説明

安全キャビネット

【課題】作業者が一人でモニター画面(コンピュータ)を操作してスムースに調合作業を行える安全キャビネットを提供することを目的とする。
【解決手段】作業空間Sは、キャビネット本体1の前面に設けられた開閉自在な透明のシャッター3と、シャッター3の後方に配置された後壁面部4との間に形成される。後壁面部4には前方に向かって作業に必要な情報を表示するモニター画面Mを設ける。キャビネット本体1の外部の下部に、モニター画面Mの表示内容を足にて操作可能なフットスイッチ2を設置する。フットスイッチ2が、フットスイッチ2の床面F上の移動量や移動方向等に基づいてモニター画面Mのカーソルを移動操作する操作手段、及び、フットスイッチ2のスイッチ部を押すとカーソルでモニター画面Mの表示内容に指示を与える指示手段を具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に陰圧状態の作業空間を有する安全キャビネットに関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤師等の作業者が行う薬剤や輸液等の調合作業は、無菌状態で行わなければならず、従来、大学病院等の医療施設内では、清浄な空気で満たされた作業空間を内部に有する安全キャビネットを備え、作業者はその作業空間内で調合作業を行っていた。そして、従来の安全キャビネットは、有毒な薬剤(特に、抗悪性腫瘍薬等の毒性薬剤)を取り扱う場合、作業者側に有毒な薬剤を含んだ空気が流出しないように、作業空間を陰圧状態にして作業者の安全性を確保していた(特許文献1参照)。
【0003】
しかし、従来、作業者が調合作業をする際に必要な情報(例えば、薬剤の種類、調合量、患者のデータ等)を管理、検証等するためにコンピュータが用いられていたが、コンピュータやその周辺機器(キーボード、モニター等)は安全キャビネットの外部に設置されており、作業者が一人で、安全キャビネットの作業空間外部でコンピュータの操作をし、内部で調合作業を行うことは、面倒で時間のかかる作業だった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−141273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする課題は、コンピュータやその周辺機器(キーボード、モニター等)は安全キャビネットの外部に設置されており、作業者が一人で、安全キャビネットの作業空間外部でコンピュータの操作をし、内部で調合作業を行うことは、面倒で時間のかかる作業だった点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明に係る安全キャビネットは、内部に陰圧状態の作業空間を有するキャビネット本体を備え、上記作業空間は、キャビネット本体の前面に設けられた開閉自在な透明のシャッターと、該シャッターの後方に配置された後壁面部との間に形成され、該後壁面部には前方に向かって作業に必要な情報を表示するモニター画面を設け、上記キャビネット本体の外部の下部に、上記モニター画面の表示内容を足にて操作可能なフットスイッチを設置し、上記モニター画面は、指で接触してその表示内容を操作するように構成され、かつ、上記フットスイッチが、該フットスイッチの床面上の移動量や移動方向等に基づいて上記モニター画面のカーソルを移動操作する操作手段、及び、上記フットスイッチのスイッチ部を押すとカーソルでモニター画面の表示内容に指示を与える指示手段を具備している。
【発明の効果】
【0007】
本発明の安全キャビネットによれば、作業者は作業姿勢をほとんど変えることなく(両手を作業空間内に入れたまま)モニター画面を見ることができ、作業者は手を使わずにモニター画面の表示内容を操作できる。このことにより、作業者が一人でモニター画面(コンピュータ)を操作してスムースに調合作業を行える。言い換えると、作業者は調合作業中であっても、作業に必要な情報を簡単かつ迅速に得ることができ、作業能率が上がる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態を示す正面図である。
【図2】側面図である。
【図3】使用状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
図1及び図2に於て、1はクリーンルーム等の床面F上に設置されたキャビネット本体であり、その内部に陰圧状態の作業空間Sを有している。キャビネット本体1の前面には、上下にスライドして開閉自在なシャッター3が取り付けられ、シャッター3は強化ガラス板等の透明な部材等から成っている。シャッター3の後方には後壁面部4が配置され、作業空間Sはシャッター3と後壁面部4との間に形成されている。
【0010】
さらに詳しくは、キャビネット本体1は、シャッター3と後壁面部4の下方に、水平状の作業台5を備え、作業台5の上方には水平状に天井部7が配設され、作業台5と天井部7と後壁面部4は、左右の側壁面部8,8にて連結されている。つまり、作業空間Sは、閉じた状態のシャッター3と、後壁面部4と、作業台5と、天井部7と、左右の側壁面部8,8とで、取り囲まれて形成され、シャッター3が開いた状態で、前方に開口部9を有する。
