説明

安全カバー

【課題】作業者の安全を確保することが可能で、かつ、産業用ロボットが衝突してもその損傷を防止することが可能な産業用ロボットの安全カバーを提供すること。
【解決手段】産業用ロボットの作業領域の少なくとも一部を形成する安全カバーは、作業領域からはみ出す産業用ロボットのハンドまたはアームが衝突する樹脂製かつ板状のカバー部材21と、カバー部材21の外周側が係合する係合手段22cが形成されカバー部材21を保持する枠部材22と、カバー部材21の少なくとも一部が係合手段22cから外れたときに枠部材22からカバー部材21が脱落するのを防止するための脱落防止手段35とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットが設置される工場内で使用される安全カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業用ロボットが設置される工場では、作業者の安全を確保するため、産業用ロボットの周囲に安全カバーが設置されている(たとえば、特許文献1および2参照)。また、従来、産業用ロボットとして、搬送対象物が搭載されるハンドと、ハンドを保持するアームとを備える搬送用ロボットが知られており(たとえば、特許文献3参照)、かかる搬送用ロボットの周囲にも安全カバーが設置されている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−223002号公報
【特許文献2】特開2004−353849号公報
【特許文献3】特開2006−102886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液晶ディスプレイ用ガラス基板等のように、搬送用ロボットによって搬送される搬送対象物の中には、年々、大型化するものがある。一方で、生産性を向上させるため、搬送用ロボットによる搬送対象物の搬送速度の高速化が要求されており、搬送用ロボットのハンド等の移動時の運動エネルギーはますます大きくなる傾向にある。その結果、搬送用ロボットが誤動作をしたときの作業者の安全を確保しにくい状況が生じつつある。
【0005】
ここで、鋼板等の強度の高い材料で形成された強固な安全カバーを搬送用ロボットの周囲に設置すれば、搬送用ロボットが誤動作をしても、強固な安全カバーでハンド等を停止させることができるため、作業者の安全を確保することは可能である。しかしながら、強固な安全カバーを搬送用ロボットの周囲に設置する場合、ハンド等が安全カバーに衝突すると、その衝突時の衝撃によってハンド等が損傷するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、作業者の安全を確保することが可能で、かつ、産業用ロボットが衝突してもその損傷を防止することが可能な産業用ロボットの安全カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の安全カバーは、産業用ロボットの作業領域の少なくとも一部を形成する安全カバーであって、作業領域からはみ出す産業用ロボットのハンドまたはアームが衝突する樹脂製かつ板状のカバー部材と、カバー部材の外周側が係合する係合手段が形成されカバー部材を保持する枠部材と、カバー部材の少なくとも一部が係合手段から外れたときに枠部材からカバー部材が脱落するのを防止するための脱落防止手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の安全カバーでは、作業領域からはみ出す産業用ロボットのハンドやアームが衝突する樹脂製のカバー部材は、カバー部材の外周側が係合する係合手段が形成された枠部材に保持されている。また、本発明の安全カバーは、カバー部材が係合手段から外れたときに枠部材からカバー部材が脱落するのを防止するための脱落防止手段を備えている。そのため、ハンドやアームがカバー部材に衝突しても、まず、カバー部材が係合手段から外れるまで、係合手段に係合するカバー部材によってハンドやアームの持つ運動エネルギーを吸収するとともに、その後、吸収しきれなかった運動エネルギーを脱落防止手段によって吸収することが可能になる。したがって、本発明では、ハンドやアームの持つ運動エネルギーの全てを安全カバーで吸収することが可能になり、安全カバーによって、ハンドやアームを停止させることが可能になる。その結果、本発明では、作業者の安全を確保することが可能になる。
【0009】
