説明

安定な含フッ素ポリマー分散液を製造するための水系方法

含フッ素ポリマー乳化液を製造するために非イオン性非フッ素化乳化剤を使用する、含フッ素ポリマー分散液を製造するための新規な水系重合方法を開示する。本発明において使用される乳化剤は、反復単位が3〜100個のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及び/又はポリテトラメチレングリコールのセグメントを含むものである。この方法及び製造された含フッ素ポリマーは、フッ素化界面活性剤を含まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非フッ素化非イオン性乳化剤を用いて含フッ素ポリマー分散液を製造する方法に関する。この乳化剤は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及び/又はポリテトラメチレングリコールのセグメントを含む。
【背景技術】
【0002】
通常、含フッ素ポリマーは、重合熱の制御に適した放熱体を提供するとともに、有機溶媒中で実施される重合と比較して高収率かつ高分子量を得ることができる水系分散法で製造される。安定な分散液又は乳化液を得るためには、好適な界面活性剤や乳化剤を使用しなければならない。通常は、安定な粒子及び高分子量の含フッ素ポリマーを生成させることができるという理由から、フッ素化界面活性剤が使用されている。しかしながら、含フッ素ポリマーの乳化重合に典型的に用いられるペルフルオロクタン酸のアンモニウム塩やペルフルオロアルキルスルホン酸の塩等のフッ素化界面活性剤は高価である。これらにはまた、生体蓄積性に関する環境問題も存在する。
【0003】
したがって、得られる含フッ素ポリマーの性質に関し妥協することなく、フッ素化界面活性剤の非存在下に含フッ素ポリマーの水系分散重合を実施することが望ましい。ラテックスの貯蔵安定性だけでなく成膜の品質も改善されるように粒度の小さい乳化液を生成させることも望ましいであろう。さらに、抽出可能なイオン及び抽出可能な低分子量ポリマーがより少ない一方で、添加されたフッ素化界面活性剤の存在下に製造された類似の含フッ素ポリマーと比較して同等の性質、さらには改善された性質を有する含フッ素ポリマーを通常提供する分散液及び/又は含フッ素ポリマー樹脂を生成することが望ましいであろう。
【0004】
水系分散重合は、含フッ素ポリマーの製造に伴う熱及び粘度の問題を制御するための手段として用いられる。水系分散液は、水相全体に分散した不連続な含フッ素ポリマー相からなる。水系分散重合の例としては、乳化及び懸濁重合が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0005】
米国特許第4,569,978号明細書においては、フッ素化界面活性剤、フリーラジカル開始剤、及び連鎖移動剤としてのトリクロロフルオロメタンを用いた、温和な圧力及び温度下におけるフッ化ビニリデン(VF2)の乳化重合が教示されており、生成する(VF2)ベースのポリマーは、高温で空洞を生じる傾向が低減されているとともに高温下における変色に対する耐性が向上している。この方法は、米国特許第6,794,264号明細書において改良されており、ここでは特に、オゾン破壊性薬剤(ozone depleting agent)(トリクロロフルオロメタン)を環境に優しい化学物質であるプロパンに置き換えている。いずれの方法においても、安定な乳化液の生成にはフッ素化界面活性剤が必要であったことに注目されたい。例えば、含フッ素ポリマーの乳化重合を安定化させるためにペルフルオロカルボン酸塩が使用されており、その最も一般的な例は、ペルフルオロクタン酸アンモニウム又はペルオルオロノナン酸アンモニウムである。フッ素化の度合いを高くすることは、成長ポリマー鎖と界面活性剤との間の連鎖移動反応を防ぐのに必要であると考えられているが、今度はこのことが、分子量低下及び/又は重合阻害を招く場合がある。
【0006】
米国特許第6,512,063号明細書の背景の項に開示されているように、このような重合に用いるためのフッ素化界面活性剤に替わる好適な乳化剤を探し出すために多くの試みがなされてきており、当該明細書においては、フッ素系ではないがイオン性である乳化剤として炭化水素スルホン酸ナトリウム塩が用いられた。イオン性乳化剤は抽出可能なイオンの量が高くなるため、高純度の用途には望ましくない。さらに、アルキルスルホン酸塩は、含フッ素ポリマーの乳化重合においては事実上連鎖移動剤として作用し、そのため、この種の重合を阻害することなく粒度の細かいラテックスを生成させるのに十分な量を使用することができない。
【0007】
