説明

安定性を有する水性シリカ分散液

本発明は、貯蔵寿命の長いシリカ、前記シリカを生成する方法、ならびに建設業におけるコンクリート混和剤としての、および製紙業における紙の製造またはコーティングへの前記シリカの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沈降二酸化珪素および/または珪酸塩の貯蔵安定性分散液、前記分散液の製造方法、および前記分散液の使用方法に関する。
【0002】
沈降二酸化珪素を主成分とする分散液は、先行技術においてすでに説明されている。先行技術の刊行物の主題は、分散液の貯蔵安定性である。
【0003】
例えば、特開平09−142827号公報には、安定したシリカ分散液について記載されている。特開平09−142827号公報に開示される分散液の貯蔵安定性は、シリカ粒子の平均粒径が100nm未満であることによって達成される。これらの分散液は、シリカ粒子をこのように小さな粒径に粉砕するのがきわめて複雑で、エネルギーを多量に消費するという欠点を有する。そのため、特開平09−142827号公報に記載の方法は、経済的観点から技術的妥当性がないと考えられる。
【0004】
欧州特許第0368722号、第0329509、第0886628号、および第0435936号には、安定剤によって安定させたシリカの分散液について記載されている。安定剤は、他にも理由はあるが、沈殿物を防ぐために添加される。安定剤には、例えば、バイオガム、またはアルミニウム化合物および陰イオン性分散剤からなる系、またはラテックス、または二酸化珪素と化学的および物理的な相溶性を有する微粉固体がある。このような安定剤を使用することは、費用面と後の分散液の使用の両面から不都合な点がある。そのため、安定剤を使用せずに貯蔵安定性を有する分散液を製造できるのが望ましいと考えられる。
【0005】
欧州特許第0768986号には、安定剤を用いない分散液について記載されている。しかし、欧州特許第0768986号に記載の分散液は、貯蔵安定性が不十分であり、それどころかわずか10日後には10倍の粘度の増加が見られることが、実施例で示されている。
【0006】
欧州特許第0736489号には、全く異なる概念が開示されている。前記文献に記載されている分散液は、48時間が経過するまでにゲル化するはずであるとされている。このゲル化は、弱い剪断力の作用下でゲル化が可逆的になるように助剤を添加することによって制御され、従って、ゲルは再度撹拌することで容易に分散液が得られる。しかし、この撹拌は、さらなる作業ステップと、二酸化珪素粒子に対するさらなる機械的応力が必要になることを意味する。
【0007】
米国特許出願公開第2004/0079504号には、貯蔵安定性分散液の製造のさらなる手法が開示されている。前記文献では、ドープシリカ、すなわち表面に少なくとも二価金属イオンが結合したシリカが懸濁されている。これは、まず特別にドープしたシリカを準備しなければならないという点で欠点がある。この手法では、第一にさらなる作業ステップ(ドーピング)が必要となり、第二に生産費用が増大する。さらに、シリカのドーピングは、経済的観点、すなわち、例えば廃水の観点からも欠点がある。
【0008】
上記の通り、今日まで多大な努力が払われていたにもかかわらず、十分に貯蔵安定性を有する二酸化珪素の分散液を製造することは不可能であった。この影響として、シリカ分散液の使用者(例えば、製紙業界または建設業者)は、依然として粉末形態のシリカを購入し、分散液を各自で(すなわち、シリカを使用する直前に)製造しなければならないこととなっている。このことは、ひいては分散液の使用者により高水準の労働力が求められるだけでなく、分散液の少なくとも短期的な貯蔵能力に加えてシリカ粉末の貯蔵能力を維持することも求められることを意味する。
【0009】
そのため、シリカを製造直後に分散液へとさらに加工することができ、かつこの方法で得られた分散液が使用者のもとへ輸送でき、さらなる処置を講ずることなくその場で利用できるほどの貯蔵安定性を有するように、十分な貯蔵安定性を有する分散液を製造できるのが望ましいと考えられる。このことは、上述のようなシリカ分散液の使用者にとってきわめて有利であると思われる。
【0010】
そのため、貯蔵安定性を有し、安価な二酸化珪素分散液が依然として非常に求められている。
【0011】
従って、上述の先行技術から、二酸化珪素分散液および前記分散液の製造方法を提供するのが本発明の目的であり、これらは、先行技術の分散液の少なくともいくつかの欠点を有するものの、たとえそうであっても欠点の程度は軽減されている。
【0012】
明確に記載されていないさらなる目的は、本願の説明、実施例および特許請求の範囲の全文脈から明らかである。
【0013】
驚くべきことに、分散液中の二酸化珪素の平均粒径がきわめて小さいものの小さすぎることがなく、分散液のpHが弱アルカリ性からアルカリ性の範囲内に設定され、分散液のゼータ電位が十分に低い場合に、貯蔵安定性を有する二酸化珪素分散液を製造できることが現在明らかにされている。
【0014】
そのため、本願は、本願の特許請求の範囲、説明および実施例に定義および説明するような、二酸化珪素分散液と、前記分散液の製造方法を提供する。
【0015】
本発明は、より具体的には、少なくとも1種の二酸化珪素を含む分散液であって、
−二酸化珪素、好ましくは沈降二酸化珪素および/または珪酸塩が、50m2/gを超えるBET表面積を有し、
−分散液中の二酸化珪素アグロメレートが130〜800nmの平均粒径d50を有し、
−二酸化珪素の割合が、分散液の全質量に対して5〜50質量%であり、
−分散液のpHが8を超え、
−pH9における分散液のゼータ電位が−20mV未満である、
ことを特徴とする、分散液を提供する。
【0016】
本発明はさらに、少なくとも1種の二酸化珪素を含む分散液の製造方法であって、二酸化珪素粒子、好ましくは沈降二酸化珪素および/または珪酸塩を粉砕して、適切な分散装置により分散させ、分散液中の二酸化珪素粒子の平均粒径d50が130〜800nmとなり、分散液のpHが8を超え、pH9における分散液のゼータ電位が−20mV未満となるように、分散液のpHを方法の過程で調節することを特徴とする、方法も提供する。
