説明

定着器部材およびその製造方法

【課題】画像形成装置の寿命と同等、またはそれよりも長い寿命を有する定着ローラを提供する。
【解決手段】アルミニウム基体300の外表面を陽極処理して、細孔を有するアルミニウム酸化物の表面層315を生じさせ、フッ化ニッケルとポリテトラフルオロエチレンとからなる群から選択されるフッ素含有シーラントによって前記細孔を充満させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、デジタル、画像重ねなどを含む、電子写真画像処理装置に用いられる定着器部材に関するものである。本開示はまた、定着器部材を形成および使用するためのプロセスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
概して、市販用の電子写真マーキング装置または電子写真複写装置(例えば、コピー機/複写機、プリンタ、多機能システムまたは同様のもの)において、均一に帯電した光導電性または誘電性の部材に潜像電荷パターンが形成される。色素性のマーキング粒子(トナー)が、上記潜像電荷パターンに引き付けられ、この画像を上記光導電性または誘電性の部材に現像する。次に、上記誘電性または光導電性の部材および印加された電界と、紙等の受像部材を接触させ、光導電性または誘電性の部材から受像部材にマーキング粒子現像画像を転写する。転写後、転写された画像を有する受像部材は、誘電性の部材から離れて定着位置に運搬され、上記画像は、熱および/または圧力によって受像機部材に固定または定着され、その上に永久的な複写物を形成する。受像部材は、圧力ローラと加熱された定着器ローラまたは定着器要素との間を通過する。
【0003】
通常の定着器ローラの寿命は、機械の寿命より短く、機械の寿命までの間に多数の定着器ローラを交換することは避けられない。定着器が通常マーキングエンジン内の最もコストがかかるCRU(利用者交換可能ユニット)であるので、上記定着器によって総所有コストは著しく増加する。従って、機械の寿命と同等の、または、上記寿命よりも長い寿命を有することができる定着器ローラを設計及び製造することが極めて望ましい。
【発明の概要】
【0004】
一実施形態に従って、フッ素含有シーラントが充満した陽極処理アルミニウム酸化物を含む表面層を含んだ、定着器ローラについて説明する。
【0005】
一実施形態に従って、定着器部材の製造方法について説明する。上記方法は、アルミニウムの外面を有する基板を獲得し、上記アルミニウムの外面を陽極処理して、細孔を含むアルミニウム酸化物の表面を生じさせる。上記細孔を、フッ化ニッケルとポリテトラフルオロエチレンとからなる基から選択された材料によって充満させる。
【0006】
一実施形態に従って、記録媒体に画像を形成するための画像形成装置について説明する。上記装置は、その上に静電潜像を受け取るための電荷保持面と、上記電荷保持面に現像画像を形成するための静電潜像を現像するために、電荷保持面にトナーを塗布するための現像部品と、電荷保持面からコピー基板に現像画像を転写するための転写部品と、コピー基板の表面にトナー画像を定着するための定着器部材とを含む。上記定着器部材は、フッ化ニッケルとポリテトラフルオロエチレンとからなる基から選択されたシーラントが充満した陽極処理アルミニウム酸化物を含む表面層を含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】一般的な電子写真装置の説明図である。
【図2】3層構造を有する従来技術の定着器ローラの断面図である。
【図3】シーラントが充満した陽極処理アルミニウム表面を有する定着器ローラの一実施形態の横断面図である。
【図4】シーラントが充満した陽極処理アルミニウム表面を有する定着器ローラの表面の拡大図である。