国際公開第02/088207号パンフレットには、TFE及び/又はVDFコポリマー等の含フッ素ポリマーを製造するための、乳化剤を使用しない水系乳化重合法が記載されている。乳化剤を用いない乳化重合においては、まず第1に、過硫酸塩や過マンガン酸塩等の無機イオン性開始剤のみが作用し得る一方で、有機過酸化物開始剤は作用しないであろう。第2に、乳化剤を含まない含フッ素ポリマー乳化液の粒度は高くなることとなり、その結果、ラテックスの貯蔵寿命が非常に限られることとなる。第3に、乳化剤を含まないラテックスの固形分は、固形物が少ないものから中程度のものに限られるが、実際は、様々な商業的用途に高固形分ラテックスが必要とされている。
【0008】
米国特許出願公開第2006/0135716号明細書には、ペルフルオロポリエーテルを乳化方法を用いて共重合させることにより得られる、Tgが−10℃未満の含フッ素エラストマーが記載されている。ここに列挙された界面活性剤のアルキル基は、従来の含フッ素ポリマー乳化液中において安定なラテックスを生成させるのに十分な量で用いた場合は高い連鎖移動活性を示すため、得られるポリマーの分子量がかなり低減されることになる。したがって、この参考文献に記載されている含フッ素エラストマーの性質は、本発明が意図する含フッ素ポリマーとは著しく異なる。
【0009】
米国特許第6,794,550号明細書には、フッ素化乳化剤の存在下に含フッ素ポリマー分散液を合成した方法が記載されている。分散液に後から非イオン性乳化剤が添加され、次いで、低pHにおいて水蒸気蒸発(steam−volatilization)を行うことによってフッ素化界面活性剤の一部が除去されている。ここに開示された方法は、フッ素化界面活性剤を完全に除去することは決してできないであろう。したがって、得られる含フッ素ポリマー分散液はフッ素化界面活性剤を全く含まないわけではなく、一部のフッ素化界面活性剤は最終分散液中に残存するであろう。さらに、上記分散液の貯蔵安定性は、分散液を低pHで蒸発点(steaming point)まで加熱するため、完全に失われるのではないとしても相当低下するであろう。さらに、この方法においてフッ素系界面活性剤を使用することは、たとえ後者が除去された場合でもフッ素系界面活性剤を含む廃棄水蒸気を生じさせ、それに伴う環境問題が発生する。
【0010】
廃棄水蒸気流からフッ素化界面活性剤を除去する方法が国際公開第2005/082785号パンフレットに開示されている。この方法は、(i)非フッ素化界面活性剤を廃水に添加することと、(ii)この廃水を吸着粒子と接触させることによりフッ素化界面活性剤の一部を粒子上に吸着することと、(iii)廃水と吸着粒子とを分離することとを含むものである。発明者らは廃水に替えて含フッ素ポリマー分散液を使用することを意図していないが、ある程度の困難を伴いながら実施することは可能である。しかしながら、得られる含フッ素ポリマー分散液はフッ素化界面活性剤を全く含まないわけでなない。工程の最初の段階で使用されたフッ素化界面活性剤の一部は最終分散液中に残存するであろう。
【0011】
本明細書において用いられる「フッ素化界面活性剤(fluorinated surfactant)」及び「フッ素系界面活性剤(fluoro−surfactant)は、界面活性剤の主鎖にフッ素原子が含まれることを意味し、一方、本発明における「非フッ素化界面活性剤」は、主鎖にフッ素がないことを意味するが、末端基にはフッ素原子が含まれていてもよい。
【0012】
驚くべきことに、フッ素化界面活性剤を一切使用することなく、様々な異なる末端基及び官能性を有する、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及び/又はポリテトラメチレングリコールのセグメントを含む非フッ素化非イオン性乳化剤のみを使用する方法によって、安定な含フッ素ポリマー分散液を製造することが可能であることが見出された。こうして製造された含フッ素ポリマー分散液は、ラテックスの安定性及び貯蔵寿命が良好であり、凝塊物を含まず粘着性がない。このような分散液は、フッ素化界面活性剤も部分フッ素化界面活性剤も一切含まない。換言すれば、本発明においては、合成、製造及び/又は後段の安定化全体を通して、フッ素化界面活性剤を一切使用しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,569,978号明細書
【特許文献2】米国特許第6,794,264号明細書
【特許文献3】米国特許第6,512,063号明細書
【特許文献4】国際公開第02/088207号パンフレット
【特許文献5】米国特許出願公開第2006/0135716号明細書
【特許文献6】米国特許第6,794,550号明細書
【特許文献7】国際公開第2005/082785号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、
a)含フッ素モノマー単位を少なくとも50モル%含む含フッ素ポリマーと、
b)反復単位が2〜100個のポリエチレングリコールセグメント、ポリプロピレングリコールセグメント及び/又はポリテトラメチレングリコール(PTMG)セグメントを有する1種又はそれ以上の乳化剤を、前記含フッ素ポリマーの固体重量を基準として100ppm〜2%と