【0011】
後壁面部4には、前方に向かって作業に必要な情報を表示するモニター画面Mを設け、キャビネット本体1の外部の下部に、モニター画面Mの表示内容を足にて操作可能なフットスイッチ2を設置している。フットスイッチ2は、床面F上に摺動自在に載置され、フットスイッチ2とモニター画面Mは、図示省略のコンピュータに電気的に接続されている。
そして、フットスイッチ2は、フットスイッチ2の床面F上の移動量や移動方向等に基づいてモニター画面Mのカーソルを(コンピュータを介して)移動操作する操作手段や、フットスイッチ2のスイッチ部を押すとカーソルでモニター画面Mの表示内容に(コンピュータを介して)指示を与える指示手段等を具備している。
なお、モニター画面Mのカーソルを移動操作する操作手段は、例えば、一般的なマウスのように、フットスイッチ2の裏面に床面F上を転動する球体を備えて移動方向等を検知するようにしてもよく、また、フットスイッチ2の裏面に発光器と受信機を備え光学的に移動方向等を検知するようにしてもよい。
【0012】
モニター画面Mは、指で接触してその表示内容を(コンピュータを介して)操作するようになっている。具体的には、モニター画面Mの表面は、指で接触した位置を検知してモニター画面M上の位置を指定し、コンピュータに指示を与えるようになっており、その検知手段は、例えば、モニター画面Mの表面の圧力の変化を感知する感圧式の検知手段や、又は、静電気による電気信号を感知する静電式の検知手段である。
また、モニター画面Mは、指で接触した場合に薬剤等で汚れても拭き取れるように防水加工がされている。
【0013】
また、作業空間S内にバーコードリーダー6及び電子天秤30を設置し、バーコードリーダー6及び電子天秤30は、上記コンピュータに電気的に接続されている。図1に於て、バーコードリーダー6は電子天秤30の側面上部に付設されている。さらに、バーコードリーダー6で読み取った情報を(コンピュータを介して)モニター画面Mに表示するようになっており、また、バーコードリーダー6は、一次元バーコード及び又は二次元バーコードに対応してその情報の読み取りが可能となっている。そのバーコードに記憶される情報としては、例えば、薬剤の種類、調合量、患者のデータ等である。また、電子天秤30で計測した値(薬剤等の量)を(コンピュータを介して)モニター画面Mに表示するようになっている。
【0014】
また、シャッター3は、その下端縁にシャッター3の破損を防ぐ細長状の保護部材10を有し、シャッター3が閉じた状態では、保護部材10が作業台5の前端部に当接している。また、シャッター3には、図示省略のストッパ機構が備えられ、シャッター3を所望の位置で保持(固定)可能となっている。
作業台5の保護部材10との当接部位より僅かに後方には、横断面U字状の凹窪部11が左右に伸びて形成され、凹窪部11の後方の壁面には、上下方向に伸びた多数個の吸気スリット12aが等間隔に配設されている。また、後壁面部4の下端部には、上下方向に伸びた多数個の吸気スリット12bが等間隔に配設されている。
【0015】
そして、キャビネット本体1は、作業台5の下方と後壁面部4の後方を通過する通気路13を備え、通気路13の上端部には左右2個のファン14が前方に吹出口15を向けて並設されている。つまり、ファン14の作動状態に於て、吸気スリット12aで吸い込まれた空気は、作業台5の下方の通気路13を通過して後方へと流れ、さらに、吸気スリット12bから吸い込まれる空気と合流し、後壁面部4の後方の通気路13を通過して上方のファン14へと流れるようになっている。このようにして、作業空間S内を陰圧状態にしている。
【0016】
さらに、天井部7には、多数個の給気孔16が貫設され、キャビネット本体1内でかつ天井部7の上方には、2個の給気用フィルタ17,17が左右に並設されている。さらに、キャビネット本体1内でかつ給気用フィルタ17,17の上方には、2個の排気用フィルタ18,18が左右に並設されている。キャビネット本体1の上端部にはダクト20が付設され、キャビネット本体1のダクト20の付設位置には、排気孔19が設けられている。
【0017】
また、給気用フィルタ17及び排気用フィルタ18は、ファン14の吹出口15より前方に設置され、さらに、給気用フィルタ17は吹出口15より下方に配置され、排気用フィルタ18は吹出口15より上方に配置されている。そして、吹出口15より排出された空気の一部は、給気用フィルタ17と天井部7の給気孔16を順次通過して清浄空気として作業空間S内へ送り込まれ、吹出口15より排出された空気の残りは、排気用フィルタ18を通過し清浄空気としてダクト20から外部へ排気されるようになっている。
【0018】
キャビネット本体1の下端の4つの角部には、床面Fに接地した回転自在の車輪21が(合計4個)取り付けられ、キャビネット本体1の車輪21の近傍には、下方へ伸縮自在な固定具22を垂設し、固定具22は延伸して床面Fに当接可能となっている。また、キャビネット本体1は作業空間S内を照らす照明灯24を設け、作業空間S内には殺菌灯25が備えられている。23は上記コンピュータ等に電気を供給するための電気コードである。