【図5】定着器ローラにおいてシーラントの表面が充満した陽極処理アルミニウム酸化物を形成するために用いられる方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1を参照しながら、通常の電子写真複写装置では、コピーされる原型の光画像が、感光部材において静電潜像の形状で記録され、上記潜像は、続いて、通例トナーと呼ばれる電気的に帯電した熱可塑性樹脂の粒子を塗布することによって、可視的にレンダリングされる。具体的には、光受容体10は、その表面において、電源11から電圧が供給された充電器12を用いて帯電する。光受容体10は次に、画像の方向にレーザーおよび発光ダイオードといった光学系または画像入力装置13からの光にさらされ、上記光受容体に静電潜像を形成する。概して、静電潜像は、現像剤ステーション14からの現像剤の混合物を上記静電潜像に接触させることによって現像される。磁気ブラシ、パウダークラウド、または他の知られている現像プロセスを用いて現像が生じてもよい。乾式現像剤の混合物は、通常、摩擦電気によって上記混合物に付着するトナー粒子を有するキャリア粒体を含む。トナー粒子は、上記キャリア粒体から潜像へと引き付けられ、その上にトナー粉画像を形成する。あるいは、中でトナー粒子が分散している液体キャリアを含む、液体現像材料が用いられてもよい。上記液体現像材料は、静電潜像と接して進み、トナー粒子は画像構成において上記静電潜像の上に堆積される。
【0009】
トナー粒子を、画像構成における光導電性表面に堆積した後、圧力転写または静電転写可能な転写手段15によって、コピーシート16に転写する。あるいは、現像画像を、中間転写部材に転写でき、続いてコピーシートに転写できる。
【0010】
現像画像の転写が完成した後、コピーシート16は、定着ローラおよび圧力ローラとして図1に示した定着ステーション19に進む。上記現像画像は、定着部材20と圧力部材21との間をコピーシート16が通過することにより、コピーシート16に定着され、これにより、永久的な画像が形成される。転写に続いて、光受容体10は洗浄ステーション17に進む。光受容体10に残った全てのトナーは、(図1に示したような)ブレード、ブラシ、または他の洗浄装置を用いて、上記光受容体から洗浄される。
【0011】
図2は、従来技術である定着器部材100の一実施形態の拡大概略図であり、様々な可能な層を示す。図2に示したように、基板110は、その上に中間層120を備えている。基板110は、通常、アルミニウム、ニッケル、または、ステンレス鋼といった金属である。基板110は、中空であってもよいし、あるいは、中実であってもよい。中間層120は、例えば、シリコンゴムまたは他の適切なゴム材料などのゴムであってもよい。中間層120の上には、重合体、通常はフッ素重合体を含む外部層130が配置されている。
【0012】
定着器部材では、図2に示したように、中間層120と外部層130とを重ね合わせた厚さは、250ミクロンよりも大きい。中間層120および外部層130は、熱障壁として機能し、上記熱障壁は、トナーを定着するために比較的高温で動作する定着器ローラを必要とする。このタイプの定着器部材の通常の動作温度は、約180℃から約220℃である。動作温度が高いと、この装置を作動させるためにより多くのエネルギーが必要になる。電子写真機の動作温度が高ければ、圧力ローラなどの関連部品の寿命が短くなる。さらに、フッ素重合体からなる外面を有する定着器ローラは磨り減るので、周期的な交換を必要とする。
【0013】
本明細書に開示した定着器ローラは、上記の問題を軽減する。図3に示しているのは、横断面図における定着器ローラの一実施形態である。上記定着器ローラは、フッ化ニッケル、ポリテトラフルオロエチレン、または同様の材料、からなる群から選択されたシーラントが充満した、陽極処理アルミニウム酸化物の表面層315を備えたアルミコア300から構成されている。複数の実施形態では、表面層315の厚さは、約5ミクロンから50ミクロン、または、約10ミクロンから約40ミクロン、または、約15ミクロンから約30ミクロンである。
【0014】
図4は、均一の縮尺になっていない、図3の表面層315の拡大図を示す。基材400は、アルミコア300(図3)のアルミニウムである。表面層315は、細孔416を有する陽極処理アルミニウム415から構成されている。細孔416の表面密度は、一平方インチあたり約2500億から約5000億である。シーラントは、細孔416を有する陽極処理アルミニウム上に塗布される。上記シーラントは、フッ素含有化合物である。適切なシーラントの例は、フッ化ニッケル、および、ポリテトラフルオロエチレンである。シーラントは、細孔を充満させ、定着器ローラの適切な特性を有する表面層を提供する。表面層315の硬さは、モーズ硬度計を用いた場合7から9であり、あるいは、ロックウェルCスケールを用いた場合60から70である。
