説明

安定化金属ナノ粒子の調製法

【課題】電子デバイスの導電性要素を作成するのに適した安定化金属ナノ粒子を調製するプロセスを提供する。
【解決手段】金属化合物、還元剤、及び安定剤を含む実施的に無溶媒の反応混合物中で、金属化合物を安定剤の存在下で還元剤と反応させて、無溶媒還元プロセスにより、表面上に安定剤の分子を有する複数の金属含有ナノ粒子を形成するステップを含む、安定化金属ナノ粒子を調製するプロセス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示するのは安定化金属ナノ粒子を調製するプロセスであり、実施形態において、無溶媒還元プロセスにより、導電性インク用途のための向上した安定度を有する有機アミン安定化銀ナノ粒子を調製する方法である。実施形態において、本方法は有機アミン安定剤の存在下での、フェニルヒドラジンのような還元剤による酢酸銀の化学的還元を含む。本方法で調製した金属ナノ粒子は、以前の方法で調製された金属ナノ粒子より遥かに安定である。さらに、本方法は、化学反応プロセスからトルエンのような環境に有害な溶媒を実質的に除去し、このことがさらに製造コストを下げる。このように調製した金属ナノ粒子は、以前の方法で調製された金属ナノ粒子よりも長い保存寿命及び低いアニール温度を有する。
【背景技術】
【0002】
液相堆積法を用いた電子回路要素の作成は、そのような方法が、特に、薄膜トランジタ(TFTs)、発光ダイオード(LEDs)、無線周波数識別(RFID)タグ、光電池のような電子的用途のための通常のアモルファスシリコン技術に対する、低コストの代替技術をもたらす可能性があるので興味深い。しかし、実際的用途に関する導電率、処理加工、及びコストの要件を満たす、機能性電極、ピクセルパッド、並びに導電配線、ライン及びトラックの堆積及びパターン化は課題となり得る。銀は金より価格が遥かに安く、また銀は銅よりも遥かに優れた環境安定性を有するので、銀は電子デバイス用の導電性要素として特に興味深い。
【0003】
特許文献1は、銀化合物、還元剤、安定剤、及び随意の溶媒を含んだ反応混合物中で、熱的に除去可能な安定剤の存在下で、銀化合物を、ヒドラジン化合物を含む還元剤と反応させて、銀含有ナノ粒子の表面に安定剤の分子を有する複数の銀含有ナノ粒子を形成するステップを含むプロセスを開示している。
【0004】
特許文献2は、液体、及び、安定剤を有する複数の銀含有ナノ粒子を含む組成物を開示しており、ここで銀含有ナノ粒子は、銀化合物、還元剤、安定化剤、及び溶媒を含んだ反応混合物中での、熱的に除去可能な安定剤の存在下における、銀化合物と、ヒドラジン化合物を含む還元剤との反応生成物であり、ここでヒドラジン化合物は、ヒドロカルビルヒドラジン、ヒドロカルビルヒドラジン塩、ヒドラジド、カルバゼート、スルホノヒドラジド、又はそれらの混合物であり、またここで安定剤は有機アミンを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7,270,694号
【特許文献2】米国特許第7,494,608号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子デバイス用の導電性要素を調製するための現在利用可能な方法はそれらの意図した目的には適しているが、導電性構造体を調製するのに適した改良されたシステム及び方法の必要性が引き続き残されている。さらに、電子デバイスの導電性要素を作成するのに適した、液体処理可能で安定な銀含有ナノ粒子組成物を調製するための、低コストで環境に安全な方法の必要性が引き続き残されている。さらに、現在入手できるものよりも長い保存寿命及び低いアニール温度を有する金属含有ナノ粒子組成物の必要性が引き続き残されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで説明するのは、金属化合物、還元剤、及び安定剤を含む実質的に無溶媒の反応混合物中で、金属化合物を安定剤の存在下で還元剤と反応させて、無溶媒還元プロセスにより、銀含有ナノ粒子の表面に安定剤の分子を有する複数の金属含有ナノ粒子を形成するステップを含むプロセスである。
【0008】
またここで説明するのは、液体と、金属含有ナノ粒子の表面に付着した安定剤を有する複数の金属含有ナノ粒子を含む組成物であり、ここで金属含有ナノ粒子は、金属化合物、還元剤、及び安定剤を含む実質的に無溶媒の反応混合物中での、安定剤の存在下における金属化合物と還元剤の反応の生成物である。
【0009】
さらに説明するのは、金属化合物、還元剤、及び安定剤を含む実質的に無溶媒の反応混合物中で、熱的に除去可能な安定剤の存在下で、金属化合物を還元剤と反応させて、無溶媒還元プロセスにより、金属含有ナノ粒子の表面に安定剤の分子を有する複数の金属含有ナノ粒子を形成し、金属含有ナノ粒子の表面に安定剤の分子を有する複数の金属含有ナノ粒子を分離し、液体と、金属含有ナノ粒子の表面に安定剤の分子を有する複数の金属含有ナノ粒子とを含む組成物を調製し、液体と、金属含有ナノ粒子の表面に安定剤の分子を有する複数の金属含有ナノ粒子とを含む組成物を、液相堆積法により基板上に堆積させて堆積組成物を形成し、堆積組成物を加熱して金属を含む導電層を形成するステップを含む、導電性金属構造体を形成するプロセスである。実施形態において、加熱は約130℃以下の温度で遂行される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
