説明

安定な高酸化状態のジアミンメタロセンおよびそれらの調製用プロセス

新規な高酸化状態のメタロセン化合物、それらの化合物を調製するプロセスおよびそれらの化合物の使用であって、メタロセン化合物は、化学式(1)で表され、Mが4族〜10族(IUPAC、1990)から選択された遷移金属であり、Rが水素または選択的に置換されたC1〜C6アルキル基であり、yが1または2の整数であり、Rが水素、または、化学式(II)、化学式(IIA)若しくは化学式(IIB)で表されるビニル基であって、Rが水素若しくは選択的に置換されたC1〜C6アルキル基であり、RおよびRが選択的に置換されたC1〜C6アルキル基から別々に選択され、RおよびRが水素若しくは選択的に置換されたC1〜C6アルキル基から別々に選択され、nが2若しくは3の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なメタロセン化合物に係り、特に、高酸化状態のメタロセン化合物、並びに、これらの化合物を調製するプロセスおよびそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
1950年代初期におけるフェロセンの発見および構造の解明以来、鉄、ニオブ、バナジウム、タングステン、クロム、ニッケル、コバルト、マンガンやルテニウム等の遷移金属のメタロセンは、化学者や材料科学者にとって常に興味をひく題材であった。
【0003】
メタロセンの1つの従来の応用は、オレフィン重合の触媒としてそれらが使用されることである;例えば、ヨウンキンらにより、2000年のサイエンス誌、第287巻の460−462頁(Younkin et al.、Science、(2000)Vol.287、pages 460−462)に報告されており、彼らは、均一重合の触媒として使用される“初期(early)”の遷移金属のビスシクロペンタジエニルメタロセンおよびモノシクロペンタジエニルメタロセンの最新の進展も報告している。
【0004】
より安定で活性なメタロセンを生産する方法が長くにわたって開発されたため、それらの使用は、それらの電気化学が重要な役割を果たす分子スイッチ、金属プローブ、分子磁石、非線形光学を含む電子的応用、および、より一般的には、酵素電極中の媒体等の他の応用領域に広がっている。
【0005】
また、急速に成長している材料科学の領域における役割が増加しているために、フェロセン等のメタロセンは現在復活(renaissance)している。例えば、フェロセン含有材料は、触媒ばかりではなく、バイオセンシング、サーモトロピック液晶および非線形光学における広汎な応用が見いだされている(1998年にニューヨークでワィリィから発行され、エイ、トグニおよびアール、エル、ハルターマン編集による、エイ、オーサーのメタロセンにおいて、合成、反応性、応用、第1巻第1章、第2巻第11章、参照)(A.Author、in Metallocenes.Synthesis Reactivity、Applications、Vol.1、Chapter 1;Vol.2、Chapter 11;A.Togni and R.L Halterman、Eds、Wiley、New York、1998)。
【0006】
また、鉄(III)および鉄(IV)等の高酸化状態における鉄は、生物学的プロセスに含まれることが見いだされている。例えば、広い範囲のヘムおよび非ヘムの鉄含有オキシゲナーゼ酵素が、生物学的システムにおける酸素原子移動の媒介に含まれることが見いだされている。更に、金属酵素やバイオミメティック錯体による二酸素活性化は、生体触媒用モデルとして高価金属錯体における興味を支持している。(1996年のケミカル レビュー誌、第96巻の2607−2624頁、2625−265頁、2659−2756頁、2841−2887頁、参照)(Chem.Rev.96(1996)2607−2624、1625−265、2659−2756、2841−2887)
【0007】
しかしながら、それらの安定性のため、フェロセン化合物は、一般的に鉄原子が鉄(III)として存在するフェロセニウムイオン(Fc)を基礎としているが、鉄が酸化状態(IV)で存在する(Fc2+)種は、Fc2+の安定性が著しく低下するため単離されていない。このようなフェロセン誘導体の存在は、厳密な条件下で電気化学的に確認されるのみである(シャープおよびバード(1983年の無機化学誌、第22巻第19号)(Sharp & Bard;Inorg.Chem.Vol.22、No.19、1983)やゲールら(1980年の有機金属科学ジャーナル誌、第199巻のC44−C46)(Gale et al;J.Organom.Chem.199(1980)C44−C46)によれば、−40℃で液体二酸化硫黄中)。
【0008】
同様の不安定さは他の高酸化状態メタロセンについてより早く報告された。例えば、ウィルソンらは、アセトニトリル溶液中でのサイクリックボルタンメトリィを用いてニッケロセン(nickelocene)における酸化状態(III)から(IV)のニッケルの可逆酸化を達成している(1969年のJACS誌、第91巻の758頁)(Wilson et al.;JACS 91、758、(1969))。しかしながら、ニッケル(IV)種が急速に分解することを避けるために、−40℃のプロセス温度を使用することが必要である。同様に、クワナらは、ルテノセン(ruthenocene)のワンステップでの2電子酸化を報告している(1960年のJACS誌、第82巻の5811頁)(Kuwana et al.;JACS、82、5811、(1960))。不活性媒体中で通常の温度下では、得られたルテノセンの2価の正イオンが約10時間以上で分解する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、上述した生体触媒やバイオセンシング等の領域では、モデル化合物として、または、直接的な実際の応用のいずれかに使用可能で安定な金属錯体の必要性が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1態様は、下記化学式(I)で表される化合物を提供する。
【0011】
【化15】

【0012】
化学式(I)において、Mは4族〜10族(IUPAC、1990)から選択される遷移金属を表し、Rは水素または選択的に置換されたC1〜C6アルキル基を表し、yは1または2の整数を表し、Rは水素、または、下記化学式(II)、化学式(IIA)若しくは化学式(IIB)で表されるビニル基を表す。
【0013】
【化16】

【0014】
【化17】

【0015】
【化18】

【0016】
化学式(II)、化学式(IIA)、化学式(IIB)において、Rは水素または選択的に置換されたC1〜C6アルキル基を表し、RおよびRは選択的に置換されたC1〜C6アルキル基から別々に選択され、RおよびRは水素または選択的に置換されたC1〜C6アルキル基から別々に選択され、nは2または3の整数を表す。
【0017】
本発明の別の態様は、有機金属化合物を調製するプロセスであって、下記化学式(III)で表される化合物を、下記化学式(IV)で表される化合物と反応させる。
【0018】
【化19】

【0019】
【化20】

【0020】
化学式(III)、化学式(IV)において、Mは4族〜10族(IUPAC、1990)から選択された遷移金属を表し、Rは水素または選択的に置換されたC1〜C6アルキル基を表し、yは1または2の整数を表し、Rは水素、または、下記化学式(II)、化学式(IIA)若しくは化学式(IIB)で表されるビニル基を表す。
【0021】
【化21】