また、本発明では、係合手段に係合するカバー部材と脱落防止手段とによって、ハンドやアームの持つ運動エネルギーを2段階で吸収することが可能になるため、枠部材へのカバー部材の固定強度を下げることが可能になる。また、本発明のカバー部材は、樹脂で形成されている。したがって、本発明では、ハンドやアームがカバー部材に衝突する際の衝撃を和らげることが可能になり、その結果、ハンドやアームがカバー部材に衝突してもその損傷を防止することが可能になる。
【0010】
本発明において、脱落防止手段は、カバー部材の外周に沿うように、3箇所以上に配置されていることが好ましい。このように構成すると、ハンドやアームがカバー部材に衝突したときに、脱落防止手段を中心にしてカバー部材が回動するのを防止することが可能になる。したがって、脱落防止手段によって運動エネルギーを確実に吸収することが可能になる。
【0011】
本発明において、脱落防止手段は、たとえば、カバー部材と枠部材とを繋ぐワイヤー状部材または鎖状部材を備えている。この場合には、ワイヤー状部材または鎖状部材の変形(弾性変形および/または塑性変形)を利用して、ハンドやアームの持つ運動エネルギーを吸収することができる。
【0012】
本発明において、脱落防止手段は、カバー部材に固定される第1のボルトと、枠部材に固定される第2のボルトとを備え、ワイヤー状部材または鎖状部材は、第1のボルトと第2のボルトとの間に架け渡されていることが好ましい。このように構成すると、比較的簡易な構造で、カバー部材と枠部材とを繋ぐことができる。
【0013】
本発明において、脱落防止手段は、ワイヤー状部材として、針金を備え、第1のボルトの頭部には、針金が挿通される挿通孔が形成されていることが好ましい。このように構成すると、何らかの外力が針金に作用しても、第1のボルトと第2のボルトとの間から針金が落下するのを防止することが可能になる。
【0014】
本発明において、脱落防止手段は、係合手段から外れたときのカバー部材が接触する位置で枠部材に固定される板状部材を備えていても良い。この場合には、板状部材の変形を利用して、ハンドやアームの持つ運動エネルギーを吸収することができる。
【0015】
また、上記の課題を解決するため、本発明の安全カバーは、産業用ロボットの作業領域の少なくとも一部を形成する安全カバーであって、作業領域からはみ出す産業用ロボットのハンドまたはアームが衝突する樹脂製かつ板状のカバー部材と、カバー部材の外周側が係合する係合手段が形成されカバー部材を保持する枠部材と、カバー部材の少なくとも一部が係合手段から外れたときに作業領域の外側へ向かうカバー部材の動きを規制するための規制手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の安全カバーでは、作業領域からはみ出す産業用ロボットのハンドやアームが衝突するカバー部材は、カバー部材の外周側が係合する係合手段が形成された枠部材に保持されている。また、本発明の安全カバーは、カバー部材が係合手段から外れたときに作業領域の外側へ向かうカバー部材の動きを規制するための規制手段を備えている。そのため、ハンドやアームがカバー部材に衝突しても、まず、カバー部材が係合手段から外れるまで、係合手段に係合するカバー部材によってハンドやアームの持つ運動エネルギーを吸収するとともに、その後、吸収しきれなかった運動エネルギーを規制手段で吸収することが可能になる。したがって、本発明では、ハンドやアームの持つ運動エネルギーの全てを安全カバーで吸収することが可能になり、安全カバーによって、ハンドやアームを停止させることが可能になる。その結果、本発明では、作業者の安全を確保することが可能になる。
【0017】
また、本発明では、係合手段に係合するカバー部材と規制手段とによって、ハンドやアームの持つ運動エネルギーを2段階で吸収することが可能になるため、枠部材へのカバー部材の固定強度を下げることが可能になる。また、本発明のカバー部材は、樹脂で形成されている。したがって、本発明では、ハンドやアームがカバー部材に衝突する際の衝撃を和らげることが可能になり、その結果、ハンドやアームがカバー部材に衝突してもその損傷を防止することが可能になる。
【0018】
本発明において、カバー部材は、半透明または透明であることが好ましい。このように構成すると、作業者が安全カバーの外側から産業用ロボットの状態を確認することが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の安全カバーでは、作業者の安全を確保することが可能になるとともに、産業用ロボットが衝突してもその損傷を防止することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
