説明

太陽電池設置建築構造体及び太陽電池パネル

【課題】 建築構造体の屋根に設置した太陽電池の間の空間から構造体の内部に太陽電池の影が強く出ないように太陽光の一部を採光でき、又その採光によって建築構造体の内部が温度上昇して建築構造体の空調装置による温度制御を難しくすることがないようにする。
【解決手段】 上下ともにスリガラスを用いて光散乱透過性にした上部透光体1と下部透光体2との間に太陽電池3を所定間隔離して配置し、太陽電池3間の空間を光の透過路とし、下部透光体2の裏面には赤外線カットフィルム4を貼着させた太陽電池パネルSPを、農業用施設である建築構造体Hの屋根RFの開口部Tに取付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業施設等の建築構造体の屋根に太陽電池パネルを取付け、しかも建築構造体内の空間にも太陽光の一部が太陽電池パネルを透過して採光できるようにした建築構造体と太陽電池パネルの技術に関する。特に、ビニールハウス・ガラスハウス等の農業施設において、太陽エネルギーを照明と電源の両方で利用できて有益となる技術である。
【背景技術】
【0002】
現在、ガラスハウス等の農業施設においては、ハウス内の温度の安定化が栽培する作物の品質、収量の安定に大きな影響を与えている。そのため、通常、暖房用などとして、ボイラー等が用いられてきたが、近年の燃料費の高騰により、ヒートポンプ等電気をエネルギー源としたものに代替されてきている。更に省エネを図るため、電源に太陽電池を使用し、太陽電池とヒートポンプを組み合わせた農業施設の検討が行われてきたが、通常の太陽電池パネルを屋根に設置すれば、太陽光はハウス内に入らないため植物の成育に悪くなる。これを避けるため、太陽電池の設置を屋根にせず、農業施設の横に設置していた。そのため、太陽電池の設置のための敷地が余分に必要となっていた。又、通常の農業施設はガラスあるいはビニール素材で覆われているため、断熱性が悪く低温の大気温度で影響受け易く、その分ヒートポンプに大きな電気エネルギーを必要としていた。このような理由で太陽電池とヒートポンプの組み合せ使用は普及していない。
【0003】
一方、太陽電池で光電変換層の上方に光散乱膜を配置して太陽光の入射角度による光利用効率依存性を改善するようにした太陽電池の技術が特開2011−40525号公報に開示されている。
【0004】
しかし、上記公報の技術は太陽電池の本体の光電変換層へ入射する太陽光の入射方向を散乱させるだけで、太陽電池パネルを太陽光の一部が透過させるものでなかった。
【0005】
複数の太陽電池パネルを所定間隔離して設け、それらの上面に太陽光を透過させる光透過性板材を配置し、又太陽電池パネルの下方に赤外線吸収シートを張りつけた反射鏡を配置し、太陽光を直接透過光と反射鏡の反射光とを使用して太陽電池を表裏両面から照射して発電させる太陽光発電装置が特開2008−16595号公報に開示されている。この公報の技術も、太陽光は太陽光発電装置を透過して太陽光の一部を室内へ照射させるものではなかった。
【0006】
又、ビル等の壁面に使用し、光が通るようなシースルー或いはライトスルーといった太陽電池パネルの開発も進んでおり、このパネルを農業施設に設置することは可能であるが、このパネルは、光とともに熱を通してしまうために内部が高温になりやすい、或いは、図3(a)に示すように、太陽電池の設置部分が影を造り農作物の成長に影響する可能性があるなどで、必ずしも農業施設に向いたパネルとはなりえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−40525号公報
【特許文献2】特開2008−16595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、従来のかかる問題点を解消し、太陽電池を屋根に設置しても太陽光の一部を建築構造体の内部に散乱光として採光でき、太陽電池の影をあまり作らずに採光させるようにすることにある。更にその採光による建築構造体内部の加温を抑えて建築構造体内部の空調に悪影響を与えないようにできる太陽電池設置建築構造体及びそのための太陽電池パネルを提供することにある。又、大気温が低い場合では、太陽電池の起電力をヒートポンプ等の加熱装置の電源として使用でき、商用電源の使用電力を減らすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) 建築構造体の屋根の一部に太陽電池を設置し、建築構造体の内部に赤外線カットの太陽光を一部採光できる太陽電池設置建築構造体であって、屋根の一部に開口部を設けるかあるいは屋根の一部又は全部を太陽光を建築構造体内部へ透過させることができるガラス・シート又はプラスチック製の透光壁とし、上下対向した上部・下部の透光体の間に複数の太陽電池を透光体の面方向に所定間隔離すように間装し、しかも上部又は下部のいずれか一方あるいは上下部両方の透光体には透過光の透過方向が入射光の入射方向と異なるランダムな方向となるように光散乱通過性の処理がなされ、更に上部又は下部のいずれか一方あるいは上部下部の両方の透光体に赤外線カット処理を施した構成の太陽電池パネルを前記屋根の開口部又は透光壁に取付けたことを特徴とする、太陽電池設置建築構造体
