説明

嫌気性処理方法及び装置

【課題】酸発酵工程における酸発酵不良の迅速検知を行い、メタン発酵処理性能の低下を未然に防ぐ嫌気性処理方法及び装置の提供。
【解決手段】有機性廃水Aを酸発酵する酸発酵槽2と、同槽からの酸発酵処理水Bをメタン発酵するメタン発酵槽10と酸発酵槽中のpH値を検出するpH計5と、これに基づきアルカリ剤6の注入量を検出するアルカリ剤添加ポンプ7とを備えた二相式の嫌気性処理方法。廃水の酸発酵槽への流入量を制御する流量計3と有機物濃度計14を備え、アルカリ剤の流入量と廃水の酸発酵槽への流入量と、有機物濃度から算出された有機物負荷量から求めたアルカリ剤の注入率の設定値に基づいて、廃水の酸発酵槽への流入量を制御する。アルカリ剤の流入量が注入率の設定値以下になると、流入量が減少又は停止することを特徴とする制御装置15。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品工場、化学工場などの各種工場より排出される有機性廃水を対象とし、酸発酵工程とメタン発酵工程からなる二相式嫌気性処理方法及び装置に関し、さらに詳しくは酸発酵工程での酸発酵不良を簡便かつ迅速に検知することで安定した処理のできる二相式嫌気性処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃水は、嫌気性処理によって分解処理される。嫌気性処理は、数多くの細菌類やいくつもの中間代謝過程が関与するような複雑なプロセスによって成り立っている。嫌気性処理は、大きく酸発酵工程とメタン発酵工程に分けられる。酸発酵工程では、先ず、炭水化物やたんぱく質、脂質などの複雑な有機化合物が加水分解によって、糖、アミノ酸、ペプチド等の低分子の有機物に分解され、分解された有機物は、酸発酵によって揮発性有機酸に分解される。次に、長鎖の揮発性有機酸(VFA)が、酢酸生成細菌によって酢酸と水素に変換される。続くメタン発酵工程では、メタン生成細菌によって酢酸、蟻酸、水素、メタノール等からメタンに変換される。このように、メタン生成細菌は、基質として処理できる物質が限られているため、廃水中の有機物を有機酸等に転換する酸発酵工程は重要となる。
【0003】
嫌気性処理は、大きく一相式嫌気性処理と二相式嫌気性処理に分けられる。一相式嫌気性処理は、主に酸発酵を行う酸発酵工程と主にメタン発酵を行うメタン発酵工程を同一槽内で行う処理方法であり、二相式嫌気性処理は、酸発酵工程とメタン発酵工程を2槽にわけて行う処理方法である。二相式嫌気性処理の特徴としては、(1)一相式より二相式嫌気性処理の方がCOD除去量が多く、プロセスの安定性も勝ること、(2)酸発酵の最適pHの観点から、酸発酵槽内pHは5.0〜6.5であるのに対し、メタン発酵の最適pHは6.5〜8.5に設定されることから、pH調整が容易であることにある。
高分子の有機物を含む原水を、一相式嫌気性処理方式で処理する場合、高分子の有機物の酸発酵工程が律速条件となるため発酵処理装置での滞留時間が長くなるので、設備が過大となり、効率の良い処理が行われない。高分子の有機物を含む原水を対象とする場合には、メタン発酵工程の前段に酸発酵工程を設けた二相式嫌気性処理方式とし、酸発酵工程で高分子の有機物を有機酸あるいは比較的低分子の有機物へ転換させるのがよい。これによって、メタン発酵工程の滞留時間が短くなり、一相式嫌気性処理方式と比べて効率の良い処理が実現できる。
【0004】
比較的高分子の有機物としては、タンパク質や脂質やでんぷん等が例としてあげられる。また、マルチトールやキシリトール等の糖アルコール等の難発酵成分も、高分子の有機物と同様に酸発酵工程が律速となる場合が多い。これらを合わせて難発酵成分と記す。
処理対象となる有機性廃水に含まれる難発酵成分の割合が高い場合、酸発酵工程において、難発酵成分の低分子化や有機酸への転換が十分に進行しない状態(この状態を以下、酸発酵不良とも記す)になる恐れがある。この状態の酸発酵槽流出水をメタン発酵処理する場合、メタン発酵工程の処理性能が低下し、メタン発酵槽流出水中には、残留VFA、未分解の有機物が含まれるとみられる。また、難発酵成分の低分子化や有機酸への転換が、十分に進行していないメタン発酵流出水を循環水として利用する場合、循環水由来の負荷がメタン発酵工程にかかり、さらにメタン発酵工程の処理性能が低下することになる。
さらに、酸発酵不良が悪化すると、メタン発酵工程のpHは、メタン発酵に適した6.5〜8.5の範囲を下回ることになる。この状態では、メタン発酵は停止し、さらにメタン発酵菌が死滅する状態(この状態を以下、酸敗とも記す)になる。
【0005】
菌体が倍増する倍化時間は、メタン発酵菌で83時間といわれ、酸発酵菌の33時間、活性汚泥の3.5時間と比べて非常に長い。いったん酸敗により、メタン発酵菌が死滅すると、処理性能が回復するまでに長期間を要する。
嫌気性処理装置を安定的に運転するために、特開平10−235391号公報では、二相式嫌気性排水処理装置において、酸生成槽におけるCOD負荷あたりのアルカリ添加量が許容範囲を超えたことを検知することで、処理水に有機酸が残存した処理悪化の状態と判定して、負荷低減の制御を行う方法が示されている。
また、特開平7−171592号公報では、原水CODCrとメタンガス発生量から、ガス化率を算出し、ガス化率から処理能力を判定して流入原水量を調節する方法が示されている。
【0006】
しかしながら、二相式嫌気処理方式の安定運転に関しては以下に示すような問題点がある。
(1) 難発酵成分を含んだ有機性廃水では、難発酵成分の割合が高まると、難発酵成分を低分子化及び有機酸に転換するのに要する滞留時間が不足する状態になりやすく、酸発酵不良を生じる恐れや、酸発酵槽における酸発酵不良に伴いメタン発酵槽内が酸敗状態となりメタン発酵処理性能が低下する恐れが高い。
(2) 従来法の酸発酵工程でのアルカリ添加量が許容範囲を超えた場合に負荷制御を行う方法では、有機酸が残留しpHが低下した状態のメタン発酵処理水を、酸発酵工程に循環している状態であり、上記の負荷制御を行ってもメタン発酵処理性能が回復しない恐れが高い。
(3) 原水CODCrとメタンガス発生量から算出したガス化率をもとに、流入原水量を調節する方法では、ガス化率の低下を検知した状態は既にメタン発酵処理性能が低下している状態であり、上記の負荷制御を行ってもメタン発酵処理性能が回復しない恐れが高い。
【特許文献1】特開平 7−171592号公報
