説明

安定なニトロキシルフリーラジカルを用いる温和条件下でのアルコールの遷移金属を含まない有酸素性の触媒酸化方法

【課題】環境的にやさしくかつ取り扱いやすい触媒系と組み合わせて“クリーンな”酸化体として酸素含有ガスを使用することによって、高い選択率、高い反応速度及び高い収率を有する、温和条件下でのアルコールの相応するアルデヒド及びケトンへの接触酸化方法。
【解決手段】アルコールは、(i)安定なニトロキシルフリーラジカル誘導体、(ii)硝酸塩源、(iii)臭化物源及び(iiii)カルボン酸を含有する触媒組成物の存在で第一アルコール又は第二アルコールを酸素含有ガスと反応させる方法によって酸化されることができ、それによりアルデヒド又はケトンが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定なニトロキシルフリーラジカルの存在で低圧で、第一アルコール及び第二アルコールの、相応するアルデヒド及びケトンへの、遷移金属を含まない有酸素性の(aerobic)酸化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールの、相応するアルデヒド、ケトン又は酸への酸化は確かに、有機合成における最も重要な官能基変換の1つであり、かつ文献に報告されている多数の方法が存在する(Sheldon, R.A., Kochi, J.K. Metal-Catalysed Oxidations of Organic Compounds; Academic Press: New York, 1981; Hudlicky, M. Oxidations in Organic Chemistry; American Chemical Society: Washington D.C. 1990)。
【0003】
しかしながら、相対的に殆どの方法が、第一アルコール又は第二アルコールの、相応するアルデヒド及びケトンへの選択酸化を記載しておらず、かつそれらの殆どが慣例上、化学量論的終端酸化体(stoichiometric terminal oxidant)、例えば酸化クロム(Holum, J.R. J. Org. Chem. 1961, 26, 4814-4816)、二クロム酸塩(Lee, D.G; Spitzer, U.A. J. Org. Chem. 1970, 35, 3589-3590)、酸化マンガン(Highet, R.J.; Wildman, W.C. J. Am. Chem. Soc. 1955, 77, 4399-4401)及び一次酸化体(primary oxidant)としてのオスミウム又はルテニウム(Murahashi, S.-I; Naota, T. J. Synth. Org. Chem. Jpn. 1988, 46, 930-942)を使用する。
【0004】
第一アルコール及び第二アルコールの酸化に重宝な手法は、Anelli及び共働者により報告されている(J. Org. Chem., 1987, 52, 2559)。それに応じて、酸化は、CHCl−pH 8.5〜9.5の水性緩衝液中で触媒としての2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)及び助触媒としてのKBrを利用して実施されている。この系における終端酸化体はNaOClである。化学量論的酸化体として次亜塩素酸ナトリウム又は任意の他の次亜ハロゲン酸塩(hypohalite)を使用する重大な欠点は、反応の間に酸化されるアルコール1mol当たりハロゲン化された塩1molが形成されることである。さらに、次亜ハロゲン酸塩の使用は極めてしばしば、望ましくないハロゲン化された副生物の形成をまねき、故にその際に酸化生成物のさらなる精製を必要とする。TEMPOベースの酸化に基づく方法の広範囲に亘るレビューはその他の所にも見出される(Synthesis, 1996, 1153-1174; Topics in Catalysis 2004, 27, 49-66; Acc. Chem. Res. 2002, 35, 774-781)。
【0005】
U.S. 5,821,374には、第一アルコールの、アルデヒドへのTEMPO触媒された酸化における酸化体としてのN−クロロ化合物、例えばN−クロロ−4−トルエンスルホンアミドナトリウム塩の使用が開示されている。この方法の重大な欠点は、大量の溶剤の使用及び酸化体として使用されるN−塩素化芳香族炭化水素の毒性である。
【0006】
近年、多くの労力は、一次酸化体としての空気又は酸素のいずれか及び触媒としての安定なニトロキシルラジカル及び助触媒としての遷移金属塩をベースとする触媒系を用いる、選択的でかつ環境的にやさしい酸化方法を開発することに費やされてきた。最も一般に使用される助触媒は、(NHCe(NO(Kim, S.S.; Jung, H.C. Synthesis 2003, 14, 2135-2137)、CuBr−2,2′−ビピリジン錯体(Gamez, P; Arends, I.W.C.E.; Reedijk, J.; Sheldon, R.A. Chem. Commun. 2003, 19, 2414-2415)、RuCl(PPh(Inokuchi, T.; Nakagawa, K.; Torii, S. Tetrahedron Letters 1995, 36, 3223-3226及びDijksman, A.; Marino-Gonzalez, A.; Payeras, A.M.; Arends, I.W.C.E.; Sheldon, R.A. J. Am. Chem. Soc. 2001、123、6826-6833)、Mn(NO−Co(NO及びMn(NO−Cu(NO(Cecchetto, A.; Fontana, F.; Minisci, F.; Recupero, F. Tetrahedron Letters 2001, 42, 6651-6653)、及びイオン性液体[bmim][PF]中のCuCl(Imtiaz, A.A; Gree, R. Organic Letters 2002, 4, 1507-1509)である。
【0007】
しかしながら、経済的かつ環境的な観点から前記の酸化方法は、1つの重大な欠点に苦しめられる。それらは、相当量の高価な及び/又は有毒な遷移金属錯体に依存し、かつそれらの一部はハロゲン化溶剤、例えばジクロロメタンの使用を必要とし、このことは、それらを工業的規模の製造に不適にする。極めて最近には、Hu他は、任意の遷移金属助触媒を含まない、TEMPOベースの触媒系を利用する、第一アルコール及び第二アルコールの有酸素性の酸化方法を開示した(Liu, R.; Liang, X.; Dong, C.; Hu, X. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 4112-4113)。この方法において著者らは活性触媒系としてTEMPO(1mol%)、亜硝酸ナトリウム(4〜8mol%)及び臭素(4mol%)の混合物を使用した。酸化は80〜100℃の温度で及び4barの空気圧で行われる。しかしながらこの方法は、活性化されたアルコールを用いて成功しているに過ぎない。ベンジルアルコールが使用される場合には、定量的な転化は1〜2hの反応時間後に達成される。活性化されていない脂肪族アルコール(例えば1−オクタノール)又は環式アルコール(例えばシクロヘキサノール)の場合に、空気圧は9barまでに上昇されることが必要であり、かつ3〜4hの反応時間は完全な転化に達するために必要であった。不利には、この新規の酸化手法は再び溶剤としてのジクロロメタンに依存し、このことは前記方法の工業的適用のための重大な障害である。さらに、助触媒としての元素状臭素は、その高い蒸気圧、毒性及び標準鋼装置中で適用される場合の猛烈な腐食のために工業的規模で取り扱うのがむしろ困難である。この方法の他の欠点は、使用される溶剤中でのかなり低い基質濃度及び臭素化副生物の観察された形成である。
