説明

官能化された貴金属含有吸着材料から貴金属を回収する方法

【課題】先行技術による公知の方法と比較して貴金属をより効率的に分離できる、スカベンジャー材料から貴金属を分離する方法の提供
【解決手段】本発明は、i)無機材料をベースとし、有機基によって官能化されていて、少なくとも1種の貴金属を吸着した吸着剤を含む貴金属含有組成物を準備する工程;ii)方法工程i)で準備された貴金属含有組成物を灰化して、灰化した組成物を得る工程;iii)方法工程ii)で得られた灰化した組成物を、アルカリ性水溶液中で少なくとも部分的に溶解して、貴金属含有残留物を得る工程;iv)方法工程iii)で得られた貴金属含有残留物を、酸化性水性酸中で少なくとも部分的に溶解して、貴金属塩の水溶液を得る工程;v)適切な場合に、方法工程iv)中で得られた貴金属塩の還元により貴金属を回収する工程を有する、貴金属の回収方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属含有組成物から貴金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多様な工業的プロセスで、経済的に適正な方法での回収を保証するため、貴金属含有量が十分に高い貴金属含有残留物が得られる。前記残留物は、例えばスラリー、除滓、研磨ダスト、貴金属含有触媒残留物を含む工業的プラントからの生成物残留物などである。
【0003】
組成物中に含まれる貴金属を回収するために、多様な方法が公知である。極めて頻繁に使用されかつ極めて高い効率を特徴とする方法は、いわゆるシアン化物浸出法(cyanide leaching)であり、これは特に金の回収の場合に使用される。この関連で、シアン化ナトリウム又はシアン化カリウム浸出液を金含有組成物に添加し、この場合、前記組成物中に含まれる金及びある程度の他の貴金属は浸出液中へ溶解する。金の場合には、この金は水溶液中でイオン性の形態で錯体中に結合している。第2の方法工程で、この金は、次いでこの溶液から電解により堆積させることができる。前記方法は、工業的観点から極めて良好に機能するが、大量の高毒性のシアン化物を取り扱う必要があり、このシアン化物は環境保護の理由から並びにこの作業の従事者の健康保護の理由から極めて問題であるという重大な欠点を有している。
【0004】
この問題を回避するために、他の錯生成剤、例えばチオ尿素を用いることでこの問題を回避することが試みられた。しかしながら、特に、溶解されるべき金属粒子の表面がコロイド状硫黄の形成によって急速に不動態化され、このことがこの方法の効率を著しく低下させてしまうという問題と結びついている。従って、錯生成剤としてチオ尿素の使用を伴う方法は、工業的な金属回収方法において経済的重要性を達成できなかった。
【0005】
例えばWO-A-2006/013060に記載された、貴金属の回収のための他のアプローチは、いわゆるスカベンジャー材料の使用である。頻繁に、有機錯生成剤により官能化され、かつ貴金属含有溶液との接触の際に貴金属を吸着したシリカゲル又は酸化アルミニウムゲルをベースとする無機材料が使用される。この吸着された貴金属は、次にこうして得られた再生可能な物品からさらに単離される。貴金属を前記再生可能な物品から単離する最初の工程は、この溶解である。シリカゲルをベースとするスカベンジャー材料の使用に関して、酸化性酸を用いた処理による直接的な浸出(例えばEP-A-1 576 200又はUS 4,360,380に記載されている)は、高いシリカゲル含量のために吸着された貴金属の定量的除去のために十分に効果的とはいえはない。貴金属の大部分はこの担体に残り、容易に溶解させることができない。この再生可能な物品の錯生成剤、例えばチオ尿素による処理は、シリカゲルに吸着した貴金属の部分的な溶出を生じさせるだけである("Recovery of rhodium-containing catalysts by silica-based chelating ion exchangers containing N and S donor atoms", Kramer et a/.著, Inorganica Chimica Acta (2001), vol. 315(2), 第183-190頁参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO-A-2006/013060
【特許文献2】EP-A-1 576 200
【特許文献3】US 4,360,380
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】"Recovery of rhodium-containing catalysts by silica-based chelating ion exchangers containing N and S donor atoms", Kramer et a/.著, Inorganica Chimica Acta (2001), vol. 315(2), 第183-190頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の根底をなす課題は、有機基により官能化されたスカベンジャー材料、特に錯生成剤により官能化されたシリカゲルをベースとするか又は酸化アルミニウムゲルをベースとする無機材料から貴金属を分離することに関する先行技術から生じる欠点を克服することであった。
【0009】
特に、本発明の根底をなす課題は、先行技術による公知の方法と比較して、貴金属をより効率的に分離できる、前記スカベンジャー材料から貴金属を分離する方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題の解決のための貢献は、次の方法工程を有する貴金属含有組成物から貴金属を回収する方法によりなされる:
i) 無機材料をベースとし、かつ有機基によって官能化されていて、かつ少なくとも1種の貴金属を吸着した吸着剤を含む貴金属含有組成物を準備する工程;
ii) 灰化後の貴金属含有組成物の全質量に対して、最大で10質量%、特に有利に最大で5質量%、更に特に最大で3.5質量%、最も有利に最大で2.0質量%の残留炭素含有量を調節するために、方法工程i)で準備された貴金属含有組成物を灰化して、灰化した組成物を得る工程;
iii) 方法工程ii)で得られた灰化した組成物を、アルカリ性水溶液中で少なくとも部分的に溶解して、貴金属含有残留物を得る工程;
iv) 方法工程iii)で得られた貴金属含有残留物を、酸化性水性酸中で少なくとも部分的に溶解して、貴金属塩の水溶液を得る工程;
v) 適切な場合に、方法工程iv)中で得られた貴金属塩の還元により貴金属を回収する工程。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による方法の方法工程i)は、無機材料をベースとし、かつ有機基により官能化され、かつ少なくとも1種の貴金属が前記無機材料に吸着された吸着剤を含有する貴金属含有組成物を最初に準備することを含む。
【0012】
無機材料をベースとする官能化された吸着剤として考慮されるのは、工業的残留物から貴金属を回収する際にスカベンジャー材料として通常使用される、当業者が公知の全ての材料である。有利に、前記材料は、有利に酸化ケイ素又は酸化アルミニウムをベースとする無機ゲルである。特に有利な吸着剤は、シリカゲル又は酸化アルミニウムゲルをベースとする吸着剤であり、この場合、シリカゲルをベースとする吸着剤の使用が特に有利である。この関連で、硫黄含有及び/又は窒素含有の有機基で官能化されたシリカゲルが特に有利であり、チオール基又はスルフィド基により官能化されたシリカゲルが、この関連で特に有利である。
【0013】
有機基により官能化された適当なシリカゲルの例は、例えば、Biotage AG社(スウェーデン)から、ISOLUTE(登録商標)の商品名で市販されている官能化されたシリカゲルである。前記シリカゲルは、例えば、2,4,6−トリメルカプトトリアジン基により官能化されたシリカゲル(ISOLUTE(登録商標) SI-TMT)、カルボナート基により官能化されたシリカゲル(ISOLUTE(登録商標) SI-Carbonate)、チオール基、例えば1−プロパンチオール基により官能化されたシリカゲル(ISOLUTE(登録商標) SI-Thiol)、トリアミン基、例えば3−(ジエチレントリアミン)プロピル基により官能化されたシリカゲル(ISOLUTE(登録商標) SI-Triamine)又はスルホン酸基により官能化されたシリカゲル、例えばエチルベンゼンスルホニルヒドラジン基により官能化されたシリカゲル(ISOLUTE(登録商標) SI-TosyI Hydrazine)、メチルベンゼンスルホン酸基により官能化されたシリカゲル(ISOLUTE(登録商標) SI-TsOH)又はプロピルスルホン酸基により官能化されたシリカゲル(ISOLUTE(登録商標) SI-Propylsulfonic acid)である。