説明

子宮内膜症の予防又は治療薬

【課題】子宮内膜症又は子宮筋腫の予防及び治療に有効な薬を提供すること。
【解決手段】マクロライド抗生物質を有効成分として含有する子宮内膜症又は子宮筋腫の予防又は治療薬を提供した。
【効果】この予防又は治療薬により、子宮内膜症を効果的に治療することができる。子宮内膜症は、患者数が急増しており、月経痛や不妊の主な原因の1つとなっていることから、本発明は、不妊治療や月経痛治療及び予防の分野に大いに貢献するものと考えられる。また、マクロライド厚生物質は、子宮内膜症と同様な病理学的所見を示す子宮筋腫の予防及び治療にも有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮内膜症及び子宮筋腫の予防又は治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮内膜症は、子宮内膜ないし内膜様組織が、本来あるべき子宮腔内面以外の部位で異所性に拡大増殖する疾患である。子宮内膜症は原因が不明であり、癒着を手術で切り離す、ホルモンを投与する、鎮痛剤を投与する等の治療が行われているが、これらはいずれも対症療法であり、根本的な治療方法は存在しない。
【0003】
また、子宮筋腫は、子宮の筋肉にできる良性の腫瘍であり、月経異常や不正出血の原因となる。また、筋腫が大きい場合には周囲の臓器を圧迫し、骨盤内に充血を起こしたり腰痛や牽引痛を起こしたりし易くなる。子宮筋腫の治療法は、外科手術以外にはなく、しかも手術は子宮全摘が基本である。子宮筋腫の薬物治療は行われていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、子宮内膜症又は子宮筋腫の予防及び治療に有効な薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、マクロライド抗生物質が子宮内膜症及び子宮筋腫の予防効果及び治療効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、マクロライド抗生物質を有効成分として含有する子宮内膜症又は子宮筋腫の予防又は治療薬を提供する。また、本発明は、マクロライド抗生物質の子宮内膜症又は子宮筋腫の予防又は治療薬製造のための使用を提供する。さらに、本発明は、子宮内膜症又は子宮筋腫の患者に、子宮内膜症又は子宮筋腫の予防又は治療に効果的な量のマクロライド抗生物質を投与することを含む、子宮内膜症又は子宮筋腫の予防又は治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、子宮内膜症を治療することができる子宮内膜症の予防及び治療に有効な薬剤が初めて提供された。子宮内膜症は、患者数が急増しており、月経痛や不妊の主な原因の1つとなっていることから、本発明は、不妊治療や月経痛治療及び予防の分野に大いに貢献するものと考えられる。また、マクロライド厚生物質は、子宮内膜症と同様な病理学的所見を示す子宮筋腫の予防及び治療にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
上記の通り、本発明の子宮内膜症の予防又は治療薬は、子宮内膜症の予防及び治療の両方に有効であり、マクロライド抗生物質を有効成分として含有するものである。マクロライド抗生物質とは、12〜16員のラクトン環(環を構成する原子の数が12〜16個)と、中性又はアミノ糖を持つ一群の抗生物質を意味する。本発明において用いることができるマクロライド抗生物質の例として、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン、アジスロマイシン、エリスロマイシン、ジョサマイシン、ロイコマイシン群、スピラマイシン群、カルボマイシン群、シラマイシン群、タイロシン、アンゴラマイシン、キタサマイシン、アセチルスピラマイシン、ミデカマイシン、ロキシスタマイシン、オレアンドマイシン、ミロサマイシン及びマリドマイシン並びにこれらの水和塩、無毒性塩並びに誘導体を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。ここで「誘導体」とは、ラクトン環と糖から成る基本骨格が元の化合物と同じで、ラクトン環及び/又は糖に結合している置換基が変更されたものを意味し、抗生物質作用を有するものであればこれらの誘導体をも用いることが可能である。また、無毒性塩としては塩酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。マクロライド抗生物質としては、ラクトン環が14員環又は15員環のものが好ましく、また、糖が2個結合しているものが好ましい。とりわけ、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン及びアジスロマイシンが好ましい。
【0009】
本発明の子宮内膜症の予防又は治療薬は、経口投与並びに、例えば静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、経腸投与等の非経口投与のいずれの投与方法においても投与することができ、経口投与が簡便で好ましい。投与量は、患者の症状の程度や用いるマクロライド抗生物質の種類等に応じて適宜設定されるが、通常、成人1日当たり、マクロライド抗生物質の量として300 mg〜500 mg程度であり、感染症の治療に採用される程度の投与量で有効である。
【0010】