安定化金属ナノ粒子を調製するプロセスを開示する。このプロセスは、金属化合物、還元剤、及び安定剤を含む実質的に無溶媒の反応混合物中で、金属化合物を、安定剤の存在下で還元剤と反応させて、無溶媒還元プロセスにより、金属含有ナノ粒子の表面に安定剤の分子を有する複数の金属含有ナノ粒子を形成するステップを含む。同じく開示するのは、液体と、金属含有ナノ粒子の表面に安定剤の分子を有する複数の金属含有ナノ粒子とを含む組成物であり、ここで金属含有ナノ粒子は、金属化合物、還元剤、及び安定剤を含む実質的に無溶媒の反応混合物中での、安定剤の存在下における金属化合物と還元剤の反応生成物である。
【0011】
さらに開示するのは、金属化合物、還元剤、及び安定剤を含む実質的に無溶媒の反応混合物中で、熱的に除去可能な安定剤の存在下で、金属化合物を還元剤と反応させて、無溶媒還元プロセスにより、金属含有ナノ粒子の表面に安定剤の分子を有する複数の金属含有ナノ粒子を形成し、金属含有ナノ粒子の表面に安定剤の分子を有する複数の金属含有ナノ粒子を分離し、液体と、金属含有ナノ粒子の表面に安定剤の分子を有する複数の金属含有ナノ粒子とを含む組成物を調製し、液体と金属含有ナノ粒子の表面に安定剤の分子を有する複数の金属含有ナノ粒子とを含む組成物を、液相堆積法により基板上に堆積させて堆積組成物を形成し、堆積組成物を加熱して金属を含む導電層を形成するステップを含む、導電性金属構造体を形成するプロセスである。
【0012】
さらに開示するのは、任意の適切な順序で、基板と、随意の絶縁層と、随意の半導体層と、或は随意の絶縁層と随意の半導体層との組合せと、電子デバイスの導電性要素とを備えた電子デバイスであり、ここで導電性要素はアニールした金属含有ナノ粒子を含み、ここで金属含有ナノ粒子は、金属化合物、還元剤、及び安定剤を含む実質的に無溶媒の反応混合物中での、安定剤の存在下における、金属化合物と還元剤の反応生成物である。
【0013】
実施形態において、電極、接続導電ライン及び導電パッドを含む薄膜トランジスタのアレイを備えた薄膜トランジスタ回路が提供され、ここで電極、接続導電ライン、又は導電パッド、又はそれらの組合せはアニールした金属含有ナノ粒子を含み、ここで、金属含有ナノ粒子は、金属化合物、還元剤、及び安定剤を含む実質的に無溶媒の反応混合物中での、熱的に除去可能な安定剤の存在下における、金属化合物とヒドラジン化合物を含む還元剤との反応生成物である。
【0014】
さらに別の実施形態において、絶縁層、ゲート電極、半導体層、ソース電極、及びドレイン電極を備えた薄膜トランジスタが提供され、ここで絶縁層、ゲート電極、半導体層、ソース電極、及びドレイン電極は、ゲート電極及び半導体層の両方が絶縁層に接触し、且つソース電極及びドレイン電極の両方が半導体層に接触する限り、任意の順序であり、またここで、ソース電極、ドレイン電極、及びゲート電極の内の少なくとも一つはアニールした金属含有ナノ粒子を含み、ここで、金属含有ナノ粒子は、金属化合物、還元剤、及び安定剤を含む実質的に無溶媒の反応混合物中での、熱的に除去可能な安定剤の存在下における、金属化合物とヒドラジン化合物を含む還元剤との反応生成物である。
【0015】
本明細書のプロセスに対して任意の適切な金属化合物を用いることができる。実施形態において金属化合物は、金属酢酸塩、金属トリフルオロ酢酸塩、金属ハロゲン化物、金属硫酸塩、金属硝酸塩、金属ヒドロカルビルスルホン酸塩、又はそれらの混合物から成る群から選択された金属塩を含む。
【0016】
本明細書のプロセスに対して任意の適切な還元剤を用いることができる。実施形態において、還元剤はホウ素化合物又はヒドラジン化合物を含む。実施形態においてヒドラジン化合物には、ヒドラジン、又はヒドラジンの一方若しくは両方の窒素原子の各々が同じ置換基又は異なる置換基で1回又は2回置換された任意の適切な誘導体、並びに、ヒドラジンの塩及び水和物、並びにヒドラジン誘導体の塩及び水和物が挙げられる。ヒドラジン化合物に関して本明細書で説明する例示的な化合物には、当てはまる場合には水和物形も含まれることを理解されたい。例えば、化合物「ヒドラジン」はヒドラジン水和物及び水和物形ではないヒドラジンを含む。ヒドラジン化合物の典型的な例には、化学式
2NNH2
を有するヒドラジン、並びに、ヒドラジン酒石酸塩、ヒドラジン一臭化水素酸塩、ヒドラジン一塩酸塩、二塩化ヒドラジン、ヒドラジン一シュウ酸塩、及び硫酸ヒドラジンのようなヒドラジン塩が挙げられ、
さらに、例えば化学式
RNHNH2
RNHNHR、又は
RRNNH2
を有するヒドロカルビルヒドラジンが挙げられ、ここで1つの窒素原子はRで1置換又は2置換され、もう1つの窒素原子は随意にRで1置換又は2置換され、ここで各々のRは独立に選択された炭化水素基、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヒドロキシエチル、フェニル、ベンジル、トリル、ブロモフェニル、クロロフェニル、ニトロフェニル、キシリルなどである。ヒドロカルビルヒドラジンの例証的な例としては、メチルヒドラジン、tert-ブチルヒドラジン、2-ヒドロキシエチルヒドラジン、ベンジルヒドラジン、フェニルヒドラジン、トリルヒドラジン、ブロモフェニルヒドラジン、クロロフェニルヒドラジン、ニトロフェニルヒドラジン、1,1-ジメチルヒドラジン、1,1-ジフェニルヒドラジン、1,2-ジエチルヒドラジン、及び1,2-ジフェニルヒドラジンが挙げられ、特定の実施形態において還元剤は、フェニルヒドラジンである。