【特許文献1】U.S. 5,821,374
【非特許文献1】Sheldon, R.A., Kochi, J.K. Metal-Catalysed Oxidations of Organic Compounds; Academic Press: New York, 1981
【非特許文献2】Hudlicky, M. Oxidations in Organic Chemistry; American Chemical Society: Washington D.C. 1990
【非特許文献3】Holum, J.R. J. Org. Chem. 1961, 26, 4814-4816
【非特許文献4】Lee, D.G; Spitzer, U.A. J. Org. Chem. 1970, 35, 3589-3590
【非特許文献5】Highet, R.J.; Wildman, W.C. J. Am. Chem. Soc. 1955, 77, 4399-4401
【非特許文献6】Murahashi, S.-I; Naota, T. J. Synth. Org. Chem. Jpn. 1988, 46, 930-942
【非特許文献7】J. Org. Chem., 1987, 52, 2559
【非特許文献8】Synthesis, 1996, 1153-1174
【非特許文献9】Topics in Catalysis 2004, 27, 49-66
【非特許文献10】Acc. Chem. Res. 2002, 35, 774-781
【非特許文献11】Kim, S.S.; Jung, H.C. Synthesis 2003, 14, 2135-2137
【非特許文献12】Gamez, P; Arends, I.W.C.E.; Reedijk, J.; Sheldon, R.A. Chem. Commun. 2003, 19, 2414-2415
【非特許文献13】Inokuchi, T.; Nakagawa, K.; Torii, S. Tetrahedron Letters 1995, 36, 3223-3226
【非特許文献14】Dijksman, A.; Marino-Gonzalez, A.; Payeras, A.M.; Arends, I.W.C.E.; Sheldon, R.A. J. Am. Chem. Soc. 2001、123、6826-6833
【非特許文献15】Cecchetto, A.; Fontana, F.; Minisci, F.; Recupero, F. Tetrahedron Letters 2001, 42, 6651-6653
【非特許文献16】Imtiaz, A.A; Gree, R. Organic Letters 2002, 4, 1507-1509
【非特許文献17】Liu, R.; Liang, X.; Dong, C.; Hu, X. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 4112-4113
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
故に本発明の対象は、環境的にやさしくかつ取り扱いやすい触媒系と組み合わせて“クリーンな”酸化体として酸素含有ガスを使用することによって、高い選択率、高い反応速度及び高い収率を有する、温和条件下でのアルコールの相応するアルデヒド及びケトンへの接触酸化方法を提供することである。
【0009】
本発明の別の対象は、任意の遷移金属触媒、危険な助触媒又はハロゲン化溶剤を含有しないことにより、前記の酸化手法において包含された欠点を克服する方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる対象は、簡単かつ安全に工業的規模へ移転可能である酸化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この対象及び他の対象は本発明により達成されており、その第一の実施態様は、
次のもの:
(i)安定なニトロキシルフリーラジカル誘導体、
(ii)硝酸塩源、
(iii)臭化物源、及び
(iiii)カルボン酸
を含有する触媒組成物の存在で第一アルコール又は第二アルコールを酸素含有ガスと反応させ;
それにより、アルデヒド又はケトンを得る
ことにより特徴付けられる、アルコールの酸化方法を含んでいる。
【0012】
意外なことに本発明の発明者により、任意の遷移金属触媒又は任意のハロゲン化溶剤の不在でさえ、アルコールが、触媒活性系として安定なニトロキシルフリーラジカル、硝酸塩源、臭化物源及びカルボン酸を用いることによって、低圧及び温和条件で酸素含有ガスの存在で選択的に酸化されることができることが見出された。前記方法は、簡単かつ安全にスケールアップされることができ、かつ工業的規模に移転されることができる、高度に費用対効果が大きい接触酸化方法である。
【0013】
本発明の関係において、“安定なニトロキシルフリーラジカル”は、酸素の存在で1週間の最小期間の貯蔵の間に室温で実質的に安定であるニトロキシルフリーラジカルである。好ましくは“安定なニトロキシルフリーラジカル”は、窒素原子の隣りの任意のα−炭素原子上で水素原子により置換されていないニトロキシルフリーラジカルである。さらに“安定なニトロキシルフリーラジカル”は好ましくは、酸素の存在で25℃で1週間の貯蔵後に、ニトロキシルフリーラジカルの初期含量に対してニトロキシルフリーラジカルの少なくとも90%の含量を保持する。
【0014】
本発明は、アルコールの、相応するアルデヒド又はケトンへの酸化のための遷移金属を含まない触媒方法に関する。一実施態様において、本発明の方法は、アルコールを、酸素含有ガス、一般式(I)を有する安定なニトロキシルフリーラジカル又は式(II)を有するその誘導体、硝酸塩源、臭化物源及びカルボン酸と、0.1〜10barの酸素分圧でかつ0〜100℃の温度で反応させることにより特徴付けられる。酸素分圧は全ての値及びそれらの間の下位値(subvalues)を含み、その際に特に0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9及び9.5barを含む。温度は全ての値及びそれらの間の下位値を含み、その際に特に5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90及び95℃を含む。
