説明

定着装置及び画像形成装置

【課題】面状発熱体を低圧で安定して定着部材に当接させて、定着部材を低トルクで回転させながら均一に加熱する定着装置及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】定着スリーブ21と、加圧ローラ31と、定着スリーブ21の内周側に配置され、定着スリーブ21を介して加圧ローラ31と当接してニップ部を形成する当接部材26と、定着スリーブ21の内周側に配置され、定着スリーブ21と接触して加熱する弾性体シートである面状発熱体22と、を備え、面状発熱体22の主面と定着スリーブ21の内周面とが面状発熱体22の曲げ弾性力により付与される面圧で当接している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面状発熱体を用いた定着装置及び該定着装置を備える電子写真方式、静電記録方式等を利用したFAX、プリンタ、複写機またはそれらの複合機等の画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、プリンタ等の画像形成装置として、電子写真方式を利用した画像形成装置が種々考案されており公知技術となっている。その画像形成プロセスは、像担持体である感光ドラムの表面に静電潜像を形成し、感光ドラム上の静電潜像を現像剤であるトナー等によって現像して可視像化し、現像された画像を転写装置により記録紙に転写して画像を担持させ、圧力や熱等を用いる定着装置によって記録紙上のトナー画像を定着する過程により成立している。
【0003】
この定着装置では、対向するローラもしくはベルトもしくはそれらの組み合わせにより構成された定着部材及び加圧部材が当接してニップ部を形成するように配置されており、該ニップ部に記録紙を挟みこみ、熱および圧力を加え前記トナー像を記録紙上に定着することを行っている。
【0004】
前記定着装置の一例を挙げると、複数のローラ部材に張架された定着ベルトを定着部材として用いる技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このような定着ベルトを用いた装置は、定着部材としての定着ベルト(無端状ベルト)、定着ベルトを張架・支持する複数のローラ部材、複数のローラ部材のうち1つのローラ部材に内設されたヒータ、加圧ローラ(加圧部材)、等で構成されている。ヒータは、ローラ部材を介して定着ベルトを加熱する。そして、定着ベルトと加圧ローラとの間に形成されたニップ部に向けて搬送された記録媒体上のトナー像は、ニップ部にて熱と圧力とを受けて記録媒体上に定着される(ベルト定着方式)。
【0005】
また、上述した画像形成装置に用いられる定着装置において、回転体である定着部材の内面に摺接する固定部材を有している定着装置がある。
例えば、特許文献2では、発熱体としてのセラミックヒータと、加圧部材としての加圧ローラとの間に耐熱性フィルム(定着フィルム)を挟ませて定着ニップ部を形成させ、前記定着ニップ部のフィルムと加圧ローラとの間に画像定着すべき未定着トナー画像を形成担持させた被記録材を導入して、フィルムと一緒に挟持搬送させることで、ニップ部においてセラミックヒータの熱がフィルムを介して被記録材に与えられ、また、定着ニップ部の加圧力にて未定着トナー画像を被記録材面に熱圧定着させるフィルム加熱方式の定着装置が開示されている。このフィルム加熱方式の定着装置は、セラミックヒータ及びフィルムとして低熱容量の部材を用いてオンデマンドタイプの装置を構成することができるとともに、画像形成装置の画像形成実行時のみ熱源としてのセラミックヒータに通電して所定の定着温度に発熱させた状態にすればよく、画像形成装置の電源オンから画像形成実行可能状態までの待ち時間が短く(クイックスタート性)、スタンバイ時の消費電力も大幅に小さい(省電力)等の利点がある。
【0006】
また、特許文献3,4では、表面が弾性変形する回転可能な加熱定着ロールと、前記加熱定着ロールに接触したまま走行可能なエンドレスベルト(加圧ベルト)と、前記エンドレスベルトの内側に非回転状態で配置されて、前記エンドレスベルトを前記加熱定着ロールに圧接させ、前記エンドレスベルトと前記加熱定着ロールとの間に記録紙が通過させられるベルトニップを設けると共に、前記加熱定着ロールの表面を弾性変形させる加圧パッドとを具備してなる加圧ベルト方式の画像定着装置が提案されている。この定着方式によれば、下の加圧部材をベルトにし、用紙とロールの接触面積を広げることで熱伝導効率を大幅に向上させ、エネルギー消費を抑制すると同時に小型化を実現することが可能となっている。
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1記載の定着装置は、定着ローラを用いた装置に比べて装置の高速化に適しているものの、ウォームアップ時間(プリント可能な温度に達するまでに要する時間である。)やファーストプリント時間(プリント要求を受けた後にプリント準備を経てプリント動作をおこない排紙が完了するまでの時間である。)の短縮化に限界があった。
【0008】
これに対して、特許文献2記載の定着装置は、低熱容量化によりウォームアップ時間やファーストプリント時間の短縮化が可能になるとともに、装置の小型化も可能になる。しか、特許文献2記載の定着装置では、耐久性の問題と、ベルト温度安定性の問題があった。すなわち、熱源であるセラミックヒータとベルト内面の摺動による耐磨耗性が不十分であり、長時間運転すると連続摩擦を繰り返す面が荒れて摩擦抵抗が増大し、ベルトの走行が不安定になる、もしくは定着装置の駆動トルクが増大する等の現象が生じ、その結果、画像を形成する転写紙のスリップが生じ画像のずれが生じる、または駆動ギヤに係る応力が増大し、ギヤの破損を引き起こすという不具合が発生した(課題1)。
また、フィルム加熱方式の定着装置では、ベルトをニップ部で局所的に加熱しているため回転するベルトがニップ入り口に戻ってくる際に、ベルト温度は最も冷えた状態になり、(特に高速回転を行うと)定着不良が出やすいという問題があった(課題2)。
【0009】
一方、特許文献3では、圧力パッドの表層に低摩擦シート(シート状摺動材)としてPTFEを含浸させたガラス繊維シート(PTFE含浸ガラスクロス)を用い、ベルト内面と固定部材の摺動性の問題を改善する手段が開示されている。しかし、このような加圧ベルト方式の定着装置(特許文献3,4)では、定着ローラの熱容量が大きく、昇温が遅いため、ウォームアップにかかる時間が長いという問題があった。(課題3)。
【0010】
