説明

安中散含有錠剤

【課題】本発明は、圧縮成型性に優れ、しかも崩壊時間の遅延を抑制することを特徴とする安中散含有錠剤を提供することに関する。
【解決手段】約3〜5質量%の軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、安中散末、賦形剤、滑沢剤の混合末を得、該混合末を乾式造粒することにより安中散含有顆粒を製する。ついで顆粒外に該顆粒の軽質無水ケイ酸との和が錠剤全体に対して6〜12質量%となる量の軽質無水ケイ酸、及び滑沢剤を混合して、圧縮成型により安中散含有錠剤を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安中散を含有する混合末を乾式造粒して得られる顆粒を圧縮成型してなる錠剤において、錠剤全体に対して6〜12質量%となる量の軽質無水ケイ酸、及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを配合したことを特徴とする安中散含有錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に生薬を含有する錠剤、とりわけ安中散を含有する錠剤においては、圧縮成型性が著しく劣るため、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト等の無機化合物を用いて、圧縮成型性を改善する方法が汎用されている。しかしながら、この方法では、無機化合物を添加して製造される錠剤の硬度は改善されるが、多量の無機化合物を配合する必要があり、錠剤が大型化するなどの欠点を伴う。
【0003】
そこで、製剤全体に対して5質量%をこえる軽質無水ケイ酸および結晶セルロースを配合する方法が提案されており(特許文献1参照)、湿式顆粒圧縮法による錠剤の製造法が具体的に開示されている。
【0004】
しかしながら、湿式顆粒圧縮法では、添加した溶剤の除去の際に、安中散等の生薬末に含有される有効成分の一つと考えられている揮発性成分等の損失が危惧されることから、生薬末を錠剤または顆粒剤等に製剤化するには、溶剤の除去を必要としない、乾式造粒法が最も適した方法であるといわれている。そこで、生薬末よりなる漢方薬に対して5〜100質量%の軽質無水ケイ酸を使用し、圧縮成型し、得られた成型物を破砕することによる乾式造粒法で、生薬に本来含有されている成分を損なうことなく、包装、輸送時において摩損・破壊のない適当な硬度を持ち、且つ、量的にも服用しやすい生薬製剤または漢方薬製剤の造粒物を製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
ところが、一般に錠剤は、主薬濃度を高めると崩壊時間が遅延する傾向がある。また通常、生産規模の増大(スケールアップ)に伴い、造粒物は硬く締まる傾向を示し錠剤の崩壊時間が遅延する傾向を示すことも知られている。なお、生薬等の主薬を含有する混合末を湿式造粒して得られる顆粒を打錠する方法において、該顆粒内に結晶セルロースを配合した後、打錠すれば、錠剤の崩壊時間の遅延を抑制できる(特許文献3参照)が、主薬を含有する混合末を圧縮して得られる固形物を適当な整粒機を用いて粉砕し、得られた顆粒を打錠する乾式顆粒打錠法では、上記のような方法で錠剤の崩壊時間の遅延を抑制することはできない。
【0006】
【特許文献1】特開平11−228429号公報
【特許文献2】特開2002−97130号公報
【特許文献3】特開2005−47861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安中散を含有する混合末を乾式造粒して得られる顆粒を圧縮成型してなる錠剤において、圧縮成型性に優れ、しかも崩壊時間の遅延を抑制できる安中散含有錠剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、乾式顆粒打錠法において、安中散を含有する混合末中に軽質無水ケイ酸及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを添加して混合した後、圧縮成型し、破砕して得られた顆粒に、さらに軽質無水ケイ酸を混合して圧縮成型することで、圧縮成型性に優れ、しかも崩壊時間の遅延を抑制する安中散含有錠剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)安中散を含有する混合末を乾式造粒して得られる顆粒を圧縮成型してなる錠剤において、錠剤全体に対して6〜12質量%となる量の軽質無水ケイ酸、及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを配合したことを特徴とする安中散含有錠剤。
(2)安中散を含有する混合末中に軽質無水ケイ酸及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを添加して混合した後、圧縮成型し、破砕して得られた顆粒に、さらに軽質無水ケイ酸を添加混合して圧縮成型することを特徴とする、錠剤の崩壊時間の遅延を抑制した安中散含有錠剤の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、生薬を含有する錠剤、とりわけ安中散を含有する錠剤の圧縮成型性が改善され、十分な錠剤強度を有し、しかも崩壊時間の遅延を抑制した安中散含有錠剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に使用される安中散としては、安中散末、安中散料エキスの乾燥末あるいはそれらの混合物であってもよいが、好ましくは安中散末が使用される。本発明では、安中散は錠剤全体に対して20〜80質量%、好ましくは錠剤全体に対して35〜60質量%配合される。
【0012】
本発明で使用される軽質無水ケイ酸は、医薬品添加物として通常使用され、圧縮成型性に優れたものであり、特に限定はない。軽質無水ケイ酸は打錠前の顆粒にあらかじめ2〜10質量%、好ましくは3〜5質量%配合する。ついで顆粒外に該顆粒の軽質無水ケイ酸との和が錠剤全体に対して3〜18質量%、好ましくは6〜12質量%配合される。
【0013】
本発明で使用される低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、医薬品添加物として通常使用され得るものである。低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの配合量は、錠剤全体に対して5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%、より好ましくは15〜25質量%である。
【0014】
本発明の安中散含有錠剤には、軽質無水ケイ酸及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースに加えて、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、賦形剤等の種々の添加剤を含んでいてもよい。
崩壊剤としては、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、部分アルファ化デンプン、カルボキシメチルセロース、カルボキシメチルスターチナトリウム等が例示される。結合剤としては、アラビアゴム、ゼラチン、デキストリン、プルラン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が例示される。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、硬化油、ショ糖脂肪酸エステル等が例示される。賦形剤としては、乳糖、白糖、D−マンニトール、エリスリトール、キシリトール、還元麦芽糖水飴、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、結晶セルロース等が例示される。
【0015】
本発明の固形錠剤は好ましくは圧縮成型により製造される。圧縮成型により得られる錠剤製造時の圧縮圧は錠剤の硬度、崩壊性、溶出性等を考慮して適宜設定されるが、通常杵当たり約300〜5000kg/cm、好ましくは杵当たり約1000〜3000kg/cmである。
【0016】
本発明の安中散含有錠剤は乾式造粒打錠法により、次のように製造される。約3〜5質量%の軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、安中散末を混合分散させ、該混合末を乾式造粒することにより安中散含有顆粒を得ることができる。また、必要に応じて適当な賦形剤、例えば、乳糖、白糖、D−マンニトール、エリスリトール、キシリトール、還元麦芽糖水飴等の糖類、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ等の澱粉類、及び結晶セルロース等のセルロース系物質など、及び/または滑沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、硬化油、ショ糖脂肪酸エステルなどを添加してから乾式造粒をしてもよい。ついで顆粒外に該顆粒の軽質無水ケイ酸との和が錠剤全体に対して6〜12質量%となる量の軽質無水ケイ酸、及び/または滑沢剤を混合して、圧縮成型により安中散含有錠剤を得ることができる。
【0017】
以下に実施例及び試験例を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
【実施例】
【0018】
実施例1
安中散末2100g、芍薬甘草湯エキス末420g、軽質無水ケイ酸[アドソリダー101(商品名) フロイント産業株式会社]160g、乳糖120g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース[L−HPC−LH21(商品名) 信越化学工業株式会社]704g、ステアリン酸マグネシウム6g、硬化油12gを混合した後、ローラーコンパクター(ターボ工業製)で圧縮成型し、ロールグラニュレーター(日本グラニュレーター製)を用いて破砕して顆粒を得た。得られた顆粒にステアリン酸マグネシウム6g、硬化油12g、軽質無水ケイ酸180gを添加し、ポリ袋中でさらに混合して打錠前顆粒を得た。打錠は、ロータリー打錠機(バーゴ19、菊水製作所)を用いて、9.0mmφ糖衣面杵で1錠当たり310mgで行い、直径9.0mmの錠剤を得た。圧縮圧は杵当たり1900〜2100kgとした。安中散含有錠剤の処方を表1に示す。
【0019】
実施例2及び比較例1、2
表1に示す処方で実施例1と同様に製造を行い、直径9.0mmの錠剤を得た。
【0020】
【表1】

