説明

存在・動き検出用受動レーダー

受動検出器(10)は、環境中の受動的放射(12)を収集するよう構成された受信機(11)を含む。ここで、前記受動的放射の一部についての詳細な情報が受動的エネルギーのベースラインとして推定される。受動的エネルギーは、当該検出器と無関係の受動的源によって生成される。モニタ(24)が、ベースラインにおけるゆらぎを測定するよう構成される。ゆらぎが環境における存在または動きを表すかどうかを判定するために、モニタに判断モジュールが結合されている。検出方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子検出システムに、より詳細には受動バックグラウンド・エネルギーを用いることによって存在および動きを検出するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動きおよび存在の検出への関心が高まってきている。主たる要因としては、オフィスビルおよび家庭におけるエネルギー節約が含まれる。動き検出器およびセンサーは、需要が急速に高まっていると推定され、2012年までには90兆ドルを超えると予想される。注目の高まりとともに、偽警報が最小限の、全方向探知、低プロファイルの不可視センサーを可能にする、より高機能のセンサーが必要とされている。室内またはある位置における多数の人および人々の位置の検出を可能にする、より知的なセンサーが必要とされている。
【0003】
屋内環境においてRF波を使うことによって人間の動きを受動的に検出するという発想は、科学的な刊行物を提示されている(たとえば非特許文献1(以下ではNishi)参照)。Nishiでは、著者らは期待されるRF信号のスペクトルのパワースペクトル密度を見て、パワースペクトル変動と人が部屋にはいるというイベントとの間の関係を観察しようとしている。
【0004】
屋外環境では、軍事用途向けの受動レーダーに関して多くの仕事がなされている。それらは利用可能な無線周波数(RF: radio frequency)スペクトルの全部を、動いているオブジェクトを位置特定して追跡するために使う傾向がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nishi, M.; Takahashi, S.; Yoshida, T., "Indoor Human Detection Systems Using VHF-FM and UHF-TV Broadcasting Waves", Personal, Indoor and Mobile Radio Communications, 2006 IEEE 17th International Symposium, 2006年9月, pp.1-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
RF信号の時間変動する性質の受動的な観察に基づく人の検出は、いまだ信頼できるものではなく、現在のところ使われていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、検出プロセスの信頼性を改善する、より堅牢な手法が提供される。いかなるパワーも放射することなく、オブジェクト、特に人間の屋内の動きを検出する新たなシステムおよび方法が提供される。空気中にすでに存在する電波信号または他の信号の詳細な知識が、そうした信号が時間的に変化する仕方を特徴付けるために用いられる。そうすることによって、動きを識別することができる。
【0008】
本発明によれば、受動検出器は、環境中の受動的放射を収集するよう構成された受信機を含む。ここで、前記受動的放射の一部についての詳細な情報が受動的エネルギーのベースラインとして推定される。受動的エネルギーは、検出器と無関係の受動的源によって生成される。モニタが、ベースラインにおけるゆらぎを測定するよう構成される。ゆらぎが環境における存在または動きを表すかどうかを判定するために、モニタに判断モジュールが結合されている。検出方法も開示される。
【0009】
もう一つの受動動き検出器は、環境からワイヤレス通信信号を収集し、通信信号の期待されるまたは周期的な部分からベースライン・エネルギーを推定するよう構成された受信機を含む。ベースライン・エネルギーは検出器に無関係な受動的源によって生成され、受信機は、ベースライン・エネルギーにおいてモニタリングされるべき最良のチャネルを決定するよう構成されたチャネル推定モジュールを含む。モニタが、その最良のチャネルにおけるゆらぎを測定するよう構成される。モニタには判断モジュールが結合され、前記ゆらぎが環境中の存在または動きを表すかどうかを判定するために前記ゆらぎを閾値と比較するよう構成される。
【0010】
環境中の存在または動きを判別する方法は、無関係な受動的源によって生成される、環境中の存在している受動的放射から最良のチャネルを推定する段階と、前記最良のチャネルの前記受動的放射におけるゆらぎをモニタリングする段階と、前記ゆらぎが環境中の存在または動きを表すかどうかを判定する段階とを含む。
