説明

太陽電池用裏面保護シート

【課題】優れた耐侯性を有するとともに、優れた耐水蒸気バリア性を備え、太陽電池パネルを製造する時の熱プレス成型や真空圧空成型の組み付け成型時に伴う多少の熱歪みや屈曲があっても水蒸気ガスバリア性が損なわれることのない柔軟性を有する太陽電池用裏面保護シート
を提供する。
【解決手段】少なくとも1層からなる基材フィルム1と、該基材フィルムの片側又は両側に配置されるアルミニウム箔2と、該アルミニウム箔の前記基材フィルムが配置された面とは反対面側に配置される少なくとも1層からなる1以上のコート層3とを有してなる太陽電池用裏面保護シートであって、前記コート層が、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとからなる樹脂成分を有する液状体の塗膜を硬化してなる3元共重合体層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐侯性を有するとともに、優れた耐水蒸気バリア性を備え、太陽電池パネルを製造する時の熱プレス成型や真空圧空成型の組み付け成型時に伴う多少の熱歪みや屈曲があっても水蒸気ガスバリア性が損なわれることのない柔軟性を有する太陽電池用裏面保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池モジュールを構成する裏面保護シートとして、いくつかの構成が提案されている。これらのシートは、シートに水蒸気、酸素ガス等のガスバリア性や耐侯性を付与する工夫として、特性の異なるフィルムをそれぞれ接着剤で貼り合せ多層化したものが主流に用いられてる。
【0003】
例えば、特許文献1には、所定の体積抵抗率を有する電気絶縁性ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと、金属酸化物蒸着ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム又はアルミニウム箔等の水蒸気遮断性金属質フィルムと、光遮断性のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムとを、ポリウレタン系接着剤で接着した太陽電池用の裏面保護シートが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、基材フィルム上に無機酸化物からなる蒸着層を設けたガスバリア性蒸着フィルムと、電気絶縁性等を有するポリエステルフィルムとを積層した太陽電池用の裏面保護シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−224761号公報
【特許文献2】特開2006−253264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示のようにアルミニウム箔をガスバリアフィルムとして用いる場合、実用上十分なガスバリア性を得るためには、シートのガスバリア性の確保をアルミニウム箔のみに依存する場合、30μm以上の厚みを有するアルミニウム箔を使用する必要がある。しかしながら、アルミニウムと、アルミニウム箔に隣接する樹脂層を構成する樹脂とでは、熱膨張率に大きな差があるので、アルミニウム箔の厚みが30μmを超えると、太陽電池モジュールを製造する時にシートに加えられる150℃程度の熱プレスの熱により、アルミニウム箔に隣接する樹脂フィルム層とアルミニウム箔との熱膨張量の差が顕著になる。そのため、熱シール後の裏面保護シートに変形が生じる場合がある。
【0007】
また、裏面保護シートの封止加工時に打ち抜き穴を形成するが、アルミニウム箔の厚みが30μmを超えると、打ち抜き時の剪断応力を受けてアルミニウム箔が変形して穴側面にアルミニウムがはみ出す場合がある。このような場合、穴側にはみ出したアルミニウムが太陽電池セルの電極に接触して、太陽電池素子の性能が不良となるおそれがある。
さらに、アルミニウム箔の厚みが厚くなると、保護シート自体のフレキシブル性が低下し作業性が悪くなる。
【0008】
一方、上記特許文献2に開示の裏面保護シートでは、ポリビニルアルコール(PVA)など水溶性高分子と1種類以上の金属アルコキシド及び/又はその加水分解物からなる複合物によるコート層を無機酸化物蒸着膜の上に設けることで、ガスバリア性を確保している。しかし、かかる裏面保護シートでは、PVAなどの高分子は水蒸気ガスバリア性が十分ではないことと、紫外線により主鎖であるC−C結合が切れ易い為、劣化は避けられず、酸化物蒸着膜との組み合わせ構成なしには、単体でのガスバリア性及びその耐侯性の長期信頼性において問題が生じる。また、かかる裏面保護シートでは、基材フィルム表面に酸化物蒸着膜を形成するために、大掛かりな真空系の設備が必要になり、さらに、酸化物蒸着膜形成後に水溶性高分子と金属アルコキシド及び/又はその加水分解物からなる複合物のコーティングを行うという工程が必要になるために製造工程が多くなる。これらにより、係るシートでは、製造コストが高くなるという問題が生じる。
【0009】
また、上記いずれのシートにおいても、耐侯性を付与するために、耐侯性を有する樹脂フィルム、例えばフッ素系樹脂又はオレフィン系樹脂などを上述のガスバリア層(基材フィルム)の片面又は両面へ接着剤などを用いて貼り合わせている。これらの樹脂フィルムは、いずれも紫外線により樹脂成分の主鎖となるC−C結合が切られ易いため、樹脂フィルムの劣化が避けられず、紫外線による耐侯性樹脂フィルムの劣化と共にそのガスバリア性も劣化する。そして、かかるガスバリア性の劣化に伴って、外部より裏面保護シート内部へ水蒸気が侵入して、基材フィルムと接着している接着層の接着剤が加水分解して劣化するため、基材フィルムと耐侯性樹脂フィルムの剥離等が発生するという問題がある。
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、耐候性、ガスバリア性、柔軟性を同時に満足することのできる太陽電池用裏面保護シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、下記構成を採用した太陽電池用裏面保護シートを提供する。
【0012】