【特許文献2】特開平10−235391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するために、難発酵成分を含んだ有機性廃水を処理する場合に際して、酸発酵工程における酸発酵不良の迅速検知を行い、メタン発酵処理性能の低下を未然に防ぐことができる嫌気性処理方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、有機性廃水を、アルカリ剤を用いてpH値を制御しながら酸発酵工程とメタン発酵工程を順次通して処理する二相式の嫌気性処理方法において、前記酸発酵工程でpH値を制御するために添加するアルカリ剤の注入量が、該酸発酵工程へ流入する流入水の有機物負荷量より求めたアルカリ剤注入率の設定値以下になったときに、該酸発酵工程へ流入する前記廃水の流入量を減少又は停止することを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理方法としたものである。
前記嫌気性処理方法において、pH値の制御は、酸発酵工程のpHが5.0〜6.5、メタン発酵工程のpHが6.5〜8.5になるように行うのがよく、前記有機物負荷量は、流入水中の有機物濃度と流入水の流入量から算出することができ、また、前記メタン発酵工程では、流出水の一部を前記酸発酵工程及び/又は該メタン発酵工程に循環することができ、その際、前記メタン発酵工程からの流出水を酸発酵工程及び/又はメタン発酵工程に循環する循環水は、前記酸発酵工程で、pH値を制御するために添加するアルカリ剤の注入量が、流入水の有機物負荷量より求めたアルカリ剤注入率の設定値以下になったときに、減少又は停止するのがよい。
【0009】
また、本発明では、有機性廃水を酸発酵する酸発酵槽と、該酸発酵槽からの流出水をメタン発酵するメタン発酵槽と、酸発酵槽中のpH値を検出する手段と、検出したpH値に基づいて注入するアルカリ剤の注入量を検出する手段とを備えた二相式の嫌気性処理装置において、前記有機性廃水が酸発酵槽へ流入する流入量を検出して制御する流量制御手段と、該廃水の有機物濃度検出手段とを備え、前記アルカリ剤の注入量と、前記廃水の酸発酵槽へ流入する流入量と有機物濃度から算出された有機物負荷量から求めたアルカリ剤注入率の設定値とに基づいて、前記酸発酵槽へ流入する前記廃水の流入量を制御する機構を備えたことを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理装置としたものである。
前記嫌気性処理装置において、前記メタン発酵槽は、流出水の一部を前記酸発酵槽及び/又は該メタン発酵槽に循環する経路を有することができ、該経路には、前記流出水の循環量を制御する流量制御手段を有し、前記アルカリ剤の注入量と、前記有機物負荷量から求めたアルカリ剤注入率の設定値に基づいて、循環水の循環量を制御する機構を備えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、酸発酵不良の迅速な検知によって、流入有機物負荷量を減少及び/又は滞留時間を増加させることで、酸発酵不良が発生してもメタン発酵処理性能の低下を回避し、さらにはメタン発酵菌を死滅させることがなく、難発酵物質流入後の溶解性CODCr除去率を従来法より高くでき、溶解性CODCr除去量を多くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、有機性廃水、特に比較的高分子の有機物や難発酵成分を含み、酸発酵工程が律速となる有機性廃水を対象として、酸発酵工程とメタン発酵工程からなら二相式嫌気性処理方式において、有機性廃水の有機物濃度検出手段及び流入量検出手段を設け、流入有機物負荷量あたりの酸発酵槽へのアルカリ剤注入量を指標として、酸発酵工程に注入されるアルカリ剤注入量の減少によって酸発酵不良を迅速に検知することで、流入有機物負荷量の変動に拘わらず、酸発酵不良を迅速に検知することで、メタン発酵処理性能の低下を回避するものである。
酸発酵不良の迅速な検知によって、流入有機物負荷量を減少且つ/又は滞留時間を増加させることで、酸発酵不良が発生してもメタン発酵処理性能の低下を回避し、さらにはメタン発酵菌を死滅させないことにある。
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
本発明における嫌気性処理は、酸発酵を主に行う酸発酵槽と、メタン発酵を主に行うメタン発酵槽との2槽からなる二相式嫌気処理をいう。対象とする有機性廃水は、固形性成分を主とする泥状であっても、溶解性成分を主とする液状であってもよい。また、メタン発酵処理には、主に泥状の有機性廃水を嫌気処理する嫌気性消化法や、主に液状の有機性廃水を嫌気処理するUASB法、EGSB法、流動床法、固定床法などの高負荷嫌気性処理があるが、いずれの方式でも本発明に適用できる。
本発明の対象となる嫌気性処理は、30℃〜35℃を至適温度とした中温メタン発酵処理、50℃〜55℃を至適温度とした高温メタン発酵処理の温度範囲の嫌気性処理のいずれでもよい。
【0013】
図1及び図2は、嫌気性処理を実施するためにUASB法を例にした本発明の好ましい一形態の概要を例示した図である。図1は、メタン発酵工程流出水を循環しない例、図2は、メタン発酵工程流出水の一部を酸発酵工程に循環する例である。図2には、メタン発酵工程流出水の一部を循環水として酸発酵槽内部に返送するライン、及びメタン発酵工程流出水の一部をメタン発酵槽の流入部に返送するラインの両方が設置された図を一例として示した。
はじめに、メタン発酵工程流出水を循環しない例について、図1を用いて説明する。
食品工場、化学工場などの各種工場より排出され、難発酵成分の負荷変動がある有機性廃水を原水Aとし、原水は、原水ポンプ1によって酸発酵槽2へ流入する。原水の流入水量は流量計3により測定される。流量は流量調節弁4で調節される。
【0014】
酸発酵槽では、槽内の酸発酵菌の働きにより、炭水化物やたんぱく質、脂質などの複雑な有機化合物が、糖、アミノ酸、ペプチド等の単純な有機化合物に低分子化され、さらに長鎖脂肪酸、酢酸に分解される。
酸発酵槽では、有機酸の生成に伴いpHが低下するが、酸発酵に適したpHである5.0〜6.5とするために、酸発酵槽に設置されたpH計5のpH測定結果をもとに、所定pHとなるようにアルカリ剤6をアルカリ剤添加ポンプ7にて注入する。アルカリ剤の注入量は、流量計8の積算により求められる。酸発酵槽のpHは酸発酵槽内にて測定してもよいし、酸発酵処理水Bを測定してもよい。アルカリ剤としては、NaOH、Ca(OH)、Mg(OH)、NaHCO、NaCOなどがあるが、pH制御の容易さ及び取り扱いの容易さを考慮して、NaOHを用いることが好ましい。
【0015】
アルカリ剤の注入位置は、酸発酵槽流入部、酸発酵槽内、メタン発酵処理水を酸発酵工程に循環を行う場合であればメタン発酵処理水循環配管のいずれでもよい。
