説明

定着部材、定着部材の製造方法、および定着装置

【課題】本発明は、柔軟なゴム層からなる表面層の利点である紙表面凹部への追従性の良さを維持しつつ、紙表面の凸部のトナー粒子に対しても十分な押圧力を印加することのできる定着部材に関する。
【解決手段】該定着部材は、トナーと接触する表面層を有し、該表面層はフッ素ゴムが海相、架橋構造を有するシリコーン化合物が島相の海島構造を有しており、該表面層の応力−歪み曲線が、歪み0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるにしたがって曲線の傾きである接線弾性係数が大きくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真画像の熱定着に用いる定着部材とその製造方法並びに定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置で得られるトナー画像は様々な記録材上に形成される。中でも記録材として最もよく使用される紙は、表面に紙の繊維による凹凸が存在し、その凹凸の上にトナー像が形成される。かかる紙上に形成された未定着のトナー粒子は定着部材で押圧されつつ加熱されることで押し潰されて紙の表面に定着する。このとき、定着部材の表面層が硬い場合、紙表面の凸部に存在するトナーはよく押し潰される。しかしながら、紙表面の凹部に存在するトナーは、定着部材によって十分に押圧されないため、トナーが粒子形状を保ったままで光沢に乏しい部分が生じることがある。その結果として、1枚の紙上に形成された定着トナー像には高光沢の部分と、低光沢の部分とが混在することとなる。
一方、表面が柔軟な定着部材は、表面層が紙の表面の凹部によく追従するため、紙の表面の凹部に位置するトナー粒子ともよく接触して当該トナー粒子に押圧力を印加することができる。柔軟な表面層を有する定着部材として、特許文献1には、分子内にエーテル結合を有するフッ素ゴムとポリエーテル構造を有するポリシロキサン系界面活性剤とを含むトナー離型層を有する定着用部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−058197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者等の検討の結果、以下のような知見を得た。すなわち、定着部材の表面層を柔軟化することで紙の凹部への追従性を高めれば高めるほど、紙の凸部に存在するトナー粒子に対する押圧力が不足し、当該トナー粒子の粒子形状が維持されてしまい、紙の表面凸部におけるトナー像の光沢が不十分となることがあった。
そこで、本発明の目的は、柔軟なゴム層からなる表面層の利点である紙表面凹部への追従性の良さを維持しつつ、紙表面の凸部のトナー粒子に対しても十分な押圧力を印加可能な定着部材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、均一な光沢感を示す、高品位な電子写真画像を形成できる定着装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、フッ素ゴムを含む海相と架橋構造を有するシリコーン化合物からなる島相とを含む表面を有する表面層を具備している定着部材であって、
該表面層は、該表面層の応力−歪み曲線が、歪みが0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて該応力−歪み曲線の傾きである接線弾性係数が大きくなるように構成されてなる定着部材が提供される。
また、本発明の他の態様によれば、上記の定着部材を有する定着装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、定着画像として紙凹部でトナーが粒子形状を保ったままの部分が生じにくく、高光沢の画像が得られるゴム表面層を具備する定着部材を提供することができる。また、本発明によれば、より光沢の高い定着画像が得られる定着部材を提供することができる。さらに本発明によれば、紙凹部でトナーの粒子形状を保ったままの部分が生じにくく、高光沢な定着画像の作製が可能な定着装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る表面層ゴムの応力−歪み曲線である。
【図2】本発明に係る表面層ゴムの接線弾性係数―歪み曲線である。
【図3】本発明に係る表面層ゴムの凹凸圧接時の断面図である。
【図4】本発明に係る定着部材の断面図である。
【図5】本発明に係る定着部材を配置した定着装置の一形態の構成図である。
【図6】本発明に係る定着部材を配置した定着装置の別形態の構成図である。
【図7】(a)および(b)は実施例及び比較例の応力−歪み曲線を示すグラフである。
