説明

嫌味成分の除去、抑制された大麦糠の製造方法及び該製造方法により得られた大麦糠

【課題】食物繊維、トコール、水不溶性ポリフェノール等の有用成分が含まれている大麦糠を有効利用することを目的として大麦糠の嫌味成分を除去するための処理を見出し、該処理により嫌味成分が抑制され、且つ脂肪劣化が抑制された大麦糠を提供する。
【解決手段】大麦の精麦において副産物として産出される大麦糠に対して、アルカリ水処理を行い、水溶性ポリフェノールを減少させる。アルカリ水処理に用いられるアルカリ水のpHは、8.0−10.0であることが好ましい。アルカリ水にはアルカリイオン水が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌味成分の除去、抑制された大麦糠の製造方法及び該製造方法により得られた嫌味成分が抑制された大麦糠に関する。
【背景技術】
【0002】
大麦の精麦加工は大麦原穀の外層部を精麦機で徐々に削り取り、65〜85%程度に搗精し、胚乳部を取り出す伝統的な加工方法である。精麦加工されてなる精麦は、食用または醸造用として利用されるが、その際に副産物として発生する粉状の大麦糠は、ほとんどが飼料用としてしか利用されていないのが実情である。
【0003】
一方、大麦糠には食物繊維、トコール、ポリフェノール、ビタミン、γ−アミノ酪酸(GABA)など機能性を持つ成分の存在が明らかになっており、これらの成分を含む大麦糠が近年着目されている。大麦糠の食物繊維については水溶性食物繊維が多く含まれている。また、トコールについてはトコフェロールよりもトコトリエノールの割合が多く、その含量も多いことが知られている。トコフェロールはすでに医薬品、化粧品、健康食品及び食品添加物として機能が高く評価されている。トコトリエノールについてもコレステロール低下作用、動脈硬化改善作用、抗ガン作用、生体内抗酸化作用など有用な活性を持つことが報告されている。また、ポリフェノールに関しては、水溶性と、水不溶性のポリフェノールが含まれ、抗酸化力の強いフェルラ酸が多く存在することが知られている。
【0004】
特開平9−206613号公報(特許文献1)には、50−75%歩留りに搗精する際に発生する麦糠を微粉砕して小麦粉、米粉、そば粉と同等の用途に供することができる麦粉を製造すること、及び微粉砕の際に高速粉砕機により瞬間的に粉砕することにより、品温の上昇を抑制することにより品質の劣化を防いだ麦粉を製造することが示されている。
【0005】
http://info.pref.fukui.jp/nougyou/archives/fukyuH1-H10/06.html(非特許文献1)には、「大麦のポリフェノール除去と2軸型エクストルーダによる大麦スナックの開発」と題して、大麦には小麦に比べて多量のポリフェノール成分が含まれていること、大麦の利用拡大を図るために大麦中のポリフェノールの除去法を開発し、大麦スナックを製造したこと、精麦した大麦を粉にしてなる大麦粉を水処理、或いは塩酸処理したものは、ポリフェノールが減少すること、及び該水処理した大麦粉をエキストルーダを用いて製造した大麦スナックは焼き色が速く付くのが抑制されることが示されている。
【特許文献1】特開平9−206613号公報
【非特許文献1】http://info.pref.fukui.jp/nougyou/archives/fukyuH1-H10/06.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、大麦糠には水溶性ポリフェノールが過剰に含まれることにより食したときのイガイガ感やピリピリ感といった不快な食味(「嫌味」と定義する)があることから、その用途として食品に用いるには問題がある。また、大麦の精麦加工と同時に大麦糠に含まれる脂質酸化酵素が活性化するため、大麦糠の保存性が悪いという問題がある。
【0007】
前記特許文献1の技術では50−75%歩留に搗精する際に発生する麦糠はポリフェノールを過剰に含むものであり、前記した嫌味成分を除去したものではないため、食用に供するには問題があった。
【0008】
