説明

定着装置及びこれを備えた画像形成装置

【課題】ヒータの熱源が加熱ローラの回転中心方向に複数配置される構成であっても、加熱ローラの表面温度を中央部から両端部に至る全域において充分に均一化する。
【解決手段】定着装置1の加熱ローラ6は、加圧ローラ6に回転接触する円筒状のローラ本体18と、このローラ本体18の回転中心CLに沿って配置されたヒータ20とを備えている。ヒータ20は、ローラ本体18の内面27に向けて放射する輻射エネルギーがローラ本体18の回転中心CLに沿って疎密分布を生じるようになっている。そして、ローラ本体18のヒータ20に対向する内面27は、ヒータ20から放射される輻射エネルギーが疎の部分に対応して第1エネルギー吸収体25を配置し、ヒータ20から放射される輻射エネルギーが密の部分に対応して第1エネルギー吸収体25よりもエネルギー放射率が低い第2エネルギー吸収体を26配置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、静電複写方式の複写機,プリンタ,ファクシミリ装置及びこれらの複合機等の画像形成装置に使用される定着装置及びこの定着装置を備えた画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、静電複写方式の画像形成装置は、シート状の記録材(コピー用紙、プライスチックフィルム等)に感光体の表面のトナー像を転写デバイスで転写し、そのトナー像が転写された記録材を定着装置によって加熱・加圧してトナーを溶融させ、記録材にトナー像を定着させるようになっている。
【0003】
このような画像形成装置に使用される定着装置は、加圧ローラと加熱ローラとを備え、加熱ローラに内蔵したヒータを通電制御することによりヒータの発熱量を調整し、加熱ローラの外表面温度を適温にすると共に、加圧ローラを加熱ローラ側に押圧して、加熱ローラと加熱ローラの回転接触部にニップを形成し、このニップによって記録材を加熱・加圧するようになっている。
【0004】
このような画像形成装置の定着装置において、加熱ローラの表面温度が定着に最適な温度でなかったり、加熱ローラの表面温度が回転中心に沿った方向で不均一であると、定着不良が生じる。例えば、加熱ローラの表面温度が高すぎると定着オフセットが生じやすく、加熱ローラの表面温度が低すぎると未定着部分が生じやすく、加熱ローラの表面温度が回転中心に沿った方向で不均一であると定着ムラが生じやすい。
【0005】
そこで、特許文献1のように、加熱ローラの中央部と両端部の表面温度の差を小さくするため、加熱ローラの両端部よりも温度が高くなる加熱ローラの中央部において、ヒータに対向する内周面に輻射線放射率の低い塗布材を塗布し、加熱ローラの中央部よりも温度が低くなる加熱ローラの両端部において、ヒータに対向する内周面に輻射線放射率の高い塗布材を塗布する技術が開発された。
【0006】
また、特許文献2のように、加熱ローラの中央部と両端部の表面温度の差を小さくするため、加熱ローラの中央部の肉厚を加熱ローラの両端部の肉厚よりも厚くして、加熱ローラの中央部の熱容量を加熱ローラの両端部よりも大きくした技術が開発された。
【0007】
【特許文献1】特開平8−234618号公報
【特許文献2】特開平11−24469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図15に示すように、加熱ローラ6が円筒状のローラ本体18とその回転中心CLに配置されたヒータ20とで構成され、ヒータ20がローラ本体18の回転中心CLに沿って複数の熱源(フィラメント)23,24を備え、そのフィラメント23,24の発光によって生じる配光分布(輻射エネルギー分布)がローラ本体18の内面27において図3に示すようになる場合には、特許文献1及び2の技術によって加熱ローラ6の外面21全体の温度を充分に均一化することができなかった。
【0009】