【図8】(a)および(b)は実施例及び比較例の接線弾性係数−歪み曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る定着部材は、フッ素ゴムを含む海相と、架橋構造を有するシリコーン化合物からなる島相とを含む表面を有する表面層を具備している。そして、該表面層は、該表面層の応力−歪み曲線における、歪みが0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて該応力−歪み曲線の傾きである接線弾性係数が大きくなるように構成されている。ここで、応力―歪み曲線における歪みの数値範囲の下限値である「0.25」なる値は、ゴムを含む表面層を備えた定着部材を用いてトナーを定着させる場合において、当該表面層に不可避的に生じる歪みの値である。また、歪みが0.8を超えることは通常使用される定着条件の高圧力下でも考えにくいことから、上限値として0.8を設定した。そして、歪みが0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて接線弾性係数が大きくなる表面層を有する定着部材とすることで、ゴム表面層の利点である紙凹部への追従性がよいことを維持しつつ、高光沢のトナー定着画像を得ることができる。紙の表面凹凸は、紙繊維の配列によるものであり、凹凸高さにはある範囲内でばらつきが存在する。つまり、1枚の紙表面に様々な表面凹凸高さが存在する。したがって、定着部材が紙表面に圧接する際、定着部材の表面層ゴムの歪みも一様ではなく、圧接面内において局所的に様々な歪みが生じることになる。
【0009】
本発明に係る表面層は、図1及び図2に示すように、当該表面層の応力−歪み曲線の歪みが0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて、当該曲線の傾きである接線弾性係数が大きくなる。ある歪みにおける接線弾性係数は、その歪みにおけるゴムの硬さを表している。すなわち本発明に係る表面層は、歪みの大きさによってゴムの硬さが変化し、歪みが小さいときは相対的にゴムが軟らかく、歪みが大きいときはゴムが相対的に硬いという特性を有する。従って、図3に模式的に示したように、本発明に係る表面層の紙表面の凹部に接している部分は相対的に歪みが小さい。その一方で、紙凸部に接している部分は相対的に歪みが大きくなる(図3参照)。
つまり、凹部に接している部分は相対的に軟らかい。従って、表面層は凹部内の未定着トナー粒子に追従し、当該トナー粒子に対して押圧力を十分に印加できる。また、凸部に接している表面層は相対的に硬い。よって、凸部に存在する未定着トナー粒子は良く押し潰されることとなる。その結果として、均一な光沢感を有する電子写真画像を得ることができる。
先に述べたように、紙の表面の凹凸には、ばらつきが存在するため、表面層の歪みも大きいところと小さいところの2種類ではなく、部分的に様々な歪みが生じることになる。したがって、歪みが大きくなるにしたがって、曲線の傾きである接線弾性係数が一様に大きくなる表面層は、凹部に対する追従性とトナーを押し潰すこととをよく両立できる。
【0010】
本発明者等の検討によれば、通常のゴムは、本発明に係る表面層とは逆に、歪みが大きくなるに従って接線弾性係数が小さくなるとの知見を得ている。すなわち、歪みが小さいほどゴムは相対的に硬く、歪みが大きいほどゴムは相対的に軟らかくなる。そのため、一般的なゴムを含む表面層を備えた定着部材は、トナーが粒子形状を保ったままの部分を少なくしつつ、高光沢の画像を得るには不利と考えられる。
また、歪み−応力の関係が線形のものは、歪みが変わっても、硬さは同じなので、紙凹部でトナーが粒子形状を保ったままの部分を少なくすることと、光沢を高くすることとを両立することは困難であると考えられる。
【0011】
通常の電子写真画像の定着条件では、表面層の歪みが0.8を超えることは考えにくい。ここでの定着条件とは、定着ニップ部における圧力条件のことである。定着器の設定によって圧力は異なるが、実用範囲内の高圧設定でも、表面層の歪みが0.8を超えることは考えにくい。ここでいう表面層の歪みとは、単軸引張りにおける伸張長さ/初期長さのことであるが、引張り方向と垂直の方向にはゴムは拘束されていない状態である。ゴムのポアソン比は0.5に近く体積はほとんど変化しない。実際の定着ニップ部においては、通紙方向を引張り方向とすると通紙方向と垂直の方向であるニップ長手方向にも拘束されていると考えられる。したがって、本発明における表面層の歪み0.8の状態は、たとえば表面が平滑なコート紙の場合、定着ニップ部において表面層が厚み方向に約44%圧縮されている状態に相当すると考えられる。表面層歪みが0.8を超える定着条件にすると、表面層が厚み方向にさらに圧縮されることに相当し、表面層の耐久性に問題が生じやすくなるので、実用上考えにくい。また、本発明における表面層歪み0.25の状態は、たとえば表面が平滑なコート紙の場合、定着ニップ部において表面層が厚み方向に約20%圧縮されている状態に相当する。
【0012】
歪みが0.8以下の範囲において、例えば汎用のフッ素ゴムは、歪みが増加するにしたがって接線弾性係数は小さくなる。汎用のフッ素ゴムとは、ポリアミン架橋、ポリオール架橋、あるいはパーオキサイド架橋したものである。これらは通常、架橋させるのに必要な各種配合剤を添加し、加熱することで架橋反応させたものである。架橋反応を促進するエネルギーは熱であり、通常高温でも200℃以下で行われる。エネルギーとしては大きくても100 kcal/mol未満である。ただし、加熱架橋させたフッ素ゴムでも、歪みが0.8を超えて極端に大きい範囲では、歪みが大きくなるにしたがって接線弾性係数が大きくなる。
【0013】