[1] 少なくとも1層からなる基材フィルムと、該基材フィルムの片側又は両側に配置されるアルミニウム箔と、該アルミニウム箔の前記基材フィルムが配置された面とは反対面側に配置される少なくとも1層からなる1以上のコート層とを有してなる太陽電池用裏面保護シートであって、
前記コート層が、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとからなる樹脂成分を有する液状体の塗膜を硬化してなる3元共重合体層である太陽電池用裏面保護シート。
[2] 前記金属アルコキシドは、一般式:YM(OR)、YRM(OR)、YRM(OR)(式中、Mは金属、Rはアルキル基、Yは反応性を有する官能基を示す)で表される化合物であることを特徴とする上記[1]に記載の太陽電池用裏面保護シート。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる太陽電池用裏面保護シートは、基材フィルム上にアルミニウム箔を積層し、かつ該アルミニウムを前記基材フィルムとともに挟み込むように所定のコート層を形成積層構造を有しているので、耐侯性、ガスバリア性、柔軟性を同時に満足し、実用性に優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明に係る太陽電池用裏面保護シートの一例を示す断面構成図である。
【図2】図2は、本発明に係る太陽電池用裏面保護シートの変形例1を示す断面構成図である。
【図3】図3は、本発明に係る太陽電池用裏面保護シートの変形例2を示す断面構成図である。
【図4】図4は、本発明に係る太陽電池用裏面保護シートのコート層を構成する3元共重合体の特性を説明するための模式図である。
【図5】図5は、従来の太陽電池用裏面保護シートの複合系コート層を構成する重合体の特性を説明するための模式図である。
【図6】図6は、本発明に係る太陽電池用裏面保護シートのコート層を構成する3元共重合体の自己修復特性を説明するための模式図である。
【図7】図7は、本発明で使用する液状体の材料として使用した市販品エマルション主剤の乾燥塗膜の赤外線全反射吸収スペクトルを示す図である。
【図8】図8は、実施例1で作成した3元共重合体層の赤外線全反射吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る太陽電池用裏面保護シートは、少なくとも1層からなる基材フィルムと、該基材フィルムの片側又は両側に配置されるアルミニウム箔と、該アルミニウム箔の前記基材フィルムが配置された面とは反対面側に配置される少なくとも1層からなる1以上のコート層とを有してなる太陽電池用裏面保護シートであって、前記コート層が、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとからなる樹脂成分を有する液状体の塗膜を硬化してなる3元共重合体層であることを特徴とする。
【0016】
上記の「反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとからなる樹脂成分を有する液状体」とは、前記3種のモノマーのみからなる樹脂成分を所定の濃度(好ましくは、最終的に濃度50重量%)で含む水系エマルション、及び前記3種のモノマーのみからなる樹脂成分を非水系の溶媒に溶解した樹脂溶液を意味する。
【0017】
上記基材フィルムは、1層構成でもよく、2層以上の多層構成でもよい。かかる1層又は2層以上の多層構成の基材フィルムの片側又は両側には、水蒸気、酸素ガス等のガスバリアフィルムとしてのアルミニウム箔が配置される。前記基材フィルムとともにアルミニウム箔を挟みこむように、少なくとも1層からなるコート層が1または2形成される。形成されるコート層は、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとからなる樹脂成分を有する液状体の塗膜を重合、硬化させた3元共重合体層である。前記塗膜は1層に形成してもよいし、多層に形成してもよい。
【0018】
上記基材フィルムを多層構成とする場合は、各基材フィルム間にシラン系接着剤層を介装することが好ましい。
また、上記少なくとも1層からなる基材フィルムの少なくとも1層は無機酸化物蒸着膜付きフィルムとすることが好ましい。すなわち、基材フィルムが1層からなる場合は、その1層のフィルムが無機酸化物蒸着膜付きフィルムであることが好ましい。そして、基材フィルムを多層構成とする場合は、その内の少なくとも1層を無機酸化物蒸着膜付きフィルムとすることが好ましく、その場合は各層間にシラン系接着剤を介装して各層を接着する。
【0019】
図1は、本発明の太陽電池バックシートの一実施形態を示す断面構造である。図2は、本発明の太陽電池バックシートの一実施形態の変形例1を示す断面構造である。図3は、本発明の太陽電池バックシートの一実施形態の変形例2を示す断面構造である。図1では、基材フィルム1は1層構成であり、この基材フィルムの片側にアルミニウム箔2を配置し、このアルミニウム箔2を挟むように1層構成のコート層3を形成した積層構造の場合を示している。本発明は、図1の一実施の形態に加え、図2および図3に示すような積層構造を有する構成であってもよい。図2では、1層構成の基材フィルム1の両側にアルミニウム箔2を配置し、このアルミニウム箔2の基材フィルム1が配置された面とは反対面側に1層構成のコート層3をそれぞれ形成した積層構造の場合を示している。また、図3では、1層構成の基材フィルム1の片側にアルミニウム箔2を配置し、このアルミニウム箔2の基材フィルム1が配置された面とは反対面側に1層構成のコート層3を形成するとともに、基材フィルム1のアルミニウム箔2を配置しない側にもコート層3を形成した積層構造の場合を示している。
以下、図面を参照しつつ、各構成要素について説明する。以下の図面では、代表として図1を参照して説明するが、図2及び図3の変形例においても、説明内容は同様である。
【0020】
(基材フィルムを用意する工程)