を含む、フッ素系界面活性剤を含まない安定な含フッ素ポリマー水系分散液であって、前記含フッ素ポリマーが、粒度が50〜500nmの粒子の形態にあり、前記含フッ素ポリマー分散液の固形分が15〜70重量%である、分散液に関する。
【0015】
本発明はまた、少なくとも1種の含フッ素モノマーを、反復単位が2〜200個のポリエチレングリコールポリプロピレングリコールセグメント及び/又はポリテトラメチレングリコールセグメントを含む非フッ素化非イオン性乳化剤からなる少なくとも1種の乳化剤を含有する水系媒体中で重合させることによって、安定な含フッ素ポリマー水系分散液を製造する方法であって、フッ素系界面活性剤を一切使用しない方法にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明により用いられる「含フッ素モノマー」という用語は、ラジカル重合反応を起こすことができるフッ素化オレフィン性不飽和モノマーを意味する。本発明に従い使用するのに好適な例示的な含フッ素モノマーとしては、これらに限定されるものではないが、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)並びにこれらのコポリマーが挙げられる。「含フッ素ポリマー」という用語は、含フッ素モノマー単位を少なくとも50モル%含むポリマー及びコポリマー(2種以上の異なるモノマーを有する、例えばターポリマー等のポリマーを含む)を指す。
【0017】
本明細書において用いられる「フッ化ビニリデンポリマー」という用語の意味には、通常高分子量である単独ポリマー及びコポリマーの両方が含まれる。このようなコポリマーとしては、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、フッ化ビニル、ペンタフルオロプロペン、ペルフルオロメチルビニルエーテル、ペルフルオロプロピルビニルエーテル及びフッ化ビニリデンと容易に共重合するであろう他の任意のモノマーからなる群から選択される少なくとも1種のコモノマーと共重合されたフッ化ビニリデンを少なくとも50モル%含むものが挙げられる。特に好ましいものは、英国特許第827,308号明細書に開示されているような、フッ化ビニリデンを少なくとも約70〜99モル%までと、テトラフルオロエチレンをそれに対応して1〜30%とから構成されるコポリマー;及びフッ化ビニリデンを約70〜99%と、ヘキサフルオロプロペンを1〜30%とから構成されるコポリマー(例えば、米国特許第3,178,399号明細書参照);及びフッ化ビニリデンを約70〜99モル%と、トリフルオロエチレンを1〜30モル%とから構成されるコポリマーである。米国特許第2,968,649号明細書に記載されているもののような、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、及びテトラフルオロエチレンのターポリマー並びにフッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレンのターポリマーも、本明細書において具体化される方法によって調製することができるフッ化ビニリデンコポリマーに分類される代表なものである。
【0018】
従来技術の項で考察したように、VDFベースのコポリマーの分野は、フッ素系界面活性剤の存在下に異なる機械的性質を有するコポリマー樹脂を製造する方法に関する教示が豊富である。したがって、熱可塑性物質、エラストマー改質熱可塑性物質、又はエラストマー樹脂に分類されるVDFベースのポリマーをフッ素化界面活性剤を一切使用することなくどのようにして製造するかという教示の文脈から本発明の背景を理解することが重要である。
【0019】
本発明に使用するのに好適な乳化剤は、反復単位が2〜200、好ましくは3〜100、より好ましくは5〜50個のポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、又はこれらの組合せのセグメントを含む非フッ素化非イオン性乳化剤である。本発明に用いられるグリコールベースの乳化剤としては、これらに限定されるものではないが、ポリエチレングリコールアクリレート(PEGA)、ポリエチレングリコールメタクリレート(PEG−MA)、ジメチルポリエチレングリコール(DMPEG)、ポリエチレングリコールブチルエーテル(PEGBE)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコールフェノールオキシド(Triton X−100)、ポリプロピレングリコールアクリレート(PPGA)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリプロピレングリコールアクリレート(PPGA)、ポリプロピレングリコールメタクリレート(PPG−MA)、及びポリテトラメチレングリコール(PTMG)が挙げられる。