これらの従来から用いられている加熱架橋方法と異なり、歪みが0.8以下の範囲において、歪みが増加するにしたがって接線弾性係数が大きくなる表面層は、電子線の照射により形成することができる。すなわち、物質に電子を照射すると、照射された電子が物質中の核外電子と相互作用し、二次電子が発生する。二次電子の平均エネルギーは2600kcal/mol程度といわれており、加熱架橋のエネルギーよりも格段に大きく、この二次電子により架橋反応が進行する。このため、従来の加熱架橋よりも架橋反応がさらに進行し、架橋密度が高くなることで、歪みが0.8以下の範囲においても、歪みが増加するにしたがって接線弾性係数が大きくなると考えられる。電子線は、加熱架橋反応をさせた表面層に照射してもよいし、加熱架橋反応をさせていない表面層に照射してもよい。
【0014】
電子線を照射する雰囲気としては、不活性ガス雰囲気、好ましくは窒素ガス雰囲気で、酸素濃度が20ppm以下であることが望ましい。酸素濃度を低くすることで、表面層のゴムの酸化が抑えられ、ゴムの表面エネルギーが高くなることを抑制できる。その結果として、トナー離型性の悪化、あるいは紙に含まれている充填剤がゴムの表面に付着することをよく抑えることができる。また、電子線の加速電圧は、表面層の厚みによって適宜設定すればよい。加速電圧を変えると、表面層表面から内部方向への電子が到達できる深さが変わるので、表面層の厚みによって設定する必要がある。例えば、表面層厚みが30μmの場合、加速電圧は80kV以上にすることが望ましい。また、照射電流値、照射時間などの条件を変更することにより、ゴム表面層の架橋程度を変えることができる。
【0015】
本発明に係る表面層は、フッ素ゴムを含む海相と、架橋構造を有するシリコーン化合物からなる島相とを含む海島構造を有する。海相を構成するフッ素ゴムポリマー(フルオロポリマー)の具体例を以下に挙げる。ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとの二元共重合体、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンの三元共重合体、エーテル基を有するビニリデンフルオライドとテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの三元共重合体。反応点として分子内にヨウ素または臭素を含有するビニリデンフルオライドとテトラフルオロエチレンとパーフルオロメチルビニルエーテルとの三元共重合体は公知の方法で合成できる。また、このような三元共重合体は市販されている。具体例を以下に挙げる。
「ダイエル LT-302」(ダイキン工業(株)製)。
「バイトン GLT」、「バイトンGLT-305」、「バイトンGLT-505」、「バイトンGFLT」、「バイトンGFLT-300」、「バイトンGFLT-301」、「バイトンGFLT-501」、「バイトンGFLT-600」(デュポン ダウ エラストマー ジャパン(株)製)。
【0016】
島相を構成するシリコーン化合物は、親水基であるポリオキシアルキレンと疎水基であるジメチルポリシロキサンを含む構造よりなるポリシロキサン系界面活性剤(シリコーン系界面活性剤)であることがトナー離型性の観点から好ましい。ポリシロキサン系界面活性剤は、ジメチルポリシロキサンを例とすると下記の3種類の構造に分類することができる。
(1)ジメチルポリシロキサン骨格の側鎖にポリオキシアルキレンが結合した構造からなる側鎖変性型、
(2)ジメチルポリシロキサン骨格の末端にポリオキシアルキレンが結合した構造からなる末端変性型、
(3)ジメチルポリシロキサンとポリオキシアルキレンが交互に繰り返し結合した構造からなる共重合型。
中でも上記(3)の共重合型が、フッ素ゴムに対する分散性が最も優れているため、より好ましい。また、ポリシロキサン系界面活性剤の配合量は、フッ素ゴムポリマーを100質量部とすると、40質量部以上60質量部以下であることが望ましい。
【0017】
フッ素ゴムのポリマーは、好ましくは分子鎖末端又は側鎖にヨウ素または臭素を導入したタイプのもので、電子線照射による架橋は、ヨウ素または臭素原子の引き抜き反応と架橋助剤のアリル基へのラジカル反応等により行われると考えられる。架橋助剤としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどを挙げることができ、特にトリアリルイソシアヌレートが好ましく用いられる。また、ポリシロキサン系界面活性剤は、分子鎖両末端に炭素−炭素不飽和結合を有するものが好ましい。電子線照射による架橋は、不飽和結合へのラジカル反応と、架橋助剤のアリル基へのラジカル反応、およびジメチルシロキサン部分でのレジン化等により行われると考えられる。また、海相であるフッ素ゴムのポリマーと島相であるポリシロキサン系界面活性剤の界面においてもラジカル反応による架橋が起こっていると考えられる。
【0018】
本発明に係る定着部材の構成としては以下の構成を挙げることができる。
・金属あるいは樹脂製の基材上に表面層を形成したもの;
・基材上に熱伝導性シリコーンゴム層を形成し、その外周面に表面層を形成したもの;
・基材上に熱伝導性シリコーンゴム層を形成し、その外周面に中間層を形成し、さらにその外周面に表面層を形成したもの。ただし、本発明の定着部材はこれらの構成に限られるものではなく、5層以上の構成でもよい。
【0019】
特に4層構成の場合は、中間層が基層と表面層よりも硬い樹脂にすることが好ましい。基層と表面層はゴム製であるのに対し、中間層は耐熱樹脂製であることが好ましい。このような構成にすることで、ゴム表面層の利点を維持しつつ、紙繊維への過度の追従を抑制することで、さらに高い光沢の画像を得ることができる。
