説明

定着部及びインサート並びにインサートの定着方法

【課題】回転方向の耐力を増大させる、安定性の高い定着部を提供する。
【解決手段】インサート10の外面10aに回転防止部13を備え、削孔11の孔壁11aに回転防止穴14を備え、インサート10に螺着されるボルトと同一の回転方向に対して母材6と充填材12が当接する。削孔11の孔壁11aの回転防止部13に対応する位置に回転防止穴14を備え、回転防止穴14に回転防止部13が配置され、ボルトと同一の回転方向に対して充填材12を介して母材6と回転防止部13が対向する場合もある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は既設構造物の床や壁に設けられ、補強部材や設備等の部材を固定させるための定着部に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に既存構造物のコンクリート躯体等に設けられる定着部は、穿設された穴の中に挿入されたアンカー体とそこに充填された充填材を備え、アンカー体と充填材は一体となっている。ここでアンカー体に定着状態での引抜き抵抗力を持たせるために、例えばアンカー体の先端部を頭部側から先端部側へかけて断面が拡大する円錐台状に形成する方法がある(特許文献1参照)。ここでは、穴と、穴の形状によって自身の形状が拘束される充填材の一部の区間で表面側から奥側へかけて断面が拡大する円錐台状に形成されている。したがって、アンカー体や穴、充填材はその円錐台部分とそれ以外の円柱部分とで構成され、それぞれ全長に亘って周方向に波や折れ等の凹凸形状(勾配の変化)のない曲面が形成されている。
【0003】
【特許文献1】特許第3693629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の穴及び充填材の一部の区間が上記のように円錐台状に形成されているので、軸方向に対する傾斜面が穴及び充填材の壁面に形成される。したがって、アンカー体が表面側へ引張力を受けるときに、充填材の付着力に加え、母材の円錐台部分に支圧力が発生するので、引張力に対する抵抗力が増大する。また、アンカー体の先端部が上記のように円錐台状に形成されるので、母材の引張力に抵抗する領域が拡大し、母材の引張力に対する抵抗力が増大する。これらの結果、アンカー体及び穴、充填材に形成される円錐台部分のような断面拡大部分によって定着部の軸方向に対する抵抗力が増大する。
【0005】
しかし、曲面がアンカー体の外面や穴、充填材の壁面に周方向に形成されているので、回転方向のトルクに対して、定着部は充填材の付着力のみで抵抗しなければならない。充填材の付着力は充填材とアンカー及び母材との間で発生するので、定着力のトルクに対する抵抗力は充填材とアンカーか充填材と母材の付着力のうち小さい方となる。したがって、回転方向に強く締め上げられて付着力がトルクに抵抗できなくなると、アンカー体又は充填材が回転し、定着部が機能しなくなる。この傾向は、特に、アンカー体が短い場合や穴、充填材が浅い場合に強くなる。
【0006】
本発明の目的は斯かる課題に鑑みてなされたもので、回転方向の耐力を増大させる、安定性の高い定着部を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、母材に設けられた削孔に挿入されるインサートと、削孔内に充填される充填材とが一体化してなる定着部であって、インサートの外面に回転防止部を備え、削孔の孔壁の回転防止部に対応する位置に回転防止穴を備え、インサートに螺着されるボルトと同一の回転方向に対して前記母材と前記充填材が当接することを特徴とする。
【0008】
回転防止穴に充填された、インサートと一体化した充填材と回転防止穴を形成する母材とがインサートに螺着されるボルトと同一の回転方向に対して当接するので、インサートにトルクが導入されるときにボルトの回転方向、すなわちインサートの周方向において回転防止穴の孔壁に支圧力が発生する。したがって、定着部の回転方向耐力が増大する。
【0009】
また、回転防止部がインサートの周方向のトルクに対する抵抗として機能するため、インサートと充填材の間で当該回転方向に対して付着力の他に、回転防止部による抵抗力も発生する。したがって、充填材の回転方向耐力が増大する。この結果、定着部のトルクに対する耐力を支配する充填材と母材の間、充填材とインサートの間で発生する回転方向に対する抵抗力が増大するので、定着部全体の回転方向に対する耐力も増大する。
