説明

孤発性筋萎縮性側索硬化症の検査方法

【課題】孤発性筋萎縮性側索硬化症の遺伝子検査による検査方法を提供すること。
【解決手段】孤発性筋萎縮性側索硬化症の検査方法は、生体から分離した試料について、イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ1遺伝子及び/又はイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ2遺伝子のコピー数を測定するステップを含み、該コピー数が健常者よりも多いことが孤発性筋萎縮性側索硬化症に罹患している可能性が高いこと又はその発症リスクがあることを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、孤発性筋萎縮性側索硬化症の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis : ALS)は運動ニューロンの変性による、致死性神経変性疾患である。ALSには家族性ALS(familial ALS : FALS)および弧発性ALS(sporadic ALS : SALS)の2つの病型がある。FALSは、本願発明者らが最近発見したoptineurin遺伝子を含むいくつかの原因遺伝子(C. Lagier-Tourenne et al., TDP-43 and FUS/TLS : emerging roles in RNA processing and neurodegeneration, Hum. Mol. Genet. 19 (2010) R46-R64.)による、まれな単因子疾患である(H. Maruyama et al., Mutations of optineurin in amyotrophic lateral sclerosis, Nature 465 (2010) 223-226.)。SALSは、ALS症例の大多数(90-98%)である。SALSの病因は未だ解明されていないが、英国における運動ニューロン疾患の双子研究により、SALSにおける遺伝子構成の重要性が示唆された(非特許文献1)。
【0003】
一塩基多型(single nucleotide polymorphism : SNP)を使用するゲノムワイドな関連解析が試みられ、いくつかの研究においてSALSといくつかのSNPとの有意な関連が判明した(M.A. van Es et al., ITPR2 as a susceptibility gene in sporadic amyotrophic lateral sclerosis: a genome-wide association study, Lancet Neurol. 6 (2007) 869-877; T. Dunckley et al., Whole-genome analysis of sporadic amyo trophic lateral sclerosis, N. Engl. J. Med. 357 (2007) 775-788; M.A. van Es et al., Genetic variation in DPP6 is associated with susceptibility to amyotrophic lateral sclerosis, Nat. Genet. 40 (2008) 29-31; S. Cronin et al., A genome-wide association study of sporadic ALS in a homogenous Irish population, Hum. Mol. Genet. 17 (2008) 768-774; M.A. van Es, et al., Genome-wide association study identifies 19p13.3 (UNC13A) and 9p21.2 as susceptibility loci for sporadic amyotrophic lateral sclerosis, Nat. Genet. 41 (2009) 1083-1087)。しかしながら、他の研究においては複数の試験による補正後にそのような関連性は示されなかった(J.C. Schymick et al., Genome-wide genotyping in amyotrophic lateral sclerosis and neurologically normal controls: first stage analysis and public release of data, Lancet Neurol. 6 (2007) 322-328; S. Cronin et al., Screening for replication of genome-wide SNP associations in sporadic ALS, Eur. J. Hum. Genet. 17 (2009) 213-218; A. Chio et al., A two-stage genome-wide association study of sporadic amyotrophic lateral sclerosis, Hum. Mol. Genet. 18 (2009) 1524-1532)。さらに、SALSに有意に関連していることが報告されたSNPは、その後の研究報告では必ずしも再現されなかった(A. Chio et al., A two-stage genome-wide association study of sporadic amyotrophic lateral sclerosis, Hum. Mol. Genet. 18 (2009) 1524-1532; R. Fernandez-Santiago et al.,No evidence of association of FLJ10986 and ITPR2 with ALS in a large German cohort, Neurobiol. Aging 2009 May 21 [Epub ahead of print])
【0004】
一方、最近、ゲノム領域の欠失や増加(2倍、3倍など)のようなコピー数変異(copy-number variations : CNV)は、個人間の遺伝子変異と認められてきた(非特許文献2)。実際、いくつかのCNV異常は弧発性および遺伝性の病因において重要である(非特許文献3)。しかしながら、これまでのSALSのCNV全ゲノム関連解析では、SALSに関連する高頻度CNV座位が認められなかった(非特許文献4〜6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A.J. Graham et al., British motor neuron disease twin study, J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry 62 (1997) 562-569.
【非特許文献2】R. Redon et al., Global variation in copy number in the human genome, Nature 444 (2006) 444-454.
【非特許文献3】J.R. Lupski, Genomic rearrangements and sporadic disease, Nat. Genet. 39 (2007) S43-47.