【0011】
本開示のこれらおよびその他の目的、特徴および利点は、付属の図面との関連で読まれるべき本開示の例示的な実施形態の以下の詳細な記述から明白となるであろう。
【0012】
本開示は、以下の図面を参照しつつ好ましい実施形態の以下の記述を詳細に提示する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ある例示的な実施形態に基づく、例示的な受動レーダー検出器または動き/存在センサーを示すブロック図である。
【図2】GSMフレームを含む例示的な受動的エネルギー源と、ミッドアンブルを示す拡大部分とを示す図である。
【図3】本願の原理に基づき、ベースラインとして最良経路またはチャネルを選択するための一つの例示的な方法を実証するための、エネルギー対遅延のプロットである。
【図4】ある例示的な実施形態に基づく、存在または動きを検出するシステム/方法を示すブロック図/流れ図である。
【図5】ある例示的な実施形態に基づく、存在または動きを判別するための判断変数と閾値との比較を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、いかなるパワーも放射することなく、オブジェクト、特に人間の屋内での動きを検出するシステムおよび方法を記述する。空気中にすでにある電波信号の詳細な知識が、該信号が時間的に変化する仕方を特徴付けるために用いられる。そうすることによって、人間の存在および/または動きが環境中で識別できる。
【0015】
本発明は動き検知との関連で記載されるが、本発明の教示はずっと広いものであり、局所的な電磁信号を変えることによって検出されうるいかなるコンポーネントにも適用可能である。本稿に記載される実施形態は、セキュリティまたは他の検出システムにおいて用いられるのが好ましいが、写真アプリケーションまたは動き検知や生体の存在を検出する必要のある他の任意のアプリケーションにおいて用いられてもよい。本稿で記載するセンサーまたは検出器は、半導体デバイス、ソフトウェア、プリント配線基板および他の任意の電子的設備を使って実装されうる。検出器の例示的な例が、アラーム、ライトまたは記憶装置およびメディアといった追加的な電子コンポーネントを含むよう適応されてもよいことは理解しておくべきである。これらのコンポーネントは検出器と一体的に形成されてもよいし、あるいは別個に用いられてもよい。
【0016】
図に描かれている要素は、ハードウェアおよびソフトウェアのさまざまな組み合わせにおいて実装されうるものであり、単一の要素または複数の要素において組み合わされてもよい諸機能を提供する。
【0017】
オブジェクトの動き、特に人間の屋内での動きを検出する装置および方法は、空気中にすでにある電波信号の詳細な知識を使って(たとえば受動レーダー)、該信号が時間的に変動する仕方を特徴付ける。本実施形態は、屋内および屋外の動きの間の区別をすることを可能にする。人間の存在/動きの検出は、RF信号の構造を利用することによってなされる。検出のために使うパワーを放射することは必要とされない。
【0018】
通常のRF受信機、たとえばグローバル移動通信システム(GSM: Global System for Mobile Communications)受信機の基本的な要素が、信号に関して同期し、チャネル推定を実行するために使用されうる。推定されたチャネルは次いで、屋内環境において動きがいつ起こるかを観察する、より堅牢な方法を見出すために使われる。本発明は、既存のGSMまたは他の信号を用いるが通常の通信システムの若干の要素しか使わない屋内動き検出器を可能にする。通常の受信機と比べ、通信システムの通常の物理層の若干の要素しか必要としないので、必要とされる複雑さは非常に限定される。あるアプリケーションでは、通信システム・ハードウェアの使用は、電話または等価なデバイスにおける動き検知アプリケーションの使用を許す。
【0019】
同じ原理に従って、人間の存在を検出するために他の電波信号が使われてもよい。本稿で記載されるのとは異なる他の方法が用いられてもよく、精度を改善するために使われてもよい。本発明は受動的な検出を用いるので、能動的なシステムに比べて「エネルギー・ハングリー」でなくなり、エネルギー管理アプリケーションまたはセキュリティ・アプリケーション用に用いることができる。また、存在検出に関わる他のアプリケーションが、たとえば庭園照明、機器の作動/不活動化などのようなアプリケーションにおいて使われてもよい。
【0020】