【0015】
表面層315には、連邦仕様書QQ‐M‐151aにおいて説明されているような塩水噴霧試験において13000時間以上の露出に耐える腐食耐性がある。表面層315は、硬化鋼の場合と比較して、優れた磨耗抵抗を示す。
【0016】
本明細書に開示した定着器部材の製造プロセスを、図5に概略的に示す。適切な大きさのアルミニウム管が、ステップ500において得られる。このアルミニウムブランクは、管または中実の円筒であってもよい。ステップ510では、アルミニウム管の表面は、約5マイクロインチから約35マイクロインチの粗さに研磨される。説明したプロセスによって、表面が粗くなる。ロールが処理前の始めの粗さに研磨されると、同じロールは、処理後により高い粗さになっている。従って、表面の滑らかさを適切なものにするには、付加的な研磨ステップが必要になる。さらに、ステップ510において、上記表面の残留物およびオイルを洗浄する。上記洗浄を、加熱によって、および、アルカリ性洗浄剤を用いて行うことができる。次に、上記表面を、ステップ520のエッチングプロセスによって粗くする。上記エッチングプロセスは、アルミニウムブランクの表面に窪みを生み出す。上記窪みは、約5ミクロンから約100ミクロン、または、約20ミクロンから約80ミクロン、または、約20から約50ミクロンの深さに伸びている。上記表面は、ステップ530のエッチングプロセスによって、スマットとも呼ばれる残留物を除去するために、酸洗いによって洗浄される。次に、上記表面は、ステップ540の酸化プロセスにおいて陽極処理される。上記表面の陽極処理は、加熱された硫酸に浸すことによって、または、印加された電流によって約25℃から約200℃にてなされうる。これによりアルミニウム酸化物層は、約5ミクロンから約100ミクロン、または、約20ミクロンから約80ミクロン、または、約20から約50ミクロンの深さになる。細孔は、酸浴槽において成長し、続く密封ステップの望ましい基礎となる。上記細孔の表面密度は、一平方インチあたり約2500億から約5000億である。初めのエッチングステップ530と比べて、陽極処理ステップ550において生成された細孔は、非常に小さく、密封ステップの土台となる。密封ステップ550は、上記細孔をシーラントで充満させる。上記シーラントは、フッ素含有化合物である。適切なシーラントの例は、フッ化ニッケル、および、ポリテトラフルオロエチレンである。上記シーラントを、陽極処理プロセスから表面が冷えると、アルミニウムの細孔に充満させる。上記密封ステップ後、ステップ560において、上記ローラは終了するか、あるいは、約5マイクロインチから約35マイクロインチの所望の粗さに研磨される。充満したフッ化物シーラントを有するアルミニウム酸化物層の厚さは、通常、約5ミクロンから約100ミクロン、または、約20ミクロンから約80ミクロン、または、約20から約50ミクロンである。
【0017】
シーラントが充満した陽極処理アルミニウム酸化物の表面層を備えた定着器ローラを、約110℃から約150℃、または、約115℃から約140℃、または、約120℃から約130℃の温度で動作させることができる。これにより、図2の定着器ローラと比べて、上記部分のエネルギー消費および磨耗が低減される。定着器ローラ20と圧力ローラ21との間の定着ステーション19のニップ(図1参照)における圧力は、約200psiから約800psiである。本明細書に開示した定着器ローラの表面粗さは、約600nmRa未満、または、約500nmRa未満、約300nmRa未満である。上記表面層は、約1014Ω/sq未満、または、約1010Ω/sq未満、または、約10Ω/sq未満の表面電気抵抗を有している。
【0018】
これまでのところ、上記のプロセスは、PioneerMetalsやAltefcoといった企業によって提供されている。
【0019】