【0015】
【化1】

【0016】
式(I)及び(II)中で、R、R、R、R、R及びRは同時にか又は互いに独立して(C〜C10)−アルキル、(C〜C10)−アルケニル、(C〜C10)−アルコキシ、(C〜C18)−アリール、(C〜C19)−アラルキル、(C〜C18)−アリール−(C〜C)−アルキル又は(C〜C18)−ヘテロアリールであり;
及びRは、飽和又は不飽和で、置換されていないか又は1つもしくはそれ以上のR、C〜C−アミド、ハロゲン、オキシ、ヒドロキシル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ又はアリールカルボニルアミノにより置換されていてよい(C〜C)−アルキル鎖を介して、一緒に結合されていてもよい。式(II)中でY基はアニオンである。
【0017】
式(I)又は(II)の化合物は、単独で又は混合物で使用されることができる。
【0018】
本発明の方法は、第一アルコール並びに第二アルコールに適用されることができる。それらの反応性に従って、第一アルコールは、第二アルコールよりもずっと早く酸化される。第一アルコール性官能基は、同じ分子内の第二アルコール性基の存在で選択的に酸化されることができる。しかしながら、本発明の方法において使用されるアルコールは好ましくは第一アルコール性官能基を含む。
【0019】
本発明において使用されるような“アルコール”という用語は、第一ヒドロキシル基又は第二ヒドロキシル基を有する有機化合物を含む。本明細書において使用されるような“低級アルコール”という用語は、炭素原子1〜10個を有するアルコールを意味し、かつ本明細書において使用されるような“高級アルコール”という用語は、11個又はそれ以上の炭素原子を有するアルコールを意味する。例はアルコール、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、ネオペンチルアルコール、ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、ネオヘキシルアルコール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ドデシルアルコール、エイコシルアルコールを含む。不飽和アルコールの例はアリルアルコール、クロチル(crotyl)アルコール及びプロパルギルアルコールを含む。芳香族アルコールの例はベンジルアルコール、フェニルエタノール、フェニルプロパノール等を含む。アルコールは単一のアルコール又はアルコールの混合物であってよい。
【0020】
安定なニトロキシルフリーラジカルは、R、R、R、R、R及びRが同時にか又は互いに独立して(C〜C10)−アルキル、(C〜C10)−アルケニル、(C〜C10)−アルコキシ、(C〜C18)−アリール、(C〜C19)−アラルキル、(C〜C18)−アリール−(C〜C)−アルキル又は(C〜C18)−ヘテロアリールであり;R及びRが、飽和又は不飽和で、置換されていないか又は1つもしくはそれ以上のR、C〜C−アミド、ハロゲン、オキシ、ヒドロキシル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ又はアリールカルボニルアミノにより置換されていてよい(C〜C)−アルキル鎖を介して、一緒に結合されていてもよい、一般式(I)又はその誘導体(II)の化合物であってよい。式(II)中でY基はアニオンである。
【0021】
安定なニトロキシルフリーラジカル又はそれらのオキソアンモニウム誘導体の例は2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)及びその4−置換誘導体、例えば4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−MeO−TEMPO)、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−オキソ−TEMPO)、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−ヒドロキシ−TEMPO)、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(BnO−TEMPO)、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(AA−TEMPO)、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、N,N−ジメチルアミノ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル(NNDMA−TEMPO)、3,6−ジヒドロ−2,2,6,6−テトラメチル−1(2H)−ピリジニル−オキシ(DH−TEMPO)、及びビス−(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル−4−イル)セバケートを含む。安定なニトロキシルフリーラジカルは単独で又は混合物で使用されることができる。
【0022】
式(I)又は(II)のテトラメチルピペリジン−N−オキシル構造又はそれらの混合物は、より大きな高分子の置換基、オリゴマー構造又はポリマー構造でさえあってもよい。オリゴマー構造の一例は以下に示される。
【0023】
【化2】

【0024】
安定なニトロキシルフリーラジカル又はそれらのオキソアンモニウム誘導体の“不均一化された”形が使用されることもできる。このことは、ニトロキシルラジカル又はそれらのオキソアンモニウム誘導体が、例えば、固体担体上に担持されることを意味する。固体担体は、無機担体、例えば酸化アルミニウム、シリカ、酸化チタン;又は酸化ジルコニウム;又はポリマー;複合材料;又は炭素材料であってよい。
【0025】
アルコール基質に対する安定なニトロキシルフリーラジカルの比は特に制限されない。好ましくはこの比は、経済的かつ生態学的な理由のためにできるだけ低く保持される。安定なニトロキシルフリーラジカル誘導体は、前記アルコールの量に対して約0.001〜10mol%の量で存在していてよい。好ましくは、ニトロキシルラジカルの触媒量は、基質アルコールに対して0.01〜2mol%、及び最も好ましくは0.5〜1mol%である。安定なニトロキシルフリーラジカルの量は全ての値及びそれらの間の下位値を含み、その際に特に0.005、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9及び9.5mol%を含む。
【0026】