【0010】
ここで、回転防止部と回転防止穴が対向するようにインサートが設置される状態では、インサートの外面と母材との距離にバラツキが少なくなる、すなわち削孔の深さ方向に直交する方向に対する充填材の厚さの均一性が向上するので、充填材の強度に対する安定性が向上する。
【0011】
削孔の孔壁の回転防止部に対応する位置に回転防止穴を備え、回転防止穴に回転防止部が配置され、ボルトと同一の回転方向に対して充填材を介して母材と回転防止部が対向する場合がある(請求項2)。母材の回転防止穴にインサートの回転防止部が配置されているので、インサートの回転方向において回転防止穴の壁面と回転防止部の外面とが充填材を介して対向する。この母材と充填材が対向している部分で支圧力が発生するので、母材の回転方向耐力が増大する。
【0012】
回転防止部の、インサートの軸に直交する断面がインサートに設けられたボルト穴の深さ方向に拡大して形成されていることもある(請求項3)。この場合、インサートに作用する引張力か母材へ伝達される範囲がインサートの軸に直角方向に拡大するので、母材の引張力に対する耐力が増大する。ボルト穴はインサートに螺合するボルト用の穴で、インサートの軸方向に形成される。
【0013】
回転防止穴の、削孔の軸に直交する断面が削孔の深さ方向に拡大して成形されていることもある(請求項4)。この場合、インサートに作用する引張力に対して、母材のせん断力以外に母材と充填材の間のインサートに平行でない境界面で母材による支圧力によって抵抗するので、母材の引張力に対する耐力が増大する。
【0014】
インサートの外面と削孔の孔壁の間にインサートを固定するインサート固定手段が設置されている場合がある(請求項5)。回転防止部が回転防止穴に配置される際にインサートが削孔内で移動するので、インサートの外面と削孔の孔壁の間に空間が形成される。この空間によって充填材の充填材料を削孔に充填する際にインサートが動き、インサートの向きがずれてしまうとボルトが入らない虞がある。したがって、インサート固定手段が設けられると、インサートの向きが安定する。ここで、インサートの削孔に対する位置が設計通りとなるようにインサート固定手段が形成されると、定着部の精度が向上する。例えば、インサート固定手段の長さをインサートの外面の所定位置と削孔の孔壁の所定位置の設計距離と同一にする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の何れかに使用されるインサートである。
【0016】
請求項7に記載の発明は、母材に設けられた削孔内でインサートと充填材とを一体化させるインサートの定着方法であって、削孔に前記インサートを挿入する挿入工程と、インサートの外面に設けられた回転防止部に対応する、削孔の孔壁の位置に設けられた回転防止穴に回転防止部を対向させて、インサートに螺着されるボルトと同一の回転方向に対する位置を決定する位置決定工程とを含み、ボルトと同一の回転方向に対してインサートと一体化した充填材を母材に係止させることを特徴とする。ここで、挿入工程と位置決定工程の順序は問われない。
【0017】
回転防止穴に回転防止部を配置する配置工程を有し、インサートに螺着されるボルトと同一の回転方向に対して充填材を介して回転防止部を母材に係止させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は上記の通り、インサートに回転防止部、削孔に回転防止穴が設けられ、回転防止穴に回転防止部が配置されるので、定着部の回転方向耐力を増大させ、安定性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0020】
(実施の形態1)
図1に本発明の定着部5が実施される軌道1の例を示す。軌道1は、例えば道床等の母材6とレール3及びレール締結装置4とからなる。母材6の上にレール締結装置4が敷設され、レール締結装置4の上にレール3が敷設されている。レール3はレール締結設置4に締結されている。締結装置4は母材6に形成された定着部5とボルト7によって定着している。図2(a)〜(c)に示すように、定着部5は母材6に形成されており、削孔11の中にインサート10が挿入され、インサート10と削孔11の間に充填材12が充填されている。