そこで、本発明は、ヒータの熱源が加熱ローラの回転中心方向に複数配置される構成であっても、加熱ローラの表面温度を中央部から両端部に至る全域において充分に均一化し、良好な定着作業が実行されるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、トナー像が転写されたシート状の記録材を、回転する加熱ローラと加圧部材のニップ部で加熱・加圧し、前記記録材にトナー像を定着させる定着装置に関するものである。この定着装置において、前記加熱ローラは、前記加圧部材に回転接触する円筒状のローラ本体と、このローラ本体の回転中心に沿って配置されたヒータとを備えている。また、前記ヒータは、前記ローラ本体の内面に向けて放射する輻射エネルギーが前記ローラ本体の回転中心に沿って疎密分布を生じるようになっている。そして、前記ローラ本体の前記ヒータに対向する内面側は、前記ヒータから放射される輻射エネルギーが疎の部分に対応して第1エネルギー吸収体を配置し、前記ヒータから放射される輻射エネルギーが密の部分に対応して前記第1エネルギー吸収体よりもエネルギー放射率が低い第2エネルギー吸収体を配置した、ことを特徴としている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明に係る定着装置において、前記加熱ローラに特徴を有するものである。すなわち、前記ヒータは、前記ローラ本体の回転中心に沿って複数の熱源が間隔をあけて配置されている。そして、前記熱源に対向する前記ローラ本体の内面には前記第2エネルギー吸収体が配置され、前記第2エネルギー吸収体が配置されない前記ローラ本体の内面には前記第1エネルギー吸収体が配置されたことを特徴としている。
【0012】
請求項3の発明は、トナー像が転写されたシート状の記録材を、回転する加熱ローラと加圧部材のニップ部で加熱・加圧し、前記記録材にトナー像を定着させる定着装置に関するものである。この定着装置において、前記加熱ローラは、前記加圧部材に回転接触する円筒状のローラ本体と、このローラ本体の回転中心に沿って配置されたヒータとを備えている。また、前記ヒータは、前記ローラ本体の内面に向けて放射する輻射エネルギーが前記ローラ本体の回転中心に沿って疎密分布を生じるようになっている。そして、前記ローラ本体の前記ヒータに対向する内面側は、前記ヒータから放射される輻射エネルギーの疎から密,密から疎への滑らかな変化に対応するように、エネルギー放射率が高から低,低から高に滑らかに変化するエネルギー吸収体を配置したことを特徴としている。
【0013】
請求項4の発明は、トナー像が転写されたシート状の記録材を、回転する加熱ローラと加圧部材のニップ部で加熱・加圧し、前記記録材にトナー像を定着させる定着装置に関するものである。この定着装置において、前記加熱ローラは、前記加圧部材に回転接触する円筒状のローラ本体と、このローラ本体の回転中心に沿って配置されたヒータとを備えている。また、前記ヒータは、前記ローラ本体の内面に向けて放射する輻射エネルギーが前記ローラ本体の回転中心に沿って疎密分布を生じるようになっている。そして、前記ローラ本体の前記ヒータに対向する内面側は、前記ヒータから放射される輻射エネルギーが疎の部分に対応して他部よりも肉厚が薄い第1肉厚部を形成し、前記ヒータから放射される輻射エネルギーが密の部分に対応して前記第1肉厚部よりも肉厚が厚い第2肉厚部を形成した、ことを特徴としている。
【0014】
請求項5の発明は、請求項4の発明に係る定着装置において、前記加熱ローラに特徴を有するものである。すなわち、前記ヒータは、前記ローラ本体の回転中心に沿って複数の熱源が間隔をあけて配置されている。そして、前記熱源に対向する前記ローラ本体の内面に前記第2肉厚部が形成され、前記第2肉厚部が形成されない前記ローラ本体の内面に前記第1肉厚部が形成されたことを特徴としている。
【0015】
請求項6の発明は、トナー像が転写されたシート状の記録材を、回転する加熱ローラと加圧部材のニップ部で加熱・加圧し、前記記録材にトナー像を定着させる定着装置に関するものである。この定着装置において、前記加熱ローラは、前記加圧部材に回転接触する円筒状のローラ本体と、このローラ本体の回転中心に沿って配置されたヒータとを備えている。また、前記ヒータは、前記ローラ本体の内面に向けて放射する輻射エネルギーが前記ローラ本体の回転中心に沿って疎密分布を生じるようになっている。そして、前記ローラ本体の前記ヒータに対向する内面側は、前記ヒータから放射される輻射エネルギーの疎から密,密から疎への滑らかな変化に対応するように、薄肉部分から厚肉部分,厚肉部分から薄肉部分へ滑らかに肉厚が変化することを特徴としている。
【0016】