硝酸塩源は、硝酸、硝酸アンモニウム、硝酸アルキルアンモニウム又は任意のアルカリ金属硝酸塩又はアルカリ土類金属硝酸塩、好ましくは硝酸マグネシウムであってよい。硝酸マグネシウムは、可溶性で、非毒性で、安価でかつ容易に入手可能であるという利点を有する。単一の硝酸塩源又は源の混合物は使用されることができる。本発明の方法において存在する硝酸塩源は助触媒として役立つので、触媒量のみが必要である。好ましくは硝酸塩源の量は、基質アルコールに対して0.01〜10mol%、より好ましくは0.1〜2mol%及び最も好ましくは0.5〜1mol%であってよい。硝酸アニオンの量は全ての値及びそれらの間の下位値を含み、その際に特に0、0.5、0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9及び9.5mol%を含む。
【0027】
臭化物源は、任意のN−臭素化された種、例えばN−ブロモスクシンイミド、N−ブロモフタルイミド、臭化テトラブチルアンモニウム;又は無機塩、例えばNHBr又は任意の他のアルカリ金属臭化物又はアルカリ土類金属臭化物、好ましくはN−ブロモスクシンイミドであってよい。単一の臭化物源又は臭化物源の混合物は使用されることができる。N−ブロモスクシンイミドは、容易に入手可能であり、非腐食性で、非毒性でかつ取り扱いやすいという利点を有する。本発明の方法において存在する臭化物源は助触媒として役立つので、触媒量のみが必要である。好ましくは臭化物源の量は、基質アルコールに対して0.01〜10mol%、好ましくは0.1〜2mol%及び最も好ましくは0.5〜1mol%であってよい。臭化物源の量は全ての値及びそれらの間の下位値を含み、その際に特に0、0.5、0.1、0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9及び9.5mol%を含む。
【0028】
カルボン酸は酢酸、プロピオン酸又は、均質な反応混合物を形成する任意の他のカルボン酸であってよい。好ましくは有機酸は酢酸である。カルボン酸は、単独で、混合物で又は他の溶剤との組み合わせで使用されることができる。本発明の方法における反応物を懸濁させるための付加的な溶剤は、使用されることができるか又は省略されることができる。溶剤は、使用される基質アルコールの体積に対して0体積%〜約70体積%の量で存在していてよい。溶剤の量は、全ての値及びそれらの間の下位値を含み、その際に特に5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60及び65体積%を含む。
【0029】
好ましい溶剤は、必要な場合には、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル等、又はそれらの溶剤の混合物である。好ましくはカルボン酸の量は、基質アルコールに対して0.1〜200mol%及び最も好ましくは10〜50mol%である。カルボン酸の量は全ての値及びそれらの間の下位値を含み、その際に特に0.5、1、5、10、20、40、60、80、100、120、140、160及び180mol%を含む。
【0030】
空時収量を最適化するために本発明の方法は好ましくは、任意の付加的な溶剤を用いずに行われる。好ましくはカルボン酸は、添加剤として使用されるだけでなく、反応混合物を均質に保持するための溶剤として必要でありうる。しかしながら、カルボン酸の量は経済的理由のためにできるだけ低く保持される。
【0031】
酸素含有ガスとして、純酸素、酸素及び不活性ガスの任意の組成混合物(make up mixture)又はより好ましくは空気が使用されることができる。酸素分圧はアルコール基質に応じて選択されることができるが、しかし特に制限されない。しかしながら、反応速度は、酸素分圧が増大すると共に顕著に増大しない。酸素分圧は一般的に0.1〜10barの範囲内、好ましくは0.2〜5barの範囲内、最も好ましくは0.5〜1barの範囲内で維持される。
【0032】
本発明の方法が実施される反応温度は、アルコール基質の反応性に依存し、かつ一般的に0℃〜100℃、好ましくは20℃〜80℃、最も好ましくは40℃〜60℃である。反応温度は全ての値及びそれらの間の下位値を含み、その際に特に10、20、30、40、50、60、70、80及び90℃を含む。
【0033】
本発明の方法はバッチ、セミ−バッチとして又は連続法として作業されることができる。さらに、本方法は特定の反応器のタイプ又は構成に制限されない。故に、撹拌釜反応器、管形反応器、反応器カスケード、マイクロリアクター又はそれらの反応器タイプの任意の可能な組み合わせが使用されることができる。
【0034】
酸化生成物は任意の公知方法により、例えば水の添加を伴う分相及び有機相の蒸留により後処理されることができる。純度の要求に依存して、任意の他の化学的方法が使用されることもできる。
【0035】
本発明の方法は多様な方法で実施されることができる。例えば、必要とされる量の硝酸塩源(例えばMg(NO・6HO)、臭化物源(例えばN−ブロモスクシンイミド(NBS))、安定なニトロキシルフリーラジカル(例えばTEMPO又はAA−TEMPO)及びカルボン酸(例えば酢酸)は反応フラスコ中に装入され、このフラスコはついで容積測定マニホールドに接続される。触媒溶液は、固体成分が完全に溶解されるまで撹拌され、かつ酸素又は空気で2回パージされる。撹拌は30秒〜10min、好ましくは5min行われることができる。ついで混合物は目標温度に加熱され、かつフラスコは酸素又は空気のいずれかを用いて所望の値に加圧される。反応を開始するために、必要とされる量のアルコールは反応フラスコ中へ、気密シリンジを用いて隔膜アダプタを介して注入される。酸素取り込みは連続的に監視され、かつ時間に対して記録される。反応の完了後に、生成物溶液は内標準としてのデカンを用いてGC又はGC/MSにより分析される。
【0036】
アルコールはカルボン酸中の溶液の形で注入されることもできる。酸素含有ガスは、他の全ての反応成分を組み合わせた後に導入されることもできる。安定なニトロキシルフリーラジカル誘導体を除いて全ての反応成分を組み合わせ、かつ安定なニトロキシルフリーラジカル誘導体の導入により反応を開始させることも可能である。操作性の多様な様式及び方法の頑強性(robustness)は大きな利点である。
【0037】
反応に続いて、生成物は公知方法により後処理されることができる。好都合な方法はまず最初に水又は飽和塩溶液の添加により反応生成物の分相が行われ、その後に適している溶剤で水相が抽出される。抽出工程に適している溶剤は、溶剤、例えば塩化メチレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジ−t−ブチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル;又は飽和炭化水素溶剤、例えばペンタン又はヘキサンの群から選択される。所望のアルデヒド又はケトンは、組み合わされた有機相から蒸留、分留、結晶化の伝統的な方法を用いて回収されることができるか、又はアルデヒドはメタ重亜硫酸ナトリウム(Na)との反応を経てさらに精製されることができる。
【0038】
