説明

安定化された脂肪族及び/または脂環族イソシアナートを含有する組成物

【課題】
ポリウレタン等の合成樹脂やめがねレンズ等の光学用樹脂に好適に使用されるイソシアナート成分の保存による着色や白濁を抑制する為の安定化方法において、従来技術より有効な方法が求められている。
【解決手段】
脂肪族または脂環族イソシアナート化合物を含有する透明樹脂用のイソシアナート成分の酸度を1〜100ppmに調整することにより、従来技術よりさらに優れた長期保存安定性と品質向上とを実現することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンフォームや、塗料、接着剤等の合成樹脂ばかりでなく、高度な透明性を要求されるめがねレンズ等の光学用樹脂に使用されるウレタン樹脂の原料として好適に使用されるイソシアナート化合物、特に、脂肪族イソシアナート化合物の保存安定性に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イソシアナート化合物は、ウレタン樹脂の原料等として非常に広範囲で使用され、膨大な規模で商業生産されている化合物であり、その有用性は高い。しかしながら、イソシアナート化合物は、イソシアナート基の示す非常に高い反応性の為に安定性を長時間維持することが難しく、長期の保管中に着色或いは、自己重合による白濁を引き起こす場合がある。また、容器に詰めたイソシアナート化合物を抜き出して使用した場合、空気と接触した容器内の残液は、その安定性が極度に低下する場合があり、しばしば、取り扱い上非常に注意を払う必要がある。
【0003】
このようなイソシアナート化合物の安定化を図る目的で、非常に多数の検討がなされており、様々な手法が提案されている。一般的には、安定剤を添加するという形で安定化が図られている(例えば、特許文献1〜11参照)。中でも、特許文献11で提案された安定剤は、その他の特許文献で提案されたものと比べその安定剤としての効果が大きい
【特許文献1】米国特許3715381号公報
【特許文献2】特公昭45−033438号公報
【特許文献3】特開昭50−036546号公報
【特許文献4】独国特許2837770号公報
【特許文献5】米国特許3247236号公報
【特許文献6】特開昭50−101344号公報
【特許文献7】特開昭57−123159号公報
【特許文献8】特開昭63−179917号公報
【特許文献9】特開平1−125359号公報
【特許文献10】特開平5−078304号公報
【特許文献11】特開平9−087239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、光学材料用途等の透明性を要求される用途に用いるイソシアナート化合物に対しては、着色の防止、白濁の抑制を、さらに高いレベルで実現することが求められている。従来の技術において提案された安定剤によるイソシアナート化合物の着色と白濁の抑制は、この高いレベルの要求を十分に満足できない場合があった。
【0005】
上述のように、特許文献11で提案された安定剤は、その他の特許文献で提案されたものと比べその安定剤としての効果が大きいが、それでも上記の高いレベルの要求を満足させることは困難であった。また、製造されたイソシアナート化合物のロットの違いにより、その安定剤としての効果に差が生ずる場合があり、保管可能期間の予測や適切な添加量の決定が困難であった。
【0006】
よって、上記の高いレベルの要求(例えば、1年間程度の長期間の保管における着色、或いは、自己重合による白濁の抑制や、途中まで使用した容器内の残液の繰り返し使用を可能とするような目標)に応えることができ、更には、異なるロットのイソシアナート化合物も一様に安定化を図ることができる方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の課題を解決するために、イソシアナート化合物の安定化方法について、安定剤のみならずイソシアナート化合物側にも着目して、鋭意検討してきた。その結果、イソシアナート化合物を含有するイソシアナート成分の酸度を一定の範囲内に調整することにより、イソシアナート化合物の保存安定性及び再現性が格段に向上することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の形態は、
[1] 少なくとも1種類の脂肪族または脂環族イソシアナート化合物を含有する透明樹脂用イソシアナート成分であって、前記脂肪族または脂環族イソシアナート化合物の総量を基準としたHCl換算の酸度が1〜100ppmである、イソシアナート成分に関する。
【0009】
以下、[2]〜[10]は、それぞれ本発明の好ましい実施態様の1つである。