【0020】
乳化剤は、各末端に、ヒドロキシル、カルボキシレート、ベンゾエート、スルホン酸、ホスホン酸、アクリレート、メタクリレート、エーテル、炭化水素、フェノール、官能化フェノール、エステル、脂肪酸エステル等の同一又は異なる末端基を含んでいてもよい。末端基は、F、Cl、Br、I等のハロゲン原子を含んでいてもよく、さらにアミン、アミド、環式炭化水素等の他の基又は官能基も含んでいてもよい。例えば、Mnが約375のポリエチレングリコールアクリレート、Mnが約570のポリエチレングリコール、Mnが約526のポリエチレングリコールメタクリレート、Mnが約250のジメチルポリエチレングリコール、Mnが約206のポリエチレングリコールブチルエーテル、Mnが約300のポリエチレングリコール、Mnが約475のポリプロピレングリコールアクリレート、Mnが約400のポリプロピレングリコール、Mnが約375のポリプロピレングリコールメタクリレート(PPG−MA)、及びMnが約250のポリテトラメチレングリコール、及びフェノールオキシド末端基を有するポリエチレングリコールであり、本発明においては、安定な含フッ素ポリマー分散液を生成させるために用いることができる他の多くの例がある。
【0021】
本発明の乳化剤の化学構造は、PEG、PPG、及び/又はポリテトラメチレングリコール(PTMG)が主骨格にならないようにしながらも、水溶性、連鎖移動性、保護作用等の不可欠な性質が変化しないように、部分的に変えてもよい。
【0022】
乳化剤は、分散液中で形成される含フッ素ポリマーの固体ポリマー全体を基準として、100ppm〜2%、100ppm〜1%、及び100ppm〜1/2%の量で使用される。
【0023】
本重合法において、本発明の乳化剤は、重合前に予め全部を添加してもよいし、重合中に連続的に供給してもよいし、重合前に一部を供給した後、重合中に供給してもよいし、重合が開始してしばらく進行した後に添加してもよい。
【0024】
本発明の分散液は、固形分量が15〜70重量%、好ましくは20〜65重量%である。分散液中の含フッ素ポリマー粒子の粒度は、50〜500nm、好ましくは100〜350nmの範囲内にある。
【0025】
ここで、本発明を実施する方法を、その特定の実施形態、すなわち、主要な乳化剤として非フッ素化非イオン性乳化剤を用いた水系乳化重合によって調製されたポリフッ化ビニリデンベースのポリマーに関し、一般的に説明することとする。フッ化ビニリデンをベースとするポリマーの重合に関し本発明の方法を一般的に例示するが、当業者であれば、類似の重合法を、含フッ素モノマー、より具体的には、VDF、TFE、及び/又はCTFEと、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロビニルエーテル、プロパン、酢酸ビニル等の共反応性を有する含フッ素又は非含フッ素モノマーとの単独ポリマー及びコポリマーの調製に一般に適用できることを認識するであろう。
【0026】
所定量の水、非フッ素化界面活性剤、及び場合により連鎖移動剤を反応器に装入する。脱気手順を実施した後、反応器温度を所望の重合温度に昇温し、所定量のフッ化ビニリデンのみ又はモノマーの混合物(フッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロピレン等)を反応器に供給する。反応温度は使用する開始剤の特性に応じて変化させてもよいが、典型的には約30℃〜140℃、好ましくは約50℃〜130℃である。一旦反応器の圧力が所望の高さに到達したら、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムのいずれかから作製した開始剤溶液又はプロピルペルオキシジカーボネートや過酸化ジブチル等の1種もしくはそれ以上の有機過酸化物の水中乳化液を装入することにより重合反応を開始させる。重合圧力は変化させてもよいが、典型的には約20〜50気圧の範囲内であろう。反応開始に続いて、フッ化ビニリデン又はビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン混合物をさらなる開始剤と一緒に、所望の圧力が維持されるように連続供給する。反応器内のポリマーが所望の量に達したらモノマーの供給を停止することとするが、残留モノマーを消費するために開始剤の供給は継続する。コポリマーの場合は、組成がずれることを回避するために、反応器の圧力が所与の高さまで降下したら、フッ化ビニリデン濃度を上げるためにフッ化ビニリデンを注入する。反応器内のヘキサフルオロプロピレン濃度に応じて、この手順を1回を超えて反復てもよい。反応器の圧力が十分に低い約300psigとなったら開始剤の装入を停止し、遅延時間(delay time)の後、反応器を冷却する。未反応のモノマーをベントし、反応器からラテックスを回収する。次いで、酸凝固、凍結融解、剪断凝集等の標準的な方法によりラテックスからポリマーを単離してもよい。