【0017】
本発明は同様に、
・製紙部門における、例えば、インクジェットコーティングへの、
・建設業における、例えば、コンクリート添加剤としての、
・例えば、インクジェットインクおよび接着剤のレオロジー制御のための、
・塗料および塗装系における、例えば、硬度および耐ひっかき性を改善するための、
・分散染料中のTiO2増量剤としての、
・織物の最終仕上げにおける、例えば、繊維中の補強充填剤としての
本発明のシリカの使用も提供する。
【0018】
本発明の分散液は、安定剤を添加しなくても貯蔵安定性を有する点において注目に値する。これはすなわち、先行技術の分散液で必要とされる安定剤を使用せずに済むことを意味する。このことはひいては、原材料費を抑え、分散液の製造におけるいくつかの作業ステップを行わずに済むという利点がる。
【0019】
本発明の分散液は、沈殿する傾向を示すものの、たとえ示すとしてもその傾向はきわめて少ない。換言すれば、一般的には、使用前に沈殿物を再度撹拌したり、分散液を一定の撹拌プロセスにかけたりする必要はない。
【0020】
本発明の分散液はさらに、使用にあって面倒になる可能性がある添加剤を使用せずに製造できる利点も有する。これにより、安定剤の厄介な作用のためにこれまでは利用できなかった新たな分野での利用の可能性が開ける。
【0021】
本発明の分散液のさらなる利点は、貯蔵期間中に平均粒径が実質的に変化せず、すなわち、例えば再凝集が生じても生成物に変化が見られない点であると考えられる。
【0022】
本発明の分散液の性能特性は、良好な貯蔵安定性や容易な取扱いといった必要な基準を満たしている。
【0023】
本発明を以下で詳細を説明する。
【0024】
本発明において、二酸化珪素または二酸化珪素粒子は、好ましくは沈降シリカおよび/または珪酸塩である。特に好ましいのは、沈降シリカである。
【0025】
「シリカ」、「沈降シリカ」および「沈降二酸化珪素」という用語は、同義的に使用される。いずれの場合にも、これらは、例えば、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,A23巻,642−647頁に記載のような沈降二酸化珪素を意味するものとして理解される。全く同じ重複を避けるため、本刊行物の内容は、これによって本発明の主題および説明に明示的に援用される。沈降二酸化珪素は、最高800m2/gのBET表面積を有する場合があり、少なくとも1つの珪酸塩(好ましくは、アルカリ金属珪酸塩および/またはアルカリ土類金属珪酸塩)と少なくとも1つの酸性化剤(好ましくは、少なくとも1つの鉱酸)との反応によって得られる。シリカゲルとは対照的に(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,A23巻,629−635頁を参照)、沈降シリカは、均一な3次元SiO2ネットワークではなく、個々の凝集体およびアグロメレートで構成される。沈降二酸化珪素の特定の特徴としては、いわゆる内部表面積の割合が高いことが挙げられ、これは微細孔およびメソ細孔を有するきわめて多孔性の構造で反映される。
【0026】
沈降シリカは発熱性シリカとは異なり、フュームドシリカはエアロジルとも呼ばれる(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,A23巻,635−642頁を参照)。フュームドシリカは、四塩化珪素からの火炎加水分解により得られる。製造方法が全く異なるため、フュームドシリカは、他の特性の中でもとりわけ、異なる表面特性を有する。これは、例えば、表面上のシラノール基の数がより少ないことで表される。水性分散液中のフュームドシリカおよび沈降シリカの挙動は、主に表面特性によって決定されるため、互いに比較することができない。フュームドシリカよりも優れた沈降シリカの1つの利点は、沈降シリカの方が著しく費用が安い点である。
【0027】
珪酸塩については、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,A23巻,661−717頁に記載されている。全く同じ重複を避けるため、本刊行物の内容は、これによって本発明の主題および説明に明示的に援用される。
【0028】
本発明の分散液は、好ましくは水性分散液であり、すなわち、液相の少なくとも1つの成分、より好ましくは主成分が水、好ましくは脱イオン水である。水および少なくとも1種の二酸化珪素のほかに、本発明の分散液は、好ましくはさらなる液体添加剤を一切含まず、特に二酸化珪素粒子の沈降を妨げるものを一切含有しない。より好ましくは、本発明の分散液は、水および二酸化珪素のほかにさらなる添加物を一切含有しない。
【0029】
本発明の分散液は、唯一の固体として二酸化珪素を含むことが可能である。これは、分散液が種々の用途のマスターバッチとして機能する場合に特に推奨される場合がある。
【0030】
本発明の分散液に存在する二酸化珪素のBET表面積は、好ましくは50〜800m2/gの範囲であり、より好ましくは50〜500m2/gの範囲であり、好ましくは50〜250m2/gの範囲である。これは、周囲の溶媒との高い相互作用を得られるようにするために必要である。
【0031】
BET表面積は、個々の粒子で測定されるものではないが、1グラムに正規化した、分析試料中に存在する全粒子の総表面積に相当する。分散液中に複数種類の二酸化珪素が存在する場合は、BET表面積は、分散液の製造に使用される個々の二酸化珪素のBET表面積に相当せず、1グラムに正規化した分散液の代表的な試料で測定した全粒子の総表面積に相当する。この場合、上述の好適なBET表面積の範囲が同様に適用される。
【0032】