結論として、アルコールの有酸素性の酸化のための効率的でかつ環境的に優しい方法が開発されることができた。新規の手順によれば、分子状酸素又は空気のいずれかが終端酸化体として使用されることができる。触媒系は、安定なニトロキシルフリーラジカル、硝酸塩、臭化物源及びカルボン酸を含有してなる。高い反応速度及び高いアルデヒド選択率は、殆どの公知の触媒組成物が完全に抑制される範囲内のアルコールの高い初期濃度でさえ達成されることができる。本発明の方法の別の利点は、第一ヒドロキシル基が第二ヒドロキシル基の存在で選択的に酸化されることができることである。本方法は、塩素化溶剤の使用を必要としない付加的な利点を有し、かつ生成物アルデヒドは任意のハロゲン化された副生物を含まない。
【0039】
この発明を一般的に記載してきたが、さらなる理解は、特定の特殊な例への参照により得られることができ、これらの例は本明細書において説明のために提供されているに過ぎず、かつ他に記載されていない限り限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0040】
例I
例I−IVは、ヘキサナールへのヘキサノール−1の選択酸化についての本発明の触媒組成物において使用される幾つかのTEMPO誘導体の活性を示す。例I−IVを、出発反応溶液中の基質アルコールの相対的に低い負荷で例証のために実施した。酸化反応の図表による提示は図1に与えられている。
【0041】
4−MeO−TEMPO 0.0913g(0.48mmol)、Mg(NO・6HO 0.124g(0.48mmol)及びN−ブロモスクシンイミド0.0086g(0.048mmol)を氷酢酸10ml中に溶解させ、生じる溶液を75ml反応フラスコ中に装入した。フラスコを密閉し、ガス送出容積測定装置に取り付けた。触媒溶液を酸素で少なくとも3回パージし、ついで撹拌しながら46℃に加熱した。温度が目標値に達した際に、ヘキサノール−1 2ml(16mmol)を、気密シリンジを用いて計量供給した。ついでフラスコを酸素で1bar(15psi)に加圧し、撹拌速度を1200rpmに調節し、酸化の進行に続いて酸素取り込みが行われ、これを連続的に監視し、時間に対して記録した。反応が完了した後にアリコートを、内標準としてのデカンを用いてGCにより分析した。図1中の曲線1から計算されるように、記録された酸素取り込み速度は0.263mmol O/minであり、反応溶液のGC分析は、ヘキサナールに対する93.1%選択率で99.4%のアルコール転化率を示した。
【0042】
例II
例IIは、触媒組成物の成分としてのTEMPO誘導体の活性を示す−図1中の曲線2。
【0043】
TEMPO 0.0766g(0.48mmol)、Mg(NO・6HO 0.124g(0.48mmol)及びN−ブロモスクシンイミド0.013g(0.072mmol)を氷酢酸10ml中に溶解させ、生じた溶液を75ml反応フラスコ中に装入した。フラスコを密閉し、ガス送出容積測定装置に取り付けた。触媒溶液を酸素で少なくとも3回パージし、ついで撹拌しながら46℃に加熱した。温度が目標値に達した際に、ヘキサノール−1 2ml(16mmol)を、気密シリンジを用いて計量供給した。ついでフラスコを酸素で1bar(15psi)に加圧し、撹拌速度を1200rpmに調節し、酸化の進行に続いて酸素取り込みが行われ、これを連続的に監視し、かつ時間に対して記録した。記録された酸素取り込み速度は0.332mmol O/minであり、反応時間60min後のGC分析は、出発アルコールの96.0%転化率及びヘキサナールに対する96.2%選択率を示した−図1、曲線2。
【0044】
例III
例IIIは触媒組成物の成分としての4−ヒドロキシ−TEMPO誘導体の活性を示す−図1中の曲線3。
【0045】
4−ヒドロキシ−TEMPO 0.169g(0.96mmol)、Mg(NO・6HO 0.311g(1.2mmol)及びN−ブロモスクシンイミド0.0086g(0.048mmol)を氷酢酸10ml中に溶解させ、生じた溶液を75ml反応フラスコ中に装入した。フラスコを密閉し、ガス送出容積測定装置に取り付けた。触媒溶液を酸素で少なくとも3回パージし、ついで撹拌しながら46℃に加熱した。温度が目標値に達した際に、ヘキサノール−1 2ml(16mmol)を、気密シリンジを用いて計量供給した。フラスコをついで酸素で1bar(15psi)に加圧し、撹拌速度を1200rpmに調節し、酸化の進行に続いて酸素取り込みが行われ、これを連続的に監視し、時間に対して記録した。記録された酸素取り込み速度は0.467mmol O/minであり、反応時間45min後のGC分析は、出発アルコールの98.0%転化率及びヘキサナールに対する93.8%選択率を示した−図1、曲線3。
【0046】
例IV
例IVは、触媒組成物の成分としての4−アセトアミド−TEMPO(AA−TEMPO)誘導体の活性を示す−図1中の曲線4。
【0047】
AA−TEMPO 0.1394g(0.64mmol)、Mg(NO・6HO 0.311g(1.2mmol)及びN−ブロモスクシンイミド0.0086g(0.048mmol)を氷酢酸10ml中に溶解させ、生じた溶液を75ml反応フラスコ中に装入した。フラスコを密閉し、ガス送出容積測定装置に取り付けた。触媒溶液を酸素で少なくとも3回パージし、ついで撹拌しながら46℃に加熱した。温度が目標値に達した際に、ヘキサノール−1 2ml(16mmol)を、気密シリンジを用いて計量供給した。ついでフラスコを酸素で1bar(15psi)に加圧し、撹拌速度を1200rpmに調節し、酸化の進行に続いて酸素取り込みが行われ、これを連続的に監視し、時間に対して記録した。記録された酸素取り込み速度は0.768mmol O/minであり、反応時間20min後のGC分析は、出発アルコールの100.0%転化率及びヘキサナールに対する94.78%選択率を示した−図1、曲線4。
【0048】
例V−XIは、出発反応溶液中の基質アルコールの高い負荷で実施される異なるアルコールの選択酸化のための本発明の適用を示す。
【0049】
例V
AA−TEMPO 0.1045g(0.48mmol)、Mg(NO・6HO 0.124g(0.48mmol)及びN−ブロモスクシンイミド0.098g(0.55mmol)を氷酢酸4ml中に溶解させ、生じた溶液を反応フラスコ中に装入した。フラスコを密閉し、ガス送出容積測定装置に取り付けた。触媒溶液を酸素で少なくとも3回パージし、ついで撹拌しながら46℃に加熱した。温度が目標値に達した際に、必要とされる量のヘキサノール−1(64mmol)を、気密シリンジを用いて反応器中へ注入した。ついでフラスコを酸素で1bar(15psi)に加圧し、撹拌速度を1200rpmに調節した。酸素取り込み曲線から計算されるように、記録された酸素取り込み速度は0.211mmol O/minであり、280min後の反応溶液のGC分析は、ヘキサナールに対する94%選択率で98%のアルコール転化率を示した。
【0050】
例VI
例VIはヘキサノール−2の酸化を示す