前記非特許文献1は精麦した大麦に関し、精麦された大麦の粉を用いる例について示されているだけであり、精麦過程で副産物として産出される大麦糠についての記載はないし、ましてや大麦糠に特に多く含まれる嫌味成分の除去に関して何も示されていない。
【0009】
そこで本発明は、食物繊維、トコール、水不溶性ポリフェノール等の有用成分が含まれている大麦糠を有効利用することを目的として大麦糠の嫌味成分を除去するための処理を見出し、該処理により嫌味成分が抑制され、且つ脂肪劣化が抑制された大麦糠を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の嫌味成分の除去、抑制された大麦糠の製造方法は、大麦の精麦において副産物として産出される大麦糠に対して、アルカリ水処理を行い、水溶性ポリフェノールを減少させることを特徴とする。
【0011】
本発明の大麦糠は、大麦の精麦において副産物として産出される大麦糠に対して、アルカリ水処理を行うことにより得られる、嫌味成分の除去、抑制された大麦糠である。
本発明で「大麦」とは、六条大麦、二条大麦、皮麦、裸麦を含むものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法に従ってアルカリ水処理により大麦糠の嫌味成分と考えられる過剰な水溶性ポリフェノールを効率的に抽出し、除去することにより、食したときのイガイガ感やピリピリ感といった不快な食味(嫌味)が除去、抑制された大麦糠を得ることができる。
【0013】
本発明の大麦糠は嫌味成分の大部分が効率的に除去、抑制されているので、食品素材、飼料素材として有用である。例えば、小麦粉に添加した原料を用いて製造したパン、該パンから製造されたパン粉、大麦糠が添加された麺類、菓子類などに加工したとき、食味、食感に違和感もなく、小麦粉などの代替材料とすることができ、且つ、機能性を持つ成分を含んだものを作ることができる。特に、パン粉とした場合には、市販のパン粉と比べて、サクサク感があり、食感が優れている。
【0014】
本発明の大麦糠中には、水溶性繊維、水溶性ポリフェノールが除去されているので、不溶性繊維、抗酸化力の強いフェルラ酸がアルカリイオン水処理前よりも濃縮された状態で含まれ、また、トコフェロールおよびトコトリエノール等のトコールも高含量で含まれる。
【0015】
本発明の大麦糠は、アルカリ水処理されているので、脂肪酸化酵素であるリポキシゲナーゼが抽出除去されるため、大麦糠中に含まれる脂肪の酸化が抑制され、脂肪劣化が抑制された大麦糠が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
原料大麦又は裸麦の加工工程: 大麦又は裸麦を研削式精麦機で65%程度の歩留りの丸麦に加工し、その過程で発生する65〜85%の歩留りの大麦糠(大麦又は裸麦から得られた糠を「大麦糠」と総称する。)を得る。該大麦糠に対して振るい処理を行うことにより砕麦、外皮、及び異物や虫等の異物等を除去する。該振るい処理には、例えば、600μmのシフターに前記大麦糠を導入することによって、大麦糠全体の90%が600μm下の大麦糠が得られる。このようにして得られた大麦糠は、均質な品質で、外皮や異物等の混入のない、食品素材として安全で清潔な大麦糠となる。さらに必要に応じて、粉砕工程、篩工程を設けてもよい。
【0017】
アルカリ水処理工程: 前記工程で得られた大麦糠に対してアルカリ水と接触させることによりアルカリ水処理を行う。アルカリ水処理には、大麦糠をアルカリ水に浸漬、噴霧、洗浄等の何れかによりアルカリ水に接触させることにより行う。このアルカリ水処理により大麦糠に混入している異物等も同時に除去できるため、食品素材として安全で清潔な大麦糠とすることができる。
【0018】
アルカリ水には、pHがアルカリ側で食品に安全なアルカリ水を用いることが好ましい。アルカリ水のpHについては、pH7.5以上10以下が嫌味成分の原因となる水溶性ポリフェノールを減少させるために好ましい。さらに好ましくはpH8以上10以下である。pH7.5以下だと水溶性ポリフェノールの除去が十分ではないため、食味、食感が劣る。アルカリ水には、アルカリイオン水、重曹水溶液、炭酸ナトリウム水溶液が食品の安全性の上から好ましく使用でき、好ましくは、食品に化学物質を使用しないためにアルカリイオン水が望ましい。
