説明

太陽電池用裏面保護シート

【課題】太陽電池モジュールの裏面保護シートにおいて、透明性を有し、屋外に設置してもシート内の密着低下やシートの黄変を抑制させた太陽電池用裏面保護シートを提供すること。
【解決手段】透明基材フィルム1の少なくとも一方の面上に、少なくとも無機酸化物層2、接着層4−1、電気絶縁層3−1を順次積層してなる太陽電池用裏面保護シートにおいて、前記透明基材フィルム1がポリエチレンナフタレートからなり、前記無機酸化物層2の膜厚が50Å以上3000Å以下であり、前記接着層3−1が該接着層を構成する樹脂固形分100重量部に対し有機系の紫外線吸収剤を0.1重量部以上10重量部以下含有することを特徴とする太陽電池裏面保護シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明型太陽電池モジュールにおける裏面保護に使用するための太陽電池用裏面保護シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電に使用される太陽電池は、太陽光のエネルギーを直接電気に換える太陽光発電システムの心臓部を構成するものであり、半導体からできている。その構造としては、太陽電池素子単体をそのままの状態で使用することはなく、一般的に数枚〜数十枚の太陽電池素子を直列、並列に配線し、長期間に亘って素子を保護するために種々パッケージングが行われ、ユニット化されている。このパッケージに組み込まれたユニットを太陽電池モジュールと呼び、一般的に太陽光が当たる面をガラスで覆い、熱可塑性プラスチックからなる充填材で間隙を埋め、裏面を耐熱、耐候性プラスチック材料などからなる白色シートで保護された構成になっている。
【0003】
近年では、建築物に要求されるデザインの多様性に対応し、建築物の屋根の上のみではなく、採光性や視認性を向上させるために、建築物の内部に光を取り入れることの可能な透光性を有する透明型太陽電池セルを使用した太陽電池モジュールが必要となった。
【0004】
これらの太陽電池モジュールは、屋外で使用されるため、使用される材料及びその構成などにおいて、十分な耐久性、耐候性が要求される。特に、裏面保護シートは耐候性と共に水蒸気透過率の小さいことが要求される。これは水分の透過によりユニット内の充填材が剥離、変色したり、配線の腐蝕を起こした場合、モジュールの出力そのものに悪影響を及ぼすためである。
【0005】
従来、太陽電池用裏面保護シート(以下、単に保護シートということがある)としては、白色のポリフッ化ビニルフィルムでアルミニウム箔をサンドイッチした積層構成のシートが多く用いられていた。しかし、このポリフッ化ビニルフィルムは機械的強度も弱く、太陽電池モジュール作成時に加えられる140℃〜150℃の熱プレスの熱により軟化し、太陽電池素子電極部の突起物が充填材層を貫通し、さらに裏面保護シートを構成する内面のポリフッ化ビニルフィルムを貫通し保護シート中のアルミニウム箔に接触することにより、太陽電池素子とアルミニウム箔が短絡して電池性能に悪影響を及ぼす等などの欠点があり、この問題を改善すべくアルミニウム箔の代替としてポリエステル基材に酸化珪素膜や金属酸化物膜を積層させ水蒸気透過性を抑制させたフィルムを使用することが提案されている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
しかし、屋外のアーケードや壁面に設置される透明型太陽電池においては、透明な太陽電池セルを透過してきた紫外線や風雨にさらされることでポリエステルフィルムの加水分解による脆化による保護シート内密着力の低下やポリエステルフィルムの黄変による概観不良、出力低下といった問題がある。ポリエステルフィルムの脆化に関しては汎用性のあるポリエチレンテレフタレートからポリエチレンナフタレートに代替することで改善されている。黄変に関しては、例えばガラス基材に紫外線吸収剤を添加することでポリエステルフィルムの黄変を抑制させる効果はある。しかし、無色透明でガラス基材に使用できる紫外線吸収剤は限られており385nmの波長を吸収することは困難であり結果として透明型太陽電池のポリエチレンナフタレートの黄変を抑制することはできなかった。
【特許文献1】特開2002−134771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、太陽電池モジュールの裏面保護シートにおいて、透明性を有し、屋外に設置してもシート内の密着低下やシートの黄変を抑制させた太陽電池用裏面保護シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、透明基材フィルムの少なくとも一方の面上に、少なくとも無機酸化物層、接着層、電気絶縁層を順次積層してなる太陽電池用裏面保護シートにおいて、