以上のような課題1〜3に対して、特許文献5,6では、無端状の定着ベルトの内周側に配置される略パイプ状の対向部材(金属熱伝導体)と、前記対向部材の内周側に配置され該対向部材を加熱するセラミックヒータ等の抵抗発熱体とを設けることにより、定着ベルト全体を温めることを可能にし、ウォームアップ時間やファーストプリント時間を短縮することができ、かつ高速回転時の熱量不足を解消することのできる定着装置が提案されている。しかしながら、対向部材(金属熱伝導体)を介して抵抗発熱体の熱を定着ベルトに伝える方式であるため、ウォームアップ時間やファーストプリント時間の短縮という点で不十分であった。
【0011】
これに対して、特許文献7では、無端状の定着ベルトと、該定着ベルトに圧接して記録媒体が搬送されるニップ部を形成する加圧ローラと、前記定着ベルトの内周面側に固設されて当該定着ベルトを加熱する抵抗発熱体と、を備え、前記抵抗発熱体は、前記定着ベルトの内周面に対して圧接しないように微小ギャップで配設する定着装置が提案されている。これにより、ウォームアップ時間やファーストプリント時間をより短くし、装置を高速化した場合であっても定着不良や定着部材及び抵抗発熱体の磨耗・破損等の不具合が生じないようにすることができるものとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献7記載の定着装置において、加圧ローラの回転、振動に起因する応力が抵抗発熱体に繰り返し作用して、前記抵抗発熱体の屈曲が繰り返し行われるようになるが、該抵抗発熱体が金属材料からなるものであるため、繰り返しの屈曲による疲労破壊により断線して定着ベルトの適切な加熱が行われないことがあった。
【0013】
また、抵抗発熱体を定着ベルトの内周面に対して圧接しないように微小ギャップで配設する構成であるため、定着ベルトへの熱伝達の効率が悪く、また定着ベルトの均一加熱が困難であった。
【0014】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、面状発熱体を低圧で安定して定着部材に当接させて、定着部材を低トルクで回転させながら均一に加熱する定着装置及び該定着装置を備える画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために提供する本発明は、以下の通りである。
〔1〕 回転する無端状ベルトの定着部材(定着スリーブ21)と、前記定着部材の外周面と当接する加圧部材(加圧ローラ31)と、前記定着部材の内周側に配置され、該定着部材を介して前記加圧部材と当接してニップ部を形成する当接部材(当接部材26)と、前記定着部材の内周側に配置され、該定着部材と接触して加熱する弾性体シートである面状発熱体(面状発熱体22)と、を備え、前記面状発熱体の主面と前記定着部材の内周面とが該面状発熱体の曲げ弾性力により付与される面圧で当接していることを特徴とする定着装置(定着装置20、図6,図11)。
〔2〕 前記面状発熱体は、弾性体基材(基層22a)上に耐熱性樹脂中に導電性粒子が分散した抵抗発熱層(抵抗発熱層22b)が形成されてなることを特徴とする前記〔1〕に記載の定着装置。
〔3〕 前記面状発熱体は、前記定着部材の周方向に対応する両端に該面状発熱体を前記定着部材側に凸となるように湾曲させた状態で支持する両端支持部(支持部材32a,32b)を有することを特徴とする前記〔1〕または〔2〕に記載の定着装置。
〔4〕 前記面状発熱体の前記定着部材の周方向に湾曲した曲率(1/R)は、該定着部材の曲率(1/r)よりも大であることを特徴とする前記〔3〕に記載の定着装置(図9)。
〔5〕 前記面状発熱体は、前記定着部材とは反対側の面に該面状発熱体の湾曲状態を保持するガイド部材(ガイド部材32g)が設けられてなることを特徴とする前記〔3〕または〔4〕に記載の定着装置(図10)。
〔6〕 前記両端支持部は、給電端子(22ea,22eb))を兼ねたものであることを特徴とする前記〔3〕〜〔5〕のいずれかに記載の定着装置(図12)。
〔7〕 前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の定着装置を備えることを特徴とする画像形成装置(画像形成装置1、図13)。
【発明の効果】
【0016】
本発明の定着装置によれば、弾性体である面状発熱体の主面と定着部材の内周面とが該面状発熱体の曲げ弾性力により付与される面圧で当接しているため、面状発熱体を低圧で安定して定着部材に当接させることができ、グリスなどの摺動用の潤滑剤を用いることなく定着部材を低トルクで回転させながら均一に加熱することが可能となる。また、定着部材及び面状発熱体の熱容量が小さいため、消費エネルギーの抑制を図りつつウォームアップ時間やファーストプリント時間を短くすることができる。また、面状発熱体における発熱シートは樹脂ベースのシートであるため、加圧部材の回転、振動に起因する応力が発熱シートに繰り返し作用して、発熱シートの屈曲が繰り返し行われても疲労破壊することがなく、長時間の運転が可能である。
本発明の画像形成装置によれば、本発明の定着装置を備えているので、定着部材の安定した回転と均一な加熱が可能となり、装置を高速化した場合であっても定着不良等の不具合が生じるのを抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る定着装置の前提となる参考例の構成を示す断面図である。
【図2】定着スリーブにおける軸方向、周方向を示す概略図である。
【図3】本発明で用いる発熱シートの構成を示す断面図である。
【図4】図1の定着装置で用いる回転支持部材の構成を示す斜視図である。
【図5】図1の定着装置における定着スリーブ側の内部機構部の構成を示す概略図である。
【図6】本発明に係る定着装置の構成例を示す断面図である。
【図7】図6の定着装置で用いる面状発熱体及びその支持部材の構成を示す斜視図である。
【図8】図6の定着装置における面状発熱体と定着スリーブとの当接状態を示す断面図である。
【図9】図6の定着装置における湾曲した面状発熱体、定着スリーブそれぞれの曲率を示す断面図である。
【図10】面状発熱体にガイド部材を設けた構成を示す斜視図である。
【図11】本発明の定着装置において適用可能な面状発熱体の別の支持状態を示す断面図である。
【図12】本発明の定着装置で用いる面状発熱体の別の構成を示す概略図である。
【図13】本発明に係る画像形成装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明に係る定着装置の前提となる参考例について説明する。
図1は、本発明に係る定着装置の前提となる参考例の構成を示す断面図である。