【0020】
本発明に係る定着部材は、例えば次のように製造することができる。
まず、好ましくはエーテル基を有するフルオロポリマーと、好ましくはエーテル構造を有するポリシロキサン系界面活性剤と、架橋助剤としてのトリアリルイソシアヌレートとをケトン系溶剤に溶解し、よく攪拌する。その後、ローラあるいはベルトの外表面にコーティングし、乾燥後、電子線照射による一次架橋、通常の加熱オーブン中における二次架橋、あるいは不活性ガス中での加熱による二次架橋の工程を経ることにより製造することができる。
コーティングの方法としては、スプレーコーティング、スリットコーティング、ブレードコーティング、ロールコーティング、ディップコーティング等の公知の方法を用いることができる。表面層の厚さの目安としては、10μm以上、500μm以下である。十分な耐キズ付き性、耐摩耗性と、優れた熱伝導性とを高いレベルで両立させられるためである。
【0021】
また、熱伝導性シリコーンゴム層を形成する場合は、公知の方法、例えばシリコーンゴム材料を成形型内に注入し、加熱硬化する方法、あるいはコーティングによりシリコーンポリマー層を形成し、加熱オーブンなどで硬化させる方法等で作製すればよい。シリコーンゴム層の厚さは、紙などの記録材に対する追従性を確保するため等の理由から50μm以上が好ましく、熱伝導性等の点から5mm以下であることが好ましい。
【0022】
このようにして製造することができる定着部材の断面層構成を図4に示す。図4において、1は海相がフッ素ゴム、島相が架橋構造を有するシリコーン化合物からなる表面層であり、2はシリコーンゴムからなる熱伝導層、3は基材である。本発明に係る表面層1を設けることで、トナー粒子形状を保ったままの部分が生じにくく、高光沢な画像が得られる定着部材を提供することができる。
【0023】
なお、本発明の定着部材は定着ベルト、定着ローラ、加圧ベルト、あるいは加圧ローラなどいずれの形態のものでもよい。
【0024】
<定着装置>
本発明に係る定着装置について説明する。本発明に係る定着装置は、電子写真画像形成装置に用いる定着装置であって、前述のような本発明の定着部材が定着ベルトあるいは定着ローラ、および/または加圧ベルトあるいは加圧ローラとして配置されているものである。電子写真画像形成装置としては、感光体、潜像形成手段、形成した潜像をトナーで現像する手段、現像したトナー像を記録材に転写する手段、および、記録材上のトナー像を定着する手段等を有する電子写真画像形成装置が挙げられる。
【0025】
本発明に係る定着装置の一実施態様を示す断面図を図5に示す。定着装置には、定着ローラ4および加圧ベルト5が配置されている。この定着ローラ4に本発明の定着部材が少なくとも用いられる。この定着ローラ4は内部に配置されているハロゲンヒーター6により加熱される。加圧ベルト5は入り口ローラ7、分離ローラ8、ステアリングローラ9により張架されている。分離ローラ8は加圧ベルト5を定着ローラ4に圧接している。ステアリングローラ9は移動可能となっていて、加圧ベルト5の寄りを修正している。また、入り口ローラ7と分離ローラ8の間には加圧パッド10が配置されている。加圧パッド10は加圧ベルト5を定着ローラ4に圧接している。
【0026】
定着ローラ4は図示していない駆動源により、矢印方向に所定の周速度で回転し、加圧ベルト5もそれに合わせて矢印方向に回転する。定着温度は、定着ローラ4の表面温度をサーミスタ11により測定された温度をもとに、ハロゲンヒーター6への出力が制御されることにより設定温度に保たれている。定着ローラ4の表面温度(定着温度)は特に限定されないが、通常、130℃〜220℃程度である。
【0027】
そして、紙などの記録材上に形成されたトナー画像は、定着ローラ4と加圧ベルト5の間に挟持、搬送され、ハロゲンヒーター6からの熱と、定着ローラ4と加圧ベルト5との圧力により定着される。なお、この定着器は、高加圧力タイプの定着器である。
【0028】
本発明に係る定着装置の他の実施態様を示す断面図を図6に示す。図6において、12はエンドレスベルト状の定着ベルトであり、ベルトガイド部材13とステー14に対して周長に余裕を持たせて内接している。15は加熱体であり、アルミナ、セラミックなどからなる加熱体基板上に電流が流れることにより発熱する銀パラジウム(Ag/Pd)などの電気抵抗材料をスクリーン印刷等により線状あるいは帯状に塗工した層を有する。さらにこの上に電気抵抗材料の保護と絶縁性を確保するために、厚み10μm程度のガラスコーティング層を順次形成している。また、加熱体基板の裏面にはサーミスタが当接されており、このサーミスタの検知温度に従って、電気抵抗材料への電力制御を行うことで、定着ベルトの表面温度を定着可能な温度に保つことができる。
【0029】
加圧ローラ16は定着ベルト12を介して加熱体に圧接されており、加圧ローラ駆動手段により回転駆動される。加圧ローラ16が回転駆動され、これに従動して定着ベルト12が回転する。加圧ローラ16の芯金に高電圧が印加され、定着ベルト内面は金属製のステー14を介して接地されている。定着ベルト12と加圧ローラ16の間に、未定着画像の形成された紙などの記録材が狭持搬送されることで、未定着画像は記録材に加熱定着される。この定着器は、低加圧力タイプの定着器である。なお、ここでは、定着ローラと加圧ベルトの定着装置と、定着ベルトと加圧ローラの定着装置を例として挙げた。しかし、本発明に係る定着装置は、本発明の定着部材を定着ベルトあるいは定着ローラ、および/または加圧ベルトあるいは加圧ローラとして有していればよい。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例により本発明の詳細を説明する。