更に、例えばSilicaBond(登録商標), PhosphonicSTM又はQuadraSilTMの商品名により市販されているこのような官能化されたシリカゲルも言及することができる。PhosphonicSTMの商品名により市販されているスカベンジャー材料のなかで、特に、N−アセチル−L−システイン基により官能化されたシリカゲル(製品番号16−0200)、2−アミノエチルスルフィド−エチル基により官能化されたシリカゲル(製品番号16−0215)、2−メルカプトエチルエチルスルフィド基により官能化されたシリカゲル(製品番号16−0650)、3−メルカプトプロピルエチルスルフィド基により官能化されたシリカゲル(製品番号16−1700、16−1706、16−1702及び16−1704)、ペンタエリトリトール−2−メルカプトアセタート−エチルスルフィド基により官能化されたシリカゲル(製品番号16−1540)、及びトリアミン−エチルスルフィドアミド基により官能化されたシリカゲル(製品番号16−0210)が有利である。
【0014】
このタイプの官能化されたシリカゲル材料は、通常では、使用された官能化されたシリカゲル材料に対してそれぞれ、少なくとも50質量%、特に有利に少なくとも75質量%、更に有利に少なくとも90質量%、最も有利に少なくとも100質量%が、100〜1000μm、特に有利に200〜800μm、最も有利に300〜600μmの範囲内の粒子サイズを有する粒子をベースとする粒子状の固体として利用される。
【0015】
有機基0.1〜10mmol/g、特に有利に0.25〜5mmol/g、最も有利に0.5〜1.5mmol/gにより官能化された、無機材料をベースとする前記吸着剤、特にシリカゲルをベースとする吸着剤が通常である。
【0016】
方法工程i)中で準備される組成物中に含まれ、かつ無機材料をベースとし、かつ有機基により官能化されている吸着剤、有利に有機基により官能化されている上述のシリカゲルは、少なくとも1種の貴金属を吸着し、その際、製造工程i)中で準備される貴金属含有組成物は、方法工程i)中で準備される組成物の全質量に対してそれぞれ、貴金属を少なくとも0.5質量%、有利に少なくとも1.0質量%、最も有利に少なくとも1.5質量%含有する。原則として、貴金属を10質量%まで又はそれ以上含有する貴金属含有組成物を、本発明による方法において使用することができる。この関連で、方法工程i)中で準備された貴金属含有組成物は、方法工程i)中で準備された貴金属含有組成物の全質量に対してそれぞれ、SiO2を少なくとも25質量%、特に有利に少なくとも30質量%、最も有利に少なくとも35質量%含有することが有利である。
【0017】
有利に、方法工程i)中で準備された貴金属含有組成物は、貴金属が回収されるべき貴金属含有残留物を、有機基で官能化され、かつ無機材料をベースとする吸着剤と接触させることにより、有利に貴金属残留物を有機基により官能化されたシリカゲルと接触させることにより得ることができる。考えられる貴金属は、例えば、金、白金、イリジウム、パラジウム、オスミウム、銀、水銀、ポロニウム、ルテニウム、ロジウム、銅、ビスマス、テクネチウム、レニウム及びアンチモンであり、この場合、金、白金、イリジウム、パラジウム、オスミウム、銀、ルテニウム、ロジウム、銅、ビスマス、テクネチウム、レニウムが特に有利であり、白金及びロジウムが最も有利である。
【0018】
貴金属を回収することができる貴金属含有残留物は、例えば、鉱山又は電気メッキ又は冶金操作からの排出水である。貴金属含有触媒を使用しかつこの触媒材料の少なくとも一部が有機合成の過程で製造段階に達する有機合成プロセスの製造残留物も考慮できる。このタイプの貴金属含有残留物からスカベンジャー材料によって貴金属を吸着させるために、一般に、粒子状材料を、有利に液相の形で存在する貴金属含有残留物と接触させ、その際、前記接触は有利に60〜120℃の範囲内の温度で、特に有利に80〜100℃の範囲内の温度で行われる。これは、例えば、スカベンジャー材料を残留物に撹拌しながら添加し、通常5分〜5時間の間、特に有利に30分〜2.5時間の間にあり、かつ貴金属含有残留物とスカベンジャー材料との混合物が撹拌される所定の接触時間後に、前記残留物から前記スカベンジャー材料を分離することにより行うことができる。貴金属が負荷されたスカベンジャー材料の残留物からの分離は、例えば、濾過、沈降又は遠心分離法により行うことができる。更に、このスカベンジャー材料をカラム中に装入し、貴金属含有残留物をこのカラムに通すことも考慮できかつ本発明の場合に有利である。これは、スカベンジャー材料に貴金属を負荷するもう一つの方法である。