所望の沈降安定性を達成するためには、本発明の分散液の二酸化珪素アグロメレートの平均粒径d50が130〜800nm、好ましくは150〜600nm、より好ましくは150〜450nm、とりわけ好ましくは150〜400nm、さらにより好ましくは170〜300nm、とりわけ好ましくは180〜300nmの範囲であることが必要であると明らかにされている。130nm未満の値は、技術手段によって設定することもできるが、きわめて大きな困難を伴う。
【0033】
さらに、分散液のpHはあまりに低くなりすぎてはいけないことが必須条件であることも明らかにされている。本発明の分散液のpHは、分散液の沈降特性に対して特別な安定化作用を有し、その範囲は8を超え、好ましくは8.0〜14、より好ましくは8.5〜12、さらにより好ましくは8.7〜10、とりわけ好ましくは9〜9.5である。
【0034】
最後に、本発明の分散液の粒径とpHだけでなくゼータ電位も、分散液の貯蔵安定性に重要な基準を構成することが明らかにされている。ゼータ電位は、粒子の表面電荷を示す指標であり、液体と粒子表面の間の電荷の相互作用を示す。ゼータ電位は、分散液のpHに大きく左右されるため、同じpHにおいてのみ互いの比較が可能である。本発明の分散液中の二酸化珪素粒子は、十分に高い表面電荷では互いに混ざらないため、粒子の凝集が防止されることを、本発明者等は発見した。そのため、pH9における分散液のゼータ電位は、−20mV未満、好ましくは−20〜−45mV、より好ましくは−25〜−40mV、最も好ましくは−30〜−40mVであることが必要である。
【0035】
本発明の分散液は、分散液の総量に対して5〜50質量%の割合の二酸化珪素を有する。二酸化珪素の含有量は、より好ましくは10〜50質量%、さらにより好ましくは20〜40質量%、とりわけ好ましくは20〜35質量%である。一般的に、二酸化珪素の含有量が比較的少ない分散液は、より多く二酸化珪素が充填された分散液よりも安定性に優れる。5質量%未満の二酸化珪素しか含まない分散液は、含水率が高くなるため不経済である。
【0036】
二酸化珪素の含有量が30質量%までの場合、本発明の分散液は、水のような粘度を示した。そのため、本発明の分散液の粘度は、好ましくは500mPas未満、より好ましくは0.1〜250mPas、さらにより好ましくは1〜100mPas、とりわけ好ましくは1〜50mPasである。
【0037】
さらに、二酸化珪素の構造の十分な分量が粉砕時に破壊される場合に、本発明の分散液の安定性に有利であることが明らかにされている。特定の理論に拘束されるわけではないが、本出願人は、こうした構造の減量が、二酸化珪素粒子の相互作用に影響を及ぼし、分散液の安定性を増加させると考えている。本発明の分散液中の二酸化珪素粒子の構造特性を測定できるようにするには、まず分散液を乾燥キャビネット内で乾燥させた後、乾燥させた二酸化珪素粒子を水銀圧入法により試験する。測定成績に関するさらに正確な情報については、以下の試験方法の説明に記載されている。
【0038】
そのため、本発明の分散液の好適な実施形態において、二酸化珪素粒子は、粒径が10〜1000nmである細孔の細孔容積が、0.05〜1.0ml/g、好ましくは0.1〜0.75ml/g、より好ましくは0.15〜0.6ml/g、最も好ましくは0.2〜0.55ml/gの範囲内である。
【0039】
本発明の分散液のさらにとりわけ好適な実施形態において、二酸化珪素粒子の細孔の最大値は、5〜50nm、好ましくは5〜40nmの範囲であり、第1の代替実施形態における細孔の最大値は、5〜20nm、好ましくは7〜15nmの範囲であり、第2の代替実施形態における細孔の最大値は、20〜40nm、好ましくは25〜35nmの範囲である。
【0040】
本発明の分散液は、二酸化珪素粒子を130〜800nm、好ましくは150〜600nm、より好ましくは150〜450nm、とりわけ好ましくは150〜400nm、最も好ましくは180〜300nmの平均粒径d50になるように粉砕して、pH9のゼータ電位が−20mV未満、好ましくは−20〜−45mV、より好ましくは−25〜−45mV、最も好ましくは−30〜−40mVであり、pHが8を超え、好ましくは8.0〜14、より好ましくは8.5〜12、さらにより好ましくは8.7〜10、とりわけ好ましくは9〜9.5である分散液を前記粒子から得る方法によって製造することができる。
【0041】
この方法は、好ましくは、
a.二酸化珪素を液体溶媒(好ましくは水)に分散させることによって予備分散液を製造する、
b.場合により予備分散液のpHを調節する、
c.予備分散液中の二酸化珪素粒子を粉砕する、
d.ステップc)の後に得られた分散液を所望の固体含有量になるまで濃縮する
ステップの少なくともいくつかを含む。
【0042】
ステップa)では、予備分散液を製造する。一実施形態において、二酸化珪素粒子は、この目的のために液体成分、好ましくは水、より好ましくは脱イオン水に分散させる。しかし、フィルターケーキを再分散させる、すなわち、二酸化珪素粒子を最初に乾燥させないことも可能である。本発明の方法のこの第2の実施形態は、当然ながら第1の実施形態よりも経済的な利点を伴う。これらの2つの実施形態のいずれかの混合形態も同様に可能であり、すなわち、フィルターケーキを再分散させた後に、乾燥させた二酸化珪素を添加することも、またその逆も可能である。また、少なくとも2種類の二酸化珪素の混合物の基剤分散液を製造することも可能である。
【0043】
予備分散液は、適切な分散装置によりそれ自体既知の様式で製造される。例えば、二酸化珪素粉末の分散は、システムに比較的小さな剪断エネルギーを取り入れる装置(例えば、溶解機、ローター−ステーター式システム)で行うことができる。しかし、ステップc)で使用される同じ装置を使用することも可能である。
【0044】
任意のステップb)では、塩基性分散液のpHを所望の値、すなわち、8を超える、好ましくは8.0〜14、より好ましくは8.5〜12、さらにより好ましくは8.7〜10、とりわけ好ましくは9〜9.5の値に調節する。これは、二酸化珪素のpHに応じて、塩基性成分または酸性化剤を添加することにより行うことができる。原則としていずれの塩基性溶媒も、好ましくはアルカリ金属水酸化物もしくはアルカリ土類金属水酸化物または有機塩基またはアンモニアも使用することができる。また、原則として、使用される酸性化剤は、いずれの酸性溶媒(例えば、鉱酸、有機酸)である場合もある。