【0027】
パラフィン防汚剤は任意の添加剤であり、この目的には任意の長鎖飽和炭化水素ワックス又は油を使用してもよい。反応器のパラフィン装入量は、典型的には、使用されるモノマーの総重量の0.01重量%〜0.3重量%である。
【0028】
連鎖移動剤は、反応開始時に一度に添加してもよいし、分割して又は反応の間中連続的に添加してもよい。連鎖移動剤の添加量及びその添加方式は所望の分子量特性に依存するが、通常は、使用されるモノマーの総重量を基準として、約0.5%〜約5%、好ましくは、約0.5%〜約2%の量で使用される。
【0029】
フッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロピレンの共重合又は反応速度の異なる任意の2種類の共反応性含フッ素モノマーの共重合を実施する場合、最初に装入するモノマーの比率及び重合中に増加させるモノマーの供給比率は、最終コポリマー生成物の組成のずれを回避するために、見かけの反応性比に従い調節してもよい。
【0030】
反応は、無機過酸化物、酸化及び還元剤を組み合わせた「レドックス」、有機過酸化物等の、含フッ素モノマーの重合用として周知の任意の好適な開始剤を添加することによって開始及び維持してもよい。典型的な無機過酸化物の例は、65℃〜105℃の温度範囲で有用な活性を示す過硫酸のアンモニウム又はアルカリ金属塩である。「レドックス」系は、より低温でさえも作用させることが可能であり、その例としては、過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過硫酸塩等の酸化剤と、還元された金属塩(その具体例が、鉄(II)塩)等の還元剤との組合せを、場合により、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、メタ重亜硫酸塩、アスコルビン酸等の活性化剤と組み合わせたものが挙げられる。重合に使用することができる有機過酸化物の中でも、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、ペルオキシエステル及びペルオキシジカーボネートに分類されるものがある。過酸化ジアルキルとしては、過酸化ジ−t−ブチルが例示され、ペルオキシエステルとしては、t−ブチルペルオキシピバレート及びt−アミルペルオキシピバレートが例示され、ペルオキシジカーボネートとしては、ジ(n−プロピル)ペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ(sec−ブチル)ペルオキシジカーボネート及びジ(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネートが例示される。フッ化ビニリデンの重合及び他の含フッ素モノマーとの共重合にジイソプロピルペルオキシジカーボネートを使用することが米国特許第3,475,396号明細書に教示されており、さらに、これをフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマーの製造に使用することが米国特許第4,360,652号明細書に例示されている。特開昭58−065711号公報には、フッ化ビニリデンの重合にジ(n−プロピル)ペルオキシジカーボネートを使用することが記載されている。重合に必要な開始剤の量は、その活性及び重合に用いられる温度と関連している。使用される開始剤の総量は、通常、使用されるモノマーの総重量の0.05%〜2.5重量%である。典型的には、まず反応を開始するのに十分な開始剤を添加し、その後、好都合な重合速度を維持するためにさらなる開始剤を場合により添加してもよい。開始剤は、選択された開始剤に応じて、純粋な形態で、溶液で、懸濁液で、又は乳化液で添加してもよい。具体例として、ペルオキシジカーボネートは水系乳化液の形態で添加するのが好都合である。
【0031】
本発明は、通常、PEG、PPG及び/又はPTMG乳化剤を単独の乳化剤として用いて実施されるが、フッ素化又は部分フッ素化又は他の非フッ素化乳化剤等の共乳化剤又は共界面活性剤も本発明に存在してもよい。
【0032】
本発明の方法は、簡単かつ簡便で費用対効果が高く、そしてより重要なことは、凝塊物及び粘着性が生じないことにある。結果として得られたポリマー分散液は、ラテックスの安定性及び貯蔵寿命が良好であり、かつ成膜の品質が良好である。さらに、分散液の粒度を小さく(<100nm)することが可能であり、今度はこのことが、含フッ素ポリマーをラテックス形態でそのまま適用する多くの用途に有利となるであろう。さらに、本発明の方法を用いて製造された含フッ素ポリマーは、純度がより高く、抽出可能なイオンがより少なく、かつ低分子量ポリマーがより少ない。
【0033】
以下の実施例を用いて、本発明者らの発明を実施するための本発明者らが意図する最良の態様をさらに例示するが、これは例示であって本発明を制限するものとみなされるべきではない。