【0017】
さらに、本明細書で説明するヒドロカルビルヒドラジンの塩であるヒドロカルビルヒドラジン塩、例えば、メチルヒドラジン塩酸塩、フェニルヒドラジン塩酸塩、ベンジルヒドラジンシュウ酸塩、ブチルヒドラジン塩酸塩、ブチルヒドラジンシュウ酸塩、及びプロピルヒドラジンシュウ酸塩が挙げられる。
【0018】
さらに、例えば次の化学式
RC(O)NHNH2
RC(O)NHNHR’、及び
RC(O)NHNHC(O)R
を有するヒドラジドが挙げられ、ここで1つ又は両方の窒素原子は化学式RC(O)のアシル基により置換され、ここで各々のRは独立に水素及び炭化水素基から選択され、1つ又は両方の窒素原子は随意にR’で1置換又は2置換され、ここで各々のR’は独立に選択された炭化水素基である。ヒドラジドの例証的な例は、ギ酸ヒドラジド、アセトヒドラジド、ベンズヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、カルボヒドラジド、ブタノールヒドラジド、ヘキサン酸ヒドラジド、オクタン酸ヒドラジド、オキサミド酸ヒドラジド、マレイン酸ヒドラジド、N−メチルヒドラジンカルボキサミド、及びセミカルバジドである。
【0019】
さらに、例えば以下の化学式
ROC(O)NHNHR’、
ROC(O)NHNH2、及び
ROC(O)NHNHC(O)OR
を有するカルバゼート又はヒドラジノカルボキシレートが挙げられ、ここで1つ又は両方の窒素原子は化学式ROC(O)のエステル基により置換され、ここで各々のRは独立に水素及び炭化水素基から選択され、1つ又は両方の窒素原子は随意にR’で1置換又は2置換され、ここで各々のR’は独立に選択された炭化水素基である。カルバゼートの例証的な例は、メチルカルバゼート(メチルヒドラジノカルボキシレート)、エチルカルバゼート、ブチルカルバゼート、ベンジルカルバゼート、及び2−ヒドロキシエチルカルバゼートである。
【0020】
さらに、例えば以下の化学式
RSO2NHNH2
RSO2NHNHR’、及び
RSO2NHNHSO2
を有するスルホノヒドラジドが挙げられ、ここで1つ又は両方の窒素原子は化学式RSO2のスルホニル基により置換され、ここで各々のRは独立に水素及び炭化水素基から選択され、1つ又は両方の窒素原子は随意にR’で1置換又は2置換され、ここで各々のR’は独立に選択された炭化水素基である。スルホノヒドラジドの例証的な例は、メタンスルホノヒドラジド、ベンゼンスルホノヒドラジド、2,4,6−トリメチルベンゼンスルホノヒドラジド、p−トルエンスルホノヒドラジドである。
【0021】
他の典型的なヒドラジン化合物は、ヒドラジンアセテート、アミノグアニジン、チオセミカルバジド、メチルヒドラジンカルビミドチオレート、及びチオカルボヒドラジドである。
【0022】
特に他の指示がない限り、種々のヒドラジン化合物のR及びR’の置換基を識別する際に、語句「炭化水素基」は非置換及び置換炭化水素基の両方を包含する。非置換炭化水素基は、例えば、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、及びアリールアルキル基とすることができる。典型的なアルキル基には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、へキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、及びそれらの異性体が含まれる。置換炭化水素基は、ここで記した非置換炭化水素基が1回、2回、又はそれ以上、例えば、塩素、臭素、フッ素及びヨウ素のようなハロゲン、ニトロ、シアノ、例えばメトキシ、エトキシ及びプロポキシのようなアルコキシ基、又はそれらの混合物で置換されたものとすることができる。実施形態において、炭化水素基は置換アルキル、置換アリール、又はそれらの組合せとすることができる。
【0023】
本明細書の実施形態において、任意の適切な還元剤又は還元剤の組合せを用いることができる。1つ、2つ、3つ又はそれ以上還元剤を用いることができる。2つ又はそれ以上の還元剤を用いる場合、各々の還元剤は任意の適切な重量比又はモル比、例えば約99:1から約1:99までの第1の還元剤対第2の還元剤の比で存在することができる。還元剤の総量は任意の適切な量、例えば銀化合物1モル当たり約0.25モル当量又はそれ以上の還元剤を用いることができる。
【0024】
ここで任意の適切な安定剤を選択することができるが、この場合安定剤は、金属含有ナノ粒子が液体中で凝集するのを最少にするか又は防ぐ機能を有し、また随意に液体中の金属含有ナノ粒子の溶解性又は分散性を与える又は高める機能を有する。さらに安定剤は熱的に除去可能であるが、これは加熱のようなある特定の条件下で金属含有ナノ粒子の表面から安定剤を解離させ得ることを意味する。加熱は、通常の大気条件下、又は、例えば数ミリバール(mbars)乃至約10-3ミリバール(mbar)の減圧下において約250℃以下、又は約200℃以下のようなある特定の温度まで行うことができる。約250℃より低いような温度における金属含有ナノ粒子からの安定剤の熱解離により、安定剤を蒸発させるか又は安定剤を分解してガス状にすることができる。