【0019】
一般に、方法工程i)中で準備された貴金属含有組成物は、貴金属を負荷された吸着剤を除いて、上記の残留物からなる有機材料を有し、この場合、前記有機材料の量は、方法工程i)中で準備された貴金属含有組成物の全質量に対してそれぞれ、10〜50質量%の範囲内、特に20〜40質量%の範囲内であることができる。
【0020】
本発明による方法の方法工程ii)において、方法工程i)中で準備された貴金属含有組成物は、灰化した組成物を得るために、灰化後の貴金属含有組成物の全質量に対してそれぞれ、最大で10質量%、特に有利に最大で5質量%、更に有利に最大で3.5質量%、最も有利に最大で2.0質量%の残留炭素含有量を調節するために灰化される。吸着剤の官能基の少なくとも一部及びこの組成物中に含まれ得る他の有機材料の一部が除去されるこの灰化プロセスにおいて、この燃焼損失は、有利に少なくとも40質量%、特に有利に少なくとも45質量%、最も有利に少なくとも50質量%に達する。
【0021】
方法工程ii)でのこの灰化は、有利に少なくとも500℃の温度で、特に有利に700℃を越える温度で、最も有利に少なくとも800℃の温度で、有利に少なくとも2時間、更に有利に少なくとも4時間、同様に更に有利に少なくとも6時間、特に有利に少なくとも10時間の期間で行われる。通常では、空気雰囲気中での灰化が行われる。この灰化の際には、有利に1200℃、特に有利に1100℃、最も有利に1000℃の温度を越えない。
【0022】
方法工程ii)での貴金属含有組成物の灰化は、適切な場合に、例えばWO 2007/036334に記載されているように、2以上の工程で行うことができる。この関連で、この貴金属含有組成物は、吸着剤の官能基の最初の部分及び組成物中に存在し得る他の有機材料の最初の部分を除去するために、例えば最初の工程で窒素雰囲気又は空気雰囲気中で上記の温度条件で及び上記の期間で加熱することができる。引き続き、炭素含有量を更に低減するために、適切な場合に、部分的に灰化した材料を再混合した後に、上記の温度条件で及び上記の期間で更なる加熱を行うことができる。上記の更なる加熱は、有利に酸素の存在で、特に有利に空気雰囲気中で行われる。上記の2工程の方法は、特に有効に灰化を行うことを可能にする。
【0023】
次いで、本発明による方法の方法工程iii)において、方法工程ii)で得られた灰化した組成物は、貴金属含有残留物を得るために、少なくとも部分的に、アルカリ性の水溶液中で溶解させる。この方法工程の場合に、主に方法工程i)中で準備された無機材料が基礎となる無機材料、有利にシリカゲルは、少なくとも部分的に溶解される。有利に、この溶解は、灰化した組成物を、アルカリ性の水溶液、有利にNaOH又はKOH水溶液と、特に有利にNaOH水溶液と混合し、生じた混合物を次いで、適切な場合に加圧下で、50〜300℃、特に有利に70〜200℃の範囲内の温度で、30分〜10時間の範囲内、特に有利に1.5〜8.5時間の範囲内の期間加熱することにより行われる。
【0024】
使用されるアルカリ性の水溶液の濃度は、方法工程iii)中で使用されたアルカリ性の水溶液の全質量に対してそれぞれ、有利に少なくとも10質量%、更に有利に少なくとも15質量%、最も有利に少なくとも20質量%であり、この場合、この濃度は通常では20〜55質量%の範囲内にある。
【0025】
この関連で、方法工程ii)で得られた灰化した組成物の、アルカリ性の水溶液中での少なくとも部分的な溶解が、方法工程iii)中で還元剤の存在で行われるのが特に有利である。溶解の間の還元剤の添加は、貴金属がこの早期の時点で溶解されることを抑制することができる。
【0026】
この還元剤は、有利に、有機還元剤、ヒドラジン又は水素ガスであり、その際、有利な有機還元剤は、ギ酸又はギ酸塩、ホルムアルデヒド、アルコール(例えばメタノール又はエタノール)、アスコルビン酸、グルコース、グルコン酸、アスコルビン酸及びシュウ酸からなる群から選択される。
【0027】
