説明

孔版印刷用薄葉紙

【課題】薄く、均質で、耐刷性に優れ、さらに、油性インキと水性インキの両方に適した孔版印刷用薄葉紙を提供する。
【解決手段】少なくとも植物の柔細胞から得られた繊維を含有する孔版印刷用薄葉紙。懸濁安定性が50%以上フィブリル化されている植物の柔細胞から得られた繊維と、平均繊維径0.1〜5μmの有機繊維とを、少なくとも含有する孔版印刷用薄葉紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲンランプ、キセノンランプ、フラッシュバルブなどによる閃光照射や赤外線照射、レーザー光線等のパルス照射、サーマルヘッド等によって穿孔製版される孔版印刷用薄葉紙に関する。
【背景技術】
【0002】
簡易な印刷方式として、孔版印刷方式が広く行われている。孔版印刷用原紙としては、多孔質支持体上に熱可塑性フィルム層を、あるいは熱可塑性ポリマー塗布層からなる感熱性孔版層を積層したものを用いる。この孔版印刷用原紙に対して、閃光照射、赤外線照射、レーザー光線等のパルス照射、サーマルヘッドによる加熱印字によって、画像状の穿孔を形成し、印刷にあたってはインキドラム等に巻き付けて、多孔性支持体側から印刷インキを供給して、紙等の被印刷物に対して印刷を行う。
【0003】
多孔性支持体としては、天然繊維、合成繊維の単独または混抄による薄葉紙が一般的に使用されている。孔版印刷方式では、近年、鮮明な印刷性、高解像度が要求されている。また、油性インキと水性インキの両方に対する耐性を持つことも要求されている。これらの要求に応えるために、孔版印刷用薄葉紙には、
(1)孔版印刷用薄葉紙の繊維が密な部分を少なくし、インキの透過性を改善して、白抜けを抑制すること、
(2)熱可塑性フィルム層の平滑性が向上させ、サーマルヘッドとの密着性を確保するために、孔版印刷用薄葉紙の繊維目による凹凸を改良すること、
(3)繊維径を細くし、高解像度に対応すること、
(4)油性インキと水性インキの両方において、寸法安定性、機械的強度を保持すること
などが求められている。
【0004】
孔版印刷用薄葉紙としては、例えば、ポリエステルかつまたはアクリルの0.1dtex以下の極細繊維が含まれる孔版印刷用薄葉紙が提案されている。この孔版印刷用薄葉紙は、使用されている繊維は、最も細いものでも0.1dtex、つまり約3μmであり、平滑性が低く、印刷むらが発生しやすいという問題がある。また、白抜けや高解像度の画像に対応できないという問題もある(例えば、特許文献1)。
【0005】
より細い繊維を用いた例として、セルロース繊維のフィブリル化物を主体繊維の少なくとも一部として構成した孔版印刷用薄葉紙が提案されている。この孔版印刷用薄葉紙では、耐刷性を上げるために、主体繊維として0.4dtex以下のポリビニルアルコール繊維を添加し、バインダーとして繊維状ポリビニルアルコールを使用している。このポリビニルアルコール繊維とポリビニルアルコールバインダーとの間で形成される水素結合を利用して、孔版印刷用薄葉紙の機械的強度を上げている。しかしながら、水素結合を利用した場合、水性インキを用いた場合に機械的強度が低下することがあった(例えば、特許文献2)。
【0006】
繊維長の長いこうぞ、みつまた、マニラ麻等の天然繊維を用いたり、天然繊維と再生繊維、合成繊維とを混合して抄造した混抄紙が用いられる場合もあるが、繊維径が太く、高解像度に対応できていない(例えば、特許文献3〜4)。
【特許文献1】特開平3−8892号公報
【特許文献2】特開平6−155956号公報
【特許文献3】特公昭41−7623号公報
【特許文献4】特公昭49−18728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情を鑑みたものであって、薄く、均質で、耐刷性に優れ、さらに、油性インキと水性インキの両方に適した孔版印刷用薄葉紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、この課題を解決するために鋭意研究を行った結果、以下の発明を見出した。すなわち、
(1)少なくとも植物の柔細胞から得られた繊維を含有する孔版印刷用薄葉紙、
(2)懸濁安定性が50%以上にフィブリル化されている植物の柔細胞から得られた繊維と、平均繊維径0.1〜5μmの有機繊維とを、少なくとも含有する孔版印刷用薄葉紙である。
【発明の効果】
【0009】
植物の柔細胞から得られた繊維(以下、柔細胞繊維と表記する)は、高重合度、高弾性率で、平均繊維径が0.1μm以下と非常に細いことが特長である。従来使用されていた天然繊維よりも細いため、薄くて均質な孔版印刷用薄葉紙を提供することができる。また、木材パルプ由来のミクロフィブリル化セルロース繊維やバクテリアセルロース繊維と比較しても、薄くて均質で、インキ透過性の高い孔版印刷用薄葉紙を提供することができる。理由は定かではないが、ミクロフィブリル化セルロース繊維やバクテリアセルロース繊維と比較して、柔細胞繊維は空隙を完全に埋めてしまうようなフィルム形状や凝集構造になりにくいためであると推測される。
