説明

孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキ

【課題】少なくともフィルムを含む孔版印刷原紙を版とする孔版印刷に用いられ、印刷部への孔版印刷原紙の固着を防止し、かつ硬化特性に優れた孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキの提供。
【解決手段】少なくとも重合成分と、重合開始剤とを含有してなり、該重合開始剤の濃度で換算した365nmの光吸収量が100以下であることを特徴とする孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキである。少なくともフィルムを含む孔版印刷原紙を版とする孔版印刷に用いられることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともフィルムを含む孔版印刷原紙を版とする孔版印刷に用いられ、特に放置時の孔版印刷原紙の印刷部への固着が起こりにくい孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、感熱デジタル製版によって穿孔製版された孔版原紙を用いて該穿孔部を通過したインキで画像形成を行う孔版印刷用インキとしては、エマルションインキが使用されている。このエマルションインキは、乾燥が遅く、印刷物にベタ部分が多い場合には、裏移り、即ち印刷されたばかりの印刷物を重ねたときに隣接する印刷物のインクが付着して印刷物を汚してしまうという問題がある。
そこで、前記エマルションインキに代わって、活性エネルギー線硬化型インキが使用されるようになってきている。該活性エネルギー線硬化型インキは、紫外線の照射によって速やかに硬化するため、該活性エネルギー線硬化型インキを用いて印刷を行った場合、一般に用いられているW/O型エマルションインキよりもインキの乾燥性がよく、裏移りしないなどの長所がある。
【0003】
このような孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキについて、種々の提案がなされている。例えば、特許文献1では、実施例において重合開始剤としての2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(商品名:イルガキュア369、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を3質量%使用している。この重合開始剤は、長波長まで吸収を持ち、365nmの波長の光にも反応性を有し、硬化特性に優れた重合開始剤である。
しかし、前記特許文献1では、画像を形成した孔版印刷原紙はインキを介して印刷部の外周に巻かれており、放置された場合には毛細管力により重合成分が非画像部に滲み出し、これが太陽光、蛍光灯等の光に曝されると重合開始剤が働いて重合成分が硬化し、孔版印刷原紙を印刷装置の印刷部で固着させて、排版不良が生じるという問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2002−30238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、少なくともフィルムを含む孔版印刷原紙を版とする孔版印刷に用いられ、印刷部への孔版印刷原紙の固着を防止し、かつ硬化特性に優れた孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 少なくとも重合成分と、重合開始剤とを含有してなり、該重合開始剤の濃度で換算した365nmの光吸収量が100以下であることを特徴とする孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキである。
該<1>の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキにおいては、孔版印刷原紙に含まれるフィルムが長波長になるほど光透過性が高くなるという性質を有し、光の透過性の高い領域の重合開始剤の光吸収量を少なくすること、具体的には、重合開始剤の濃度で換算した365nmの光吸収量を100以下とすることにより、重合開始剤の働きを抑制し、重合成分の硬化反応を抑制して、孔版印刷原紙の印刷部への固着による排版不良を改善することができる。
<2> 365nmの光吸収量が10以下である前記<1>に記載の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキである。
<3> 254nm及び313nmのいずれかの光吸収量が1,600以上である前記<1>に記載の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキである。
<4> 254nmの光吸収量が1,600以上である前記<3>に記載の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキである。
該<3>から<4>のいずれかに記載の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキにおいては、254nm及び313nmのいずれかの光吸収量が1,600以上、特に254nmの光吸収量が1,600以上であることにより、重合開始剤の反応効率を高くし、印刷後の重合成分の硬化反応を促進する効果が得られる。
<5> 少なくともフィルムを含む孔版印刷原紙を版とする孔版印刷に用いられる前記<1>から<4>のいずれかに記載の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキである。
