株)ADEKA製)、Tinuvin744、Tinuvin 770、Tinuvin 765、Tinuvin144、Tinuvin 622LD、CHIMASSORB 944LD(いずれもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)社製)、UV−3034(B.F.グッドリッチ社製)等を挙げることができる。なお、上記光安定剤は、単独で使用しても、2種以上組み合わせて用いてもよく、その配合量は、エチレン−極性モノマー共重合体100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましい。
【0055】
前記老化防止剤としては、例えばN,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナミド〕等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤、ラクトン系熱安定剤、ビタミンE系熱安定剤、イオウ系熱安定剤等が挙げられる。
【0056】
上述した本発明の太陽電池用封止膜は、エチレン−極性モノマー共重合体及び架橋剤を含む組成物を常法に従って成膜することにより、容易に製造することができる。例えば、前記組成物を、押出成形、カレンダー成形で加熱圧延して成膜するなどによって太陽電池用封止膜を製造することができる。尚、製膜時の加熱温度は、架橋剤が反応しない或いはほとんど反応しない温度とすることが好ましい。例えば、40〜90℃、特に50〜80℃とするのが好ましい。その後に、加熱加圧など常法に従って太陽電池用封止膜を封止のために架橋硬化させればよい。
【0057】
太陽電池用封止膜の厚さは、特に制限されないが、50μm〜2mmの範囲であればよい。
【0058】
本発明によれば、高温環境下において絶縁性に優れる太陽電池用封止膜を提供することが可能となる。前記太陽電池用封止膜を用いた太陽電池は、屋外など、高温に晒される極めて過酷な環境下に長期間に亘り設置されても、絶縁不良の発生が著しく低下され、優れた安全性及び信頼性を有する。
【0059】
本発明による太陽電池用封止膜を用いた太陽電池の構造は、特に制限されないが、表面側透明保護部材と裏面側保護部材との間に、前記太陽電池用封止膜を介在させ、架橋一体化させることにより太陽電池用セルが封止させた構造などが挙げられる。なお、本発明において、太陽電池用セルに対して受光面側を「表面側」と称し、太陽電池セルの受光面とは反対面側を「裏面側」と称する。
【0060】
前記太陽電池において、太陽電池用セルを十分に封止するには、図1に示すように表面側透明保護部材11、表面側封止膜13A、太陽電池用セル14、裏面側封止膜13B及び裏面側保護部材12を積層し、加熱加圧など常法に従って、封止膜を架橋硬化させればよい。
【0061】
前記加熱加圧するには、例えば、前記積層体を、真空ラミネータで温度135〜180℃、さらに140〜180℃、特に155〜180℃、脱気時間0.1〜5分、プレス圧力0.1〜1.5kg/cm2、プレス時間5〜15分で加熱圧着すればよい。この加熱加圧時に、表面側封止膜13Aおよび裏面側封止膜13Bに含まれるエチレン−極性モノマー共重合体を架橋させることにより、表面側封止膜13Aおよび裏面側封止膜13Bを介して、表面側透明保護部材11、裏面側透明部材12、および太陽電池用セル14を一体化させて、太陽電池用セル14を封止することができる。
【0062】
本発明の太陽電池に使用される表面側透明保護部材は、通常、珪酸塩ガラスなどのガラス基板であるのがよい。ガラス基板の厚さは、0.1〜10mmが一般的であり、0.3〜5mmが好ましい。ガラス基板は、一般に、化学的に、或いは熱的に強化させたものであってもよい。
【0063】
また、裏面側保護部材は、PETなどのプラスチックフィルムであるが、耐熱性、耐湿熱性を考慮してフッ化ポリエチレンフィルム、特にフッ化ポリエチレンフィルム/Al/フッ化ポリエチレンフィルムをこの順で積層させたフィルムが好ましい。
【0064】
なお、本発明の太陽電池は、上述した通り、表面側および裏面側に用いられる封止膜に特徴を有する。したがって、表面側透明保護部材、裏面側保護部材及び太陽電池用セルなどの前記封止膜以外の部材については、従来公知の太陽電池と同様の構成を有していればよく、特に制限されない。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例により説明する。本発明は、以下の実施例により制限されるものではない。
【0066】
(実施例1)
(1)エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA100質量部に対する酢酸ビニル(VA)含有量20質量部)100質量部
(2)架橋剤1(2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン)1.0質量部
(3)架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート)2.0質量部
(4)添加剤 (γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)0.5質量部
上記配合のEVA組成物を用いて、80℃でカレンダー成形して、EVA膜(厚さ600μm)を製膜した。
【0067】
(実施例2〜7及び比較例1〜4)
架橋剤1の他、架橋剤2(tert−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート)を用い、それぞれ表1及び2に示す配合とした以外は、実施例1と同様にしてEVA組成物を調製してEVA膜を成膜した。
【0068】
(評価)
各実施例および比較例で作製したEVA膜の評価を下記手順に従って行った。結果は、まとめて表1及び2に示す。
【0069】
1.体積固有抵抗