【0010】
柔細胞繊維単独で孔版印刷用薄葉紙を製造しても良いが、懸濁安定性が50%以上にフィブリル化されている植物の柔細胞から得られた繊維と、平均繊維径0.1〜5μmの有機繊維とを、少なくとも含有することが好ましい。柔細胞繊維が懸濁安定性が50%以上にフィブリル化されていると、原料スラリーの分散均一性があがり、結果として孔版印刷用薄葉紙の均質性、耐刷性が向上する。特に、柔細胞繊維と平均繊維径が近似している平均繊維径0.1〜5μmの有機繊維を混合することにより、植物の柔細胞から得られた繊維とこれらの繊維が効率よく絡み合い、湿式抄紙機の抄紙ワイヤーから繊維が脱落しにくくなるとともに、均質性も向上する。また、柔細胞繊維よりも繊維径の太い有機繊維を混合すると、この有機繊維がつくるネットワークが耐水性を有しているので、水性インキに対する耐性を発現させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における柔細胞繊維とは、植物の茎や葉、果実等に存在する柔細胞を主体とした部分を、アルカリで処理する等して得られるセルロースを主体とし、水に不溶な非木材繊維である。柔細胞は、二次壁が発達していない特徴を有する。
【0012】
本発明において、植物の柔細胞を得るためには、茎の内部柔組織や葉の葉肉、果実等を粉砕するなどすればよいが、工業的には食品加工工場や製糖工場等から排出される、果実からのジュースの搾り粕やサトウダイコン、サトウキビ等からの搾汁粕を用いるのが最適である。例えば、サトウダイコンの搾汁粕を利用する際には、粉砕した根を搾汁し、残さの粕をそのまま利用することができる。サトウキビの搾汁粕を利用する際には、搾り粕であるバガスを適当な大きさに粉砕し、目開き1〜2mmのふるいを通過させることにより柔細胞を多く含む部分を得ることができる。
【0013】
本発明において、柔細胞から繊維を得るためには木材からパルプを製造する際のパルプ化処理を適用するのが良い。例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリと混合、加熱してリグニンを分解除去するクラフトパルプ化法やソーダパルプ化法を用いることができる。詳細なパルプ化処理条件は、原料の性状や目的とする繊維の性状、収率等を鑑みて適宜決定すればよい。アルカリを洗浄後、必要に応じて漂白処理を行なう。漂白剤として過酸化水素、二酸化塩素、次亜塩素酸ナトリウム、酸素、オゾン等を用いることができる。漂白後、洗浄して繊維の懸濁液を得ることができる。
【0014】
パルプ化処理により得られた繊維は、そのままでも使用可能だが、フィブリル化処理することにより、比表面積が大きくなり、且つ均一性が高くなるため好ましい。フィブリル化処理には、リファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置、高速の回転刃によりせん断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間でせん断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、繊維懸濁液に少なくとも3000psiの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを衝突させて急減速することにより繊維にせん断力、切断力を加える高圧ホモジナイザー等を用いることができる。
【0015】
柔細胞繊維の好ましいフィブリル化の目安は、懸濁安定性が50%以上である。ここで、懸濁安定性が50%以上とは、本発明における0.1質量%濃度の繊維懸濁液をメスシリンダーなどに入れて24時間静置したときに、繊維の沈降面より下の懸濁液の体積が全体の体積の50%以上になることである。この懸濁安定性は分散性と解釈することもでき、繊維の分散性が高く、懸濁液がより均一である程、懸濁安定性が高いと言える。この懸濁安定性は繊維の大きさと関係しており、フィブリル化が進行しているもの程その懸濁液の安定性は高い。
【0016】
懸濁安定性を50%以上にするには、リファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置、回転刃式ホモジナイザー、高速ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて処理条件を適正化することにより達成できる。
【0017】
本発明に係わる柔細胞繊維の平均繊維径は、0.1μm以下である。また、繊維長は、1〜20μmである。ここで言う平均繊維径とは、繊維を走査型電子顕微鏡で観察し、50カ所の太さを計測した値の平均値である。また、繊維長は光散乱式粒度分布測定装置で繊維スラリーを測定した際に体積平均粒径として算出される値である。