[2] ハロゲン化水素ガスを添加すること、および/または、蒸留操作を行いこれにより得られた留分の少なくとも一部を除去することにより、酸度を調整して得られた、上記[1]に記載のイソシアナート成分
[3] 前記脂肪族または脂環族イソシアナート化合物がキシリレンジイソシアナート、2,5−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−〔2,2,1〕−ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−〔2,2,1〕−ヘプタン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,6ジイソシアナトヘキサン、イソホロンジイソシアナート、およびメチレンビス(4,1−シクロへキシレン)ジイソシアナートから選ばれる1つ以上の化合物である、上記[1]または[2]に記載のイソシアナート成分。
[4] 前記脂肪族及または脂環族イソシアナート化合物がキシリレンジイソシアナートである上記[3]に記載のイソシアナート成分。
[5] 上記[1]から[4]のいずれか1項に記載のイソシアナート成分を用いて得られた、透明樹脂用組成物。
[6] ポリチオール及び/またはポリオールを含有する上記[5]に記載の透明樹脂用組成物。
[7] 光学材料用である、上記[5]または[6]に記載の透明樹脂用組成物。
[8] 上記[7]に記載の組成物を使用して作製した光学材料。
[9] 上記[7]に記載の組成物を使用してプラスチックレンズを作製する方法。
[10] 上記[8]に記載の光学材料からなるプラスチックレンズ。なお、ここで「からなる」とは、当該プラスチックレンズの全部が当該光学材料で構成されている場合、および、当該プラスチックレンズの一部が当該光学材料で構成されている場合、の双方を含む趣旨である。
【0010】
本発明の、第2の形態は、
[11] 少なくとも1種類の脂肪族または脂環族イソシアナート化合物を含有する透明樹脂用のイソシアナート成分の前記脂肪族または脂環族イソシアナート化合物の総量を基準としたHCl換算の酸度を、ハロゲン化水素ガスを添加すること、および/または、蒸留操作を行いこれにより得られた留分の少なくとも一部を除去することにより、1〜100ppmに調整する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、より高いレベルでのイソシアナート化合物の安定化が可能となった。この結果、例えば、厳重な窒素雰囲気下で取り扱わないと経時変化による着色すること、僅かな空気との接触による白濁が発生すること、等の従来の問題が改善され、保管期間を長期とすることで低下していた歩留まりが大幅に改善されることが期待できる。また、イソシアナート化合物の製造から廃棄に至るまでの各段階における厳重な窒素雰囲気の必要性が緩和され、イソシアナート化合物をより容易に取り扱う事が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の第1の形態は、少なくとも1種類の脂肪族または脂環族イソシアナート化合物を含有する透明樹脂用のイソシアナート成分であって、前記脂肪族または脂環族イソシアナート化合物の総量を基準とした酸度がHCl換算で1〜100ppmである、イソシアナート成分である。
【0013】
本発明の第1の形態であるイソシアナート成分は、少なくとも1種類の脂肪族または脂環族イソシアナート化合物を含有する。すなわち、当該イソシアナート成分が含有する脂肪族または脂環族のイソシアナート化合物は、1種類単独であっても良いし、2種類以上の組合せであっても良い。2種類以上の組合せである場合にあっては、脂肪族イソシアナート化合物同士の組合せであっても良いし、脂環族イソシアナート化合物同士の組み合わせであっても良いし、脂肪族イソシアナート化合物と脂環族イソシアナート化合物との組合せであっても良い。
【0014】
本発明の第1の形態であるイソシアナート成分は、ポリチオール等の他の成分と共に重合させて透明樹脂を製造するために、使用される。
【0015】
本発明の第1の形態であるイソシアナート成分において使用されるイソシアナート化合物は、分子内に少なくとも1個のイソシアナト基を有する化合物である。本発明による安定化の対象となるのは、該化合物のイソシアナト基の反応性の観点から、脂肪族骨格炭化水素基または脂環族骨格炭化水素基にイソシアナト基が結合した脂肪族または脂環族イソシアナートである。なお、ここでいう脂肪族または脂環族イソシアナートは、脂肪族骨格炭化水素基または脂環族骨格炭化水素基にイソシアナト基が結合していれば良く、それ以外の個所に芳香環を有していても良い。
【0016】