【0021】
インサート10は、例えばスチール製で表面に防錆処理等の表面加工が施されている。インサート10は図3(a)、(b)に示すように、直径D1の円柱形状部分と略円錐台形状部分とが高さH1で軸方向に連設された形状をしている。図3(a)、(c)、(d)に示すように、インサート10の片端面からインサート10の軸方向にボルト穴10cが設けられている。ボルト穴10cの形状・規格は締結装置4で使用されるボルトに合わせて適宜に設計される。
【0022】
図3(a)、(b)に示すように、インサート10の外面10aに周方向に等間隔(90°間隔)で4つの回転防止部13が一体となって設けられている。図3(c)、(e)に示すように、回転防止部13の外面13aは斜面になっており、回転防止部13のインサート10の軸に直角の断面S1はボルト穴10cの開口部側に向かって小さくなっている。図中の細い2点鎖線はインサート10の円柱形状部分を延長させた形状を示し、太い実線は4つの回転防止部13のうち代表する1つの断面S1を示し、細い実線は回転防止部13の側面を示す。
【0023】
図3(a)、(b)に示すように、周方向に並設される回転防止部13、13の間には中間部15が設けられている。図3(d)、(e)に示すように、中間部15の外面15aは内側に窪む曲面になっており、中間部15のインサート10の軸に直角の断面S2はボルト穴10cの開口部側に向かって小さくなっている。図中の細い2点鎖線はインサート10の円柱形状部分を延長させた形状を示し、太い実線は4つの中間部15のうち代表する1つの断面S2を示す。このように、インサート10の軸方向の回転防止部13と中間部15が設けられている範囲において、インサート10の軸に直角の外輪郭は直線部分と凹部が交互に繰り返される形状(略波状)になっている。
【0024】
図3(e)の細い破線部に示されるように、回転防止部13の隅角部は面取りされている。これは削孔11内で充填材12と一体化されたインサート10に引張力や回転力が与えられた際に、充填材に応力集中を発生させないためである。また、図3(c)、(d)では、回転防止部13の外面13a、中間部15の外面15aは、軸方向に対して傾斜しているが、湾曲していても良い。
【0025】
図4(a)、(b)に示すように、削孔11は母材6の表面6aに垂直に、例えば直径D2、深さH2の円柱形状に穿設されている。削孔11の深さ方向に直角の断面S3は、インサート10の平面図S4より大きい。図4(a)の細い2点鎖線はインサート10の平面図を示し、図4(b)の細い2点鎖線はインサート10の縦断面図を示す。深さH2はインサート10の高さH1と同等であるが、インサート10の頭部が削孔11から突出することも、削孔11内に位置することもある。
【0026】
図4(b)、(c)に示すように、削孔11の孔壁11aに回転防止穴14が例えば周方向に4つ等間隔(90°間隔)で並設されている。回転防止穴14の孔壁14aは曲面になっており、回転防止穴14の削孔11の深さ方向に直角の断面S5は略三日月状で、削孔11の底面11bから母材6の表面6aに向かって小さくなっている。図中の太い実線は2つの回転防止穴のうち代表する1つの断面S5を示す。
【0027】
図2(a)〜(c)に示すように、充填材12はインサート10の外面10aと削孔11の孔壁11aとの間に充填され硬化する。充填材は樹脂モルタルや液状樹脂等が使用される。したがって、インサート10の外面10a(回転防止部13の外面13a、中間部15の外面15aを含む、以下同じ)、削孔11の孔壁11a、回転防止穴14の孔壁14aの形状とインサート10の削孔11内での相対的な位置によって充填材12の形状は決定される。
【0028】
図2(c)に示すように、回転防止部13と回転防止穴14が放射方向に対して対向するようにインサート10が削孔11内に設置されている。したがって、インサート10の外面10aと削孔11の孔壁11a、回転防止穴14の孔壁14aとの距離、すなわち削孔11の放射方向に対する充填材12の厚さの均一性が向上するので、充填材12の強度のバラツキが軽減される。
【0029】