【0031】
〔応力−歪み曲線測定〕
表面層の応力と歪みとの関係を以下のように測定した。各実施例および比較例に係る定着ローラの表面層を、下記表1に示すサンプルサイズに切り出し、動的粘弾性測定装置(商品名:Rheogel-E4000、株式会社ユービーエム製)を使用して応力と歪との関係を測定した。測定条件を下記表1に示す。
【表1】

そして、測定結果に基づき、応力−歪曲線を作成した。なお、本発明における応力は、荷重を試料の初期断面積で除した、公称応力(nominal stress)であり、また、歪は、伸びを試料の初期長さで除した、公称歪である。したがって、本発明に係る応力−歪曲線は、公称応力−公称歪み曲線である。なお、歪みの値が0.8とは、初期長10mmに対して1.8倍の18mmに伸張された状態を意味する。
更に、接線弾性係数−歪み曲線は、上述の方法で得られた応力−歪み曲線を多項式近似(6次数)し、得られた多項式を歪みの変数で微分することにより求めた。
【0032】
〔光沢度評価〕
トナー定着後画像の光沢度評価は以下のように行った。トナー定着後画像の光沢を、ハンディグロスメーター(商品名:PG-1M、堀場製作所製)により60°グロス値で評価した。
【0033】
〔定着部材の紙の表面への追従性評価〕
定着部材の紙凹部への追従性を以下のように評価した。トナー定着後の画像を共焦点(コンフォーカル)顕微鏡(レーザーテック株式会社製)を用いて倍率10倍にて観察し、グレースケールの観察像を得た。この観察像を画像処理ソフトウェア(商品名:Image-Pro Plus、Media Cybernetics社製)を用いて、トナーが粒子形状を保っていない部分とトナーが粒子形状を維持している部分とで2値化した。そして、観察視野の全面積に対する、トナーが粒子形状を保っていない部分の面積の比率(%)を求めた。
【0034】
〔表面層の歪み〕
各実施例および比較例の定着過程における表面層の歪みの値を以下のように計算した。
まず、各実施例および比較例において画像形成に用いたA4サイズの普通紙(商品名:PB PAPER GF-500、キヤノン製)の表面を共焦点(コンフォーカル)顕微鏡(レーザーテック株式会社製)により倍率10倍にて観察した。得られた観察像から紙の最大凹凸高さRzを求めたところ、17μmであった。
また、紙の表面粗さについて、紙繊維による短い周期の凹凸(カットオフ値:8μmおよび80μm)と、紙繊維による長い周期の凹凸(カットオフ値:80μmおよび800μm)を計測した。なお、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の値を凹凸の周期とし、粗さ曲線要素の平均高さ(Rc)の値を凹凸の高さとして求めた。
その結果、RSm=25μmで、Rc=5μmの短い周期の凹凸、およびRSm=200μmで、Rc=12μmの長い周期の凹凸の合成波で紙の表面の凹凸をモデル化した。
【0035】
上記の紙の表面の凹凸モデルに対して、各実施例および各比較例に係る定着ローラを所定の圧力で押圧したときの表面層の歪みを有限要素法による静的構造解析計算により求めた。具体的には、上記の紙の表面凹凸モデルと各々の定着部材の断面モデルとを、3次元CAD/CAEソフトウェア(商品名:NX、Siemens PLM Software社製)を用いて作製し、0.5mmピッチで要素分割した。次いで、解析ソルバー(商品名:ABAQUS、SIMULIA社製)を使用して静的構造解析計算を行った。このとき、表面層の物性は、各々の表面層の応力−歪み曲線を超弾性の3次OGDENモデルで近似した(ポアソン比は0.48)。
また、紙の物性は、線形弾性率を150MPa、ポアソン比を0.4として計算した。
さらに、比較例4に用いたシリコーンゴム層の物性の計算には、硬度10°品(JIS A)の応力−歪み曲線を超弾性の2次低減多項式モデルで近似したもの(ポアソン比は0.48)を使用した。
【0036】
(実施例1)
外径80mmのステンレス製の中空円筒状の芯金の外周面に付加反応型の液状シリコーンゴムをリング塗工法により塗工し、温度200℃で4時間加熱して、厚み500μmのシリコーンゴムからなる弾性体層を形成した。該弾性体層の周面をプライマー(商品名:MEGUM3290、Chemetall社製)を厚み2μmとなるように塗布し、乾燥させた。
一方、下記表2の材料をメチルイソブチルケトン900gに溶解し、表面層形成用の溶液を調製した。
【表2】

【0037】
プライマーを塗布し、乾燥させた弾性層の周面に、上記の表面層形成用の溶液を、乾燥膜厚が50μmとなるようにスプレーコートし、当該溶液の塗膜を形成した。次いで、この芯金を300rpmで回転させながら、酸素濃度10ppmの雰囲気下で、塗膜の表面に対して、加速電圧110kV、照射電流10mAで、14秒間電子線を照射した、電子線照射装置:岩崎電気株式会社製、吸収線量280kGy)。
その後、温度180℃のオーブン中で24時間加熱して二次架橋させて塗膜を硬化させ、表面層を形成し、本実施例に係る定着ローラを得た。