【0045】
方法の一変形例では、二酸化珪素自体が分散液のpHを所望の値に調節するようにpHが予め調節されている二酸化珪素を使用することも可能であり、すなわち、ステップb)を省略することができる。この変形例において、二酸化珪素のpHは、二酸化珪素の製造のステップの1つで、例えば析出中または乾燥中に、適切な塩基性媒体または酸性媒体を添加することにより調節することができる。
【0046】
これに関しては、適切な技法が当業者に既知である。
【0047】
pHが相応に調節された予備分散液は、ステップc)で適切な装置により粉砕される。特定の理論に拘束されるわけではないが、二酸化珪素および/またはその表面の構造に及ぼす粉末方法の影響は、得られる分散液の後の安定性にきわめて重要であると考えられる。
【0048】
原則として、適切な分散装置であればいずれも使用することができるが、但し、ゼータ電位だけでなく、特定の実施形態においては細孔容積も適切な範囲となるように、二酸化珪素の構造および表面に影響を及ぼすのが適切である。例えば、適切な分散装置には、凝集体が分散後に130〜800nmの平均粒径を有するように沈降二酸化珪素粉末またはフィルターケーキを分散させる上でエネルギー入力が十分であるものがある。この目的には、0.1〜10kWh/kgの固体に応じた比エネルギー入力が必要である。これらの高い比エネルギー入力を実現するには、原則として、出力密度が高く滞留時間が短いプロセス、出力密度が低く滞留時間が長いプロセス、および中間の形態を使用することが可能である。
【0049】
高圧システム(例えば、ナノマイザー、マイクロフルイダイザー、および分散液が最大50〜5000barの高圧下でノズルに流れて、エネルギーの分散によってノズル内およびノズル以降に分散する他のノズルシステム)は、すでにシングルパスで5000kJ/m3〜500000kJ/m3ものきわめて高いエネルギー入力を達成している。対照的に、撹拌型ボールミルは、パス当たり5〜500kJ/m3という実質的に低い比エネルギー入力を生じる。十分な粒子粉末度を実現するには、分散液をかなり高い頻度でミルに通さなければならず、これにより高圧システムによりも応力頻度が実質的に高くなる。低強度に加えて応力頻度が高いと、粒子の構造および表面に良い効果が及び、そのため分散液の安定性にも良い効果が及ぶ。
【0050】
本発明者等は、高圧システム、すなわち、出力密度が高く滞留時間が短いシステムではなく、出力密度が低く滞留時間が長いシステムで粉砕を行うのが有利であることを発見した。この発見は、高圧システムで粉砕を行う特開平09−142827号公報では、シリカ粒子の粒径が120〜390nmである分散液が十分な貯蔵安定性を有さなかったという事実の説明となる。対照的に、本発明に基づく方法により製造された、シリカの粒径が同じ分散液は、良好な貯蔵安定性を示した。この粉砕方法は、分散液の安定性に大きく影響するような影響を、得られたシリカ粒子の構造に及ぼすと考えられる。
【0051】
高い充填度を実現し、低粘性を有する安定した分散液を得るには、1000kJ/m3を超える剪断エネルギーを適用するのが好都合である。特に良好な結果は、撹拌型ボールミル、高圧ホモジナイザーまたは遊星ボールミルを使用して得られる。これらのミルの操作は当業者に既知である。
【0052】
ボールミル(特に撹拌型ボールミル)の使用は、特に有利であることが認められている。生成物は往復方式または循環方式でミルに流すことができる。循環速度が速いため、この場合の循環方式の構成はより達成するのが簡易である。循環性能は10〜300kg/時の間で変動する場合があり、25〜200kg/時、より好ましくは50〜150kg/時、およびとりわけ好ましくは80〜120kg/時の範囲であるのが有利である。
【0053】
撹拌機は、ディスク、ピン、ピン−カウンターピン構成、環状ギャップなどの形態である場合がある。ディスク構成が好適である。生成物の分散性および使用量に応じて、粉砕時間は、10分〜80時間、好ましくは0.5〜50時間、より好ましくは1〜25時間、およびとりわけ好ましくは5〜15時間である。これにより、(分散液1kgに対して)0.01〜10kWh/kgの比エネルギー入力を実現することが可能となる。エネルギー入力は、好ましくは0.05〜10kWh/kg、より好ましくは0.1〜5kWh/kg、さらにより好ましくは0.1〜0.5kWh/kg、とりわけ好ましくは0.25〜0.3kWh/kgである。粉砕体は、ガラス、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、またはさらなる無機酸化物、および無機酸化物の種々の混合物から構成される場合がある。高密度のため、酸化イットリウムにより摩耗に対して安定させた酸化ジルコニウムの粉砕体を使用するのが有利である。粉砕体の大きさは、20μm〜数mmの間で変動する場合があり、0.02〜10mm、より好ましくは0.05〜5mm、さらにより好ましくは0.1〜1mm、とりわけ好ましくは0.2〜0.4mmの大きさの粉砕体を使用するのが有利である。粉砕体の充填度は、粉砕空間の自由体積に対して、60〜99%、好ましくは70〜95%、より好ましくは80〜95%、およびとりわけ好ましくは90〜95%の間で変動する場合がある。粉砕ツールの周速度は、1m/秒〜15m/秒、好ましくは5m/秒〜15m/秒、より好ましくは8m/秒〜12m/秒の間で変動する場合がある。
【0054】
粉砕後は、ステップd)で、所望の二酸化珪素含有量への分散液の濃縮を場合により行う。この濃縮は、当業者に既知のいずれかの技法により、例えば液体媒体を減量することにより、例えば真空蒸発、クロスフロー濾過、連続式もしくはバッチ式遠心分離、濾過により、または固形分を増加させることにより行うことができる。