なお、子宮腺筋症は、子宮内膜ないし内膜様組織が子宮筋層内に異所的出現したものであり、子宮内膜症の1形態であり、子宮内膜症に含まれる(「外科病理学」、p713-715,文光堂発行、「臨床組織病理学」、p661、杏林書院発行)。
【0011】
本願発明者はまた、子宮筋腫の所見について鋭意研究した結果、子宮筋腫においても病理学的に肥満細胞の存在及び脱顆粒像が認められ、子宮内膜症と同様の所見であることを人体症例で確認した。従って、マクロライド抗生物質は、子宮内膜症と同様、子宮筋腫の治療及び予防に有効である。
【0012】
なお、子宮筋腫の治療又は予防に用いるマクロライド抗生物質や、その投与経路、投与量等については、上記した子宮内膜症についての説明がそのまま適用できる。
【0013】
製剤は、医薬品の分野で通常行われているいずれの製剤方法をも採用することができる。例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール又はラウリル硫酸ナトリウム等の添加剤と共に造粒し、打錠して錠剤とすることができるが、これに限定されるものではない。製剤例としては、例えば、クラリスロマイシン50 mgとポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル34 mgとを混合、造粒、打錠して錠剤とすることを挙げることができるが、もちろんこれに限定されるものではない。
【0014】
マクロライド抗生物質は、既に種々の感染症に対する治療剤として用いられているので、医薬品に要求される程度の安全性は確認されている。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0016】
実施例1 クラリスロマイシンによる子宮内膜症の治療効果
子宮内膜症モデルラットは、Michael W. Vernon et al., FERTILITY AND STERILITY, Vol. 44, No. 5, November 1985に記載の方法により作製した。すなわち、次のようにして子宮内膜症モデルラットを作製した。週齢8週のSprague-Dawleyラット(メス)を12時間明暗環境にて2週間順応させた後、セボフルラン及び塩酸ケタミンによる全身麻酔下において、右子宮角部を摘出、5 x 5 mmの子宮組織片を作成し、子宮内膜面を腹膜に向けて自家移植した。
【0017】
子宮内膜症モデルラット作製24時間後より、市販のクラリスロマイシン錠(商品名「クラリス錠50小児用」、大正製薬株式会社製)を子宮内膜症モデルラットに3日間に亘って経口投与した。投与量は、クラリスロマイシンに換算して1日当たり10 mg/kgであった。対照には、クラリスロマイシンを投与しなかった。モデル病変のピークである、モデル作製7日後に移植片を含めた腹膜組織を腹筋まで切除し、病変材料を採取した。これら材料より、光学顕微鏡標本(ヘマトキシリン・エオジン染色、トルイジンブルー染色)及び電子顕微鏡標本(ウラン・鉛重染色)を作製し、子宮内膜症の病変特徴である肥満細胞の浸潤の有無と、間質増殖性病変の程度を観察した。
【0018】
その結果、対照群では、肥満細胞の浸潤と間質増殖性病変が認められたが、クラリスロマイシン投与群では肥満細胞の浸潤が認められず、間質増殖性病変の程度も明らかに抑制されていた。
【0019】
実施例2 ロキシスロマイシンによる子宮内膜症の治療効果
クラリスロマイシンに代えてロキシスロマイシン(商品名「ルリッド錠150」、エーザイ株式会社製)を用いたことを除き、実施例1と同じ操作を行った。なお、投与量は、ロキシスロマイシン換算で1日当たり6 mg/kgであった。その結果、対照群では、肥満細胞の浸潤と間質増殖性病変が認められたが、ロキシスロマイシン投与群では肥満細胞の浸潤が認められず、間質増殖性病変の程度も明らかに抑制されていた。
【0020】
実施例3 アジスロマイシンによる子宮内膜症の治療効果
クラリスロマイシンに代えてアジスロマイシン(商品名「ジスロマック錠250 mg」、ファイザー製薬株式会社製)を用いたことを除き、実施例1と同じ操作を行った。なお、投与量は、アジスロマイシン換算で1日当たり10 mg/kgであった。その結果、対照群では、肥満細胞の浸潤と間質増殖性病変が認められたが、アジスロマイシン投与群では肥満細胞の浸潤が認められず、間質増殖性病変の程度も明らかに抑制されていた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロライド抗生物質を有効成分として含有する子宮内膜症又は子宮筋腫の予防又は治療薬。
【請求項2】
上記マクロライド抗生物質はクラリスロマイシン、ロキシスロマイシン又はアジスロマイシンである請求項1記載の予防又は治療薬。
【請求項3】
子宮内膜症の予防又は治療薬である請求項1又は2記載の予防又は治療薬。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロライド抗生物質(14員環又は15員環のラクトン環を有するものを除く)を有効成分として含有する子宮内膜症の予防又は治療薬。

【公開番号】特開2006−241172(P2006−241172A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168598(P2006−168598)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【分割の表示】特願2002−542408(P2002−542408)の分割
【原出願日】平成13年11月15日(2001.11.15)
【出願人】(500527568)
【Fターム(参考)】