前記透明基材フィルムがポリエチレンナフタレートからなり、
前記無機酸化物層の膜厚が50Å以上3000Å以下であり、
前記接着層が該接着層を構成する樹脂固形分100重量部に対し有機系の紫外線吸収剤を0.1重量部以上10重量部以下含有する、
ことを特徴とする太陽電池裏面保護シートである。
請求項2に記載の発明は、光の波長550nmにおける透過率が45%以上であり、光の波長385nmにおける透過率が10%以下であることを特徴とする請求項1記載の太陽電池用裏面保護シートである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、太陽電池モジュールの裏面保護シートにおいて、透明性を有し、屋外に設置してもシート内の密着低下やシートの黄変を抑制させた太陽電池用裏面保護シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の太陽電池用裏面保護シートを図面に基づき詳細に説明する。なお、本発明の保護シートの構成は図1に限定されるものではない。図1では本発明の保護シートの一実施例の断面の構造を示し、透明基材フィルム1の少なくとも一方の面上に、少なくとも無機酸化物層2、接着層4−1、電気絶縁層3−1が順次積層されている。また、透明基材フィルム1の他方の面上にも、接着層4−2、電気絶縁層3−2が順次積層されている。
【0011】
本発明における透明基材フィルム1としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム等が用いられ、延伸、未延伸のどちらでも良く、また機械的強度や寸法安定性を有するものが良い。特に二軸方向に任意に延伸されたポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられてきたが、空気中の水分などによる加水分解による、フィルムの脆化などの懸念からポリエチレンナフタレートフィルムが好適である。また、この透明基材フィルム1の表面に、周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤などが使用されていても良い。
【0012】
透明基材フィルム1の厚さはとくに制限を受けるものではないが、無機酸化物層2の成形の加工性、または電気絶縁性フィルムを積層させることを考慮すると、6〜125μmとすることが好ましい。
【0013】
本発明による無機酸化物層2は、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化錫、酸化マグネシウム、あるいはそれらの混合物などの無機酸化物の蒸着膜からなり、透明性を有しかつ酸素、水蒸気等のガスバリア性を有するものであればよい。その中では、特に酸化珪素が好ましい。ただし本発明の無機酸化物層2は、上述した無機酸化物に限定されず、上記条件に適合する材料であれば用いることができる。
【0014】
無機酸化物層2の厚さは、用いられる無機化合物の種類、構成により最適条件が異なるが、一般的には50〜3000Åの範囲内が望ましく、その値は適宜選択される。ただし膜厚が50Å未満であると均一な膜が得られないことや膜厚が十分ではないことがあり、ガスバリア材としての機能を十分に果たすことができない場合がある。また膜厚が3000Åを越える場合は無機酸化物層2にフレキシビリティを保持させることができず、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、無機酸化物層2に亀裂を生じるおそれがある。好ましくは、100〜1500Åの範囲内である。
【0015】
無機酸化物層2を透明基材フィルム1上に形成する手段としては各種手段が可能であるが、真空蒸着法により形成することが一般的である。この真空蒸着法以外の手段としてスパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)などを用いることもできる。但し生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。この真空蒸着法による真空蒸着装置の加熱手段としては電子線加熱方式、抵抗加熱方式、 誘導加熱方式のいずれかを適宜用いればよい。また無機酸化物層2と透明基材フィルム1の密着性及び無機酸化物層2の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を用いることも可能である。また、無機酸化物層2の透明性を上げるために蒸着の際、酸素ガスなど吹き込んだりする反応蒸着を行っても構わない。