【0055】
使用する二酸化珪素は、原則としていずれの所望の沈降二酸化珪素または珪酸塩である場合もある。シリカまたは珪酸塩は、基本的に分散液の使用目的によって選択される。例えば、紙塗被用の分散液の場合は、きわめて吸収性の高い出発材料のシリカを使用することが必要な場合がある。前記シリカの例には、DBPが150g/100gを超えるシリカがある。例えば建築化学品分野で、例えばコンクリート添加剤として分散液を使用する場合、特に適切な出発材料のシリカまたは珪酸塩には、BET表面積が150m2/gを超えるものがある。前記シリカの例には、Sipernat 160(登録商標)およびSipernat 312 AM(登録商標)がある。
【0056】
本発明の分散液は、
・製紙部門において、例えば、インクジェットコーティングに、
・建設業において、例えば、コンクリート添加剤として、
・例えば、インクジェットインクおよび接着剤のレオロジー制御のために、
・塗料および塗装系において、例えば、硬度および耐ひっかき性を改善するために、
・分散染料中のTiO2増量剤として、
・織物の最終仕上げにおいて、例えば、繊維中の補強充填剤として
使用することができる。
【0057】
本発明の分散液は、いずれの添加剤(例えば、安定剤、分散剤、保存剤)も添加せずに使用するのが好ましいとは言え、このような添加剤の分散液への添加、従って特定の使用要件への分散液の調節は、当然ながら除外されるわけではない。しかし、本発明の分散液は安定剤を使用せずとも安定性を有することを再度強調しておく。
【0058】
分散液の特性を明らかにするに当たり、以下の試験方法を使用する。
【0059】
平均粒径の測定
本発明の分散液の粒度分布は、レーザー回折の原理により、レーザー回折計(Horiba製、LA−920)で測定される。
【0060】
最初に、シリカ分散液の試料を撹拌しながら採取し、ビーカーに移して、約1質量%の質量比のSiO2を有する分散液が形成されるように、分散添加剤を添加せずに水を添加することによって希釈する。粉末の粒径を測定するため、粉末を水の中に入れて撹拌することにより、約1質量%の質量比のSiO2を有する分散液を製造する。
【0061】
分散の直後に、分散液試料の粒度分布を、レーザー回折計(Horiba LA−920)で測定する。測定には1.09の相対屈折率を選択するものとする。すべての測定は室温にて行う。粒径分布、および例えば平均粒径d50などの関連パラメータは、機器により自動的に算出され、グラフ形式で表示される。取扱説明書の指示内容に注意するものとする。
【0062】
BET表面積の測定
シリカが固体ではなく水性分散液中に存在する場合は、以下の試料製造をBET表面積の測定前に行うものとする。
【0063】
100mlのシリカ分散液を撹拌しながら採取し、磁製皿に移して、105℃にて72時間乾燥させる。有機成分を除去するため、乾燥シリカを500℃に24時間加熱する。シリカ試料が冷却したら、へらで粉砕して、BET表面積を測定する。
【0064】
固体のシリカのBET表面積は、ISO 5794−1/Annex Dに基づき、TRISTAR 3000機器(Micromeritics製)を使用し、DIN ISP 9277に基づく多点測定により測定する。
【0065】
pHの測定
水性分散液のpHは、DIN EN ISO 787−9に基づき20℃にて測定する。pHを測定するため、分散液を5質量%の質量比のSiO2に水で希釈して、室温にて分析する。
【0066】
シリカ粉末のpHを測定するため、5%の水性分散液(100mlの脱イオン水当たり5.00gのシリカ)を製造する。
【0067】
含水率または乾燥減量の測定
シリカの含水率は、強制空気乾燥キャビネットで2時間105℃にて乾燥させた後、ISO 787−2に従って測定する。この乾燥減量はほとんどが水分を含んでいる。
【0068】
強熱減量の測定
この方法を使用して、シリカの減量を、DIN EN ISO 3262−1に基づき1000℃にて測定する。この温度では、物理的および化学的に結合した水分ならびに他の揮発性成分が消失する。分析した試料の含水率(TV)は、DIN EN ISO 787−2に従って、上述の「含水率または乾燥減量の測定」の方法により測定する。
【0069】
DBP吸収量の測定
沈降シリカの吸収度の指標であるDBP吸収量(DBP数)は、DIN 53601に従って以下の通り測定する。
【0070】
0〜10%の含水量(適宜、含水量は、乾燥キャビネットで105℃にて乾燥させることにより調節する)を有する12.50gの粉状シリカまたは球状シリカを、Brabender「E」吸収計のニーダーチャンバー(商品コード279061)に入れる(トルク変換器の出口フィルターの給湿は行わない)。一定に混合しながら(ニーダーブレードの周速度125rpm)、フタル酸ジブチルを室温にて「Brabender T 90/50 Dosimat」を介して混合物に4ml/分の速度で滴加する。混合は極力小さな力のみで行い、デジタルディスプレイを使用して監視する。測定が終了に近づくにつれて、混合物がペースト状になり、このことは必要とする力が急激に増大することによって示される。ディスプレイが600ディジット(トルク0.6Nm)を示したら、ニーダーおよびDBP計測器両方の電源をオフにする。DBPフィードの同期モーターをデジタルカウンターに接続すると、DBPの消費量をml単位で読み取ることができる。
【0071】
DBP吸収量はg/(100g)単位で表され、以下の式により算出される。
【0072】
【数1】

[式中、
DBP=DBP吸収量(g/(100g))
V=DBP消費量(ml)
D=DBP密度(g/ml)(20℃にて1.047g/ml)
E=出発材料のシリカの質量(g)
K=含水率補正表に基づく補正値(g/(100g))]
【0073】
