説明

孔版印刷用W/O型エマルションインキ

【課題】連続印刷におけるインキ漏れ、放置後の目詰まり等の問題が少なく、且つ定着性及び保存安定性の優れた孔版印刷用W/O型エマルションインキの提供。
【解決手段】水相と乳化剤を含有する油相からなり、該水相に着色剤及び0.01〜0.50質量%の下記化合物Aを含有することを特徴とする孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
<化合物A>


上記式中、m、nはエチレンオキサイド付加モル数であり、m+n=3.5〜10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版印刷用W/O型エマルションインキに関する。
【背景技術】
【0002】
孔版印刷方式は、孔版印刷用原紙に製版を施して形成された穿孔部を通して、孔版印刷版の一方の側から他方の側へインキを移動させることにより紙等の被印刷物表面に印刷を行うものである。
孔版印刷ではドラム内のローラー間においてインキが保形性を有していないとインキがローラー脇に広がりやすく、更にはドラム脇から湧出して印刷物の非画像部やマシン内部まで汚してしまう。よって孔版印刷用インキとしてはインキが保形性を有するようにW/Oエマルションの形態が有利となる。また孔版印刷による連続印刷では、インキローラー上のインキ塊が印刷に使用されるので、ドラムから吐出されるインキ以外は開放系のインキローラー上で練られることになる。そのため印刷が進むに従ってインキの水相中の水分を主とした低沸点成分が蒸発し、油相的な組成に近づいていくため、インキが低粘度化し降伏値も低くなっていく。
更に画像部が少ない印刷物ではドラムから吐出されるインキが少なく、インキローラー上に残るインキが比較的多くなることから、インキ粘度の低下が顕著となり、その結果、ドラム脇からのインキ湧出などの問題を引き起こす。
【0003】
上記孔版印刷による連続印刷におけるインキローラー上のインキ塊の粘度低下は、W/Oエマルションの水相に固形分である着色剤を添加することで大幅に緩和され、印刷におけるインキ粘度を維持し易くなる。
しかし、W/O型エマルションインキの水相に着色剤を添加した場合、水相の表面張力が高くなり印刷紙へのインキ浸透に不利であることや、水系での着色剤の分散とその維持が難しいことなどの理由により、印刷後の紙上でのインキの定着性が課題となってくる。
ところで、従来、インキの定着性及び保存安定性を向上させる方法として、ゲル化剤を含有させる方法(特許文献1)、顔料の分散性を高めるための高価な分散剤を用いる方法(特許文献2〜3)等が提案されている。しかしながら、これらの従来技術では、定着性や保存安定性が不十分である。例えば前記特許文献3にはアセチレンジオール及びHLB10以上の界面活性剤を分散剤として添加する技術が開示されているが、分散剤によって定着性は改善できるものの、W/O型エマルションインキの保存安定性が損なわれるため、定着性改善と保存安定性改善を両立することは困難である。
特にW/O型エマルションインキの水相に着色剤を分散させる場合、分散剤や添加剤を使用するが、それらの材料のHLBや使用量によっては、エマルションの安定性に不利となる場合があるため、分散剤や添加剤の種類、HLB、使用量は著しく制約される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、連続印刷におけるインキ漏れ、放置後の目詰まり等の問題が少なく、且つ、定着性及び保存安定性の優れた孔版印刷用W/O型エマルションインキの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、次の1)〜3)の発明によって解決される。
1) 水相と乳化剤を含有する油相からなり、該水相に着色剤及び0.01〜0.50質量%の下記化合物Aを含有することを特徴とする孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
<化合物A>
【化1】