また、原水が高pHや低pHの廃水である場合は酸又はアルカリを注入し、事前に中和を行うことが好ましい。
酸発酵槽で有機酸が生成された酸発酵処理水は、メタン発酵槽流入ポンプ9によって、メタン発酵槽10へ流入される。
メタン発酵槽では、酢酸などの有機酸がメタン発酵菌によってメタンガスと二酸化炭素に分解されバイオガスとなる。バイオガスは、図示されていないガスラインによって系外に排出される。排出されたバイオガスは、必要に応じて脱硫等の処理を行った後、ボイラーや燃焼塔などへ送られ利用される。
【0016】
次に、メタン発酵工程流出水の一部を酸発酵工程に循環する例を、図2を用いて説明する。
メタン発酵工程流出水Cは、処理水Dとなるが、流出水の一部を酸発酵工程に循環する場合は、メタン発酵処理水を循環水Eとして、循環ポンプ11によって酸発酵槽流入部あるいは酸発酵槽内部に返送する。循環水量は、流量計12により測定される。流量は流量調節弁13で調節される。
酸発酵工程ではアルカリ度を消費する酸発酵処理が、メタン発酵工程ではアルカリ度を生成するメタン発酵処理が進行するため、アルカリ度の高いメタン発酵処理水を酸発酵槽に循環することにより、メタン発酵工程で生成したアルカリ度を有効利用して、酸発酵槽に注入するアルカリ剤の使用量を削減できる。
【0017】
また、メタン発酵工程にUASB法、EGSB法、流動床法を採用した場合、循環水には、メタン発酵工程から後段の工程へ送られるメタン発酵処理水だけでなく、メタン発酵槽の汚泥界面上方に位置する中間部から直接引き抜いた槽内水を、メタン発酵工程流出水として用いることもできる。
さらに、メタン発酵工程にUASB法、EGSB法、流動床法を採用し、メタン発酵工程流出水の一部をメタン発酵工程に循環する場合は、メタン発酵槽の流入部やメタン発酵槽の底部や汚泥界面下方に位置する中間部に直接循環することがある。これにより、メタン発酵槽内のグラニュール汚泥や流動床の流動を促進でき、処理の安定化を図ることができる。したがって、メタン発酵工程流出水は、酸発酵工程への循環水と、メタン発酵工程への循環水と、後段の工程へ送られるメタン発酵工程処理水の合計となる。
【0018】
原水の流入量と有機物濃度の積で表される有機物負荷が変動する場合、有機物負荷に応じて酸発酵工程で生成される有機酸量が増減し、有機酸量に応じてアルカリ剤注入量も増減することになる。本発明では、有機物負荷や有機酸生成量に応じたアルカリ剤注入量を指標とする。この場合、図1、図2に示すように、酸発酵槽へ流入する手前に有機物濃度計14を設置し、有機物濃度のデータが制御装置15へ送られ、制御装置において、式(1)によって算出される有機物負荷量あたりのアルカリ剤注入量の割合から算出されるアルカリ剤注入率を指標として、後述の制御を行う。特に、難発酵成分が一時的に原水に混入する状態が想定される場合に、有機物負荷あたりのアルカリ剤注入率を指標とすることが好ましい。難発酵成分が一時的に原水に混入した場合、酸発酵で生成される難発酵成分由来の有機酸量は少ないので、有機物負荷あたりのアルカリ剤注入率は減少することになる。
有機物負荷あたりのアルカリ剤注入率(kg/kg)
=[アルカリ剤注入量(kg/d)]÷[原水有機物濃度(kg/m)×原水量(m/d)] ・・・(1)
有機物濃度は、クロム酸カリウムによる化学的酸素要求量(CODCr;Chemical Oxygen Demand)、全有機炭素(Total Organic Carbon;TOC)、全酸素要求量(Total Oxygen Demand;TOD)などいずれでもよい。
【0019】
図2に示すように、酸発酵工程にメタン発酵工程の処理水を循環水として戻す場合、循環水の水量とM−アルカリ度をそれぞれ流量計、M−アルカリ度計16で測定し制御に組み込むことが好ましい。循環水の水量とM−アルカリ度を測定し制御に組み込むことで、循環水の影響を補正して酸発酵の状態を把握することができる。
この場合、制御装置では、式(2)によって算出されるアルカリ剤注入率を指標として用いる。なお、式(2)では、アルカリ剤注入量をM−アルカリ度換算した例を示したが、循環水のM−アルカリ度量をアルカリ剤量に換算してもよい。
有機物負荷あたりのアルカリ剤注入率(kg/kg)
=[アルカリ剤注入量(M−アルカリ度換算)(kg/d)
+循環水M−アルカリ度量(kg/m)×循環水量(m/d)]
÷[原水有機物濃度(kg/m)×原水量(m/d)] ・・・(2)
【0020】
原水有機物濃度、循環水M−アルカリ度が安定している場合や、原水量、循環水量が一定の場合は、前記の式(1)、式(2)において、それぞれの値を入れて算出することができる。
制御装置にて算出された、式(1)、式(2)の有機物負荷あたりのアルカリ剤注入率の結果が設定値を下回った場合は、警報を発するとともに、1)原水量の減少あるいは停止、及び/又は、2)メタン発酵処理水の循環水量の減少あるいは停止する制御を行う。
図1、図2では、流量調整弁による流量調整の例を図示したが、流量を制御する方法はどのような方法でもよく、ポンプの回転数による制御でもよい。また、流量計によるアルカリ剤注入量の計測例を図示したが、アルカリ剤注入量を計測する方法はどのような方法でもよく、アルカリ剤貯留量の変化から注入量を求めてもよい。さらに、機器による測定と制御の例を示したが、手分析・手計算による制御も可能である。
【0021】
前記の式(1)、式(2)にて算出されたアルカリ剤注入率による制御フローを図4に示す。
必要に応じて原水量、有機物濃度、循環水量、循環水のM−アルカリ度、アルカリ剤注入量を測定する(a)。測定結果を基に、式(1)あるいは式(2)より算出されるアルカリ剤注入率が算出される(b)。
bにおいてアルカリ剤注入率が設定値以上であれば、酸発酵は良好との判定がなされ、一巡前の判定を参照する(c)。一巡前の判定で、酸発酵が良好と判断されていれば、運転条件の変更は行われない(d)。一巡前の判定で、酸発酵が不良と判断されていれば、一巡前に変更された原水量及び/又は循環水量の復帰を行う(e)。
bにおいてアルカリ剤注入率が設定値未満であれば、酸発酵は不良との判定がなされ、一巡前の判定を参照する(f)。一巡前の判定で、酸発酵が良好と判断されていれば、原水量の減少あるいは停止、及び/又は、循環水量の減少あるいは停止を行う(g)。一巡前の判定で、酸発酵が不良と判断されていれば、運転条件の変更は行われない(h)。
d、e、f、gの後、制御を継続する場合はaへ戻る。
図4では、酸発酵不良の判定を一段階で行う例を説明したが、アルカリ剤注入率の設定値を2つ以上設けて、多段階で酸発酵不良を判定してもよい。
【0022】