該<5>に記載の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキにおいては、孔版印刷原紙が少なくともフィルムを含むため、高波長になるほど光透過性が高くなるので、光の透過性の高い領域の重合開始剤の光吸収量を少なくすることで、重合開始剤の反応を抑制し、重合成分の反応を抑制することができ、孔版印刷原紙の印刷装置への固着による排版不良を改善する効果が向上する。
<6> フィルムが、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである前記<5>に記載の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキである。
該<6>に記載の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキにおいては、フィルムがポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであるため、313nm以下の光を遮蔽する効果を有するので、孔版印刷原紙の印刷装置への固着による排版不良を改善する効果が更に向上する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来における問題を解決でき、少なくともフィルムを含む孔版印刷原紙を版とする孔版印刷に用いられ、印刷部への孔版印刷原紙の固着を防止し、かつ硬化特性に優れた孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキ(以下、単に「インキ」と称することもある)は、少なくとも重合成分と、重合開始剤とを含有してなり、着色剤、分散剤、及び体質顔料を含んでなり、更に必要に応じてその他の成分を含んでなる。
【0009】
前記インキは、前記重合開始剤の濃度で換算した365nmの光吸収量が100以下であり、60以下が好ましく、10以下がより好ましく、3〜10が更に好ましく、0が最も好ましい。これにより、孔版印刷原紙の印刷装置への固着による排版不良を改善する効果が得られる。これは、図1に示すように、孔版印刷原紙に含まれるフィルムが長波長になるほど光透過性が高くなるという性質を有するので、光の透過性の高い領域の重合開始剤の光吸収量を少なくして、重合開始剤の働きを抑制し、重合成分の硬化反応を抑制できるためであると考えられる。この場合、特に孔版印刷原紙のフィルムがポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであると、図1に示すように、PETフィルムはPPフィルムに比べて313nm以下の光を遮光する特性が大きいので、孔版印刷原紙の印刷装置への固着による排版不良を改善する効果が更に向上する。
【0010】
また、前記インキにおける254nm及び313nmのいずれかの光吸収量は1,600以上が好ましく、2,500以上がより好ましく、3,000〜8,000が更に好ましい。また、前記インキにおける254nmの光吸収量は1,600以上が好ましい。これにより、重合開始剤の反応効率を高くして、印刷後の重合成分の硬化反応を促進する効果が得られる。
【0011】
ここで、前記重合開始剤の濃度で換算した光吸光量は、重合開始剤のメタノール中での吸光係数から、下記数式1により算出した。
<数式1>
A = ε・[I]
ただし、前記式中、Aは吸収量、εは吸光係数(g/g−cm)、[I]はインキ中の重合開始剤の濃度を表す。
ここで、重合開始剤のメタノール中での吸光係数は、該重合開始剤のメタノール溶液を調製し、光のセル通過長が1cmの石英セル、分光計(相馬光学株式会社製、Fastevert S−2400)を用い、各波長での1cmあたりの吸収量を測定する。得られた吸収量と重合開始剤濃度から重合開始剤の各波長での吸光係数(g/g−cm)を算出した。なお、光源としては重水素/ハロゲンランプを使用した。
【0012】
本発明の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキは、上述したように、少なくとも重合成分と、重合開始剤とを含有してなり、着色剤、分散剤、及び体質顔料を含んでなり、更に必要に応じてその他の成分を含んでなる。
前記インキは、水分を含有しないことが好ましい。水を含有する系では水が紫外線を吸収するため、重合開始剤の濃度で換算したインキの光吸収量が水分を含有しない場合と異なってしまうことがある。
【0013】
ここで、前記活性エネルギー線硬化とは、活性エネルギー線の照射により、重合成分が重合し硬化することを意味し、このことは、例えば、活性エネルギー線照射後にインキを触ることにより確認できる。
前記活性エネルギー線としては、例えば、電子線、紫外線などが挙げられる。
前記紫外線硬化用の光源としては、例えば高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等の一般に使用されている紫外線硬化用のランプを使用してもよいが、これらのランプは365nmの光を有するので、水銀アマルガムランプ、Eximerランプを使用することが好ましい。
なお、本発明のインキは、ラジカル重合により固化する材料から構成されてもよいし、カチオン重合により固化する材料から構成されてもよい。
【0014】
−重合開始剤−