【0019】
上述した本発明である安全キャビネットの使用方法(作用)について説明する。
まず、ファン14を作動させ作業空間S内を陰圧状態にし、作業者が手(腕)を作業空間S内に入れて作業を行える程度にシャッター3を開けて開口部9を形成する。
そして、図3に示すように、作業者が椅子等に座り、開口部9から作業空間S内へ手を入れ作業する。この時、例えば、患者のデータや調合する薬剤の量等を知りたい場合は、バーコードに記憶された患者のデータや薬剤の量等をバーコードリーダー6で読み取り、モニター画面Mに表示する。そして、作業者はモニター画面Mでその患者のデータ等を確認し、必要な薬剤の量を電子天秤30で計測する。この電子天秤30で計測した値はモニター画面Mに表示され、作業者はモニター画面Mでその計測値を確認しながら作業を行う。
また、モニター画面Mのカーソルを動かして表示内容を操作したい場合は、フットスイッチ2の上に足を載せ、足でフットスイッチ2を床面F上を移動(摺動)させたり、フットスイッチ2のスイッチ部を押す。さらに、モニター画面Mの表示内容を細かく操作したい場合等は、モニター画面Mに指で接触して操作する。
【0020】
以上のように、本発明である安全キャビネットは、内部に陰圧状態の作業空間Sを有するキャビネット本体1を備え、作業空間Sは、キャビネット本体1の前面に設けられた開閉自在な透明のシャッター3と、シャッター3の後方に配置された後壁面部4との間に形成され、後壁面部4には前方に向かって作業に必要な情報を表示するモニター画面Mを設け、キャビネット本体1の外部の下部に、モニター画面Mの表示内容を足にて操作可能なフットスイッチ2を設置したので、作業者は作業姿勢をほとんど変えることなく(両手を作業空間S内に入れたまま)モニター画面Mを見ることができ、作業者は手を使わずにモニター画面Mの表示内容を操作できる。このことにより、作業者が一人でモニター画面M(コンピュータ)を操作してスムースに調合作業を行える。言い換えると、作業者は調合作業中であっても作業に必要な情報を簡単かつ迅速に得ることができ、作業能率が上がる。
【0021】
また、モニター画面Mは、指で接触してその表示内容を操作するように構成されているので、作業者は作業姿勢をほとんど変えることなく(両手を作業空間S内に入れたまま)モニター画面Mの表示内容を操作でき、作業能率が上がる。
【0022】
また、作業空間S内に、バーコードリーダー6及び電子天秤30を設置し、バーコードリーダー6で読み取った情報をモニター画面Mに表示すると共に、電子天秤30で計測した値をモニター画面Mに表示するように構成されているので、作業者は作業姿勢をほとんど変えることなく(両手を作業空間S内に入れたまま)バーコードに記憶された情報(薬剤の種類、調合量、患者のデータ等)を得て薬剤等の量を計測することができ、作業能率が上がる。
【符号の説明】
【0023】
1 キャビネット本体
2 フットスイッチ
3 シャッター
4 後壁面部
6 バーコードリーダー
30 電子天秤
F 床面
M モニター画面
S 作業空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に陰圧状態の作業空間(S)を有するキャビネット本体(1)を備え、上記作業空間(S)は、キャビネット本体(1)の前面に設けられた開閉自在な透明のシャッター(3)と、該シャッター(3)の後方に配置された後壁面部(4)との間に形成され、該後壁面部(4)には前方に向かって作業に必要な情報を表示するモニター画面(M)を設け、上記キャビネット本体(1)の外部の下部に、上記モニター画面(M)の表示内容を足にて操作可能なフットスイッチ(2)を設置し、
上記モニター画面(M)は、指で接触してその表示内容を操作するように構成され、
かつ、上記フットスイッチ(2)が、該フットスイッチ(2)の床面(F)上の移動量や移動方向等に基づいて上記モニター画面(M)のカーソルを移動操作する操作手段、及び、上記フットスイッチ(2)のスイッチ部を押すとカーソルでモニター画面(M)の表示内容に指示を与える指示手段を具備していることを特徴とする安全キャビネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−151440(P2010−151440A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27276(P2010−27276)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【分割の表示】特願2004−314521(P2004−314521)の分割
【原出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000176604)三田理化工業株式会社 (4)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】