【0022】
【化22】

【0023】
【化23】

【0024】
化学式(II)、化学式(IIA)、化学式(IIB)において、Rは水素または選択的に置換されたC1〜C6アルキル基を表し、RおよびRは別々に選択的に置換されたC1〜C6アルキル基を表し、RおよびRは別々に水素または選択的に置換されたメチル基を表し、nは2または3の整数を表し、反応が酸化エージェントの存在下で行われる。
【0025】
本発明の別の態様は、本発明の化合物の種々の使用であり、例えば、核酸挿入(intercalating)剤またはアミンの酸化用触媒としての使用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明を、非制限的な実施例および図面と共に、詳細な説明に関して一層詳細に説明する。
【0027】
1態様では、本発明は、酸化エージェントの存在下でメタロセンを第3級アミンと反応させることで最初に安定な高酸化状態のメタロセン化合物を得ることができる、という意外な知見に基づいている。従来、安定性の問題のため、高酸化状態のメタロセン化合物はほとんど得られていなかった。このため、本発明は、通常の環境条件でも実行し、保管し、および、使用することが可能な安定な高酸化状態のメタロセンを得るための方法を提供する。また、本発明は、多くの応用に活用できる有用な性質を備えた新しいメタロセン化合物を提供する。
【0028】
化学式(I)に示すように、本発明の化合物は、メタロセン部分およびジアミン部分を含む錯体である。
【0029】
メタロセン部分では、Mは4族〜10族(IUPAC、1990)のいずれかの適正な遷移金属である。Mは、化合物中に帯電したカチオンまたは非帯電の種のいずれかとして存在している。好適な遷移金属は、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム、ジルコニウム、チタン、バナジウム、オスミウムおよびルテニウムから選択される。従って、化学式(I)の化合物のメタロセン部分は、例えば、フェロセン、コバルトセン、ニッケロセン、マンガノセン、クロモセン、ジルコノセン、チタノセン、バナドセン、オスモセンおよびルテノセンから誘導される。これらの金属における部分的に満たされたd殻またはf殻は、メタロセンについて可逆的な酸化状態に達することを可能にし、このため適正なリガンドと配位結合を形成することを可能にする。特に好適な遷移金属は、適正なリガンドと配位結合を形成するために、+1、+2、+3、+4または+5の酸化状態をとることが可能な金属である。
【0030】
メタロセンのMに配位的に結合する2つのリガンドは、それぞれシクロペンタジエニル(以下、Cpと略記する。)環である(基づいている)。各Cp環は置換基RおよびRを含んでいる。
【0031】
化学式(I)に示すように、Rは、水素原子(すなわち、Rが付加する環構成炭素原子は未置換である。)または主鎖炭素原子1〜6を含むアルキル基である。Rは直鎖または分岐鎖でもよく、各Rが選択的に置換されていてもよい。Rの置換基の例は、フェニル基、ベンジル基等の芳香族置換基、ニトロ基(−NO)、アミノ基(−NH)、Rがアルキル基を示すイミノ基(−NHR)、カルボキシル基(−COOH)、シアノ基(−CN)、水酸基(−OH)、スルホ基(−SOH)またはハロゲンである。各Cp環は、Cp環上の環構成炭素原子のいずれかに結合した1つまたは2つのR置換基を有してもよい。例えば、各Cp環に1つのR置換基が存在する場合、置換基Rについては、α位またはβ位のいずれに存在してもよい。1実施形態では、Rがα位に存在し、このCp環は1,2位が2置換された環である。本実施形態では、本発明の化合物が下記化学式(IA)の構造を有している:化学式(IA)において、M、R、R、R、R、RおよびRは、上述したのと同じである。
【0032】
【化24】

【0033】
各Cp環に1つのR置換基が存在する別の実施形態では、Rがβ位に存在し、各Cp環は1,3位が2置換された環である。本実施形態では、本発明の化合物が下記化学式(IB)の構造を有している:化学式(IB)において、M、R、R、R、R、RおよびRは、上述したのと同じである。
【0034】
【化25】

【0035】
2つのR置換基が存在する場合、各R置換基は、置換基Rについて、α位に存在してもよく、結果として1,2,5位が3置換されたCp環となる。これに代えて、置換基Rについて、一方のR置換基がα位に位置し、他方のR置換基がβ位に位置してもよく、結果として1,2,4位が3置換されたCp環となる。また、1,2,3位が3置換されたCp環および1,3,4位が3置換されたCp環の一部を、本発明の化合物に使用してもよい。
【0036】
置換基Rは、水素原子または下記化学式(II)で表されるビニル側鎖である。
【0037】
【化26】

【0038】
このビニルラジカルは、側鎖Rが置換されてもよく未置換でもよい。メタロセンおよびRの一部について、ビニル基のシス型およびトランス型の両方の異性体が化学式(I)の化合物には存在している。これに代えて、Rが下記化学式(IIA)または化学式(IIB)の構造を有してもよい:化学式(IIA)、化学式(IIB)において、Rは、水素原子またはC1〜6アルキル基のいずれでもよく、それらのそれぞれが選択的に置換されていてもよい。
【0039】
【化27】

【0040】
【化28】

【0041】
1実施形態では、化学式(I)に示す一部のRおよびRは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソ−プロピル基、ブチル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、n−ペンチル基、イソ−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソ−ヘキシル基で構成するグループからそれぞれ別々に選択される。アルキル基の各炭素原子の水素原子は、選択的に置換されていてもよい。これらの各アルキル置換基は、直鎖または分岐鎖構造を含むいずれの適正な構造であってもよい。
【0042】
化学式(I)の化合物に存在する各Rは、別々に選択される。このことは、化合物におけるCp環が、例えば、2つの異なるRを有していてもよいことを示している。更に、各環のRも別々に選択される。このことは、化学式(I)における一方の環のRおよびRが他方の環のRおよびRと同じでもよく、または、異なっていてもよいことを示している。一方の環の置換基が他方の環の置換基と異なる場合、例えば、一方の環をビニルシクロペンタジエンとし、他方の環を未置換のシクロペンタジエンとすれば、例として、非対称化合物の1−ビニル−メタロセンとなる。両方の環が同じ置換基を有する場合、例えば、両方の環をビニルシクロペンタジエンとすれば、化合物は対称となり、例として、1,1’−ビス−ビニルフェロセンとなる。
【0043】
本発明に関連して、選択的に置換された炭素原子は、結合した水素原子が、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等の芳香族残基に限らず、ニトロ基(−NO)、アミノ基(−NH)、Rがアルキル基を示すイミノ基(−NHR)、カルボキシル基(−COOH)、シアノ基(−CN)、水酸基(−OH)、スルホ基(−SOH)またはハロゲン等の1またはそれ以上のラジカルに置き換えられた炭素原子に関連する。ここで用いられるハロゲンは、塩素、臭素、フッ素およびヨウ素である。
【0044】
本発明の化合物を生産するために使用されるメタロセンの特徴的な例では、制限されるものではないが、次のものを含む:
メチルフェロセン、エチルフェロセン、プロピルフェロセン、ブチルフェロセン、t−ブチルフェロセン、1,1’−ジメチルフェロセン、1,1’−ジエチルフェロセン、1,1’−ジプロピルフェロセン、ビニルフェロセン、3−メチルビニルフェロセン、3−エチルビニルフェロセン、3,3’−ジメチル−ビニルフェロセン、3,3’−ジエチル−ビニルフェロセンまたは1,1’−ビス−ビニルフェロセン等のフェロセンまたはフェロセン誘導体;
1,1’−ジメチルコバルトセン、1,1’−ジエチルコバルトセン、1,1’−ビス(1−メチルプロピル)コバルトセン、1,1’−ビス(1−メチルエチル)コバルトセン、ビニルコバルトセンまたは3−メチルビニルコバルトセン等のコバルトセンまたはコバルトセン誘導体;
メチルニッケロセン、エチルニッケロセン、プロピルニッケロセン、1,1’−ジメチルニッケロセン、ビニルニッケロセンまたは3−メチルビニルニッケロセン等のニッケロセンまたはニッケロセン誘導体;
1,1’−ジブチルクロモセン、1,1’−ビス(1,1’−ジメチルエチル)クロモセン、1,1’−ジエチルクロモセン、ビニルクロモセンまたは3−メチル−ビニルクロモセン等のクロモセンまたはクロモセン誘導体;
メチルジルコノセン、1,1’−ジエチルジルコノセン、ビニルジルコノセンまたは3−メチル−ビニルクロモセン等のジルコノセンまたはジルコノセン誘導体;
メチルチタノセン、1,1’−ジメチルチタノセン、ジブチル−チタノセン、ビニルチタノセンまたは3−メチルチタノセン等のチタノセンまたはチタノセン誘導体;
1,1’−ジメチルバナドセン、1,1’−ジエチルバナドセン、1,1’−ジブチルバナドセン、ビニルバナドセンまたは3−メチルビニルバナドセン等のバナドセンまたはバナドセン誘導体;
1,1’−ジメチルオスモセン、ビニルオスモセンまたは3−メチルビニルオスモセン等のオスモセンまたはオスモセン誘導体;または
1,1’−ジメチルルテノセン、ビニルルテノセンまたは3−メチルビニルルテノセン等のルテノセンまたはルテノセン誘導体である。
【0045】
本発明の化合物は、いかなる3次元構造をとることもできる。まず、Cpリガンドにより形成される錯体には種々の回転配向が考えられることに注意する。例えば、これらの環はねじれ配置または重なり配置に整理することができる。重なり配置では、一方の環の各炭素原子は、他方の環のそれぞれの炭素原子と同じ軸上に存在する。ねじれ配置では、一方の環のそれぞれの炭素原子は、他方の環の炭素原子と異なる軸上に存在する。化合物の回転配置の一方または両方は、化合物のいかなる試料(sample)に存在してもよい。更に、本発明の化合物は、まっすぐな、または、曲がったメタロセン部分を有していてもよい。2つのリガンドとMとの間に形成される角度が約180度のとき、メタロセン部分はまっすぐになる。また、180度より小さい角度も可能であり、曲がった配置が得られる。いずれの配置が本発明の化合物のいかなる試料に存在してもよい。しかしながら、各配置の量は、異なるジアミン部分により引き起こされる立体障害効果等の因子に依存して変化する。
【0046】
化学式(I)に示すように、Mはジアミン部分に配位的に結合しており、その結合を矢印で示している。ジアミン部分は、下記化学式(IV)で表される構造を有している:化学式(IV)において、nは2または3の整数を示す。
【0047】
【化29】