【0025】
本方法は、約80℃乃至約150℃のアニール温度を有し、特定の実施形態においては約140℃より低い又は約130℃より低いアニール温度を有し、或は約120℃のアニール温度を有し、或は約110℃のアニール温度を有する、低温処理可能な金属ナノ粒子を提供する。理論に束縛されることは望まないが、本プロセスはより低温のアニール特性をもたらすと考えられる。6乃至16個の炭素原子のような、以前の安定剤よりも短い炭素鎖長を有する安定剤は、より低温のアニールに寄与する。特定の実施形態において12個の炭素原子の炭素鎖長を有する安定剤を選択する。特定の実施形態において安定剤は、6乃至16個の炭素原子を含むヒドロカルビラミンを含む。さらに、反応混合物が実質的に無溶媒である本プロセスにより、トルエンのような溶媒を用いる以前のプロセスと比較して向上した安定性を有する、より短鎖長の有機アミンで安定化した銀ナノ粒子の調製が可能になる。例えば、トルエンのような溶媒を用いて調製されたドデシルアミン安定化銀ナノ粒子は数日で劣化することになる。しかし、本方法で調製したドデシルアミン安定化銀ナノ粒子は、約数ヶ月又は数年の間安定のままであり得る。このように、本方法により低いアニール温度のナノ粒子の調製が可能になる。
【0026】
安定剤は有機安定剤とすることができる。用語「有機安定剤」中の「有機」は炭素原子の存在を意味するが、有機安定剤は、窒素、酸素、硫黄、シリコン、ハロゲンなどのような1つ又はそれ以上の非金属へテロ原子を含むことができる。典型的な有機安定剤には、チオール及びその誘導体、アミン及びその誘導体、カルボン酸及びそのカルボキシレート誘導体、ポリエチレングリコール、及び他の有機界面活性剤が含まれる。実施形態において有機安定剤は、ブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、及びドデカンチオールのようなチオール、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、及びドデシルアミンのようなアミン、1,2-エタンジチオール、1,3-プロパンジチオール、及び1,4-ブタンジチオールのようなジチオール、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、及び1,4−ジアミノブタンのようなジアミン、チオールとジチオールの混合物、並びにアミンとジアミンの混合物から成る群から選択される。ピリジン誘導体、例えばドデシルピリジン、及び/又は銀含有ナノ粒子を安定化することができる有機ホスフィンを含む有機安定剤もまた選択することができる。
【0027】
実施形態において安定剤は、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ヘキサデシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、プロピルブチルアミン、エチルブチルアミン、エチルペンチルアミン、プロピルペンチルアミン、ブチルペンチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、及びそれらの混合物のような有機アミンとする。特定の実施形態において安定剤はドデシルアミンとする。別の特定の実施形態において安定剤は、少なくとも4個の炭素原子を有するヒドロカルビルアミンとする。別の特定の実施形態において、還元剤はフェニルヒドラジンであり、安定剤はドデシルアミンを含む。
【0028】
1つ、2つ、3つ又はそれ以上安定剤を用いることができる。2つ又はそれ以上の安定剤を用いる場合、各々の安定剤は任意の適切な重量比又はモル比、例えば約99:1から約1:99までの第1の安定剤対第2の安定剤の比で存在することができる。安定剤の総量は任意の適切な量、例えば金属化合物1モル当たり1、2、10、25モル当量又はそれ以上を用いることができる。
【0029】
金属含有ナノ粒子は安定剤と化学結合を形成することができる。本明細書で与える安定剤の化学名は、銀含有ナノ粒子と何らかの化学結合を形成する前のものである。安定剤の性質は化学結合の形成により変化し得るが、便宜上化学結合形成前の化学名を用いる。
【0030】
金属含有ナノ粒子と安定剤の間の引力は、化学結合、物理的付着、又はそれらの組合せであり得る。化学結合は、共有結合、水素結合、配位錯結合、イオン結合、又は異なる化学結合の混合の形態を取り得る。物理的付着は、ファンデルワールス力、又は双極子-双極子相互作用、又は異なる物理的付着の混合の形態を取り得る。
【0031】
金属含有ナノ粒子の表面上の安定剤の被覆の程度は、例えば、金属含有ナノ粒子を安定化する安定剤の能力に応じて、部分的被覆から完全被覆までのように変化させることができる。また、個々の金属含有ナノ粒子の間で安定剤の被覆の程度にばらつきがある。
【0032】