【0018】
本発明の孔版印刷用薄葉紙は、柔細胞繊維以外の有機繊維を含有しても良い。全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルアミド、全芳香族ポリエーテル、全芳香族ポリカーボネート、全芳香族ポリアゾメチン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリ−p−フェニレンベンゾビスチアゾール(PBZT)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ−p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール(PBO)等の繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びこれらのコポリマー等のポリエステル系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリル等のアクリル繊維、モダクリル等のアクリル系繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ウレタン繊維等の合成繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維等の半合成繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジックレーヨン、リヨセル等の再生セルロース系繊維、コラーゲン、アルギン酸、キチン質などを溶液にしたものを紡糸した再生繊維を挙げることができる。これらの繊維を構成するポリマーは、ホモポリマー、変性ポリマー、ブレンド、共重合体などの形でも利用できる。上記の繊維の他に、植物繊維として、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなどの木材パルプや藁パルプ、竹パルプ、ケナフパルプなどの木本類、草本類を含むものも利用できる。更に、古紙、損紙などから得られるパルプ繊維等も含まれる。当然ではあるが、これら複数の材質からなる複合繊維を用いても良い。また、断面形状が円形、楕円形のみならず偏平、三角、Y型、T型、U型、星型、ドッグボーン型など、いわゆる異形断面形状をとるもの、中空状のもの、枝別れ状のものであっても良い。また、フィブリル化されていても良い。
【0019】
柔細胞繊維以外の有機繊維は、湿式抄紙法で抄造する際の操業性や孔版印刷用薄葉紙の平滑性、薄膜性を考慮すると、平均繊維径は0.1〜50μmが好ましく、より好ましくは0.1〜30μmである。特に、平均繊維径0.1〜5μmの有機繊維を含有させると、植物の柔細胞から得られた繊維とこれらの繊維が効率よく絡み合い、湿式抄紙機の抄紙ワイヤーから繊維が脱落しにくくなるとともに、均質性も向上する。
【0020】
本発明において、有機繊維の一部として、熱融着性バインダー繊維を用いてもよい。熱融着性バインダー繊維としては、芯鞘繊維(コアシェルタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)、放射状分割繊維などの複合繊維が挙げられる。複合繊維は、皮膜を形成しにくいので、孔版印刷用薄葉紙のインキ透過性を保持したまま、機械的強度や耐水性を向上させることができる。熱融着性バインダー繊維としては、例えば、ポリプロピレンの短繊維、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせ等が挙げられる。また、ポリエチレンやポリエステル等の低融点樹脂のみで構成される単繊維(全融タイプ)や、ビニロン系やポリビニルアルコール(PVA)系繊維状バインダーは、孔版印刷用薄葉紙の乾燥工程で皮膜を形成し易いが、特性を阻害しない範囲で使用することができる。熱融着性バインダー繊維の繊維径は特に限定されないが、1〜50μmであることが好ましく、より好ましくは1〜30μmである。
【0021】
本発明の孔版印刷用薄葉紙において、機械的強度、印刷インキに対する耐性つまり、耐水性と耐油性をさらに向上させるために、熱可塑性樹脂を含有させることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系、酢酸ビニル系、エポキシ系、合成ゴム系、ウレタン系、ポリエステル系、塩化ビニリデン系などのラテックス、ポリビニルアルコール、澱粉、フェノール樹脂などが挙げられ、これらを単独または2種類以上を併用できる。このうち、耐水性を向上させるためには、エポキシ系、合成ゴム系、ウレタン系、ポリエステル系、塩化ビニリデン系などのラテックスが好ましい。
【0022】