図1に示すように、定着装置50は、回転する無端状ベルトからなる定着部材(定着スリーブ21(定着回転体ともいう))と、前記定着部材の外周面と当接する加圧部材(加圧ローラ31(加圧回転体ともいう))と、前記定着部材の内周側に配置され、該定着部材を介して前記加圧部材と当接してニップ部を形成する当接部材(当接部材26)と、前記定着部材の内周側に該定着部材と当接して配置され、前記定着部材を加熱する面状発熱体(面状発熱体22)と、前記定着部材の内周側に該定着部材との間に前記面状発熱体を挟むように配置され、該面状発熱体を所定位置で支持する発熱体支持部材(発熱体支持部材23)と、定着スリーブ21の内周側に設けられ、回転する定着スリーブ21を支持するパイプ形状の回転支持部材(回転支持部材27)と、回転支持部材27の内周側であってニップ部下流側に配置されるようにコア保持部材28のH型外面に設けられる断熱支持部材(断熱支持部材29)と、を備える。
【0019】
ここで、定着スリーブ21は、軸方向が通紙される記録媒体Pの幅に対応する長さを有し、可撓性を有するパイプ形状の無端状ベルトであり、例えば厚さが30〜50μmの金属材料からなる基材上に少なくとも離型層を形成したものであって、外径が30mmになっている。なお以降、図2(a)に示すように、定着スリーブ21のパイプ長手方向を軸方向と、図2(b)に示すように、定着スリーブ21のパイプ円周方向を周方向と称する。
【0020】
定着スリーブ21の基材を形成する材料としては、鉄、コバルト、ニッケル、又はこれらの合金等の伝熱性のよい金属材料を用いることができる。
【0021】
定着スリーブ21の離型層は、層厚が10〜50μmであって、PFA(4フッ化エチレンバーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)、PTFE(4フッ化エチレン樹脂)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、PES(ポリエーテルサルファイド)、等の材料で形成されている。
離型層は、記録媒体P上のトナー像(トナー)Tが直接的に接する定着スリーブ21表面のトナー離型性を高めるためのものである。
【0022】
加圧ローラ31は、アルミニウム、銅等の金属材料からなる芯金上に、シリコーンゴム(ソリッドゴム)等の耐熱性弾性層、離型層が順次形成されたものであって、外径が30mmになっている。弾性層は、肉厚が2mm〜3mmとなるように形成されている。離型層は、PFAチューブを被覆したものであって、厚さが50μmになるように形成されている。また、芯金内には必要に応じてハロゲンヒータなどの発熱体を内蔵してもよい。また、加圧ローラ31は、加圧手段(不図示)により定着スリーブ21を介して当接部材26に圧接され、その圧接部が定着スリーブ21側が凹んだニップ部を形成している。そして、このニップ部に、記録媒体Pが搬送されることになる。
【0023】
また、加圧ローラ31は、定着スリーブ21に圧接した状態で不図示の駆動機構により回転駆動され(図1において時計回り方向に回転)、この加圧ローラ31の回転に伴って定着スリーブ21が回転することになる(図1において反時計回り方向に回転)。
【0024】
当接部材26は、定着スリーブ21の軸方向に長さを有し、少なくとも定着スリーブ21を介して加圧ローラ31と圧接する部分がフッ素系ゴムなどの耐熱性を有する弾性体からなるものであり、コア保持部材28により定着スリーブ21の内周側の所定位置に保持された状態で固定されている。また、当接部分26の定着スリーブ21の内周面と接する部分はテフロン(登録商標)シートなどの摺動性及び耐磨耗性の優れた材料からなるものとするとよい。
【0025】
コア保持部材28は、金属などの板材が板金加工されてなり、定着スリーブ21の軸方向の長さに対応する長さを有し断面がH型形状の剛性部材であり、定着スリーブ21の内周側の略中心部分に配置されるものである。
【0026】
またコア保持部材28は、定着スリーブ21の内周側に配置される種々の部材を所定位置に保持するものであり、例えばコア保持部材28のH型の一方(加圧ローラ31に対向する側)のくぼんだ部分に当接部材26を収納保持し、当接部材26が加圧ローラ31により加圧されても大きく変形しないようにニップ部とは反対面側から支持している。また、コア保持部材28は、当接部材26を該コア保持部材28から加圧ローラ31側に少し突出するように保持しており、ニップ部でコア保持部材28が定着スリーブ21に接触しないように配置されている。
【0027】
また、コア保持部材28のH型の他方(加圧ローラ31側とは反対側)のくぼんだ部分に、定着スリーブ21の軸方向の長さに対応する長さを有し断面がT字型形状の端子台ステイ24及び端子台ステイ24上に延設され外部からの電力を供給する給電線25を収納保持している。さらに、コア保持部材28のH型の外面に発熱体支持部材23を保持している。図1では、定着スリーブ21の下方半周分(ニップ部の入側半周分)の領域で発熱体支持部材23を保持している。その際、組み立て性を勘案して発熱体支持部材23とコア保持部材28を接着してもよい。あるいは発熱体支持部材23側からコア保持部材28側への伝熱を防止するために、両者を非接着としてもよい。
【0028】
また、コア保持部材28は、パイプ形状の回転支持部材27のそのパイプ周面が軸方向に切断されてできた端部をニップ部の周方向前後で拘持することにより、該回転支持部材27を保持している。なお、回転支持部材27の軸方向両端は定着装置50のフレーム(シャーシ)を構成する側板で保持されている。
【0029】
発熱体支持部材23は、面状発熱体22を定着スリーブ21の内周面と当接させて配置するために該面状発熱体22を支持するものである。そのため、発熱体支持部材23は、断面形状を円形とした定着スリーブ21の内周面に沿った所定の弧の長さの外周面を有している。
【0030】
また、発熱体支持部材23は、面状発熱体22の発熱に耐えるだけの耐熱性と、回転走行する定着スリーブ21が面状発熱体22に接触した際に変形することなく面状発熱体22を支持するだけの強度と、面状発熱体22の熱をコア保持部材28側に伝えずに、定着スリーブ21側に伝えるようにする断熱性と、を有することが好ましく、例えばポリイミド樹脂の発泡成形体であることが好ましい。なお、面状発熱体22が定着スリーブ21の内周面と当接する構成の場合、回転走行する定着スリーブ21が面状発熱体22をニップ部側に引っ張る力が該面状発熱体22に作用するため、発熱体支持部材23は変形することなく面状発熱体22を支持するだけの強度が必要になるが、この場合にもポリイミド樹脂の発泡成形体が好適である。また、このポリイミド樹脂の発泡体の内部に補助的にソリッドの樹脂部材を設けて剛性を向上させるようにしてもよい。
【0031】
面状発熱体22は、図3に示すように、絶縁性を有する基層22a上に、耐熱性樹脂中に導電性粒子が分散されてなる抵抗発熱層22bと、該抵抗発熱層22bに電力を供給する電極層22cと、が形成され、定着スリーブ21の軸方向、周方向に対応して所定の幅及び長さをもち可撓性を示す発熱シート22sを有する。また、基層22a上には、抵抗発熱層22bと隣接する別の給電系統の電極層22cとの間や発熱シート22sの縁部分と外部との間を絶縁する絶縁層22dが設けられている。なお、面状発熱体22は、発熱シート22sの端部で電極層22cに接続され、給電線25から供給される電力を該電極層22cに供給する電極端子22e(不図示、後述)を備える。