【非特許文献4】H.M. Blauw et al., Copy-number variation in sporadic amyotrophic lateral sclerosis: a genome-wide screen, Lancet Neurol. 7 (2008) 319-326.
【非特許文献5】S. Cronin et al., Analysis of genome-wide copy number variation in Irish and Dutch ALS populations, Hum. Mol. Genet. 17 (2008) 3392-3398.
【非特許文献6】L.V. Wain et al., The role of copy number variation in susceptibility to amyotrophic lateral sclerosis: genome-wide association study and comparison with published loci, PLoS ONE 4 (2009) e8175.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、孤発性筋萎縮性側索硬化症の遺伝子検査による検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、下記実施例に詳述するように、83名のSALS患者の末梢血白血球からDNAを抽出し、CNV解析を行ったところ、イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ1遺伝子及びイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ2遺伝子を含む遺伝子領域のコピー数が健常者の該領域のコピー数と比較して有意に増加していることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、生体から分離した試料について、イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ1遺伝子及び/又はイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ2遺伝子のコピー数を測定するステップを含み、該コピー数が健常者よりも多いことが孤発性筋萎縮性側索硬化症に罹患している可能性が高いこと又はその発症リスクがあることを示す、孤発性筋萎縮性側索硬化症の検査方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、孤発性筋萎縮性側索硬化症の遺伝子検査による検査方法が初めて提供された。本発明の方法によれば、患者が孤発性筋萎縮性側索硬化症に罹患している可能性が高いか又はその発症リスクが健常者よりも高いかどうかを容易に検査することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(A) 第10番染色体短腕10p15.3サブテロメア領域のIDI1とIDI2遺伝子の位置を示す図である。垂直の矢および矢じりは、CNVマーカー(cnv1104p10)およびqPCRプライマーの位置をそれぞれ示す。トップパネルは染色体10番の表意文字とIDI1とIDI2の遺伝子の位置を示す。 (B)領域に多数ある複雑な反復構造を示す図である。DNAトランスポゾン、LINE、SINE、セグメント重複やVNTR領域を示す。
【図2】(A)下記実施例において行った、コピー数変化のqPCR解析結果を示す図である。健常対照例(右プロット)と比較して、SALS患者(左プロット)の大部分にIDI1/IDI2遺伝子領域における増加がqPCR解析によって検出された。 (B) 2グループ間のコピー数の差は領域の外では検出されないことを示す図である。AとBのqPCRプライマーセットの位置は、図1(A)に示している。
【図3】Agilent高密度カスタムマイクロアレイによるIDI1/IDI2遺伝子領域におけるコピー数増加の微細構造の判定結果を示す図である。Log2比(Y軸)をゲノム位置(X軸)に沿って移動平均を使用してプロットした。代表的なSALS患者4名(a-d)を健常対照例2名(e, f)と共に平行してプロットで示した。灰色の領域は、コピー数増加を示す。暗灰色の曲線は、SALS患者および健常対照例のコピー数プロットをそれぞれ表わす。2つの灰色の曲線は、健常対照例群におけるプローブの平均log2比の範囲を示す。
【図4】SALS患者19名におけるIDI1/IDI2遺伝子領域のコピー数増加(暗色の水平のバー)の範囲を示す図である (Agilent高密度カスタムアレイによる解析)。患者数とIDI1および(または)IDI2遺伝子におけるコピー数増加の有無を右に示した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の方法で、指標として用いられる遺伝子は、イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ1(IDI1)遺伝子及び/又はイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ(IDI2)2遺伝子である。IDI1遺伝子及びIDI2遺伝子の少なくとも一方を指標とすればよいが、これらの遺伝子は、第10番染色体短腕10p15.3のサブテロメア領域に近接して存在するので、IDI1遺伝子とIDI2遺伝子を含む遺伝子領域を指標とすることもできる(下記実施例参照)。IDI1遺伝子及びIDI2遺伝子自体は公知であり、その塩基配列及びそれがコードするアミノ酸配列も公知である。IDI1遺伝子のcDNA配列及びそれがコードするアミノ酸配列は、例えばGenBank Accession No. NM_004508.2に記載されており(配列番号1及び配列番号2に示す)、IDI2遺伝子のcDNA配列及びそれがコードするアミノ酸配列は、例えばGenBank Accession No. NM_033261.2に記載されている(配列番号3及び配列番号4に示す)。