前記重合開始剤としては、前記インキの該重合開始剤の濃度で換算した365nmの光吸収量が100以下であるという要件を満たすものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。ラジカル重合開始剤としては光開裂型と水素引き抜き型が挙げられ、例えば、ベンゾフェノン、アセトフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、などが挙げられる。これらは、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0015】
前記重合開始剤としては、市販品を用いることができ、該市販品としては、例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のIRGACUREシリーズ(2959、651、127、184、907、369、379、819);DAROCURシリーズ(1173、TPO);日本化薬株式会社製のカヤキュア−DETX−S、カヤキュア−ITX、ベンゾフェノン、アセトフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンオフェノン、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテルなどが挙げられる。
これらの中でも、IRGACURE184、651、2959、907;DAROCUR1173(いずれも、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、あるいはカヤキュアDETX−S(日本化薬社製)を重合促進剤と併用して使用するのが特に好ましい。
【0016】
前記重合開始剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記インキの総質量に対し1〜25質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましく、3〜8質量%が更に好ましい。前記含有量が1質量%未満であると、重合成分が重合するためのラジカルが不足するため充分な効果が得られないことがあり、25質量%を超えると、重合開始剤が光を吸収してしまうため、インキ内部に到達する光量が減少し、塗膜内部の硬化不良が生じることがある。
なお、前記重合開始剤は増感剤あるいは重合促進剤と併用してもよく、該増感剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばn−ブチルアミン、トリエチルアミン,p−ジメチルアミン安息香酸エチル等の脂肪族アミン又は芳香族アミンなどが挙げられる。これらの具体的な例としては、DAROCUR EDB、DAROCUR EHA(チバ・スペシャルティ・ケミカル社製)、KAYACURE EPA、KAYACURE DMBI(日本化薬社製)が挙げられる。
【0017】
−重合成分−
前記重合成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリオール系の(メタ)アクリル酸で変性されたモノマー又はオリゴマーなどが挙げられる。
前記オリゴマーとは、モノマーが重合してできた重合体のうち、重合度が2〜20程度の低重合体であり、1個以上のアクリロイル基又はメタクリロイル基を有するものを意味する。
前記(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの混合物を総称する用語を意味し、他の類似の表現についても同様である。
【0018】
前記モノマーとしては、単官能又は多官能の(メタ)アクリレート系のモノマーなどが挙げられる。前記アクリレート系のモノマーとしては、例えば、ジシクロペンテルエチルアクリレート、イソボニルアクリレート、フェノールエチレンオキサイド変性アクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレンオキサイドユニットの数が5〜14)、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、プロピレンオキサイド変性グリセロールトリアクリレート、エチレンオキサイド(EO)変性トリメチロールプロパントリアクリレート(EOは1〜20)、プロピレンオキサイド(PO)変性トリメチロールプロパントリアクリレート(POは1〜6)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレンオキサイドユニットの数が5〜14)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラカプロラクトンネートテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラカプロラクトネートテトラアクリレート、ε−カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトン(n=2)モノアクリレート、カプロラクトンアクリレート、などが挙げられる。
前記オリゴマーとしては、例えば、エポキシアクリレート、エポキシ油化アクリレート、ウレタンアクリレート、不飽和ポリエステル、ポリエステルアクリレート、ビニルアクリレート、などが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、安全性を考慮した場合には、カプロラクトンで変性された材料で構成されることが好ましく、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコール、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが特に好ましい。