(安全カバーが設置される工場のレイアウトおよび産業用ロボットの概略構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかる安全カバー1が設置される工場のレイアウトの一例を示す平面図である。図2は、図1に示す産業用ロボット3の平面図である。図3は、図2のE−E方向から産業用ロボット3を示す図である。
【0022】
本形態の安全カバー1は、たとえば、液晶ディスプレイ用ガラス基板2(以下、「基板2」とする。)を搬送するための産業用ロボット3(以下、「ロボット3」とする。)が設置される工場において、作業者の安全を確保するためのものである。この安全カバー1は、工場内において、たとえば、図1に示すように、3個の液晶ディスプレイの製造装置4に三方を囲まれたロボット3の残りの一方を囲むように設置される。本形態では、3個の製造装置4と安全カバー1とによって、ロボット3の作業領域Rが形成されている。
【0023】
ロボット3は、上述のように、基板2を搬送するための搬送用ロボットである。本形態のロボット3は、特に大型の基板2の搬送に適した大型のロボットであり、たとえば、1辺が約3mの略正方形状の基板2を搬送する。なお、ロボット3は、半導体ウエハ等を搬送するロボットであっても良い。
【0024】
図2、図3に示すように、ロボット3は、基板2が搭載される2個のハンド6と、2個のハンド6のそれぞれが先端側に連結される2本のアーム7と、2本のアーム7を支持する本体部8と、本体部8を水平方向に移動可能に支持するベース部材9とを備えている。本体部8は、2本のアーム7の基端側を支持するとともに上下動可能な支持部材10と、支持部材10を上下方向に移動可能に支持するための柱状部材11と、本体部8の下端部分を構成するとともにベース部材9に対して水平移動可能な基台12と、柱状部材11の下端が固定されるとともに基台12に対して旋回可能な旋回部材13とを備えている。
【0025】
ハンド6は、基板2を搭載するための複数の爪部(フォーク)14を備えている。ハンド6の基端は、アーム7の先端に回動可能に連結されている。アーム7は、2個の関節部15を有し、本体部8に対して伸縮するように構成されている。また、アーム7の基端は、支持部材10に固定されている。本形態では、2個のハンド6と2本のアーム7とが上下方向に重なるように配置されている。すなわち、本形態のロボット3は、ダブルアームタイプのロボットである。なお、ロボット3は、1個のハンド6と1本のアーム7とを備えるシングルアームタイプのロボットであっても良い。
【0026】
このロボット3では、柱状部材11に対して支持部材10がハンド6およびアーム7と一緒に上下動するとともに、本体部8に対してアーム7が伸縮することで、製造装置4への基板2の搬入や製造装置4からの基板2の搬出が行われる。また、ベース部材9に対して基台12が水平移動するとともに、基台12に対して旋回部材13が旋回することで、3個の製造装置4間でハンド6が移動する。
【0027】
(安全カバーの構成)
図4は、図1に示す安全カバー1の正面図である。図5は、図4のF−F方向から安全カバー1を示す平面図である。図6は、図4のG部の拡大図である。図7は、図6のH−H断面の断面図である。
【0028】
本形態では、図4における安全カバー1の紙面手前側の面がロボット3に対向するように安全カバー1が設置される。したがって、以下の説明では、図4の紙面手前側(図5の上側)を「対向」側とし、図4の紙面奥側(図5の下側)を「反対向」側とする。なお、図4における安全カバー1の紙面奥側の面がロボット3に対向するように安全カバー1が設置されても良い。
【0029】
安全カバー1は、図4、図5に示すように、薄い平板状のカバー部材21と、カバー部材21を保持する枠部材22と、枠部材22を下側から支える2個の架台23とを備えている。また、安全カバー1は、図6、図7に示すように、カバー部材21に固定される複数の第1のボルト24(以下、「第1ボルト24」とする。)と、枠部材22に固定される複数の第2のボルト25(以下、「第2ボルト25」とする。)と、カバー部材21と枠部材22とを繋ぐため、第1ボルト24と第2ボルト25との間に架け渡された針金26とを備えている。
【0030】
カバー部材21は、半透明または透明の樹脂で形成されている。具体的には、本形態のカバー部材21は、透明なポリ塩化ビニル(塩ビ)で形成されている。また、カバー部材21は、長方形状に形成されており、その長手方向を上下方向として枠部材22に保持されている。なお、カバー部材21の厚さはたとえば、5mmである。また、カバー部材21は、ポリカーボネート等で形成されても良い。
【0031】