【0032】
また、発熱シート22sの厚さは0.1〜1mm程度であり、少なくとも発熱体支持部材23の外周面に沿って巻きつけることができる程度の可撓性を有している。
【0033】
ここで、基層22aは、PETまたはポリイミド樹脂などのある程度の耐熱性を有する樹脂からなる弾性体フィルムであり、このうちポリイミド樹脂からなるフィルム部材であることが好ましい。これにより、耐熱性と、絶縁性と、ある程度の柔軟性(可撓性)を備える。
【0034】
抵抗発熱層22bは、ポリイミド樹脂などの耐熱性樹脂中にカーボン粒子や金属粒子などの導電性粒子が均一に分散してなる導電性を有する薄膜であり、通電されると内部抵抗によりジュール熱として発熱する構成となっている。このような抵抗発熱層22bは、ポリイミド樹脂などの耐熱性樹脂の前駆体中にカーボン粒子や金属粒子などの導電性粒子を分散させた塗料を基層22a上に塗布して成膜するとよい。
【0035】
また、抵抗発熱層22bは、基層22a上にまずカーボン粒子や金属粒子からなる薄膜の導電層が形成され、ついでその導電層上にポリイミド樹脂などの耐熱性樹脂からなる絶縁性薄膜を積層して一体化したものであってもよい。
【0036】
なお、抵抗発熱層22bに使用するカーボン粒子は、通常のカーボンブラック粉末でもよいが、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、カーボンマイクロコイルの少なくともいずれかからなるカーボンナノ粒子であってもよい。
【0037】
また、金属粒子は、Ag、Al、Niなどからなる粒子であり、その形状は粒状であってもよいし、フィラメント状であってもよい。
【0038】
絶縁層22dは、ポリイミド樹脂などの基層22aと同じ耐熱性樹脂からなる絶縁材料を塗布により形成するとよい。
【0039】
電極層22cは、導電性インクやAgなどの導電性ペーストなどを塗布して形成したものでもよいし、金属箔や金属網などを接着して形成したものであってもよい。
【0040】
面状発熱体22を構成する発熱シート22sは、厚みの薄いシートであることから熱容量が小さく、急速な加熱が可能であり、その発熱量は抵抗発熱層22bの体積抵抗率によって任意に設定できる。すなわち、抵抗発熱層22bを構成する導電性粒子の構成材料、形状、大きさ、分散量などにより発熱量を調整することが可能であり、例えば単位面積当りの発熱量35W/cmで、総電力1200W程度の出力が得られる面状発熱体22の実現が可能である。この場合、発熱シート22sは、例えば幅(軸方向)20cm、長さ(周方向)2cm程度のサイズとなる。
【0041】
また、面状発熱体としてステンレスなどの金属フィラメントからなるものを用いた場合、フィラメントの存在により面状発熱体の表面には凹凸が生じていることから、本発明のように定着スリーブ21の内周面と摺動させると、表面が容易に磨耗してしまうが、本発明で使用する発熱シート22sは前述のように表面に凹凸がなく平坦であることから、定着スリーブ21の内周面との摺動に対して優れた耐久性を示す。またさらに、発熱シート22sの抵抗発熱層22b表面にフッ素系樹脂をコーティングすると、定着スリーブ21の内周面との接触に対する耐久性がさらに向上するので好ましい。
【0042】
なお、発熱シート22sの定着スリーブ21内周面における配置領域としては、定着スリーブ21の内周面のニップ部とは反対側の位置からニップ部手前までにかけて任意の位置に配置してよい。
【0043】
ところで、定着装置50では、回転時はニップ部で加圧ローラ31に引っ張られることから、ニップ部の上流側の定着スリーブ21は張力が付与された張り側となり、定着スリーブ21の内周面は発熱体支持部材23に圧接した状態で面状発熱体22と摺動する。一方で、ニップ部の下流側では定着スリーブ21に張力は作用しておらず弛んだ状態となっており、この状態のまま装置の高速化を図ろうとすると、ニップ部の下流側の定着スリーブ21の弛む程度がひどくなり、定着スリーブ21の回転走行安定性に支障が出てくることになる。
【0044】
そこで、定着装置50において、定着スリーブ21の内周側であって少なくとも前記ニップ部下流側で、該定着スリーブ21の回転状態を支持する回転支持部材27を備えることが好ましい。
【0045】
回転支持部材27は、例えば厚さ0.1〜1mmの鉄、ステンレス等の薄肉金属からなるパイプ形状のものであり、その外径が定着スリーブ21の内径よりも直径で0.5〜1mm程度小さいものとなっている。また、回転支持部材27のパイプ円周上において、少なくともニップ部とは反対側の位置からニップ部入り口近傍にかけては定着スリーブ21の内周面が回転支持部材27の外周面に当接している。また、回転支持部材27の外周面においてニップ部側が軸方向に切断されて開口しており、その端部がコア保持部材28側に折り込まれて、ニップ部に接触しないようになっている。
【0046】
また、回転支持部材27は、図4に示すように、ニップ部の上流側の一定領域の外周面が除去されて開口部27aが設けられている。これにより、図5に示すように、定着スリーブ21の内部機構部を構成した場合に、開口部27aから面状発熱体22の全面が露出するとともに面状発熱体22の表面が回転支持部材27の外周面と同じ面(面イチ)となる、あるいは若干回転支持部材27の外周面から突出して配置されるようになり、該面状発熱体22が定着スリーブ21の内周面に接触するようになる。
【0047】
したがって、面状発熱体22(発熱シート22s)は、発熱体支持部材23に支持されて、定着スリーブ21の内周面と接触して配置され、定着スリーブ21を効率的に加熱することが可能である。
【0048】
以上の構成のように、回転支持部材27により定着スリーブ21の回転走行安定性が確保できるだけでなく、定着スリーブ21を剛性の高い金属製の回転支持部材27で支持できるので組立上のハンドリングが容易である。
【0049】
断熱支持部材29は、ニップ部出側で、回転支持部材27を介して定着スリーブ21の熱に耐えるだけの耐熱性と、定着スリーブ21と接触する回転支持部材27からの熱流出(損失)を防ぐ断熱性と、回転走行する定着スリーブ21が回転支持部材27に接触した際に変形することがないように回転支持部材27を支持するだけの強度と、を有するものであり、発熱体支持部材23と同じポリイミド樹脂の発泡成形体であることが好ましい。
【0050】
このように構成された定着装置50は、次のように動作する。
まず、画像形成装置が出力信号を受けると(例えばユーザの操作パネルの操作あるいはパソコンからの通信などにより画像形成装置に印刷要求があると)、定着装置50において、加圧脱圧手段により加圧ローラ31が定着スリーブ21を介して当接部材26を押圧し、ニップ部を形成する。