基材フィルム1としては、太陽電池モジュールを形成する際の熱プレスにおいて、加温されるため所定の加熱時間内で適宜調整しながら溶融軟化しない範囲内で成形加工可能な樹脂フィルムを用いることができる。かかる基材フィルム1の材質としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリアクリロニトリル樹脂から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。換言すれば、基材フィルム1の種類としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル系フィルム、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリイミドフィルム等のエンプラフィルムが用いられる。
基材フィルム1の厚さは3〜300μmの範囲とする。
【0021】
上記フィルムは、その表面が酸素プラズマやコロナ放電による照射処理や火炎処理などで表面が酸化処理されているものが、好ましい。表面が酸化処理されることにより表面に多くの官能基が存在するようになる。表面の官能基が豊富なフィルムほど、シラン系接着剤との接着性が良好になる傾向がある。したがって、基材フィルム1には、適宜に表面処理を施したフィルムを用いることが好ましい。
【0022】
また、上記基材フィルム1は1層構成である場合の例示であるが、この1層構成の基材フィルム1として用いるフィルムは無機酸化物をその表面に蒸着されたものであってもよい。本発明において、基材フィルムを多層構成とする場合は、その内の少なくとも1層を無機酸化物蒸着膜付きフィルムとし、必要とされるガスバリア性の度合いに応じて蒸着膜付きフィルムの層数を組み込むことができる。また蒸着膜付きフィルムを貼り合わせる場合は、蒸着面を、蒸着膜の付いてないPET面に貼り合わせることが好ましい。
【0023】
蒸着用の無機酸化物としては、酸化珪素や酸化アルミニウム、酸化亜鉛などを用いることができ、その蒸着厚さは1nm〜100nmとすることが好ましい。
【0024】
フィルム同士を貼り合わせる際に用いる接着剤としては、従来からウレタン系、アクリル系、エポキシ系、シリコン系の各々の接着剤を用いられてきたが、高温高湿下において、加水分解による接着性能の劣化が問題となっていた。これに対して、本発明では、多層構成の基材フィルム1を構成するフィルム同士の接着には、高温高湿下でも接着性能の優れたシラン系接着剤を用いる。
【0025】
ここでいうシラン系の接着剤とは、慣用のシランカップリング剤や、本発明においてコート層を形成するために用いる樹脂成分(3元モノマー)に含まれる金属アルコキシド系化合物の1種であるアルコキシシランを含んだ混合物を用いることができる。
【0026】
シラン系の接着剤は、アルコキシシランのアルコキシ基が加水分解してシラノール基(Si−OH)が生成し、このシラノール基が、フィルム表面にある酸素プラズマやコロナ放電によって酸化されたカルボキシル基や水酸基と反応して結合するため、フィルム同士の接着性がよい。また高温高湿下においても加水分解が起こらないため、接着特性が良好であることと、シラノール結合がUVエネルギーに対して強いことから、優れた耐候性を有している。
【0027】
基材フィルム1をシラン系の接着剤で貼り合わせた2層以上のフィルムから構成する場合、その組み合わせ構成としては、上記フィルムの中で、同じ種類のフィルム同士間、異なった種類のフィルム同士、また同じフィルム間同士でも一方に無機酸化物が蒸着されたもの、また異なるフィルム間でも一方に無機酸化物が蒸着されたもののいずれかの組合せでもよい。
【0028】
(アルミニウム箔を積層する工程)
アルミニウム箔2は、後述するコート層3とともに十分なガスバリア性を発揮しうる所定の厚さのものを使用する。
アルミニウム箔2の厚さは、コート層3の厚みに依存して調整されるが、通常9〜30μmの範囲とする。
【0029】
上記基材フィルム1に、ウレタン系接着剤を使用してアルミニウム箔2を接着して、基材フィルム1にアルミニウム箔2を積層する。
【0030】
(液状体を用意する工程)
基材フィルム1の少なくともアルミニウム箔2が積層された面(図1では片側)に、厚さ5〜300μmの範囲で、コート層3を形成するが、該コート層3は、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシド、反応性官能基(X)を有するアクリル系モノマー、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーからなる樹脂成分を有する液状体の塗膜を硬化させた3元共重合体層である。ここでいう液状体とは、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとの3種のモノマーのみからなる樹脂成分を所定の濃度(好ましくは、最終的に濃度50重量%)で含む水系エマルションであるか、前記3種のモノマーのみからなる樹脂成分を非水系の溶媒に溶解した樹脂溶液である。
【0031】
上記反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドとは、一般式:YM(OR)、YRM(OR)、YRM(OR)(式中、Mは金属、Rはアルキル基、Yは反応性を有する官能基を示す)で表される化合物である。
【0032】
かかる反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドとしては、特にシランを含んだα,β−エチレン性不飽和モノマー、例えば、ビニルトリメトキシキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジアリルジメチルシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタイノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトシキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトシキシラン、3−イソシアンネートプロピルトリメトシキシシランなどのα,β−エチレン性不飽和モノマーなどから選ばれる1種又は混合物を挙げることができる。
【0033】
なお、上記の反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドに加えて、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシアルミニウム、テトラアルコキシチタンなどを添加してもよい。