また、インサート10と削孔11の間に空隙がないように充填材12を充填するために、種類、成分、性状等はインサート10と削孔11とによって形成される空間の大きさや形状、充填材12と母材6の付着力及び充填材12とインサート10の付着力の設計強度によって適宜に選定される。
【0030】
図2(c)に示すように、充填材12と回転防止穴14の孔壁14aとは周方向すなわちボルトの回転方向に対して対向する。したがって、ボルトの締結によってインサート10にトルクが導入されると、インサート10と充填材12とが一体となった定着部5から母材6にトルクが伝達されて母材6に支圧力が発生する。その支圧力によって母材6が定着部5に抵抗するので、従来のようにトルクに対して充填材12の付着力のみで抵抗するのに比して定着部5のトルクに対する耐力が増大する。
【0031】
また、回転防止部13によって、充填材12と回転防止部13との境界面がボルトの回転方向に傾斜して形成されるので、インサート10にトルクが導入されると回転防止部13から充填材12にトルクが伝達されて充填材12にも支圧力が発生する。インサート10に対する充填材12の抵抗力が加わるので、従来のようにインサート10と充填材12の付着力のみで抵抗するのに比して、定着部5のトルクに対する耐力が増大する。
【0032】
図9の工程図に従って、インサート10の定着方法を説明する。最初に、削孔11及び回転防止穴14を形成する(S1、S2)。図5に示すように、削孔機20に取り付けられたコアドリル等の削孔用器具21によって母材6の表面6aを設計された形状(上述した直径D2、深さH2の円柱形状)で削孔して、削孔11を形成する。図6に示すように、回転防止穴14の孔壁14aの形状に適合する刃22が取り付けられた回転防止穴形成機23を用いて設計の位置、大きさ、形状で削孔11の孔壁11aを削り落として回転防止穴14を形成する。仕上げに削孔11及び回転防止穴14の壁面を面荒しする(S3)。
【0033】
続いて、削孔11内を清掃して、塵やコンクリートガラ等を除去した後に、削孔11及び回転防止穴14の壁面にプライマー処理を行う(S4)。
【0034】
次に、図7に示すように充填材12を削孔11及び回転防止穴14に例えばホース等で注入して充填し(S5)、図8に示すように充填材12が硬化する前にインサート10のボルト穴10cの開口部側が母材6の表面6a側になるように、インサート10を削孔11に挿入する(S6)。削孔11のここで、図示しないが、回転防止部13と回転防止穴14と対向していない際には、インサート10をボルトの回転方向に回転させて回転防止部13と回転防止穴14を対向させる。インサート10を設置したら充填材12を養生する(S7)。
【0035】
インサート10が削孔11に挿入されると回転防止部13が見えなくなる場合があるので、図3(a)に示すように、インサート10の上面10bに回転防止部13を平面的に示す位置(例えば図において周方向で回転防止部13の中心を反映させる位置)に回転防止部目印10eが設けられている。
【0036】
(実施の形態2)
次に他の実施の形態である定着部35について説明する。ただし、実施の形態1と共通する部分については、同一の名称・符号を用い、説明を省略し、実施の形態1と共通の構造について、同様の作用、効果が得られる。
【0037】
図10に示すように、例えば軌道31の母材36に定着部35が形成されている。図11(a)〜(c)に示すように、定着部35はインサート10、削孔11、充填材42を備え、削孔11の中にインサート10が挿入され、インサート10と削孔11の間に充填材42が充填されている。
【0038】
図12(a)、(b)に示すように、削孔11の孔壁11aに回転防止穴14が例えば周方向に2つ等間隔で並設されている。図12(b)の細い2点鎖線はインサート10の平面図を表している。回転防止部13は実施の形態1において説明したように円周方向に4つ等間隔、すなわち90°間隔で設けられている。回転防止穴14は削孔11の孔壁11aの周方向に2つ回転防止部13の設置間隔90°より小さい間隔で設けられている。これは、回転防止穴14が設けられている削孔11の直径D2より回転防止部13が設けられているインサート10の円柱形状部分である外面10aの直径D1の方が小さく、インサート10が削孔11に挿入された際に、インサート10の外面10aに等間隔で4つ設けられたうち2つの回転防止部13をそれぞれ2つの回転防止穴14の中に別個に配置させるためである。