ここで図面を参照する。図面において、同様の符号は同じまたは類似の要素を表す。最初に図1を参照するに、ある実施形態に基づく受動的な動き/存在検出器または受動レーダー検出器10が示されている。検出器10は、ある部屋または環境中の環境放射(ambient radiation)12を受信することのできるセンサーまたはアンテナ25を含む。環境放射は、無線周波数の放射または存在しうる他の型の放射を含みうる。ある実施形態では、ワイヤレス通信放射(たとえば、符号分割多重アクセス(CDMA: code division multiple access)、GSMのような時分割多重アクセス(TDMA: time division multiple access))または他のパケット化されたもしくは変調された信号を用いてもよい。一例では、特定の位置にまたは特定の位置近くに存在するセキュリティ・システムまたは他のデバイスが放射を放出しることがありえ、その放射をある位置における存在または動きを検出するために用いてもよい。そのような実施形態では、該近くのデバイスは、受動的に動きまたは存在を検出するために用いられるエネルギーを提供するために用いられてもよい。該近くのデバイスから放出されるエネルギーが、周期的である、および/または予測可能なパルスもしくは既知の継続時間にわたる一定エネルギーを与えるのであれば好ましいであろう。
【0021】
GSM規格は、サービス・エリアにおいて常に送信され、存在しているブロードキャスト・チャネルを定義している。効率のため、本実施形態はGSM信号/放射を使って記述されるが、本願の原理は、この例によって限定されると解釈すべきではない。GSM信号は、セルラー・ネットワークの一部として用いられる場合、建物に入り込み、人々によって部分的にはね返り、あるいは部分的に吸収されることができるので、GSM信号は好ましい例を与える。したがって、GSM信号は、環境中の人物の動きまたは単なる存在で変化できる。
【0022】
GSM信号は、ミッドアンブルと呼ばれる固定した既知のシーケンスを含む。ただし、信号の他の部分を用いてもよい。デバイス10はGSM信号を受信し、信号のミッドアンブルを見出す。本例示的な実施形態では、デバイス10は、たとえばガウス最小偏移符号化(GMSK: Gaussian minimum shift keying)変調器13を有するGSM受信機11を含む。受信信号は、差分的に事前符号化(differentially precoded)され、変調器13によって復調され、位相回転器15によって位相回転されうる。
【0023】
ミッドアンブルは、チャネル推定モジュール14を用いることによって信号中の最も強いチャネルを推定するために用いることができるパイロット信号を含む。ひとたび推定されたチャネルが見出されると、そのチャネルは、変化があるかどうかについて、チャネル・モニタリング・モジュール24によってモニタリングされることができる。チャネル・モニタリング・モジュール24は、はいってくる信号の状態をモニタリングし、判断モジュール34に入力を提供する。判断モジュール34は閾値(S)を含んでいてもよく、これは、所与の時間にチャネル強度を計算して、そのチャネル強度の現在の値を閾値と比較することによって導出されうる。閾値を超えたら、動きが検出されるまたは人間の存在が検出されたことになる。判断モジュール34は次いでアラームまたはトリガー信号26を出力する。この信号26はモニタリングされる環境における存在または動きの一方を示すために用いられうる。好ましい実施形態のさらなる詳細について、ここで、本願の原理に従って述べる。
【0024】
図2を参照するに、GSMの例において、GSMブロードキャスト・パケット・フレーム202は同期チャネル(SCH: synchronization channel)204を含む。同期チャネル204は、GSMフレーム202内のデータ208の間にはさまれているミッドアンブル206をなす。グローバル移動通信システム(GSM)規格は現在、あらゆるデジタル携帯電話規格のうちで最も成功を収めているものである。GSMは、時分割多重アクセス(TDMA)方式を使ってデジタル化された発話およびデータの送信を提供する。各TDMAフレームは8個の時間スロットに分割され、各スロットが一人のユーザーにサービスする。各時間スロットは、データと、チャネル・インパルス応答を推定するために使われるトレーニング・シーケンスとを含むバーストのための余地を提供する。各同期バーストの中心には64ビットのトレーニング・シーケンスがあり、39ビットの暗号化されたデータ・シーケンス(208)がミッドアンブルまたはトレーニング信号206の各側にある。データ208は規格化された帯域幅、たとえばBT=0.3をもって、(GMSK)を使って送信される。ここで、Bは帯域幅であり、Tはシンボル継続時間である。
【0025】
GMSKの欠点は、その差分変調(differential modulation)方式のためにシンボル間干渉(ISI: Inter Symbol Interference)の効果を増大させるということである。低いサイドローブ・レベルおよび一定の絶対値が、ワイヤレス通信システムにおいてGSMKを使うことの二つの主要な利点である。GSMKはスペクトル効率を改善するために意図的に制御されたISIを導入する。
【0026】
シンボル・レートmでサンプリングされた受信信号rは
【0027】
【数1】

