説明

官能基付きマトリックスを用いる体積位相型ホログラム記録材料および記録媒体

【課題】
本発明はビットエラーレート(BER)やデジタル信号とノイズの比を示すシグナル対ノイズ比(SNR)を低下させることなく、保存性に優れた画像情報を記録/再生することができ、ホログラフィックインフォメーション記録などの用途にも好適なフォトポリマー系の体積位相型ホログラム記録材料及びその製造方法の提供と、その材料を用いた体積位相型ホログラム記録媒体を提供することである。

【解決手段】
体積位相型ホログラム記録材料として、フォトポリマーのマトリックスに反応性官能基として2個のヒドロキシ基を有するアルケニルエーテル化合物を適当量導入することにより、データの記録速度が向上するとともに保存性に優れた体積位相型ホログラム記録材料ができることを見出し、本発明を完成させたのである。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積位相型ホログラム等の記録・再生システム用記録材料および当該材料を用いて作製した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラムは、情報光と参照光と呼ばれる2つの可干渉性の光が干渉することによって生ずる干渉縞を感光材料に記録し、これに参照光と同じ方向から該参照光と同じ波長の光を照射すると、情報光と同一の情報を有する光束が記録された感光材料から発生する、即ち、再生されるというものである。
【0003】
このホログラム技術の応用例としては、次のようなものがよく知られている。即ち、立体的な被写体に可干渉性の光を照射し、該被写体から反射される可干渉性光と参照光との干渉によって生ずる干渉縞を、感光材料に記録する。そして、記録された感光材料に記録に用いたものと同一の参照光を照射することにより、被写体が元にあった位置に被写体そっくりの立体像が再生されて見えるという立体ホログラムが広く知られている。
このホログラム技術は、立体ホログラム以外にも、三次元画像表示素子、光学素子等へ応用されており、これらはホログラフィック光学素子(HOE)と呼ばれている。また、デジタル情報を記録/再生する大容量メモリーの分野、即ち、ホログラフィックインフォメーション記録分野への応用も期待されている。
【0004】
ホログラムは、干渉縞の記録形態により、振幅ホログラムと位相ホログラムに分類される。また、記録層の厚みによっても薄いホログラムと厚いホログラム(体積ホログラム)とに分類される(例えば、非特許文献1参照)。これらの中で、干渉縞を比較的厚い記録層の内部に屈折率の分布あるいは屈折率の変調の形態で記録する、いわゆる体積位相ホログラムは、その高い回折効率や優れた波長選択性により、三次元ディスプレーやHOEなどの用途に応用されている。このような体積位相ホログラムを記録する感光材料としては、従来からハロゲン化銀や重クロム酸ゼラチン(DCG)等が使用されてきた(例えば、非特許文献1参照)。しかし、これらは、湿式現像や煩雑な現像定着処理を必要とすることからホログラムを工業的に生産するには不適当であり、記録後も吸湿などにより像が消失するなどの問題を有していた。
【0005】
近年、体積位相ホログラムの感光材料として、各種のフォトポリマー材料が提案されている。これらは、従来のハロゲン化銀系やDCG系感光材料を使用した時に必要であった繁雑な現像処理が不要であり、且つ乾式プロセスだけで体積位相ホログラムが記録できるため、ホログラムを工業的に生産するのに有用といえる。
【0006】
体積位相型ホログラムを製造するためのフォトポリマー系感光性組成物としては、ラジカル重合モノマー、バインダーポリマー、光ラジカル重合開始剤、および増感色素を主成分とした感光性組成物において、ラジカル重合モノマーの重合体とバインダーポリマーとの間における屈折率差を利用したものがある(例えば、特許文献1参照)。すなわち、フィルム状に形成した該感光性組成物を干渉光で露光すると、干渉縞の光が強い部分においてラジカル重合が開始され、それに伴いラジカル重合モノマーおよび該重合体に濃度勾配が生じ、さらに、光が弱い部分から強い部分にラジカル重合モノマーの拡散移動が起こる。この結果として干渉縞内の光の強弱に応じて、ラジカル重合モノマーと該重合体との分布に疎密ができ、屈折率の差として記録される。
【0007】
また、ホログラム記録材料として、ラジカル重合とカチオン重合を併用した材料系が報告されている(例えば、特許文献2参照)。これには、高屈折率ラジカル重合性モノマーとしてジアリルフルオレン骨格を有するモノマーおよび該ラジカル重合性モノマーより屈折率が小さいカチオン重合性モノマーを使用した系が開示されている。この系では、ホログラム露光時にラジカル重合により高屈折率成分が重合し、次いで定着露光でカチオン重合により像を固定するものである。この他、カチオン重合を利用した材料系なども開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
上記のような光重合技術をホログラムに応用したものは、干渉縞の明るい部分と暗い部分、即ち干渉縞の光強度の空間分布に対応するように、モノマーとポリマーとの濃度に空間的な分布を生じさせる(これは、モノマーが重合反応した場所における平均屈折率と、これ以外の場所の屈折率とに差を生じさせることである)。そして、この干渉縞を屈折率の分布あるいは屈折率の変調として記録するフォトポリマー系の体積位相型ホログラム記録材料は、従来の銀塩感光材料や重クロム酸ゼラチン使用時に必要であった繁雑な現像処理が不要であり、且つホログラム露光プロセスだけで体積位相ホログラムが記録できる。このようなことからフォトポリマー系の体積位相型ホログラム記録材料は、三次元ディスプレーなどの立体画像表示用の記録材料としては十分使用可能である。
【0009】
しかし、ホログラム露光プロセスの反応場であり保持体であるマトリックスの中に重合性のモノマーが分散しているフォトポリマー系の体積位相型ホログラム記録材料では、モノマーとマトリックスとの間、あるいはホログラム露光により生成したポリマーとマトリックスとの間の相溶性の調整がむずかしく、記録材料自体による光散乱が従来使用されてきたDCGなどよりも大きいという問題があった。このため、立体画像表示用素子を大量生産する時の原版ホログラムにはDCGなどの光散乱が少ない記録材料が用いられている。
【0010】