無水乾燥シリカのDBP吸収量を定義する。含水沈降シリカの使用に当たっては、DBP吸収量の算出に補正値Kを考慮しなければならない。この値は以下の補正表を使用して測定することができ、例えば、5.8%の含水率のシリカは、DBP吸収量に33g/(100g)のさらなる寄与があることを意味する。シリカの含水率は、「含水率および乾燥減量の測定」の方法に従って測定する。
【0074】
フタル酸ジブチル吸収量(無水物)の含水率補正表
【表1】

【0075】
タンピング密度の測定
タンピング密度は、DIN EN ISO 787−11に基づき測定する。
【0076】
事前に選別していない所定量の試料をガラスメスシリンダーに入れて、タンピング体積計による一定数のタンピング操作にかける。タンピング中に試料は凝縮される。分析を行って得られる結果がタンピング密度である。
【0077】
測定は、Engelsmann(独国ルートウィヒスハーフェン)製のカウンター(STAV 2003型)を備えたタンピング体積計によって行う。
【0078】
最初に、250mlのガラスシリンダーを精密てんびんに乗せて、風袋計量を行う。次に、粉末漏斗を用いて空洞を作らないように、200mlのシリカを風袋計量したメスシリンダーに入れる。これは、シリカを入れる際にシリンダーを傾けたり長軸方向に回転させたりすることにより行うことができる。次いで、試料の質量を0.01gまで正確に計量した後、シリンダー内のシリカの表面が水平になるように、シリンダーを軽くタンピングする。このメスシリンダーをタンピング体積計のメスシリンダーホルダーに挿入して、タンピング操作を1250回行う。タンピング手順が1回終了したら、タンピングした試料の体積を1mlまで正確に読み取る。
【0079】
タンピング密度D(t)は、以下の通り計算する。
【0080】
D(t)=m×1000/V
[式中、
D(t):タンピング密度(g/L)
V:タンピング後のシリカの体積(ml)
m:シリカの質量(g)]
【0081】
SiO2量の測定
SiO2量は、ISO 3262−19に従って測定した。
【0082】
AlおよびNa量の測定
Al量はAl23として測定し、Na量はNa2Oとして測定する。いずれの測定も、ISO 3262−18に従って、フレーム原子吸光分析法により行う。
【0083】
分散液の粘度の測定
粘度の測定には、Haake製のRheo Stress 600機器を使用する。使用するセンサーは、ギャップが0.092mmであるDC60/2°Ti(ダブルコーン)である。測定中は、プログラム制御された内部温度制御装置により温度を制御する(測定温度=23℃)。
【0084】
ゼロ測定、すなわち、試料なしでの測定を行った後、約11mlの分散液を測定装置に入れて測定を開始する。粘度を測定するため、剪断速度を10分以内に継続して0.001L/秒から100L/秒まで上げていった後、同様に10分以内に継続して100L/秒から0.001L/秒まで剪断速度を下げていく。測定は取扱説明書に従って行う。測定が完了すると、測定データが統合ソフトウェアに表示される。
【0085】
ゼータ電位の測定
ゼータ電位の測定には、Quantachrom GmbH製のDT1200電子音響型分光計を使用する。pHの測定には、Beckmann Instruments,Inc.製のBK511071pH電極を使用する。
【0086】
最初に、分析する約120mlの分散液を、20℃の制御温度で200mlのジャケット付容器に充填する。分析は磁気撹拌子で継続して撹拌している間に影響を受ける。ジャケット付容器の蓋は、電子音響型分光計、pH電極、熱電対、および1mol/Lの硝酸または1mol/Lの水酸化カリウム溶液の計量添加用の排管を含む。すべての部品を分散液に約1cm浸漬させる。
【0087】
DT1200機器で物質パラメータ(SiO2:粒径d50、固体濃度(質量%);溶媒:粘土および密度)を設定した後、pH=10〜3の範囲で硝酸を添加しながらゼータ電位を自動測定する。
【0088】
水銀圧入式細孔分布測定
水銀圧入式細孔分布測定データは、DIN 66133に基づき、水銀圧入法により測定する(表面張力480mN/mおよび接触角140°)。
【0089】
100mlのシリカ分散液を撹拌しながら採取し、磁性皿に移して、105℃にて72時間乾燥させる。有機成分を除去するため、乾燥シリカを500℃まで24時間加熱する。シリカ試料が冷却したら、へらで粉砕して、水銀圧入式細孔分布測定を行う。
【0090】
測定前にシリカの圧力処理を行う。この目的には手動式液圧プレス(発注番号15011、Specac Ltd.、River House,97 Cray Avennue,Orpington,Kent BR5 4HE,U.K.)を使用する。この処理では、250mgのシリカを計量してSpecac Ltd.製の内径13mmのペレットダイに入れ、表示に従って1tの荷重をかける。この荷重を5秒間維持し、適宜再調節する。その後、試料を減圧し、強制空気乾燥キャビネットに入れて105±2℃にて4時間乾燥させる。
【0091】
シリカを0.001gまで正確に計量して10型ペネトロメーターへ入れ、良好な測定再現性を得るため、使用するステム容積(すなわち、ペネトロメーターへの充填で消費されるHgの容積率)が20〜40%になるように、開始質量を選択する。次いで、ペネトロメーターを50μmHgになるまで緩徐に排気し、この圧力を5分間維持する。
【0092】
Autopore機器は、ソフトウェアバージョンIV 1.05の取扱説明書に従って操作する。各測定において、ペネトロメーターの空測定による補正を行う。測定範囲は0.0025〜420MPaであり、少なくとも136箇所の平衡測定ポイント(機器固有の基準は10秒)(0.0025〜0.25MPa:30箇所、0.25〜15MPa:53箇所、15〜150MPa:40箇所、150〜420MPa:13箇所)を測定する。増分圧入容積が0.04ml/gを超える場合は、適宜ソフトウェアがさらなる測定ポイントを導入する。機器ソフトウェアの"smooth differentials(平滑微分)"機能により、圧入曲線を平滑化する。
【0093】
10〜1000nmの範囲内の細孔容積、および細孔最大値は、x軸=孔径およびy軸=dV/dlogDのグラフ表示を基に評価する。