と表されうる。ここで、mは受信されたシンボル・インデックス、nはチャネル経路インデックス、Nhは全体的な複素チャネル・インパルス応答h(n)のチャネル・タップの数、p(m)はミッドアンブル206内で搬送されるパイロット信号シーケンス、η(m)はノイズ項である。
【0028】
再び図1を参照するに、ある実施形態では、同相(I)成分を使い、直交(Q)成分を無視し、その後受信信号の実部のみを、二位相偏移符号化(BPSK: bi-phase shift keying)型の信号として扱って処理してもよい。したがって、検出器10は、実であることができ、よって、計算的に、その複素対応物よりもずっと簡単であることができる。この型の受信機は、パラレル受信機に対してシリアル受信機と称される。GSMシステムが遭遇するモバイル電波チャネルのコヒーレンス時間は典型的にはTDMA時間スロットの継続時間よりずっと大きいので、これらのチャネルは、ゆっくり時間変動していると特徴付けることができる。我々は、この場合にはGSM受信機設計への通常のアプローチに従う。つまり、チャネルをバースト期間の間、固定されていると考え、結果として、チャネル推定をバースト当たり一度のみ計算する。推定は、受信されたバースト(位相回転後)の中央の部分(ミッドアンブル)ともとのシーケンスとの相互相関を取ることによって実行される。相関ピークの位置が、バースト同期のために利用される。
【0029】
チャネル推定は、さまざまなデータ検出器方式によって、また整合フィルタ(matched filter)30によって利用される。システムのための最適な受信機は、全体的なチャネルに整合させられた(matched)連続時間フィルタ30を含み、そのあとにシンボル空間サンプラー31および最尤シーケンス推定(MLSE: Maximum Likelihood Sequence Estimation)検出器32が続く。しかしながら、離散時間の整合フィルタ30が、{hn}の時間反転した複素共役であるインパルス応答をもって、バースト当たり一度、適応的にセットアップされてもよい。受信信号に対して実行される位相回転および整合フィルタ処理の組み合わせが生成する出力の実成分が、データ・シーケンス{dn}を推定するために使われる。
【0030】
同期チャネル内で、パケットは基地局によって移動端末にブロードキャストされる。パケットが移動端末に到着する前に、パケットは経路を取り巻くオブジェクトによって反射される。パケットの受信信号に対するこれらの寄与は累積し、よって、少なくともそうした寄与が時間的に変化する場合には、通信チャネルは時間的に変化する。動きを検出する二つの方法が用いられうる。第一の方法はドップラー効果を含み、第二の方法はチャネル・エネルギーの時間的な偏位に焦点を当てる。動きまたは存在を判別するために判断モジュール34が用いられる。
【0031】
ドップラー効果は、波源に対して動いている観察者によって知覚される波の周波数の変化である。伝搬する波については、観察者の速度と源の速度は波が伝送される媒体に対するものである。したがって、全ドップラー効果は、源の動き、観察者の動きのほか波反射オブジェクトの動きから帰結しうる。ドップラー効果を検出するために、チャネル推定とその遅延されたバージョンとの相関を取る。したがって、まず、チャネルの正確な推定が必要である。
【0032】
GSMシステムでは、基地局によって送信された各同期バーストは、64ビットのトレーニング・シーケンスを含む「ミッドアンブル」(206)を含む。これらのトレーニング・シーケンスは、GSM基地局から送信される各時間スロット内のデータの復調のために必要とされるチャネル・タップを計算するために、移動局によって使用される。誤りのないデータを再構成する復調器の能力は、チャネル推定の品質によって制限されることがありうる。移動局は各トレーニング・シーケンスを、それを含む信号バーストの中心を位置特定するために使う。これは、トレーニング・シーケンスがあると期待されるバースト部分を、ローカルに生成された、期待されるトレーニング・シーケンスと一致するシーケンスと比較することによってなされる。通常のチャネル推定デバイスでは、トレーニング・シーケンスの中心の諸ビットが、期待されるシーケンスと相関が取られ、その結果が時間誤差を推定するために使われる。それによりチャネル・タップがしかるべく設定できる。他の信号、好ましくは既知のまたは期待される特性をもつ信号を用いてもよいことは理解しておくべきである。そのような信号は、ある時間期間にわたって、検出器によって、バックグラウンドでモニタリングされ、学習されうる。
【0033】
推定されたチャネル(14)は、次式
【0034】
【数2】