【0019】
前記重合成分の粘度は、温度に対する粘度の変化を小さくするため、25℃において、2,000mPa・s以下が好ましく、800mPa・s以下がより好ましく、400mPa・s以下が更に好ましい。ただし、インキの流動性不良による画像品質への不具合を防ぐ観点から、前記重合成分の粘度は、25℃において、20mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましい。
【0020】
前記重合成分の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記インキの総質量に対し15〜95質量%が好ましく、50〜85質量%がより好ましい。前記添加量が15質量%未満であると、硬化皮膜強度が不十分になることがあり、95質量%を超えると、十分なインキの降伏値が得られないことがある。
【0021】
−着色剤−
前記着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて各種色調の公知の染料、顔料、分散染料などの不溶性着色剤を用いることができる。なお、オーバープリント用として着色剤を含まないインキとすることもできる。
前記着色剤としては、例えば、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック類;アルミニウム粉、ブロンズ粉等の金属粉;弁柄、黄鉛、群青、酸化クロム、酸化チタン等の無機顔料;不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料等のアゾ系顔料;無金属フタロシアニン顔料、銅フタロシアニン顔料等のフタロシアニン系顔料;アントラキノン系色素、キナクリドン系色素、イソインドリノン系色素、イソインドリン系色素、ジオキサンジン系色素、スレン系色素、ペリレン系色素、ペリノン系色素、チオインジゴ系色素、キノフタロン系色素、金属錯体等の縮合多環系顔料;酸性又は塩基性染料のレーキ等の有機顔料;ジアゾ染料、アントラキノン系染料等の油溶性染料;蛍光顔料などが挙げられる。
【0022】
前記蛍光顔料としては、合成樹脂を塊状重合する際又は重合した後に、様々な色相を発色する蛍光染料を溶解又は染着し、得られた着色塊状樹脂を粉砕して微細化した、いわゆる合成樹脂固溶体タイプのものが好ましく、染料を担持する前記合成樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、スルホンアミド樹脂、アルキド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、などが挙げられる。
これらの中でも、前記カーボンブラックとしては、pH6〜10のものを添加してもよいし、pHの異なるものを2種以上併用してもよい。
【0023】
前記着色剤としては、市販品を用いることができ、該市販品としては、例えば、MA−100、MA−100S、MA−7、MA−70、MA−77、MA−11、#40、#44(いずれも、三菱化学株式会社製);Raven1100、Raven1080、Raven1255、Raven760、Raven410(いずれも、コロンビヤンカーボン社製);Mogul−L、Mogul−E、PEARLS−E(いずれも、キャボット社製)、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記着色剤は、前記インキ中に分散された状態で存在する。該インキ中に分散された該着色剤の平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1〜10μmが好ましく、0.1〜1.0μmがより好ましい。該平均粒径が0.1μm未満であると、印刷直後に顔料が紙に浸透し、画像濃度に対して所望の効果が得られないことがあり、10μmを超えると、インキ安定性に劣ることがある。
前記着色剤の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記インキの総質量に対し2〜15質量%が好ましい。
【0025】
−体質顔料−
前記体質顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白土、シリカ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、有機粘土、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナホワイト、ケイソウ土、カオリン、マイカ、水酸化アルミニウム等の無機微粒子;ポリアクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリシロキサン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の有機微粒子;又はこれらの共重合体からなる微粒子;などが挙げられる。