本発明における、脂肪族または脂環族イソシアナート化合物の具体例としては、例えば、分子内に1個のイソシアナト基を有する化合物である、ブチルイソシアナートやベンジルイソシアナート等のモノイソシアナート化合物や、分子内に2個以上のイソシアナト基を有する化合物である、ヘキサメチレンジイソシアナート、2,2−ジメチルペンタンジイソシアナート、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアナート、ブテンジイソシアナート、1,3−ブタジエン−1,4−ジイソシアナート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、1,6,11−ウンデカトリイソシアナート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアナート、1,8−ジイソシアナト−4−イソシアナトメチルオクタン、ビス(イソシアナトエチル)カーボネート、ビス(イソシアナトエチル)エーテル、リジンジイソシアナトメチルエステル、リジントリイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、ビス(イソシアナトエチル)ベンゼン、ビス(イソシアナトプロピル)ベンゼン、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアナート、ビス(イソシアナトブチル)ベンゼン、ビス(イソシアナトメチル)ナフタリン、ビス(イソシアナトメチル)ジフェニルエーテル、ビス(イソシアナトエチル)フタレート、メシチリレントリイソシアナート、2,6−ジ(イソシアナトメチル)フラン等の脂肪族ポリイソシアナート、
イソホロンジイソシアナート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、メチレンビス(4,1−シクロへキシレン)ジイソシアナート、シクロヘキサンジイソシアナート、メチルシクロヘキサンジイソシアナート、ジシクロヘキシルジメチルメタンジイソシアナート、2,2−ジメチルジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、2,5−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−〔2,2,1〕−ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−〔2,2,1〕−ヘプタン、3,8−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、3,9−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,8−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,9−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン等の脂環族ポリイソシアナート、
ビス(イソシアナトメチル)スルフィド、ビス(イソシアナトエチル)スルフィド、ビス(イソシアナトプロピル)スルフィド、ビス(イソシアナトヘキシル)スルフィド、ビス(イソシアナトメチル)スルホン、ビス(イソシアナトメチル)ジスルフィド、ビス(イソシアナトエチル)ジスルフィド、ビス(イソシアナトプロピル)ジスルフィド、ビス(イソシアナトメチルチオ)メタン、ビス(イソシアナトエチルチオ)メタン、ビス(イソシアナトエチルチオ)エタン、ビス(イソシアナトメチルチオ)エタン、1,5−ジイソシアナト−2−イソシアナトメチル−3−チアペンタン、2,5−ジイソシアナトテトラヒドロチオフェン、2,5−ビス(イソシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、3,4−ビス(イソシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、2,5−ジイソシアナト−1,4−ジチアン、2,5−ビス(イソシアナトメチル)−1,4−ジチアン、4,5−ジイソシアナト−1,3−ジチオラン、4,5−ビス(イソシアナトメチル)−1,3−ジチオラン、4,5−ビス(イソシアナトメチル)−2−メチル−1,3−ジチオラン等の含硫脂肪族イソシアナート、
そのほかにも、2,5−ジイソシアナトチオフェン、2,5−ビス(イソシアナトメチル)チオフェン等の含硫複素環化合物、などが挙げられるが、これら例示化合物に限定されるものではない。これら例示化合物の内、安定化の効果が特に顕著に現れる化合物としてはキシリレンジイソシアナート、2,5−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−〔2,2,1〕−ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−〔2,2,1〕−ヘプタン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,6−ジイソシアナトヘキサン、イソホロンジイソシアナート、およびメチレンビス(1,4−シクロへキシレン)ジイソシアナート等が挙げられ、特にキシリレンジイソシアナートへの効果が大きい。