一方、近年、デジタル情報の記録/再生のための大容量メモリー分野にホログラム技術を応用すること、いわゆるホログラフィックインフォメーションストレージ(HIS)技術が検討されている(例えば、非特許文献2参照)。HISは、ホログラム記録の原理を応用したもので、参照光とデジタル情報を重畳させた情報光との干渉によって生ずる干渉縞を感光性材料に記録し、再生光によって該干渉縞から再生される情報光を復調することによって元のデジタル情報を読み出す記録/再生方法である。
【0011】
二次元ドット状または格子状に表現されたデジタル情報は、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)などの空間光変調器(SLM)によって可干渉性の情報光に重畳され、可干渉性の参照光とともに感光材料に照射され、ホログラム記録される。この再生は、記録媒体に参照光の照射によって行われる。即ち、二次元ドット状または格子状のデジタル情報が参照光により読み出され、電荷結合素子(CCD)やCMOS撮像素子などで受光することにより、デジタル情報として復調される。このように、SLMやCMOS撮像素子を使用する点は、三次元ディスプレー用の立体画像の記録/再生法と異なっているものの、特定の光学画像を記録/再生するという点では基本的に両者は同じである。しかし、HISにおいては、多量のデジタルデータを記録するため、多重記録と呼ばれるホログラムを重ね書きすることが一般的である。即ち、三次元ディスプレー用の立体画像の記録と異なり、HISは、同一記録部位あるいは同一の記録体積当りに数十から数百のホログラムを多重記録するものである。また、HISは、多量な情報の記録保存が目的であることから、記録したデジタル情報がどれだけ正確に保存されるかということが重要となる。デジタル情報が正確に記録・再生できるかは、再生したデジタル情報に含まれるエラーの数を示す指標であるビットエラーレート(BER)やデジタル信号とノイズの比を示すシグナル対ノイズ比(SNR)などで評価される(例えば、非特許文献3、非特許文献4参照)。
【0012】
前述のように、HISも三次元ディスプレー用の立体画像の記録も光学画像を記録/再生するという点では同一であるが、前者は多重記録という技術を使用するため、記録された画像の品質、即ち、BERやSNRをどれだけ高品質に保てるかということが重要となる。
【0013】
フォトポリマー系の体積位相型ホログラム記録材料は、DCGのような煩雑な後処理が不要という点では、HISに適した記録材料であるが、記録材料自体による光散乱が多いものである(例えば、非特許文献5参照)。このため、フォトポリマー系の体積位相型ホログラム記録材料は、記録時に光散乱に由来したノイズも同時に記録されることにより、BERやSNRを悪化させ、さらに多重記録時にはノイズも多重されることから、多重記録性能に限界を与えていた。
【0014】
このため、重合性モノマーおよび生成ポリマーとマトリックスとの間の相溶性を良くして光散乱ノイズを低減する方法が提示されている(例えば、特許文献4参照)。この相溶性の調整により光散乱を少なくするという方法は優れたものであるが、高性能なホログラム記録材料に要求される回折効率などの特性を一定のレベルに維持しつつ、重合性モノマーおよび生成ポリマーとマトリックスとの間の相溶性を好適な状態に維持できる材料の組み合わせは見出されていなかった。また、開示されている技術では、多重記録した際の画像情報品質、即ちBERやSNRを高品質に保つことができなかった。
【0015】
このように、フォトポリマー系の体積位相型ホログラム記録材料は従来のDCGやハロゲン化銀系のホログラム記録材料と比べて、記録後の煩雑な後処理工程が無いなどの点で、工業生産用の記録材料として優れている。しかし、記録した画像の品質は従来のDCGなどと比べると劣っていた。
【0016】
フォトポリマー系の体積位相型ホログラム記録材料では、ホログラム記録後の重合性モノマーから生成したポリマーとマトリックスとの屈折率差を利用している。そして、明確なホログラム像を得るためには、より大きな屈折率差が得られるような材料を組み合わせている。しかし、当該ポリマーとポリマーマトリックスとの屈折率差が大きな材料は、一般的にこれらの相溶性を良好にすることが困難である。この相溶性が不十分な場合には、当該ポリマーがマトリックス内で相分離を起こし、目視でも白濁したような状態になる。このような白濁は光散乱を起こしている証拠であり、記録画像の品質を悪化させる。
そこで、記録材料内で相分離がおこらないように配合材料や組成を慎重に選定している。しかし、このような相溶性の調整には限界があり、ノイズレベルを下げるには限界があった。
【0017】
従来のフォトポリマー系の体積位相型ホログラム記録材料では、DCGに匹敵するような高精細なホログラムの記録は困難であった。
【0018】
3級アミン化合物のような連鎖移動剤を配合した体積位相型ホログラム記録材料および記録媒体が報告されている(例えば、特許文献5参照)
【0019】
フローリー・ハギンスの格子理論に基づいて考えた場合、異種の高分子材料の相溶性はそれらの相互作用パラメタ(χ)と分子量(ただし、正確には実在分子の持続長以上の長さにセグメント長を設定した場合のセグメント数N)との積により一般的に考えることができる(例えば、非特許文献6参照)。したがって、マトリックスと光重合により生成するポリマーとの相溶性を向上するために、特定の連鎖移動剤を添加することにより、光重合時の生成ポリマーの分子量を低下させることで相溶性を向上し、ノイズが低減できることが報告されている(例えば、非特許文献5参照)。しかしながら、この場合、ポリマーの分子量低下に伴い干渉領域で重合したポリマーの拡散が生じやすくなり、データ記録の保存性が低下する場合が見られるという欠点があった。
【0020】
【特許文献1】特開平02−3081号公報
【特許文献2】特開平05−107999号公報
【特許文献3】特表2001−523842号公報
【特許文献4】特開11−352303号公報
【特許文献5】国際公開第WO2007/007436号パンフレット
【非特許文献1】久保田敏弘著,「ホログラフィー入門−原理と実際−,第2章 ホログラムの種類と再生像のできかた(p21−43),第6章 記録材料とその特性評価(p96−107)」、朝倉書店,1995年
【非特許文献2】H.K.Coufal他,「Holographic Data Storage」,Springer series in optical science,2000年.