【0019】
固液分離工程: 前記工程で処理された大麦糠とアルカリ水との分離は連続遠心式固液分離装置によって分離した抽出液体部分を除去するか、又はプレス圧搾機で搾汁することにより固液分離して抽出液体部分を除去することによって、固体部分を得る。大麦糠成分の15%程度が液体部分として、固液分離工程において除去されることになる。
【0020】
乾燥工程: 前記工程で得た固体部分には、水分が約60%程度含まれているので、乾燥を行う。乾燥工程において、高温での乾燥、例えば、80℃以上の乾燥では過酸化脂質が生成する要因となるので、乾燥庫内の温度を好ましくは40〜80℃、さらに好ましくは、50℃〜70℃程度の比較的低温に設定することが望まれる。乾燥機にはパワーヒートパイプ方式乾燥機を用いることが好ましく、またこの他に凍結乾燥機、真空ドラム乾燥機などが好ましく使用できる。
【0021】
粉砕工程: 前記工程で得た乾燥された大麦糠を必要に応じて、粉砕して粒径を細かくしてもよい。粉砕には例えば、衝撃式粉砕機を用いることができる。粉砕されたものを篩にかけて粉状の大麦糠を得る。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
原材料としての大麦糠の調製
2003年産オーストラリア産大麦を研削式精麦機による連座式搗精で65%の歩留りの丸麦に加工し、その過程で発生する65〜85%の歩留りの大麦糠を、速やかに600μmのシフターへ導入し、振るうことにより65〜85%の歩留りの大麦糠全体の90%が600μm下の大麦糠を得た。
【0023】
アルカリイオン水処理
前記工程で得られた大麦糠に対して、アルカリイオン製水器 TRIMION TI−9000(商品名、株式会社日本トリム製)で製造したアルカリイオン水(pH9.0)[電解水]を4倍量添加し、30分間浸漬振とうさせた。
【0024】
固液分離
前記工程で処理された大麦糠とアルカリイオン水との混合物を遠心分離機を用いて、2800g、10分で)固液分離を行い、液体抽出部分を除去した。液体抽出部分は廃液軽減のため1/4量を、前記工程の処理用のアルカリイオン水に補って使用し、3回繰り返して使用した。これにより大麦糠とアルカリイオン水の比率は1:2となる。アルカリイオン水処理により、アルカリイオン水に溶解した水溶性部分と、アルカリイオン水に浮遊した軽微な異物なども同時に分別除去できた。
【0025】
乾燥
前記工程で得られた固体部分について、庫内温度を60℃に設定したパワーヒートパイプ方式乾燥機(三和鋼器株式会社製)を用いて乾燥し、乾燥された大麦糠を得た。60℃に設定した理由は、高温での乾燥は残存する脂質を酸化し、過酸化脂質が生成するのを防ぐためである。
【0026】
粉砕
前記工程で得られた乾燥した大麦糠を衝撃式粉砕機で粉砕することにより、粉状の大麦糠を得た。得られた大麦糠の水分、脂肪含量、粗タンパク、粗灰分、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維、総食物繊維を分析した結果を下記の表1に示す。比較のため、未処理の大麦糠、大麦原麦、小麦全粒粉の分析結果も併せて表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1によれば、アルカリイオン水で抽出することにより大麦糠中において水溶性タンパク質や水溶性食物繊維の割合が減少し、特に、不溶性の食物繊維の割合が大きくなったことがわかる。
【0029】
[実施例2]
アルカリイオン水pH9.0で処理した大麦糠中のポリフェノール含量
前記実施例1で得られた粉状の大麦糠に含まれるポリフェノール含量を測定した。その結果を下記の表2に示す。ポリフェノールの定量は、サンプル1gを5%メタノール溶液で抽出し、Folin-Ciocaltus 法に従って行い、クロロゲン酸相当量として算出した。
【0030】
【表2】