本発明における孔版印刷用薄葉紙は、円網抄紙機、長網抄紙機、短網抄紙機、傾斜型抄紙機、これらの中から同種または異種の抄紙機を組み合わせてなるコンビネーション抄紙機などを用いて抄紙する方法によって製造することができる。原料スラリーの調製には、繊維原料、必要に応じて分散剤、増粘剤、紙力増強剤、無機填料、有機填料、顔料、サイズ剤、消泡剤などを適宜添加し、5〜0.001質量%程度の固形分濃度に調整する。この原料スラリーをさらに所定濃度に希釈して抄紙する。抄紙して得た薄葉紙は必要に応じて、カレンダー処理、塗工、熱処理などが施される。
【0023】
本発明の孔版印刷用薄葉紙は、坪量は6〜13g/m、好ましくは7〜10g/mである。坪量が10g/mを超えると、インキの透過性が低下して画像濃度、鮮明度が低下することがある。6g/m未満だと熱可塑性フィルムとラミネートする際に十分な強度が得られなかったり、耐刷性の低下、シワの発生などが確認されることがある。
【0024】
本発明の孔版印刷用薄葉紙において、JIS−P−8119に準処するベック平滑度が7〜20秒、より好ましくは10〜16秒であることが好ましい。平滑性が劣ると、フィルムと孔版印刷用薄葉紙との間に隙間が空いてしまい、穿孔が不十分となり、部分的にインキ濃度の薄い箇所ができ、解像度が悪化する場合がある。平滑度が20秒より高いと、平滑性は良好であるが、インキ通過性が悪化し、画像濃度が低下することがある。
【0025】
本発明に係わる孔版印刷用原紙において、熱可塑性フィルム層としてはポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデンフィルム等が例示されるが、低温収縮性の優れたものが穿孔性の点からより好適に用いられ、フィルムの厚さは概ね1〜5μmのものが好ましい。1μm未満だと取り扱いが困難であり、5μmを超えると穿孔に過量の熱量が必要になり実用的な穿孔性が得られない。
【0026】
薄葉紙と熱可塑性フィルム層との積層には、得られる孔版印刷用原紙のインキ通過性を妨げない範囲で接着剤を用いて行うことができる。接着剤としては、例えば公知のホットメルト型接着剤、エマルジョンラテックス型接着剤、溶剤型接着剤(アクリル系、塩化ビニル系、ポリエステル系、酢酸ビニル系、ゴム系など)、反応硬化型接着剤、紫外線または電子線硬化型接着剤等を挙げることができる。これらの接着剤を乾燥塗布量で0.5〜2.5g/mの範囲で、孔版印刷用薄葉紙または熱可塑性フィルム層に塗布し、次いでラミネートすることにより、積層物である孔版印刷用原紙を得ることができる。
【0027】
本発明に係わる孔版印刷用薄葉紙において、厚みは10〜70μmが好ましく、30〜60μmがより好ましい。厚みが10μm未満では薄すぎて破れる場合がある。柔細胞繊維の含有率は1質量%以上、100質量%以下が好ましく、5質量%以上、100質量%以下がより好ましい。1質量%未満では強度が不十分になる場合がある。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0029】
<柔細胞繊維1>
サトウダイコンの搾り粕からなる市販のビートパルプを10L容のオートクレーブに投入した。液比4L/kg、有効アルカリ添加率11〜14質量%となるように水酸化ナトリウムを混合し、保持温度120℃、保持時間30分の条件で処理した。ろ過による洗浄後、試料濃度8%とし、試料に対して有効塩素濃度2質量%となるように次亜塩素酸ナトリウムを加えて攪拌し、室温で8時間漂白した後、ろ過により洗浄した。これによりサトウダイコン柔細胞由来の柔細胞繊維が得られた。これを0.1質量%に調整して100mL容のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後の柔細胞繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は15%であった。以下、これを柔細胞繊維1又はJ1と表記する。
【0030】
<柔細胞繊維2>
サトウキビの搾り粕からなるバガスを粉砕し、目開き1mmのふるいにかけて、ふるいを通過した分を収集した。これを<柔細胞繊維1>の製法と同様にして漂白と洗浄し、サトウキビ柔細胞由来の柔細胞繊維を得た。これを0.1質量%に調整して100mL容のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後の柔細胞繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は11%であった。以下、これを柔細胞繊維2又はJ2と表記する。
【0031】
<フィブリル化柔細胞繊維1>
柔細胞繊維1を1質量%の懸濁液とし、回転刃式ホモジナイザー(オステライザー、オステライザー社製)を用いて、1Lの懸濁液を10000rpmで1分間処理して、フィブリル化柔細胞繊維を作製した。これを0.1質量%に調整して100mL容のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後のフィブリル化柔細胞繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は46%であった。以下、これをフィブリル化柔細胞繊維1又はFBJ1と表記する。