本開示のプロセスは、導電性インク用途を含む用途のための、安定化した、実施形態においては有機アミンで安定化した金属ナノ粒子を調製するためのものである。この方法は、実質的に無溶媒の反応混合物中での、有機アミン安定剤のような安定剤の存在下における、金属化合物の、実施形態においては酢酸銀の、フェニルヒドラジンのような還元剤による化学的還元を含む。この無溶媒還元プロセスにより形成される金属ナノ粒子は、溶媒ベースのプロセスを含む以前の方法で調製された金属ナノ粒子よりも遥かに安定である。本明細書の方法は、以前に必要とされたトルエンのような環境に有害な溶媒に対する必要性をなくす。本明細書の化学反応プロセスはさらに、溶媒の使用を実施的になくすことにより製造コストを下げる。この方法は、低温処理可能な金属ナノ粒子の調製に対して、特定に実施形態においては、一実施形態において約120℃又はそれ以下のアニール温度を有する低温処理可能な有機アミン安定化銀ナノ粒子インクの調製に対して、特に便利である。
【0033】
実施形態において、反応混合物は実質的にいかなる溶媒も含まない。実施形態において、あらゆる溶媒の総量は、反応混合物の全重量に基づいて、約40重量パーセント未満、又は約20重量パーセント未満、又は約5重量パーセント未満であり、特定の実施形態においては、反応混合物はいかなる溶媒も含まない(即ち、ゼロ重量パーセントの溶媒を含む)。
【0034】
銀化合物と還元剤の反応は、任意の適切な温度、例えば、−50℃乃至200℃、又は−25℃乃至80℃、又は0℃乃至150℃、又は20℃乃至120℃、において行うことができる。
【0035】
金属化合物に対する安定剤のモル比は、任意の適切なモル比とすることができる。実施形態において金属化合物に対する安定剤のモル比(安定剤:銀塩)は、3:1よりも小さくなく、4:1よりも小さくなく、又は5:1よりも小さくない。
【0036】
金属含有ナノ粒子は、任意の適切な粒径、例えば約100ナノメートル(nm)未満、約50nm未満、約25nm未満、又は約10nm未満の粒径を有することができるが、これらの範囲外の粒径であってもよい。粒径は、本明細書では、透過型電子顕微鏡法で測定した、安定剤を除く銀含有粒子コアの平均直径と定義する。一般に、本プロセスにより得られる銀含有ナノ粒子には複数の粒径が存在し得る。実施形態において、異なるサイズの銀含有ナノ粒子の存在は許容できる。
【0037】
任意の適切な金属ナノ粒子を選択することができる。実施形態において、金属ナノ粒子は、銀、金、白金、パラジウム、銅、コバルト、クロム、ニッケル、銀銅複合物、銀金銅複合物、銀金パラジウム複合物、及びそれらの混合物から成る群から選択される。特定の一実施形態において、金属含有ナノ粒子は銀の金属又は銀の合金複合物を含む。さらに別の実施形態において、金属含有ナノ粒子は元素の銀又は銀複合物を含む。銀に加えて、複合物は(i)1つ又はそれ以上の他の金属、及び(ii)1つ又はそれ以上の非金属のいずれか又は両方を含むことができる。適切な他の金属には、Al、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Cr、In、及びNi、及びそれらの混合物、特に遷移金属Au、Pt、Pd、Cu、Cr、Ni、及びそれらの混合物が含まれる。例示的な金属複合物は、Au−Ag、Ag−Cu、Au−Ag−Cu、及びAu−Ag−Pdである。金属複合物中の適切な非金属にはSi、C、及びGeが含まれる。銀複合物の種々の成分は、任意の適切な量、例えば、銀ナノ粒子の全重量に基づいて0.01重量%乃至99重量%又は10重量%乃至90重量%の量で存在することができる。実施形態において、銀複合物は銀及び1つ、2つ又はそれ以上の他の金属から成り、銀がナノ粒子の少なくとも20重量パーセント、又は50重量%を上回る合金である。特に別に注意しない限り、本明細書で説明する銀含有ナノ粒子の成分の重量百分率は安定剤を含まない。
【0038】
金属複合物を含む金属含有ナノ粒子は、任意の適切なプロセス、例えば、反応において(i)金属化合物(単数又は複数)と(ii)別の金属塩(単数又は複数)又は別の非金属若しくは非金属の組合せとの混合物を用いるプロセスによって作成することができる。
【0039】
金属含有ナノ粒子組成物はまた、金属含有ナノ粒子を他の金属又は非金属ナノ粒子と混合することによって調製することができる。
【0040】
スカベンジャを用いて過剰の還元剤を破壊することができ、スカベンジャは、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、又はそれらの混合物のような任意の適切なスカベンジャとすることができる。特定の例示的なスカベンジャには、アセトン、ブタノン、ペンタノン、ホルムアルデヒド、アセトルデヒド、酢酸、及びそれらの混合物が含まれる。
【0041】
本開示はさらに、液体と、安定剤を有する複数の金属含有ナノ粒子とを含む組成物について説明するが、ここで安定剤の分子は金属含有ナノ粒子の表面にあり、ここで金属含有ナノ粒子は、金属化合物、還元剤、及び安定剤を含む実質的に無溶媒の反応混合物中での、熱的に除去可能な安定剤の存在下における、金属化合物とヒドラジン化合物を含む還元剤との反応生成物である。
【0042】
金属含有ナノ粒子を分散又は溶解させて金属含有ナノ粒子組成物を形成するのに用いることができる液体は有機液体又は水を含む。典型的な有機液体としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、メシチレンなどのような炭化水素溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのようなアルコール、テトラヒドロフラン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ニトロベンゼン、シアノベンゼン、アセトニトリル、及びそれらの混合物及び組合せが挙げられる。1つ、2つ、3つ又はそれ以上の液体を用いることができる。2つ又はそれ以上の液体を用いる場合、各々の液体は任意の適切な体積比又はモル比、例えば99:1乃至1:99の第1の液体対第2の液体の比で存在することができる。