また、前記体質顔料としては、市販品を用いることができ、前記市販品としては、例えば、アエロジルシリーズの50、90G、130、200、300、380、TT600、COK84、R972等(いずれも、日本アエロジル株式会社製);白艶化TDD、白艶化O(いずれも、白石工業株式会社製);TIXOGELシリーズ(VP、DS、GB、VG、EZ−100、MP−100、MP−200、MPI、MPG等)、OPTIGEL(いずれも、ズードケミー触媒株式会社製);Garamiteシリーズの1958、1210、2578、Claytone GR、Claytone HT、Claytone PS3(いずれも、Southern Clay Products社製);SG2000(日本タルク株式会社製)、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記体質顔料の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記インキの総質量に対し0.1〜50質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましく、2〜5質量%が特に好ましい。
【0027】
−分散剤−
前記分散剤は、前記着色剤を分散させる機能を有する成分である。
前記分散剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ソルビタンセスキオレート等のソルビタン脂肪酸エステル;ヘキサグリセリンポリリシノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド等の非イオン性界面活性剤;アルキルアミン系高分子化合物;アルミニウムキレート系化合物;スチレン−無水マレイン酸系共重合高分子化合物;ポリカルボン酸エステル型高分子化合物;脂肪族系多価カルボン酸;高分子ポリエステルのアミン塩類;エステル型アニオン界面活性剤;高分子量ポリカルボン酸の長鎖アミン塩類;長鎖ポリアミノアミドと高分子酸ポリエステルとの塩;ポリアミド系化合物;リン酸エステル系界面活性剤;アルキルスルホカルボン酸塩類;スルホン酸塩;α−オレフィンスルホン酸塩類;ジオクチルスルホコハク酸塩類;ポリエチレンイミン;アルキロールアミン塩;アルキド樹脂等の不溶性着色剤分散能を有する樹脂、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記分散剤としては、市販品を用いることができ、前記市販品としては、例えば、日本ルーブリゾール株式会社製のソルスパーズシリーズ(例えばS3000、S5000、S9000、S13240、S13940、S16000、S17000、S20000、S24000、S26000、S27000、S28000、S31845、S31850、S32000、S32550、S33000、S34750、S36000、S39000、S41090、S53095等);味の素ファインテクノ株式会社製のプレーンアクトAL−M、アジスパーシリーズ(例えばPB711、PM821、PB821、PB811、PN411、PA111等);EFKA社製の6220、6225、6230、5244、などが挙げられる。
【0029】
前記分散剤の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記着色剤及び体質顔料の総質量に対し40質量%以下が好ましく、2〜35質量%がより好ましい。
【0030】
<その他の成分>
本発明のインキ中におけるその他の成分としては、特に制限はなく、本発明の効果を損わない範囲内で目的に応じて適宜選択することができ、例えば、重合禁止剤、植物油、などが挙げられる。
【0031】
−重合禁止剤−
本発明のインキは、該インキの保存安全性及び暗反応によるゲル化を防止する目的で、重合禁止剤を使用してもよい。
前記重合禁止剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒドロキノン、p−ベンゾキノン、t−ブチルヒドロキノン、p−メトキシフェノール(MEHQ)、などが挙げられる。
前記重合禁止剤の添加量としては、前記インキの総質量に対し100〜5,000ppmが好ましく、100〜500ppmがより好ましい。
【0032】
−植物油−
本発明のインキは、必要に応じて、硬化特性を阻害しない範囲で植物油を使用してもよい。
前記植物油としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大豆油、ナタネ油、コーン油、ゴマ油、トール油、綿実油、ひまわり油、サフラワー油、ウォルナッツオイル、ポピーオイル、リンシードオイル、又はこれらをエステル化した植物油などが挙げられる。前記エステル化植物油におけるエステルとしては、例えば、メチルエステル、ブチルエステル、イソプロピルエステル、プロピルエステルなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、印刷後のインキ乾燥性を考慮すると、ヨウ素価が100以上の、一般に乾性油及び半乾性油と呼ばれるものを使用するのが好ましい。なお、長期間放置による印刷機上でのインキ固着が問題になる場合には、ヨウ素価が100未満の植物油を使用してもよい。
【0033】
前記植物油としてヨウ素価が高い乾性油及び半乾性油を使用すると、空気中の酸素と酸化反応を起こし、それによって油の乾燥(固化)が進み、前記植物油を含有しているインキも固化してしまう。該インキの固化が発生すると、スクリーンの目詰まり及び画像立ち上りの悪化いう不具合が発生してしまうため、特にヨウ素価が高い(不飽和結合が多く含まれる)植物油を使用する際は、植物油中の脂肪酸(例えばリノレン酸、リノール酸、オレイン酸等)の酸化を防ぐため、後述する酸化防止剤を含有することが好ましい。
【0034】
前記植物油の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記インキの総質量に対し5〜70質量%が好ましく、30〜50質量%がより好ましい。