【0034】
なお、上記金属アルコキシドの反応性官能基(Y)にイソシアネート基を有する場合、水との直接反応を抑制し、反応性官能基(X)との反応を有効に進める事を目的に、反応性官能基(Y)に対してキャッピング剤(ブロック剤、又は保護剤とも呼ばれている)を用いる。キャッピング剤としては、任意の適切な脂肪族、脂環式、又は芳香族のアルキルモノアルコール又はフェノール性化合物が使用され得る。
【0035】
上記脂肪族、脂環式、又は芳香族のアルキルモノアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、及びn−ブタノール、2―メチル―2―プロパノール、2―メチル―1―プロパノールのような低級脂肪族アルコール;シクロヘキサノールのような脂環式アルコール;フェニルカルビノール及びメチルフェニルカルビノールのような芳香族-アルキルアルコールを挙げることができる。
【0036】
上記フェノール性化合物としては、フェノール自身及びクレゾール及びニトロフェノールのような置換フェノール(該置換基はコーティング操作に影響しない)のようなフェノール性化合物が包含される。
【0037】
キャッピング剤としては、その他に、グリコールエーテルも使用され得る。適切なグリコールエーテルとしては、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル及びプロピレングリコールメチルエーテルが挙げられる。グリコールエーテルの中でもジエチレングリコールブチルエーテルが好ましい。
【0038】
さらに、他のキャッピング剤としては、メチルエチルケトオキシム、アセトンオキシム及びシクロヘキサノンオキシムのようなオキシム、ε−カプロラクタムのようなラクタム、及びジブチルアミンのようなアミンが挙げられる。
【0039】
適切なキャッピング剤を用いるに当たっては、塗膜の乾燥、反応温度に適したものを選択し用いることができる。
【0040】
反応は、イソシアネート基に修飾したキャッピング剤が、エマルション中において、塗工された後、加熱乾燥で水分とともに揮発(共沸)されるか、加熱で分解されることで、反応性官能基(イソシアネート基)から外れ、それとともに重合が始まる。キャッピング剤の脱離反応は80℃以上に加熱することにより生じるが、120℃を超えて加熱すると、モノマーの重合が急速に進行するので、キャッピング剤の脱離を目的とする加熱は、80℃〜120℃の範囲内の温度にて行うことが好ましい。このキャッピング剤の脱離反応は、通常塗膜の乾燥工程において同時に実現される。
【0041】
また、上記反応性官能基(X)とは、エステル基、エポキシ基、ケトン基、アミノ基、水酸基、などの、前記金属アルコキシドの反応性官能基(Y)と互いに反応して結合する特性を有する官能基である。
【0042】
かかる反応性官能基(X)を有するアクリルモノマーとしては、α,β−エチレン性不飽和モノマー、例えば(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリルアルコール、4ヒドロキシブチルアクリレートグリシジル(エポキシ)エーテル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンとの付加物などの水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーなどが挙げられる。
【0043】
また、「反応性の官能基(X)を有さない」とは、上記反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと反応する官能基を有さないことを意味する。
かかる反応性官能基(X)を有さないアクリルモノマーしては、α,β−エチレン性不飽和モノマーとして、(メタ)アクリル酸エステル[例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニル等]、などが挙げられる。
【0044】
上述の3種のモノマーを樹脂成分として有する液状体の塗膜を重合、硬化させて得られる3元共重合体層は、3種のモノマーを同時に重合させることにより得てもよいし、「反応性官能基(X)を有するアクリルモノマー」と「反応性の官能基(X)を有さないアクリルモノマー」、「反応性官能基(X)を有するアクリルモノマー」と「反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシド」、「反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシド)」と「反応性の官能基(X)を有さないアクリルモノマー」の各々の組み合わせで予め2種のモノマーを混合又は重合を部分的に進め半重合した後、残るモノマー成分混合し、重合することにより、得てもよい。これらの重合プロセスの内でも、「反応性官能基(X)を有するアクリルモノマー」と「反応性の官能基(X)を有さないアクリルモノマー」の2種のモノマーを混合又は重合を部分的に進め半重合した後、残る「反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシド)」を混合し、重合するプロセスを採用することが、好ましい。
【0045】
また、3元共重合体は、最終的に3元共重合体層として基材フィルムの上で塗工して得られるが、各々のモノマーの混合、塗工、重合のタイミングは、混合→重合(半重合)→塗工(残りのモノマーがある場合は、追加混合した後)→重合(乾燥)、または混合→塗工→重合(乾燥)の各々の組み合わせで、得ることができる。
【0046】
(水系溶媒によるエマルションの調製方法)
水系溶媒としては、イオン交換水などを用いる。必要に応じてアルコールなどのような有機溶剤を含む水性媒体中に、慣用の分散剤を加えて分散性を向上させることもできる。その後、前記水系溶媒に対して、慣用のホモジナイザー(例えば、マイクロテック・ニチオン社製、商品名「NR-300」)を用いて、均一に分散させ、加熱撹拌下、上述組み合わせで3種、または予め2種の組み合わせでモノマーおよび重合開始剤を滴下することにより重合を行うことができる。樹脂成分の濃度としては、30〜60重量%とすることが好ましい。