なお、野生型の遺伝子は、SNP等の野生型の変異を含んでいる可能性があり、配列番号1に記載した塩基配列において、野生型の変異、例えば、1個から数個の塩基の置換、欠失、挿入及び/又は付加を有するものや、配列同一性が95%以上、好ましくは99%以上のものであってIDI1遺伝子として機能するタンパク質をコードするものは本発明におけるIDI1遺伝子である。IDI2遺伝子についても同様である。なお、配列同一性は、両者の塩基ができるだけ多く一致するように(必要ならばギャップを挿入する)両塩基配列を整列させ、一致している塩基数を、全塩基数(両者の配列で全塩基数が異なる場合には長い方の配列の全塩基数)で除したものを百分率で表したものであり、BLASTのような周知のソフトにより容易に算出することができる。
【0012】
本発明の方法に供される試料としては、遺伝子成分を含む試料であればいずれのものでもよく、血液、頬粘膜のみならず毛髪、爪、皮膚等の人体組織の一部を試料として利用できる。これらのうち、血液から採取される白血球の利用が簡便で好ましい。また、下記実施例ではヒトから採取した試料を用いているので、本発明の方法は当然、ヒトに適用可能であるが、IDI1遺伝子又はIDI2遺伝子が知られているヒト以外の動物にも適用可能である。
【0013】
本発明の方法では、SHC2遺伝子のコピー数又は発現量を測定する。コピー数の測定方法自体は公知であり、下記実施例に具体的に記載するように、市販の測定キットを用いて測定可能である。すなわち、遺伝子のコピー数は、例えば次のようにして測定することが可能である。アレイ CGH(aCGH)法により測定を行う。アレイ CGH(aCGH)法はマイクロアレイと従来のCGH 法(Comparative Genomic Hybridization:比較ゲノ ムハイブリダイゼーション)を組み合わせることで、ハイスループットに目的遺伝子、ゲノムDNA領域のコピー数変化を検出する手法である。 CGH法は1992 年、Kallioniemi らが、Science 誌で発表した方法であり、FISH 法(Flourescence in situhybridaization)を応用した方法で、全染色体を対象として、ゲノム DNA が増幅(gain)、欠失(loss)した領域を調べる方法である。使用するオリゴ DNA マイクロアレイは、インクジェット技術を用いて 60 merのDNAオリゴプローブを、基盤上に直接 in-situ 合成する方法で製造される。In-situ 合成により、非常に均質なスポットをしかも高密度でアレイ上に作成できるため、アレイ実験の再現性が非常に向上し、信頼性の高い結果を得ることが出来る。これは、後述の実施例に具体的に記載されているように、例えば、CNVオリゴヌクレオチドマイクロアレイ (SurePrint G3 Human CNV 400K Microarray, Agilent Technologies, Santa Clara, CA)のような市販品を用いて実施可能である。なお、この市販のCNVオリゴヌクレオチドマイクロアレイでは、ヒトの全ゲノム配列上の412000箇所、それぞれに対応した60merのDNAプローブがチップ上に約412,000個配置されているものである。また、下記実施例に具体的に示すように、全ゲノムのCNVに富む領域を標的としたCNVプローブでデザインされているdeCODE-Illumina社のビーズチップ(57K, i-select format, Illumina Infinium system, deCODE genetics, Inc., Iceland)を用いて、全ゲノムのCNV解析を行うことも可能である。この製品では、プローブは15,559箇所のCNV領域を構成しており、ヒトゲノム全体の6%である190 Mbをカバーする。これらの領域は、ヒトゲノムの平均と比較して18倍CNVに富んでいる(H. Stefansson, D. Rujescu, S. Cichon et al., Large recurrent microdeletions associated with schizophrenia, Nature 455 (2008) 232-236.)。
【0014】
下記実施例に具体的に記載するように、SALS患者では、IDI1遺伝子及びIDI2遺伝子を含む領域のコピー数が健常者よりも多くなっている。すなわち、健常者では、この遺伝子領域のコピー数は、通常、2個程度であるが、SALS患者では、3個から4個程度である。従って、IDI1遺伝子及び/又はIDI2遺伝子のコピー数が3個以上の場合、SALSに罹患している可能性が高い(症状がある場合)又は発症リスクが高い(症状がない場合)と判定できる。
【0015】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
1. 材料及び方法
1.1. 患者