方法工程iii)で使用される還元剤の量は、灰化した吸着剤1グラム当たり1mg〜2500mgの範囲内、特に有利に、灰化した吸着剤1グラム当たり5〜1000mgの範囲内、最も有利に灰化した組成物1グラム当たり10mg〜100mgの範囲内であることができる。方法工程iii)中で使用されたアルカリ性の水溶液中での還元剤の濃度は、方法工程iii)中で使用されたアルカリ性の水溶液の全質量に対してそれぞれ、0.1〜10質量%の範囲内、特に有利に0.5〜5質量%の範囲内であることができる。
【0028】
他の添加剤を還元剤の他にアルカリ性の水溶液に添加することもでき、それにより、貴金属含有残留物の分離が堆積によって引き起こされるように意図される場合には、特に硬化剤の添加が有利であり、その間に、アルカリ性の水溶液は、貴金属含有残留物からデカントにより分離される。
【0029】
上記の方法で灰化した吸着剤を溶解させた後に、こうして得られた貴金属含有残留物は、この溶液から、例えば濾過、堆積又は遠心分離により、有利に堆積により分離することができ、適切な場合に水又は水溶液で洗浄した後に次の方法工程iv)に供給される。この貴金属含有残留物が、濾紙を用いる濾過により分離される場合には、方法工程iv)が実施される前に、この濾紙を除去するために付加的な方法工程を提供することが有利であることが認められる。
【0030】
方法工程iv)において、貴金属含有残留物は、次いで少なくとも部分的に、酸化性水性酸中で、有利に前記貴金属の塩化物塩の水溶液中で溶解(浸出)され、前記貴金属塩の水溶液が得られる。特に、回収されるべき貴金属がロジウムである場合には、方法工程iii)中で得られた貴金属含有残留物を、方法工程iv)の前に更に還元し、この還元は有利に水素流中で行うことが有利であることが認められる。水素流中での還元は、有利に200〜600℃の範囲内、特に有利に300〜500℃の範囲内の温度で、1〜24時間、特に有利に4〜10時間の期間で行われる。
【0031】
方法工程iii)中で得られた貴金属含有残留物を、方法工程iv)において、貴金属塩の水溶液を得るために、酸化性水性酸中で少なくとも部分的に溶解させることは、有利に、硝酸中で、塩酸と硝酸とを含有する混合物中で、例えば王水中で、又は酸化剤を含有する塩酸中で、例えば塩素ガスを含有する塩酸中で、又は塩素酸塩を含有する塩酸中で行われる。酸化性酸中での貴金属含有残留物の溶解は、有利に、30〜200℃の範囲内の、特に有利に60〜100℃の範囲内の温度で行われる。方法工程iv)中で使用される酸の酸濃度は、有利に、方法工程iv)中で使用された酸化性水性酸の全質量に対してそれぞれ、少なくとも10質量%、特に有利に少なくとも20質量%、最も有利に少なくとも30質量%である。
【0032】
適切な場合には、この貴金属は、次に、本発明による方法の方法工程v)中で、方法工程iv)中で得られた貴金属塩から回収することができる。前記回収は、当業者に公知の方法で、例えば方法工程iv)中で得られた貴金属塩の還元により、例えば電気分解により実施することができる。有利に、この貴金属は、この関連で、少なくとも90%、特に有利に少なくとも95%、最も有利に少なくとも99%の純度で得られる。
【0033】
通常では、当業者は、最も低い可能な貴金属濃度を有する低い液体量を得ることを目指すであろう。
【0034】
例えば、工程iii)において、グラムで示す水の量又はグラムで示す水酸化ナトリウム溶液の量が、例えば貴金属1〜5質量%を含有する処理されるべき前記残留物の質量の約10倍〜15倍である場合には、一般に、5mg/l未満又は1mg/l以下の極めて低い貴金属濃度を有する貴金属含有残留物についての溶液が得られることになるであろう。これは、例えば下記の実施例2〜4から明らかである。前記溶液の更なる処理は、通常では経済的ではなく、従って、これは廃棄されることがあり得る。
【0035】
一般に、使用された、負荷されたスカベンジャーの全質量は、工程iii)の後で、90%より多く、特に95%より多く減少されることが観察され、このことは、この残留物の貴金属含有量は20倍に至るまで増大させることが出来ることを意味する。
【0036】
本発明を、限定されない実施例に基づいて、次に更に詳細に説明する。
【実施例】
【0037】
実施例1
ロジウム1.60質量%及び均一系触媒プロセスからの有機プロセス残留物の特定されていない残りの残留物が負荷されたスカベンジャー(Strem Chemicals, Inc.(USA)社により製造された製品PhosphonicSTM 16-0650を使用した)56.9gを、全ての有機成分を除去するために、空気雰囲気中で800℃で8時間燃焼させた。シリカゲル含有灰分の合計25.5gが得られ、これは55%の燃焼損失に相当した。残留炭素含有量は1.6%であり、Rh含有量は、分析により3.56%(0.91g)であった。