【0048】
ジアミン部分は、それゆえ、2つの末端の第3級アミノ基を有している。化学式(IV)のジアミンにおけるRおよびRはそれぞれ、別々に、C1〜C6アルキル基である。アルキル基の各炭素は選択的に置換されていてもよく、アルキル基が直鎖または分岐鎖であってもよい。好適な本実施形態では、RおよびRは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソ−プロピル基、ブチル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、n−ペンチル基、イソ−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソ−ヘキシル基で構成するグループからそれぞれ別々に選択される。
【0049】
本発明の化合物では、nは2または3の整数であり、化学式(IV)のジアミンにおける炭素鎖が2炭素の鎖または3炭素の鎖のいずれかであることを示している。置換基RおよびRは、水素またはC1〜C6アルキル基からそれぞれ別々に選択される。RおよびRがアルキル基の場合、それらは上述した1またはそれ以上の残基で選択的に置換されてもよい。それらが直鎖または分岐鎖であってもよい。他の好適な実施形態では、RおよびRは、水素、メチル基、エチル基、プロピル基、イソ−プロピル基、ブチル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、n−ペンチル基、イソ−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソ−ヘキシル基からそれぞれ別々に選択される。
【0050】
化学式(I)におけるジアミン部分として適正なジアミンの特徴的な例は、制限されるものではないが:テトラメチル−1−メチル−エチレンジアミン、テトラエチル−エチレンジアミン、N,N’−ジエチル−N,N’−ジメチル−エチレンジアミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジエチル−1−メチル−エチレンジアミン、テトラプロピル−エチレンジアミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジプロピルエチレンジアミン、テトラメチル−プロピレンジアミン、テトラエチル−2−エチル−プロピレンジアミン、N,N’−ジエチル−N,N’−ジメチル−プロピレンジアミン、および、N,N’−ジイソプロピル−N,N’−ジメチル−1,3−プロパンジアミンを含む。
【0051】
理論に拘束されることなく、下記化学式(V)に(明瞭にするためにCpの一部の置換基を示していない)一例として示すように、Mに結合したジアミンは、Mとの配位結合を形成するために窒素原子の1つだけが一対の不対電子を供与する一座配位として挙動することが考えられている。
【0052】
【化30】

【0053】
これに代えて、例えば、本発明の化合物の優れた核酸挿入特性から、以下に示すように、このジアミノ基の一部が二座配位リガンドとしてMに結合する可能性も意図している。二座配位リガンドとして挙動するとき、下記化学式(VI)に(明瞭にするためにCpの一部の置換基を示していない)一例として示すように、2つの末端のアミノ基の両方の窒素原子が、2つの配位結合を確立するためにMに電子対をそれぞれ供与する:
【0054】
【化31】

【0055】
それゆえ、化学式(I)においてジアミン化合物の配位を示すために用いた矢印は、特異的な配位や立体化学に限定されるものではなく、単に、アミンが金属Mに非共有的に結合していることを示すものである。
【0056】
1実施形態では、化学式(I)の化合物の全体の電荷は正である。Mの酸化状態に依存して、Mは無帯電または正に帯電する。Mの酸化状態が付加したリガンドの数と釣り合う場合、Mは無帯電となる。しかしながら、例えば、用いた調製プロセスにおけるpH、温度や酸化電位差(oxidising potential)の存在を変えることにより、付加したリガンドの数より遥かに大きなより高い酸化状態にMを酸化することが可能である。この場合、Mは正に帯電する。中性(neutral)な化合物を得るために、負に帯電した対イオンの存在により正電荷を中性化することができる。対イオンは、化合物の合成中に提供され、結果として化学式(I)の化合物の塩が形成される。本発明で適正な対イオンの例では、SO2−、Cl、Br、NO、HPO、HSO、PF、ClO、BF、F、I、CO2−、HCO、NO、BrO、ClO、SiO2−、CrO2−、IO、SO2−、HSOおよびAsO2−を含む。
【0057】
化学式(I)に示した4族〜10族のいかなる遷移金属を本発明の化合物のメタロセン部分における遷移金属として用いてもよいが、上述したように、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム、ジルコニウム、チタン、バナジウム、オスミウムおよびルテニウムが好ましい。これらの金属は一般に用いられ、詳細に研究されており、このため十分に特徴付けされている。本発明の好適な実施形態では、メタロセン部分は、フェロセン、ニッケロセンまたはコバルトセンを含む。別の実施形態では、フェロセン、ニッケロセンまたはコバルトセンにおけるCp環の炭素原子は、ビニル基で置換されており、メタロセン部分がそれぞれビニルフェロセン、ビニルニッケロセンまたはビニルコバルトセンとなる。
【0058】
好適な1実施形態では、本発明の化合物は下記化学式(VII)で表される構造を有している:化学式(VII)に示すように、この実施形態はビニルフェロセン部分およびテトラメチルエチレンジアミン部分を含んでいる。
【0059】
【化32】

【0060】
別の好適な実施形態では、本発明の化合物は下記化学式(VIII)で表される構造を有している:化学式(VIII)に示すように、この実施形態はビニルフェロセン部分およびテトラメチルプロピレンジアミン部分を含んでいる。
【0061】
【化33】