【0016】
透明基材フィルム1と無機酸化物層2の間に密着性を向上させるためにプライマー層を設けてもかまわない。上記目的達成のためにプライマー層として、有機官能基を有するシランカップリング剤あるいはその加水分解物と、ポリオール及びイソシアネート化合物等との複合物が好適である。
【0017】
本発明における電気絶縁性層3−1,3−2は透明性、耐熱性、耐候性、難燃性を有するフッ素系樹脂としてフッ化ビリニデン樹脂、フッ化ビニル樹脂、パーフルオロアルコキシ樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、パーフルオロエチレン−パーフルオロプロピレン−パーフルオロビニルエーテル三元共重合体、エチレン−四フッ化エチレン共重合体が好適に用いられる。ポリエステルフィルムとして、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルムを使用することができる。電気絶縁性層3−1,3−2として使用される上記フッ素系フィルム及びポリエステルフィルムは従来公知の製造方法に従って製造することができる。
【0018】
電気絶縁性層3−1,3−2の厚さはとくに制限を受けるものではなく、総厚を増すことによって電気絶縁性を向上させることができるが、総厚があまり厚過ぎると太陽電池モジュール製造時の作業性が悪くなるので10〜1000μmの間で必要とされる電気絶縁性を考慮して任意に選択すれば良い。
【0019】
電気絶縁性層3−1,3−2の積層方法としては、接着剤を用いてドライラミネート法などの公知の積層方法で積層することができる。
【0020】
接着層4−1,4−2に使用する材料としては、電気絶縁性層3−1,3−2および透明基材フィルム1間の接着強度が長期間の屋外使用で劣化によるデラミネーションなどを生じないこと、接着剤が黄変しないことが必要であり、例えば、ポリウレタン系接着剤などの接着剤および有機系の紫外線吸収剤が使用できる。上記の接着層4−1,4−2は、例えば、ロ−ルコ−ト法、グラビアロ−ルコ−ト法、キスコ−ト法、その他等のコ−ト法、あるいは、印刷法等によって施すことができ、そのコ−ティング量としては、0.1〜10g/m2(乾燥状態)位が望ましい。
【0021】
本発明における接着層4−1,4−2に添加できるトリアジン系紫外線吸収剤としては、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−イソ−オクチルオキシフェニル)−s−トリアジンが使用でき、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−イル)−4,6−ジ−tert−ペンチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノールなど、これらを単独で又は複数を混合して紫外線吸収能力や吸収する波長を考慮して任意に選択すれば良い。
【0022】
本発明における接着層4−1,4−2への紫外線吸収剤の添加量は、接着層を構成する樹脂固形分100重量部に対し0.1重量部以上10重量部以下、好ましくは1重量部以上5重量部以下である。0.1重量部未満であると紫外線を吸収しきれず、透明基材フィルム(PEN)に吸収される紫外線量が増え、透明基材フィルム(PEN)の黄変が起こる。10重量部より多いとブリードアウトが起こる。ブリードアウトにより紫外線吸収剤が析出することにより、接着層と無機酸化物層、接着層と電気絶縁層の密着性が劣る。
【0023】
また本発明の保護シートは、光の波長550nmにおける透過率が45%以上であり、光の波長385nmにおける透過率が10%以下であることが好ましい。光の波長550nmにおける透過率が45%未満であると透明性が劣り、透明型太陽電池モジュールとして窓などに設置した場合、建築物の内部に光を取り入れることができない。また光の波長385nmにおける透過率が10%より大きいと透明基材フィルム(PEN)の黄変を抑えることができない。なお本発明でいう透過率とは、JIS K 7361により測定される。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0025】
実施例1
透明基材フィルムとして厚さ12μmのポリエチレンナフタレート(帝人デュポン(株)、商品名:テオネックス)フィルムの片面に、電子線加熱方式による真空蒸着装置を用い、厚さ400Åの酸化珪素膜からなる無機酸化物層を形成した。