【0047】
上記方法により、エマルションを構成する樹脂成分の所望の粒子径からのバラツキが少なくなり、好ましい粒径範囲の樹脂成分粒子を得ることができる。
【0048】
上記重合開始剤としては、アゾ系の油性化合物[例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)および2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)など];水性化合物[例えば、アニオン系の4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2−アゾビス(N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン)およびカチオン系の2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)];レドックス系の油性過酸化物(例えば、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドおよびt−ブチルパーベンゾエートなど);および水性過酸化物(例えば、過硫酸カリおよび過硫酸アンモニウムなど)が挙げられる。
【0049】
なお、先の分散剤以外に、当業者に通常使用されているものや乳化剤、例えば、アントックス(Antox)MS−60(商品名:日本乳化剤社製)、エレミノールJS−2(商品名:三洋化成工業社製)、アデカリアソープNE−20(商品名:旭電化社製)およびアクアロンHS−10(商品名:第一工業製薬社製)などを併用してもよい。
【0050】
上記慣用の分散剤と上記3種のモノマーからなる樹脂成分との配合比率は、エマルションを調製する場合の慣用の比率に調整すればよい。例えば、固形分質量比で5/95〜20/80の範囲に調整すればよい。5/95未満だと分散粒子が凝集して塊が発生して塗膜の平滑性が損なわれる傾向となり、20/80を超えると、膜厚の制御が難しくなる傾向となる。
【0051】
また、分子量を調節するために、ラウリルメルカプタンのようなメルカプタンおよびα−メチルスチレンダイマーなどのような連鎖移動剤を必要に応じて用いてもよい。
【0052】
混合モノマーの重合反応温度は開始剤により決定され、例えば、アゾ系開始剤を用いた場合では60〜90℃であり、レドックス系開始剤を用いた場合では30〜70℃で行うことが好ましい。開始剤を用いる場合の配合量は、エマルションの総量に対して、一般に0.1〜5質量%であり、好ましくは0.2〜2質量%である。
【0053】
先に述べたように、モノマーの重合プロセスとしては、「反応性官能基(X)を有するアクリルモノマー」と「反応性の官能基(X)を有さないアクリルモノマー」の2種のモノマーを混合又は重合を部分的に進め半重合した後、残る「反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシド)」を混合し、重合するプロセスを採用することが、好ましい。
【0054】
予め2種のモノマーを反応させる場合の重合は、1〜8時間で行なわれる。
【0055】
上述の、「反応性官能基(X)を有するアクリルモノマー」と「反応性の官能基(X)を有さないアクリルモノマー」の2種のモノマーを部分的に重合(半重合)して得られた2成分半重合樹脂粒子の平均粒子径としては、0.05〜0.30μmの範囲であることが好ましい。粒子径が0.05μm未満であると、作業性の改善の効果が小さく、0.30μmを上回ると、得られる塗膜の外観が悪化する恐れがある。この粒子径の調節は、例えば、上記2種のモノマー混合物の組成や乳化重合条件を調整することにより可能である。
【0056】
また、上記2成分半重合樹脂粒子の質量平均分子量は6000〜12000であることが好ましい。6000未満だと膜厚みの制御が難しくなる傾向となり、12000を超えると塗膜の平滑性が低下する傾向となる。
【0057】
上述の組成からなるエマルションにおいては、樹脂固形分量が3〜20質量%であることが好ましい。樹脂固形分量が3質量%未満だと、膜厚の制御が難しくなる傾向となり、20質量%を超えると、塗膜の平滑性が低下する傾向となる。
【0058】
(非水系溶媒を用いた樹脂溶液の調製方法)
非水系溶媒としては、トルエンや酢酸エチルなどの有機溶剤が用いられる。非水系溶媒としては、その他に、キシレン、N−メチルピロリドン、ブチルアセテート、比較的高沸点の脂肪族及び/もしくは芳香族、ブチルジグリコールアセテート、アセトン等などを適宜用いることもできる。
【0059】
また、重合開始剤としては、熱でラジカルを発生する開始剤(アゾ系、過酸化物系)が用いられる。
【0060】
前記非水系溶媒に対して、上述の3種、または予め2種の組み合わせのモノマー、および重合開始剤を溶解させて、重合又は部分重合(半重合)の樹脂溶液を得る。樹脂溶液中の樹脂成分の濃度としては、30〜60重量%とすることが好ましく、さらに好ましくは50重量%である。
【0061】
上記液状体には、樹脂成分と溶媒に、さらに、必要に応じて、紫外線散乱剤又は/及び紫外線吸収剤を混合してもよい。紫外線散乱剤としては、酸化亜鉛、酸化チタンなどの微粉末が挙げられる。紫外線吸収剤としては、紫外線吸収能を有する色素や、高濃度ベンゾトリアゾール基を導入したアクリルポリマーなどを挙げることができる。かかる紫外線散乱剤又は/及び紫外線吸収剤を少量添加することで、コート層の耐侯性をさらに向上することができる。コート層が多層構成である場合は、その少なくとも1層に上記紫外線散乱剤又は/及び紫外線吸収剤を混入することが好ましく、2層以上もしくは全ての層に上記紫外線散乱剤又は/及び紫外線吸収剤を混入してもよい。
【0062】
上記液状体としては、エマルション組成の製品が市販されているので、それらを使用することも可能である。市販品としては、例えば、東亞合成株式会社製の「シーラス(商品名)」や日本ペイント株式会社の「シェラスターMK(商品名)」などが挙げられる。
【0063】
(液状体の塗膜を形成する工程)