本実施例は、1994年 エル・エスコリアル基準(B.R. Brooks et al., World Federation of Neurology criteria for the diagnosis of amyotrophic lateral sclerosis, J. Neurol. Sci. 124 (suppl) (1994) 96-107.)に従い、ほぼ確実または確実なALSの診断基準を満たしているSALS患者83名について行った。地域在住の神経的な疾病を持たない(H. Nagasawa et al., A polymorphism of the aldehyde dehydrogenase 2 gene is a risk factor for multiple lacunar infarcts in Japanese men: the Takahata Study, Eur. J. Neurol. 14 (2007) 428-434; C. Iseki et al., Asymptomatic ventriculomegaly with features of idiopathic normal pressure hydrocephalus on MRI (AVIM) in the elderly: a prospective study in a Japanese population, J. Neurol. Sci. 277 (2009) 54-57)高齢者の中から健常対照例100名を任意に選択した。平均年齢(SALS/健常対照例=59.9/70.0年) あるいは男女比率(SALS/健常対照例=1.27/0.76)に、2つの集団間の有意な違いはなかった(それぞれp=0.38および0.1)。DNAは末梢血白血球から抽出された。すべての試料提供者から、書面で遺伝子解析についてのインフォームドコンセントを得た。本研究は、山形大学医学部の医学倫理委員会の承認を得ている。
【0017】
1.2. 全ゲノムCNVビーズチップによるスクリーニング
全ゲノムのCNVに富む領域を標的としたCNVプローブでデザインされているdeCODE-Illumina社のビーズチップ(57K, i-select format, Illumina Infinium system, deCODE genetics, Inc., Iceland)を用いて、全ゲノムのCNV解析を行った。プラットフォームは全ゲノムのメガサテライト(縦列反復>500 bp)やデュプリコン(高い相同分節重複に隣接した1kbを越える領域),unSNPable領域(HapMap SNPマップ中の15kb を越えるギャップ,Hardy-Weinberg不平衡な2つを越えるSNPの5-15kbのギャップ), Database of Genomic Variants (http://projects.tcag.ca/variation/, NCBI Build 36.1-hg18)中に記載されたCNVのような、CNVに富む領域をターゲットとするCNVプローブで設計されている。これは、15,559箇所のCNV領域を構成しており、ヒトゲノム全体の6%である190 Mbをカバーする。これらの領域は、ヒトゲノムの平均と比較して18倍CNVに富んでいる。 CNVデータはDosageMinerプログラムにより解析を行った(H. Stefansson et al., Large recurrent microdeletions associated with schizophrenia, Nature 455 (2008) 232-236.)。
【0018】
全ゲノムのCNVに富む領域を標的としたCNVプローブでデザインされているdeCODE-Illumina社のビーズチップ(57K, i-select format, Illumina Infinium system, deCODE genetics, Inc., Iceland)を用いて、全ゲノムのCNV解析を行った。プローブは15,559箇所のCNV領域を構成しており、ヒトゲノム全体の6%である190 Mbをカバーする。これらの領域は、ヒトゲノムの平均と比較して18倍CNVに富んでいる(H. Stefansson, D. Rujescu, S. Cichon et al., Large recurrent microdeletions associated with schizophrenia, Nature 455 (2008) 232-236.)。deCODE-Illumina社CNVチップから得られたデータの解析には、deCODE genetics社のソフトウェアDisageMinerを用いて行い、CNVの欠失と増幅を解析した。簡潔には、各蛍光色の信号の蛍光強度の標準化は、deCODE genetics社により開発された計算式により行った。ゲノム上の連続した領域について、1マーカーの示すコピー数異常より、複数のマーカーで検出される場合を欠失か増幅として判定した(H. Stefansson et al., Large recurrent microdeletions associated with schizophrenia, Nature 455 (2008) 232-236.)。
【0019】
1.3. TaqMan(商品名) qPCR
メーカーの指示に従いtriplicate (n= 3)でApplied-Biosystem's TaqMan Gene Copy Number Assays(定量PCR、qPCR)を用いて、DNAサンプルの第10番染色体短腕10p15.3, IDI1遺伝子領域のコピー数を分析した。プライマーとプローブは、Applied-Biosystemのソフトウェアを使用して、ゲノムの配列(hg18/Build 36)から設計を行った。それぞれ分析は、第10番染色体短腕10p領域に対するFAM色素法とリファレンス遺伝子RNase P (PN 4316844, Applied-Biosystem)に対するVIC色素法を用いて、triplex TaqMan real-time PCR反応で行った。それぞれPCR分析は、triplicate (n= 3)で行った。データ解析は公知の方法により行った(L. Dupuis et al., Dyslipidemia is a protective factor in amyotrophic lateral sclerosis, Neurology 70 (2008) 1004-1009.)。qPCRに用いたフォワード側プライマー及びリバース側プライマーの塩基配列を配列番号5及び配列番号6に、TaqMan(商品名)プローブの塩基配列を配列番号7に、増幅産物の塩基配列を配列番号8に示す。
【0020】
1.4. 高密度オリゴヌクレオチドマイクロアレイ解析