電気絶縁層を構成する電気絶縁性フィルムとして、厚さ50μmのポリフッ化ビニルフィルム(デュポン(株)、商品名:テドラー)を用いた。また接着層として、2液硬化型ポリウレタン系接着剤(三井化学ポリウレタン(株)、商品名:タケラック)の固形分100重量部に対して、トリアジン系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)、商品名:Tinuvin)を2重量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BASFジャパン(株)、商品名:Uvinul)を3重量部を添加したものを用いた。
透明基材フィルムの表裏各々に、前記接着層および電気絶縁層の順で、かつ前記接着層が透明基材フィルムと接するように、ドライラミネート法により積層した。なお、接着層の塗布量は5g/m(乾燥状態)とした。以上のようにして本発明の保護シ−トを作成した。
【0026】
比較例1
実施例1において接着剤に紫外線吸収剤を添加しない以外は実施例1と同様にして保護シートを作製した。
【0027】
比較例2
実施例1において透明基材フィルムとして厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(東レ(株)、商品名:ルミラー)を使用した以外は実施例1と同様にして保護シートを作製した。
【0028】
<性能比較1>
以上のように作製した実施例および比較例1、2の保護シートについて、耐候性評価をするために耐候促進試験(メタルハライドランプ方式試験機 JTM G 01 2000日本試験機工業会規格)を行った。試験機は、ダイプラ・メタルウェザー(KU−R5CI−A:ダイプラ・ウィンテス株式会社製)を用いた。
【0029】
耐候促進試験条件は、光源ランプ:MW−60W、フィルター:KF−1(照射範囲295nmから780nm)照度65±3mW/cm(測定域 330nmから390nm)でLIGHTモード(53℃,50%RH)で無機酸化物層のある側から照射を24時間行った。照射後のサンプルを目視で黄変度を評価した(12時間後および24時間後)。○:変化なし、△:やや黄変、×:黄変。
【0030】
<性能比較2>
作製した実施例1、および比較例1、2の保護シートついて、85℃85%環境下で500時間放置後に透明基材フィルムと電気絶縁層との間を幅15mmで剥離角度180度、剥離速度300mm/minで剥離させ、高温高湿環境下に放置前後のラミネート強度を測定した。
性能比較1と性能比較2の結果を表1に示した。
【0031】
[表1]


【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明により、透明型太陽電池モジュールにおける裏面保護に使用するための太陽電池用裏面保護シートにおいて、特に耐黄変性、電気絶縁性、耐熱性に優れ、かつ耐候性、耐水性、防湿性等の諸特性に優れ、極めて耐久性に富み、保護能力性に優れた太陽電池モジュ−ル用裏面保護シ−トを提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の太陽電池用裏面保護シートの一実施例の断面の構造を示す説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1…基材フィルム
2…無機酸化物層
3…電気絶縁層
4…接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムの少なくとも一方の面上に、少なくとも無機酸化物層、接着層、電気絶縁層を順次積層してなる太陽電池用裏面保護シートにおいて、
前記透明基材フィルムがポリエチレンナフタレートからなり、
前記無機酸化物層の膜厚が50Å以上3000Å以下であり、
前記接着層が該接着層を構成する樹脂固形分100重量部に対し有機系の紫外線吸収剤を0.1重量部以上10重量部以下含有する、
ことを特徴とする太陽電池裏面保護シート。
【請求項2】
光の波長550nmにおける透過率が45%以上であり、光の波長385nmにおける透過率が10%以下であることを特徴とする請求項1記載の太陽電池用裏面保護シート。

【図1】
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【公開番号】特開2008−270647(P2008−270647A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114089(P2007−114089)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】