基材フィルム1の少なくともアルミニウム箔2が積層された側(図1では片側)であって、アルミニウム箔2の基材フィルム1が配置された面とは反対面側に、乾燥後の膜厚が6〜350μmとなるように、前記液状体の塗膜を形成する。液状体の塗布方法としては、一般に用いられるディッピング法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法、スプレー法などの従来公知の手段を用いることができる。また、厚さを均一にコントロールするために、薄いコーティング層を多重に積層して所定の膜厚としてもよい。多重に積層する場合は、先に塗布した層を乾燥させた後に次の層を塗布し、その層を乾燥させて、さらに次の層を塗布することを繰り返す。
【0064】
(3元共重合体層からなるコート層を形成する工程)
この工程には、塗膜を乾燥させる塗膜乾燥工程と、乾燥後、最終的に3元共重合体から構成される硬化膜(3元共重合体層)にする乾燥塗膜硬化工程とが、含まれる。
【0065】
(塗膜乾燥工程)
この塗膜乾燥工程では、上記液状体の塗膜から溶媒を気化させて、塗膜の形状を安定化させる。乾燥の温度は80℃〜120℃が好ましい。80℃未満では溶媒の気化が不十分になり、100℃を超えると、塗膜中の未反応モノマーの重合反応が開始される。乾燥時間は、乾燥温度に依存するが、例えば、好ましくは、100℃で、10分〜15分である。
【0066】
(乾燥塗膜硬化工程)
乾燥により形状が安定化した塗膜を、塗膜中の未反応モノマーを重合させることにより、硬化させる。未反応モノマーの重合温度は、80℃〜120℃が好ましい。80℃未満では、重合が不十分となり、120℃を超えると、PET上に膜形成させる上で、PETの収縮が始まり、塗膜も密着性等に悪影響を与えるという不都合が生じる。重合時間は、重合温度に依存するが、例えば、好ましくは、100℃で、10分〜15分である。
【0067】
(3元共重合体層の特性及び3元共重合体層をコート層として有するシートの特性)
上記3元共重合体層からなるコート層2は柔軟性を保ちながらガスバリア性及び耐侯性を有しているので、得られるシートは、太陽電池用裏面保護シートとして、長期信頼性に優れたものとなる。
【0068】
従来、水溶性の高分子材料として特許文献2などには、ポリビニルアルコール(PVA)が用いられている。PVAは、その水蒸気透過度が1100g/m・24hr(測定条件:25℃、90%RH、厚さ25μm)であり、水蒸気バリア性は悪いが、柔軟性に優れている。従来の太陽電池用裏面保護シートにおいては、ガスバリア層とする無機酸化物蒸着膜のみでは屈曲したときのクラックが防止できないため、PVAのような柔軟性のある高分子膜を積層することにより、対屈曲性を保持しながら、ガスバリア性を確保している。そのため、無機酸化物蒸着膜なしではガスバリア性が不十分であった。すなわち、積層数が多くなり、シートの総計厚みの制御が難しくなっていた。
【0069】
本発明では、厚さが30μmより薄いアルミニウム箔2とともにガスバリア性を確保するために、コート層3に、金属アルコキシドと共重合できる単量体(モノマー)としてアクリル系を用いている。一般にその重合体のアクリル系樹脂であるポリメチルメタクリレート(PMMA)は、その水蒸気透過度が41g/m・24hr(測定条件:25℃、90%RH、厚さ25μm)であり、PVAよりガスバリア性が優れていることが知られている。
【0070】
なお、上記ポリビニールアルコール及びポリメチルメタクリレートの水蒸気透過度の測定値は、『「プラスチック材料の各動物性の試験法と評価結果〈5〉」、安田武夫、p.119、vol.51, No.6、プラスチックス』を出典としたものである。
【0071】
本発明では、コート層3を構成する3元共重合体層のモノマー材料は、反応性官能基(X)を有するアクリル系モノマー、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマー、および前記反応性官能基(X)と反応する反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドの3種のモノマーからなる。そして、この3種のモノマーを樹脂成分として有する液状体を形成し、この液状体を成膜化した3元共重合体層をコート層3とする。
【0072】
かかるコート層3を構成する3元共重合体層においては、図4に示すように、2種のアクリル系モノマーがラジカル重合反応により鎖状に結合し、形成されたアクリル系高分子の鎖により柔軟性が保たれる。そして、鎖状のアクリル系高分子中には、一方の反応性官能基(X)を有するアクリル系モノマー由来の複数の官能基(X)が間隔を開けて点在しており、その官能基(X)と金属アルコキシド中の官能基(Y)とが反応して結合する。また、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシド同士の加水分解によってM−O結合が形成され、3元共重合体は網目構造を獲得する。この網目構造により柔軟性と高い水蒸気ガスバリア性及び耐侯性が実現できる。したがって、本発明のシートは、屈曲してもクラックが生じてガスバリア性が著しく劣化することがない。
【0073】
また、従来品は、耐侯性を有する樹脂フィルムとして、前述のガスバリア層の上にフッ素系樹脂などを接着して用いているが、下記(表1)に示すように、C−F結合エネルギーは116kcalであり、紫外線エネルギーの96kcalに対して、非常に強いが、主鎖となるC−C結合エネルギーは85kcalと紫外線に対して弱い。そのため紫外線による樹脂の劣化が起こる。さらに、ガスバリア層の金属アルコキシドと高分子の複合体は、図5に示すように、金属アルコキシドの加水分解生成物とは化学結合を伴わない単なる高分子との複合体であるため紫外線により高分子の主鎖となるC−C結合が切れてしまうと(図5の×印部分)、高分子部分が紫外線により劣化してしまい、著しく水蒸気ガスバリア性が劣化してしまうという問題がある。
【0074】
【表1】

【0075】
これに対し、本発明にかかるシートのコート層に用いられている3元共重合体層では、図6に示すように、紫外線によりアクリル系高分子部分のC−C結合(85kcal)が切れても(図6の×印部分)、金属アルコキシドによるM−O結合(106〜145kcal)は切れない。また、空気中または高分子中の湿気により金属アルコキシドの加水分解が進み、紫外線によりアクリル系高分子のC−C結合が切れても、M−O結合の増大により自己修復できるため、全体として紫外線による劣化はほとんどない。