【実施例】
【0034】
本実施例に用いるグリコールベースの乳化剤としては、ポリエチレングリコールアクリレート(PEGA)、ポリエチレングリコール(PEG)及びポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル(Triton X−100)、ポリプロピレングリコールアクリレート(PPGA)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレングリコールメタクリレート(PEG−MA)、ジメチルポリエチレングリコール(DMPEG)、ポリエチレングリコールブチルエーテル(PEGBE)、ポリプロピレングリコールメタクリレート(PPG−MA)、ポリプロピレングリコールジメタクリレート(PPG−DMA)及びポリテトラメチレングリコール(PTMG)が挙げられる。以下の表に示す結果を検証すると、乳化剤の装入量が少ない場合は粒度が約100nm以上の含フッ素ポリマーの乳化液が生成したことがわかる。これらの新規な乳化液の固形分量は42%と高かった。
【0035】
1.7リットルの撹拌式オートクレーブ反応器に、脱イオン水1リットルを、報告した量の乳化剤(表1に示す)の10%水溶液と一緒に加えた。この混合物をアルゴンでパージした後、所望の温度である82℃に加熱した。次いで、反応器にVF2/HFPを装入することにより圧力を4510kPaに到達させた。開始剤の1%水溶液を連続供給して反応物に加え、必要に応じてVF2/HFPを加えることによって圧力を4480kPaに維持した。反応器内のVF2が予め定められた量に到達したらモノマーの添加を停止し、反応器の圧力が300psiに降下するまで開始剤の添加のみを継続した。室温まで冷却した後、反応器の内容物を排出した。ラテックスの固体重量及び粒度測定を実施した。
【0036】
7.8リットルの撹拌式オートクレーブ反応器に、脱イオン水3.4リットル、パラフィンワックス1gを、予め定められた量の乳化剤(そのままの形態か又は10%水溶液のいずれか;表2に示す)と一緒に加えた。混合物をアルゴンでパージした後、83℃に加熱した。次いで、反応器にVF2/HFPを装入することによって圧力を4510kPaに到達させた。開始剤の1%水溶液を連続供給して反応物に加え、必要に応じてVF2/HFPを加えることによって圧力を4480kPaに維持した。反応器内のVF2が予め定められた量に到達したらモノマー及び開始剤の供給を停止し、ただし、反応器の内圧が300psiに降下するまで反応を継続させた。室温に冷却した後、反応器の内容物を排出した。ラテックスの固体重量及び粒度測定を実施した。沈降特性に基づきラテックスの安定性を評価した。例えば、粒度が150nm未満のラテックスは、周囲条件下で300日間貯蔵した後でさえも沈降せず、粒度が150nmを超えるラテックスは、100日間は沈降しなかった。分散液の粒度は、波長639nmのシングルモード35mWレーザーダイオードを備えたNicomp Model 380 Sub−Micron Particle Sizerで測定した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)含フッ素モノマー単位を少なくとも50モル%含む含フッ素ポリマーと、
b)反復単位が2〜100個のポリエチレングリコールセグメント、ポリプロピレングリコールセグメント及び/又はポリテトラメチレングリコール(PTMG)セグメントを有する1種又はそれ以上の乳化剤を、前記含フッ素ポリマーの固体重量を基準として、100ppm〜2%と
を含む安定な含フッ素ポリマー水系分散液であって、前記含フッ素ポリマーが、平均粒度が50〜500nmの粒子形態にあり、前記含フッ素ポリマー分散液の固形分が15〜70重量%であり、前記含フッ素ポリマー分散液がフッ素化界面活性剤を含まない、含フッ素ポリマー分散液。
【請求項2】
前記含フッ素ポリマー分散液の固形分が、20〜65重量%である、請求項1に記載の含フッ素ポリマー分散液。
【請求項3】
前記含フッ素ポリマー粒子の平均粒度が、100〜350nmである、請求項1に記載の含フッ素ポリマー分散液。
【請求項4】
ポリエチレングリコールセグメント、ポリプロピレングリコールセグメント及び/又はポリテトラメチレングリコールセグメントを有する1種又はそれ以上の乳化剤を、前記含フッ素ポリマーの固体重量を基準として、100ppm〜1%含む、請求項1に記載の含フッ素ポリマー組成物。
【請求項5】
ポリエチレングリコールセグメント、ポリプロピレングリコールセグメント及び/又はポリテトラメチレングリコールセグメントを有する1種又はそれ以上の乳化剤を、前記含フッ素ポリマーの固体重量を基準として、100ppm〜1/2%含む、請求項1に記載の含フッ素ポリマー組成物。
【請求項6】