AA−TEMPO 0.1045g(0.48mmol)、Mg(NO・6HO 0.124g(0.48mmol)及びN−ブロモスクシンイミド0.098g(0.55mmol)を氷酢酸4ml中に溶解させ、生じた溶液を反応フラスコ中に装入した。ヘキサノール−2の量、温度、圧力及び撹拌速度は例Vと同じであった。記録された酸素取り込み速度は0.024mmol O/minであり、反応時間600min後のGC分析は、出発アルコールの34%転化率及びヘキサノン−2に対する96%選択率を示した。
【0051】
例VII
本例はヘプタノール−1の酸化を示す
AA−TEMPO 0.1045g(0.48mmol)、Mg(NO・6HO 0.124g(0.48mmol)及びN−ブロモスクシンイミド0.098g(0.55mmol)を氷酢酸4ml中に溶解させ、生じた溶液を反応フラスコ中に装入した。ヘプタノール−1の量、温度、圧力及び撹拌速度は例Vと同じであった。記録された酸素取り込み速度は0.181mmol O/minであり、反応時間400min後のGC分析は、出発アルコールの100%転化率及びヘプタナールに対する99%選択率を示した。
【0052】
例VIII
本例はオクタノール−1の酸化を示す
AA−TEMPO 0.1045g(0.48mmol)、Mg(NO・6HO 0.124g(0.48mmol)及びN−ブロモスクシンイミド0.098g(0.55mmol)を氷酢酸4ml中に溶解させ、生じた溶液を反応フラスコ中に装入した。オクタノール−1の量、温度、圧力及び撹拌速度は例Vと同じであった。記録された酸素取り込み速度は0.168mmol O/minであり、反応時間400min後のGC分析は出発アルコールの100%転化率及びオクタナールに対する99%選択率を示した。
【0053】
例IX
本例はドデカノール−1の酸化を示す
AA−TEMPO 0.1045g(0.48mmol)、Mg(NO・6HO 0.124g(0.48mmol)及びN−ブロモスクシンイミド0.098g(0.55mmol)を氷酢酸4ml中に溶解させ、生じた溶液を反応フラスコ中に装入した。ドデカノール−1の量、温度、圧力及び撹拌速度は例Vと同じであった。記録された酸素取り込み速度は0.122mmol O/minであり、反応時間400min後のGC分析は出発アルコールの93%転化率及びドデカナールに対する89%選択率を示した。
【0054】
例X
本例はベンジルアルコールの酸化を示す
AA−TEMPO 0.1045g(0.48mmol)、Mg(NO・6HO 0.124g(0.48mmol)及びN−ブロモスクシンイミド0.098g(0.55mmol)を氷酢酸4ml中に溶解させ、生じた溶液を反応フラスコ中に装入した。ベンジルアルコールの量、温度、圧力及び撹拌速度は例Vと同じであった。記録された酸素取り込み速度は0.631mmol O/minであり、反応時間60min後のGC分析は、出発アルコールの100%転化率及びベンジルアルデヒドに対する93%選択率を示した。
【0055】
例XI
本例は1−フェニルエタノールの酸化を示す
AA−TEMPO 0.1045g(0.48mmol)、Mg(NO・6HO 0.124g(0.48mmol)及びN−ブロモスクシンイミド0.098g(0.55mmol)を氷酢酸4ml中に溶解させ、生じた溶液を反応フラスコ中に装入した。1−フェニルエタノールの量、温度、圧力及び撹拌速度は例Vと同じであった。記録された酸素取り込み速度は0.248mmol O/minであり、反応時間240min後のGC分析は、出発アルコールの89%転化率及びアセトフェノンに対する100%選択率を示した。
【0056】
次の例XII−XVIは、触媒組成物の製造、ヘキサノール−1基質の導入及び酸素への暴露の異なる様式を示す。
【0057】
例XII
本例はVに類似するが、しかし触媒組成物をアルゴン中で加熱し、次に酸素を入れた後にヘキサノール−1の注入を行った。
【0058】
AA−TEMPO 0.1045g(0.48mmol)、Mg(NO・6HO 0.124g(0.48mmol)及びN−ブロモスクシンイミド0.098g(0.55mmol)を氷酢酸4ml中に溶解させ、生じた溶液を反応フラスコ中に装入した。フラスコを密閉し、ガス送出容積測定装置に取り付けた。触媒溶液をアルゴンで少なくとも3回パージし、ついで撹拌しながら46℃に加熱した。温度が目標値に達した際に、アルゴンを酸素で置換し、平衡時間2分後にヘキサノール−1 8ml(64mmol)を、気密シリンジを用いて注入した。記録された酸素取り込み速度は0.221mmol O/minであり、200min後の反応溶液のGC分析は、ヘキサナールに対する93.7%選択率で95.6%のアルコール転化率を示した。
【0059】
例XIII
本例はVに類似するが、しかし硝酸マグネシウム、N−ブロモスクシンイミド、酢酸の一部及びヘキサノール−1をアルゴン中で加熱し、次に酢酸中のAA−TEMPO溶液を注入した後に酸素で加圧した。
【0060】
Mg(NO・6HO 0.124g(0.48mmol)及びN−ブロモスクシンイミド0.098g(0.55mmol)及びヘキサノール−1 8ml(64mmol)を氷酢酸3ml中に溶解させ、生じた溶液を反応フラスコ中に装入した。溶液をアルゴンでパージし、ついで46℃に加熱した。温度が目標値に達した際に、酢酸1ml中に溶解させたAA−TEMPO 0.1045g(0.48mmol)を反応器中へ注入し、平衡時間2分後にアルゴンを酸素で置換し、反応器を1bar(15psi)に加圧した。記録された酸素取り込み速度は0.242mmol O/minであり、200min後の反応溶液のGC分析は、ヘキサナールに対する92.6%選択率で97.5%のアルコール転化率を示した。
【0061】
例XIV
本例はVに類似するが、しかし硝酸マグネシウム、N−ブロモスクシンイミド、酢酸の一部及びヘキサノール−1をアルゴン中で加熱し、アルゴンを酸素で置換した後にAA−TEMPO溶液の注入を行った。
【0062】
Mg(NO・6HO 0.124g(0.48mmol)及びN−ブロモスクシンイミド0.098g(0.55mmol)及びヘキサノール−1 8ml(64mmol)を氷酢酸3ml中に溶解させ、生じた溶液を反応フラスコ中に装入した。溶液をアルゴンでパージし、ついで46℃に加熱した。温度が目標値に達した際に、アルゴンを酸素で置換した後に酢酸1ml中に溶解させたAA−TEMPO 0.1045gの添加を行った。記録された酸素取り込み速度は0.256mmol O/minであり、200min後の反応溶液のGC分析は、ヘキサナールに対する92.6%選択率での96.4%のアルコール転化率を示した。
【0063】
次の例XVII−XVIIは例Vと同じであるが、しかし酸素雰囲気をN−O組成ガスで5.17bar(75psi)で置換した。
【0064】
例XV
この例においてN/O比は30:45とした