を使って決定されうる。ここで、r(l)は受信信号であり、nはミッドアンブル・シーケンス・インデックスであり、Npはミッドアンブル・シーケンスの長さであり、p*(n)はミッドアンブル・トレーニング・シーケンスであり、lはチャネル経路インデックスである。ここで、pは位相補正されたトレーニング・シーケンスdnjnであり、Npはトレーニング・シーケンスの長さである。
【0035】
チャネル推定における周波数変化、すなわちドップラー効果を視覚化するために、チャネルの主要経路とその遅延されたバージョンとの相関を取る:
【0036】
【数3】

ここで、^付きのh0(l)はパケットlのチャネルの主要な経路であり、Mpは遅延されたパケットの数であり、^付きのh0*(l−m)はチャネル・パケットl−mの主要な経路であり、chh(-)は相関係数である。相関係数についての期待される値は動きが検出されるか否かを示す。時間的に急激な低下は低い相関を示し、よって推定されるチャネル内での位相偏移を示す。
【0037】
チャネルの主たる諸経路の瞬時受信エネルギーの時間的ゆらぎも、動きを検出するために用いうる。ここでもまた、先に説明したのと同じチャネル推定方法を使う。チャネルのエネルギーを
【0038】
【数4】

と定義する。
【0039】
時間的なチャネル・エネルギーの偏位をモデル化するためのいくつかのオプションがある。我々はエネルギーの標準偏差に焦点を当てる。そこで、判断変数(decision variable)を導入する。判断変数がある閾値を超えれば、動きが検出されたとする。
【0040】
図3を参照するに、チャネル推定の例が例示的に描かれている。図3は、遅延lに対してチャネル・エネルギー
【0041】
【数5】

の大きさをプロットしている。推定されるチャネル・エネルギーをプロットすることによって、諸チャネルの主要な経路が決定できる。ブロードキャスト・パケットk(202)の主要な経路|h0(k)|2は最も強いエネルギーをもつ経路を与える(h0(k))。ブロードキャスト・パケットkの主要な経路付近のチャネル・エネルギーは
【0042】
【数6】

と表せる。このエネルギー・プロファイルを使って、エネルギー・プロファイルにおけるゆらぎを測るために判断変数が導出できる。判断変数は、振幅の偏移、位相の偏移、周波数の変化または他の任意のパラメータ変化といった、エネルギー・プロファイルにおける異なる変化について導出またはカスタマイズされてもよい。各変化は異なる環境変化または条件を表していてもよい。
【0043】
ある実施形態では、判断変数(9)は次:
【0044】
【数7】