【0031】
表2によれば、大麦原麦に比べて未処理の大麦糠中にはポリフェノールが7倍弱含まれているが、アルカリイオン水(pH9.0)処理した大麦糠は、未処理の大麦糠に比べて大幅にポリフェノールが抽出除去されることがわかる。
【0032】
[実施例3]
各種pHの電解水による抽出液中のポリフェノール含量
前記実施例1におけるアルカリイオン水による処理において、アルカリイオン水に代えて、各種pHの電解水(pH3.6、5.9、7.0、7.3、9.0)を用いて大麦糠を抽出した以外は前記実施例1と同様に液体抽出して液体抽出部分を得た。得られた液体抽出部分に含まれるポリフェノールの含量を分析した。その結果を下記の表3及び図1のグラフに示す。
【0033】
【表3】

【0034】
表3及び図1によれば、pH5.9、7.0、7.3では抽出液中のポリフェノール含量は格別の差異はないが、pH9.0ではその含量は顕著に高くなっている。このことから、pH7.3からpH9.0の間で、ポリフェノールの抽出液中への移行が増大したことが分かる。また、アルカリ側で抽出効力が大きくなる一方、酸性側では抽出効力が落ちることが分かる。
【0035】
[実施例4]
各種抽出液で抽出処理した後の大麦糠中のポリフェノール含量(残量)
2005年産大麦から得られた大麦糠に対して、前記実施例1におけるアルカリイオン水による処理と同様に処理した。処理水として、電解水pH3.5、電解水pH6.0、水道水pH7.0、電解水pH8、0.5%重曹pH8.5、電解水pH9.0、電解水pH10.0、0.5%炭酸ナトリウムpH12.0、1%水酸化ナトリウムpH13.6を用いた。処理水による抽出後の大麦糠中に含まれるポリフェノール含量(残量)を分析した。得られた結果を下記の表4に示す。
【0036】
【表4】

【0037】
表4によれば、水道水に比べて、pH8以上のアルカリ水で処理した大麦糠中に含まれるポリフェノールは、アルカリ度が高くなるにつれて少なくなることがわかる。なお、1%水酸化ナトリウムpH13.6では、澱粉が糊化し粘性が増して固液分離が不可能となったため、ポリフェノールの測定ができなかった。前記表2と該表4では大麦糠中のポリフェノール含量は一致していないが、この理由は、表2の大麦が2003年産のものに対して、表4が2005年産であるため、原料の産年によって変動が生じたものと思われる。
【0038】
[実施例5]
抗酸化活性及びフェルラ酸の定量
前記実施例1で得られた大麦糠の抗酸化力を測定した。その結果を下記の表5に示す。比較のため、未処理の大麦糠、大麦原麦及び市販小麦全粒粉についても抗酸化力を測定した。抗酸化力はラジカル消去能として100μM DPPH(1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル)[50%メタノール溶液]の吸光度を50%減少させるTrolox当量(TE)として算出した。
【0039】
【表5】

【0040】
表5によれば、大麦原麦にくらべて、未処理の大麦糠中には強い抗酸化力があることがわかる。大麦糠をアルカリイオン水で処理すると抗酸化力は若干減少するが、依然として原麦大麦に比べて強い抗酸化力を示す。また、市販小麦全粒粉と比べても強い抗酸化力を示す。
【0041】
前記実施例1におけるアルカリイオン水pH9.0(電解水)による処理と同様にして得た大麦糠に対して総ポリフェノール含量と、ポリフェノールの1種であるフェルラ酸含量を測定した。その結果を下記の表6に示す。
【0042】
電解水抽出物の総ポリフェノール含量及びフェルラ酸含量は水分を除去した乾燥物を測定した値である。
【0043】
フェルラ酸の測定は西澤らの方法に従った。すなわち、試料100mgに0.5N 水酸化ナトリウムを加え、60℃90分間加水分解を行った。続いて、6N 塩酸を加え酸性にして遊離したフェルラ酸をブタノールで抽出した。このブタノール溶液をHPLCに20μl注入し、320nmの吸収ピーク面積からフェルラ酸量を算出した。カラムはμ−BondapakC18 を用い、溶出液は0.2%燐酸グラジエント(0−100%アセトニトリル)をかけて流速は1.0ml/minで行った。
【0044】
【表6】