AA−TEMPO 0.1045g(0.48mmol)、Mg(NO・6HO 0.124g(0.48mol)及びN−ブロモスクシンイミド0.098g(0.55mmol)を氷酢酸4ml中に溶解させ、生じた溶液を反応フラスコ中に装入した。フラスコを密閉し、ガス送出容積測定装置に取り付けた。触媒溶液を酸素で少なくとも3回パージし、ついで撹拌しながら48℃に加熱した。温度が目標値に達した際に、必要とされる量のヘキサノール−1(64mmol)を、気密シリンジを用いて反応器中へ注入した。ついでフラスコを、最初にNで2.07bar(30psi)に加圧し、ついで容積測定マニホールドに接続して5.17bar(75psi)の酸素送出圧に調節した。酸素取り込み曲線から計算されるように、記録された酸素取り込み速度は0.260mmol O/minであり、140min後の反応溶液のGC分析は、ヘキサナールに対する95.2%選択率で95.3%のアルコール転化率を示した。この例の酸素取り込み曲線は、図2、プロット1に示されている。
【0065】
例XVI
この例においてN:O比は60:15とした
AA−TEMPO 0.1045g(0.48mmol)、Mg(NO・6HO 0.124g(0.48mmol)及びN−ブロモスクシンイミド0.098g(0.55mmol)を氷酢酸4ml中に溶解させ、生じた溶液を反応フラスコ中に装入した。フラスコを密閉し、ガス送出容積測定装置に取り付けた。触媒溶液を酸素で少なくとも3回パージし、ついで撹拌しながら48℃に加熱した。温度が目標値に達した際に、必要とされる量のヘキサノール−1(64mmol)を、気密シリンジを用いて反応器中へ注入した。ついでフラスコを最初にNで4.14bar(60psi)に加圧し、ついで容積測定マニホールドに接続して5.17bar(75psi)の酸素送出圧に調節した。酸素取り込み曲線から計算されるように、記録された酸素取り込み速度は0.170mmol O/minであり、240min後の反応溶液のGC分析は、ヘキサナールに対する93.7%選択率で96.7%のアルコール転化率を示した。この例の酸素取り込み曲線は図2、プロット2に示されている。
【0066】
次の例XVII−XVIIIは例Vと同じであるが、しかし反応スケールはN−O組成ガスで13.79bar(200psi)及び6.9bar(100psi)で800mmolであった。酸化をParrオートクレーブ中で実施した。
【0067】
例XVII
AA−TEMPO 1.31g(6.0mmol)、Mg(NO・6HO 1.55g(6.0mmol)及びN−ブロモスクシンイミド1.23g(6.9mmol)を氷酢酸50ml中に溶解させ、生じた溶液を高圧ステンレス鋼反応フラスコ中に装入した。フラスコを密閉し、高圧ガス送出容積測定装置に取り付けた。触媒溶液を酸素で少なくとも3回パージし、ついで撹拌しながら46℃に加熱した。温度が目標値に達した際に、ヘキサノール−1 100ml(800mmol)を、気密シリンジを用いて反応器中へ注入した。ついでフラスコを最初に窒素で11.03bar(160psi)に加圧し、ついで容積測定マニホールドに接続して13.79bar(200psi)の酸素送出圧に調節した。酸素取り込み曲線から計算されるように、記録された酸素取り込み速度は2.72mmol O/minであり、200min後の反応溶液のGC分析は、ヘキサナールに対する93.1%選択率で98.0%のアルコール転化率を示した。
【0068】
例XVIII
AA−TEMPO 1.31g(6.0mmol)、Mg(NO・6HO 1.55g(6.0mmol)及びN−ブロモスクシンイミド1.23g(6.9mmol)を氷酢酸50ml中に溶解させ、生じた溶液を高圧ステンレス鋼反応フラスコ中に装入した。フラスコを密閉し、高圧ガス送出容積測定装置に取り付けた。触媒溶液を酸素で少なくとも3回パージし、ついで撹拌しながら46℃に加熱した。温度が目標値に達した際に、ヘキサノール−1 100ml(800mmol)を、気密シリンジを用いて反応器中へ注入した。ついでフラスコを最初に窒素で5.52bar(80psi)に加圧し、ついで容積測定マニホールドに接続して6.9bar(100psi)の酸素送出圧に調節した。酸素取り込み曲線から計算されるように、記録された酸素取り込み速度は2.05mmol O/minであり、300min後の反応溶液のGC分析は、ヘキサナールに対する94.4%選択率で94.9%のアルコール転化率を示した。
【0069】
前記の全ての特許及び刊行物は参考により本明細書に取り入れられる。本発明に関して多数の修正及び変更は上記の教示を鑑みて可能である。故に、別紙特許請求の範囲内で、本発明は本明細書に明確に記載されていなくても実施可能であることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】ヘキサノール−1の液相酸化における酸素取り込みの反応時間依存を示すグラフ(例I−IV)。
【図2】ヘキサノール−1の液相酸化における酸素取り込みの反応時間依存を示すグラフ(例XV−XVI)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールの酸化方法において、次のもの:
(i)安定なニトロキシルフリーラジカル誘導体、
(ii)硝酸塩源、
(iii)臭化物源、及び
(iiii)カルボン酸
を含有する触媒組成物の存在で第一アルコール又は第二アルコールを酸素含有ガスと反応させ;
それによりアルデヒド又はケトンを得る
ことを特徴とする、アルコールの酸化方法。
【請求項2】
前記の安定なニトロキシルフリーラジカル誘導体が、式(I)又は(II)
【化1】

[式中、
、R、R、R、R、及びRは同時にか又は互いに独立して(C〜C10)−アルキル、(C〜C10)−アルケニル、(C〜C10)−アルコキシ、(C〜C18)−アリール、(C〜C19)−アラルキル、(C〜C18)−アリール−(C〜C)−アルキル又は(C〜C18)−ヘテロアリールであり;
及びRは、飽和又は不飽和で、置換されていないか又は1つもしくはそれ以上のR、C〜C−アミド、ハロゲン、オキシ、ヒドロキシル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ又はアリールカルボニルアミノにより置換されていてよい(C〜C)−アルキル鎖を介して、一緒に結合されていてもよく;かつ
はアニオンである]により表される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、ネオペンチルアルコール、ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、ネオヘキシルアルコール、ヘプタノール、オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ドデシルアルコール、エイコシルアルコール、不飽和アルコール、芳香族アルコール及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記の安定なニトロキシルフリーラジカルが、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、N,N−ジメチルアミノ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、3,6−ジヒドロ−2,2,6,6−テトラメチル−1(2H)−ピリジニル−オキシル、ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−1−オキシル−4−イル)セバケート及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