2) 太陽電池パネルの上部透光体に照射される光の光量に対する下部の透光体を通過していく光の光量の割合である光のパネル透過率が40〜90%の範囲である、前記1)記載の太陽電池設置建築構造体
3) 上下対向した上部・下部の透光体の間に複数の太陽電池を透光体の面方向に所定間隔離すように間装し、しかも上部又は下部のいずれか一方あるいは上下部両方の透光体には透過光の透過方向が入射光の入射方向と異なるランダムな方向となるように光散乱通過性の処理がなされ、更に上部又は下部のいずれか一方あるいは上部下部の両方の透光体に赤外線カット処理を施した構成の太陽電池パネル
にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、太陽電池パネルの上部・下部の透光体の間に複数の太陽電池を所定間隔離して配置し、しかも上部又は下部あるいは上下部両方に光が入射方向と異なったランダムな方向へ透過させる光散乱処理を施し、更に上下部の透光体のいずれか又は両方に赤外線カット処理を施した太陽電池パネルを建築構造体の屋根の開口部又は屋根の透光壁に設置することによって、太陽電池の間の空間を介して光が透過して種々の方向に散乱した透過光を建築構造体内に照射できる。
【0011】
しかも、上部又は下部あるいは上下部両方の透光体の光散乱処理によって透過光は入射方向と異なったランダム方向の光となっているので建物構造体内部には透光体面積から拡がるような面発光的に照射され、光の筋又は光による太陽電池の影ができにくくものにできる(図3(b)参照)。
又、透過光は赤外線カット処理によって赤外線波長の光成分がないので、建築構造体内部を加温させることがなく、建築構造体に備えた空調装置による温度制御が容易となる。
更に、冬場の大気温度が低い場合は太陽電池の起電力をヒートパイプ等の加熱装置の電源として使用し、商用電源の使用電気料を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施例の太陽電池パネルの取付状態を示す説明図である。
【図2】図2は、本発明の他の例を示す説明図である。
【図3】図3は、本発明の透過光と非散乱の太陽電池パネルの透過光の建築構造体内での状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の上部・下部の透光体は、上下部両方とも、スリガラス・ランダムな方向に光を屈折させるフィルム又はランダムの方向に透過させるための表面傷等によって光散乱処理させた光散乱の透光体としてもよいし、上部又は下部の一方のみを光散乱の透光体としてもよい。
【0014】
本発明の赤外線カット処理は、一般的には上下両方とも又は上部・下部いずれかの透光体を赤外線カットできる素材にするか又は赤外線カットフィルムを張り付ける方法によってなされる。
【0015】
本発明の太陽電池パネルの太陽電池によって太陽光の非透過の面積と、太陽光が透過する面積の比は6:4〜1:9程で、光の透過率は40〜90%程度にするのが実用的である。
【0016】
太陽電池としては、シート状に積層したもの、又は硬質ベースにセルを形成したものいずれでも使用できる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本実施例の建築構造体は植物を育成するための家屋構造の農業施設であり、その金属製屋根の天窓の開口部に本発明の太陽電池パネルを取付けたものであり、その上部透光体・下部透光体ともにスリガラスであり、太陽光はランダムの透過方向に屈折して透過する。又、赤外線カット処理は、下部透過光体の裏面に赤外線カットフィルムを張り付けていて、太陽電池の上面とその間の光通過の空間の巾(太陽電池間隔)の面積比は1:1で、光の透過率は80%程とした例である。
【0018】