枠部材22は、金属製または樹脂製の角材からなる平行な2本の長辺部22aと、金属製または樹脂製の角材からなり長辺部22aよりも短い平行な2本の短辺部22bとによって構成されている。具体的には、2本の長辺部22aと2本の短辺部22bとが長方形の枠状に組み合わされることで枠部材22が形成されており、枠部材22は、長辺部22aの長手方向を上下方向として設置されている。また、下側に配置される短辺部22bが架台23に支持されている。
【0032】
枠部材22の内周面には、図7に示すように、カバー部材21の外周側が係合する係合手段としての係合溝22cが窪むように形成されている。すなわち、長辺部22aおよび短辺部22bの内側面の全域に係合溝22cが形成されている。この係合溝22cは、その断面形状が長方形となる角溝状に形成されている。
【0033】
架台23は、たとえば、アジャスタパッドあるいはL字型プレート等であり、金属または樹脂で形成されている。2本の架台23は、図4の左右方向で所定の間隔をあけた状態で枠部材22の下端に取り付けられており、床等に載置されている。この架台23は、安全カバー1が倒れるのを防止する機能を果たしている。
【0034】
第1ボルト24は、図4の紙面垂直方向でカバー部材21を貫通する貫通孔21aに挿通された状態でナット(具体的には、T溝ナット)27と螺合することで、カバー部材21に固定されている(図7参照)。本形態では、第1ボルト24の頭部24aがカバー部材21の対向側に配置され、ナット27がカバー部材21の反対向側に配置されるように、第1ボルト24がカバー部材21に固定されている。また、頭部24aとカバー部材21との間、および、ナット27とカバー部材21との間には、座金28が配置されている。頭部24aには、針金26が挿通される挿通孔24bが径方向に貫通するように形成されている。
【0035】
複数の第1ボルト24は、カバー部材21の外周に沿うように配置されている。本形態では、図4におけるカバー部材21の左右両端側に複数の貫通孔21aが形成されており、長辺部22aに係合するカバー部材21の左右両端に沿って、複数の第1ボルト24が配置されている。たとえば、図4におけるカバー部材21の左右両端のそれぞれに沿って、5個の第1ボルト24が等間隔で配置されている。
【0036】
第2ボルト25は、図4の紙面垂直方向で枠部材22を貫通する貫通孔22dに挿通された状態でナット(具体的には、T溝ナット)29と螺合することで、枠部材22に固定されている(図7参照)。本形態では、第2ボルト25の頭部25aが枠部材22の対向側に配置され、ナット29が枠部材22の反対向側に配置されるように、第2ボルト25が枠部材22に固定されている。また、頭部25aと枠部材22との間には、座金30が配置されている。
【0037】
複数の第2ボルト25は、第1ボルト24に対応するように、カバー部材21の外周に沿って配置されている。本形態では、長辺部22aの、貫通孔21aの近傍に貫通孔22dが形成されており、図4におけるカバー部材21の左右両端に沿って、複数の第2ボルト25が配置されている。たとえば、図4におけるカバー部材21の左右両端のそれぞれに沿って、5個の第2ボルト25が5個の第1ボルト24と略同じ間隔で配置されている。
【0038】
針金26は、第2ボルト25のネジ部の外周と第1ボルト24の挿通孔24bとを通過するように、第1ボルト24と第2ボルト25との間で1周分、巻かれるとともに、その両端部は、撚り合せされている。本形態では、針金26は、第1ボルト24と第2ボルト25との間で比較的緩めに巻かれている。また、針金26は、第1ボルト24の挿通孔24bに挿通され、かつ、長辺部22aと座金30とによって挟まれた状態で、第1ボルト24と第2ボルト25との間に架け渡されている。すなわち、針金26は、カバー部材21および枠部材22の対向側に配置されている。本形態の針金26は、カバー部材21と枠部材22とを繋ぐワイヤー状部材である。なお、図6、図7等では、針金26の両端部同士を撚り合せた撚合せ部分の図示を省略している。また、本形態の針金26は、焼入れ処理が施された比較的硬い針金である。
【0039】
本形態の安全カバー1は、その対向側を作業領域Rの内側に向けた状態で設置される。そのため、ロボット3に何らかのトラブルが生じて、安全カバー1に向かってハンド6(具体的には、爪部14)が作業領域Rからはみ出すと、爪部14の先端は、図5に示す矢印の方向から安全カバー1の対向側に衝突する。具体的には、爪部14の先端は、カバー部材21の対向側の面に衝突する。
【0040】