ついで、不図示の駆動装置によって、加圧ローラ31が図1において時計回り方向に回転駆動されると、定着スリーブ21も連れ回りして反時計回り方向に回転する。このとき、定着スリーブ21は、回転支持部材27の外周に沿って回転し、またニップ部上流側が張り側となり、発熱シート22sが定着スリーブ21と当接し摺動する状態となる。
そして、それと同期して外部電源または内部の蓄電装置から給電線25を通じて面状発熱体22に電力が供給され、発熱シート22sが発熱し、定着スリーブ21は該発熱シート22sから軸方向全幅において効率的に熱が伝達され、急速に加熱される。なお、駆動装置の動作と面状発熱体22による加熱は同時刻に同時に開始する必要はなく、適宜時間差を設けて開始しても良い。
このとき、ニップ部上流側であって、定着スリーブ21に対して接触又は非接触に配置された温度検知手段(不図示)で検知される温度により、ニップ部が所定の温度となるように、面状発熱体22による加熱制御が行われており、定着に必要な温度まで昇温された後、保持され、記録媒体Pの通紙が開始される。
【0051】
このように定着装置50は、定着スリーブ21及び面状発熱体22の熱容量が小さいため、省エネを図りつつウォームアップ時間やファーストプリント時間を短くすることができる。また、面状発熱体22における発熱シート22sは樹脂ベースのシートであるため、加圧ローラ31の回転、振動に起因する応力が発熱シート22sに繰り返し作用して、発熱シート22sの屈曲が繰り返し行われても疲労破壊することがなく、長時間の運転が可能である。これに加えて、回転支持部材27(必要に応じて断熱支持部材29)を設けることにより、定着スリーブ21の回転走行安定性を向上させることができ、高速化を図ること可能となる。
【0052】
しかしながら、定着装置50では、定着スリーブ21の軸方向において温度ムラが生じ、安定した定着処理を行うことが困難なことがあった。発明者らは、その温度ムラの原因を調査したところ、定着スリーブ21の軸方向において面状発熱体22(発熱シート22s)が均一に接触していない場合があり、軸方向での伝熱の効率にばらつきがあることにより温度ムラが発生していることを把握した。また、発熱シート22sにおいて定着スリーブ21に接触していないところは熱が奪われないため過昇温の状態となって故障の原因となる可能性もあった。
【0053】
ここで、熱伝達効率上、面状発熱体22(発熱シート22s)を定着スリーブ21の内周面に押し付けるようにして全面均一に接触させると温度ムラを抑えることが可能となる。しかしながら、このとき面状発熱体22と定着スリーブ21の間の接触熱抵抗を小さくするために押し付け力を大きくしたいが、あまり押し付け力が大きいと面状発熱体22(発熱シート22s)の絶縁保護層の磨耗を促進したり、面状発熱体22と定着スリーブ21の間の摺動負荷が増加し定着スリーブ21が回転しなくなったりしてしまう。
発明者らは、この不具合を改善すべく鋭意検討を行い、本発明を成すに至った。
【0054】
以下、本発明に係る定着装置の構成について説明する。
図6は、本発明に係る定着装置の構成を示す断面概略図である。
図6に示すように、定着装置20は、回転する無端状ベルトの定着部材(定着スリーブ21)と、前記定着部材の外周面と当接する加圧部材(加圧ローラ31)と、前記定着部材の内周側に配置され、該定着部材を介して前記加圧部材と当接してニップ部を形成する当接部材(当接部材26)と、前記定着部材の内周側に配置され、該定着部材と接触して加熱する弾性体シートである面状発熱体(面状発熱体22)と、を備え、前記面状発熱体の主面と前記定着部材の内周面とが該面状発熱体の曲げ弾性力により付与される面圧で当接していることを特徴とするものである。
【0055】
ここで、図6における定着スリーブ21、端子台ステイ24、給電線25、当接部材26、回転支持部材27、コア保持部材28、断熱支持部材29、加圧ローラ31は、図1に示した定着装置50を構成するものと同じであり、面状発熱体22に関する構成が定着装置50と異なる。以下、面状発熱体22に関する構成について詳述する。
【0056】
図7は、面状発熱体及びその支持部材の構成を示す斜視図である。
定着装置20では、面状発熱体22全面をその裏面側から支持する発熱体保持部材23を用いず、面状発熱体22の周方向両端のみに設けた両端支持部である支持部材32a,32bで面状発熱体22を支持する構成としている。詳しくは、面状発熱体22のシート部分(発熱シート22s)の裏面側であって周方向の両端それぞれに低熱容量の耐熱性樹脂等からなり軸方向を長手とする棒形状の支持部材32a,32bが固定されており、定着装置20において支持部材32a,32bをコア保持部材28の所定位置に取り付けることにより面状発熱体22が定着スリーブ21側に凸となるように撓んだ状態で配置されるようになる(図6)。なお、図6では、支持部材32aがニップ部とは定着スリーブ21の回転軸中心を挟んで反対側でコア保持部材に固設され、支持部材32bがニップ部の入り口付近でコア保持部材28に固設されている。
【0057】
このとき、面状発熱体22における発熱シート22sの基本構成は図3に示したものと同じであるが、弾性体基材である基層22a上に耐熱性樹脂中に導電性粒子が分散した抵抗発熱層22bが形成されてなることが好ましい。これにより、発熱シート22sは弾性体シートの挙動を示すことになり、図6のように、発熱シート22sの周方向両端を該発熱シート22sの長さよりも短い間隔で支持すると、発熱シート22sは周方向において一定の曲率をもって均等に湾曲するようになる。この状態で面状発熱体22を定着装置20内に配置すると、発熱シート22sは回転支持部材27の開口部27aから該回転支持部材27よりも外側に凸となった状態となる(図6)。
【0058】
定着装置20では、定着スリーブ21は回転支持部材27の外周に沿って回転するため、図8に示すように、定着スリーブ21の内周面は湾曲した発熱シート22sの外周面に常に当接するようになる。図8において、実線で示す発熱シート22sは定着スリーブ21が当接していないときの断面位置を示し、点線で示す発熱シート22sは定着スリーブ21が当接したときの断面位置を示している。すなわち、湾曲した発熱シート22sは定着スリーブ21が当接することにより定着スリーブ21の回転軸中心側に少し押し戻され、定着スリーブ21の張力と発熱シート22sの曲げ弾性力とが均衡してお互いが一定の面圧で接触している状態になっている。
【0059】