請求項7の発明は、感光体に形成されたトナー像を転写デバイスでシート状の記録材に転写し、この記録材に転写されたトナー像を前記請求項1乃至6のいずれかの発明の定着装置によって前記記録材に定着したことを特徴とする画像形成装置に関するものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明は、ローラ本体の内周面に向けて放射されるヒータの輻射エネルギーがローラ本体の回転中心に沿って疎密を生じていても、輻射エネルギーの疎の部分に比較的にエネルギー放射率が高い第1エネルギー吸収体を配置し、輻射エネルギーの密の部分に比較的にエネルギー放射率が低い第2エネルギー吸収体を配置するようになっているため、ローラ本体に供給されるエネルギーバランスがローラ本体の回転中心方向に沿って均一化する。その結果、本発明は、加熱ローラの回転中心方向に沿った表面温度が均一化する。
【0018】
請求項2の発明は、ローラ本体の内周面の熱源に対向する箇所にエネルギー放射率が比較的に低い第2エネルギー吸収体を配置し、この第2エネルギー吸収体を配置しないローラ本体の内周面には第2エネルギー吸収体よりもエネルギー放射率が比較的に高い第1エネルギー吸収体を配置するようになっているため、ヒータからの輻射エネルギーがローラ本体全体に均一に供給される。その結果、本発明は、加熱ローラの回転中心方向に沿った表面温度が均一化する。
【0019】
請求項3の発明は、ローラ本体の内周面に配置するエネルギー吸収体が、ヒータからの輻射エネルギーの疎から密,密から疎への滑らかな変化に対応して、エネルギー放射率を高から低,低から高に滑らかに変化するように形成されているため、ヒータからの輻射エネルギーがより一層均一にローラ本体に供給されることになる。
【0020】
請求項4の発明は、ローラ本体の内周面に向けて放射されるヒータの輻射エネルギーがローラ本体の回転中心に沿って疎密を生じていても、輻射エネルギーの疎の部分に比較的に肉厚の薄い第1肉厚部を配置し、輻射エネルギーの密の部分に比較的に肉厚の厚い第2肉厚部を配置するようになっているため、ローラ本体に供給されるエネルギーバランスがローラ本体の回転中心方向に沿って均一化する。その結果、本発明は、加熱ローラの回転中心方向に沿った表面温度が均一化する。
【0021】
請求項5の発明は、ローラ本体の内周面の熱源に対向する箇所に肉厚が比較的に厚い第2肉厚部を形成し、この第2肉厚部以外の部分に肉厚が比較的薄い第1肉厚部を形成するようになっているため、ヒータからの輻射エネルギーがローラ本体全体に均一に供給される。その結果、本発明は、加熱ローラの回転中心方向に沿った表面温度が均一化する。
【0022】
請求項6の発明は、ローラ本体の肉厚が、ヒータからの輻射エネルギーの疎から密,密から疎への滑らかな変化に対応して、薄肉部分から厚肉部分,厚肉部分から薄肉部分に滑らかに変化するように形成されているため、ヒータからの輻射エネルギーがより一層均一にローラ本体に供給されることになる。
【0023】
請求項7の発明は、記録材に転写されたトナー像が定着オフセット等の定着不良を生じることがなく、優れた印刷作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づき詳述する。
【0025】
[第1実施形態]
図1乃至図は、本発明の第1実施形態に係る定着装置1及びこれを備えた画像形成装置2を示すものである。
【0026】
(画像形成装置の概略構成)
図1に示すように、本発明に係る定着装置1を使用した画像形成装置2は、給紙部3から送り出されたシート状の記録材Pに、感光体4の表面に形成されたトナー像を転写デバイス5によって転写する。そして、そのトナー像が転写された記録材Pは、本発明に係る定着装置1内に送り込まれ、その定着装置1の加熱ローラ6と加圧ローラ(加圧部材)7のニップ部Nで加熱・加圧されて、トナーが溶融固着することによりトナー像が記録材Pに定着する。その後、定着装置1から送り出された記録材Pは、排紙ローラ対8によって排紙トレイ10上に排出される。なお、感光体4は、記録材Pを搬送路11に沿って定着装置1側に送り出すように回転しており、転写後に表面が除電デバイス12で除電され、表面に残留するトナーがクリーニングデバイス13によって除去された後、表面が帯電デバイス14によって一様に帯電させられ、その後に露光デバイス15によって表面に静電潜像が形成され、現像デバイス16によって表面にトナーが供給され、静電潜像がトナー像として顕在化され、そのトナー像が転写デバイス5によって記録材Pに転写されるようになっている。なお、加圧ローラ7を加圧部材として例示したが、これに限られるものでなく、複数のローラに巻き掛けられたベルトを加圧部材とし、その加圧部材としてのベルトと加熱ローラ6とで定着用のニップ部を形成してもよい。また、エンドレスベルトの内側が押圧部材によって加熱ローラ側に押圧され、回転する加熱ローラにエンドレスベルトが接触した状態で回動するように構成され、エンドレスベルトと加熱ローラの接触部が定着用のニップ部とされた構造のものでもよい。