爪部14の先端がカバー部材21の対向側の面に衝突すると、ハンド6の移動速度によっては、カバー部材21の外周側の一部が枠部材22の係合溝22cから外れる。本形態では、カバー部材21に固定された第1ボルト24と枠部材22に固定された第2ボルト25との間に針金26が架け渡されているため、カバー部材21の外周側の一部が係合溝22cから外れても、カバー部材21は、針金26を介して枠部材22に保持されている。そのため、カバー部材21は、枠部材22から脱落しない。また、針金26によって、作業領域Rの外側へ向かうカバー部材21の動きが規制される。
【0041】
本形態では、第1ボルト24、第2ボルト25および針金26等によって、カバー部材21が係合溝22cから外れたときに枠部材22からカバー部材21が脱落するのを防止するための脱落防止手段35が構成されている。また、本形態の脱落防止手段35は、カバー部材21が係合溝22cから外れたときに作業領域Rの外側へ向かうカバー部材21の動きを規制する規制手段になっている。
【0042】
なお、カバー部材21の対向側の面に爪部14の先端が衝突すると、アーム7の伸縮動作の駆動源となるモータのトルクが急激に変動する。本形態では、このトルクの急激な変動が検出されると、このモータが停止する。
【0043】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、カバー部材21の外周側は、枠部材22の係合溝22cに係合しており、カバー部材21は、枠部材22に保持されている。また、本形態では、カバー部材21に固定された第1ボルト24と枠部材22に固定された第2ボルト25との間に針金26が架け渡されている。そのため、爪部14の先端がカバー部材21に衝突すると、まず、カバー部材21の一部が係合溝22cから外れるまで、係合溝22cに係合するカバー部材21によってハンド6等が持つ運動エネルギーが吸収されて、ハンド6が減速する。また、その後、吸収しきれなかった運動エネルギーが針金26によって吸収されて、ハンド6が停止する。すなわち、本形態では、カバー部材21と針金26との両者によって、ハンド6等の持つ運動エネルギーを吸収することができ、ハンド6等の持つ運動エネルギーの全てを安全カバー1で吸収することが可能になる。その結果、本形態では、安全カバー1によってハンド6を停止させることができ、作業者の安全を確保することが可能になる。
【0044】
また、本形態では、カバー部材21の外周側が係合溝22cから外れても、カバー部材21は、針金26を介して枠部材22に保持されているため、カバー部材21が作業領域Rの外側に向かって飛び出すことがない。したがって、この点でも作業者の安全を確保することが可能になる。
【0045】
本形態では、係合溝22cに係合されるカバー部材21と針金26とによって、ハンド6等が持つ運動エネルギーが2段階で吸収されるため、枠部材22へのカバー部材21の固定強度を下げることができる。また、カバー部材21は樹脂で形成されている。したがって、本形態では、爪部14がカバー部材21に衝突する際の衝撃を和らげることが可能になり、その結果、爪部14がカバー部材21に衝突しても爪部14等の損傷を防止することが可能になる。
【0046】
本形態では、たとえば、10個の第1ボルト24および第2ボルト25がカバー部材21の外周に沿うように所定の間隔で配置されている。すなわち、カバー部材21の外周に沿うように、たとえば、10個の脱落防止手段35が所定の間隔で配置されている。そのため、爪部14がカバー部材21に衝突したときに、図4の左右方向を軸方向とするカバー部材21の回動を防止することができる。したがって、本形態では、針金26の変形を用いてハンド6等が持つ運動エネルギーを確実に吸収することができる。また、図4の左右方向を軸方向とするカバー部材21の回動を防止することができるため、カバー部材21が作業者に接触するのを防止することができる。
【0047】
本形態では、カバー部材21に固定される第1ボルト24と、枠部材22に固定される第2ボルト25との間に架け渡された針金26によって、カバー部材21と枠部材22とが繋がれている。そのため、比較的簡易な構成で、カバー部材21と枠部材22とを繋ぐことができる。すなわち、比較的簡易な構成で、カバー部材21の外周側が係合溝22cから外れたときの枠部材22からのカバー部材21の脱落を防止するとともに、作業領域Rの外側へ向かうカバー部材21の動きを規制することができる。
【0048】
本形態では、第1ボルト24の頭部24aに、針金26が挿通される挿通孔24bが形成されている。そのため、第1ボルト24と第2ボルト25との間から針金26が落下しにくくなる。
【0049】