アルカリ剤注入率の設定値は、循環水となるメタン発酵処理水由来のM−アルカリ度と供給アルカリ剤由来のアルカリ度とで供給される合計のM−アルカリ度が、中和処理後の原水のTOC 1.0kg当たりのM−アルカリ度として0.3〜1.5kg、好ましくは0.6〜1.0kgの間に設定される。
原水の受入停止もしくは原水量の低減を行う目的は、流入有機物負荷量を減少することで難発酵成分の負荷を減少させ、酸発酵工程で難発酵成分の酸発酵を、十分進めることができる。
原水の受入停止もしくは原水量の低減を行うこと、及びメタン発酵処理水の酸発酵工程への循環水量の低減もしくは停止を行う目的は、酸発酵工程における滞留時間を増加することにある。滞留時間を増加することにより、難発酵成分の酸発酵を十分進めることができる。
また、メタン発酵槽流入部への循環水量の低減もしくは停止を行うことにより、メタン発酵処理水中に残存する難発酵成分及び酸発酵が十分されていない難発酵成分を、メタン発酵槽に再流入させないことで、メタン発酵槽内での酸発酵の進行による槽内pHの低下を抑制することもできる。
原水の流量の減少あるいは停止と、循環水量の減少あるいは停止の両方を行うことが好ましいが、受け入れなかった原水を産廃として工場外で処分することになり好ましくないので、循環水量の低減もしくは停止のみを行うこともできる。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を実施例により従来法と共に、さらに具体的に説明する。
TOC 3300〜3700mg/L、CODCr では9000〜10000mg/Lに調整した糖質系廃水を原水として、グラニュール汚泥を投入したUASBタイプのメタン発酵槽で処理を行った。UASBの前段処理工程として酸発酵工程を設置し、酸発酵工程の設定pHは6.0で運転した。アルカリ剤として水酸化ナトリウムを、無機栄養塩類として窒素、リンなどを添加した。水酸化ナトリウム 1000mg/LはM−アルカリ度 1250mg/Lとして換算することができる。種汚泥は、同じ清涼飲料廃水を処理している実機のグラニュール汚泥を投入した。有機物濃度としてTOCを指標とした。本発明の制御を行う前の標準状態での原水量は20L/dとした。このときUASBのCODCr容積負荷が20kg/(m・d)となる。なお、糖質系廃水のみの運転でUASBのCODCr容積負荷が30kg/(m・d)でも同等の処理が可能なことを事前に確認している。
【0024】
図1、図2、図3に示す二相式嫌気性排水処理装置にて運転を行った。酸発酵槽の有効容量は10L、UASB槽の有効容量は10Lである。酸発酵槽及びUASB槽内部の水温は、35℃に保たれるよう温度制御した。循環ありとした場合、UASB処理水の一部を酸発酵槽もしくは、UASB槽流入部に循環した。循環水量は20L/dとした。
運転は、30日間行い評価を行った。始めの10日間は、Run1とし糖質系廃水のみを原水として投入した。続く10日間は、Run2とし糖質系廃水に難発酵成分を混合した原水を投入した。難発酵成分として、A系列、D系列、E系列ではマルチトール、B系列ではキシリトール、C系列ではデンプンを使用した。難発酵成分を混合した原水のTOCは5200〜5600mg/L、CODCrでは14000〜15000mg/Lとなり、難発酵成分はTOC、CODCrの約35%を占めた。最後の10日間は、Run3とし、Run1と同じ糖質系廃水のみを原水として投入した。酸発酵状態の判定は、1日1回行った。
表1に運転条件を、表2に運転結果として各Runでの溶解性CODCr除去率の平均値、及びRun2、Run3の溶解性CODCr除去量を示す。図5には代表的な系列の処理結果の経時変化を示す。
ここで、
溶解性CODCr除去率(%)=100×(原水の溶解性CODCr濃度 − UASB処理水の溶解性CODCr濃度)/原水の溶解性CODCr
原水及びUASB処理水の溶解性CODCr濃度(mg/L)は、孔径1.0μろ紙で得たろ液を分析し得た。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
次に各系列の運転条件及び結果について、詳細に説明する。
A−1系列(従来法)
従来法のA−1系列は、図2に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は循環水として酸発酵槽に戻した。難発酵成分としてマルチトールを使用した。
A−1系列では、原水量20L/d、循環水量20L/dの一定条件とし、流入有機物負荷量による酸発酵状態の判定は行わなかった。
Run1では、溶解性CODCr除去率の平均値88%で安定した処理が行えていたが、Run2になるとアルカリ剤注入量が減少すると共に、溶解性CODCr除去率の平均値は27%に低下した。
Run3においても、溶解性CODCr除去率は改善せず、溶解性CODCr除去率の平均値は5%と著しく低かった。
【0028】
A−2系列(従来法)
従来法のA−2系列は、図2に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は循環水として酸発酵槽に戻した。難発酵成分としてマルチトールを使用した。
A−2系列では、UASB処理水に残存する有機酸量が設定値を超えたと判断した場合にメタン発酵不良状態と判定して原水量を減少させる制御を行った。すなわちTOC負荷あたりのアルカリ剤注入率が0.7kg−Mアルカリ度/kg−TOCを超えた場合にメタン発酵不良状態と判定し、原水の受入量を50%にすることにした。その後、TOC負荷あたりのアルカリ剤注入率が0.7kg−Mアルカリ度/kg−TOCより下がった場合にメタン発酵状態が改善したと判定し、原水量を元に戻すこととした。
Run1では、溶解性CODCr除去率の平均値88%で安定して処理が行えていた。Run2の3日後、アルカリ剤注入率が0.73kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなりメタン発酵不良状態と判定されたため、原水受入量を20L/dから10L/dに減少した。Run2の溶解性CODCr除去率の平均値は32%であった。Run3のTOCあたりのアルカリ剤注入量は設定値を超えて維持され、メタン発酵状態の改善を示すアルカリ注入率に到達しなかったので原水量も元に戻さなかった。その結果、Run3の溶解性CODCr除去率の平均値は30%と低かった。
【0029】
A−3系列(従来法)
従来法のA−3系列は、図3に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は循環水として酸発酵槽に戻した。メタン発酵工程で発生するバイオガスのガス流量計17、メタン濃度計18を設置した。難発酵成分としてマルチトールを使用した。