【0043】
金属含有ナノ粒子組成物の成分は任意の適切な量で存在することができる。金属含有ナノ粒子及び安定剤の典型的な存在量は、ナノ粒子組成物の全重量に基づいて0.3重量%乃至90重量%、又は1重量%乃至70重量%の量であり、残りは組成物中の液体などの他の成分である。
【0044】
実施形態において、金属含有ナノ粒子組成物中に存在する安定剤は、金属含有ナノ粒子を調製するための反応混合物からもたらされ、金属含有ナノ粒子の形成後には安定剤は何も添加しない。他の実施形態においては、金属ナノ粒子の形成後に、同じ又は異なる安定剤を任意の適切な量、例えば、金属ナノ粒子組成物の全重量に基づいて0.3重量%乃至70重量%の量を添加することができる。
【0045】
本明細書において安定度とは、金属含有ナノ粒子の析出又は凝集が極めて僅かであるか又は起らない期間を意味する。本明細書の金属含有ナノ粒子は、少なくとも3時間、又は3時間乃至1ヶ月、又は1日乃至3ヶ月、又は1日乃至6ヶ月、又は1週乃至1年の安定度を有する。本明細書の実施形態において、本明細書の金属含有ナノ粒子組成物は3時間乃至1日、又は1日乃至1週、又は1日乃至1ヶ月、又は1日乃至6ヶ月、又は1日乃至1年、又は1日乃至1年以上の安定度を有する。一実施形態において、本明細書の金属含有ナノ粒子組成物は、25℃の温度において3ヶ月を上回る安定度を有する。別の実施形態において、安定化金属ナノ粒子は、組成物を60℃又はそれ以下で保管したとき、少なくとも7日間アニール温度を維持する。別の実施形態において、金属ナノ粒子組成物は、組成物を60℃又はそれ以下で保管したとき、少なくとも7日間の安定度を有する。
【0046】
金属含有ナノ粒子組成物からの導電性要素の作成は、基板上の他の随意の層の形成前又は後の任意の適切な時点で、液相堆積法を用いて組成物を基板上に堆積させることによって行うことができる。従って、基板上の組成物の液相堆積は、基板の上、又は既に層にした材料、例えば半導体層、及び絶縁層又はそれらの組合せを有する基板の上に行うことができる。
【0047】
語句「液相堆積法」は、液体コーティング又は印刷のような液体プロセスを用いた組成物の堆積を指し、この場合液体は溶液又は分散液である。金属含有ナノ粒子組成物は、印刷を用いる場合にはインクと呼ぶことができる。例証的な液体コーティングプロセスには、スピンコーティング、ブレードコーティング、ロッドコーティング、浸漬コーティングなどが含まれる。例証的な印刷法には、リソグラフィ又はオフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、ステンシル印刷、インクジェット印刷、ミクロ接触印刷のようなスタンピングなどが含まれる。液相堆積は、5ナノメートル乃至5ミリメートル、又は10ナノメートル乃至1,000マイクロメートルの厚さを有する組成物の層を堆積させる。堆積した金属含有ナノ粒子組成物は、この段階で測定可能な導電性を示すか又は示さない可能性がある。
【0048】
用語「加熱」は、例えば、ホットプレート、オーブン又はバーナー、赤外線、マイクロ波放射、紫外線、又はそれらの組合せにより、加熱する物質に熱的加熱のような所望の結果をもたらすのに十分なエネルギーを与えることができる任意の技術又は技術の組合せを包含する。
【0049】
本方法は、以前の利用可能なものよりも低温のアニール、例えば、70℃乃至150℃、又は130℃未満、又は120℃のアニール温度を有する低温処理可能な金属ナノ粒子を提供する。堆積組成物を適切な温度で加熱すると、金属含有ナノ粒子は、電子デバイス内の導電要素として用いるのに適した導電層を形成する。選択される加熱温度は、単一層又は多重層基板内に以前に堆積した層の性質に不都合な変化を生じない温度であることが好ましい。加熱は任意の適切な時間、例えば1秒乃至10時間、又は10秒乃至1時間の間行う。加熱は、空気中で、又は窒素若しくはアルゴン中のような不活性雰囲気中で、又は1乃至20体積パーセントの水素を含む窒素中のような還元雰囲気中で行うことができる。加熱は通常の大気条件下で、又は数mbar乃至10-3mbarのような減圧下で行うことができる。
【0050】
加熱は多くの効果を生じ得る。加熱前は、堆積金属含有ナノ粒子は電気的に絶縁性であるか又は非常に低い導電率を有する可能性があるが、加熱により、導電率を高めたアニールされた金属含有ナノ粒子からなる導電層が生じる。アニールされた金属含有ナノ粒子は、融合又は部分的に融合した金属含有ナノ粒子となり得る。代わりに、アニールされた金属含有ナノ粒子は十分な粒子間接触を達成して融合せずに導電層を形成し得る。
【0051】