【0017】
本発明の第1の形態であるイソシアナート成分は、本発明の目的を即なわない範囲で、脂肪族または脂環族イソシアナート化合物以外の物質を含有していても良い。
【0018】
本発明の第1の形態であるイソシアナート成分における「酸度」とは、室温でアルコールと反応し遊離する酸性分の量を、HClに換算して示した値である。HClに換算した酸成分の量の、脂肪族または脂環族のイソシアナート化合物の総量に対する割合を、重量比で示す。本発明の範囲では、ppmで標記することが便利である。酸度は、KOH等の無機塩基で滴定することにより測定可能であり、より具体的には、通常、実施例に示す方法により測定される。
【0019】
上述のように、イソシアナート成分の酸度は、脂肪族または脂環族のイソシアナート化合物の総量を基準として規定されるので、脂肪族または脂環族のイソシアナート化合物以外の物質の存在により影響を受けない。
【0020】
本発明の第1の形態であるイソシアナート成分は酸度が1ppm以上なので、安定化効果が十分に期待でき好ましい。酸度は、2ppm以上であればより好ましく、5ppm以上であれば更に好ましい。また、酸度が100ppm以下なので、イソシアナート化合物の劣化や着色が抑制され、または、該安定剤を混合したイソシアナート組成物を使用した合成樹脂の製造条件の変更の必要性が小さく、合成樹脂そのものの性能、特に色相や耐候性の低下が抑制されることから好ましい。90ppm以下であればより好ましい。80ppm以下であれば、更に好ましい。いずれにしても、安定化を図るイソシアナート化合物の種類、及び、必要とする保存期間や保存条件により添加量を調節することが好ましい。
【0021】
また、本発明の脂肪族または脂環族イソシアナート化合物を含有するイソシアナート成分は酸度が1〜100ppmの範囲内であることが必須要件であるが、本発明の安定化効果を妨げない限り、その他の通常イソシアナート化合物に使用される添加剤を含有することは何ら差し支えない。特に、前述の特許文献1〜11に記載の安定化剤の中でも一部の化合物については、本発明の第1の形態による安定化と併用することで、安定化効果が相乗的に増大する場合もあり、好ましい。
【0022】
本発明の第1の形態であるイソシアナート成分と、他の成分とを、重合させることにより、透明樹脂を作成することができる。すなわち、本発明の第1の形態であるイソシアナート成分を用いて得られた組成物は、イソシアナート成分の安定性に優れているため、透明樹脂用組成物として好ましい。
【0023】
イソシアナート成分と組み合わせて用いられる他の成分には特に制限はないが、活性水素基含有化合物を含んでなるものであることが好ましく、得られる樹脂の特性等を考慮するとポリチオールおよび/またはポリオールを含んでいることが特に好ましい。すなわち、本発明の第1の形態であるイソシアナート成分と、ポリチオールおよび/またはポリオールを含有する透明樹脂用組成物は、本発明の実施態様として特に好ましい。
【0024】
本発明において好ましく使用されるポリチオールおよびポリオールには特に制限は無く、1分子中に2以上のメルカプト基および/またはヒドロキシル基を有する化合物であれば、いずれも好適に使用することができる。例えば、特開昭64−90168号公報、特開昭64−90169号公報、などに記載されているポリチオールに代表される各種のポリチオールを、適宜使用することができる。
【0025】
本発明の好ましい実施態様である透明樹脂用組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記以外の重合成分(例えば、重合性不飽和基を有する化合物、エピスルフィド基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物等)、各種添加剤(光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色防止剤等)等を更に含有することができる。
【0026】
本発明の好ましい実施態様の1つである重合性組成物を重合して得られた透明樹脂には、透明性、屈折率等の光学的性質に優れたものが多い。したがって、本発明の好ましい実施態様の1つである透明樹脂用組成物を光学材料用に用いること、および、そのような組成物を用いて作製された光学材料は、ともに本発明の好ましい実施態様の1つである。この様な光学材料は、種々の形状で得ることができ、眼鏡レンズ、カメラレンズ、発光ダイオード(LED)、導光板、光ファイバ、プリズム等に用いる光学材料としての各種の用途に使用することが可能である。特に、メガネレンズ、カメラレンズ、発光ダイオード等の光学材料、光学素子として好適である。