【0094】
以下の実施例は、本発明を例示および詳述するものであり、数多くの改変および変形が当業者に明らかであることから、本発明の適用範囲を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】図1は、50℃にて7日間高温貯蔵試験を行った後における、実施例6に記載の分散液のゼータ電位を示す。
【図2】図2は、50℃にて7日間高温貯蔵試験を行った後における、実施例7に記載の分散液のゼータ電位を示す。
【図3】図3は、50℃にて7日間高温貯蔵試験を行った後における、実施例8に記載の分散液のゼータ電位を示す。
【図4】図4は、50℃にて7日間高温貯蔵試験を行った後における、実施例9に記載の分散液のゼータ電位を示す。
【0096】
実施例
方法の概説
分散液は、撹拌型ボールミル(LME4、Netzsch製)で製造する。粉砕スペースおよびディスク型撹拌機は、耐摩耗性セラミック(Al23またはZrO2)で構成される。イットリウム安定化ZrO2製の粉砕ボールは、0.2〜0.4mmの直径を有し、粉砕チャンバーの90%(8.84kg)を占める。
【0097】
ステップa)では、最初に22.5kgの脱塩水を、底部に排水口を備えた50L容器に充填した後、2.5kgのシリカまたは珪酸塩を、液体に分散するまで、溶解機のディスク(速度=380〜940rpm、周速度=3〜7.4m/秒)により緩徐に撹拌する。
【0098】
ステップb)では、(必要に応じて(実施例1および2))分散液のpHをKOHで9に調節する。実施例3および4では、分散液のpHはシリカのpHにより自動的に設定される。pHは定期的に確認し、場合により再調節する。
【0099】
ステップc)では、所望の粉末度を達成するため、分散液を循環方式でボールミルに入れる。すべての実験で、周速度は10m/秒で一定であり、処理能力も100kg/時で一定である。
【0100】
循環方式でミルを操作している間に、貯蔵容器にさらなるシリカを少しずつ添加して、分散液のSiO2濃度をさらに上げる。
【0101】
実施例1〜4
実施例1〜3では沈降シリカを使用し、実施例4では珪酸塩を使用する。
【0102】
実施例1に記載のシリカは、Sipernat 160(登録商標)(Degussa AG製)である。実施例2に記載のシリカは、Degussa AG製の市販製品Sipernat 312 AM(登録商標)である。実施例3のシリカは、同様にDegussa AG製のSipernat 360(登録商標)である。実施例4では、Degussa AG製の珪酸アルミニウムSipernat 820 A(登録商標)を使用した。分散液の製造に使用したシリカまたは珪酸塩の物理化学的特性は、第1表に報告する。
【0103】
得られた分散液の特性は、第2表に報告する。
【0104】
【表2】

【0105】
【表3】

【0106】
実施例5
分散液の貯蔵安定性を評価するため、50℃にて7日間分散液の高温貯蔵試験を行った。このような貯蔵条件では室温にて3ヵ月の貯蔵安定性が保証されることが、実験で明らかになった。4日後と7日後に、平均粒径と粘度(96s-1)をそれぞれ測定して、製造後の値と比較した。結果は第3表に報告する。これらの値が時間の経過とともに変化しないか、またはごくわずかしか変化せず、かつ/あるいは特定の臨界値を超えない場合に、試料は貯蔵安定性を有するとされる。
【0107】
平均粒径
第3表に報告した実施例1〜3の分散液の平均粒径は、3日後にも7日後にも変化しなかったことを示している。絶対測定で見られる差は、自然誤差による変動の範囲内である。換言すれば、これらの分散液は、平均粒径の点において貯蔵安定性を有する。
【0108】
粘度
第3表に示されているように、実施例1〜3の粘度は、数日間にわたって実質的に一定しているか、またはわずかに改善さえしている。実施例2では、7日間の間の改善が報告されている。実施例4でも粘度のわずかな増加が見られる。しかし、22mPasの値では、50℃にて7日間置いた後にも、粘度は依然として優良な範囲内にあることから、分散液の有用性において何ら障害は見られない。50℃にて7日間貯蔵した後でも、再分散や液化の必要はなく、分散液はすべてすぐに使用できる状態である。
【0109】
【表4】

【0110】
実施例6〜9
方法の概説に従って分散液を製造するために、第1表に記載のシリカまたは珪酸塩を再度使用した。これらは、実施例1〜4に記載の分散液よりも固体含有量が多かった。固体含有量および粒径は、第4表より参照することができる。
【0111】
次いで、これらの分散液のゼータ電位を、50℃にて貯蔵する1日目(すなわち、高温貯蔵を開始する前に分散液を製造した日)と3日目と7日目に測定した。1日目に、ゼータ電位をpHの関数としてその都度測定し、pH9のゼータ電位は、測定により設定した多項式回帰関数より得た。実施例6および9では、この手順を同じように3日目の測定に使用した。実施例7および8では、3日目に、pHに照らした測定を行う代わりに、9に近いpH値で個別の測定を行った。7日目には、実施例6〜9のすべてにおいて、9に近いpH値での個別の測定のみを行った。特定の分析の個別の測定のグラフは、図1〜図4より参照することができる。第5表は、図1〜図4の引用として、個別の測定により設定した多項式回帰により測定したpH9のゼータ電位、または(pHに照らして測定を行わなかった場合は)個別の測定のゼータ電位を示す。
【0112】
図1〜図4および第5表によれば、高温貯蔵中に、実施例6〜9のゼータ電位には、たとえ変化が見られたとしてもごくわずかであったことが示されている。上に既述した通り、ゼータ電位は、シリカの表面電荷を示す指標である。図1〜図4によれば、本発明の分散液は、互いに強く反発して、粒子の凝集が生じず、そのため沈降が防止されるほどに、負のゼータ電位を有することが示されている。
【0113】
このゼータ電位の変化は、7日間高温貯蔵した後でもごくわずかであるため、本発明の分散液の貯蔵安定性は、固体含有量が多い時にも確認される。