【0076】
さらに、上記3元共重合体層は、PETなどの樹脂とも化学結合を伴って接着するため、接着性は非常に優れており、基材フィルムと3元共重合体層(コート層3)間での剥離の心配はない。また、金属アルコシドは、水分により加水分解してM−O結合が網目状に形成され、アクリル系高分子の−CH−CHR−は、一般にほとんど加水分解しないと言われている。それ故、従来のように耐侯性フィルムとガスバリア性を付与した基材フィルムとを接着剤によって接着した構造のシートの欠点、すなわち、長期間使用時における樹脂フィルムの劣化により外部から水分が浸入して接着剤が加水分解により劣化し、フィルム同士が剥離するような問題は、本発明のシートでは起こらない。
【0077】
以上のことから、本発明にかかるシートは、柔軟性、超耐侯性、水蒸気ガスバリア性に優れた太陽電池用裏面保護シートとして提供できる。
【実施例】
【0078】
以下の実施例では、アクリル系樹脂成分Aに関して、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとの3種のモノマーのうちの、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドとして、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(実施例1および2に共通)を用いた。また、残りの前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーについては、これらモノマーの混合物である市販の製品(日本ペイント株式会社の「シェラスターMK」の主剤)を用いた(実施例1および2に共通)。
【0079】
前記市販の製品が、前記反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーの混合物である点については、該製品の乾燥塗膜表面の赤外線全反射吸収スペクトルにより確認することができる。この赤外線全反射吸収スペクトルを図7に示した。
【0080】
図7に見るように、波数(wavenumber)3650〜3200(cm−1)、1760〜1715 (cm−1)、1150〜1025 (cm−1)に代表的なピークが現れており、これらは、それぞれ、反応性官能基(X)を有するアクリル系モノマーのカルボン酸(COOH基)や水酸基(OH)を含むユニット部のOH基に由来する吸収、反応性官能基(X)を有しないアクリル系モノマーのエステル(COOR)を含むユニット部のC=Oに由来する吸収、反応性官能基(X)を有しないアクリル系モノマーのエステル(COOR)やエーテル(COC)を含むユニット部のC−O−Cに由来する吸収である。
【0081】
また、以下の実施例において、エチレン系樹脂成分Bとして、中央理化工業株式会社製の「アクアテック909(商品名)」を用いた。
【0082】
(実施例1)
本発明の実施例1では、アクリル系樹脂成分Aとして、シェラスターMKの主剤15重量部に対して、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(1重量部)を配合してなる水系エマルションA:100重量部に対して、エチレン系樹脂成分Bとして、エチレン系樹脂成分「アクアテック909」(45重量%)を配合してなる水系エマルションBを35重量部配合した液状体を用意した。
【0083】
下記(表2)に示すように、基材フィルムとして厚さ188μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績株式会社製、商品名「エステルフィルム5000」)を用い、厚さ9μmのアルミニウム箔を、厚さ5μmのウレタン系接着剤(東洋インキ株式会社製 商品名「TMOFLEX−502」)で前記基材フィルムに接着し、厚さ9μmのアルミニウム箔をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに積層した。
【0084】
上記基材フィルムのアルミニウム箔を積層した側であって、アルミニウム箔の基材フィルムが配置された面とは反対面側に上記液状体を塗布し、その塗膜を80℃、10分間加熱して水系溶媒を気化させて乾燥させた。
得られた乾燥塗膜を100℃10分間加熱して、塗膜を構成する未反応モノマーを重合させて、3元共重合体層(コート層)を得た。得られた膜の厚みは、20μmであった。
以上により、厚さ188μmの基材フィルムの片側面に、9μm厚のアルミニウム箔と、20μm厚のコート層(3元共重合体層)が積層されたシート(太陽電池用裏面保護シート:最外層からアルミ箔までの厚さが29μm)を得た。
【0085】
上記共重合体層の赤外線全反射吸収スペクトルを図8に示した。図8に見るように、波数(wavenumber)3690〜3200(cm−1)、1760〜1715 (cm−1)、1150〜1025 (cm−1)、1100〜1000(cm−1)にアクリル系共重合体に代表的なピークが現れている。また、エチレン共重合体に関しては、2845〜265(cm−1)および2940〜2915(cm−1)にメチレン(−CH2−)、1650〜1725(cm−1)のC=Oおよび1280(cm−1)〜1320のC−Oおよび2500〜3600(cm−1)からなる未反応の残存カルボン酸(−COOH)に代表的なピークが現れている。
【0086】
また、アクリル系共重合体が海相を形成し、エチレン系共重合体が島相を形成していることは、走査型電子顕微鏡によって確認することができる。
【0087】
まず、3690〜3200(cm−1)は、反応性官能基(X)を有するアクリル系モノマーのカルボン酸(COOH基)や水酸基(OH)を含むユニット部とアルコキシシラン系モノマーのシラノール基(Si−OH)やエポキシ基の開環反応で生じる水酸基(OH)を含むユニット部のOHに由来する吸収である。また、1760〜1715 (cm−1)は、反応性官能基(X)を有さないアクリル系モノマーのエステル(COOR)を含むユニット部のC=Oに由来する吸収である。また、1150〜1025 (cm−1)は、反応性官能基(X)を有しないアクリル系モノマーのエステル(COOR)やエーテル(COC)を含むユニット部のC−O−Cに由来する吸収である。そして、1100〜1000(cm−1)は、アルコキシシラン系モノマーのシラノール基同士の脱水縮合反応で生じるシロキサン結合(Si−O)を含むユニット部のSi−O−Siに由来する吸収である。