【0027】
上記の光学材料には、透明性、屈折率、アッベ数等のレンズに要求される特性に優れたものが多い。したがって、上記の透明樹脂用組成物を使用してプラスチックレンズを作製する方法、および、上記の光学材料からなるプラスチックレンズは、ともに本発明の好ましい実施態様の1つである。
【0028】
プラスチックレンズとして、樹脂中に硫黄原子を導入した、ポリチオウレタン樹脂が知られている。ポリチオウレタン樹脂は、高屈折率で耐衝撃性が良好である等、バランスのとれた樹脂である。例えば特開昭63−46213号公報に記載されている樹脂に代表される各種のポリチオウレタン樹脂がプラスチックレンズに用いられている。そこで、ポリチオウレタン樹脂からなるプラスチックレンズを例にとり、本発明の好ましい実施態様である、プラスチックレンズを作製する方法、およびプラスチックレンズについて説明する。
【0029】
本発明の好ましい実施態様であるプラスチックレンズは、通常、注型重合により得られる。イソシアナート成分とポリチオール成分とを混合し、この混合溶液を必要に応じ適当な方法で脱泡を行った後、モールド中に注入し、通常低温から高温に徐々に昇温しながら重合させる。重合温度および時間は、モノマーの組成、添加剤の種類、量によっても異なり、一概に決めることはできないが、例えば20℃から開始し、120℃程度まで8〜24時間で昇温する。加熱することにより、樹脂が硬化し、樹脂を取り出すことが出来る。
【0030】
本発明に用いる硬化触媒としては3級アミン類、ホスフィン類、4級アンモニウム塩類、4級ホスホニウム塩類、スイス酸類、ラジカル重合触媒類、カチオン重合触媒類が通常用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
硬化触媒の具体例としてはトリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリ−n−ヘキシルアミン、N,N−ジイソピルエチルアミン、トリエチレンジアミン、トリフェニルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、ジエチルベンジルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジエチルシクロヘキシルアミン、N−メチルジシクロヘキシルアミン、N−メチルモリホリン、N−イソプロピルモルホリン、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、β−ピリコン、N,N’−ジメチルピペラジン、N−メチルピペリジン、2,2’−ビピリジル、ヘキサメチレンテトラミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)−7−ウンデセン等の三級アミン類、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリベンジルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン等のホスフィン類、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の4級アンモニウム塩類、テトラメチルホウホニウムブロマイド、テトラブチルホウホニウムクロライド、テトラブチルホウホニウムブロマイド等の4級ホウホニウム塩類、ジメチル錫ジクロライド、ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫ジラウレート、テトラクロロ錫、ジブチル錫オキサイド、ジアセトキシテトラブチルジスタノキサン、塩化亜鉛、アセチルアセトン亜鉛、塩化アルミ、フッ化アルミ、トリフェニルアルミ、テトラクロロチタン、酢酸カルシウム等のルイス酸、2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシー2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、t−ブチルパーオキシー2−エチルヘキサノエート、n−ブチル−4,4’−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のラジカル重合剤、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロ燐酸、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロ砒酸、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモン、トリフェニルホスフォニウムヘキサフルオロ硼酸、トリフェニルホスフォニウムヘキサフルオロ燐酸、トリフェニルスルフォニウムヘキサフルオロ砒酸等のカチオン重合触媒が挙げられるが、これら例示化合物に限定されるものではない。