を含む。この式において、ランダム変数(random variable)(r.v.)
【0045】
【数8】

の標準分散が推定される。項
【0046】
【数9】

はチャネルのエネルギー、すなわちランダム変数
【0047】
【数10】

の平均値の推定を表し、L'は、その平均値を導出するために使われる前記ランダム変数の観察の数であり、Lは前記ランダム変数の標準分散を推定するために使われる前記ランダム変数の観察の数であり、lは前記ランダム変数のインデックスである。LとL'は等しくてもよい。
【0048】
他の判断関数/変数を用いてもよく、他のパワー分布関数(power distributions functions)を用いてもよいことは理解しておくべきである。そのような関数および分布は、環境中に存在するエネルギーまたは放射の個別的な側面に、より敏感であってもよい。そのような変動は、特定のアプリケーションを最適化するために、あるいは追加的な感度を提供するために用いられうるからである。
【0049】
図4を参照するに、動き検出または生体の存在のための環境のモニタリングのためのブロック図/流れ図が例示的に描かれている。ブロック302では、本発明に基づく検出器が初期化される。これはローカルなGSMもしくは他のワイヤレス基地局についての同期を含みうる。たとえば、GSMブロードキャスト・パケットのミッドアンブルが参照として用いられてもよい。他の実施形態では、当該方法のための参照またはベースラインを与えるために、同期がなされ、あるいは環境放射のベースラインが収集されてもよい。初期化はブロック303において、所望のアプリケーションに従って(たとえば感度などについての)パラメータまたは変数を調整することを含みうる。たとえば、異なる感度を与えるよう、あるいは異なる特性を探すよう、平均化窓(L)および閾値(S)を調整してもよい。より高度な変数を用い、調整してもよい。たとえば、ドップラー・スペクトルまたはチャネル・コヒーレンス時間がモニタリングされ、用いられてもよい。
【0050】
ブロック304では、チャネル推定が実行されて、モニタリングされるべき好ましいチャネルまたはエネルギー源が決定される。ブロック306では、信号を時間を追ってモニタリングする。ブロック307では、モニタリングされる信号についての更新された情報のために推定または測定から判断変数が計算される。ブロック308では、閾値と計算された判断変数との間で比較がなされる。ブロック309において判断変数が閾値より大きい(選択される方法論によっては閾値より小さい)場合には、ブロック310においてモニタリングされるエリアにおいて存在または動きが検出される。
【0051】
ブロック312で出力信号が生成される。この信号はデバイスをトリガーする、アラートもしくはアラームを与える、または単に変化をコンピュータなどのような記憶装置にログ記録してもよい。そのような信号は、人物またはオブジェクトを追跡するために、あるいはあるエリア内の人の密度についての情報を得るために用いられてもよい。
【0052】
そうでない場合には、ブロック312において、エリア内に動きや存在はない。モニタリング・プロセスは継続され、プログラム経路は戻って、可能性としては再初期化し、モニタリングし、あるいはモニタリングされている信号の更新またはデフォルト設定もしくは論理に基づいて判断変数を再計算する。
【0053】
図5を参照すると、時間(秒)に対してモニタリングされる信号の標準偏差/分散を表す判断変数(9)のプロットが例示的に描かれている。閾値(S)が示されているが、これは、その上ではモニタリングされる環境における人物または生体の存在を表すと判定される位置を示す。閾値より下では、領域404は、環境における人または生体の、現状または動きもしくは存在の不在を表す。示されるように、領域402では、判断変数または関数
【0054】
【数11】