【0027】
(定着装置の構成)
本実施形態の定着装置1は、図1に模式的に示すように、加熱ローラ6と、この加熱ローラ6に所定のばね力で押し付けられる加圧ローラ7とを備えており、加熱ローラ6が図示しない駆動モータにより回転駆動され、加圧ローラ7が加熱ローラ6に従動して回転するようになっている。また、この定着装置1は、加熱ローラ6の外表面に対向するように温度センサ17を配置し、その温度センサ17によって加熱ローラ6の外表面の温度を検知するようになっている。
【0028】
加熱ローラ6は、図2に詳細を示すように、円筒状のローラ本体18と、このローラ本体18の回転中心部に配置されたヒータ20と、を備えている。また、この加熱ローラ6は、ヒータ20への通電のオン・オフ制御が温度センサ17の検知結果に基づいて行われるようになっており(図1参照)、その外表面の温度が180℃〜200℃の定着温度に管理されるように工夫されている。しかし、温度センサ17が設置される部分は加熱ローラ6の回転中心に沿った方向の一部であるため、加熱ローラ6の外面21全体を定着に適した温度にするには温度センサ17によるヒータ20の通電制御のみでは不十分となる。そこで、本実施形態の加熱ローラ6は、以下の説明のように構成して、外面21全体の温度を定着に適した温度範囲(180℃〜200℃)内において均一化している。なお、加熱ローラ6は、その両端部が軸受け22によって回転可能に支持されている。
【0029】
加熱ローラ6を構成するローラ本体18は、芯金材料として鉄(例えば、STKM12C)を円筒状に形成して使用し、その外面にPFA(パーフルオロアルコキシ樹脂)がコーティングされている。なお、本実施形態において、ローラ本体18は、例えば、その内径寸法を20mmとし、外径寸法を20.6mmとし、その軸方向長さ(回転中心CLに沿った方向の長さ)を300mmとしている。
【0030】
また、ローラ本体18の回転中心CLに配置されるヒータ20は、ハロゲンヒータ(ハロゲンランプ)であり、熱源としてのフィラメント(発光部)23,24がローラ本体18の回転中心に沿って所定の間隔で複数配置されている。なお、本実施形態において、例えば、ヒータ20は電力1000Wのハロゲンヒータが使用される。
【0031】
ヒータ20のフィラメント23,24は、回転中心CLに沿った方向の長さが要求される設計条件に応じて異なるようになっており、同一長さのものと異なる長さのものとが適宜配置される。例えば、図2に示すヒータ20のフィラメント23,24は、両端部のフィラメント24が他部のフィラメント23よりも長く形成されており、両端部以外のもの(フィラメント23)が同一の長さに形成されている。また、図2に示すヒータ20は、隣り合うフィラメント23,24とフィラメント23,23の回転中心CLに沿った方向の中心間距離Wが等間隔となるように形成されている。なお、各フィラメント23,24の長さを同一長さとし、隣り合うフィラメント23,24の中心間距離Wを適宜変えるようにしてもよく、また、同一長さのフィラメント23(24)を等間隔で複数配置するようにしてもよい。
【0032】
このようなヒータ20の一つのフィラメント23,24は、その長さを2bとし、輝度をBとし、一様な線状光源であると仮定した場合、フィラメント23,24(回転中心CL)から距離aにある平行面の回転中心CLに沿った方向の配光分布E(x)は、次式のように表される。
【0033】
【数1】

そして、ヒータ20としての配光分布E(x)は、上述のような個々のフィラメント23,24の配光分布の合成からなっている。図3は、このような個々のフィラメント23,24の配光分布E(x)1〜6と、これらのフィラメント23,24の配光分布E(x)1〜6を合成してなるヒータ20としての配光分布E(x)を示している。この図3に示すように、各フィラメント23,24による輝点ムラ(リップル)が生じる。なお、図3(a)は、図3(b)に示すヒータ20の回転中心CLに沿った方向に対応させて示す配光分布の図である。また、図3(a)の横軸は、ヒータ20の回転中心CLに沿った方向の中央を0とし、ヒータ20の両端部を+150,−150で示している。また、図3(a)の縦軸は、輻射エネルギー(W/m)を表している。