上記表面層には、オイルを塗布できる。上記オイルは、シリコン油であってもよいし、効果的な量、例えば約0.1重量パーセントから約30重量パーセントのメルカプト官能化シリコン油化合物と、例えば約99.9重量パーセントから約70重量パーセントの効果的な量のポリジメチルシリコン油といった第2の非メルカプト官能化オイルとの混合物を含有できる。この第2のポリジメチルシリコン油化合物を、アミノ官能性シロキサン、フェニル・メチル・シロキサン、トリフルオロプロピル官能性シロキサン、および、非官能性シリコン油またはポリジメチルシロキサンオイルを含む、知られている非官能性シリコン油からなる群から選択できる。上記官能性オイルは、米国特許5395725にさらにはっきりと説明されており、その全体を参照して本明細書に組み込む。
【0020】
塗布によって充満したアルミニウム酸化物のもう1つの異なる利点は、上記酸化物が非常に硬質であり、傷つきにくいということである。本明細書に開示した定着器ローラから400万回印刷されるのが、標準的である。本明細書に説明した定着器部材は、機械の寿命の最後まで持ちこたえることができる。
【0021】
すでに記載したように、上記定着器ローラの温度を、酸化物熱伝導率が高いためにシーラントの表面に充満した陽極処理アルミニウム酸化物を有する定着器ローラによって低減できる。シーラントによって充満した陽極処理アルミニウム酸化物の表面を有する定着器ローラを用いて、定着器ローラの動作温度を約70℃まで下げる。作動中の温度を70℃に下げることは、定着器ローラの欠陥率が下がり、電力消費量が下がるので有効である。
【0022】
最後に、定着器温度の降下は、圧力ローラ用のポリウレタンといった材料を使用可能にする。これにより、コストが下がり、圧力ローラの寿命が延びる。
【0023】
フッ素含有シーラントが充満したアルミニウム酸化物を有する定着器ローラを試験するために、加熱加圧定着器試験材料固定具が設計され、設けられている。上記定着器ローラは、ウィスコンシン州ニーナのWebex社によるテフロンによって上記したように処理され、充満した、表面であった。試験したローラの特性を要約したものが、表1である。ポリテトラフルオロエチレンによって充満した細孔を有する陽極処理アルミニウム表面を有する上記定着器ロールは、シリコン衝撃緩和層を備えたテフロン塗布されたロールと同等の性能を備えていた。性能の低下といった問題はなかった。
【表1】

【0024】
ロールA1、B1、B2は、定着器にとって良い効果をもたらし、トナーオフセットはなかった。表面Raが600nm未満の定着器ローラにとって容認可能な結果が得られ、上記結果は、表面Raが300nm未満である場合は改善された。上記ロールの性能は、抵抗が正しい大きさである限り、上記ロールの抵抗値に対してそれ程敏感ではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有シーラントが充満した細孔を有する陽極処理アルミニウム酸化物を備えた表面層を含む、定着器部材。
【請求項2】
前記フッ素含有シーラントは、フッ化ニッケルとポリテトラフルオロエチレンとからなる群から選択される、請求項1に記載の定着器部材。
【請求項3】
アルミニウムの外面を有する基板を獲得するステップと、
前記アルミニウムの外面を陽極処理して、細孔を含むアルミニウム酸化物の表面を生じさせるステップと、
フッ化ニッケルとポリテトラフルオロエチレンとからなる前記群から選択された材料によって前記細孔を充満させるステップとを含む、定着器部材の製造方法。
【請求項4】
前記外面を陽極処理するステップは、アルミニウム表面を有する前記基板を硫酸に浸すステップと、
DC電流を印加するステップとを含む、請求項3に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−128416(P2012−128416A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−268393(P2011−268393)
【出願日】平成23年12月7日(2011.12.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】