加熱により、安定剤及び液体を金属含有ナノ粒子から、安定剤及び液体が概ね導電層に組み込まれず、存在する場合には残存量が存在するという意味で、分離させることができる。加熱は安定剤の一部分を分解して「分解した安定剤」を生成し得る。加熱はまた、分解した安定剤が概ね導電層に組み込まれず、存在する場合には残存量が存在するという意味で分解した安定剤を分離させることができる。金属含有ナノ粒子からの、安定剤、液体、及び分解した安定剤の分離により、結果として得られる導電層の導電率を高めることができるが、その理由は、これらの成分の存在が、金属含有ナノ粒子間の接触及び融合の程度を低下させるからである。分離は、固体又は液体から気体への物質の状態変化、例えば揮発によるような任意の様式で起こり得る。
【0052】
実施形態において、1つ又はそれ以上の安定剤、分解した安定剤、及び液体が導電層には存在しない。1つ又はそれ以上の安定剤、分解した安定剤、及び液体の残存量は導電層内に存在し得るが、この場合、残存量は導電層の導電率に感知できるほどの影響を及ぼさない。1つ又はそれ以上の安定剤、分解した安定剤、及び液体の残存量は、導電層の導電率を低下させ得るが、それでもなお、結果として得られる導電率は目的とする電子デバイスに対して有効な範囲内にある。各々の成分の残存量は、加熱温度及び時間のようなプロセス条件に応じて、導電層の重量に基づいて5重量%又は0.5重量%未満のような任意の適切な量になり得る。加熱により金属含有ナノ粒子から安定剤及び/又は分解安定剤の分離が起きる場合、分離した安定剤/分解安定剤と金属含有ナノ粒子の間の引力は、切れるか又は弱まる。他の方法、例えば、紫外線、マイクロ波放射、又は赤外線への暴露を用いることができ、或はそれらを熱的加熱と組み合せて、金属含有ナノ粒子からの液体及び安定剤及び/又は分解安定剤の分離を促進することができる。
【0053】
加熱後、得られる導電層は任意の適切な厚さ、例えば5ナノメートル乃至5ミリメートル、又は10ナノメートル乃至1,000マイクロメートルの厚さを有し得る。
【0054】
堆積金属含有ナノ粒子組成物を加熱することにより生成され得られた金属含有要素の導電率は、通常の4探針法で測定したとき、0.1ジーメンス/センチメートル(S/cm)を上回り、500S/cmを上回り、2,000S/cmを上回り、5,000S/cmを上回り、10,000S/cmを上回り、又は20,000S/cmを上回り、特定の実施形態においては100,000S/cmとなる。実施形態において金属含有ナノ粒子は、銀ナノ粒子が少なくとも5,000S/cmの導電率を有する金属構造体を形成する140℃未満のアニール温度を有する銀ナノ粒子を含む。実施形態において金属含有ナノ粒子は、銀ナノ粒子が少なくとも5,000S/cmの導電率を有する金属構造体を形成する130℃未満のアニール温度を有する銀ナノ粒子を含む。さらに別の実施形態において、銀含有ナノ粒子は、銀含有ナノ粒子を60℃又はそれ以下の温度で保管したとき、少なくとも7日間アニール温度を保持する。
【0055】
結果として得られる導電性要素は、電子デバイス中の導電性電極、導電性パッド、導電性配線、導電性要素、導電性トラックなどとして用いることができる。「電子デバイス」は、薄膜トランジスタ、有機発光ダイオード、無線周波数識別タッグ、光電池のようなマクロ、ミクロ、及びナノ電子デバイス、並びに導電性要素又はコンポーネントを必要とする他の電子デバイスを指す。
【0056】
金属含有ナノ粒子組成物は、薄膜トランジスタ(TFT)内のソース及びドレイン電極のような導電性コンポーネントを作成するのに用いることができる。
【実施例1】
【0057】
5.0グラムの酢酸銀及び55.5グラムのドデシルアミンを250ミリリットルの反応フラスコに加えた。混合物を55乃至60℃で約10乃至20分間、ドデシルアミン及び酢酸銀が溶解するまで加熱し撹拌した。55℃において、1.78グラムのフェニルヒドラジンを上記の液体に一滴ずつ添加して激しく撹拌した。液体の色が透明から、銀ナノ粒子の形成を示す暗褐色に変化した。混合物を55℃でさらに1時間撹拌し、次いで40℃まで冷却した。温度が40℃に達した後、120ミリリットルのメタノールをよく撹拌しながら加えた。析出物をろ過しメタノールで手早くすすいだ。固形物を真空下室温で一晩乾燥させ、銀含量が79重量パーセントの銀ナノ粒子3.5グラムを得た。
【実施例2】
【0058】
実施例1の銀ナノ粒子のトルエン中の溶液(15重量パーセントの銀ナノ粒子)をスライドガラス上に100rpmで2分間スピンコーティングし、銀ナノ粒子の褐色薄膜を得た。ガラス上の薄膜を120℃のオーブン内で10分間加熱して厚さ92.5ナノメートルの光沢のあるミラー様の薄膜を得た。通常の4探針法で測定した、アニールした膜の導電率は、2.9×104S/cmであった。銀ナノ粒子のコーティング溶液は、室温で7日間を超える間析出せず安定である。
【実施例3】
【0059】
実施例1の銀ナノ粒子の、イソパール(登録商標)「G」(脂肪族炭化水素、エクソンモービル化学から入手可能)とテルピネオール(モノテルペンアルコール、フルカから入手可能)の体積比2対1の混合溶媒中の溶液を調製した。上で調製したナノ粒子インク溶液をガラス基板上にインクジェット印刷して一組の細い線(1ミリメートルの長さ)を得た。ガラス上の印刷パターンを120℃のオーブン内で10分間加熱し、約60乃至約80ナノメートルの厚さ及び約95乃至約125マイクロメートルの幅を有する、光沢のあるミラー様の細線を得た。アニールした線の平均導電率は1.16×105S/cmであった。
【実施例4】
【0060】