【0062】
本発明の別の態様は、化学式(I)で表される化合物を調製するプロセスである。このプロセスは、化学式(III)で表される所望の化合物のメタロセン部分の構造に相当するメタロセンを、化学式(IV)で表される化合物の所望のジアミン部分に相当する構造を有するジアミンと反応させることを含む。本発明では、この反応を、通常、酸化エージェントの存在下で行う。
【0063】
以下に説明する化学的合成または電気化学的合成である本発明のプロセスの1つの利点は、例えば、低温条件を要求する従来知られたプロセスと違って、室温および大気圧の環境下(すなわち、標準条件)で効果的に行うことができることである。一方、用いた厳密な反応スキームに依存して、反応をスピードアップするために、反応を上昇した温度、例えば、化学的合成を用いるなら還流下で行うことも可能である。反応完了後、適正な手段で生成物を反応混合物から分離する、例えば、極性有機溶媒の存在下で沈殿させ、続いて濾過し、乾燥させる。
【0064】
本発明で用いるメタロセン化合物は、市販のものでもよく、合成したものでもよい。1つの可能な化学的合成ルートは、開始材料として適正なシクロペンタジエニドまたはシクロペンタジエニド誘導体の使用を含む。シクロペンタジエニドナトリウムを形成するために、ナトリウムをシクロペンタジエニドと反応させる。続いて、遷移金属Mを含む溶液、例えば、遷移金属のハロゲン化塩の溶液が、シクロペンタジエニドナトリウムに添加される。シクロペンタジエニドが金属と反応して所望のメタロセンを生成する。(マーチの高等有機化学、第5版、803頁、参照)(March’s Advanced Organic Chemistry、5th Edition、page 803)。例えば、2つの異なるシクロペンタジエニドを等モル量で反応させることで、2つの異なるCpリガンドを有するメタロセンを意味する、非対称の置換されたメタロセンが代わりに得られる。そのような非対称のメタロセンを得る別の可能性は、開始材料として未置換のメタロセンを用いることである。未置換のメタロセンは、生成混合物中にモノアルキル置換またはN,N’−ジアルキル置換されたメタロセンの両者を得るために、(リン酸等のブレンステッド(Bronsted)の酸の存在を要求する)フリーデルクラフツアルキル化(Friedel Crafts alkylation)を経て適正なアルキルハロゲン化物と反応し、前者が非対称メタロセンである。各メタロセンは、蒸留やフラッシュクロマトグラフィ等のいずれかの分離技術を経て分離される。また、本発明に適正なメタロセンは、例えば、英国特許第767,298号公報(GB767,298)および英国特許第896,391号公報(GB896,391)に記載されたように得ることができる。
【0065】
Cp環の一方または両方に2つまたは3つの置換基を含むメタロセンを得ることを望むなら、文献等で知られた標準的な化学的合成手法は以下の通りである。例えば、Rをビニル基とし、置換基RがRについてα位に位置するメタロセン、すなわち、化学式(IIA)に示すように1,2−置換されたCp環を有するメタロセンを得ることを望むなら、例えば、2002年のオーガニックレター誌、第4巻の707頁(Organic Letters 4(2002)707)、1992年のテトラへドロン:アシメトリィ、第3巻の753−758頁(Tetrahedron:Asymmetry 3(1992)753−758)またはそれぞれに記載された参照文献に記載された合成ルートに従い得ることができる。これら2つの文献に記載されたようにカルボニル置換基を含むメタロセン誘導体から開始し、カルボニルの機能性を従来知られた方法でC=C二重結合に変換することで本発明の化合物を得ることができる。例えば、ウィッティッヒ反応(Wittig reaction)を経てビニル基を形成するために、アルデヒドやケトンをホスホランやアルキルハロゲン化物と反応させ、これによりビニルメタロセンを得ることができる。置換基RがRについてβ位に位置するメタロセン、すなわち、化学式IIBに示すように1,3−置換されたCp環を有するメタロセンを得ることを望むなら、例えば、2000年のオルガノメタリクス誌、第19巻の3874−3878頁(Organometallics 19(2000)3874−3878)、2000年のオルガノメタリック化学誌、第598巻の365−373頁(J.Organom.Chem.598(2000)365−373)またはそれぞれに記載された参照文献に記載された合成ルートに従い得ることができる。これに代えて、1つまたは2つの1,3−置換されたCp環を有する本発明の化合物の生成用に、市販されているビニル−フェロセンを開始材料として使用することも可能である。ビニルフェロセンは、例えば、適正なアルキルハロゲン化物を使用することでフリーデル−クラフツアルキル化を経てアルキル化してもよい。このように生産された所望のメタロセンは、蒸留やクロマトグラフィ等の適正な分離技術で、他の一緒に生成した副生成物から分離される。
【0066】
このプロセスでの使用に適正なジアミンは、市販のものでもよく、公知の化学的合成ルートで合成したものでもよい。例えば、ジアミノ化およびアルキル化で構成する2段階プロセスを用いてもよい。公知のジアミノ化ルートの1例は、第1級ジアミンを形成するために、酢酸中でのアジ化ナトリウム(NaN)およびヨードソベンゼン(PhIO)の処理による二重結合に対する2つのアジド基の付加である。ジアミノ化ルートの別の例は、第2級1,2−ジアミンを得るためのイミンの2量体化である。第1級または第2級ジアミンが一度形成されると、アルキルハロゲン化物とのアルキル化を経て化学式(IV)で表される構造を有する所望の第3級ジアミンに変換することができる(マーチの高等有機化学、第5版、1056−1057頁、参照)(March’s Advanced Organic Chemistry、5th Edition、page 1056−1057)。
【0067】
好適な1実施形態では、極性有機溶媒の存在が反応を促進することを見いだしたため、合成を極性有機溶媒の存在下で行う。用いることができる適正な極性有機溶媒の例は、短鎖または長鎖、分岐または未分岐、直鎖状または環状、脂肪族または芳香族のアルコール(エタノール、プロパノール、イソ−プロパノール、ブタノール、ペンタノール、シクロペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール等)、ケトン(アセトン、シクロヘキサノン、2,3−ブタンジオン、1,3−ヘキサンジオン、4−ヘプタノン等)、アルデヒド(ブタルアルデヒド、2−エチルヘキサナール、イソブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ペンタナール、フェニルアセトアルデヒド、p−トルアルデヒド等)、カルボン酸、エーテル、およびアミンを含む。
【0068】
本発明の化合物は、化学的酸化エージェント(化学的酸化剤)が用いられるか、または、電源から供給される電気化学的酸化ポテンシャル(電気化学的電位差)が用いられるかにより、化学的または電気化学的に合成してもよい。
【0069】
理論的には、化学的酸化エージェントが適正な酸化ポテンシャルを提供する限り、いかなる公知の化学的酸化エージェント(分子または化合物)を化学式(I)の化合物の化学的合成に用いてもよい。このような酸化エージェントの例は、限定されるものではないが、クロム酸(HCrO)、酸化クロム(CrO)、過マンガン酸カリウム(KMnO)、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(Na)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、硝酸(HNO)、亜硝酸(HNO)、三酸化硫黄(SO)、四酸化オスミウム(OsO)、過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)、過臭素酸ナトリウム(NaBrO)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、および酸化銀(AgO)を含む。フェロセン化合物の合成の場合、好適な酸化エージェントは、反応を行うために適正な酸化能を提供する過硫酸塩を含む。過硫酸塩の例は、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムおよび過硫酸ナトリウムを含む。
【0070】
この化合物は、以下に示す一般的な手法で化学的に合成することができる。必要なメタロセンの化学量論的量を最初に極性有機溶媒や有機溶媒を含む混合液等の適正な溶媒に溶解させる。次に、化学式(IV)で表されるジアミンを得られた溶液に添加する。これに代えて、必要なメタロセンやその誘導体を添加する前に溶媒にジアミンを最初に溶解させることも可能である。そして、メタロセンの酸化を開始するために酸化エージェントを添加し、これにより本発明の化合物を形成させる。
【0071】
反応を行うのに要する時間の長さは、温度、反応混合物に添加した反応物の量等のいくつかの因子に依存する。一般に、反応は1〜30時間行うが、反応時間を延長または短縮してもよい。
【0072】
化学的合成法に加えて、電気化学的ルートを経て本発明の化合物を合成することも可能である。1実施形態では、反応を支持電解質の存在下で行う。この場合、酸化エージェントは電源で供給される電位差である。電気化学法では、供給可能な電位差は、反応混合物を直流電源の正極に接続された電極と接触させることによる等の種々の方法で供給される。塩酸(HCl)、過臭素酸カリウム(KBrO)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)等の適正な支持電解質のいずれのタイプを使用してもよい。本発明の好適な支持電解質はテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェートである。
【0073】
1実施形態では、本発明の化合物が一度形成されると、沈殿剤中で沈殿させてもよい。沈殿剤は、アセトンやアセトアルデヒド等の上述したような適正な極性有機溶媒のいずれでもよい。沈殿剤は、生成物を沈殿させるために反応混合物に直接添加してもよい。これに代えて、反応混合物を沈殿剤に滴下することも可能である。
【0074】
本発明の別の態様は、化学式(I)の化合物の使用である。本発明の化合物は、バイオセンシングやメディカルケアデバイスとして、公害コントロールや有機材料の酸化合成における触媒として、分子生物学研究、ガンや種々の腫瘍等の疾患の診断や処置におけるツールとして等の広汎な種々の応用に使用することができることが見いだされている。
【0075】
本発明の種々の化合物の中では、フェロセン誘導体が、生化学および触媒の応用での使用に活用することができる特に有用な特性を有している。フェロセン誘導体をこれらの応用に適正な有用な性質は、水溶性、カチオン性、通常の環境条件下における安定性、および銀/塩化銀電極に対するそれぞれ200〜600mVの酸化還元電位を含む。メタロセンは、エレクトロニクス、薬学、接着剤やテープ等の異なった応用における重要な応用を有している。フェロセン、ニッケロセンおよびコバルトセンは、例えば、ポリオレフィン触媒、バイオセンシング、サーモトロピック液晶や非線形光学、ダイオード、薄膜トランジスタおよびマラリア医薬等の応用にも含まれる。
【0076】
好適な1実施形態では、本発明は、核酸挿入剤としての化学式(I)のメタロセン化合物の使用である。以下の実施例に示すように、このようなメタロセンは、核酸二重らせんに対する優れた挿入能を示す。VFcTMEDAがDNA二重らせんに挿入され、その上側および下側の塩基対がねじれたDNAらせんを引き起こすために構造を‘ねじれ(buckle)’させ、それによりDNAヘリカーゼ(helicase)、DNAトポイソメラーゼや、RNA合成やタンパク形成のためにDNA複製を開始する酵素のポリメラーゼファミリィ等の酵素との結合を妨げ、そして細胞の再生を停止する、ことが可能である。腫瘍処置の目的のため、本発明のフェロセン化合物は、例えば、経口、静脈内、または、皮下のいずれか適正なルートで投与される。一般に、フェロセン化合物の抗腫瘍活性は、例えば、2004年のポリへドロン、第23巻の823−829頁(Polyhedron 23(2004)823−829)、エフエーエスイービージャーナルエクスプレスアーティクル(FASEB Journal express article)の10.1096/fj.02−0558fje、2002年のジャーナル オブ メディカル ケミストリィ誌、第45巻の5786−5796頁(J.Med.Chem.2002,45,5786−5796)、2000年のインオーガニカ ヒミカ アクタ誌、第306巻の42−48頁(Inorganica Chimica Acta 306(2000)42−48)、および、1991年のオルガノメタリック化学誌、第418巻の107−112頁(J.Organom.Chem.418(1991)107−112)に報告されている。従って、本発明は、化学式(I)の化合物を含む製薬成分でもあり、同様にそのような化合物の治療上の使用でもある。
【0077】