原水量、原水TOC、メタンガス発生量を測定し、TOC負荷量あたりのメタンガス発生量から算出されるTOC負荷あたりのガス化率を式(3)により算出した。メタン発酵不良と判定するTOC負荷あたりのガス化率の制御設定値を0.75m−メタンガス(NTP)/kg−原水TOCとした。A−3系列ではTOC負荷あたりのガス化率が設定値未満に減少した場合にメタン発酵不良と判定した。その後、TOC負荷あたりのガス化率が増加した場合にメタン発酵状態が改善したと判定し、原水量を元に戻すこととした。
TOC負荷あたりのガス化率[m−メタンガス(NTP)/kg−原水TOC]
=[メタンガス発生量[m−メタンガス(NTP)/d]
÷[原水TOC濃度(kg/m)×原水量(m/d)] ・・・(3)
Run1では、溶解性CODCr除去率の平均値88%で安定した処理が行えていた。Run2の2日後になるとガス化率は設定値未満の0.72m−メタンガス(NTP)/kg−原水TOCに減少したため、原水受入量を10L/dに減少した。Run2の溶解性CODCr除去率の平均値は50%となった。Run3のガス化率は設定値未満で、Run3の溶解性CODCr除去率の平均値は45%であった。
【0030】
A−4系列(本発明)
本発明のA−4系列では、図2に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は、循環水として酸発酵槽に戻した。難発酵成分としてマルチトールを使用した。
酸発酵槽でのアルカリ剤注入量、原水量、原水TOC、循環水量、循環水のアルカリ度を測定し、TOC負荷あたりのアルカリ剤注入率を式(2)により算出した。酸発酵不良と判定するTOC負荷あたりのアルカリ剤注入率の制御設定値を0.6kg−Mアルカリ度/kg−TOCとした。A−4系列では、本制御設定未満に減少した場合に酸発酵不良と判定した。
酸発酵状態が不良と判定された場合、原水量を75%の15L/dにした。酸発酵状態が回復したと判定された場合、原水量を元の水量に戻した。
Run1では、平均CODCr除去率88%で安定した処理が行えていたが、Run2の1日後、アルカリ剤注入率が0.54kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵不良と判定されたため、原水量を15L/dに減少した。Run2では溶解性CODCr除去率の平均値は52%となった。Run3の1日後には、アルカリ剤注入率が0.84kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり、酸発酵状態は回復したと判定されたため、元の水量に戻した。溶解性CODCr除去率の平均値は77%となった。
本発明の方法により、難発酵物質流入時に一時的に処理が悪化したものの、従来法A−2系列、A−3系列より迅速に酸発酵不良を検知することができ、従来法A−1系列、A−2系列、A−3系列より、適正な負荷とすることでRun2、Run3での除去溶解性CODCr量は多かった。
【0031】
A−5系列(本発明)
本発明のA−5系列では、図2に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は、循環水として酸発酵槽に戻した。難発酵成分としてマルチトールを使用した。
酸発酵槽でのアルカリ剤注入量、原水量、原水TOC、循環水量、循環水のアルカリ度を測定し、TOC負荷あたりのアルカリ剤注入率を式(2)により算出した。酸発酵不良と判定するTOC負荷あたりのアルカリ剤注入率の制御設定値を0.6kg−Mアルカリ度/kg−TOCとした。A−5系列では、本制御設定未満に減少した場合に酸発酵不良と判定した。
酸発酵状態が不良と判定された場合、原水量を50%の10L/dにした。酸発酵状態が回復したと判定された場合、原水量を元の水量に戻した。
Run1では、平均CODCr除去率88%で安定した処理が行えていたが、Run2の1日後、アルカリ剤注入率が0.47kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵不良と判定されたため、原水量を10L/dに減少した。Run2の溶解性CODCr除去率の平均値は85%となった。Run3の1日後には、アルカリ剤注入率が0.88kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵状態は回復したと判定されたため、元の水量に戻した。溶解性CODCr除去率の平均値は88%となった。
本発明の方法により、難発酵物質流入時に一時的に処理が悪化したものの、従来法A−2系列、A−3系列より迅速に酸発酵不良を検知することができ、本願発明のA−4系列と比べてさらに安定した処理が可能であり、適正な負荷とすることでRun2、Run3での除去溶解性CODCr量は多かった。
【0032】
A−6系列(本発明)
本発明のA−6系列では、図2に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は循環水として酸発酵槽に戻した。難発酵成分としてマルチトールを使用した。
酸発酵槽でのアルカリ剤注入量、原水量、原水TOC、循環水量、循環水のアルカリ度を測定し、TOC負荷あたりのアルカリ剤注入率を式(2)により算出した。酸発酵不良と判定するTOC負荷あたりのアルカリ剤注入率の制御設定値を0.6kg−Mアルカリ度/kg−TOCとした。A−6系列では、本制御設定未満に減少した場合に酸発酵不良と判定した。
酸発酵状態が不良と判定された場合、原水の供給を停止した。原水の供給を停止しているため、アルカリ剤注入が停止した時点を酸発酵状態が回復したと判定し、原水量を元の水量に戻した。
Run1では、平均CODCr除去率88%で安定した処理が行えていたが、Run2の1日後、アルカリ剤注入率が0.47kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり、酸発酵不良と判定されたため、原水の供給を停止した。Run2では、1日おきに酸発酵状態の不良と良好の判定を繰り返し、溶解性CODCr除去率の平均値は84%となった。Run3の1日後には、酸発酵状態は回復したと判定されたため、元の水量に戻した。溶解性CODCr除去率の平均値は88%となった。
本発明の方法によるTOC負荷あたりのアルカリ剤注入率が設定値以下に減少した場合に原水の受入停止を行う制御により、適正な負荷とすることで安定した処理が可能であった。
【0033】
A−7系列(本発明)
本発明のA−7系列では、図2に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は、循環水として酸発酵槽に戻した。難発酵成分としてマルチトールを使用した。