上記式中、m、nはエチレンオキサイド付加モル数であり、m+n=3.5〜10である。
2) 前記油相に、植物油で変性された長油長のアルキド樹脂を含有する1)記載の孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
3) 前記植物油が椰子油、胡麻油、大豆油、亜麻仁油、菜種油、米糠油の中から選ばれた少なくとも1種である2)記載の孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、連続印刷におけるインキ漏れ、放置後の目詰まり等の問題が少なく、且つ、定着性及び保存安定性の優れた孔版印刷用W/O型エマルションインキを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
本発明者は鋭意研究の結果、孔版印刷用W/O型エマルションインキ(以下、単にインキということもある)の水相に、着色剤に加えてアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(化合物A)を添加することにより、連続印刷におけるインキ漏れ、放置後の目詰まり等の問題を解決し、定着性と保存安定性の向上を両立できることを見出した。
また該インキの油相に、植物油で変性された長油長のアルキド樹脂を含有させることにより、定着性と保存安定性を更に向上させることができることを見出した。
なお、本発明のインキは、水が油中に分散したW/O型エマルションインキであるが、水相と油相の割合(重量比)は、10〜90:90〜10程度の範囲が好ましい。
【0008】
本発明のインキは、水相に固形分である着色剤を添加したことにより、連続印刷におけるインキローラー上のインキ塊の粘度低下が大幅に小さくなるので、印刷中のインキ漏れなどが改善される。これは水相の低沸点成分が蒸発すると水相中の固形分濃度が上昇してインキ粘度が高くなり、インキ塊の粘度低下を緩和するため、及び固形分である着色剤の添加に起因する水相の沸点上昇効果により、水相からの蒸発が抑制されるため等によると考えられる。
更に水相に化合物Aを含有させることにより、定着性と保存安定性を両立させることができる。これは化合物Aの表面張力低下機能によりインキの紙への浸透性が向上し、また化合物Aは顔料分散能も有するため定着性が改善されることによると考えられる。また、化合物Aはエチレンオキサイド付加モル数(m+n)が増えると親水性が増す。しかし、W/Oエマルションの安定性を考慮すると、m+n=3.5〜10が好ましい。この範囲であれば油分離あるいは転相による水分離は起こらない。
また、化合物Aの濃度もW/Oエマルションの安定性に影響するため、インキ中の濃度を0.01〜0.50質量%の範囲とすることが好ましく、0.05〜0.40質量%の範囲が更に好ましい。
【0009】
着色剤の例としては、カーボンブラック、アゾ系顔料、ニトロソ系顔料、フタロシアニン系顔料、ニトロ系顔料、建染染料系顔料、媒染染料系顔料、塩基性染料系顔料、酸性染料系顔料及び天然染料系顔料等の顔料;ジアゾ染料、アントラキノン系染料等の油溶性染料;等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を混合して用いても良い。
着色剤用の分散剤としては、前記化合物Aの他に、ポリアクリル酸の部分アルキルエステル、ポリアルキレンポリアミン、脂肪族多価カルボン酸、ポリエーテルエステル型アニオン界面活性剤、高分子量ポリカルボン酸の長鎖アミン塩、ポリアミド、燐酸エステル系界面活性剤、アルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸塩等が挙げられる。
これらの分散剤は単独で又は2種以上を混合して用いる。
その添加量は着色剤重量の40重量%以下、好ましくは2〜35重量%とすれば良い。
【0010】
本発明のインキは、着色剤と化合物Aの他に少なくとも水、油及び乳化剤を含有する。
水は清浄であれば良く、例えば水道水、イオン交換水、蒸留水等を用いる。
油は公知の鉱物油や植物油等で良く、具体的には石油系溶剤、スピンドル油、流動パラフィン、軽油、灯油、マシン油、ギヤー油、潤滑油、モーター油等の鉱物油;亜麻仁油、トール油、大豆油、とうもろこし油、オリーブ油、菜種油、ひまし油、脱水ひまし油等の植物油;等が挙げられる。石油系溶剤としてはエクソン社製のアイソパーや日本石油社製の日石ソルベント等の混合溶剤を使っても良い。
また、ポリイソブチレン類、水素化ポリデセン類、トリメチロールプロパンエステル類、ネオペンチルエステル類、ペンタエリスリトールエステル類、シロキサン類、シリコーン類、フルオロカーボン類、アルキル置換ジフェニルエーテル類、フタル酸エステル類、リン酸エステル類等の合成油も使用可能である。