上述した生化学的応用と別に、本発明のフェロセン化合物は、触媒としての使用も可能である。好適な使用はアミンの触媒的酸化である。アミンの触媒的酸化は、廃水処理および産業排気ガス流からの揮発性有機化合物(VOCs)、有害大気汚染物(HAPs)や悪臭の除去において広く行われている。いずれの応用も多くの産業で要望されている。本発明のフェロセン化合物は、第1級アミン、第2級アミンまたは第3級アミンの酸化に対し触媒的活性を示す。VOC処理の場合、本発明のフェロセン化合物は、従来の2段階または3段階の悪臭浄化プロセスに使用することができる。例えば、本発明のフェロセン誘導体は、アンモニアおよび種々のアミンを除去するための第1段階浄化プロセスで使用される浄化液(一般的には希硫酸で構成される)に直接含有させてもよい。廃水処理に使用するときは、フェロセン化合物は、第1、第2および中間処理プラントに直接混合され、続いて、沈殿や濾過を経て沈殿され除去され、そして、リサイクルされる。
【実施例】
【0078】
以下の合成例では、汎用電気化学システム(GPES)マネージャ バージョン4.9で作動するオートラボ ポテンショスタット/ガルバノスタット(Autolab potentiostat/galvanostat)で電気化学的テストを行った。銀/塩化銀(Ag/AgCl)の参照(reference)電極、白金線の対(counter)電極およびガラス状炭素の作用(working)電極(表面積7.9mm)で構成する従来の3電極セルをボルタンメトリィの実験に使用した。コントロールしたポテンシャルクーロメトリィおよび予備コントロールしたポテンシャル電解を2槽(two−chamber)電気化学セルで行った。電解に使用する作用電極は、3つの金コートされた1.5×2.0cmのシリコンウェハで構成するアッセンブリである。密閉型(non−leak)の銀/塩化銀電極を参照電極(カンザス州ローレンスのサイプレス システムズ社)(Cypress Systems、Lawrence、KS)として使用した。作用電極および参照電極は一方の槽に取り付け、対電極は他方の槽に取り付けた。
【0079】
(実施例1:高酸化状態のフェロセン誘導体、VFcTMEDAの電気化学的合成)
過硫酸ナトリウム塩およびビニルフェロセンはシグマ−アルドリッチ社(米国、ミズーリ州セントルイス)(Sigma−Aldrich、St.Luis、MO、USA)から購入した。テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)はアボカド リサーチ ケミカルス社(英国、ランカシャー、LA3 2XY、ヘイシャム)(Avocado Research Chemicals、Heysham、Lancashire、LA3 2XY UK)から入手した。カラムクロマトグラフの分離に使用する弱酸イオン交換樹脂はアンバーライト(Amberlite)(登録商標)IRC−50(16−50メッシュ、シグマ−アルドリッチ社)である。使用した他の全ての試薬は分析グレードが保証されたものであり、全ての溶液は脱イオン水で調製した。
【0080】
通常の方法では、支持電解質として0.10MのTBAPFを含むアセトン中に0.10MのVFcおよび0.50MのTMEDAを含む20mlを0.40Vで電解した。勢いよく窒素をパージしながらの(N purging)電解の全期間で急速な質量移動を確認した。電極表面上に生成物がその低溶解性のために堆積し電極の汚染や皮膜に通じることを回避するために、セルを超音波槽に入れた。電流が初期値の2%未満に低下した後、電解が完了したと判断した。電解された溶液の溶媒を減圧下でエバポレートした。固化した残渣にアリコート(aliquot)の5.0mlの水を加えた。不溶性物質を濾別した。化合物を沈殿させるために、急速に攪拌した50mlのアセトン中に溶質(solute)を添加した。水に溶解−アセトンで沈殿のサイクルを繰り返すことで、最初の精製を行った。溶離液として5.0mMの塩酸を使用して弱酸イオン交換樹脂のアンバーライトIRC−50でのカラムクロマトグラフィにより化合物を更に精製した。溶離プロセスを電気化学的にモニタし、ボルタンメトリィのテストが0.55Vで酸化還元活性を示したときに溶離液の回収を開始し、ボルタンメトリィのピーク電流が最高値と比較して80%以上低下したときに溶離プロセスが完了したと判断した。溶離液を5.0%アンモニア溶液で中和し、ほぼ乾燥するまで減圧下でエバポレートした。アセトン/水の混合液で繰り返し洗浄することで塩化アンモニウムを除去した。得られた精製した固形分を5.0mlの水に溶解させ、攪拌しながら30mlのアセトンをゆっくり添加することで沈殿させた。精製した生成物を真空下50℃で一晩乾燥させた。
【0081】
(実施例2:高酸化状態のフェロセン誘導体、VFcTMEDAの化学的合成)
VFcTMEDA化合物を以下のように化学的に合成してもよい。実験用試薬は実施例1で説明したように入手し、テストも同様の実験装置で行った。
【0082】
0.20gのビニルフェロセンおよび0.60gのTBAPFを10mlのアセトン/水(3/1)混合液に溶解させた。1.00−2.00mlのTMEDAを添加した。脱酸素化を10分間した後、ビニルフェロセンの酸化を開始するために、1.0mlのアリコートの酸素フリーな0.50g/mlの過硫酸塩溶液を反応混合物に添加した。反応混合物を窒素下で6時間還流した。冷却後、化合物を沈殿させるために、急速に攪拌した200mlのアセトンに反応混合物を1滴ずつ滴下した。沈殿物をアセトンで洗浄し、水に溶解させアセトンで沈殿させるサイクルを繰り返すことで精製した。更に、上述したようにカラムクロマトグラフィで精製を行った。精製した生成物を真空下50℃で一晩乾燥させた。本合成法で達成される一般的な収率は40−60%である。
【0083】
(実施例3:高酸化状態のフェロセン誘導体、VFc−テトラメチルプロピレンジアミン(TMPDA)の電気化学的合成)
ビニルフェロセンの過硫酸塩はシグマ−アルドリッチ社(米国、ミズーリ州セントルイス)から入手した。テトラメチルプロピレンジアミン(TMPDA)はアボカド リサーチ ケミカルス(英国、ランカシャー、LA3 2XY、ヘイシャム)から入手した。カラムクロマトグラフの分離に使用した弱酸イオン交換樹脂はアンバーライトIRC−50(16−50メッシュ、シグマ−アルドリッチ社)である。使用した他の全ての試薬は分析グレードが保証されたものであり、全ての溶液は脱イオン水で調製した。
【0084】
一般的な方法では、支持電解質として0.10MのTBAPFを含むアセトン中に0.10MのVFcおよび0.50MのTMPDAを含む20mlを0.40Vで電解した。勢いよく窒素をパージしながらの電解の全期間で急速な質量移動を確認した。電極表面上に生成物がその低溶解性のために堆積し電極の汚染や皮膜に通じることを回避するために、セルを超音波槽に入れた。電流が初期値の2%未満に低下した後、電解が完了したと判断した。電解された溶液の溶媒を減圧下でエバポレートした。固化した残渣にアリコートの5.0mlの水を加えた。不溶性物質を濾別した。化合物を沈殿させるために、急速に攪拌した50mlのアセトン中に溶質を添加した。水に溶解−アセトンで沈殿のサイクルを繰り返すことで、最初の精製を行った。溶離液として5.0mMの塩酸を使用して弱酸イオン交換樹脂のアンバーライトIRC−50でのカラムクロマトグラフィにより化合物を更に精製した。溶離プロセスを電気化学的にモニタし、ボルタンメトリィのテストが0.55Vで酸化還元活性を示したときに溶離液の回収を開始し、ボルタンメトリィのピーク電流が最高値と比較して80%以上低下したときに溶離プロセスが完了したと判断した。溶離液を5.0%アンモニア溶液で中和し、ほぼ乾燥するまで減圧下でエバポレートした。アセトン/水の混合液で繰り返し洗浄することで塩化アンモニウムを除去した。得られた精製した固形分を5.0mlの水に溶解させ、攪拌しながら30mlのアセトンをゆっくり添加することで沈殿させた。精製した生成物を真空下50℃で一晩乾燥させた。
【0085】
(実施例4:高酸化状態のフェロセン誘導体、VFcTMPDAの化学的合成)
VFcTMPDA化合物を以下のように化学的に合成してもよい。実験用試薬は実施例3で説明したように入手し、テストも同様の実験装置で行った。
【0086】
0.20gのビニルフェロセンまたはその誘導体、および、0.60gのTBAPFを10mlのアセトン/水(3/1)混合液に溶解させた。1.00−2.00mlのTMPDAを添加した。脱酸素化を10分間した後、ビニルフェロセンの酸化を開始するために、1.0mlのアリコートの酸素フリーな0.50g/mlの過硫酸塩溶液を反応混合物に添加した。反応混合物を窒素下で6時間還流した。冷却後、化合物を沈殿させるために、急速に攪拌した200mlのアセトンに反応混合物を1滴ずつ滴下した。沈殿物をアセトンで洗浄し、水に溶解させアセトンで沈殿させるサイクルを繰り返すことで精製した。更に、上述したようにカラムクロマトグラフィで精製を行った。精製した生成物を真空下50℃で一晩乾燥させた。本合成法で達成される一般的な収率は40−60%である。
【0087】
(実施例5:VFcTMEDAおよびVFcTMPDAのサイクリックボルタモグラム分析)
0.10MのVFcの20mlを、種々の濃度、すなわち、0M、0.050M、0.10M、0.20Mおよび0.30MのTMEDAの1mlを含むバイアルに入れた。脱酸素化を10分間した後、ビニルフェロセンの酸化を開始するために、1.0mlのアリコートの酸素フリーな0.50g/mlの過硫酸塩溶液を反応混合物に添加した。図3に示すように、5つの混合物のサイクリックボルタモグラムを得た。
【0088】
最初のボルタモグラム(a)では、主としてシステムのより高いiRドロップのために、若干大きいピーク−トゥ−ピークのポテンシャル分離(65−70mV)を除いて、VFc/VFcの酸化還元結合に帰する0.25Vで可逆的プロセスの全特性を示す。しかしながら、この酸化還元結合のカソード電流iが、アノード電流iと比較して大きく低下し(i/i=0.30)、0.10MのTMEDAの存在下で可逆的特性を失う。TMEDAの濃度が上昇すると、一般に電気化学的に可逆的で、化学的に全体として不可逆的なプロセス(EC)が得られる。これらの変化は、酸化生成物、VFcが形成されると、即座にTMEDAと反応し、これにより電極表面でのVFcの濃度を低下させることを示唆している。スキャンレートを2から2000mV/sで変化させても、i/i比に変化は見られず、VFcおよびTMEDA間の反応は電気化学的時間スケールで非常に早いことを示している。より高いTMEDA濃度で見られるVFc/VFc結合のi/iの実質的な‘0’値は、化学反応の急速で完全な追跡と一致する。更に正のポテンシャルにスキャンすると、第2プロセスの酸化電流がTMEDAの濃度の上昇と共に増加することが見られる。しかしながら、このボルタンメトリィの波形は正弦波状のままである。
【0089】
更に、テスト後はいつも、電気化学セルの底に少量の褐色の油性物質が見られる。大量のアセトンの添加でそれを固化して反応混合物から分離した。ビニルフェロセンとは異なり、褐色の固形分は容易に水に溶解した。電気化学的テストでは、その中のいくつかの成分が、第2の酸化還元プロセスの挙動に相当するポテンシャルで高度に可逆的な酸化還元挙動を示すことを現している。電気化学的に不活性な成分の除去および溶媒のエバポレーションは、以下に特徴付けされるVFcTMEDAおよびVFcTMPDAの結晶化に帰結する。これらは、通常の環境条件下で溶液中における可逆的な鉄(III)/鉄(IV)遷移を表す真のFc塩のみである。図4および図13に示すように、サイクリックボルタンメトリィのテストでは、TMEDA等のアミンの存在下におけるVFcの第2の酸化還元プロセスとよく一致する酸化還元電位差と共に高度に可逆的な一組の電流ピークをはっきりと示している。更に、溶液に対する少量のTMEDAの添加は、VFcTMEDAの酸化電流の実質的な増加、還元電流の減少となり一般的な正弦波状のボルタモグラムが得られるが、一方、VFcTMEDAの非存在下で実験したときには酸化電流が見られず、化合物の高酸化状態の鉄(IV)によるTMEDAの急速な電気触媒的酸化を示す。テストした第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンの中では、これらの全てがVFcTMEDAまたはVFcTMPDAにより電気触媒的に酸化されうる。
【0090】
(実施例6:VFcTMEDAおよびVFcTMPDAの特徴付け)
VFc、VFcTMEDAおよびVFcTMPDAのUVスペクトルをアジレント(Agilent)社の8453 紫外可視(UV−visible)吸光光度計を使用して測定した。UVスペクトルを図5に示した。VFcTMEDAおよびVFcTMPDAの両者について25nmのブルーシフトが見られ、このことは、VFcにおける鉄中心からの1つの電子の除去の結果として、電子のπ結合がVFcの一部に分断されたことを反映する。
【0091】
メスバウア(Mossbauer)分光分析は、ロジウムマトリックス中の25ミリキュリィ(mCi)のコバルト源を有するイーエステクノロジィ社のエムエス 105(ES−Technology MS 105)分光計で行った。スペクトルは、298ケルビン(K)で鉄箔に対して記録した。VFcTMEDAについて得られたメスバウアスペクトルを図6に示す。四極子分裂ΔEq=0.62mm/sおよび異性体シフトδ=0.30mm/sのメスバウアパラメータは、低スピンの第二鉄(ferric)種に一般的である。通常、フェロセン誘導体では、0.50mm/s以下(〜0.50mm/s)のΔEq、2.20mm/s以下(〜2.20mm/s)のδが得られる。
【0092】