【0039】
上記のように、回転防止穴14に合わせて回転防止部13が配置されると図11(c)に示すように、回転防止部13の外面13aと回転防止穴14の孔壁14aとは周方向、すなわちボルトの回転方向に対して充填材42を介して対向する。したがって、ボルトの締結によってインサート10にトルクが導入されると、インサート10と充填材42とが一体となった定着部35から母材36にトルクが伝達されて母材36に支圧力が発生する。その支圧力によって母材36が定着部35に抵抗するので、従来のようにトルクに対して充填材42の付着力のみで抵抗しているのに比して定着部35のトルクに対する耐力が増大する。
【0040】
回転防止部13及び回転防止穴14は共に、それぞれの軸に直角の面において周方向に対して一部分の範囲でのみ放射方向に拡大するように形成されている。従来技術のアンカー体の円錐台部分(断面拡大部分)は軸に直角の断面が全ての放射方向に拡大されるように形成されるので、回転防止部13を含むインサート10の全体的な断面は従来の円錐大部分を含むアンカー体の断面より小さくなる。したがって、インサート10を挿入するために必要な削孔11の断面も従来のアンカー体を使用する場合に比べて小さくなる。
【0041】
一方、回転防止穴14に関しても、従来の穴の円錐台部分(断面拡大部分)は軸に直角の断面が全ての放射方向に拡大されるように形成されるので、回転防止穴14の削孔される部分は従来の円錐台部分に比べて小さい。このような定着部35の削孔体積の削減により、充填材の充填量及び廃棄物となるコンクリートガラの発生量が削減されるので、製造コストも削減される。
【0042】
図19の工程図に従って、インサート10の定着方法を説明する。最初に、削孔11及び回転防止穴14を形成する(S11、S12)。図13に示すように、削孔機20に取り付けられたコアドリル等の削孔用器具21によって母材36の表面36aを設計された形状(上述した直径D2、深さH2の円柱形状)で削孔して、削孔11を形成する。図14に示すように、回転防止穴14の孔壁14aの形状に適合する刃22が取り付けられた回転防止穴形成機23を用いて設計の位置、大きさ、形状で削孔11の孔壁11aを削り落として回転防止穴14を形成する。仕上げに削孔11及び回転防止穴14の孔壁14aを面荒しする(S13)。
【0043】
続いて、削孔11内を清掃して、塵やコンクリートガラ等を除去した後に、削孔11及び回転防止穴14の壁面にプライマー処理を行う(S14)。
【0044】
次に、図15に示すようにインサート10のボルト穴10cの開口部側が母材36の表面36a側になるように、インサート10を削孔11に挿入し(S15)、図16に示すように回転防止部13を回転防止穴14に配置する(S16)。ここで、図17に示すように、インサート10が固定されるために、且つインサート10が削孔11に対して、回転防止部13が回転防止穴14に対してそれぞれ設計通りに配置されるために、削孔11の母材36の表面36a近くでインサート10の外面10aと削孔11の孔壁11aとの間にスペーサ等のインサート固定手段16a、16b(以下、インサート固定手段16a、16bを指すときはインサート16と称す)を設置する(S17)。
【0045】
インサート固定手段16a、16bの長さL1、L2は所定位置におけるインサート10の外面10aから削孔11の孔壁11aまでの距離と同一になっている。したがって、回転防止部目印10eの位置からインサート固定手段16を設置する所定位置(図においてインサート10の上面10bの外縁上で回転防止部目印10e、10eの中点)を割り出し、削孔11の所定位置に合わせてインサート固定手段16を設置する。
【0046】
最後に、図18に示すように、インサート固定手段16を設置したまま充填材42をインサート10と削孔11、回転防止穴14との間に例えばホース等によって注入して充填する(S18)。充填されたことが確認できれば、充填材42を養生して硬化させる(S19)。
【0047】
(その他の実施の形態)
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0048】