【0021】
試験例
実施例1、2ならびに比較例1、2で得られた各錠剤の硬度は、硬度計(シュロイニゲル社)を用いて各々10錠を測定してその平均値から求めた。また、日局14の崩壊試験法に基づいて、37℃/900mLの精製水を用いて、上記錠剤の崩壊時間を測定した。
【0022】
(試験結果)
実施例1、2ならびに比較例1、2で得られた錠剤について、上記測定結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
実施例1ならびに比較例1、2で得られた錠剤の製造直後及び65℃で2週間保存後の硬度及び崩壊時間を表3に示した。実施例1の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの換わりに、比較例1では結晶セルロースを配合しており、比較例2では乳糖を増量しているが、これら比較例1、2の錠剤においては、経時的な崩壊時間の遅延が観察された。経時的な崩壊時間の遅延抑制効果については、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを製剤中に配合した場合にのみ優れた効果が得られた。
【0025】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0026】
生薬を含有する錠剤、とりわけ安中散を含有する混合末を乾式造粒して得られる顆粒を圧縮成型してなる錠剤において、圧縮成型性に優れ、しかも崩壊時間の遅延を抑制できる安中散含有錠剤を提供できる。また、本発明は安中散を錠剤中に高濃度に配合することができ、安中散の精油成分を損なうことなく製造することができるので、医薬品として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安中散を含有する混合末を乾式造粒して得られる顆粒を圧縮成型してなる錠剤において、錠剤全体に対して6〜12質量%となる量の軽質無水ケイ酸、及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを配合したことを特徴とする安中散含有錠剤。
【請求項2】
安中散を含有する混合末中に軽質無水ケイ酸及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを添加して混合した後、圧縮成型し、破砕して得られた顆粒に、さらに軽質無水ケイ酸を添加混合して圧縮成型することを特徴とする、錠剤の崩壊時間の遅延を抑制した安中散含有錠剤の製造方法。

【公開番号】特開2007−161706(P2007−161706A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307871(P2006−307871)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】