酸発酵槽でのアルカリ剤注入量、原水量、原水TOC、循環水量、循環水のアルカリ度を測定し、TOC負荷あたりのアルカリ剤注入率を式(2)により算出した。酸発酵不良と判定するTOC負荷あたりのアルカリ剤注入率の制御設定値を0.6kg−Mアルカリ度/kg−TOCとした。A−7系列では、本制御設定未満に減少した場合に酸発酵不良と判定した。
酸発酵状態が不良と判定された場合、循環水量を50%の10L/dにした。酸発酵状態が回復したと判定された場合、循環水量を元の水量に戻した。
Run1では、平均CODCr除去率88%で安定した処理が行えていたが、Run2の1日後、アルカリ剤注入率が0.57kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵不良と判定されたため、循環水量を10L/dに減少した。Run2の溶解性CODCr除去率の平均値は72%となった。Run3の1日後には、アルカリ剤注入率が0.73kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵状態は回復したと判定されたため、元の水量に戻した。溶解性CODCr除去率の平均値は86%となった。
本発明の方法により、適正な酸発酵槽の滞留時間を確保し、処理水中の難発酵成分の再流入を低減することで安定した処理が可能であった。
【0034】
A−8系列(本発明)
本発明のA−8系列では、図2に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は循環水として酸発酵槽に戻した。難発酵成分としてマルチトールを使用した。
酸発酵槽でのアルカリ剤注入量、原水量、原水TOC、循環水量、循環水のアルカリ度を測定し、TOC負荷あたりのアルカリ剤注入率を式(2)により算出した。酸発酵不良と判定するTOC負荷あたりのアルカリ剤注入率の制御設定値を0.6kg−Mアルカリ度/kg−TOCとした。A−8系列では、本制御設定未満に減少した場合に酸発酵不良と判定した。
酸発酵状態が不良と判定された場合、循環水の供給を停止した。酸発酵状態が回復したと判定された場合、循環水の供給を再開した。
Run1では、平均CODCr除去率88%で安定した処理が行えていたが、Run2の1日後、アルカリ剤注入率が0.58kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵不良と判定されたため、循環水の供給を停止した。Run2の溶解性CODCr除去率の平均値は76%となった。Run3の1日後には、アルカリ剤注入率が0.65kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵状態は回復したと判定されたため、循環水の供給を再開した。溶解性CODCr除去率の平均値は87%となった。
本発明の方法により、適正な酸発酵槽の滞留時間を確保し、処理水中の難発酵成分の再流入を低減することで安定した処理が可能であった。
【0035】
A−9系列(本発明)
本発明のA−9系列では、図2に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は循環水として酸発酵槽に戻した。難発酵成分としてマルチトールを使用した。
酸発酵槽でのアルカリ剤注入量、原水量、原水TOC、循環水量、循環水のアルカリ度を測定し、TOC負荷あたりのアルカリ剤注入率を式(2)により算出した。酸発酵不良と判定するTOC負荷あたりのアルカリ剤注入率の制御設定値を0.6kg−Mアルカリ度/kg−TOCとした。A−9系列では、本制御設定未満に減少した場合に酸発酵不良と判定した。
酸発酵状態が不良と判定された場合、原水量を50%の10L/dとすると共に、循環水量を50%の10L/dとした。酸発酵状態が回復したと判定された場合、原水量及び循環水量を元の水量に戻した。
Run1では、平均CODCr除去率88%で安定した処理が行えていたが、Run2の1日後、アルカリ剤注入率が0.54kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵不良と判定されたため、原水量と循環水量を50%に減少した。Run2の溶解性CODCr除去率の平均値は88%となった。Run3の1日後には、アルカリ剤注入率が0.81kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵状態は回復したと判定されたため、循環水の供給を再開した。溶解性CODCr除去率の平均値は88%となった。
本発明の方法により、適正な負荷及び適正な酸発酵槽の滞留時間を確保し、処理水中の難発酵成分の再流入を低減することで安定した処理が可能であった。
【0036】
B−1系列(従来法)
従来法のB−1系列は、図2に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は循環水として酸発酵槽に戻した。難発酵成分としてキシリトールを使用した。
B−1系列では、原水量20L/d、循環水量20L/dの一定条件とし、酸発酵状態の判定は行わなかった。
Run1では、溶解性CODCr除去率の平均値88%で安定した処理が行えていたが、Run2になるとアルカリ剤注入量が減少すると共に、溶解性CODCr除去率の平均値は28%に低下した。
Run3においても、溶解性CODCr除去率は改善せず、溶解性CODCr除去率の平均値は5%と著しく低かった。
【0037】
B−2系列(本発明)
本発明のB−2系列では、図2に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は循環水として酸発酵槽に戻した。難発酵成分としてキシリトールを使用した。
酸発酵槽でのアルカリ剤注入量、原水量、原水TOC、循環水量、循環水のアルカリ度を測定し、TOC負荷あたりのアルカリ剤注入率を式(2)により算出した。酸発酵不良と判定するTOC負荷あたりのアルカリ剤注入率の制御設定値を0.6kg−Mアルカリ度/kg−TOCとした。B−2系列では、本制御設定未満に減少した場合に酸発酵不良と判定した。
酸発酵状態が不良と判定された場合、原水量を50%の10L/dにした。酸発酵状態が回復したと判定された場合、原水量を元の水量に戻した。
Run1では、平均CODCr除去率88%で安定した処理が行えていたが、Run2の1日後、アルカリ剤注入率が0.55kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵不良と判定されたため、原水量を10L/dに減少した。Run2の溶解性CODCr除去率の平均値は85%となった。Run3の1日後にはアルカリ剤注入率が0.89kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵状態は回復したと判定されたため、元の水量に戻した。溶解性CODCr除去率の平均値は88%となった。