【0038】
一方、上記で調製した表面層形成用の溶液を、外径80mmのステンレス製の中空円筒状の芯金の外周面に、乾燥膜厚が50μmとなるようにスプレーコ−トし、当該溶液の塗膜を形成した。この芯金を300rpmで回転させながら、該塗膜の表面に対して上記と同じ条件で電子線を照射し、次いで、二次架橋させて表面層を形成した。この表面層の応力−歪み曲線を前述の方法で測定した。
【0039】
上記方法により作製した定着ローラを図5に示す定着装置に装着し、この定着装置をカラー複写機(商品名:イメージプレス(ImagePress) C−1、キヤノン製)に組み込んだ。そして、下記の定着条件にてA4サイズの普通紙(PB PAPER GF−500、キヤノン製)上にシアントナーのベタ画像(トナー載り量=0.4mg/cm)を定着させた。得られた画像の光沢度と紙凹部への追従性を前述の方法で評価した。
<定着条件>
ニップ部のピーク加圧力:0.3MPa、
定着ローラの表面温度:170℃、
プロセススピード:300mm/sec。
【0040】
(実施例2)
下記表3に記載の材料を900gのメチルイソブチルケトンに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
【表3】

【0041】
上記の表面層形成用の溶液を用いた以外は実施例1と同様にして定着部材を製造し、実施例1と同様にして評価した。
【0042】
(実施例3)
実施例1における電子線照射の際の酸素濃度を20ppmに変えた以外は実施例1と同様にして定着部材を作製した。当該定着部材の表面層の応力−歪み曲線は実施例1と差がないことを確認した。また、得られた定着部材を実施例1と同様に評価した。
【0043】
(実施例4)
実施例1における電子線の照射時間を7秒にした以外は実施例1と同様にして定着部材を作製、評価した。また、実施例1と同様にして表面層の応力−歪み曲線を測定した。
【0044】
(比較例1)
電子線照射を行なわず、温度150℃の窒素置換オーブン内で酸素濃度10ppm雰囲気下、1時間加熱して表面層形成用の溶液の塗膜を架橋させ、更に、温度180℃のオーブン中で24時間二次架橋した以外は実施例2と同様にして定着ローラを作製した。この定着ローラを実施例1と同様に評価した。
【0045】
また、実施例2で調製した表面層形成用の溶液を外径80mmのステンレス製ローラの外周に、乾燥膜厚が50μmとなるようにスプレーコートした。次いで、温度150℃の窒素置換オーブン内で酸素濃度10ppm雰囲気下、1時間加熱して表面層形成用の溶液の塗膜を架橋させた。こうして得た表面層の応力−歪み曲線を前述の方法で測定した。
【0046】
(比較例2)
下記表4に記載の材料をメチルイソブチルケトン900gに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
【表4】

【0047】
この溶液を、実施例1と同様にして作製した、ステンレス製中空円筒の外周面に形成した弾性体層のプライマー処理した面に、乾燥膜厚が50μmとなるようにスプレーコートした。このローラを200℃に加熱したジメチルシリコーンオイル(商品名:KF-99SS-300cs、信越化学工業株式会社製)に1時間浸漬して一次架橋させた。その後、温度180℃のオーブン中で24時間加熱して二次架橋させ、本比較例の定着ローラを作製した。本比較例の定着ローラを実施例1と同様にして評価した。
【0048】
また、上記の溶液を外径80mmのステンレス製ローラの外周に、乾燥膜厚が50μmとなるようにスプレーコートしたものを、上記したのと同様にしてシリコーンオイルに浸漬架橋し、二次架橋させた。得られた表面層の応力−歪み曲線を前述の方法で測定した。
【0049】
(比較例3)
下記表5に記載の材料をメチルイソブチルケトン900gに溶解して表面層形成用の溶液を調製した。
【表5】

【0050】
この溶液を用いた以外は、比較例2と同様にして定着ローラを作製し、評価した。
【0051】
また、上記の溶液を外径80mmのステンレス製ローラの外周に、乾燥膜厚が50μmとなるようにスプレーコートしたものを、上記したのと同様にしてシリコーンオイルに浸漬架橋し、二次架橋させた。得られた表面層の応力−歪み曲線を前述の方法で測定した。
【0052】
(比較例4)
実施例1と同様にして、ステンレス製中空円筒体の周面にシリコーンゴムからなる弾性体層を形成した。次に、このシリコーンゴム層の外周に液状の付加硬化型シリコーンゴム接着剤を塗布し、フッ素樹脂(PFA)からなる厚み50μmのチューブをローラに被せ、温度200℃で1時間加熱してチューブとシリコーンゴム層を接着させた。こうして本比較例の定着ローラを作製した。PFA製チューブの応力−歪み曲線を測定した結果、歪みがおおよそ0.05まで線形で、その弾性率は約40MPaであった。
【0053】
実施例1〜4および比較例1〜4の応力−歪み曲線を図7(a)及び図7(b)に示す。更に、実施例1〜4および比較例1〜3の接線弾性係数−歪み曲線のグラフを図8(a)及び図8(b)に示す。尚、各グラフの右側に、応力または接線弾性係数の大きい曲線から順に上からどの実施例あるいは比較例であるかを示した。
【0054】
また、実施例1〜4および比較例1〜4における、定着後の画像の光沢度、定着後のベタ画像における光沢部分の比率を表6に示す。さらに実施例1〜4および比較例1〜4に係る定着器における定着ローラの表面層の歪の量(紙の表面の凸部に当接している歪の大きい部分、および紙の凹部に当接している歪の小さい部分)を表6に示す。