図巾Hは植物Pの育成用農業施設である建築構造体、RFは同建築構造体の傾斜した金属製屋根板、Tは同屋根板の一部を開口して形成した天窓となる開口部、SPは同開口部に設置された実施例の太陽電池パネルである。同太陽電池パネルSPは、スリガラスを用いて光散乱性能を与えた上部透光体1と、スリガラスを用いて光散乱性能を与え且つ裏面に赤外線フィルム4を張り付けた下部透光体2と、上記の上部透光体1と下部透光体2との間に所定間隔離して複数個の封止された太陽電池3と、外周の金属製外周フレーム5とからなっている。電気回路周辺部材は図面上省略している。
【0019】
本発明では、太陽光が太陽電池パネルSPに入射すると、上部透光体1のスリガラスによって透過光は種々の方向に屈折されるように透過し、その透過光の一部の20%程度は太陽電池3に入光して太陽電池3の起電力を発生させる。上部透光体の透過光の残り80%程は、太陽電池3間の間隔の空間を通過して下部透光体2に到達し、下部透光体2もスリガラスであるので透過光は種々の方向に散乱するように透過して、屋根RF下方の建築構造体Hの室内部を照らし、室照明となる。尚、太陽電池3の起電力は付属装置(図示せず)によってバッテリに充電され、必要時使用できるようにしている。
【0020】
上部・下部の透過光は室内へ種々の方向に照射するので、図3の(b)の如く、太陽電池の影が薄くなって天窓部分は面発光に近い照明となる。この透過光による照明は室内の植物を種々の方向から照らし、隅なく植物に光を照射し、葉影の部分の照射もある程度可能となっている。
【0021】
しかも、室内への透過光は赤外線カットフィルム4によって赤外線波長部分の光が低減されているので室内の植物・物品・土等を加温せず、室にある空調装置(図示せず)の温度制御を容易にできるものとした。大気温が低い場合は、ヒートポンプ等の加熱装置(図示せず)に太陽電池3の起動力を使用して作動させれば、商用電源の電力使用量を低減して安価なランニングコストにできる。
【0022】
図2に示す太陽電池パネルはスリガラス製の上部透光体1及びスリガラス製の下部透光体2の表面ともに赤外線カットフィルム4を張っていて、太陽電池3の加熱を低減させている例である。他は前の実施例と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、農業用の施設ばかりでなく、一般住宅家屋・人の活動用建物・工場にも利用でき、発電と太陽照明との両方を得ることができる。
【符号の説明】
【0024】
H 建築構造体
P 育成植物
RF 屋根
T 天窓の開口部
SP 太陽電池パネル
1 上部透光体
2 下部透光体
3 太陽電池
4 赤外線カットフィルム
5 外周フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造体の屋根の一部に太陽電池を設置し、建築構造体の内部に赤外線カットの太陽光を一部採光できる太陽電池設置建築構造体であって、屋根の一部に開口部を設けるかあるいは屋根の一部又は全部を太陽光を建築構造体内部へ透過させることができるガラス・シート又はプラスチック製の透光壁とし、上下対向した上部・下部の透光体の間に複数の太陽電池を透光体の面方向に所定間隔離すように間装し、しかも上部又は下部のいずれか一方あるいは上下部両方の透光体には透過光の透過方向が入射光の入射方向と異なるランダムな方向となるように光散乱通過性の処理がなされ、更に上部又は下部のいずれか一方あるいは上部下部の両方の透光体に赤外線カット処理を施した構成の太陽電池パネルを前記屋根の開口部又は透光壁に取付けたことを特徴とする、太陽電池設置建築構造体。
【請求項2】
太陽電池パネルの上部透光体に照射される光の光量に対する下部の透光体を通過していく光の光量の割合である光のパネル透過率が40〜90%の範囲である、請求項1記載の太陽電池設置建築構造体。
【請求項3】
上下対向した上部・下部の透光体の間に複数の太陽電池を透光体の面方向に所定間隔離すように間装し、しかも上部又は下部のいずれか一方あるいは上下部両方の透光体には透過光の透過方向が入射光の入射方向と異なるランダムな方向となるように光散乱通過性の処理がなされ、更に上部又は下部のいずれか一方あるいは上部下部の両方の透光体に赤外線カット処理を施した構成の太陽電池パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−216609(P2012−216609A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79750(P2011−79750)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【出願人】(594156020)エスペックミック株式会社 (10)
【Fターム(参考)】