【非特許文献3】G.T.Sincerbox,「Holographic Data Storage:History and Physical Principles」,Springer series in optical science,2000年.p3−20.
【非特許文献4】G.Barbastathis他1名,「Holographic Data Storage:Volume Holographic Multiplexing Methods」,Springer series in optical science,2000年.p21−62.
【非特許文献5】R.M.Shelby,「Holographic Data Storage:Media Requirements for Digital Holographic Data Storage」,Springer series in optical science,2000年.p101−111.
【非特許文献6】P.J. Flory, 「Principles of Polymer Chemistry」, Cornell University Press,1953年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、ビットエラーレート(BER)やデジタル信号とノイズの比を示すシグナル対ノイズ比(SNR)を低下させることなく、保存性に優れた画像情報を記録/再生することができ、ホログラフィックインフォメーション記録などの用途にも好適なフォトポリマー系の体積位相型ホログラム記録材料及びその製造方法の提供と、その材料を用いた体積位相型ホログラム記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題を解決するため本発明者らは種々の検討を行った結果、フォトポリマーのマトリックスに、反応性官能基を導入することにより、データの記録速度が向上するとともに保存性に優れた体積位相型ホログラム記録材料ができることを見出し、本発明を完成させたのである。即ち本発明は、
(1)ポリオール化合物(以後成分1と呼ぶ)、
(2)ポリイソシアネート化合物(以後成分2と呼ぶ)、
(3)2個のヒドロキシ基を有するアルケニルエーテル化合物(以後成分3と呼ぶ)を成分1の100重量部に対して0.1〜20重量部、
(4)光重合性モノマー(以後成分4と呼ぶ)、
(5)光重合開始剤(以後成分5と呼ぶ)の5成分を必須とする体積位相型ホログラム記録材料用組成物である。
好ましくは、更に
(6)連鎖移動剤(以後成分6と呼ぶ)、
(7)可塑剤(以後成分7と呼ぶ)、
(8)ジアルキルスズジカルボン酸塩(以後成分8と呼ぶ)よりなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含有する体積位相型ホログラム記録材料用組成物であり、
前記体積位相型ホログラム記録材料用組成物を30〜120℃に加熱して作製した体積位相型ホログラム記録材料であり、
前記体積位相型ホログラム記録材料に対して情報光と参照光とから生ずる干渉縞によりポリマーマトリックスのビニル基と成分4とを重合させて情報を記録させた体積位相型ホログラム記録媒体である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の体積位相型ホログラム記録材料用組成物を用いた記録材料により、ホログラムの記録および再生を低ノイズで行うことができる。また、本発明の体積位相型ホログラム記録材料を用いることによりホログラフィックデジタルデータ記録のような、普通のホログラムより高品質な記録特性を必要とする記録媒体を容易に製造することできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明の効果が得られるのであればこれに限定されるものではない。なお、重量部を単に部と称する。
本発明において、体積位相型ホログラム記録材料用組成物とは、成分1、成分2、成分3、成分4、成分5などの各成分を混合したものである。
本発明において、体積位相型ホログラム記録材料とは、成分1,成分2,成分3の反応物であるポリマーマトリックスと成分4、成分5などを含有するものである。
本発明において、体積位相型ホログラム記録媒体とは、記録材料にデータを書き込んだものである。
【0025】
○体積位相型ホログラム記録材料用組成物
本発明の体積位相型ホログラム記録材料用組成物は、
成分1、成分2、成分3、成分4、成分5を含有し
成分6、成分7、成分8を更に含有することもあるものである。
【0026】
本発明において成分4及び成分5は、体積位相型ホログラム記録材料において、成分1〜成分3の反応で得られるビニル基含有ポリマーマトリックスの中に存在させ、光照射により硬化させるための成分である。
以下、成分4及び成分5について説明する。
【0027】
○成分4
成分4としては、付加光重合性モノマーが好ましく、ラジカル光重合性モノマーまたはカチオン光重合性モノマーが挙げられ、好ましくはラジカル光重合性モノマーである。成分4としては、好ましくは単官能および多官能の光重合性モノマーであり、より好ましくは単官能の光重合性モノマーである。
成分4は単独で用いても、2種類以上を併用しても良く、成分4が単官能の光重合性モノマーと多官能の光重合性モノマーとを含む場合、単官能の光重合性モノマーと多官能の光重合性モノマーとの合計を100部として、多官能の光重合性モノマーの含有量が20部以下であることが好ましく、より好ましくは10部以下であり、更に好ましくは5部以下である。そして、多官能の光重合性モノマーを含む場合、0.1部以上含むものである。
成分4としては、ラジカル重合可能なエチレン性二重結合を有する、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、スチレン類、置換スチレン類、ビニルモノマー類、ビニルナフタレン類、および置換ビニルナフタレン類等が好ましいものとして挙げられる。これらの中で(メタ)アクリレート類は、重合速度が速いため、本発明には更に好ましい。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを示し、(メタ)アクリルアミド等も同様である。
【0028】
成分4の具体的な例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、ドデシル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、2−エチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2−エチルヘキシル、2−メチルペンチル、シクロヘキシル、アダマンチル、イソボルニル、ジシクロペンタニル、テトラヒドロフルフリールなどの鎖状、分岐状または環状アルキルアルコールの(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;フェニル、4−メトキシカルボニルフェニル、4−エトキシカルボニルフェニル、4−ブトキシカルボニルフェニル、4−tert−ブチルフェニル、ベンジル、4−フェニルエチル、4−フェノキシジエチレングリコール、4−フェノキシテトラエチレングリコール、4−フェノキシヘキサエチレングリコール、4−ビフェニリルなどの芳香環を含有する(メタ)アクリレート類;フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のフェノールのアルキレンオキシド付加物の(メタ)アクリレート類またはそのハロゲン置換体(なおハロゲン置換体のハロゲン原子としては、好ましくはフッ素、塩素および臭素が挙げられる。);フェロセニルメチル、フェロセニルエチルなどの鉄原子を含有する(メタ)アクリレート類;トリフルオロエチル、テトラフロオロプロピル、ヘプタデカフルオロデシル、オクタフルオロペンチル、2,3−ジブロモプロピルなどのハロゲン原子を含有する(メタ)アクリレート類;トリメトキシシリルプロピルなどのケイ素原子を含有する(メタ)アクリレート類;グリシジルアクリレートやグリシジルメタクリレートなどのエポキシ基を含有する(メタ)アクリレート類;N,N−ジメチルアミノエチル、N,N−ジエチルアミノエチル、N−tert−ブチルアミノエチルなどのアミノ基を含有する(メタ)アクリレート類;エチレングリコール、メトキシエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、トリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、トリシクロデカンジメタノール等の脂肪族ヒドロキシ化合物等のモノ(メタ)アクリレート類またはこれらのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート等;ビスフェノールA、イソシアヌル酸、エチレングリコール及びプロピレングリコールのジ(メタ)アクリレート、並びにこれらのアルコールのアルキレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート等;ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン及びイソシアヌル酸のトリ(メタ)アクリレート、並びにこれらのアルコールのアルキレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート等;ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0029】
また、成分4のさらに具体的な例としては、アクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;スチレン、4−ブロモスチレン、パーフルオロスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン類;ブタジエン、イソプレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、ビニルピリジン、ビニルピロリジン、無水マレイン酸、ジアリルフタレートなどのビニルモノマー類が挙げられる。
【0030】
本発明において、ポリマーマトリックスと成分4との屈折率の差は、0.0001以上であることが好ましく、0.0003以上であることがより好ましく、0.0005以上であることが更に好ましい。また、当該差が0.2以下が好ましく、0.18以下がより好ましく、0.15以下が更に好ましい。当該差が0.2を超える場合では、記録材料中におけるポリマーマトリックスと成分4とのバランスが崩れる可能性があるため好ましくない。また、当該差が0.0001未満であると、屈折率変調が悪く、ビットエラーレートが大きくなることがあるので好ましくない。なお、この屈折率とは、25℃で測定したものであり、好ましくは参照光と同じ波長で測定したものである。
また、成分4の分子量が高いとポリマーマトリスク中での拡散が抑制され、反応速度が低下する恐れがある。このことから、当該分子量は、1,000以下のものが好ましく、より好ましくは800以下であり、更に好ましくは600以下である。
【0031】
本発明に用いる成分4のさらに具体な例としては、フェニル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、ジブロモフェニル(メタ)アクリレート、モノブロモフェニル(メタ)アクリレート、フェニルフェニル(メタ)アクリレート、クミルフェニル(メタ)アクリレートおよびそれらのアルキレンオキシド変性体、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、並びにトリブロモスチレン等が好ましく、フェニル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、ジブロモフェニル(メタ)アクリレート、モノブロモフェニル(メタ)アクリレート、フェニルフェニル(メタ)アクリレート、クミルフェニル(メタ)アクリレートおよびそれらのアルキレンオキシド変性体等が特に好ましいものとして使用することができる。
【0032】
本発明の体積位相型ホログラム記録材料組成物において、成分4の配合量は、成分1の100部に対して1〜50部が好ましく、より好ましくは3〜40部であり、特に好ましくは、5〜35部である。成分4がこの範囲であると当該記録材料においてホログラムの記録速度が向上すると共に保存性が優れたものとなる。
【0033】
○成分5
成分5としては、350〜700nmの光を照射することによりラジカルを発生する光重合開始剤またはカチオンを発生する光重合開始剤を用いることができ、好ましくはラジカルを発生する光重合開始剤である。
本発明には光照射による光重合開始剤からのラジカルの発生を増加させるための増感剤を併用することもできる。
【0034】
成分5の具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテルおよびベンゾインプロピルエーテル等のベンゾイン;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オンおよびN,N−ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン;2−メチルアントラキノン、1−クロロアントラキノンおよび2−アミルアントラキノン等のアントラキノン;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントンおよび2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン;アセトフェノンジメチルケタールおよびベンジルジメチルケタール等のケタール;ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、1,3−ジ(t−ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラキス(t−ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ミヒラーズケトンおよび4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン;並びに2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、さらに、N−フェニルグリシン、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、3−フェニル−5−イソオキサゾロン、2−メルカプトベンズイミダゾール、イミダゾール二量体類、CibaからCGI−784として市販されているビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)ビス[2,6−ジフルオロ−3−(1H―ピロール−1−イル)フェニル]チタニウム、SpectraGroup LimitedからH−Nu470として市販されている5,7−ジヨード−3−ブトキシ−6−フルオロンなどが利用できる。