VFcTMEDAの分子量は、フィニガン/マット社のエルシィキュウ 質量分光計(Finnigan/MAT LCQ Mass Spectrometer)(カリフォルニア州サンノゼのサーモフィニガン社)(ThermoFinnigan、San Jose、CA)で決定した。VFcTMEDAの電子スプレーイオン化質量スペクトルを図7Aに示す。フェロセン誘導体の場合によく見られるように、VFcTMEDA中の極微量(<5%)の重合の失敗の生成物によるものであるが、VFcの二量体が425(M+1)でより高い相対強度を示している。これはおそらくそのより高い安定性のためである。VFcTMEDAの分子質量は、m/z328で見られ、m/z327(M−1)で非常に高い強度が見られる。ビニルフェロセン基に隣接するメチレン基で水素ラジカルが化合物から容易に失われることが考えられる。VFcに配位したアミン窒素での分子イオンの断片化(フラグメンテーション)により、m/z256で他の主要な一次断片イオン、[VFc−N(CH、が生成される。
【0093】
VFcTMPDAの分子量も質量分光法で決定した。電子スプレーイオン化質量スペクトルを図7Bに示す。VFcTMPDAの分子質量はm/z342で見られる。この結果は、VFcTMEDAのMSスペクトルと一致し、VFcTMPDAが−CH−の一部でVFcTMEDAと異なるため、14分子量単位分高くなっている。同様に、非常に高いピークが分子質量(M)より1単位小さいm/z341で見られる。第3のピークがm/z255で見られ、おそらくVFcに配位したアミン窒素での分子イオンの断片化に起因すると考えられる。
【0094】
パーキンエルマ社のスペクトラム 2000(Perkin Elmer Spectrum 2000)FT−IR分光計を用いて分解能4cm−1でKBrペレットとしてフーリエ変換赤外吸収(FT−IR)スペクトルを測定した。全てのスペクトルは、特に示した以外は室温で測定した。FT−IR分光光学的測定(図8Aおよび8B)では、(i)酸化的な処理を行ったときにVFcおよびTMEDA/TMPDAの反応の間の真の化学反応が生じること、(ii)VFcのビニル基が維持されること、(iii)VFc分子間のラジカル結合はほとんど生じないこと、および、(iv)TMEDA/TMPDAがVFcと反応し、図1Aおよび1Bに示すように、安定な化合物が生成することが更に確認された。VFcのシクロペンタジエニル環の一方のビニル基に起因する1630cm−1での強い吸収が認められることが注目に値する。このことは、ビニル基の完全な維持をよく示している。1500−1200および700−600cm−1領域にこのことを支持する証拠が認められる。更に、スペクトルは、3330および1140cm−1での強い吸収により明らかなように、酸化的な処理の間でシクロペンタジエニル環が安定なことを示している。
【0095】
300MHzで作動するブルカー社のACF3000(Bruker ACF3000)分光計を使用して核磁気共鳴(NMR)スペクトルを測定した。VFcTMEDA形成の証拠は、図9Aに示すように、プロトン(H)NMRスペクトルおよび二次元の炭素−水素の異核相関NMRスペクトルでも示される。図9Aに見られるように、HNMRスペクトルおよび二次元13C−H相関スペクトルは互いに補足的であり、所望の化学構造と一致する水素原子の9ケミカルシフトが0から6.0ppm間に見られ、炭素原子の12ケミカルシフトが見られる。これらのスペクトルの分析で、VFcTMEDAの形成が別々に確認された。
【0096】
(実施例7:VFcTMEDAの挿入剤としての使用)
初期の実験では、本発明の化合物がDNA挿入特性を有することを見いだした。本発明の化合物の核酸挿入特性の評価を得るために比較試験を計画した。この方法の基本は、1つは蛍光性、1つは非蛍光性の2つの挿入剤を含むことである。まず、蛍光性の挿入剤で二重らせんDNAを飽和させる。そして、第2の挿入剤、この場合はVFcTMEDAを反応系に濃度を徐々に上昇させながら導入する。2つの分子は二重らせんDNAの同様なサイトに結合すると考えられる。比較試験では、その系におけるVFcTMEDAの濃度の増加を通じて、DNAに結合した蛍光性分子のVFcTMEDAによる置換の間に蛍光強度の変化をモニタした。公知の糸状(threading)挿入剤である臭化エチジウム(EB)を蛍光性挿入剤に選択した。EBは効率的なDNA挿入剤として広く研究されており、核酸分析に用いられる最もポピュラーな蛍光性挿入剤の1つである。EBは、二重らせんDNAに結合して25倍の蛍光強度を示し、蛍光測定でフリーなEB分子に対して十分な感度および良好な識別力を提供する。更に、EB挿入の動力学は極めて速く、平衡に達するのに要する時間を顕著に低下させる。
【0097】
このアプローチが適切であることを確かめるために、よく研究された非蛍光性挿入剤であるナフタレンジイミド(ND)の濃度を増加させて(0−100μM)、EBで飽和した二重らせんDNA溶液にまず添加したところ、ゲル電気泳動実験では、NDの濃度の増加に対してDNAに挿入したEBの蛍光強度が徐々に低下することを示した。実験データから推定した結合定数Kの4.0×10は、文献値とよく一致している。引き続き、同じアプローチを用いてDNAに結合するEBと競争する能力について、VFcTMEDAを調査した。その結合能を試験するために、異なる量のVFcTMEDAを、EBで飽和した二重らせんDNAと混合した。図9に示すように、VFcTMEDAは二重らせんDNAに対する顕著な結合親和性を示した。レーン1〜5は異なるVFcTMEDA/EBの比に対応する。VFcTMEDA/EBの比が高いほど、蛍光強度が低下する。VFcTMEDA/EBのより高い比で得られるDNAのより低い蛍光強度(レーン3〜5)は、より多くのVFcTMEDA分子が二重らせんDNAに結合し、より多くの量のEB分子が置換されることを示唆している。第2レーンに示したように、1/5程度の低いVFcTMEDA/EBの分子比で、DNA結合EBの50%以上が置換されており、VFcTMEDAがEBより強力なDNA挿入剤であることを示唆している。実験データから推定される結合定数Kは、4.4×10であり、EBのおよそ26倍の向上に相当する。しかしながら、ゲルイメージの消光(closer)試験は、蛍光強度が低下するのに伴い、DNA移動度のシステム的な変化があることを示している。VFcTMEDA/EBの比が高いほど、ゲルイメージに出現するバンドが高くなり、続いて、DNAの移動度が遅くなる。MS分光法で決定されたように、臭化エチジウムの分子質量が324であり、VFcTMEDAが328である。いずれもモノカチオン性である。それゆえ、EBおよびVFcTMEDA間の質量差2%以下では、そのような大きな移動度変化を引き起こすため除外される。VFcTMEDAがEBより多くのDNA上のサイトに挿入するということがもっともらしい説明である。低VFcTMEDA/EB比では、VFcTMEDAがDNAにフリーサイトで好適に挿入し、その濃度の増加によりEBに取って代わる。このことは、得られる4.4×10のK値が真値より小さいことを示している。
【0098】
(実施例8:アミンの触媒的酸化におけるVFcTMEDAの使用)
VFcTMEDAの0.0Mおよび5.0mMを含む溶液中におけるアミンのガラス状炭素電極でのボルタモグラムを、例としてTMEDAについて、図10に示す。比較のため、PBS中におけるVFcTMEDAのボルタモグラムについても図10に示した。純粋なTMEDA溶液では、0.0および0.70Vの間で酸化電流は見られず、TMEDAが0.70Vより低い正のポテンシャルで酸化されないことを示している。事実、PBS中におけるアミンの電気化学的酸化は、0.90Vを超えるポテンシャルでのみ生じる。VFcTMEDAの存在下では、ピークポテンシャルが400mV程度で負側にシフトし、TMEDA酸化のオーバーポテンシャルが概ね0.60Vに低下することが考えられる。一方では、VFcTMEDAの還元ピークが顕著に減少しており、VFcTMEDAおよびTMEDAの間の効果的な触媒反応が溶液中で生じることを示唆している。他のアミン酸化でも、第1級、第2級、第3級にかかわらず、同様の触媒効果が得られている。
【0099】
また、他のアミンの触媒的酸化をVFcTMEDAで行った。同量のPBSを含む溶液中での5.0mMの(a)アンモニア(NH)、(b)エチルアミン(CNH)、(c)エチルメチルアミン(CH−NH−C)のサイクリックボルタモグラムを図12に示す。VFcTMEDAはガラス状炭素電極で0.5mMの濃度で存在する。VFcTMEDAの存在下では、アンモニアの酸化のピークポテンシャルがエチルアミンの場合と同様に約0.58Vであることが判る。エチルメチルアミンでは、ピークポテンシャルが約0.59Vである。VFcTMEDAの存在下では、3つの全ての酸化ポテンシャルは、VFcTMEDAを含まないPBS中におけるアミンの電気化学的酸化の0.9V以上の一般的に知られた酸化ポテンシャルより小さい。
【0100】
VFcTMPDAによるアミンの酸化におけるボルタモグラムの応答がVFcTMEDAと同様であることが図13から明らかであり、ピーク酸化ポテンシャルが約0.58V、酸化電流が約8×10−5アンペアである。
【0101】
pH値がアミンの触媒的酸化に十分な効果を有することが見いだされている。電解質溶液のpHは、10mlの0.10Mリン酸(HPO)溶液に対する0.10Mリン酸ナトリウム(NaPO)溶液の添加により調整される。VFcTMEDAの電気化学的酸化がプロトンを含まないため、その酸化還元ポテンシャルはpHに依存する。しかし、効率的な触媒効果を得るために、メディウムのpHを7.0以上にする必要があり、アミンの脱プロトン化が酸化プロセスの基本部分であることを示している。従って、酸性メディウムでは、アミンの触媒的酸化が妨げられる。更に、溶解した酸素と反応すると、0.20mg/mlのVFcTMEDAを含むTMEDAの明黄色(light yellow)溶液が暗黄色(pale yellow)から濃褐色(deep brown)に変化し、アミンが通常の環境条件下で溶解した酸素により化学的に酸化したことを示している。このことは、水中のアンモニア等のアミンに対する汚染除去システムの開発する上で特に魅力的である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1A】本発明の水溶性で高酸化状態の化合物の例、すなわち、ビニルフェロセン テトラメチルエチレンジアミン(以下、VFcTMEDAと略記する。)を示し、ジアミン部分を一座配位リガンドとしてメタロセン部分に結合するように示す。
【図1B】本発明の水溶性で高酸化状態の化合物の例、すなわち、ビニルフェロセン テトラメチルプロピレンジアミン(以下、VFcTMPDAと略記する。)を示し、ジアミン部分を一座配位リガンドとしてメタロセン部分に結合するように示す。
【図1C】ジアミン部分を二座配位リガンドとしてメタロセン部分に結合するように示したVFcTMEDAを示す。
【図1D】ジアミン部分を二座配位リガンドとしてメタロセン部分に結合するように示したVFcTMPDAを示す
【図2】VFcTMEDAを調製するための反応式を示す。
【図3】TMEDAの濃度(a)0M、(b)0.050M、(c)0.10M、(d)0.20M、(e)0.30Mの存在下におけるビニルフェロセン(VFc)のサイクリックボルタモグラムである。
【図4】TMEDAの濃度(a)0M、(b)5mMの存在下におけるVFcTMEDAのサイクリックボルタモグラムである。
【図5】紫外可視スペクトルを示し、(a)はVFc、(b)はVFcTMEDA、(c)はVFcTMPDAである。
【図6】VFcTMEDAのメスバウアスペクトルである。
【図7A】VFcTMEDAの質量スペクトルである。
【図7B】VFcTMPDAの質量スペクトルである。
【図8A】VFcTMEDAのFT−IRスペクトルである。
【図8B】VFcTMPDAのFT−IRスペクトルである。
【図9A】VFcTMEDAのNMRスペクトルである。
【図9B】VFcTMPDAのNMRスペクトルである。
【図10】VFcTMEDAのDNA結合特性を示し、エチジウムブロマイド(EB)に対するVFcTMEDAの比が、左側から右側へ、0/1、1/5、1/2、1/1および2/1である。
【図11】VFcTMEDAの濃度(a)0M、(b)0.50mMの存在下における5mMのTMEDAの酸化のサイクリックボルタモグラムであり、PBSはいずれのサンプルにも存在し、(c)はPBS中におけるVFcTMEDAのサイクリックボルタモグラムである。
【図12】PBS中で濃度0.5mMのVFcTMEDAの存在下における5.0mMの(a)NH、(b)CNH、(c)CH−NH−Cの酸化のサイクリックボルタモグラムである。
【図13】(a)VFc−TMPDA、(b)PBS中のVFc−TMPDAによるアミンの触媒的酸化のサイクリックボルタモグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(I)で表され、Mが4族〜10族(IUPAC、1990)から選択された遷移金属であり、Rが水素または選択的に置換されたC1〜C6アルキル基であり、yが1または2の整数であり、Rが水素、または、下記化学式(II)、化学式(IIA)若しくは化学式(IIB)で表されるビニル基であって、Rが水素若しくは選択的に置換されたC1〜C6アルキル基であり、RおよびRが選択的に置換されたC1〜C6アルキル基から別々に選択され、RおよびRが水素若しくは選択的に置換されたC1〜C6アルキル基から別々に選択され、nが2若しくは3の整数であることを特徴とする化合物。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【請求項2】
下記化学式(IA)で表され、M、R、R、R、R、RおよびRが請求項1で定義されたものと同じであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化5】