【0032】
これら例示化合物の内、好ましいものはジメチル錫ジクロライド、ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫ジラウレート、テトラクロロ錫、ジブチル錫オキサイド、ジアセトキシテトラブチルジスタノキサン等の有機錫化合物である。上記硬化触媒は単独でも2種類以上を混合して用いても良いが、活性の異なる2種類以上の硬化触媒を併用すると得られる樹脂の色相が良好となり、または、光学ひずみ(脈離)が抑制される場合があり、組合せを適切に選択することが望ましい。
【0033】
本発明の樹脂成型の際には、目的に応じて公知の成形法における手法と同様に、鎖延長剤、架橋剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色防止剤、染料、充填剤、外部または内部離型剤、密着性向上剤などの種々の物質を添加してもよい。
【0034】
さらに、本発明の好ましい実施態様であるプラスチックレンズでは、必要に応じ、反射防止、高硬度付与、耐摩耗性向上、耐薬品性向上、防曇性付与、あるいは、表面研磨、帯電防止処理、ハードコート処理、無反射コート処理、染色処理等の物理的あるいは化学的処理を施すことができる。
【0035】
続いて、本発明の第2の形態である、イソシアナート成分の酸度の調整方法について説明する。本発明の第2の形態は、少なくとも1種類の脂肪族または脂環族イソシアナート化合物を含有する透明樹脂用のイソシアナート成分の前記脂肪族または脂環族イソシアナート化合物の総量を基準としたHCl換算の酸度を、ハロゲン化水素ガスを添加すること、および/または、蒸留操作を行いこれにより得られた留分の少なくとも一部を除去することにより、1〜100ppmに調整する方法である。
【0036】
本発明の第2の形態における、「脂肪族または脂環族イソシアナート化合物」および、「酸度」の趣旨は、本発明の第1の形態と同様である。
【0037】
本発明の第2の形態において、酸度調整用として用いることができるハロゲン化水素は、ハロゲンと水素とを有する化合物であれば特に制限はなく、任意の化合物を使用することができる。好ましい具体例としては、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素等が挙げられる。これらの内、取り扱い性を考慮すれば塩化水素が好ましい。
【0038】
本発明において用いることができるハロゲン化水素は、何ら特別なものである必要はなく、一般に市販されている無機酸を好ましく用いることができる。当該化合物は不純物が少ないものが好ましく、また、使用時に水分や酸素等を混合させないために、ボンベ充填のものが好ましい。
【0039】
本発明の第2の形態における、脂肪族または脂環族イソシアナート化合物を含有するイソシアナート成分へのハロゲン化水素の混合方法としては、例えば、当該イソシアナート成分の液中へガスフィード管を装入し、そのフィード管から直接一定量のガスを送り込むことができる。その際、ガスフィード管の先端がフィルターなどの多孔質の形状(ガスが細かく噴霧できる形状)であればより好ましい。一定量のガスを吹き込んだ後、或いは、吹き込みながら攪拌を施して当該液を均一にすることは、通常の操作として広く行われる。
【0040】
逆に、酸度の高い脂肪族及び/または脂環族イソシアナート化合物を含有するイソシアナート成分を使用する場合は、蒸留操作を施し、適度に初留分等の全部または一部をカットすることで、酸度を軽減することが可能であり、この様な場合において好ましい処理でもある。
【0041】
本発明の第2の形態により調整された後の脂肪族及び/または脂環族イソシアナート化合物を含有するイソシアナート成分は、調整法の限定の有無を除き、本発明の第1の形態であるイソシアナート成分と同様である。本発明の第2の形態により調整された脂肪族及び/または脂環族イソシアナート化合物を含有するイソシアナート成分の酸度は、1ppm以上であるので、安定化効果が十分に期待でき好ましい。酸度は、2ppm以上であればより好ましく、5ppm以上であれば更に好ましい。また、酸度が100ppm以下なので、イソシアナート化合物の劣化や着色が抑制され、または、該安定剤を混合したイソシアナート組成物を使用した透明樹脂の製造条件の変更の必要性が小さく、透明樹脂そのものの性能、特に色相や耐候性の低下が抑制され好ましい。酸度は、90ppm以下であればより好ましい。80ppm以下であれば、更に好ましい。いずれにしても、安定化を図るイソシアナート化合物の種類及び、必要とする保存期間や保存条件により添加量を調節することが好ましい。