【0032】
<フィブリル化柔細胞繊維2>
柔細胞繊維1を1質量%の懸濁液とし、回転刃式ホモジナイザー(オステライザー、オステライザー社製)を用いて、1Lの懸濁液を15700rpmで1分間処理した。次いで、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)を用いて、1Lの懸濁液を50MPaの圧力で45秒間循環処理してフィブリル化柔細胞繊維を作製した。これを0.1質量%に調整して100mL容のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後のフィブリル化柔細胞繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は50.5%であった。以下、これをフィブリル化柔細胞繊維2又はFBJ2と表記する。
【0033】
<フィブリル化柔細胞繊維3>
柔細胞繊維1を1質量%の懸濁液とし、回転刃式ホモジナイザー(オステライザー、オステライザー社製)を用いて、1Lの懸濁液を15700rpmで1分間処理した。次いで、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)を用いて、1Lの懸濁液を50MPaの圧力で5分間循環処理してフィブリル化柔細胞繊維を作製した。これを0.1質量%に調整して100mL容のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後のフィブリル化柔細胞繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は100%であった。以下、これをフィブリル化柔細胞繊維3又はFBJ3と表記する。
【0034】
<フィブリル化柔細胞繊維4>
柔細胞繊維1を1質量%の懸濁液とし、回転刃式ホモジナイザー(オステライザー、オステライザー社製)を用いて、1Lの懸濁液を15700rpmで1分間処理した。次いで、シングルディスクリファイナーを用いて処理し、フィブリル化柔細胞繊維を作製した。これを0.1質量%に調整して100mL容のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後のフィブリル化柔細胞繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は90%であった。以下、これをフィブリル化柔細胞繊維4又はFBJ4と表記する。
【0035】
<フィブリル化柔細胞繊維5>
柔細胞繊維2を1質量%の懸濁液とし、回転刃式ホモジナイザー(オステライザー、オステライザー社製)を用いて、1Lの懸濁液を15700rpmで1分間処理した。次いで、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)を用いて、1Lの懸濁液を50MPaの圧力で10分間循環処理してフィブリル化柔細胞繊維を作製した。これを0.1質量%に調整して100mL容のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後のフィブリル化柔細胞繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は100%であった。以下、これをフィブリル化柔細胞繊維5又はFBJ5と表記する。
【0036】
<フィブリル化セルロース繊維1>
針葉樹パルプをパルパーで離解した後、ダブルディスクリファイナーで叩解処理し、さらに高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)を用いて、1Lの懸濁液を50MPaの圧力で20分間循環処理してフィブリル化セルロース繊維を作製した。これを0.1質量%に調整して100mL容のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後のフィブリル化セルロース繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は60%であった。以下、これをフィブリル化セルロース繊維1又はFBC1と表記する。
【0037】
<フィブリル化セルロース繊維2>
市販のバクテリアセルロース(ナタデココ、フジッコ社製)を水洗した後、1質量%の懸濁液1Lを回転刃式ホモジナイザー(オステライザー、オステライザー社製)を用いて10000rpmで1分間処理してフィブリル化セルロース繊維を作製した。これを0.1質量%に調整して100mL容のメスシリンダーに入れて静置し、24時間後のフィブリル化セルロース繊維の沈降体積を測定した結果、懸濁安定性は80%であった。以下、これをフィブリル化セルロース繊維2又はFBC2と表記する
【0038】