【0038】
実施例2
加圧されたオートクレーブを用いて、実施例1と同様に得られたロジウム含有灰分25gを、45%の水酸化ナトリウム溶液250ml及びギ酸ナトリウム1gの存在で、180℃で4時間加熱した。この試料を次いで冷却し、この上澄溶液をデカントした。この上澄溶液は、Rh<1mg/lを含有していた。吸引漏斗フィルター上の残留物を水で洗浄し、乾燥した。この濃縮された残留物を分析し、0.5gであった。
【0039】
実施例3
加圧されたオートクレーブを用いて、実施例1と同様に得られたロジウム含有灰分18.5gを、45%のNaOH溶液185ml及びギ酸ナトリウム1gの存在で、180℃で8時間加熱した。この試料を次いで冷却し、この上澄溶液をデカントした。この上澄溶液は、Rh<1mg/lを含有していた。吸引漏斗フィルター上の残留物を水で洗浄し、乾燥した。この濃縮された残留物を分析し、3.8gであった。
【0040】
実施例4
実施例1と同様に得られたロジウム含有灰分合計25.5gを、31%のNaOH溶液350mlに添加し、個別の液滴の形で22%のヒドラジン溶液14mlを添加した後に、この試料を、開放容器中で80℃で3時間加熱した。次いで、水50〜100ml及び硬化剤(Praestol(登録商標)、アクリル酸及びアクリルアミドコポリマー、Ashland Deutschland GmbH社)20mlを添加し、この試料を沈殿させ、次いで残留物をデカントにより除去した。残留物を濾過し、水で洗浄し、この質量は乾燥後に2gであった。デカントされた溶液はロジウム3mg/lを含有し、従ってこれを廃棄した。
【0041】
実施例5
実施例4からの残留物を、水素流中で400℃で7時間還元し、次いで装置中で、32%の塩酸中で塩素ガスを導入することにより60℃で15時間浸出させた。この期間の間に、ロジウム含有塩酸を、1回、新たな32%の塩酸に置き換えた。合わせた塩酸溶液のこのRh含有量は、ICPにより測定してRh0.91gであった。
【0042】
実施例6
白金及び均一系触媒シリコーン製造プロセスからの有機プロセス残留物の特定されていない残りが負荷されたスカベンジャー(Strem Chemicals, Inc.(USA)社により製造された製品PhosphonicSTM 16-1700を使用した)94.9gを、全ての有機成分を除去するために、空気雰囲気中で800℃で8時間燃焼した。シリカゲル含有灰分の合計48.0gが得られ、これは49%の燃焼損失に相当した。残留炭素含有量は200ppmであり、Pt含有量を分析して、1.10%(0.528g)であった。
【0043】
実施例7
実施例6と同様に得られた白金含有灰分合計20.1gを、開放容器中で、31%のNaOH溶液270ml及びギ酸4mlの存在で80℃で4時間加熱した。引き続き、この懸濁液を60℃に冷却し、濾過した。水で洗浄した後に、残留物1.35gが得られた。ICPにより、アルカリ性の濾液中に白金は検出されなかった。
【0044】
実施例8
実施例7からの残留物を、王水600ml中で80〜100℃で溶出させ、ICPによりPt含有量0.22gが測定された。
【0045】
実施例9
実施例6と同様に得られた白金含有灰分合計20.2gを、開放容器中で、31%のNaOH溶液270ml及び22%のヒドラジン9mlの存在で、80℃で3時間加熱した。引き続き、この懸濁液を60℃に冷却し、濾過した。水で洗浄した後に、残留物1.41gが得られた。ICPにより、アルカリ性の濾液中に白金は検出されなかった。
【0046】
実施例10
実施例7からの残留物を、王水600ml中で80〜100℃で溶出させ、ICPによりPt含有量0.22gが測定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の方法工程:
i) 無機材料をベースとし、かつ有機基によって官能化されていて、かつ少なくとも1種の貴金属を吸着した吸着剤を含む貴金属含有組成物を準備する工程;
ii) 灰化後の貴金属含有組成物の全質量に対して、最大で10質量%の残留炭素含有量を調節するために、方法工程i)で準備された貴金属含有組成物を灰化して、灰化した組成物を得る工程;