【0034】
リップルは、ヒータ20中心(回転中心CL)からの距離が近いほど大きくなる。図4は、このようなヒータ20中心(回転中心CL)からの距離の違いによるリップルを比較して示すものである。この図4に示すように、ヒータ20中心からの距離が10mmの配光分布E(x)10におけるリップルは、ヒータ20中心からの距離が15mmの配光分布E(x)15におけるリップルに比較してはるかに大きくなっている。
【0035】
したがって、定着装置1の消費エネルギーを低減し(省エネルギー化を図り)、定着装置1が通電後に定着可能温度に上昇するまでの時間(ウォームアップ時間)を短縮するために、本実施形態のように加熱ローラ6(ローラ本体18)の内径寸法を小径化すると(例えば、20mmとすると)、リップルを小さくし、加熱ローラ6の外面21の回転中心CLに沿った方向(軸方向)における温度分布の均一化を図る必要がある。
【0036】
そこで、本実施形態の加熱ローラ6は、ローラ本体18の内面に照射されるヒータ20からの輻射エネルギーに応じてエネルギー放射率の異なる塗料(第1、第2エネルギー吸収体)25,26を塗布するようになっている(図2参照)。なお、本実施形態において使用する塗料は、例えば、シリコーン系耐熱塗料(商品名:オキツモ)が使用される。そして、本実施形態の塗料は、含有するカーボン量を変えることにより、エネルギー放射率を調整できるようになっている塗料が使用される。
【0037】
図5は、ヒータ20が通電されて、フィラメント23,24が発光した場合のローラ本体18の内面27に照射される輻射エネルギー、ローラ本体18の内面27に塗布される塗料25,26の塗布領域、及び塗料25,26のエネルギー放射率の関係を示す図である(図2参照)。
【0038】
この図5に示すローラ本体18の内面27における輻射エネルギー分布Ea(x)は、図4に示すヒータ20の配光分布E(x)10にほぼ対応するようになっている。この図5において、輻射エネルギー分布Ea(x)は、両端の輻射エネルギー分布部分(第1分布曲線部分という)Ea1,6を除く輻射エネルギー分布部分(第2分布曲線部分という)Ea2〜5において、第2分布曲線部分Ea2〜5の頂部の輻射エネルギー密度を95%とすると、第2分布曲線部分Ea2〜5の谷部の輻射エネルギー密度が80%となり、この第2分布曲線部分Ea2〜5の頂部と谷部の中間における平均の輻射エネルギー密度が87.5%となる。そして、輻射エネルギー密度が87.5%〜95%の範囲を密部とし、輻射エネルギー密度が80%〜87.5%の範囲を疎部とした場合、エネルギー放射率が0.95の塗料(第1エネルギー吸収体)25を疎部に対応するようにローラ本体18の内面27に塗布し、エネルギー放射率が0.80の塗料(第2エネルギー吸収体)26を密部に対応するようにローラ本体18の内面27に塗布するようになっている(図2参照)。なお、第1分布曲線部分Ea1,6は、輻射エネルギー密度が87.5%である平均値よりも高密度の部分を密部とし、輻射エネルギー密度が87.5%である平均値よりも低密度の部分を疎部とする。そして、第1エネルギー吸収体25を第1分布曲線部分Ea1,6の疎部に対応するようにローラ本体18の内面27に塗布し、第2エネルギー吸収体26を第2分布曲線部分Ea2〜5の密部に対応するようにローラ本体18の内面27に塗布するようになっている(図5,図2参照)。なお、図5において、ローラ内面のエネルギー分布は、ヒータ20が100%点灯したときの輻射エネルギー分布波形の最大値(ヒータ20の消費電力から理論計算で求めた値)を100%としている。そして、図5において示すローラ内面のエネルギー分布曲線は、ローラ内面のエネルギー分布の実測値と理論計算値である100%輻射エネルギー値との比率で示している。また、図5において、放射率(ε)は、ある物体の放射能(E)の同温度の黒体放射能(E)に対する比(ε=E/E)で表される。そして、放射率1.0とは、完全黒体(投射された輻射エネルギーが全部吸収する物体)の状態を表している。
【0039】