これらの油は単独で用いても2種以上を混合して用いても良い。
【0011】
乳化剤には非イオン界面活性剤を使うのが望ましく、具体的にはグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン、脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物等が挙げられる。
これらは単独で又は2種以上を混合して用いる。
その添加量はインキ重量の1〜10重量%程度が好ましく、更に好ましくは2〜6重量%である。
【0012】
更に本発明のインキでは、油相中に植物油で変性された長油長のアルキド樹脂を含有させると、定着率や保存安定性が一層向上するが、定着率の向上は、アルキド樹脂の存在により、インキの印刷紙への浸透性が向上することによると考えられる。また保存安定性の向上については、アルキド樹脂の存在により、W/Oエマルションの水相と油相の界面が強化・保護されることなどが考えられる。
しかし、孔版印刷ではインキの経路上にスクリーン等の20〜150μm径程度の細孔があるため、インキ中の原材料、特に樹脂等に粘度上昇の著しいものが含まれていると、細孔上にインキが存在した状態で放置された場合に細孔の目詰まりを起こし、目詰まりした部分からはインキが吐出されないために画像抜けの原因となる。
変性用植物油の種類及び油長はアルキド樹脂の粘度上昇に影響を与えるため、十分考慮する必要がある。変性用植物油としてはヨウ素価が比較的低く、酸化による粘度上昇が少ないものが好ましい。具体的には椰子油、胡麻油、大豆油、亜麻仁油、菜種油、米糠油が好ましい。また油長は長油長とする。これにより、印刷機の長期未使用時などにインキが印刷機経路上に放置されても、細孔等での目詰まりは起こらなくなる。長油長であると乾燥しにくく目詰まりには有利に働くものと考えられる。なお、油長とは油脂中の脂肪酸がトリグリセライドで存在したときの樹脂中の重量%のことであり、一般に60重量%以上を長油長と言う。
アルキド樹脂の添加量はインキ重量の8.0重量%以下が好ましく、0.5〜6.0重量%程度が更に好ましい。
【0013】
油相には、前記アルキド樹脂の他に、従来用いられている樹脂を添加しても良く、具体的にはロジン;重合ロジン、水素化ロジン、ロジンエステル、水素化ロジンエステル等のロジン系樹脂;ロジン変性フェノール樹脂等のロジン変性樹脂;フェノール樹脂;石油樹脂;ゴム誘導体;重合ひまし油;等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いても2種以上を混合して用いても良い。
その添加量はインキ重量の10.0重量%以下、好ましくは0.5〜7.0重量%とする。
【0014】
以上の他に、油相にはエマルションの形成を妨害しない範囲でゲル化剤、酸化防止剤等を添加することができる。
ゲル化剤は、油相に含まれる樹脂をゲル化してインキの保存安定性、定着性、流動性等を向上させる役割を持ち、油相中の樹脂と配位結合する化合物が好ましい。
その例としては、Li、Na、K、Al、Ca、Co、Fe、Mn、Mg、Pb、Zn、Zr等の金属を含む有機酸塩、有機キレート化合物、金属石鹸オリゴマー等であり、具体的にはオクチル酸アルミニウム等のオクチル酸金属塩、ナフテン酸マンガン等のナフテン酸金属塩、ステアリン酸亜鉛等のステアリン酸塩、アルミニウムジイソプロポキシドモノエチルアセトアセテート等の有機キレート化合物等が挙げられる。
これらのゲル化剤は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いる。
その添加量は油相中の樹脂の15重量%以下、好ましくは5〜10重量%である。
【0015】
前記酸化防止剤の例としては、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシアニソール等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を混合して用いても良い。酸化防止剤の添加により油相中の油やバインダー樹脂等の酸化が抑えられ、インキ粘度の上昇を防止できる。
その添加量はインキ中の油の2.0重量%以下、好ましくは0.1〜1.0重量%である。
【0016】
水相には、エマルションの形成を妨害しない範囲で、更に水溶性高分子、防腐・防かび剤、pH調整剤、電解質、水の蒸発抑制剤、凍結防止剤等を添加することができる。
前記水溶性高分子は、インキの補湿や増粘のために添加されるものであり、具体例としては下記の天然又は合成高分子が挙げられる。