実施例1の調製された銀ナノ粒子を室温で真空オーブン中に配置したガラス容器内に保管した。1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月及び4ヶ月の保管期間後にそれに応じて導電度を測定して安定度を調べた。試験方法及び試験のための試料調製は実施例2に記述したものであり、時間を経た銀ナノ粒子の導電率の結果を以下の表にまとめた。スライドガラス上の全ての薄膜は約110℃乃至約120℃の温度範囲のオーブン中で約10分間アニールした。

表1

【0061】
比較実施例5
5.0グラムの酢酸銀、55.5グラムのドデシルアミン及び25ミリリットルのトルエンを250ミリリットルの反応フラスコに加えた。混合物を55乃至60℃で約10乃至20分間、ドデシルアミン及び酢酸銀が溶解するまで加熱し撹拌した。55℃において、トルエン(5ML)中の1.78グラムのフェニルヒドラジンを上記の液体に一滴ずつ添加して激しく撹拌した。液体の色が透明から、銀ナノ粒子の形成を示す暗褐色に変化した。混合物を55℃でさらに1時間撹拌し、次いで40℃まで冷却した。温度が40℃に達した後、120ミリリットルのメタノールをよく撹拌しながら加えた。析出物をろ過しメタノールで手早くすすいだ。固形物を真空下室温で一晩乾燥させ、銀含量が83.5重量パーセントの銀ナノ粒子3.2グラムを得た。
【0062】
比較実施例6
比較実施例5の調製された銀ナノ粒子をガラス容器に入れ室温で真空オーブン中に保管した。1週間及び2週間の保管期間後にそれに応じて導電率を測定して安定度を調べた。試験方法及び試験のための試料調製は実施例2に記述したものであり、時間を経た銀ナノ粒子の導電率の結果を以下の表にまとめた。スライドガラス上の全ての薄膜は110℃乃至120℃の温度範囲のオーブン内で約10分間アニールした。

表2

【0063】
実施形態において、本方法で調製された有機アミンで安定化した銀ナノ粒子は、以前の方法で調製された銀ナノ粒子に比べて、より高い安定度を有する。さらに、実施形態において本方法は、化学反応プロセスからトルエンのような環境に有害な溶媒を減らすか又は除去する。本方法はさらに、不要な溶媒を除去することにより製造コストを低くする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化金属ナノ粒子を調製するプロセスであって、
金属化合物、還元剤、及び安定剤を含む実施的に無溶媒の反応混合物中で、前記金属化合物を前記安定剤の存在下で前記還元剤と反応させて、無溶媒還元プロセスにより、表面上に前記安定剤の分子を有する複数の金属含有ナノ粒子を形成し、
随意に、前記反応混合物から前記安定化金属ナノ粒子を分離する、
ステップを含むことを特徴とするプロセス。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子は、銀、金、白金、パラジウム、銅、コバルト、クロム、ニッケル、銀銅複合物、銀金銅複合物、銀金パラジウム複合物、銀金属又は銀合金複合物、及びそれらの混合物、或は、酢酸銀、トリフルオロ酢酸銀、金属ハロゲン化物、金属硫酸塩、金属硝酸塩、金属ヒドロカルビルスルホン酸塩、又はそれらの混合物から成る群から選択された金属塩、から成る群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記安定剤は、少なくとも4個の炭素原子を有するヒドロカルビルアミンを含んだ有機アミンを含むことを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記金属含有ナノ粒子は約140℃より低いアニール温度を有する銀ナノ粒子を含み、該銀ナノ粒子は少なくとも約5,000S/cmの導電率を有する金属構造体を形成することを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
液体と、表面上に安定剤が付着した複数の金属含有ナノ粒子とを含む組成物であって、
前記金属含有ナノ粒子は、金属化合物、還元剤、及び安定剤を含む実質的に無溶媒の反応混合物中における、該安定剤の存在下での該金属化合物と該還元剤の反応の生成物であり、
前記金属含有ナノ粒子は、約6乃至約16個の炭素原子を含んだヒドロカルビルアミンを含む安定剤を含む、
ことを特徴とする組成物。
【請求項6】
導電性金属構造体を形成するプロセスであって、
金属化合物、還元剤、及び安定剤を含む実質的に無溶媒の反応混合物中で、熱的に除去可能な該安定剤の存在下で、該金属化合物を該還元剤と反応させて、無溶媒還元プロセスにより、表面上に該安定剤の分子を有する複数の金属含有ナノ粒子を形成し、
表面上に前記安定剤の分子を有する前記複数の金属含有ナノ粒子を分離し、
液体と、表面上に前記安定剤の分子を有する前記複数の金属含有ナノ粒子とを含む組成物を調製し、
液体と、表面上に前記安定剤の分子を有する前記複数の金属含有ナノ粒子とを含む前記組成物を、液相堆積法により基板上に堆積させて、堆積組成物を形成し、
前記堆積組成物を加熱して、金属を含む導電層を形成する、
ステップを含むことを特徴とするプロセス。

【公開番号】特開2011−58092(P2011−58092A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190468(P2010−190468)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】