なお、定着スリーブ21の回動軌跡は常に一定ではなく、加熱温度等により定着スリーブ21の径、コア保持部材28の位置も微妙に変動するが、本発明のように両端支持されて湾曲した発熱シート22sにおける凸形状部分は発熱シート22sの曲げ弾性により形状維持されているため、定着スリーブ21の回動軌跡が変動しても該定着スリーブ21に適切に発熱シート22sが当接するようになる。すなわち、発熱シート22sは曲げ弾性力が全面でほぼ均一な状態となっているため、凸形状に湾曲した発熱シート22sに定着スリーブ21が接触すると、発熱シート22sの主面に対して定着スリーブ21の内周面が軸方向で均一に、かつ発熱シート22sの曲げ弾性力により付与される低い面圧で当接する。また、湾曲した発熱シート22sは、定着スリーブ21の周方向への位置変動に対しても追従して当接することが可能である。
【0060】
したがって、本発明の定着装置20によれば、面状発熱体22(発熱シート22s)を低圧で定着スリーブ21に当接させることができるので、摺動用のグリスを必要とせず、低トルクで定着スリーブ21を回転させることができる。また、回転する定着スリーブ21の位置変動により面状発熱体22(発熱シート22s)への接触が不安定になることがなくなり、安定して接触させることができ、発熱シート22sの過昇温を防止することも可能である。
【0061】
なお、このとき図9に示すように、面状発熱体22(発熱シート22s)の定着スリーブ21の周方向に対応して湾曲した曲率(1/R(Rは湾曲した発熱シート22sの曲率半径である。))は、該定着スリーブ21の曲率(1/r(rは真円形状とした定着スリーブ21の曲率半径である。))よりも大であることが好ましい。これにより、湾曲した発熱シート22sに定着スリーブ21を確実に当接させることができる。
【0062】
また、発熱シート22sにおける定着スリーブ21の周方向に対応する一方の端部(図7では、支持部材32a側の端部)の辺(端辺)上であって、定着スリーブ21の軸方向に対応する両端それぞれに、電極層22cに接続される電極端子22eが1つずつ設けられている。この電極端子22eは、面状発熱体22が定着装置20に配置されたときに、給電線25に接続固定される(図6)。
【0063】
定着装置20における定着スリーブ21側の組み立ては例えばつぎの手順で行う。
(S11) まず、面状発熱体22を構成する発熱シート22sを湾曲させながら支持部材32a,32bをコア保持部材28の所定位置に接着剤により貼り付ける。
【0064】
なお、無負荷状態の発熱シート22sの形状としては平坦なものでもよいが、ステップS11で取り扱い容易なようにある程度湾曲させておいてもよい。また、ステップS11で発熱シート22sを湾曲させると、該発熱シート22sの対角位置が捩れるようにずれることがあるため、図10に示すように、発熱シート22sの定着スリーブ21とは反対側の面(裏面)の軸方向両端に該発熱シート22sの湾曲状態を保持して捩れを防止するガイド部材32gを設けるとよい。
【0065】
(S12) ついで、電極端子22e近傍の発熱シート22sを支持部材32aの縁に沿って折り曲げて、電極端子22eが円形の定着スリーブ21の中央側に向かうようにした上で、電極端子22eを、端子台ステイ上で給電線25とネジ締結などにより接続固定する(図6)。
【0066】
(S13) つぎに、コア保持部材28に回転支持部材27を装着するとともにコア保持部材28の所定凹部に当接部材26を装着して定着スリーブ21側の内部機構部を完成する。
最後に、この内部機構部を定着スリーブ21の内周側に挿入して、図6のように配置して定着装置20における定着スリーブ21側の組み立てを完了する。
【0067】
このように構成された定着装置20は、次のように動作する。
まず、画像形成装置が出力信号を受けると(例えばユーザの操作パネルの操作あるいはパソコンからの通信などにより画像形成装置に印刷要求があると)、定着装置20において、加圧脱圧手段により加圧ローラ31が定着スリーブ21を介して当接部材26を押圧し、ニップ部を形成する。なお、定着スリーブ21の回転前から、発熱シート22sは定着スリーブ21と低圧かつ安定した状態で当接している。
ついで、不図示の駆動装置によって、加圧ローラ31が図6において時計回り方向に回転駆動されると、定着スリーブ21も連れ回りして反時計回り方向に回転する。このとき、定着スリーブ21は回転支持部材27の外周に沿って回転するとともに、発熱シート22sが定着スリーブ21と低圧で当接し摺動する状態となる。
そして、それと同期して外部電源または内部の蓄電装置から給電線25を通じて面状発熱体22に電力が供給され、発熱シート22sが発熱し、定着スリーブ21は該発熱シート22sから軸方向全幅において効率的に熱が伝達され、急速に加熱される。なお、駆動装置の動作と面状発熱体22による加熱は同時刻に同時に開始する必要はなく、適宜時間差を設けて開始しても良い。
このとき、ニップ部上流側であって、定着スリーブ21に対して接触又は非接触に配置された温度検知手段(不図示)で検知される温度により、ニップ部が所定の温度となるように、面状発熱体22による加熱制御が行われており、定着に必要な温度まで昇温された後、保持され、記録媒体Pの通紙が開始される。
【0068】
このように、本発明の定着装置では、定着スリーブ21及び面状発熱体22の熱容量が小さいため、省エネを図りつつウォームアップ時間やファーストプリント時間を短くすることができる。また、面状発熱体22における発熱シート22sは樹脂ベースのシートであるため、加圧ローラ31の回転、振動に起因する応力が発熱シート22sに繰り返し作用して、発熱シート22sの屈曲が繰り返し行われても疲労破壊することがなく、長時間の運転が可能である。またさらに、面状発熱体22(発熱シート22s)の曲げ弾性力を利用して該面状発熱体22(発熱シート22s)を低圧で定着スリーブ21に当接させることができるので、摺動用のグリスを必要とせず、低トルクで定着スリーブ21を回転させることができる。また、回転する定着スリーブ21に対して面状発熱体22(発熱シート22s)全面を安定して接触させることができ、発熱シート22sの過昇温を防止することも可能である。
【0069】
なお、画像形成装置への出力信号がない場合、通常は消費電力を抑えるために加圧ローラ31及び定着スリーブ21は非回転で、面状発熱体22は通電を停止されているが、すぐに再出力を開始したい(復帰させたい)場合は、加圧ローラ31及び定着スリーブ21が非回転の状態でも面状発熱体22に通電しておくことが可能である。この場合は、面状発熱体22に定着スリーブ21全体を保温させておく程度の通電を行う。
【0070】