が局所的な最大をもつ(kは時間インデックス)。
【0055】
本願の実施形態は、受動的で安価な存在検出システムを提供する。本願の実施形態はセキュリティ・アプリケーションおよび照明アプリケーション(存在に従ってライトまたは他のデバイスをオン/オフする)において有用である。本願の原理は、使用される信号はすでに空中にあり、そうした信号を生成する必要がないので、動作を実行するために必要とされるエネルギーの削減を提供する。
【0056】
付属の請求項を解釈するに当たって:
(a)「有する」の語は所与の請求項に挙げられている以外の他の要素または工程の存在を排除するものではないこと;
(b)要素の単数形の表現はそのような要素の複数の存在を排除しないこと;
(c)請求項に参照符号があったとしてもその範囲を限定するものではないこと;
(d)いくつかの「手段」が同じ項目またはハードウェアまたはソフトウェア実装される構造または関数によって代表されてもよいこと;
(e)工程の個別的なシーケンスは特に指示がない限り必須のものであることは意図されていないこと、
を理解しておくべきである。
【0057】
存在および動きの検出のための受動レーダーのためのシステムおよび方法についての好ましい実施形態(これは限定するのではなく例解することが意図されている)を記載してきたが、上記の教示に照らして当業者によって修正および変形がなしうることを注意しておく。したがって、開示されている開示の個別的な諸実施形態に、付属の請求項によって記載される本願に開示される諸実施形態の範囲および精神内にはいる変更をなしうることは理解しておくものとする。特許法令によって要求される詳細および具体的事項をこのように記述してきたが、特許請求され特許状によって保護されることが所望されるものは、付属の請求項において記載される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受動検出器であって、
環境中の受動的放射(12)を収集するよう構成された受信機であって、前記受動的放射の一部についての詳細な情報が受動的エネルギーのベースラインとして使用され、前記受動的エネルギーは当該検出器と無関係の受動的源によって生成される、受信機と;
前記ベースラインにおけるゆらぎを測定するよう構成されるモニタと;
前記ゆらぎが前記環境における存在または動きを表すかどうかを判定する、前記モニタに結合された判断モジュールとを有する、
検出器。
【請求項2】
前記受動的エネルギーがワイヤレス通信ネットワークによって生成される、請求項1記載の検出器。
【請求項3】
前記受動的エネルギー(12)の前記一部がグローバル移動通信システム(GSM)規格のワイヤレス通信ネットワーク信号のミッドアンブルを含む、請求項1記載の検出器。
【請求項4】
前記判断モジュールが、推定されるチャネル・エネルギーにおける統計的ゆらぎに基づいて計算される判断変数を含む、請求項1記載の検出器。
【請求項5】
前記判断モジュールが、前記判断変数を閾値と比較して、前記ゆらぎが前記環境中の動きまたは存在を表すかどうかを判定する、請求項4記載の検出器。
【請求項6】
前記判断モジュールが、検出された存在または動きに応じた信号を出力する、請求項1記載の検出器。
【請求項7】
前記受動的エネルギー(12)が当該検出器と無関係な近くのエネルギー源から収集される、請求項1記載の検出器。
【請求項8】
前記ゆらぎがドップラー効果を測定するために用いられる、請求項1記載の検出器。
【請求項9】
受動動き検出器であって:
環境からワイヤレス通信信号を収集し、該通信信号の期待されるまたは周期的な部分からベースライン・エネルギーを推定するよう構成された受信機であって、前記ベースライン・エネルギーは当該検出器に無関係な受動的源によって生成され、前記受信機は、前記ベースライン・エネルギーにおいてモニタリングされるべき最良のチャネルを決定するよう構成されたチャネル推定モジュールを含む、受信機と;
前記最良のチャネルにおけるゆらぎを測定するよう構成されたモニタと;
前記モニタに結合されており、前記ゆらぎを閾値と比較して前記ゆらぎが前記環境中の存在または動きを表すかどうかを判定するよう構成された、判断モジュールとを有する、
検出器。
【請求項10】
前記ワイヤレス通信信号がグローバル移動通信システム(GSM)規格のワイヤレス通信ネットワーク信号を含む、請求項9記載の検出器。
【請求項11】
前記通信信号の前記期待されるまたは周期的な部分が、前記GSM信号のミッドアンブルを含む、請求項9記載の検出器。
【請求項12】
前記判断モジュールが、前記最良のチャネルの推定されるチャネル・エネルギーにおける統計的ゆらぎに基づいて計算される判断変数を含む、請求項9記載の検出器。
【請求項13】
前記判断モジュールが、検出された存在または動きに応じた信号を出力する、請求項9記載の検出器。
【請求項14】
前記通信信号の前記期待されるまたは周期的な部分が基地局から収集される、請求項9記載の検出器。
【請求項15】
環境中の存在または動きを判別する方法であって、
無関係な受動的源によって生成される、環境中の既存の受動的放射から、最良のチャネルを推定する段階と;
前記最良のチャネルの前記受動的放射におけるゆらぎをモニタリングする段階と;
前記ゆらぎが前記環境中の存在または動きを表すかどうかを判定する段階とを含む、
方法。
【請求項16】
前記受動的エネルギーがワイヤレス通信ネットワークによって生成される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記受動的エネルギーがグローバル移動通信システム(GSM)規格のワイヤレス通信ネットワーク信号のミッドアンブルを含む、請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記ゆらぎが前記環境中の存在または動きを表すかどうかを判定する前記段階が、推定されるチャネル・エネルギーにおける統計的ゆらぎに基づく判断変数を計算する段階を含む、請求項15記載の方法。
【請求項19】
前記判断変数を閾値と比較して、前記ゆらぎが前記環境中の動きまたは存在を表すかどうかを判定する段階をさらに含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記閾値を調節することによって検出器の感度を調節する段階をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
検出された存在または動きに応じた信号を出力する段階をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項22】
前記ゆらぎがドップラー効果を測定するために用いられる、請求項15記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−518326(P2011−518326A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504583(P2011−504583)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際出願番号】PCT/IB2009/051516
【国際公開番号】WO2009/128002
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】