【0042】
また、本発明の第2の形態により調整された脂肪族または脂環族イソシアナート化合物を含有するイソシアナート成分は酸度が1〜100ppmの範囲内であることが必須要件であるが、本発明の安定化効果を妨げない限り、その他の通常イソシアナート化合物に使用される添加剤を含有することは何ら差し支えない。特に、前述の特許文献1〜11に記載の安定化剤の中でも一部の化合物については、本発明で用いることができるハロゲン化水素と併用することで、安定化効果が相乗的に増大する場合もあり、好ましい。
【0043】

[実施例]
以下、実施例および比較例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
(イソシアナートの評価)実施例1〜4および比較例1〜4における酸度および安定性の評価は、以下の試験方法にしたがって行った。
・着色:JIS K−1556の色相APHA法による。
・濁り:無色透明のガラス容器へ装入し、蛍光灯下及びスライドプロジェクターランプ光越しに濁りを確認した。蛍光灯下で濁りが見えるものを×スライドプロジェクター越しに濁りが見えるものを△、スライドプロジェクター越しでも濁りが見えないものを○とした。
・酸度:攪拌子を入れた200mlビーカーに試料20gを正確に量りこみ、溶剤(アセトンとエタノールを1:1(容量比)の比率で混合したもの)100mlを加えホットプレート上にのせ加熱して試料を溶解させた後、室温で10〜20分間かきまぜながら反応させる。次に自動測定装置を用いてN/100メタノール性水酸化カリウム溶液(JIS K4101に準拠、メタノールを用いて調整、標定した0.1mol/Lメタノール性水酸化カリウムを正確に10倍希釈して調製する)で滴定し得られた滴定曲線の変局点を終点とする。またこの試験には同一条件で空試験を行う。滴定の結果から、下式にしたがい酸度(%)を算出する。
【0044】
【数1】

【0045】
A:試料の滴定に要したN/100メタノール性水酸化カリウム溶液の使用量(ml)
B:空試験に要したN/100メタノール性水酸化カリウム溶液の使用量(ml)
f:N/100メタノール性水酸化カリウム溶液のファクター
S:試料の重量(g)
・測定機器
自動滴定装置:平沼 COM−500
[実施例1]
純度99.8%以上、色相(APHA)10、透明性(プロジェクターランプ光越しで濁りなし)良好である、品質良好なm−キシリレンジイソシアナートに、塩化水素ガスを添加し、酸度を80ppmに調整した。このm−キシリレンジイソシアナートを、窒素ガスを充填した褐色瓶中に封入し、測定試料とした。試料を計5本以上作製し、40℃で保管して安定性試験を行った。試験開始後、10週間が経過したところで、試料のうち1本を開封し、着色および濁りの評価を行った。その後、10週間が経過するごとに試料を1本ずつ開封し、着色および濁りの評価を行った。開始から50週間が経過するまで、安定性試験を継続した。試験結果を表1に示す。
[実施例2〜3]
塩化水素ガスの添加量を変化させ、酸度をそれぞれ20ppm、および1ppmとした他は、実施例1と同様にして、試料の作製および安定性試験を行った。試験結果を表1に示す。
[比較例1〜3]
塩化水素ガスの添加量を変化させ、酸度をそれぞれ200ppm、120ppm、および0.1ppmとした他は、実施例1と同様にして、試料の作製および安定性試験を行った。試験結果を表1に示す。
[実施例4]
酸度を20ppmとした他は、実施例1と同様にして、試料を作製した。実施例1と同様に、試料を40℃で保管して50週間にわたり安定性試験を行い、10週間経過ごとにサンプリング、着色および濁りの評価を行った。
【0046】
但し、本実施例においては、サンプリングは、同一の試料(瓶)から行い、開封してサンプリングを行うことに毎に、窒素にて十分にパージを行ってから再度密封し、再び保管した。さらに、試験スタート時点(0週目)においても、開封、サンプリング操作、窒素パージ、および密閉を行った。
【0047】
試験結果を、表1に示す。
[比較例4]
酸度を0.1ppmとした他は、実施例4と同様にして、試料の作製、および安定性試験を行った。試験結果を、表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
(樹脂の評価)
上記の保管試験に使用したm−キシリレンジイソシアナートのうち、保管試験開始時(0週)と終了時(50週)のものを使用して樹脂を作製した。得られた樹脂の色相、濁り及び耐候性を評価した。評価方法は、以下のとおりである。
・ 樹脂の濁り:スライドプロジェクターランプ光越しに樹脂を視認し、濁りの認められるものを×、濁りの認められないものを○とした。