【0045】
表6によれば、アルカリイオン水pH9.0(電解水)で抽出処理した大麦糠中に含まれる総ポリフェノール量は、未処理大麦糠よりも減少している。これは、アルカリイオン水処理により水溶性ポリフェノールが抽出液中に溶け出したためと考えられる。その結果として、アルカリイオン水pH9.0(電解水)抽出物中のポリフェノール含量は非常に多い。
【0046】
また、フェルラ酸はアルカリイオン水pH9.0(電解水)処理大麦糠では、未処理大麦糠よりも増加している。増加した理由は、水溶性ポリフェノールがアルカリイオン水により抽出され、難溶性のフェルラ酸が大麦糠中に残留したためと考えられる。
【0047】
ところで、フェルラ酸は抗酸化活性を有することが知られており、抗がん作用、生体内抗酸化作用などの強い活性を持つことが報告されている。アルカリイオン水処理された大麦糠では主として水溶性ポリフェノールが抽出水で除去されるため、該大麦糠の抗酸化活性は、該大麦糠中に残留する不溶性ポリフェノールの多くを占めるフェルラ酸によるものと考えられる。
【0048】
[実施例6]
保存性試験
前記実施例1と同様にアルカリイオン水pH9.0(電解水)で処理をした大麦糠と、未処理の大麦糠を、それぞれ、温度40℃、相対湿度70%で12週間保存し、過酸化物価と残存するリポキシゲナーゼ活性を測定した。その結果を下記の表7に示す。
【0049】
【表7】

【0050】
表7によれば、アルカリイオン水pH9.0処理した大麦糠の過酸化物価は、保存しても上昇しておらず、また、過酸化物価の上昇の原因となるリポキシゲナーゼ活性も、消滅することがわかる。これに対して、未処理大麦糠では、製造直後ではリポキシゲナーゼ活性が残存しているため、保存時に過酸化物価が上昇することが分かる。
【0051】
[実施例7]
前記実施例1で得られた大麦糠について、トコフェロールおよびトコトリエノール含量を測定した。トコフェロールおよびトコトリエノール含量は、サンプルをケン化後HPLCで定量した。標準品としてα、β、γ、δ−トコフェロールおよびトコトリエノールはカルビオケム社から購入した。その結果を下記の表8に示す。比較のため、未処理の大麦糠、大麦原麦、市販小麦全粒粉についても同様にトコフェロールおよびトコトリエノール含量を定量した。
【0052】
【表8】

【0053】
表8によれば、トータルトコール及びトコトリエノールは未処理の大麦糠に比べて、アルカリイオン水pH9.0(電解水)処理することにより減少するが、大麦原麦に比べて多く、また、小麦全粒粉と比べても多い。
【0054】
[実施例8]
食パンの製造
前記実施例1で得られたアルカリイオン水pH9.0で処理した大麦糠を使用し下記の配合で、ホームベーカリー(SD−BT−102(商品名)、ナショナル株式会社製)を用いて材料を混練、発酵、焼成して食パンを製造した。製造された食パンはもちもちとした食感の、イガイガ感や、ピリピリ感の無い食味の優れた食パンであった。大麦糠を使用する場合はふくらみ感は若干小さくなる。
【0055】
(食パン1斤の材料)
強力粉 250g
アルカリイオン水pH9 処理大麦糠 30g
バター 11g
砂糖 17g
牛乳 70ml
水 120ml
ドライイースト 4.2g
【0056】
比較のため、前記配合割合においてアルカリイオン水pH9処理大麦糠を、未処理の大麦糠に換えて食パンを製造した。
前記工程で製造された各食パンについて、熟練された10名からなるパネラーにて官能試験を行った。官能試験は、味、香り、食感の項目について、良いものを○(3点)、普通であるものを△(2点)、悪いものを×(1点)とする3段階評価した。その結果を下記の表9に示す。
【0057】
【表9】