【0035】
−酸化防止剤−
前記酸化防止剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジフェニルフェニレンジアミン、イソプロピルフェニルフェニレンジアミン等のアミン系化合物;トコフェロール、ジブチルメチルフェノール等のフェノール系化合物;メルカプトメチルベンゾイミダゾール等の硫黄系化合物;ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール、などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記酸化防止剤の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記植物油含有量に対し2.0質量%以下が好ましく、0.1〜1.0質量%がより好ましい。
前記酸化防止剤は、前記植物油含有量に対して極めて少量の酸化防止剤を添加した場合、適切な酸化防止効果は期待できないことがあり、一方、前記植物油含有量に対して多量の酸化防止剤を一度に添加すると酸化促進剤として作用してしまう場合もある。したがって、少量の酸化防止剤でも植物油の酸化を抑えるため、後述する相乗剤を加えることが好ましい。
【0037】
−相乗剤−
前記相乗剤とは、それ自身酸化防止作用はほとんど持たないが、酸化防止剤と併用するとその作用を増強する化合物を意味する。該相乗剤としては、通常酸性物質が好ましく、いくつかの水酸基又はカルボキシル基を有する多官能性化合物がより好ましい。
前記相乗剤としては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メチオニン、アスコルビン酸、トレオニン、ロイシン、牛乳タンパク質加水分解物、ノルバリン、パルミチン酸アスコルビル、フェニルアラニン、シスチン、トリプトファン、プロリン、アラニン、グルタミン酸、バリン、膵臓タンパクのペプシン消化液、アスパラギン、アルギニン、バルビツール酸、アスフェナミン、ニンヒドリン、プロパニジン、ヒスチジン、ノルロイシン、グリセロリン酸、カゼインのトリプシン加水分解液、カゼインの塩酸加水分解液、などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
前記相乗剤の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記酸化防止剤の総質量100質量部に対し50〜150質量部が好ましく、70〜120質量部がより好ましい。
【0039】
<孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキの製造方法>
本発明の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキの製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、常法により各成分を混合して、3本ロールミル等の分散機を用いて分散処理を行うことにより製造することができる。
前記孔版印刷システム用のインキの粘度は、攪拌条件によっても調節可能であり、システムにあった粘度であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ずり速度20s−1のときの粘度は2〜40Pa・sが好ましく、10〜30Pa・sがより好ましい。
また、印刷後の用紙の巻き上がりの観点から、下記式で表されるCassonの近似式により近似したインキの降伏値は40〜300Paが好ましく、60〜200Paがより好ましい。また、前記インキの塑性粘度は2.0Pa・s以下が好ましく、0.1Pa・s以上1.0Pa・s以下がより好ましい。
【0040】
【数1】

ただし、前記式中、τは、せん断応力を表す。τは、降伏値を表す。Etaは、塑性粘度を表す。Dは、せん断速度を表す。
【0041】
本発明の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキは、少なくともフィルムを含む孔版印刷原紙を版とする孔版印刷に好適に用いられる。
前記孔版印刷原紙としては、例えば(1)フィルムからなるもの、(2)フィルムと和紙からなるもの、(3)フィルムと和紙の間に多孔層を有する3層以上の層構造からなるものなどが挙げられる。
前記フィルムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、光透過性の低いものが好ましく、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが挙げられる。これらの中でも、PETは313nm以下の光を遮光する特性を有し、コスト、穿孔性、光透過性の観点から特に好ましい。
前記和紙としては、例えば天然性繊維からなるもの、合成繊維からなるもの、天然繊維と合成繊維からなるものなどが挙げられる。
前記多孔層としては、多孔性樹脂膜及び多孔性繊維膜の少なくともいずれかが挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
(実施例1〜16及び比較例1〜2)
−孔版印刷用紫外線硬化型インキの調製−
表1〜表3に示す処方に従い、着色剤、分散剤、体質顔料、重合成分(表5参照)、及び重合開始剤(表4参照)を混合し、3本ロールミル(株式会社井上製作所製)を用い分散処理を行って、実施例1〜16及び比較例1〜2の孔版印刷用紫外線硬化型インキを調製した。
得られた各インキについて、以下のようにして、各波長での光吸収量を測定した。結果を表1〜表3に示す。