本発明の方法により、難発酵物質流入時に一時的に処理が悪化したものの、従来法B−2系列より、適正な負荷とすることでRun2、Run3での除去溶解性CODCr量は多かった。
【0038】
C−1系列(従来法)
従来法のC−1系列は、図2に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は循環水として酸発酵槽に戻した。難発酵成分としてデンプンを使用した。
C−1系列では、原水量20L/d、循環水量20L/dの一定条件とし、酸発酵状態の判定は行わなかった。
Run1では、溶解性CODCr除去率の平均値88%で安定した処理が行えていたが、Run2になるとアルカリ剤注入量が減少すると共に、溶解性CODCr除去率の平均値は42%に低下した。
Run3においても、溶解性CODCr除去率は改善せず、溶解性CODCr除去率の平均値は30%と低かった。
【0039】
C−2系列(本発明)
本発明のC−2系列では、図2に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は循環水として酸発酵槽に戻した。難発酵成分としてデンプンを使用した。
酸発酵槽でのアルカリ剤注入量、原水量、原水TOC、循環水量、循環水のアルカリ度を測定し、TOC負荷あたりのアルカリ剤注入率を式(2)により算出した。酸発酵不良と判定するTOC負荷あたりのアルカリ剤注入率の制御設定値を0.6kg−Mアルカリ度/kg−TOCとした。C−2系列では、本制御設定未満に減少した場合に酸発酵不良と判定した。
酸発酵状態が不良と判定された場合、原水量を50%の10L/dにした。酸発酵状態が回復したと判定された場合、原水量を元の水量に戻した。
Run1では、平均CODCr除去率88%で安定した処理が行えていたが、Run2の1日後、アルカリ剤注入率が0.58kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵不良と判定されたため、原水量を10L/dに減少した。Run2の溶解性CODCr除去率の平均値は88%となった。Run3の1日後には、アルカリ剤注入率が0.93kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵状態は回復したと判定されたため、元の水量に戻した。溶解性CODCr除去率の平均値は88%となった。
本発明の方法により、従来法C−1系列より、適正な負荷とすることでRun2、Run3での除去溶解性CODCr量は多かった。
【0040】
D−1系列(従来法)
従来法のD−1系列では、図1に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の循環は行わなかった。難発酵成分としてマルチトールを使用した。
D−1系列では、原水量20L/dの一定条件とし、酸発酵状態の判定は行わなかった。
Run1では、溶解性CODCr除去率の平均値88%で安定した処理が行えていたが、Run2になるとアルカリ剤注入量が減少すると共に、溶解性CODCr除去率の平均値は69%に低下した。
Run3の溶解性CODCr除去率の平均値は83%であった。
【0041】
D−2系列(本発明)
本発明のD−2系列では、図1に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の循環は行わなかった。難発酵成分としてマルチトールを使用した。
酸発酵槽でのアルカリ剤注入量、原水量、原水TOCを測定し、TOC負荷あたりのアルカリ剤注入率を式(1)により算出した。酸発酵不良と判定するTOC負荷あたりのアルカリ剤注入率の制御設定値を0.6kg−Mアルカリ度/kg−TOCとした。D−2系列では、本制御設定未満に減少した場合に酸発酵不良と判定した。
酸発酵状態が不良と判定された場合、原水量を75%の15L/dにした。酸発酵状態が回復したと判定された場合、原水量を元の水量に戻した。
Run1では、平均CODCr除去率88%で安定した処理が行えていたが、Run2の1日後、アルカリ剤注入率が0.49kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵不良と判定されたため、循環水量を15L/dに減少した。Run2の溶解性CODCr除去率の平均値は88%となった。Run3の1日後には、アルカリ剤注入率が0.81kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵状態は回復したと判定されたため、元の水量に戻した。溶解性CODCr除去率の平均値は88%となった。
本発明の方法により、D−1系列と比べて適正な負荷とすることでことで安定した処理が可能であった。D−1系列、D−2系列では、循環がないため酸発酵槽の滞留時間が長く、A−8系列の酸発酵不良時の運転に相当するため、処理性能の低下は少なかったが、A−8系列と比べてアルカリ剤注入量が多くなった。
【0042】
E−1系列(従来法)
従来法のE−1系列では、図2に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は循環水としてUASB流入部に戻した。難発酵成分としてマルチトールを使用した。
E−1系列では、原水量20L/d、循環水量20L/dの一定条件とし、酸発酵状態の判定は行わなかった。
Run1では、溶解性CODCr除去率の平均値88%で安定した処理が行えていたが、Run2になるとアルカリ剤注入量が減少すると共に、溶解性CODCr除去率の平均値は58%に低下した。
Run3の溶解性CODCr除去率の平均値は70%であった。
【0043】
・E−2系列(本発明)
本発明のE−2系列では、図2に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は循環水としてUASB流入部に戻した。難発酵成分としてマルチトールを使用した。
酸発酵槽でのアルカリ剤注入量、原水量、原水TOCを測定し、TOC負荷あたりのアルカリ剤注入率を式(1)により算出した。酸発酵不良と判定するTOC負荷あたりのアルカリ剤注入率の制御設定値を0.6kg−Mアルカリ度/kg−TOCとした。E−2系列では、本制御設定未満に減少した場合に酸発酵不良と判定した。