【0114】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の二酸化珪素を含む分散液であって、
− 二酸化珪素、好ましくは沈降二酸化珪素および/または珪酸塩が、50m2/gを超えるBET表面積を有し、
− 分散液中の二酸化珪素アグロメレートが130〜800nmの平均粒径d50を有し、
− 二酸化珪素の割合が、分散液の全質量に対して5〜50質量%であり、
− 分散液のpHが8を超え、
− pH9における分散液のゼータ電位が−20mV未満である、
ことを特徴とする分散液。
【請求項2】
二酸化珪素粒子が直径10〜1000nmである細孔の細孔容積を0.05〜1.0ml/gの範囲内で有することを特徴とする、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
二酸化珪素粒子の細孔の最大値が5〜50nmの範囲内であることを特徴とする、請求項1または2に記載の分散液。
【請求項4】
分散液が500mPas以下の粘度を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の分散液。
【請求項5】
二酸化珪素、好ましくは沈降二酸化珪素および/または珪酸塩が、50〜500m2/gのBET表面積を有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の分散液。
【請求項6】
分散液中の二酸化珪素アグロメレートが、150〜450nmの平均粒径d50を有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の分散液。
【請求項7】
二酸化珪素の割合が、分散液の全質量に対して10〜50質量%であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の分散液。
【請求項8】
分散液のpHが8.5〜12の範囲内であることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の分散液。
【請求項9】
pH9における分散液のゼータ電位が、−20〜−45mVの範囲内であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の分散液。
【請求項10】
少なくとも1種の二酸化珪素を含む分散液を製造する方法であって、二酸化珪素粒子を適切な分散装置により130〜800nmの平均粒径d50になるまで粉砕し、得られる分散液のpHが8を超え、pH9におけるゼータ電位が−20mV未満となるようにpHを調節することを特徴とする方法。
【請求項11】
二酸化珪素が沈降二酸化珪素および/または珪酸塩であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
分散装置を通過する毎に分散液に印加される分散装置の比エネルギー入力が、5〜500kJ/m3の範囲となるように方法を実施することを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
生成物が往復方式または循環方式で分散装置に流れることを特徴とする、請求項10から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
使用する前記分散装置が、ボールミル、好ましくは撹拌型ボールミルまたは遊星型ボールミルであることを特徴とする、請求項10から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
引き続き、
a.二酸化珪素を液体溶媒、好ましくは水に分散させることによって予備分散液を製造するステップ、
c.予備分散液中の二酸化珪素粒子を粉砕するステップ
を実施することを特徴とする、請求項10から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
さらに、
b.予備分散液のpHを調節するステップ、
d.ステップ3の後に得られた分散液を所望の固体含有量になるまで濃縮するステップ
の内の少なくとも1つも実施することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップa)および/またはc)において、溶解機、ローター−ステーター式システム、ボールミル、特に、撹拌型ボールミルもしくは遊星型ボールミル、または高圧ホモジナイザーを使用することを特徴とする、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
ステップcにおいて、1000kJ/m3を超える剪断エネルギーを印加することを特徴とする、請求項15から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の分散液を、
・ 製紙部門において、例えば、インクジェットコーティングのために、
・ 建設業において、例えば、コンクリート添加剤として、
・ 例えば、インクジェットインクおよび接着剤のレオロジー制御のために、
・ 塗料および塗装系において、例えば、硬度および耐ひっかき性を改善するために、
・ 分散染料中のTiO2増量剤として、
・ 織物の最終仕上げにおいて、例えば、繊維中の補強充填剤として、
用いる使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−506814(P2010−506814A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532793(P2009−532793)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【国際出願番号】PCT/EP2007/061080
【国際公開番号】WO2008/046854
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】