【0055】
【表6】

高加圧タイプ定着器(ピーク加圧力0.3MPa)での評価結果である実施例1〜4、および比較例1〜4について以下説明する。
【0056】
実施例1〜4、比較例1〜4に係る定着部材の、紙表面の凹凸に対する表面層の歪みは、歪みの小さい部分が0.05〜0.25、歪みの大きい部分が0.3〜0.5に相当するものであった。これは、合成波でモデル化した紙表面の凹凸に対して圧力0.3MPaで定着部材を押し付けたときの接触構造解析による計算結果に基づく。
また、実施例1〜4の定着ローラの表面層は、フッ素ゴムを含む海相と架橋構造を有するシリコーン化合物からなる島相とからなる表面を有していた。また、表面層の応力−歪み曲線は、歪み0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて接線弾性係数が大きくなっていた。そして、実施例1〜4に係る定着部材によるシアントナーの定着画像の光沢度は全て8°以上であった。更に、紙の凹部への追従性を評価したトナー接触割合も全て80%以上であり、両者を高レベルで両立しているといえる。また、実施例3は、樹脂からなる中間層が設けられているために、実施例1よりもやや高い光沢が得られている。
一方、比較例1の定着ローラの表面層は、フッ素ゴムを含む海相と、シリコーン化合物からなる島相とからなる表面を有していた。また、表面層の応力−歪み曲線が、歪み0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて接線弾性係数が小さくなっていた。この定着ローラによるシアントナー定着画像のトナー接触割合は高いが、光沢度は低かった。
【0057】
比較例2と3の定着ローラの表面層はフッ素ゴムからなり、表面層の応力−歪み曲線が、歪み0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて接線弾性係数が小さくなっていた。この定着ローラによるシアントナーの定着画像の光沢度およびトナー接触割合ともに実施例1〜4よりも低かった。
更に、比較例4の定着ローラの表面層はフッ素樹脂からなり、実施例1〜4に係る定着部材の表面層と比べて圧倒的に硬かった。また、表面層の応力−歪み曲線は歪み0.05付近で降伏点をむかえた。そして、この定着ローラによるトナー定着画像の光沢度は非常に高かったが、トナー接触割合は低かった。
【0058】
(実施例5)
厚さが30μm、外径が30mmのステンレス製のシームレスベルトの外周面に、厚み300μmのシリコーンゴムからなる弾性体層を形成した。該弾性体層の表面をプライマー(Chemetall社製 MEGUM3290)を厚み2μmとなるように塗布し、乾燥させた。次いで、プライマー処理した弾性体層の周面に、実施例1で調製した表面層形成用の溶液を、乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレーコートした。
【0059】
このシームレスベルトを300rpmで回転させながら、酸素濃度10ppm雰囲気下で、加速電圧80kV、照射電流10mAで、8秒間電子線照射した(電子線照射装置:岩崎電気株式会社製、吸収線量200kGy)。その後、温度180℃のオーブン中で24時間加熱して二次架橋(180℃、24時間)することにより定着ベルトを作製した。
【0060】
また、上記調製した溶液を外径30mmのステンレス製ベルト(外径30mm)の外周に、乾燥膜厚が30μmの表面層となるようにスプレーコートしたものも、同じ条件で電子線照射し、二次架橋させた。得られた表面層の応力−歪み曲線を前述の方法で測定し、実施例1の結果と差がないことを確認した。
【0061】
上記方法により作製した定着ベルトを図6に示した定着装置に装着し、この定着装置をカラーレーザプリンタ(商品名:LBP5900、キヤノン社製)に組み込んだ。そして、下記の定着条件にてA4サイズの普通紙(PB PAPER GF−500、キヤノン製)上にシアントナーのベタ画像(トナー載り量 0.4mg/cm)を定着させた。
<定着条件>
ニップ部の平均加圧力:0.1MPa、
定着ベルト表面温度:170℃設定、
プロセススピード90mm/sec。
【0062】
(比較例5)
実施例5と同様にして弾性体層を外周面に有するステンレス製シームレスベルトを作製した。比較例1で調製した表面層形成用の溶液を、該シームレスベルトのプライマー処理された弾性体層の表面に乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレーコートした。このシームレスベルトを窒素置換オーブン内で酸素濃度10ppm、150℃で1時間加熱して架橋させ、次いで、温度180℃のオーブン中で24時間加熱して、本比較例の定着ベルトを作製した。この表面層の応力−歪み曲線は比較例1と差がないことを確認した。そして、本比較例の定着ベルトを実施例5と同様にして評価した。
【0063】
(比較例6)
実施例5と同様にして弾性体層を外周面に有するステンレス製シームレスベルトを作製した。該シームレスベルトのプライマー処理された弾性体層の表面に、付加硬化型の液状シリコーンゴム接着剤を塗布し、次いで、フッ素樹脂PFAからなる厚み30μmのチューブをベルトに被せ、温度200℃で1時間加熱してPFAチューブと弾性体層とを接着させた。こうして本比較例の定着ベルトを得た。PFA製チューブの応力−歪み曲線は、比較例4と差がないことを確認した。この定着ベルトを実施例5と同様にして評価した。