【請求項3】
下記化学式(IB)で表され、M、R、R、R、R、RおよびRが請求項1で定義されたものと同じであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化6】

【請求項4】
水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−プロピル、ブチル、n−ブチル、t−ブチル、ペンチル、n−ペンチル、イソ−ペンチル、n−ヘキシルおよびイソ−ヘキシル、並びに、これらが選択的に置換された全ての基で構成するグループから、RおよびRがそれぞれ別々に選択されたことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−プロピル、ブチル、n−ブチル、t−ブチル、ペンチル、n−ペンチル、イソ−ペンチル、n−ヘキシルおよびイソ−ヘキシル、並びに、これらが選択的に置換された全ての基で構成するグループから、Rおよび/またはRがそれぞれ別々に選択されたことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
水素原子、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−プロピル、ブチル、n−ブチル、t−ブチル、ペンチル、n−ペンチル、イソ−ペンチル、n−ヘキシルおよびイソ−ヘキシル、並びに、これらが選択的に置換された全ての基で構成するグループから、Rおよび/またはRがそれぞれ別々に選択されたことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
化学式(I)の下記化学式で表される一部が、テトラメチル−1−メチル−エチレンジアミン、テトラエチル−エチレンジアミン、N,N’−ジエチル−N,N’−ジメチル−エチレンジアミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジエチル−1−メチル−エチレンジアミン、テトラプロピル−エチレンジアミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジプロピルエチレンジアミン、テトラメチル−プロピレンジアミン、テトラエチル−2−エチル−プロピレンジアミン、N,N’−ジエチル−N,N’−ジメチル−プロピレンジアミン、およびN,N’−ジイソプロピル−N,N’−ジメチル−1,3−プロパンジアミンで構成するグループから選択されることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化7】