【0035】
成分5は、ホログラムの記録に用いる光の波長に感受性があるものを適宜選択して用いることができる。また、成分5は単独で使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0036】
また、ホログラムの記録に用いる光の波長に感受性がない化合物を成分5として用いる場合には、当該波長に吸収があり、かつ、成分5との組み合わせによって成分5にラジカルを発生させうる色素類を開始剤助剤として併用することが可能である。このような色素類は、増感剤あるいは増感色素として広く知れているものである。
【0037】
本発明に用いる増感色素としては、キサンテン、チオキサンテン、シアニン、メロシアニン、クマリン、ケトクマリン、エオシン、エリスロシン、チタノセン、ナフタセン、チオピリリウム、キノリン、スチリルキノリン、オキソノール、シアニン、ローダミン、ピリリウム系化合物、5,12−ビス(フェニルエチニル)ナフタセン、ルブレンなどが例示される。なお、体積位相型ホログラム記録媒体において情報読出し光領域に吸収を有する増感色素を用い、高透明性が要求される場合には、ホログラム記録が完了した後に無色になるものが好ましい。この無色化は、加熱や紫外線照射により起こすものが好ましい。
【0038】
本発明の体積位相型ホログラム記録材料組成物において、成分5の配合量は、好ましくは成分1の100部に対して0.01〜10部であり、より好ましくは0.05〜7部であり、特に好ましくは、0.1〜5部である。成分5の配合量がこの範囲であると当該記録材料においてホログラムの記録および再生を低ノイズ・高感度で行うことができる。
【0039】
○ポリマーマトリックス
本発明においてポリマーマトリックスとは、成分1、成分2、成分3とから合成したものである。
本発明においてポリマーマトリックスは、ホログラムの記録と再生に用いる光の波長域において透明であることが好ましい。また、記録したホログラムが破壊されない程度の形状安定性をもったものである。本発明で利用できるポリマーマトリックスの材料は、ポリマーの性状によって大きく二つに分類される。一つは、直鎖状ポリマーを材料として用いた非架橋型ポリマーマトリックスであり、もう一つは、ポリマー鎖同士が複数箇所で架橋している架橋型ポリマーを用いた架橋型ポリマーマトリックスである。
【0040】
本発明において、ポリマーマトリックスの作製は、成分1、成分2、成分3とからなるものであり、水酸基とイソシアネート基との反応によりウレタン結合を生成することでマトリックスを形成したものである。この場合、ポリマーマトリックス中には、実質的にイソシアネート基が残存していないものである。ここで実質的にとは、本発明の目的が達成される範囲内であれば、イソシアネート基を含んでいてもよいことを意味する。即ち、成分1と成分3とに由来する水酸基と、成分2由来のイソシアネート基の混合比率は、左記水酸基1モルに対して、左記イソシアネート基0.8〜1モルの比が好ましく、より好ましくは0.85〜1モル、特に好ましくは0.9モル以上1モル未満である。この範囲であると当該記録材料において記録および再生することを高感度で行うことができる。
【0041】
○成分1
成分1としては、低分子量ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトン、およびポリカーボネートジオール等が挙げられる。
低分子量ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、グリセリン、およびトリメチロールプロパン等であり、これらのエチレンオキシド変性体またはプロピレンオキシド変性体等も挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
ポリエステルポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノールおよび3−メチル−1,5−ペンタンジオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸およびテレフタル酸等の二塩基酸またはその酸無水物等の酸成分との反応物が挙げられる。
【0042】
○成分2
成分2の具体例としては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートおよびイソホロンジイソシアネート等であり、これらイソシアネート化合物のビュレット体、イソシアヌレート体、アダクト体、またはプレポリマー体等も挙げられる。
【0043】
○成分3
本発明において成分3は、ビニル基含有ポリマーマトリックスのビニル基の素になるものであり、成分4と重合できるものであり、単独で用いても、2種類以上を併用しても良く、好ましくは単独で用いるものである。
成分3の好ましい例としては、炭素数3〜10のアルケニル基と2個のヒドロキシ基を有する炭素数3〜20の炭化水素とのエーテル化合物である。当該エーテル化合物におけるアルケニル基は、1個が好ましく、炭素数3〜6がより好ましい。当該エーテル化合物における炭化水素としては、分岐を有していても良いアルキル基を有するアリールまたは分岐を有していても良いアルキル基が好ましい。
成分3のさらに好ましい例としては、2個のヒドロキシ基を有するアリルエーテル化合物が例示できる。当該アリルエーテル化合物としては、2個のヒドロキシ基を有する炭素数3〜20の炭化水素とのエーテル化合物である。当該アリルエーテル化合物における炭化水素としては、分岐を有していても良いアルキル基を有するアリールまたは分岐を有していても良いアルキル基が好ましい。
【0044】
成分3の製法としては、3個以上の水酸基を有するポリオールの水酸基のうち少なくとも一個以上の水酸基をエーテル化反応が可能である置換基を有するアルケニル化合物と反応せしめた後、分別蒸留などにより単離せしめた化合物を例示することができる。なお、上記のエーテル化反応が可能である置換基としては、ハロゲン基、トシル基等の脱離基を用いることができる。脱離基として好ましいものとして、ハロゲン基を挙げることができる。
【0045】
成分3のより具体的な例としては、5−メチル−2−(2−プロペニロキシ)−1,3−ベンゼンジメタノール、3−(2−プロペニロキシ)−1,2−プロパンジオール、5−(2−プロペニロキシ)−1,4−ナフタレンジオール、4−ヒドロキシ−3−(2−プロペニロキシ)−ベンゼンメタノール、2−エチル−2−[(2−プロペニロキシ)メチル]−1,3−プロパンジオール等が例示できる。
この中で特に好ましいものは2−エチル−2−[(2−プロペニロキシ)メチル]−1,3−プロパンジオール(又はトリメチロールプロパンモノアリルエーテルと呼ばれ、以後TAEと略す)である。
【0046】
本発明の体積位相型ホログラム記録材料組成物において、成分3の配合量は、成分1の100部に対して0.01〜20部であり、好ましくは0.1〜15部であり、より好ましくは、1〜13部である。成分3の配合量がこの範囲であると当該記録材料においてホログラムの記録速度が向上すると共に保存性が優れたものとなる。