【0058】
表9によれば、アルカリイオン水で処理した大麦糠を使用した食パンは、未処理の大麦糠を使用したものよりも味、香り、食感において優れていた。
【0059】
[実施例9]
クッキー(プール・ドレッセ)の製造
前記実施例1で得られたアルカリイオン水pH9.0で処理した大麦糠を使用し下記の配合で、常法に従いクッキーを試作した。得られたクッキーは焼きたて時には大麦を炒ったときの香ばしい香りがした。サクサク感は小麦粉を用いて製造した場合と変わらないものであった。
【0060】
(クッキーの材料)
バター 125g
砂糖 75g
塩 1つまみ
卵 1/2個
小麦粉 144g
大麦糠 36g
【0061】
[実施例10]
スポンジケーキの製造
前記実施例1で得られたアルカリイオン水pH9.0で処理した大麦糠を使用し下記の配合で、常法に従い18cm丸のスポンジケーキを製造した。得られたスポンジケーキの膨らみは良好であった。シフォンケーキのような味であり、穀類原料の一部分を大麦糠としたために、小麦粉のみで造ったスポンジケーキよりも香ばしかった。
【0062】
(スポンジケーキの材料)
バター 90g
砂糖 75g
卵 3個
小麦粉 81g
大麦糠 9g
【0063】
[実施例11]
そばの製造
前記実施例1で得られたアルカリイオン水pH9.0で処理した大麦糠を使用し下記の配合で、常法に従いそばを製造した。得られたそばは小味があり、もちもちとした食感であった。
【0064】
(そばの材料)
そば粉 350g
大麦糠 150g
水 200ml
打粉 適量
【0065】
[実施例12]
牛用配合飼料の製造
前記実施例1で得られたアルカリイオン水pH9.0で処理した大麦糠を使用し下記の配合でミキサーで混合して牛用配合飼料を製造した。
【0066】
(1)肥育牛前期飼料(生後10カ月〜19カ月)
大麦圧ペン 19.8%
とうもろこし圧ペン 25.7%
とこもろこし粉 5.0%
大麦外皮 10.0%
大麦糠 14.8%
脱脂大豆ミール 17.8%
ヘイキューブ 5.9%
炭酸カルシウム 1.0%
【0067】
(2)肥育牛後期飼料(生後19カ月〜30カ月)
大麦圧ペン 35.6%
とうもろこし圧ペン 24.8%
とこもろこし粉 9.9%
大麦外皮 5.0%
大麦糠 9.9%
脱脂大豆セミフレーク 4.0%
脱脂大豆フレーク 4.9%
ヘイキューブ 4.9%
炭酸カルシウム 1.0%
【0068】
肥育牛前期飼料を生後10カ月〜19カ月間牛に与え、その後、肥育牛後期飼料生後20カ月〜30カ月間与えて飼育した牛について、増体、肉質ともに良好であり、特に問題は見出せなかった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】各種pHの電解水による抽出液中のポリフェノール含量のグラフを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大麦の精麦において副産物として産出される大麦糠に対して、アルカリ水処理を行い、水溶性ポリフェノールを減少させることを特徴とする嫌味成分の除去、抑制された大麦糠の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ水処理が、pH8.0−10.0のアルカリ水を用いた処理であることを特徴とする請求項1に記載の嫌味成分の除去、抑制された大麦糠の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ水が、アルカリイオン水であることを特徴とする請求項1又は2に記載の嫌味成分の除去、抑制された大麦糠の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の大麦糠の製造方法により得られた嫌味成分の除去、抑制された大麦糠。
【請求項5】
請求項4に記載の大麦糠が添加されてなる食品。
【請求項6】
請求項4に記載の大麦糠が添加されてなる飼料。

【図1】
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