リングタイプ電極(三菱化学株式会社製 UR−100プローブ)に、60℃雰囲気下、100mm×100mmの大きさに打ち抜いたEVA膜を設置して、1000Vの電圧を印加し、高抵抗計(三菱化学株式会社製 ハイレスターUPMCP−HT450)にて1分後の抵抗値を測定し、その値をもとに体積固有抵抗値を算出した。
【0070】
2.絶縁抵抗
(1)擬似太陽電池モジュールの作製
230mm×230mmの大きさに打ち抜いたEVA膜を、表面側封止膜23A及び裏面側封止膜23Bとして用い、図2に示すように、裏面側封止膜23Bと、銅箔24A及び24Bと、表面側封止膜23Aと、ガラス基板(厚さ3mm)21とが、この順で且つ銅箔24A及び24Bが封止された状態となるように積層させ、得られた積層体を90℃雰囲気下に10分間設置することにより各封止膜を予備成形させた後、さらに155℃で45分間加熱することにより各封止膜を架橋させ、擬似太陽電池モジュールを作製した。
【0071】
(2)60℃の雰囲気下での絶縁抵抗の測定
上記で作製した擬似太陽電池モジュールを60℃雰囲気下に設置し、高電圧絶縁抵抗計(ハイビットメガ1405(D1−11N) 株式会社ムサシインテック製)を使用し、1000Vの電圧を印加して1分後の銅箔24Aと銅箔24Bとの間の抵抗を測定することにより、裏面側封止膜23Bの絶縁抵抗を測定した。
【0072】
3.加工性
EVA膜の加工性として、EVA膜作製時のカレンダー成形する際の製膜性及び太陽電池モジュールを作製する際の成形性を評価した。なお、EVA膜作製時のカレンダー成形する際の製膜性は、EVA膜のカレンダーへの貼り付きや所望の厚さへの加工し易さに基づき判断し、太陽電池モジュールを作製する際の成形性は、モジュール作製時にEVA膜のはみ出しの有無に基づき判断した。
【0073】
表1及び2において、EVA膜作製時のカレンダー成形する際の製膜性及び太陽電池モジュールを作製する際の成形性が、双方とも優れていたものを「◎」とし、いずれか一方のみが優れていたものを「○」とし、双方とも劣悪だったものを「×」とした。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
表1及び2から、実施例1〜7のEVA膜は、比較例1〜4のEVA膜に対して、60℃雰囲気下での架橋硬化後の絶縁抵抗が優れていることが分かる。このことから、本発明のEVA膜を用いて作製された太陽電池では、前記EVA膜が高温環境下であっても優れた絶縁抵抗を発揮することができ、これにより漏電などのリスクを軽減して高い安全性が確保され、さらに太陽電池用セルを流れる電流が他の部材へ流れることを抑制して優れた発電効率を有する太陽電池を提供することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】一般的な太陽電池の断面図を示す。
【図2】実施例で作製した擬似太陽電池モジュールの断面図である。
【符号の説明】
【0078】
11 表面側透明保護部材、
12 裏面側保護部材、
13A、23A 表面側封止膜、
13B、23B 裏面側封止膜、
14 太陽電池セル、
21 ガラス基板、
24A及び24B 銅箔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−極性モノマー共重合体及び架橋剤を含む太陽電池用封止膜であって、
60℃雰囲気における体積固有抵抗が1.0×1013〜5.0×1014Ω・cmであることを特徴とする太陽電池用封止膜。
【請求項2】
前記エチレン−極性モノマー共重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項3】
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル含有量が、前記エチレン酢酸ビニル共重合体100質量部に対して20〜28質量部であることを特徴とする請求項2に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項4】
前記架橋剤の含有量が、前記エチレン−極性モノマー共重合体100質量部に対して0.1〜1.0質量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項5】
前記架橋剤が、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項6】
さらに架橋助剤を、前記エチレン−極性モノマー共重合体100質量部に対して0.1〜3.0質量部含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項7】
前記架橋助剤が、トリアリルシアヌレート及び/又はトリアリルイソシアヌレートであることを特徴とする請求項6に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項8】
さらにシランカップリング剤を、前記エチレン−極性モノマー共重合体100質量部に対して0.1〜0.7質量部含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項9】
前記シランカップリング剤が、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項8に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項10】
表面側透明保護部材と裏面側保護部材との間に封止膜を介在させ、架橋一体化させることにより太陽電池用セルを封止してなる太陽電池において、
前記封止膜が、請求項1〜9のいずれか1項に記載の太陽電池用封止膜であることを特徴とする太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−205448(P2008−205448A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11641(P2008−11641)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】