【0088】
また、2845〜265(cm−1)および2940〜2915(cm−1)は、エチレン系樹脂成分Bを構成するメチレン(−CH2−)に由来する吸収であり、1650〜1725(cm−1)のC=Oおよび1280(cm−1)〜1320のC−Oおよび2500〜3600(cm−1)は、エチレン系樹脂成分Bを構成、存在する未反応の残存カルボン酸(−COOH)に由来する吸収である。
【0089】
(実施例2)
本発明の実施例2では、下記(表2)に示すように、基材フィルムとして厚さ188μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績株式会社製、商品名「エステルフィルム5000」)を用い、厚さ30μmのアルミニウム箔を、厚さ5μmのウレタン系接着剤(東洋インキ株式会社製 商品名「TMOFLEX−502」)で前記基材フィルムに接着し、厚さ30μmのアルミニウム箔をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに積層した。
【0090】
上記基材フィルムのアルミニウム箔を積層した側であって、アルミニウム箔の基材フィルムが配置された面とは反対面側に、上記液状体を塗布し、その塗膜を80℃、10分間加熱して水系溶媒を気化させて乾燥させた。
得られた乾燥塗膜を100℃、10分間加熱して、塗膜を構成する未反応モノマーを重合させて、3元共重合体層(コート層)を得た。得られた膜の厚みは、20μmであった。
以上により、厚さ188μmの基材フィルムの片側面に、30μm厚のアルミニウム箔と、20μm厚のコート層(3元共重合体層)が積層されてなるシート(太陽電池用裏面保護シート:最外層からアルミ箔までの厚さが50μm)を得た。
【0091】
上記3元共重合体層の赤外線全反射吸収スペクトルをとったところ、図8に示したスペクトルと同一のスペクトルであった。
【0092】
(比較例1)
また、比較例1として、下記(表2)に示すように、基材フィルムとして厚さ188μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績株式会社製、商品名「エステルフィルム5000」)を用い、厚さ40μmのアルミニウム箔を、厚さ5μmのウレタン系接着剤(東洋インキ株式会社製 商品名「TMOFLEX−502」)で前記基材フィルムに接着して、厚さ40μmのアルミニウム箔をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに積層し、さらに厚さ25μmのフッ素系PVFフィルムを厚さ5μmの前記ウレタン系接着剤でさらにアルミニウム箔上に積層した裏面保護シート(最外層からアルミ箔までの厚さが70μm)を用いた。
【0093】
(評価)
実施例1及び2、ならびに比較例1の各太陽電池用裏面保護シートの性能評価として、水蒸気透過量、引っ張り強度保持率、絶縁耐電圧を測定した。さらに、打抜き穴加工性を目視により評価した。
その結果を(表2)に示す。
【0094】
上記水蒸気透過量の測定は、JISのZ0208に基づき、温度40℃、湿度90%RHの条件下、カップ法にて測定を行った。また、引っ張り強度の測定は、JIS K7127に基づき、株式会社島津製作所製の万能試験機(商品名「UH−500kNI」)を用いて行った。
【0095】
【表2】

【0096】
実施例1および2のシートの初期水蒸気ガスバリア性は、厚さが40μmのアルミニウム箔を用いた比較例1のシートと比較して同等の性能を示している。また、実施例1および2のシートのフレキシブル性は、比較例1のシートと比較して非常に優れ、作業性の向上が図れる。さらに、実施例1および2の打抜き加工性も、穴側面へのアルミニウムのはみ出しがなく、従来品で生じていたアルミニウム箔のバリを原因とする太陽電離モジュールの性能不良を回避することができる。また、実施例1および2のシートでは、アルミニウム箔の厚みを薄くできるので、熱による膨張・収縮を小さく抑えることができ、変形を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上のことから、本発明によれば、水蒸気ガスバリア性に優れ、長期耐侯性及び耐久性に優れた太陽電池用裏面保護シートを提供することができる。
【符号の説明】
【0098】
1 基材フィルム
2 アルミニウム箔
3 コート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層からなる基材フィルムと、該基材フィルムの片側又は両側に配置されるアルミニウム箔と、該アルミニウム箔の前記基材フィルムが配置された面とは反対面側に配置される少なくとも1層からなる1以上のコート層とを有してなる太陽電池用裏面保護シートであって、
前記コート層が、反応性官能基(Y)を有する金属アルコキシドと、前記反応性官能基(Y)と反応する反応性の官能基(X)を有するアクリル系モノマーと、反応性の官能基(X)を有さないアクリル系モノマーとからなる樹脂成分を有する液状体の塗膜を硬化してなる3元共重合体層であることを特徴とする太陽電池用裏面保護シート。
【請求項2】
前記金属アルコキシドは、一般式:YM(OR)、YRM(OR)、YRM(OR)(式中、Mは金属、Rはアルキル基、Yは反応性を有する官能基を示す)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用裏面保護シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−151152(P2012−151152A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6479(P2011−6479)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】