・ 樹脂の色相:色彩色差計を使用して樹脂のイエローインデックス(YI)を測定した。YIが5未満のものを○、5以上のものを×とした。
・ 耐候性:カーボンアークフェードメーターを使用して、得られた樹脂を20時間試験機にかけ、変色の大きかったものを×、僅かながら、変色があったものを△、変色がほとんどなかったものを○とした。
[実施例5]
実施例1で使用したm−キシリレンジイソシアナート18.2gに、重合触媒としてジブチル錫ジクロライドを10mg、紫外線吸収剤として商品名viosorb583を30mg、および内部離型剤として商品名ZelecUN40mgを添加して溶解し、続いて1,8−ジメルカプト−4−(メルカプトメチル)−3,6−ジチアオクタン16.8gを追加し、混合したものを真空度0.4kPaで混合しながら1時間脱気を行った。脱気終了後テフロン(登録商標)フィルターを使用して濾過し、濾過したろ液をガスケットとガラス板からなるモールド型に注入した。続いて、注入後のモールド型をオーブン内へセットし、25℃〜120℃まで20時間で昇温し重合を行った。重合終了後オーブン内の温度を室温まで戻し、型から、樹脂(平板状)を取り出した。得られた樹脂について、上記の方法に従って、濁り、色相、および耐候性を評価した結果を、表2に示した。
[実施例6〜8]
実施例5において、実施例1で使用したm−キシリレンジイソシアナートに代えて、実施例2〜4で使用したm−キシリレンジイソシアナートを用いた他は、実施例5と同じ条件で樹脂の作製および評価を行った。評価結果を、表2に示す。
[比較例6〜8]
実施例5において、実施例1で使用したm−キシリレンジイソシアナートに代えて、比較例1〜4で使用したm−キシリレンジイソシアナートを用いた他は、実施例5と同じ条件で樹脂の作製および評価を行った。評価結果を、表2に示す。
【0050】
【表2】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の脂肪族または脂環族イソシアナート化合物を含有する透明樹脂用のイソシアナート成分であって、前記脂肪族または脂環族イソシアナート化合物の総量を基準としたHCl換算の酸度が1〜100ppmである、イソシアナート成分。
【請求項2】
ハロゲン化水素ガスを添加すること、および/または、蒸留操作を行いこれにより得られた留分の少なくとも一部を除去することにより、酸度を調整して得られた、請求項1に記載のイソシアナート成分。
【請求項3】
前記脂肪族または脂環族イソシアナート化合物がキシリレンジイソシアナート、2,5−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−〔2,2,1〕−ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ−〔2,2,1〕−ヘプタン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,6ジイソシアナトヘキサン、イソホロンジイソシアナート、およびメチレンビス(4,1−シクロへキシレン)ジイソシアナートから選ばれる1つ以上の化合物である、請求項1または2に記載のイソシアナート成分。
【請求項4】
前記脂肪族または脂環族イソシアナート化合物がキシリレンジイソシアナートである請求項3に記載のイソシアナート成分。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のイソシアネート成分を用いて得られた、透明樹脂用組成物
【請求項6】
ポリチオール及び/またはポリオールを含有する請求項5に記載の透明樹脂用組成物。
【請求項7】
光学材料用である、請求項5または6に記載の透明樹脂用組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の組成物を用いて作製された光学材料。
【請求項9】
請求項7に記載の組成物を用いてプラスチックレンズを作製する方法。
【請求項10】
請求項8に記載の光学材料からなるプラスチックレンズ。
【請求項11】
少なくとも1種類の脂肪族または脂環族イソシアナート化合物を含有する透明樹脂用のイソシアナート成分の前記脂肪族または脂環族イソシアナート化合物の総量を基準としたHCl換算の酸度を、ハロゲン化水素ガスを添加すること、および/または、蒸留操作を行い、これにより得られた留分の少なくとも一部を除去することにより、1〜100ppmに調整する方法。

【公開番号】特開2006−273717(P2006−273717A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−90184(P2005−90184)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】