ところで、図6に示した定着装置20では、発熱シート22sの周方向両端を支持することにより予め湾曲させた状態で保持し、その発熱シート22sに定着スリーブ21の内周面を当接させるようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、図11に示すように、発熱シート22sの周方向の一方の端部に付設した支持部材32aのみをコア保持部材28に固定しておき、その状態の発熱シート22sに対して定着スリーブ21の内周面を当接させるようにしてもよい。すなわち、発熱シート22sは図11のように湾曲していない真直ぐな状態であることから、まず発熱シート22sを仮に湾曲させた状態で定着スリーブ21を装着する。このように一端固定の発熱シート22sであっても、該発熱シート22sに定着スリーブ21が接触すると、発熱シート22sの主面に対して定着スリーブ21の内周面が軸方向で均一に、かつ発熱シート22sの曲げ弾性力により付与される低い面圧で当接するようになり、低トルクで定着スリーブ21を回転させることができる。また、回転する定着スリーブ21に対して面状発熱体22(発熱シート22s)全面を安定して接触させることができ、発熱シート22sの過昇温を防止することも可能である。
【0071】
また、発熱シート22sの周方向両端に設けられる両端支持部である支持部材32a,32bは、電極端子を兼ねたものであることが好適である。
図12にその構成例を示す。発熱シート22sの周方向両端の支持部材32a,32bそれぞれに電極端子22ea,22ebを設けており、コア保持部材28の所定位置にこれらを固定し、ついで電極端子22ea,22ebそれぞれの軸方向の一方の端部から定着スリーブ21外に引き出して給電線と接続するようにする。
【0072】
つぎに、本発明に係る画像形成装置について説明する。
図13は、本発明に係る画像形成装置の構成を示す全体構成図である。
図13に示すように、画像形成装置1は、タンデム型カラープリンタである。画像形成装置本体1の上方にあるボトル収容部101には、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応した4つのトナーボトル102Y、102M、102C、102Kが着脱自在(交換自在)に設置されている。
ボトル収容部101の下方には中間転写ユニット85が配設されている。その中間転写ユニット85の中間転写ベルト78に対向するように、各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応した作像部4Y、4M、4C、4Kが並設されている。
【0073】
各作像部4Y、4M、4C、4Kには、それぞれ、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kが配設されている。また、各感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの周囲には、それぞれ、帯電部75、現像部76、クリーニング部77、除電部(不図示である。)等が配設されている。そして、各感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上で、作像プロセス(帯電工程、露光工程、現像工程、転写工程、クリーニング工程)がおこなわれて、各感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上に各色の画像が形成されることになる。
【0074】
感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kは、不図示の駆動モータによって図13中の時計方向に回転駆動される。そして、帯電部75の位置で、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面が一様に帯電される(帯電工程である。)。
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、露光部3から発せられたレーザ光Lの照射位置に達して、この位置での露光走査によって各色に対応した静電潜像が形成される(露光工程である。)。
【0075】
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、現像装置76との対向位置に達して、この位置で静電潜像が現像されて、各色のトナー像が形成される(現像工程である。)。
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、中間転写ベルト78及び第1転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kとの対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上のトナー像が中間転写ベルト78上に転写される(1次転写工程である。)。このとき、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上には、僅かながら未転写トナーが残存する。
【0076】
その後、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、クリーニング部77との対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上に残存した未転写トナーがクリーニング部77のクリーニングブレードによって機械的に回収される(クリーニング工程である。)。
最後に、感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kの表面は、不図示の除電部との対向位置に達して、この位置で感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上の残留電位が除去される。
こうして、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上でおこなわれる、一連の作像プロセスが終了する。
【0077】
その後、現像工程を経て各感光体ドラム上に形成した各色のトナー像を、中間転写ベルト78上に重ねて転写する。こうして、中間転写ベルト78上にカラー画像が形成される。
ここで、中間転写ユニット85は、中間転写ベルト78、4つの1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79K、2次転写バックアップローラ82、クリーニングバックアップローラ83、テンションローラ84、中間転写クリーニング部80、等で構成される。中間転写ベルト78は、3つのローラ82〜84によって張架・支持されるとともに、1つのローラ82の回転駆動によって図13中の矢印方向に無端移動される。
【0078】
4つの1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kは、それぞれ、中間転写ベルト78を感光体ドラム5Y、5M、5C、5Kとの間に挟み込んで1次転写ニップを形成している。そして、1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kに、トナーの極性とは逆の転写バイアスが印加される。