例えば、本発明の定着部5、35は軌道1、31の母材6、36に用いられているがこれに限るものではなく、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート等のコンクリート躯体のスラブや壁等において、ブレース等の補強部材を固定させるために用いられてもよい。また、コンクリート製以外にも適用することが可能である。
【0049】
インサート10や削孔11の形状は上述しているものに限るものではなく、楕円柱状や角柱状に成形されていてもよい。
【0050】
回転防止部13や回転防止穴14はインサート10の軸方向、削孔11の深さ方向の中点付近から形成される他に、全長に亘って形成されても端部のみ形成されてもよい。
【0051】
回転防止部13は上記のように軸方向に1つ、周方向に複数個設けられるのではなく、軸方向に複数個、周方向に1つ設けられていてもよい。回転防止穴14についても同様である。また、回転防止部13が軸方向に複数個、周方向に1つ設けられ、回転防止穴14がそれらの回転防止部13を包含できるように1つ設けられているだけでもよい。回転防止部13、回転防止穴14の配列態様が一致しなくてもよい。
【0052】
回転防止穴14の削孔11の軸に直角の断面の形状はインサート10に設けられた回転防止部13のインサート10の軸に直角の断面の形状と同一であることが望ましい。この場合、回転防止部13が回転防止穴14の中心に配置されると、回転防止穴14の中で充填材42の厚さが均一となり、充填材42における強度のバラツキが小さくなるので、定着部5の安定性が高まる。また、回転防止部13の外面13aと回転防止穴14の孔壁14aを接近させることが可能であるので、ボルトの回転方向に対して回転防止部13が回転防止穴14に投影される範囲が拡大し、引張力に対する母材36の支圧力が増大する。
【0053】
中間部15は設けられなくてもよい。設けられなければインサート10の周方向に対する抵抗力が増大される。しかし、充填材料の硬さによって回転防止部13、13間に確実に充填されない虞がある場合、中間部15が設けられている方が充填材12、42はインサート10に確実に付着する。
【0054】
上記のように回転防止部目印10eからインサート固定手段16の位置を割り出すのではなく、インサート固定手段16を設置する位置を予め表示することも可能である。
【0055】
インサート固定手段16は充填材12、42に埋設されるので、充填材12、42と同一の材料から形成されていることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】軌道の道床に定着部を形成した様子を表す縦断面図である。
【図2】(a)図1の定着部の拡大図、(b)は図2(a)の平面図、(c)図2の底面図である。
【図3】(a)はインサートを示した平面図、(b)はインサートを示した正面図、(c)は図3(a)のA1−A1断面端面図、(d)は図3(a)のB1−B1断面端面図、(e)は図3(b)のC1−C1断面端面図である。
【図4】(a)は削孔を示した平面図、(b)は図4(c)のD−D断面端面図、(c)は削孔を示した底面図である。
【図5】道床に削孔を形成する様子を示した立面図である。
【図6】削孔の孔壁から回転防止穴を形成する様子を示した立面図である。
【図7】削孔と回転防止穴との間に充填材料を注入する様子を示した立面図である。
【図8】削孔にインサートを挿入する様子を示した立面図である。
【図9】インサートを定着する方法の工程図である。
【図10】軌道の道床に定着部を形成した様子を表す縦断面図である。
【図11】(a)図10の定着部の拡大図、(b)は図10(a)の平面図、(c)図10の底面図である。
【図12】(a)は図12(b)のE−E断面端面図、(b)は削孔を示した底面図である。
【図13】道床に削孔を形成する様子を示した立面図である。
【図14】削孔の孔壁から回転防止穴を形成する様子を示した立面図である。
【図15】削孔にインサートを挿入する様子を示した立面図である。
【図16】回転防止穴に回転防止部を配置する様子を示した立面図である。
【図17】インサート固定手段が設置された様子を示した平面図である。
【図18】インサートと削孔、回転防止穴との間に充填材料を注入する様子を示した立面図である。
【図19】インサートを定着する方法の工程図である。