デンプン、マンナン、アルギン酸ソーダ、ガラクタン、トラガントガム、アラビアガム、プルラン、デキストラン、キサンタンガム、ニカワ、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン等の天然高分子;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルデンプン、カルボキシメチルデンプン、ジアルデヒドデンプン等の半合成高分子;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸トリエタノールアミン等のアクリル酸樹脂誘導体;ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルメチルエーテル等の合成高分子等。
これらの水溶性高分子は単独で用いても2種以上を混合して用いても良い。
その添加量はインキに含まれる水の25.0重量%以下、好ましくは0.5〜15.0重量%とするのが良い。
【0017】
前記防腐・防かび剤は、エマルション内での細菌やかびの繁殖を防ぐために添加するが、エマルションを長期間保存する場合は防腐・防かび剤の添加が普通である。
その例としてはサリチル酸、フェノール類、p−オキシ安息香酸メチル、p−オキシ安息香酸エチル等の芳香族ヒドロキシ化合物及びその塩素化合物のほか、ソルビン酸やデヒドロ酢酸等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上混合して用いても良い。
その添加量は、インキ中に含まれる水の3.00重量%以下、好ましくは0.05〜1.20重量%とするのが良い。
【0018】
前記pH調整剤としては、トリエタノールアミン、酢酸ナトリウム、トリアリルアミン等が挙げられ、必要に応じてこれらのpH調整剤を添加して水相のpHを6〜8に保つことができる。
前記電解質は、水相のpHが前記範囲から外れる場合に、エマルションの安定性を高めるために添加する。従って、電解質としてはエマルションの安定性向上に有効な離液順列が高いイオンで構成された電解質を添加するのが良い。
離液順列が高い陰イオンは、クエン酸イオン、酒石酸イオン、硫酸イオン、酢酸イオン等であり、離液順列が高い陽イオンはアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンであるから、電解質としては陰イオンか陽イオンの少なくとも一方が前記イオンよりなる塩が好ましい。
従って、電解質としては、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が好ましい。
その添加量は水相の0.1〜2.0重量%、好ましくは0.5〜1.5重量%である。
【0019】
上記の他に、本発明のインキには、印刷時に印刷用紙と印刷ドラムとの分離を良くするため、或いは印刷用紙の巻き上がり防止等のために油相にワックスを添加しても良い。
また、水相にはトリエタノールアミンや水酸化ナトリウム等を添加して、水溶性高分子添加による高粘度化を更に増進させることができる。更に、水相に防錆剤や消泡剤を添加して印刷の際に印刷機がインキによって錆びたり、インキが泡立つことを防止することができる。これらの添加剤は、孔版印刷用インキにおいて公知のものを必要に応じて適宜用いれば良く、その添加量は公知技術の場合と同程度で良い。
また不凍液としてエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール等の多価アルコールを1種又は2種以上添加することもでき、その添加量はインキ中の水重量の15重量%以下、好ましくは1〜10重量%である。
【0020】
本発明のインキは、油相液及び水相液を調製し、この両者を公知の乳化機内で乳化させて作製すれば良い。即ち、乳化剤及び必要に応じて添加される樹脂等の添加物を良く分散させた油を常法で調製し、これに、着色剤、化合物A、及び必要に応じて防腐・防かび剤や水溶性高分子等を添加した水溶液を徐々に添加して乳化させれば良い。
【実施例】
【0021】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、例中の「部」は「重量部」である。
【0022】
実施例1
<油相液の作製>
下記処方の材料を用い、油と界面活性剤(乳化剤)及び酸化防止剤を混合し、高速ディゾルバ−により周速5m/sec.で10分間撹拌混合して油相液を得た。
(油相液組成)
・油…スピンドル油 22.90部
・界面活性剤…ソルビタンセスキオレエート 2.70部
(花王社製:商品名レオドールAO−15)
…ソルビタンモノオレエート 2.30部
(花王社製:商品名レオドールAO−10)
・酸化防止剤…ジブチルヒドロキシトルエン 0.10部