表1に示した原料と配合量に従って、抄紙用スラリーを調製した。ここで、表1中の「P1」は、ポリエチレンテレフタレート繊維(商品名:テイジンテトロンテピルス、0.1dtex×3mm、繊維径約4μm、帝人社製)、「P2」は、アクリル繊維(商品名:ボンネルM.V.P、0.1dtex×3mm、繊維径約4μm、三菱レイヨン社製)、「P3」は、芯鞘ポリエステル繊維(商品名:メルティ、1.5dtex×5mm、繊維径約13μm、ユニチカ社製)をそれぞれ意味する。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例1〜9
スラリー1〜9を長網抄紙機を用いて抄紙し、必要に応じてスーパーカレンダー処理して厚みを調整し、表2に示した厚みと坪量の孔版印刷用薄葉紙を作製した。
【0041】
(比較例1〜4)
スラリー10〜13を長網抄紙機を用いて抄紙し、必要に応じてスーパーカレンダー処理して厚みを調整し、表2に示した厚みと坪量の孔版印刷用薄葉紙を作製した。
【0042】
実施例及び比較例の薄葉紙について、下記の試験方法により測定し、その結果を表2に示した。
【0043】
<厚み>
実施例及び比較例の薄葉紙の厚みをJIS P8118に準拠して測定し、その結果を表2に示した。
【0044】
<坪量>
実施例及び比較例の薄葉紙の坪量をJIS P8124に準拠して測定し、その結果を表2に示した。
【0045】
<引張強度>
実施例及び比較例の薄葉紙を50mm巾、200mm長の短冊状に5本以上切りそろえた。卓上型材料試験機((株)オリエンテック製、STA−1150)の試料ツカミで試料の両端を100mm間隔をあけて挟み、上端を100mm/minの一定速度で切断するまで引き上げていき、最大荷重を計測し、平均値を引張強度とし表2に示した。
【0046】
<耐印刷性>
実施例及び比較例の片面に厚さ3μmの熱可塑性ポリエステルフィルムを酢酸ビニル系接着剤で貼り合わせ、孔版印刷用原紙を製造した。この孔版印刷用原紙をサーマルヘッドで穿孔し製版した。油性インキと水性インキを用いて印刷をし、耐刷枚を評価し、結果を表2に示した。印刷枚数5000枚以上を◎、3000枚以上5000枚未満を○、1000枚以上3000枚未満を△、1000枚未満を×とした。
【0047】
<印刷鮮明性>
実施例及び比較例の片面に厚さ3μmの熱可塑性ポリエステルフィルムを酢酸ビニル系接着剤で貼り合わせ、孔版印刷用原紙を製造した。この孔版印刷用原紙をサーマルヘッドで穿孔し、50mm×50mmの黒ベタ部となる画像を有する製版を製造した。油性インキを用いて印刷をし、白抜けの有無を評価し、結果を表2に示した。白抜けのないものを○、白抜けはあるが使用できるレベルのものを△、白抜けのあるものを×とした。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示した通り、実施例1〜9で作製した薄葉紙は、植物の柔細胞繊維を含有するため、比較例1〜4で作製した薄葉紙に比べて耐印刷性、印刷鮮明性共に優れた孔版印刷用原紙を製造することができた。比較例3、4は実施例4と比べ、引張強度の高い薄葉紙となったが、孔版印刷用原紙ではいずれも白抜けが発生し、印刷鮮明性に劣った。フィブリル化セルロース1では、木材パルプ由来の強く結束した繊維の束が存在することにより、フィブリル化セルロース2では、微細なバクテリアセルロース繊維同士の強い水素結合による二次的な繊維束の形成によりそれぞれ白抜けが発生したものと推測された。
【0050】
実施例4〜7で作製した薄葉紙は、懸濁安定性が50%以上フィブリル化されている柔細胞繊維と平均繊維径が0.1〜5μmの範囲内にある有機繊維とを含有しているため、耐印刷性、印刷鮮明性共に優れていた。実施例9で作製した薄葉紙は、懸濁安定性が50%以上フィブリル化されている柔細胞繊維を含有しているが、有機繊維の平均繊維径が5μm以上であるため、実施例1〜8と比較して、坪量が若干少なかった。繊維の脱落があったものと推測される。また、白抜けが若干発生していた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の活用例としては、孔版印刷用薄葉紙が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも植物の柔細胞から得られた繊維を含有する孔版印刷用薄葉紙。
【請求項2】
懸濁安定性が50%以上にフィブリル化されている植物の柔細胞から得られた繊維と、平均繊維径0.1〜5μmの有機繊維とを、少なくとも含有する孔版印刷用薄葉紙。

【公開番号】特開2008−1040(P2008−1040A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174588(P2006−174588)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】