【請求項8】
Mが、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、ジルコニウム、クロム、チタン、バナジウム、オスミウム、ルテニウムで構成するグループから選択される金属であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項9】
前記化合物の総電荷が正であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
前記化合物が下記化学式(VII)で表されることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化8】

【請求項11】
前記化合物が下記化学式(VIII)で表されることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化9】

【請求項12】
有機金属化合物を調製するプロセスであって、
下記化学式(III)で表される化合物を、下記化学式(IV)で表される化合物と反応させ、化学式(III)、化学式(IV)において、Mが4族〜10族(IUPAC、1990)から選択された遷移金属であり、Rが水素または選択的に置換されたC1〜C6アルキル基であり、Rが水素、または、下記化学式(II)、化学式(IIA)若しくは化学式(IIB)で表されるビニル基であって、Rが水素若しくは選択的に置換されたC1〜C6アルキル基であり、RおよびRが別々に選択的に置換されたC1〜C6アルキル基であり、RおよびRが別々に水素若しくは選択的に置換されたメチル基であり、nが2または3の整数であり、
前記反応が酸化エージェントの存在下で行われることを特徴とするプロセス。
【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【請求項13】
前記反応の混合物が極性有機溶剤を含むことを特徴とする請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記酸化エージェントが、過硫酸塩、塩素酸塩、臭素酸塩、過酸化物の塩、またはこれらの混合物で構成するグループから選択された化学酸化エージェントを含むことを特徴とする請求項12に記載のプロセス。
【請求項15】
前記反応が支持電解質の存在下で行われる電解反応であり、前記酸化エージェントが電源により供給される電位差であることを特徴とする請求項12に記載のプロセス。
【請求項16】
前記支持電解質が、テトラブチルアンモニウム ヘキサフルオロフォスフェートであることを特徴とする請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記生成物を沈殿化剤中で沈殿させるステップを更に含むことを特徴とする請求項12に記載のプロセス。
【請求項18】
請求項1で定義された化学式(1)で表される化合物の核酸挿入剤としての使用。
【請求項19】
請求項1で定義された化学式(1)で表される化合物のアミン酸化用触媒としての使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2008−504230(P2008−504230A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508307(P2007−508307)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【国際出願番号】PCT/SG2005/000120
【国際公開番号】WO2005/100372
【国際公開日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(506341984)エージェンシィ フォア サイエンス、テクノロジィ アンド リサーチ (1)
【Fターム(参考)】