<水相液の作製>
下記処方の材料を用い、水に防腐・防かび剤、化合物A、分散剤を添加し溶解させた。次いで着色剤を高速ディゾルバ−で撹拌しながら添加し、ビ−ズミルLMZ2(アシザワ社製)により下記条件で分散処理を行って水相液を得た。
・ジルコニア製ビ−ズ(径;1.5mm)
・周速;9m/sec.
・流速;0.7L/min.

(水相液組成)
・着色剤…カーボンブラックRaven1100 3.00部
(コロンビアンカーボン社製)
・分散剤…Disperbyk R−2095(ビックケミー社製) 0.50部
・イオン交換水 68.35部
・防腐・防かび剤…パラオキシ安息香酸メチル 0.10部
・化合物A:サーフィノール440 0.05部
(エアプロダクツ社製、m+n=3.5)

次に、乳化試験機ET−3A型(日光ケミカルズ社製)を使用し、この中に上記油相液を仕込んで400rpmの速度で撹拌しながら、徐々に上記水相液を添加して、W/O型エマルションインキを作製した。なお、該エマルションインキ300gを作製する場合、水相液の添加には15分を要した。
【0023】
実施例2〜7、比較例1〜7
実施例1で用いた材料を、表1及び表2に示す材料に変えた点以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜7及び比較例1〜7のインクを作製した。
【0024】
上記各インキについて、下記のようにして定着率、保存安定性、目詰まりの評価を実施した。結果を表3、表4に示す。
<定着率>
各インキを用いて、サテリオA400(リコー社製プリンタ)により、べた面積100cmを有する原稿で製版し、上質紙55Kを30枚印刷した。30枚目のべた部の印刷画像について、反射式光学濃度計(マクベス社製RD914)により、ベタ部9点のIDを測定し、その平均値を擦り前の画像濃度とした。
次に、擦り前の画像濃度を測定した印刷画像面に対し、消しゴムを取り付けたクロックメーターを用いて10往復擦り、擦り前と同様にしてベタ部9点のIDを測定し、その平均値を擦り後の画像濃度とした。そして次の式により定着率を算出した。なお、定着率は70%程度以上であれば実用上問題ない。
定着率=(擦り後の画像濃度/擦り前の画像濃度)×100
【0025】
<保存安定性>
各インキを作製後、ガラス瓶に詰め、50℃で1ヵ月保存した。
保存後にインキ状態を目視で観察し、水分離が起こっているかどうかを調べ、起こっていない場合は「○」、起こっている場合は「×」とした。
また、インキを室温に戻した後、遠心機M150−IVD(佐久間製作所製)を用いて遠心力8,000gで2時間回転させた後、遠心管を逆さまにして1時間待ち、インキから分離した油量を測定した。そして、遠心管に詰めたインキ重量に対する分離油量の割合(%)を算出した。なお、分離油量は少ないほど好ましいが、該評価方法では3.0重量%以下であれば実用上問題ない。
【0026】
<目詰まり>
各インキについて、前記<定着率>評価実施後に、使用した印刷機用ドラムを常温常湿で1ヵ月放置し、その後、放置前の版は変えずに印刷を実施し、印刷画像が完全に元に戻った(正常になった)ときの印刷枚数を調べた。なお、印刷枚数は少ないほど好ましいが、該評価方法では20枚以下であれば実用上問題ない。
【0027】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0028】
上記表3、表4から分かるように、実施例では、定着率、保存安定性、目詰まりの何れについても問題のない結果が得られた。また、アルキド樹脂を用いた実施例4〜6では定着率及び保存安定性(油分離)が更に向上した。
これに対し、化合物Aを用いない比較例1、化合物Aのエチレンオキサイド付加モル数が1.3及び30である比較例2〜3、化合物Aの配合量が0.01〜0.50質量%の範囲を外れる比較例4〜7では、定着率、保存安定性、目詰まりの全てを満足する例はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特許第3073818号公報
【特許文献2】特許第2926455号公報
【特許文献3】特開2007−70429号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相と乳化剤を含有する油相からなり、該水相に着色剤及び0.01〜0.50質量%の下記化合物Aを含有することを特徴とする孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
<化合物A>
【化2】

上記式中、m、nはエチレンオキサイド付加モル数であり、m+n=3.5〜10である。
【請求項2】
前記油相に、植物油で変性された長油長のアルキド樹脂を含有する請求項1記載の孔版印刷用W/O型エマルションインキ。
【請求項3】
前記植物油が椰子油、胡麻油、大豆油、亜麻仁油、菜種油、米糠油の中から選ばれた少なくとも1種である請求項2記載の孔版印刷用W/O型エマルションインキ。

【公開番号】特開2012−46578(P2012−46578A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187902(P2010−187902)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】