【0064】
上記実施例5および比較例5〜6の応力−歪み曲線を図7(a)及び図7(b)に示す。また、実施例5の接線弾性係数−歪み曲線のグラフを図8(a)に示す。
【0065】
また、実施例5および比較例5〜6における、定着後の画像の光沢度、定着後のベタ画像における光沢部分の比率を表7に示す。さらに実施例5および比較例5〜6に係る定着器における定着ローラの表面層の歪の量(紙の表面の凸部に当接している歪の大きい部分、および紙の凹部に当接している歪の小さい部分)を表7に示す。
【0066】
【表7】

【0067】
低加圧タイプ定着器(平均加圧力0.1MPa)での評価結果である実施例5、および比較例5と6について以下説明する。実施例5及び比較例5の定着部材の紙表面凹凸に対する表面層の歪みは、歪みの小さい部分が0.02〜0.15、歪みの大きい部分が0.25〜0.33に相当するものであった。これは、合成波でモデル化した紙表面の凹凸に対して圧力0.1MPaで定着部材を押し付けたときの接触構造解析による計算結果による。
【0068】
実施例5の定着部材の表面層は、実施例1の表面層と同様にシアントナーの定着画像の光沢度は8°以上、トナー接触割合は60%以上であった。一方、比較例5の定着ローラの表面層は、トナー接触割合は低加圧力タイプの定着器としては高いものの、光沢度が低かった。更に、比較例6の定着ローラの表面層は、シアントナーの定着画像の光沢度は高いが、トナー接触割合が非常に低かった。
【0069】
(実施例6)
実施例1において、実施例1に係る定着ローラを用いたシアントナーの定着条件のうちの、ニップ部のピーク加圧力を0.5MPaに変えた。
【0070】
(比較例7)
比較例1で作製した定着部材を定着ローラを評価する際の画像形成条件のうち、ニップ部のピーク加圧力のみを0.5MPaに変えた。
【0071】
実施例6および比較例7の応力−歪み曲線を図7(a)に示す。更に、実施例6および比較例7の接線弾性係数−歪み曲線のグラフを図8(a)に示す。また、実施例6および比較例7に係る電子写真画像について、実施例1と同様にして光沢度を測定した。また、ベタ画像の光沢部の比率を算出した。さらに、実施例6および比較例7に係る定着器における定着ローラの表面層の歪の量(紙の表面の凸部に当接している歪の大きい部分、および紙の凹部に当接している歪の小さい部分)を表8に示す。
【表8】

高加圧タイプ定着器(ピーク加圧力0.5MPa)での評価結果である実施例6と比較例7について以下説明する。
【0072】
実施例6及び比較例7の定着部材の表面層の、紙表面凹凸に対する歪みは、歪みの小さい部分が0.1〜0.3、歪みの大きい部分が0.45〜0.7に相当するものであった。これは、合成波でモデル化した紙表面凹凸に対して圧力0.5MPaで定着部材を押し付けたときの接触構造解析による計算結果に基づく。実施例6の定着部材によるシアントナーの定着画像の光沢度は8°以上、トナー接触割合は80%以上であった。
一方、比較例7の定着部材はトナー接触割合は高いが、シアントナーの定着画像の光沢度が低かった。
【0073】
以上説明したように、本発明の定着部材は、定着器の加圧力によらず、ゴム表面層の利点である紙凹部への追従性を維持しつつ、高光沢のトナー定着画像を得るのに有利である。
【符号の説明】
【0074】
1‥‥本発明に係るゴム表面層
2‥‥シリコーンゴムからなる熱伝導層
3‥‥基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴムを含む海相と架橋構造を有するシリコーン化合物からなる島相とを含む表面を有する表面層を具備している定着部材であって、
該表面層は、該表面層の応力−歪み曲線が、歪みが0.25〜0.8の範囲において、歪みが大きくなるに連れて該応力−歪み曲線の傾きである接線弾性係数が大きくなるように構成されてなることを特徴とする定着部材。
【請求項2】
前記表面層が、フルオロポリマーとシリコーン系界面活性剤とを含む表面層形成用の溶液の塗膜に対して、電子線を照射し、その後に加熱して二次架橋させることによって形成されたものである請求項1に記載の定着部材。
【請求項3】
前記溶液が、
反応点として分子内にヨウ素または臭素を有するビニリデンフルオライドとテトラフルオロエチレンとパーフルオロメチルビニルエーテルの三元共重合体からなるフルオロポリマーと、ジメチルポリシロキサンとポリオキシアルキレンとが交互に繰り返し結合してなる共重合型のシリコーン系界面活性剤と、トリアリルイソシアヌレートとを含む請求項2に記載の定着部材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の定着部材を有することを特徴とする定着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−158892(P2011−158892A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280383(P2010−280383)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】