本形態では、カバー部材21は、半透明または透明となっている。そのため、作業者は、安全カバー1の外側からロボット3の状態を確認することができる。また、本形態では、カバー部材21は、塩ビ等の樹脂で形成されているため、安全カバー1のコストを低減することができる。
【0050】
(他の実施の形態)
上述した形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形実施が可能である。
【0051】
上述した形態では、第1ボルト24、第2ボルト25および針金26等によって、脱落防止手段(規制手段)35が構成されている。この他にもたとえば、図8に示すように、係合溝22cから外れたときのカバー部材21が接触する位置で枠部材22に固定される板状部材40等によって、脱落防止手段(規制手段)45が構成されても良い。具体的には、枠部材22の長辺部22aの裏面、および、少なくとも下側に配置される短辺部22bの裏面に所定の間隔で固定される板状部材40等によって、脱落防止手段(規制手段)45が構成されても良い。
【0052】
この場合には、たとえば、爪部14の衝突時に撓むカバー部材21が板状部材40の反対向側に抜けないように、枠部材22の内周側に板状部材40を突出させた状態で、板状部材40は長辺部22a等の裏面に固定される。また、この場合には、板状部材40は、ボルト41によって長辺部22a等の裏面に固定される。また、この場合には、板状部材40の変形を利用して、ハンド6等が持つ運動エネルギーを吸収することが可能になる。なお、第1ボルト24、第2ボルト25および針金26と、板状部材40との両者によって、脱落防止手段および規制手段が構成されても良い。
【0053】
上述した形態では、針金26は、第2ボルト25のネジ部の外周と挿通孔24bとを通過するように、第1ボルト24と第2ボルト25との間で1周分、巻かれている。この他にもたとえば、針金26は、第2ボルト25のネジ部の外周と挿通孔24bとを通過するように、第1ボルト24と第2ボルト25との間で2周以上巻かれても良い。
【0054】
上述した形態では、第1ボルト24と第2ボルト25との間に針金26が架け渡され、針金26によってカバー部材21と枠部材22とが繋がれている。この他にもたとえば、第1ボルト24と第2ボルト25との間にピアノ線が架け渡されて、このピアノ線によってカバー部材21と枠部材22とが繋がれても良い。また、第1ボルト24と第2ボルト25との間に針金26およびピアノ線以外のワイヤー状部材が架け渡されて、このワイヤー状部材によってカバー部材21と枠部材22とが繋がれても良い。さらに、第1ボルト24と第2ボルト25との間にチェーン等の鎖状部材が架け渡されて、この鎖状部材によってカバー部材21と枠部材22とが繋がれても良い。すなわち、伸縮性に優れ、かつ、爪部14の衝突時の衝撃に耐えることが可能な部材が第1ボルト24と第2ボルト25との間に架け渡されて、この部材によってカバー部材21と枠部材22とが繋がれても良い。
【0055】
上述した形態では、針金26は、焼入れ処理が施された比較的硬い針金であるが、針金26は、曲げが容易ななまし針金であっても良い。また、上述した形態では、針金26は、第1ボルト24の挿通孔24bに挿通されているが、針金26は、第1ボルト24の外周を通過するとともにカバー部材21の対向側と座金28とに挟まれていても良い。
【0056】
上述した形態では、カバー部材21に固定された第1ボルト24と枠部材22に固定された第2ボルト25との間に針金26が架け渡されているが、カバー部材21および枠部材22に針金26の巻回部が形成され、この巻回部の間に針金26が巻回されても良い。また、上述した形態では、カバー部材21の外周に沿って、たとえば、10個の脱落防止手段35が配置されているが、カバー部材21の外周に沿って配置される脱落防止手段35は、3個以上であれば良い。
【0057】
上述した形態では、安全カバー1は、3個の製造装置4に三方を囲まれたロボット3の残りの一方を囲むように設置されている。この他にもたとえば、2個の製造装置4と2個の安全カバー1とによって、ロボット3の四方が囲まれても良い。この場合には、2個の製造装置4と2個の安全カバー1とによって、ロボット3の作業領域Rが形成される。また、1個の製造装置4と3個の安全カバー1とによって、ロボット3の四方が囲まれても良い。この場合には、1個の製造装置4と3個の安全カバー1とによって、ロボット3の作業領域Rが形成される。さらに、4個の安全カバー1によって、ロボット3の四方が囲まれても良い。この場合には、4個の安全カバー1によって、ロボット3の作業領域Rが形成される。
【0058】