このように加熱ローラ6を構成することにより、ヒータ20から放射される輻射エネルギーが加熱ローラ6の回転中心方向に沿って均一に供給されることになるため、図6に示すように、加熱ローラ6の表面温度を定着可能な温度領域(180℃〜200℃)にほぼ均一化させた状態で維持できる。これに対し、ローラ本体18の内面27に第1エネルギー吸収体25のみを塗布した場合には、図7に示すように、加熱ローラ6の表面温度を定着可能な温度領域(180℃〜200℃)に維持することができず、定着オフセットを生じる虞がある。
【0040】
以上のように、本実施形態の定着装置1によれば、加熱ローラ6の表面温度を、回転中心に沿って、定着可能な温度領域(180℃〜200℃の定着可能温度領域のうちの180℃〜190℃の狭い温度領域)内にほぼ一定に維持することができ、優れた定着作用を発揮する。
【0041】
なお、本実施形態は、上述のように、第1エネルギー吸収体25と第2エネルギー吸収体26をローラ本体18の内面27に回転中心CLに沿って交互に塗布するようになっているが、これに限られず、図8に示すように、輻射エネルギー分布Ea(x)の頂部に対応する部分のエネルギー放射率が0.80となり、輻射エネルギー分布Ea(x)の谷部に対応する部分のエネルギー放射率が0.95となるように、しかもエネルギー放射率が滑らかな曲線状となるように塗料を塗布するようにしてもよい。このように構成すれば、ヒータ20からの輻射エネルギーがより一層均一にローラ本体18に供給されることになる。ここで、エネルギー放射率は、ローラ本体18の内面27に塗布する塗料の塗膜厚さが厚いと高く、塗膜厚さが薄いと低くなる。そこで、ローラ軸方向に塗膜厚さを滑らかに変化させることにより、図8に示すように、エネルギー放射率をローラ軸方向に滑らかに変化させることができる。
【0042】
[第2実施形態]
図9は、本発明の第2実施形態に係る加熱ローラ6を示すものである。すなわち、本実施形態の加熱ローラ6は、ローラ本体18の内面27に照射されるヒータ20からの輻射エネルギーに応じてローラ本体18の肉厚を変えるようになっている。
【0043】
図10は、ヒータ20が通電されて、フィラメント23,24が発光した場合のローラ本体18の内面27に照射される輻射エネルギー分布Ea(x)とローラ本体18の肉厚との関係を示す図である。
【0044】
この図10に示すローラ本体18の内面27における輻射エネルギー分布Ea(x)は、図5に示す輻射エネルギー分布Ea(x)と同様である。また、図10に示す輻射エネルギー密度の密部及び疎部も、図5に示す輻射エネルギー密度の密部及び疎部に対応している。
【0045】
本実施形態の加熱ローラ6は、図9及び図10に示すように、疎部に対応させてローラ本体18の肉厚が薄い第1肉厚部(肉厚が0.3mmの部分であって、ローラ本体内径が20.0mmの部分)30を形成し、密部に対応させてローラ本体18の肉厚が第1肉厚部30よりも厚い第2肉厚部(肉厚が0.35mmであって、ローラ本体内径が19.9mmの部分)31を形成し、輻射エネルギー密度の密部に対応する部分の熱容量を大きくし、輻射エネルギー密度の疎部に対応する部分の熱容量を他部よりも小さくしている。これによって、ヒータ20からの輻射エネルギーがローラ本体18の回転中心方向に沿って均一に供給されることになる。
【0046】
ローラ本体18の第1肉厚部30と第2肉厚部31を形成する方法としては、ローラ本体18の内面27を切削加工して凹凸部を形成する他、図14に示すように、ローラ本体18の内面27にリング状体32を嵌合固着するようにしてもよい。この図14に示すリング状体32は、ローラ本体14と同一材料か又はばね性を有する金属材料で形成されており、第2肉厚部31に対応する部分がリング状部分33であり、これらリング状部分33が梁材34によって接続されるようになっている。なお、リング状部分33は、一部にスリット35が形成されており、ローラ本体18に内嵌されると、スリット35を狭めるように縮径変形し、ローラ本体18の内面27に弾性力で密着固定されることになる。
【0047】
本実施形態によれば、図11に示すように、加熱ローラ6の表面温度を定着可能な温度領域(180℃〜200℃の定着可能温度領域のうちの180℃〜190℃の狭い温度領域)にほぼ均一化させた状態で維持できるようになっている。これに対し、ローラ本体18の肉厚を0.3mmで一定にした場合には、図12に示すように、加熱ローラ6の表面温度を定着可能な温度領域(180℃〜200℃)に維持することができず、定着オフセットを生じる虞がある。