【0047】
○成分6
本発明の組成物には、ポリマーマトリックスの重合度を調節する目的で、成分6を必要に応じて配合することが好ましい。
成分6としては、生成ポリマーの重合度を調節することができるものであればどのようなものも使用することができる。成分6の具体例としては、3級アミン類、炭素数1〜20程度のアルキルチオール類、2置換アリル、第三ブチルスルフィド類、ジスルフィド化合物類、ジチオ安息香酸クミル類、四塩化炭素や四臭化炭素等のアルキルハロゲン物、トリエチルアルミニウム、金属イオン含有レドックス系触媒、AIBN類、アゾ化合物類、N−アリールマレイミド類、ヘマポリフィリンテトラメチルエーテルのコバルト錯体、下記式(1)で表される付加開裂型連鎖移動剤、キノン類、ニトロ・ニトロソ化合物、およびスチレン誘導体等を挙げることができる。
CH2=C(−Y)−CH2X (1)
式(1)において、YはCOOR1、シアノ基を示し、R1は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Xはブロム原子、SR2、SnR3、SO2Arを示し、R2は炭素数1〜6のアルキル基を示し、R3は炭素数1〜6のアルキル基を示し、Arはアリール基を示す。
【0048】
当該3級アミン類としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジエチルブチルアミン、N,N−ジエチル−t−オクチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジイソプロピルイソブチルアミン、N,N−ジイソプロピル−1−エチルプロピルアミン、N,N−ジイソプロピル−2−エチルブチルアミン、N−メチルジシクロヘキシルアミン、N−エチルジシクロヘキシルアミン、およびN,N−ジエチル−t−オクチルアミン等のトリアルキルアミン類;N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、およびトリエタノールアミン等の水酸基含有トリアルキルアミン等;並びにN,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジエチルベンジルアミン、ジメチルアミノ安息香酸メチル、およびトリベンジルアミン等のアリールアミン等が挙げられる。
また、当該スチレン誘導体としては、α−メチルスチレンダイマー(2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン)等が挙げられる。
また、当該チオール類としては、1−ブタンチオール、およびn−ドデシルメルカプタン等が挙げられる。
成分6の好ましい具体例としては、3級アミン類、チオール類、およびスチレン誘導体等がより好ましく、3級アミン類およびスチレン誘導体等が更に好ましく、スチレン誘導体等が特に好ましい。3級アミンは、分子量が50〜250の低分子であって、OH、NH2、SH等の反応性基を有しないことが好ましい。
【0049】
本発明の体積位相型ホログラム記録材料組成物において、成分6の配合量は、好ましくは成分1の100部に対して5部以下であり、より好ましくは0.01〜5部であり、特に好ましくは、0.1〜3部である。成分6の配合量がこの範囲であると当該記録材料においてホログラムの記録および再生を低ノイズ・高感度で行うことができる。
【0050】
○成分7
本発明においては、マトリックスの弾性率を制御でき、ホログラムが効率的に得られるため、成分7を必要に応じて配合することができる。
成分7としては、合成樹脂に添加される可塑剤が好ましく、ジオクチルアジペートやアセチルクエン酸トリブチレート、トリブチルO−アセチルシトレート、ジメチルアジペート、トリアセチン、トリス(2−ブトキシエチル)ホスフェート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等が例示できる。
【0051】
本発明の体積位相型ホログラム記録材料組成物において、成分7の配合量は、成分1の100部に対して20部以下が好ましく、より好ましくは0.1〜20部であり、特に好ましくは、0.5〜15部である。成分7の配合量が、この範囲であると当該記録材料においてホログラムの記録および再生を低ノイズ・高感度で行うことができる。
【0052】
○成分8
本発明においては、成分1、成分2及び成分3のウレタン反応を促進するために、成分8を必要に応じて配合することが好ましい。
成分8としては、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、およびジブチルスズマレエート等が挙げられる。これらは、単独でも2種類以上を併用してもよい。成分8を配合することにより、ポリマーマトリックスの合成が均一に早くできることから好ましい。
【0053】
本発明の体積位相型ホログラム記録材料組成物において、成分8の配合量は、成分1の100部に対して0.5部以下が好ましく、より好ましくは0.001〜0.3部であり、特に好ましくは0.01〜0.2部である。成分8の配合量がこの範囲であると当該記録材料においてホログラムの記録および再生を低ノイズ・高感度で行うことができる。
【0054】
○体積位相型ホログラム記録材料
本発明の体積位相型ホログラム記録材料は、成分1、成分2、成分3、成分4、および成分5を主成分とするものに、成分6、成分7、成分8よりなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含有しても良い組成物から作製するものである。そして、体積位相型ホログラム記録材料は、ホログラムの記録と読出しができる状態にすることができれば、当該材料組成物を元にどのような方法を用いて製造してもよい。例えば、ホログラムの記録光・読出光およびガイド光において透明なプレートに本発明の体積位相型ホログラム記録材料組成物を塗布してもよく、少なくとも一方が透明な2枚のプレートの間に流し込んでも良く、シート状の体積位相型ホログラム記録材料を少なくとも一方が透明な2枚のプレートで挟んでも良い。
また、当該記録材料用組成物をこれらの透明プレートと接触させる前や後、あるいは単独で用いる場合に適宜加熱することができる。本発明の体積位相型ホログラム記録材料組成物はウレタン化反応によってポリマーマトリックスを形成するが、加熱によってウレタン化反応を早める効果がある。ウレタン化反応のし易さは反応に関与する組成によって異なるために、好ましい加熱条件は組成によって異なるが、あまり高温では含まれるビニル基の安定性が損なわれるため、好ましい加熱温度は30℃〜120℃の間であり、さらに好ましくは50℃〜100℃である。また、好ましい加熱時間は3秒から24時間の間であり、さらに好ましくは5分〜10時間の間である。
【0055】
本発明の体積位相型ホログラム記録材料に用いるホログラムの記録光・読出光およびガイド光において透明なプレートは、ガラス、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアクリレート、およびポリメタクリレート等が例示される。また、当該プレートは、2種類用いても良い。即ち、ガラス板に本発明の体積位相型ホログラム記録材料組成物を塗布、流し込む、またはシートを載せた後、ポリカーボネートやポリプロピレン等のシートを用いて作製することもできる。このとき、プレート間にスペーサーを入れて記録材料を希望する厚さに調製することもできる。このスペーサーは、記録材料のシールとして用いることもできる。