上述した形態では、カバー部材21は、半透明または透明であるが、カバー部材21は、半透明または透明でなくても良い。また、上述した形態では、基板2等を搬送する搬送用のロボット3が設置される工場で、安全カバー1が使用されているが、搬送用以外の用途のロボットが設置される工場で、安全カバー1が使用されても良い。
【0059】
なお、上述した形態では、安全カバー1の高さは、たとえば、ロボット3の高さとほぼ同じになっている。しかし、たとえば、安全カバー1がクリーンルーム内に設置される場合には、安全カバー1を作業者の腰の辺りからロボット3の上端まで設置するとともに、安全カバー1の下側に網状のフェンスを設置して、ロボット3の周囲の空気の流れを遮断しないようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態にかかる安全カバーが設置される工場のレイアウトの一例を示す平面図である。
【図2】図1に示す産業用ロボットの平面図である。
【図3】図2のE−E方向から産業用ロボットを示す図である。
【図4】図1に示す安全カバーの正面図である。
【図5】図4のF−F方向から安全カバーを示す平面図である。
【図6】図4のG部の拡大図である。
【図7】図6のH−H断面の断面図である。
【図8】本発明の他の実施の形態にかかる脱落防止手段および規制手段を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 安全カバー
3 ロボット(産業用ロボット)
6 ハンド
7 アーム
21 カバー部材
22 枠部材
22c 係合溝(係合手段)
24 第1ボルト(第1のボルト)
24a 頭部
24b 挿通孔
25 第2ボルト(第2のボルト)
26 針金(ワイヤー状部材)
35、45 脱落防止手段、規制手段
40 板状部材
R 作業領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業用ロボットの作業領域の少なくとも一部を形成する安全カバーであって、
前記作業領域からはみ出す前記産業用ロボットのハンドまたはアームが衝突する樹脂製かつ板状のカバー部材と、前記カバー部材の外周側が係合する係合手段が形成され前記カバー部材を保持する枠部材と、前記カバー部材の少なくとも一部が前記係合手段から外れたときに前記枠部材から前記カバー部材が脱落するのを防止するための脱落防止手段とを備えることを特徴とする安全カバー。
【請求項2】
前記脱落防止手段は、前記カバー部材の外周に沿うように、3箇所以上に配置されていることを特徴とする請求項1記載の安全カバー。
【請求項3】
前記脱落防止手段は、前記カバー部材と前記枠部材とを繋ぐワイヤー状部材または鎖状部材を備えることを特徴とする請求項1または2記載の安全カバー。
【請求項4】
前記脱落防止手段は、前記カバー部材に固定される第1のボルトと、前記枠部材に固定される第2のボルトとを備え、
前記ワイヤー状部材または前記鎖状部材は、前記第1のボルトと前記第2のボルトとの間に架け渡されていることを特徴とする請求項3記載の安全カバー。
【請求項5】
前記脱落防止手段は、前記ワイヤー状部材として、針金を備え、
前記第1のボルトの頭部には、前記針金が挿通される挿通孔が形成されていることを特徴とする請求項4記載の安全カバー。
【請求項6】
前記脱落防止手段は、前記係合手段から外れたときの前記カバー部材が接触する位置で前記枠部材に固定される板状部材を備えることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の安全カバー。
【請求項7】
産業用ロボットの作業領域の少なくとも一部を形成する安全カバーであって、
前記作業領域からはみ出す前記産業用ロボットのハンドまたはアームが衝突する樹脂製かつ板状のカバー部材と、前記カバー部材の外周側が係合する係合手段が形成され前記カバー部材を保持する枠部材と、前記カバー部材の少なくとも一部が前記係合手段から外れたときに前記作業領域の外側へ向かう前記カバー部材の動きを規制するための規制手段とを備えることを特徴とする安全カバー。
【請求項8】
前記カバー部材は、半透明または透明であることを特徴とする請求項1から7いずれかに記載の安全カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−131709(P2010−131709A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310393(P2008−310393)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】