【0044】
<光吸収量の測定>
重合開始剤の濃度で換算した光吸光量は、重合開始剤のメタノール中での吸光係数(表4参照)から、下記数式1により算出した。
<数式1>
A = ε・[I]
ただし、前記式中、Aは吸収量、εは吸光係数(g/g−cm)、[I]はインキ中の重合開始剤の濃度を表す。
ここで、重合開始剤のメタノール中での吸光係数は、重合開始剤のメタノール溶液を調製し、光のセル通過長が1cmの石英セル、分光計(相馬光学株式会社製、Fastevert S−2400)を用い、各波長での1cmあたりの吸収量を測定した。得られた吸収量と重合開始剤濃度から重合開始剤の各波長での吸光係数(g/g−cm)を算出した。光源としては重水素/ハロゲンランプを使用した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
表1〜表3中の略号は、以下の内容を表す。
*Mogul−E(キャボット社製)
*Solsperse 33000(日本ルーブリゾール株式会社製)
*Aerosil 200(日本アエロジル株式会社製)
【0049】
【表4】

*表4中の重合開始剤は、いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製
【0050】
【表5】

【0051】
次に、得られた各インキについて、以下のようにして、孔版印刷原紙の固着性及びインキの硬化特性を評価した。結果を表6、表7、及び表8に示す。
【0052】
<孔版印刷原紙の固着性試験>
10cm四方のPETフィルムと和紙とからなる孔版印刷原紙の和紙側に0.5gのインキを均一に塗布し、ガラスに付着させ、室内にて1ヶ月間遮光せずに放置し、放置後の孔版印刷原紙のガラスへの固着の状態を下記基準により評価した。
〔評価基準〕
◎:固着がまったく見られなかった
○:一部の固着が見られた
△:固着が見られたが剥離可能であった
×:固着し剥離ができなかった
【0053】
<印刷試験(インキの硬化特性)>
実施例及び比較例で得られた各インキについて、孔版印刷機(株式会社リコー製、サテリオA650)で印刷し、得られた各印刷物を出力400Wの中圧水銀ランプ(HOK4/120、フィリップス社製)3本を使用した紫外線照射装置を用いて硬化させた。得られた印刷物を布で擦ったときの硬化特性について、下記基準で評価した。
〔評価基準〕
◎:印刷物、及び布の両方に汚れが見られない。
○:印刷物は汚れが見られないが、布に若干汚れが見られる。
△:若干であるが印刷物にも汚れが見られ、布にも汚れが見られる。
×:印刷物に汚れが見られ、布にも汚れが見られる。
【0054】
【表6】

【0055】
【表7】

【0056】
【表8】

【0057】
表1〜3及び表6〜8の結果から、重合開始剤の濃度で換算した365nmの光吸収量が100以下である実施例1〜16のインキは、比較例1〜2のインキに比べて、印刷部への孔版印刷原紙の固着を防止でき、かつ硬化特性に優れていることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキは、印刷部への孔版印刷原紙の固着を防止でき、かつ硬化特性に優れているので、少なくともフィルムを含む孔版印刷原紙を版とする孔版印刷機に使用するインキとして非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、ポリプロピレン(PP)と、ポリエチレンテレフタレート(PET)の紫外域での透過特性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも重合成分と、重合開始剤とを含有してなり、該重合開始剤の濃度で換算した365nmの光吸収量が100以下であることを特徴とする孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキ。
【請求項2】
365nmの光吸収量が10以下である請求項1に記載の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキ。
【請求項3】
254nm及び313nmのいずれかの光吸収量が1,600以上である請求項1に記載の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキ。
【請求項4】
254nmの光吸収量が1,600以上である請求項3に記載の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキ。
【請求項5】
少なくともフィルムを含む孔版印刷原紙を版とする孔版印刷に用いられる請求項1から4のいずれかに記載の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキ。
【請求項6】
フィルムが、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである請求項5に記載の孔版印刷用活性エネルギー線硬化型インキ。

【図1】
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【公開番号】特開2008−138164(P2008−138164A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151006(P2007−151006)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)
【Fターム(参考)】