【0056】
本発明の体積位相型ホログラム記録材料における記録層の厚さは、5〜5,000μmが好ましく、20〜3,000μmがより好ましく、100〜1,000μmが更に好ましい。この記録層の厚さが5μm未満であるとホログラム記録のSNRが悪くなることがあり好ましくなく、5,000μm超であると記録層に歪みを生じてホログラム記録のSNRが悪くなることがあり好ましくない。
【0057】
このようにして作製した体積位相型ホログラム記録材料が、情報光と参照光とから生ずる干渉縞の光の強度分布に合わせて光重合することによりホログラムの記録および再生を低ノイズで行うことができる。
【0058】
○ホログラム記録光
ホログラムの記録は、350〜700nmの光を照射することでできる。この照射光としては、GaN系半導体青色レーザー、アルゴンイオンレーザー、クリプトンイオンレーザー、YAGレーザー等が例示できる。
【0059】
○ホログラム記録方法
本発明の体積位相型ホログラム記録材料は、参照光と情報光とが同一光軸上に配置されているコリニアホログラム記録方式および2光束型ホログラム記録方式等の如何様なホログラム記録方法のものにも使用することができる。本発明の体積位相型ホログラム記録材料は、コリニアホログラム記録方式および2光束型ホログラム記録方式のものに好ましく使用することができ、更に好ましくはコリニアホログラム記録方式のものである。
【0060】
○体積位相型ホログラム記録材料の用途
本発明の体積位相型ホログラム記録材料は、体積型ホログラム記録媒体以外に、光学素子、ディスプレー・意匠性の付与、干渉計測、光情報処理、光情報記録等に用いることができる。
光学素子の具体例としては、回折格子、POS用スキャナ、CD・DVDプレーヤ用光ヘッド、ビームスプリッター、干渉フィルター、航空機・自動車用ヘッドアップディスプレー等が挙げられる。
ディスプレー・意匠性の付与の具体例としては、ホログラムアート、室内外装飾、美術工芸品の記録、教育用材料、書籍・雑誌の表紙や挿絵、有価証券・IDカード・クレジットカード・キャッシュカード・テレホンカード等の装飾及び偽造防止、CT画像の立体視等が挙げられる。
干渉計測の具体例としては、物体の変位・変形の計測、物体の振動測定、光学面の精度測定(計算機ホログラム)等が挙げられる。
光情報処理の具体例としては、ホログラフィック・マッチトフィルターを用いたパターン認識、指紋照合等が挙げられる。
光情報記録の具体例としては、(高品位あるいはデジタル)テレビ放送、ビデオカメラ映像、監視カメラ映像等の画像記録、情報検索記録、図形文字入力装置、ホログラフィック連想メモリー等が挙げられる。
【0061】
<実施例>
次に実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお,以下においての「部」は、重量部を示す。
【実施例1】
【0062】
○記録材料の作製
グリセリンプロピレンオキシト変性体(G−400、旭電化製製G−400、分子量約400)を100部、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル(TAE)を10部、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI、旭化成製デュラネートHDI)を58部、ジブチルスズジラウレート(DBTL、旭電化製)を0.06部、2,4−ジブロモフェニルアクリレート(DBPA)を19部、Irgacure784(Irg784、チバスペシャルティーケミカルズ製)を2.8部、ジイソプロピルエチルアミン(DiPEA)を0.9部を25℃で30分間良く混合して均一な記録媒体用の組成物Aを作製した。
ガラス基材(50×50×0.5mm)の3方の端にスペーサーとして厚さ500μmのポリテトラフルオロエチレン製のテープを貼り、更にガラス基材(50×50×0.5mm)を取付けてサンプルセルとした。このサンプルセルの一端から上記で作製した組成物をセル内に注入し、80℃で2時間加熱してマトリックスを硬化させて記録媒体A1(透過型ホログラム測定用)を作製した。
また、反射型記録媒体A2には、上記と同様の方法で片側をアルミ蒸着層(反射層)付ガラス基材(50×50×0.5mm)として作製した。
【0063】
○二光束干渉型透過型ホログラムによるデータ記録
図1に示すように、サンプルに記録用レーザー光(情報光と参照光)を照射してホログラムを記録しながら、記録用レーザー光と波長が異なる読取用レーザー光を用いて、記録されたホログラムから回折される光の強度を観測した。
・記録用レーザー光
波長:532nm
照射光強度:情報光=2mW(ビーム径=φ4mm)
参照光=2mW(ビーム径=φ4mm)
入射角:22.3°(サンプルの垂線に対して)
・読取用レーザー光
波長:633nm
照射光強度:0.8mW(ビーム径=φ1mm)
入射角:26.8°(サンプルの垂線に対して)
【0064】
○コリニア方式反射型ホログラム:
パルステック工業社製コリニアホログラム情報記録装置SHOT−1000を用いて、以下の条件により上記で作製した記録媒体A2に対してデータ記録を行った。記録再生時のレーザー照射を図1の上方向から行うよう記録媒体A2をホルダーにセットし、アルミ蒸着層(反射層)で焦点を結ぶように位置を調整した。読み取りは、書き込み30秒後に行い、データ記録時のエラー率(BER、ビットエラーレート)を測定した。情報パターンは標準装備(約1600バイトのテスト情報パターン)のものを用いた。
・データ記録条件
記録再生用レーザー波長:532nm(Nd:YVO4)
記録レーザー強度:0.6mW(パルス幅 10nsec、繰返し間隔 50μsec)
情報光/参照光強度比=1.0
記録パルス数:200パルス、1000パルス、2000パルス
・データ読取条件
読み取りレーザー強度:0.75mW〜0.1mW
(パルス幅 10nsec、繰返し間隔 50μsec、CMOS画像の強度により調整)
読み取りパルス数:20パルス。
【0065】
この記録媒体A1を用いて上記に記載のデータ記録条件およびデータ読取り条件で、二光束干渉ホログラムを記録した。記録用レーザー光を5秒間照射して記録を行い、その後10分間放置した場合の回折効率の測定結果を図2に記載した。図2において光照射によって回折効率が最大値を示した値を最大回折効率とした。そして10分間放置後の回折効率を測定して回折効率の減少率を求めた。記録用レーザー光の照射時間を0.1秒、1秒、5秒の3条件で同じ実験を行い、結果を表1に示した。実施例1を用いてデータ記録したものは、記録データの減衰が低いことが分かる。
回折効率(%)=100×回折光強度/(透過光強度+回折光強度)
減少率(%)=100×(最大回折効率−10分後回折効率)/最大回折効率
【0066】
<比較例1>
下記表3に記載の比較例1の組成を用いて実施例1と同様に操作し、比較例1の透過型記録媒体B1を作製した。
そして、実施例1と同様にホログラムの記録と減少率を測定した(表1、図3)。
【0067】
【表1】

【0068】
コリニア方式反射型ホログラムの記録再生において、記録媒体A2の再生画像(図4)には歪みやにじみは認められなかった。また、再生画像の品質を表すビットエラーレート(BER)も低いものであった。
【0069】
<実施例2〜6>