Agilentの、aCGH法を基礎とする高密度オリゴヌクレオチドマイクロアレイ解析を、第10番染色体短腕10p15.3(Chr10:1,050,000-1,090,000[NCBI Build 36.1,hg18])(A.J. de Smith et al., Array CGH analysis of copy number variation identifies 1284 new genes variant in healthy white males: implications for association studies of complex diseases, Hum. Mol. Genet. 16 (2007) 2783-2794.)のIDI1/IDI2遺伝子が存在する40kbのサブテロメア領域を対象として行った。高密度アレイにより、複雑なマルチコピー変化領域の欠失や増加の異常なコピー数は、プローブのlog2比の平均から1 s.d.のしきい値を取り、しきい値に対するプローブlog2比の逸脱から検出した(A.J. Sharp et al.,Discovery of previously unidentified genomic disorders from the duplication architecture of the human genome, Nat. Genet. 38 (2006) 1038-1042; J.R. Lupski, Genomic disorders ten years on, Genome Med. 1 (2009) 42)
【0021】
2. 結果
2.1. 全ゲノムCNV ビーズチップによるスクリーニング
SALSと関連するCNVを検出するため、SALS患者11名および健常対照例63名に対してCNVビーズチップによる全ゲノムスクリーニングを行った。第10番染色体長腕10pと第2番染色体短腕2qに存在する2つのCNVマーカーが我々の基準を満たした。この基準は、Fisher's exact testから統計的に有意であり、NA(not available)の頻度が0.10より低く、permutationまたはボンフェローニ補正を伴うものである。前者のCNVマーカーcnv1104p10は、第10番染色体短腕10p15.3サブテロメアのIDI1/IDI2遺伝子領域にある。全ゲノムスクリーニングを行った症例のうち、IDI1/IDI2遺伝子領域のCNVマーカーでコピー数の増加が健常対照例59名では認められなかったが、SALS患者9名のうち7名では認められた(Fisher's exact test p=3.70 × 10-8,permutation test p=5.56 × 10-6,ボンフェローニ補正後 p <0.05)。Fig. 1Aは、IDI1遺伝子に存在するCNVマーカーcnv1104p10(矢印)の位置を示す。領域には、IDI1/IDI2遺伝子周辺の多くの複雑な反復構造が存在する(Fig. 1B)。
【0022】
2.2. TaqMan(商品名) qPCR
CNVビーズチップの結果を検証するため、SALS患者(n=83)および健常対照例(n=100)についてqPCR解析を行った。Fig. 2Aに示されるように、健常対照例10名と比較して、SALS患者46名でIDI1/IDI2遺伝子領域の一部にコピー数の増加が認められた(Fisher's exact test p=4.86 × 10-11,オッズ比10.8; 95%信頼区間 4.75-26.64)。この領域から10kb上流では2グループ間において、コピー数の分布に著しい違いはなかった(Fig. 2B)。
【0023】
2.3. 高密度マイクロアレイ解析
SALS患者32名および健常対照例12名について高密度オリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて、40kbのIDI1/IDI2遺伝子領域におけるコピー数変化の範囲を解析した。セグメントのコピー数増加がSALS患者19名で認められた。Fig. 3 に、代表的なSALS患者4名と健常対照例2名について、40kbのIDI1/IDI2遺伝子領域におけるセグメント増加の詳細な構造を示した(SALS患者; Fig.3a-3d, 健常対照例; Fig.3e,3f)。Fig. 4は、増加が認められたSALS患者19名全てについて、IDI1/IDI2遺伝子領域におけるコピー数増加の範囲を示した。SALS患者19名全てが、IDI1遺伝子のセグメント増加を示し、その内7名にIDI1遺伝子とIDI2遺伝子の両方にセグメント増加を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から分離した試料について、イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ1遺伝子及び/又はイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ2遺伝子のコピー数を測定するステップを含み、該コピー数が健常者よりも多いことが孤発性筋萎縮性側索硬化症に罹患している可能性が高いこと又はその発症リスクがあることを示す、孤発性筋萎縮性側索硬化症の検査方法。
【請求項2】
イソペンテニル二リン酸イソメラーゼ1遺伝子及びイソペンテニル二リン酸イソメラーゼ2遺伝子を含む遺伝子領域のコピー数を測定するステップを含む請求項1記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−85639(P2012−85639A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227958(P2011−227958)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(501002172)株式会社DNAチップ研究所 (33)
【出願人】(304036754)国立大学法人山形大学 (59)
【Fターム(参考)】