前記含フッ素ポリマーが、フッ化ビニリデンモノマー単位を少なくとも50モル%含む、請求項1に記載の含フッ素ポリマー組成物。
【請求項7】
ポリエチレングリコールセグメント、ポリプロピレングリコールセグメント及び/又はポリテトラメチレングリコールを有する前記乳化剤が、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールフェノールオキシド、ポリプロピレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールメタクリレート、ジメチルポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールブチルエーテル、ポリプロピレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリテトラメチレングリコール及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の含フッ素ポリマー組成物。
【請求項8】
前記乳化剤が、反復単位が3〜100個のポリエチレングリコールセグメント、ポリプロピレングリコールセグメント及び/又はポリテトラメチレングリコールセグメントを有する、請求項1に記載の含フッ素ポリマー組成物。
【請求項9】
反復単位が2〜200個のポリエチレングリコールセグメント、ポリプロピレングリコールセグメント及び/又はポリテトラメチレングリコールセグメントを含む非フッ素化非イオン性乳化剤で構成される少なくとも1種の乳化剤を含有する水系媒体中において少なくとも1種の含フッ素モノマーを重合させる工程を含む含フッ素ポリマーの製造方法であって、フッ素系界面活性剤を使用しない、前記方法。
【請求項10】
前記乳化剤が、前記含フッ素ポリマーの固体重量を基準として、100ppm〜2%存在する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ポリエチレングリコールセグメント、ポリプロピレングリコールセグメント及び/又はポリテトラメレングリコールセグメントを有する1種又はそれ以上の乳化剤である前記乳化剤が、前記含フッ素ポリマーの固体重量を基準として、100ppm〜1%存在する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
ポリエチレングリコールセグメント、ポリプロピレングリコールセグメント、及び/又はポリテトラメチレングリコールセグメントを有する1種又はそれ以上の乳化剤である前記乳化剤が、前記含フッ素ポリマーの固体重量を基準として、100ppm〜1/2%存在する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記含フッ素ポリマーが、フッ化ビニリデンモノマー単位を少なくとも50モル%含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記乳化剤が、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールフェノールオキシド、ポリプロピレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールメタクリレート、ジメチルポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールブチルエーテル、ポリプロピレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート及びポリテトラメチレングリコール並びにこれらの混合物からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
フッ素化又は部分フッ素化された非イオン性乳化剤を含まない、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記乳化剤が、反復単位が3〜100個のポリエチレングリコールセグメント、ポリプロピレングリコールセグメント、又はポリテトラメチレングリコールセグメントを含む、請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2010−512429(P2010−512429A)
【公表日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540377(P2009−540377)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/085222
【国際公開番号】WO2008/073685
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(500307340)アーケマ・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】