iii) 方法工程ii)で得られた灰化した組成物を、アルカリ性水溶液中で少なくとも部分的に溶解して、貴金属含有残留物を得る工程;
iv) 方法工程iii)で得られた貴金属含有残留物を、酸化性水性酸中で少なくとも部分的に溶解して、貴金属塩の水溶液を得る工程;
v) 適切な場合に、方法工程iv)中で得られた貴金属塩の還元により貴金属を回収する工程
を有する、貴金属含有組成物から貴金属を回収する方法。
【請求項2】
無機材料をベースとする前記吸着剤は、シリカゲル又は酸化アルミニウムゲルをベースとする吸着剤である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
無機材料をベースとする前記吸着剤は、有機基0.1〜1.5mmol/gによって官能化されている、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
方法工程i)で準備された前記貴金属含有組成物は、方法工程i)で準備された前記貴金属含有組成物の全質量に対して、貴金属を少なくとも0.5質量%含有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
方法工程i)で準備された貴金属含有組成物は、貴金属含有残留物と、無機材料をベースとしかつ有機基により官能化されている吸着剤との接触により得られる、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
方法工程i)で準備された貴金属含有組成物の灰化を、方法工程ii)において700℃を超える温度で行う、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
方法工程i)で準備された貴金属含有組成物の灰化を、方法工程ii)において少なくとも2時間の期間にわたり行う、請求項6記載の方法。
【請求項8】
貴金属含有残留物を得るために、アルカリ性の水溶液中での、方法工程ii)で得られた灰化した組成物の少なくとも部分的な溶解を、方法工程iii)において還元剤の存在で行う、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記還元剤は、有機還元剤、ヒドラジン又は水素ガスである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記有機還元剤は、ギ酸又はギ酸塩、ホルムアルデヒド、アルコール、アスコルビン酸、グルコース、グルコン酸、アスコルビン酸、及びシュウ酸からなる群から選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
方法工程iii)で得られた前記貴金属含有残留物を、方法工程iv)の前に水素流中で還元する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
方法工程iii)で得られた前記貴金属含有残留物は、方法工程i)で使用された材料と比べて、90%を越える全体の質量損失を被る、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
全体の質量損失が95%を越える、請求項12記載の方法。
【請求項14】
方法工程iv)において、貴金属塩の水溶液を得るために、方法工程iii)で得られた前記貴金属含有残留物の酸化性水性酸中での少なくとも部分的な溶解を、硝酸中で、塩酸と硝酸とを含有する混合物中で、塩素ガスを有する塩酸中で又は塩素酸塩を含有する塩酸中で行う、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。

【公開番号】特開2012−197512(P2012−197512A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−60204(P2012−60204)
【出願日】平成24年3月16日(2012.3.16)
【出願人】(512069429)ヘレーウス プレシャス メタルズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Precious Metals GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Heraeusstrasse 12−14, 63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】