酸発酵状態が不良と判定された場合、循環水量を50%の10L/dにした。酸発酵状態が回復したと判定された場合、循環水量を元の水量に戻した。
Run1では、平均CODCr除去率88%で安定した処理が行えていたが、Run2の1日後、アルカリ剤注入率が0.49kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵不良と判定されたため、循環水量を10L/dに減少した。Run2の溶解性CODCr除去率の平均値は66%となった。Run3の1日後には、アルカリ剤注入率が0.69kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵状態は回復したと判定されたため、循環水量を元に戻した。溶解性CODCr除去率の平均値は86%となった。
本発明の方法により、適正な酸発酵槽の滞留時間を確保し、処理水中の難発酵成分の再流入を低減することで安定した処理が可能であった。
【0044】
E−3系列(本発明)
本発明のE−3系列では、図2に示す二相式嫌気性排水処理装置にて処理を行った。UASB処理水の一部は循環水としてUASB流入部に戻した。難発酵成分としてマルチトールを使用した。
酸発酵槽でのアルカリ剤注入量、原水量、原水TOCを測定し、TOC負荷あたりのアルカリ剤注入率を式(1)により算出した。酸発酵不良と判定するTOC負荷あたりのアルカリ剤注入率の制御設定値を0.6kg−Mアルカリ度/kg−TOCとした。E−3系列では、本制御設定未満に減少した場合に酸発酵不良と判定した。
酸発酵状態が不良と判定された場合、循環水の供給を停止した。酸発酵状態が回復したと判定された場合、循環水の供給を再開した。
Run1では、平均CODCr除去率88%で安定した処理が行えていたが、Run2の1日後、アルカリ剤注入率が0.49kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵不良と判定されたため、循環水の供給を停止した。Run2の溶解性CODCr除去率の平均値は77%となった。Run3の1日後には、アルカリ剤注入率が0.69kg−Mアルカリ度/kg−TOCとなり酸発酵状態は回復したと判定されたため、循環水の供給を再開した。溶解性CODCr除去率の平均値は87%となった。
本発明の方法により、適正な酸発酵槽の滞留時間を確保し、処理水中の難発酵成分の再流入を低減することで安定した処理が可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の嫌気性処理方法の一例を示すフロー構成図。
【図2】本発明の嫌気性処理方法の他の例を示すフロー構成図。
【図3】公知の嫌気性処理方法の一例を示すフロー構成図。
【図4】本発明の嫌気性処理方法の制御フロー図。
【図5】実施例のA−1系列(従来例)、実施例のA−2系列(従来例)、実施例のA−3系列(従来例)、実施例のA−5系列(本発明)、実施例のA−8系列(本発明)、の処理結果の経時変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0046】
1:原水ポンプ、2:酸発酵槽、3、8、12:流量計、4、13:流量調節弁、5:pH計、6:アルカリ剤、7:アルカリ剤添加ポンプ、9:メタン発酵槽流入ポンプ、10:メタン発酵槽、11:循環ポンプ、14:有機物濃度計、15:制御装置、16:アルカリ度計、17:ガス流量計、18:メタンガス濃度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃水を、アルカリ剤を用いてpH値を制御しながら酸発酵工程とメタン発酵工程を順次通して処理する二相式の嫌気性処理方法において、前記酸発酵工程でpH値を制御するために添加するアルカリ剤の注入量が、該酸発酵工程へ流入する流入水の有機物負荷量より求めたアルカリ剤注入率の設定値以下になったときに、該酸発酵工程へ流入する前記廃水の流入量を減少又は停止することを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理方法。
【請求項2】
前記pH値の制御は、酸発酵工程のpHが5.0〜6.5、メタン発酵工程のpHが6.5〜8.5になるように行うことを特徴とする請求項1記載の嫌気性処理方法。
【請求項3】
前記有機物負荷量は、流入水中の有機物濃度と流入水の流入量から算出することを特徴とする請求項1又は2記載の嫌気性処理方法。
【請求項4】
前記メタン発酵工程では、流出水の一部を前記酸発酵工程及び/又は該メタン発酵工程に循環することを特徴とする請求項1、2又は3記載の嫌気性処理方法。
【請求項5】
前記メタン発酵工程からの流出水を酸発酵工程及び/又はメタン発酵工程に循環する循環水は、前記酸発酵工程で、pH値を制御するために添加するアルカリ剤の注入量が、流入水の有機物負荷量より求めたアルカリ剤注入率の設定値以下になったときに、減少又は停止することを特徴とする請求項4記載の嫌気性処理方法。
【請求項6】
有機性廃水を酸発酵する酸発酵槽と、該酸発酵槽からの流出水をメタン発酵するメタン発酵槽と、酸発酵槽中のpH値を検出する手段と、検出したpH値に基づいて注入するアルカリ剤の注入量を検出する手段とを備えた二相式の嫌気性処理装置において、前記有機性廃水が酸発酵槽へ流入する流入量を検出して制御する流量制御手段と、該廃水の有機物濃度検出手段とを備え、前記アルカリ剤の注入量と、前記廃水の酸発酵槽へ流入する流入量と有機物濃度から算出された有機物負荷量から求めたアルカリ剤注入率の設定値とに基づいて、前記酸発酵槽へ流入する前記廃水の流入量を制御する機構を備えたことを特徴とする有機性廃水の嫌気性処理装置。
【請求項7】
前記メタン発酵槽は、流出水の一部を前記酸発酵槽及び/又は該メタン発酵槽に循環する経路を有することを特徴とする請求項6記載の嫌気性処理装置。
【請求項8】
前記メタン発酵槽の流出水を循環する経路には、該流出水の循環量を制御する流量制御手段を有し、前記アルカリ剤の注入量と、前記有機物負荷量から求めたアルカリ剤注入率の設定値に基づいて、循環水の循環量を制御する機構を備えたことを特徴とする請求項7記載の嫌気性処理装置。


【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−110507(P2011−110507A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269687(P2009−269687)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(591030651)荏原エンジニアリングサービス株式会社 (94)
【Fターム(参考)】