そして、中間転写ベルト78は、矢印方向に走行して、各1次転写バイアスローラ79Y、79M、79C、79Kの1次転写ニップを順次通過する。こうして、感光体ドラム5Y、5M、5C、5K上の各色のトナー像が、中間転写ベルト78上に重ねて1次転写される。
【0079】
その後、各色のトナー像が重ねて転写された中間転写ベルト78は、2次転写ローラ89との対向位置に達する。この位置では、2次転写バックアップローラ82が、2次転写ローラ89との間に中間転写ベルト78を挟み込んで2次転写ニップを形成している。そして、中間転写ベルト78上に形成された4色のトナー像は、この2次転写ニップの位置に搬送された記録媒体P上に転写される。このとき、中間転写ベルト78には、記録媒体Pに転写されなかった未転写トナーが残存する。
その後、中間転写ベルト78は、中間転写クリーニング部80の位置に達する。そして、この位置で、中間転写ベルト78上の未転写トナーが回収される。
こうして、中間転写ベルト78上でおこなわれる、一連の転写プロセスが終了する。
【0080】
ここで、2次転写ニップの位置に搬送された記録媒体Pは、装置本体1の下方に配設された給紙部12から、給紙ローラ97やレジストローラ対98等を経由して搬送されたものである。
詳しくは、給紙部12には、転写紙等の記録媒体Pが複数枚重ねて収納されている。そして、給紙ローラ97が図13中の反時計方向に回転駆動されると、一番上の記録媒体Pがレジストローラ対98のローラ間に向けて給送される。
【0081】
レジストローラ対98に搬送された記録媒体Pは、回転駆動を停止したレジストローラ対98のローラニップの位置で一旦停止する。そして、中間転写ベルト78上のカラー画像にタイミングを合わせて、レジストローラ対98が回転駆動されて、記録媒体Pが2次転写ニップに向けて搬送される。こうして、記録媒体P上に、所望のカラー画像が転写される。
【0082】
その後、2次転写ニップの位置でカラー画像が転写された記録媒体Pは、定着装置20の位置に搬送される。そして、この位置で、定着スリーブ21及び加圧ローラ31による熱と圧力とにより、表面に転写されたカラー画像が記録媒体P上に定着される。
その後、記録媒体Pは、排紙ローラ対99のローラ間を経て、装置外へと排出される。排紙ローラ対99によって装置外に排出された記録媒体Pは、出力画像として、スタック部100上に順次スタックされる。
こうして、画像形成装置における、一連の画像形成プロセスが完了する。
【0083】
以上説明したように、本発明の画像形成装置において、前述した定着装置20を備えているので、定着スリーブ21の安定した回転と均一な加熱が可能となり、装置を高速化した場合であっても定着不良等の不具合が生じるのを抑止することができる。
【0084】
なお、これまで本発明を図面に示した実施形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0085】
1 画像形成装置
3 露光部
4Y、4M、4C、4K 作像部
5Y、5M、5C、5K 感光体ドラム
12 給紙部
20,50 定着装置
21 定着スリーブ
22 面状発熱体
22a 基層
22b 抵抗発熱層
22c 電極層
22d 絶縁層
22e,22ea,22eb 電極端子
22s 発熱シート
23 発熱体支持部材
24 端子台ステイ
25 給電線
26 当接部材
27 回転支持部材
27a 開口部
28 コア保持部材
29 断熱支持部材
31 加圧ローラ
32a,32b 支持部材
32g ガイド部材
75 帯電部
76 現像部
77 クリーニング部
78 中間転写ベルト
79Y、79M、79C、79K 第1転写バイアスローラ
80 中間転写クリーニング部
82 2次転写バックアップローラ
83 クリーニングバックアップローラ
84 テンションローラ
89 2次転写ローラ
85 中間転写ユニット
97 給紙ローラ
98 レジストローラ対
99 排紙ローラ対
100 スタック部
101 ボトル収容部
102Y、102M、102C、102K トナーボトル
L レーザ光
P 記録媒体
T トナー
【先行技術文献】
【特許文献】
【0086】
【特許文献1】特開平11−2982号公報
【特許文献2】特開平4−44075号公報
【特許文献3】特開8−262903号公報
【特許文献4】特開10−213984号公報
【特許文献5】特開2007−334205号公報
【特許文献6】特開2008−158482号公報
【特許文献7】特開2008−216928号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する無端状ベルトの定着部材と、
前記定着部材の外周面と当接する加圧部材と、
前記定着部材の内周側に配置され、該定着部材を介して前記加圧部材と当接してニップ部を形成する当接部材と、
前記定着部材の内周側に配置され、該定着部材と接触して加熱する弾性体シートである面状発熱体と、
を備え、
前記面状発熱体の主面と前記定着部材の内周面とが該面状発熱体の曲げ弾性力により付与される面圧で当接していることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記面状発熱体は、弾性体基材上に耐熱性樹脂中に導電性粒子が分散した抵抗発熱層が形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記面状発熱体は、前記定着部材の周方向に対応する両端に該面状発熱体を前記定着部材側に凸となるように湾曲させた状態で支持する両端支持部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記面状発熱体の前記定着部材の周方向に湾曲した曲率は、該定着部材の曲率よりも大であることを特徴とする請求項3に記載の定着装置。
【請求項5】
前記面状発熱体は、前記定着部材とは反対側の面に該面状発熱体の湾曲状態を保持するガイド部材が設けられてなることを特徴とする請求項3または4に記載の定着装置。
【請求項6】
前記両端支持部は、給電端子を兼ねたものであることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の定着装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の定着装置を備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−197183(P2011−197183A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61897(P2010−61897)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】