【0048】
以上のように、本実施形態の定着装置1によれば、加熱ローラ6の表面温度を定着可能な温度領域(180℃〜200℃の定着可能温度領域のうちの180℃〜190℃の狭い温度領域)内においてほぼ一定に維持することができ、優れた定着作用を発揮する。
【0049】
なお、本実施形態は、上述のように、第1肉厚部30と第2肉厚部31を回転中心CLに沿って交互に形成するようになっているが、これに限られず、図13に示すように、輻射エネルギー分布Ea(x)の頂部に対応する部分の肉厚を0.35mmとし、輻射エネルギー分布Ea(x)の谷部に対応する部分の肉厚を0.3mmとなるようにし、しかも肉厚の変化が滑らかな曲線状となるように肉厚を変えるようにしてもよい。このように構成すれば、ヒータ20からの輻射エネルギーがより一層均一にローラ本体18に供給されることになる。
【0050】
なお、上述の各実施形態において示した数値は、発明の理解を容易にするための例示であり、これに限られず、設計条件に応じた最適な数値が採用される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る定着装置は、静電複写方式の複写機,プリンタ,ファクシミリ装置及びこれらの複合機に利用することにより、高品質の印刷が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施形態に係る定着装置を使用する画像形成装置の概略構成図である。
【図2】加熱ローラの回転中心に沿って切断して示す断面図である。
【図3】加熱ローラに使用されるヒータ及びこのヒータによる配光分布を示す図であり、図3(a)は図3(b)に示すヒータに対応させて示す配光分布の図である。
【図4】ヒータから加熱ローラ内面までの距離と配光分布との関係を示す図である。
【図5】加熱ローラ内面における輻射エネルギー分布と加熱ローラの内面に塗布される塗料との関係を示す図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る定着装置を構成する加熱ローラの表面温度を示す図である。
【図7】加熱ローラ内面に同一種類の塗料のみを塗布した場合における加熱ローラ外表面の温度分布を示す図である。
【図8】本発明の第1実施形態の変形例を示す図であり、加熱ローラの内面の輻射エネルギー分布と加熱ローラ内面に塗布される塗料の放射率との関係を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る加熱ローラの回転中心に沿って切断して示す断面図である。
【図10】加熱ローラ内面における輻射エネルギー分布と加熱ローラの肉厚との関係を示す図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る定着装置を構成する加熱ローラの表面温度を示す図である。
【図12】加熱ローラを同一の肉厚で形成した場合における加熱ローラ外表面の温度分布を示す図である。
【図13】本発明の第2実施形態の変形例を示す図であり、加熱ローラの内面の輻射エネルギー分布と加熱ローラの肉厚との関係を示す図である。
【図14】本発明の第2実施形態に係る定着装置を構成する加熱ローラの形成例を示す分解斜視図である。
【図15】従来の加熱ローラを回転中心に沿って切断して示す断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1……定着装置、2……画像形成装置、4……感光体、5……転写デバイス、6……加熱ローラ、7……加圧ローラ(加圧部材)、18……ローラ本体、20……ヒータ、25……塗料(第1エネルギー吸収体)、26……塗料(第2エネルギー吸収体)、30……第1肉厚部、31……第2肉厚部、N……ニップ部、P……記録材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー像が転写されたシート状の記録材を、回転する加熱ローラと加圧部材のニップ部で加熱・加圧し、前記記録材にトナー像を定着させる定着装置において、
前記加熱ローラは、前記加圧部材に回転接触する円筒状のローラ本体と、このローラ本体の回転中心に沿って配置されたヒータとを備え、