下記表2の配合割合の組成物を用いて実施例1に従って記録媒体を作製した。
なお実施例4を作製した場合のみ、80℃で6時間加熱してマトリックスを硬化した。
【0070】
【表2】

【0071】
<比較例2〜4>
下記表3の配合割合の組成物を用いて実施例1に従って記録媒体を作製した。
【0072】
【表3】

【0073】
○回折効率の減少率
実施例1〜6、比較例1〜4の組成物で作製した記録媒体を用いてホログラム(コリニア式反射型)の記録と読み取りを行った。記録時間1秒における回折効率の減少率において、15%以下を「◎」、15%超え20%以下を「○」、20%超えを「×」として表4に記載した。
【0074】
○反応性
実施例1〜6、比較例1〜4の組成物で作製した記録媒体を用いて二光束干渉型透過型ホログラムによるデータ記録で、記録用レーザー光の照射時間が5秒間の場合に、その回折効率が0.1%に達する計測時間を求め、反応性として表2に記載した。
記録用レーザー光を照射し始めた時点を計測時間0秒とした。
この結果は、計測時間が2秒以下を「◎」、2秒超え6秒以下を「○」、6s超えを「×」として表4に記載した。
【0075】
○収縮率
実施例1〜6、比較例1〜4の組成で調合した溶液から厚みが1mmのシート状熱硬化物を作製した。
これら作製したサンプルについてReologica社 VISCOANALYSER VAR−50を用いて、下記条件で光を照射しながら、サンプルの膜厚を計測した。その結果から、サンプルの厚み方向の収縮率を算出した。
・測定条件
ジオメトリー:パラレルプレート φ8mm
ノーマルフォース:0.2N
計測温度:30℃
照射光波長λ:532nm
照射光強度:2mW/cm2
照射時間:10min.
・収縮率(%)=100×(光照射前シート厚−光照射後シート厚)/光照射前シート厚
収縮率が0.3%以下を「◎」、0.3%超え0.5%以下を「○」、0.5%超えを「×」として表4に記載した。
【0076】
○散乱
実施例1〜6、比較例1〜4の組成で調合した溶液からφ4mmの円柱状熱硬化物を作製した。
これら作製したサンプルについて大塚電子(株)製のDLS7000を用いて、下記条件で静的光散乱法により光散乱を観測し、サンプルのレイリー比を算出した。
なお本測定では、φ30mmの光学セルにサンプルと屈折率がほぼ等しいシリコンオイルを満たし、その中へサンプルを浸して光散乱の計測を行なった。
・測定条件
計測光波長λ:633nm(He−Ne)
計測温度:20℃
計測角度:90度
積算回数:100回
ゲート時間:160ms
入射プローブ光の偏向方向:垂直
観測した散乱光の偏向方向:指定なし
測定した結果、算出したレイリー比が5×10-5cm-1以下を「○」、それより大きい場合を「×」として表4に記載した。
【0077】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の体積位相ホログラム記録材料を用いることにより、ホログラムを低ノイズで記録および再生することができる。また、本発明の体積位相ホログラム記録材料を用いることによりホログラフィックデジタルデータ記録のような、普通のホログラムより高品質な記録特性を必要とする記録媒体を容易に製造することできる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】二光束干渉型透過型ホログラムの記録および再生における概念図
【図2】記録媒体A1に記録(5秒間の記録)した後、10分間回折効率を測定したデータを示す。
【図3】記録媒体B1に記録(5秒間の記録)した後、10分間回折効率を測定したデータを示す。
【図4】記録媒体A2の再生画像
【符号の説明】
【0080】
図1の101〜108の説明を下記に記載した。
101:記録材料
102:ガラス基材
103:ポリテトラフルオロエチレンのテープ
104:記録用レーザー光/参照光
105:記録用レーザー光/情報光
106:読取レーザー光
107:回折光
108:ディテクター
図2と図3の横軸:時間(秒)
図2と図3の縦軸:回折効率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ポリオール化合物、(2)ポリイソシアネート化合物、(3)2個のヒドロキシ基を有するアルケニルエーテル化合物、(4)光重合性モノマー、(5)光重合開始剤の5成分を必須とし、(1)ポリオール化合物の100重量部に対して(3)2個のヒドロキシ基を有するアルケニルエーテル化合物を0.1〜20重量部含むことを特徴とする体積位相型ホログラム記録材料用組成物。
【請求項2】
前記(3)2個のヒドロキシ基を有するアルケニルエーテル化合物が、2個のヒドロキシ基を有するアリルエーテル化合物である請求項1に記載の体積位相型ホログラム記録材料用組成物。
【請求項3】
前記(4)光重合性モノマーがラジカル重合性モノマーである請求項1または請求項2のいずれか1つに記載の体積位相型ホログラム記録材料用組成物。
【請求項4】
前記(1)ポリオール化合物が、低分子量ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンおよびポリカーボネートジオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上のものである請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の体積位相型ホログラム記録材料用組成物。
【請求項5】
前記(2)ポリイソシアネート化合物が、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートおよびイソホロンジイソシアネートよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上のものである請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の体積位相型ホログラム記録材料用組成物。
【請求項6】
(6)連鎖移動剤、(7)可塑剤、(8)ジアルキルスズジカルボン酸塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含有する請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の体積位相型ホログラム記録材料用組成物。
【請求項7】
前記(6)連鎖移動剤がラジカル重合の連鎖移動剤である請求項6に記載の体積位相型ホログラム記録材料用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の体積位相型ホログラム記録材料用組成物を30〜120℃に加熱して作製した体積位相型ホログラム記録材料。
【請求項9】
請求項8記載の体積位相型ホログラム記録材料に対して情報光と参照光とから生ずる干渉縞によりポリマーマトリックスのビニル基と(4)光重合性モノマーとを重合させて情報を記録させた体積位相型ホログラム記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−268520(P2008−268520A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111023(P2007−111023)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】