安定なニトロキシルフリーラジカル誘導体が、前記アルコールの量に対して約0.001〜10mol%の量で存在している、請求項1記載の方法。
【請求項6】
安定なニトロキシルフリーラジカル誘導体が、前記アルコールの量に対して約0.01〜2mol%の量で存在している、請求項5記載の方法。
【請求項7】
硝酸塩源が、アルカリ金属硝酸塩、アルカリ土類金属硝酸塩、硝酸アンモニウム、硝酸アルキルアンモニウム、硝酸及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
硝酸塩源が硝酸マグネシウムである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
硝酸塩源が、前記アルコールの量に対して約0.01〜10mol%の量で存在している、請求項1記載の方法。
【請求項10】
硝酸塩源が、前記アルコールの量に対して約0.1〜2mol%の量で存在している、請求項1記載の方法。
【請求項11】
臭化物源が、N−ブロモスクシンイミド、N−ブロモフタルイミド、臭化テトラブチルアンモニウム、NHBr、アルカリ金属臭化物、アルカリ土類金属臭化物及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
臭化物源がN−ブロモスクシンイミドである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
臭化物源が、前記アルコールの量に対して約0.01〜10mol%の量で存在している、請求項1記載の方法。
【請求項14】
臭化物源が、前記アルコールの量に対して約0.1〜2mol%の量で存在している、請求項1記載の方法。
【請求項15】
酸素含有ガスが、i)純酸素、ii)空気、iii)酸素及び不活性ガスの混合物、及びiv)それらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項16】
カルボン酸が、酢酸、プロピオン酸、均質な反応混合物を形成するカルボン酸及びそれらの混合物である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
カルボン酸が酢酸である、請求項1記載の方法。
【請求項18】
アルコール溶液中の少なくとも1つの溶剤の存在で進行し、その際に前記溶剤は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記溶剤が、前記アルコールの体積に対して0体積%〜約70体積%の量で存在している、請求項18記載の方法。
【請求項20】
酸化を溶剤の不在で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項21】
0〜100℃の反応温度で進行する、請求項1記載の方法。
【請求項22】
20〜80℃の反応温度で進行する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
0.1〜10barの酸素分圧で進行する、請求項1記載の方法。
【請求項24】
0.2〜5barの酸素分圧で進行する、請求項1記載の方法。
【請求項25】
さらに、
蒸留、分留、結晶化、メタ重亜硫酸ナトリウムとの反応及びそれらの組み合わせからなる群から選択される精製方法の使用による前記アルデヒド又はケトンの精製を含んでいる、請求項1記載の方法。
【請求項26】
遷移金属の不在で進行する、請求項1記載の方法。
【請求項27】
前記の安定なニトロキシルフリーラジカル誘導体が、式(I)又は(II)
【化2】

[式中、
、R、R、R、R、及びRは同時にか又は互いに独立して(C〜C10)−アルキル、(C〜C10)−アルケニル、(C〜C10)−アルコキシ、(C〜C18)−アリール、(C〜C19)−アラルキル、(C〜C18)−アリール−(C〜C)−アルキル又は(C〜C18)−ヘテロアリールであり;
及びRは、飽和又は不飽和で、置換されていないか又は1つもしくはそれ以上のR、C〜C−アミド、ハロゲン、オキシ、ヒドロキシル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ又はアリールカルボニルアミノにより置換されていてよい(C〜C)−アルキル鎖を介して、一緒に結合されていてもよく;
はアニオンである]により表され;かつ
その際に少なくとも1つの式(I)又は(II)の前記ニトロキシルラジカル誘導体又はそれらの混合物が高分子の置換基、オリゴマー構造又はポリマー構造である、請求項1記載の方法。
【請求項28】
前記の安定なニトロキシルフリーラジカル誘導体が、式(I)又は(II)
【化3】

[式中、
、R、R、R、R、及びRは同時にか又は互いに独立して(C〜C10)−アルキル、(C〜C10)−アルケニル、(C〜C10)−アルコキシ、(C〜C18)−アリール、(C〜C19)−アラルキル、(C〜C18)−アリール−(C〜C)−アルキル又は(C〜C18)−ヘテロアリールであり;
及びRは、飽和又は不飽和で、置換されていないか又は1つもしくはそれ以上のR、C〜C−アミド、ハロゲン、オキシ、ヒドロキシ、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルキルカルボニルアミノ又はアリールカルボニルアミノにより置換されていてよい(C〜C)−アルキル鎖を介して、一緒に結合されていてもよく;
はアニオンである]により表され;かつ
その際に、少なくとも1つの式(I)又は(II)の前記ニトロキシルラジカル誘導体又はそれらの混合物が固体担体上に存在している、請求項1記載の方法。
【請求項29】
前記アルコールが、アリルアルコール、クロチルアルコール、プロパルギルアルコール及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項30】
前記アルコールが、ベンジルアルコール、フェニルエタノール、フェニルプロパノール及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−176527(P2006−176527A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373293(P2005−373293)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(501073862)デグサ アクチエンゲゼルシャフト (837)
【氏名又は名称原語表記】Degussa AG
【住所又は居所原語表記】Bennigsenplatz 1, D−40474 Duesseldorf, Germany
【Fターム(参考)】