前記ヒータは、前記ローラ本体の内面に向けて放射する輻射エネルギーが前記ローラ本体の回転中心に沿って疎密分布を生じるようになっており、
前記ローラ本体の前記ヒータに対向する内面側は、前記ヒータから放射される輻射エネルギーが疎の部分に対応して第1エネルギー吸収体を配置し、前記ヒータから放射される輻射エネルギーが密の部分に対応して前記第1エネルギー吸収体よりもエネルギー放射率が低い第2エネルギー吸収体を配置した、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記ヒータは、前記ローラ本体の回転中心に沿って複数の熱源が間隔をあけて配置され、
前記熱源に対向する前記ローラ本体の内面には前記第2エネルギー吸収体が配置され、前記第2エネルギー吸収体が配置されない前記ローラ本体の内面には前記第1エネルギー吸収体が配置された、
ことを特徴とする請求項1記載の定着装置。
【請求項3】
トナー像が転写されたシート状の記録材を、回転する加熱ローラと加圧部材のニップ部で加熱・加圧し、前記記録材にトナー像を定着させる定着装置において、
前記加熱ローラは、前記加圧部材に回転接触する円筒状のローラ本体と、このローラ本体の回転中心に沿って配置されたヒータとを備え、
前記ヒータは、前記ローラ本体の内面に向けて放射する輻射エネルギーが前記ローラ本体の回転中心に沿って疎密分布を生じるようになっており、
前記ローラ本体の前記ヒータに対向する内面側は、前記ヒータから放射される輻射エネルギーの疎から密,密から疎への滑らかな変化に対応するように、エネルギー放射率が高から低,低から高に滑らかに変化するエネルギー吸収体を配置した、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項4】
トナー像が転写されたシート状の記録材を、回転する加熱ローラと加圧部材のニップ部で加熱・加圧し、前記記録材にトナー像を定着させる定着装置において、
前記加熱ローラは、前記加圧部材に回転接触する円筒状のローラ本体と、このローラ本体の回転中心に沿って配置されたヒータとを備え、
前記ヒータは、前記ローラ本体の内面に向けて放射する輻射エネルギーが前記ローラ本体の回転中心に沿って疎密分布を生じるようになっており、
前記ローラ本体の前記ヒータに対向する内面側は、前記ヒータから放射される輻射エネルギーが疎の部分に対応して他部よりも肉厚が薄い第1肉厚部を形成し、前記ヒータから放射される輻射エネルギーが密の部分に対応して前記第1肉厚部よりも肉厚が厚い第2肉厚部を形成した、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項5】
前記ヒータは、前記ローラ本体の回転中心に沿って複数の熱源が間隔をあけて配置され、
前記熱源に対向する前記ローラ本体の内面には前記第2肉厚部が形成され、前記第2肉厚部が形成されない前記ローラ本体の内面には前記第1肉厚部が形成された、
ことを特徴とする請求項4記載の定着装置。
【請求項6】
トナー像が転写されたシート状の記録材を、回転する加熱ローラと加圧部材のニップ部で加熱・加圧し、前記記録材にトナー像を定着させる定着装置において、
前記加熱ローラは、前記加圧部材に回転接触する円筒状のローラ本体と、このローラ本体の回転中心に沿って配置されたヒータとを備え、
前記ヒータは、前記ローラ本体の内面に向けて放射する輻射エネルギーが前記ローラ本体の回転中心に沿って疎密分布を生じるようになっており、
前記ローラ本体の前記ヒータに対向する内面側は、前記ヒータから放射される輻射エネルギーの疎から密,密から疎への滑らかな変化に対応するように、薄肉部分から厚肉部分,厚肉部分から薄肉部分へ滑らかに肉厚が変化する、
ことを特徴とする定着装置。
【請求項7】
感光体に形成されたトナー像を転写デバイスでシート状の記録材に転写し、この記録材に転写されたトナー像を前記請求項1乃至6のいずれかに記載の定着装置によって前記記録材に定着したことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−337521(P2006−337521A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159601(P2005−159601)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】