【符号の説明】
【0057】
1………軌道
3………レール
4………レール締結装置
5………定着部
6………母材
6a……母材の表面
10……インサート
10a…インサートの外面
10b…インサートの上面
10c…ボルト穴
10d…回転防止目印
11……削孔
11a…削孔の孔壁
11b…削孔の底面
12……充填材
13……回転防止部
13a…回転防止部の外面
14……回転防止穴
14a…回転防止穴の孔壁
15……中間部
15a…中間部の外面
16……インサート固定手段
20……削孔機
21……削孔用器具
22……刃
23……回転防止穴形成機
31……軌道
35……定着部
36……母材
36a…母材の表面
42……充填材
D1……インサートの直径
D2……削孔の直径
H1……インサートの高さ
H2……削孔の深さ
L1……インサート固定手段の長さ
L2……インサート固定手段の長さ
S1……回転防止部のインサートの軸に直角の断面
S2……中間部のインサートの軸に直角の断面
S3……削孔の円柱形部分の深さ方向に直角の断面
S4……インサートの平面図


【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材に設けられた削孔に挿入されるインサートと、前記削孔内に充填される充填材とが一体化してなる定着部であって、
前記インサートの外面に回転防止部を備え、
前記削孔の孔壁に回転防止穴を備え、
前記インサートに螺着されるボルトと同一の回転方向に対して前記母材と前記充填材が当接することを特徴とする定着部。
【請求項2】
前記削孔の孔壁の前記回転防止部に対応する位置に前記回転防止穴を備え、
前記回転防止穴に前記回転防止部が配置され、
前記ボルトと同一の回転方向に対して前記充填材を介して前記母材と前記回転防止部が対向することを特徴とする請求項1に記載の定着部。
【請求項3】
前記回転防止部の、前記インサートの軸に直交する断面が前記インサートに設けられたボルト穴の深さ方向に拡大して成形されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の定着部。
【請求項4】
前記回転防止穴の、前記削孔の軸に直交する断面が前記削孔の深さ方向に拡大して成形されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の定着部。
【請求項5】
前記インサートの外面と前記削孔の孔壁の間に前記インサートを固定するインサート固定手段が設置されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の定着部。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに使用されるインサート。
【請求項7】
母材に設けられた削孔内でインサートと充填材とを一体化させるインサートの定着方法であって、
前記削孔に前記インサートを挿入する挿入工程と、
前記インサートの外面に設けられた回転防止部に対応する、前記削孔の孔壁の位置に設けられた回転防止穴に前記回転防止部を対向させて、前記インサートに螺着されるボルトと同一の回転方向に対する位置を決定する位置決定工程とを含み、
前記ボルトと同一の回転方向に対して前記インサートと一体化した前記充填材を前記母材に係止させることを特徴とするインサートの定着方法。
【請求項8】
前記回転防止穴に前記回転防止部を配置する配置工程を有し、
前記インサートに螺着されるボルトと同一の回転方向に対して前記充填材を介して前記回転防止部を前記母材に係止させることを特徴とする請求項7に記載のインサートの定着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−274666(P2008−274666A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120499(P2007−120499)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000162995)興和化成株式会社 (15)
【出願人】(000216047)鉄道軌材工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】