説明

定量移動装置及びX線測定装置

【課題】複数の読取りヘッドを用いて回転ステージを所望の回転角度で高精度に回転させることができる定量移動装置を提供する。
【解決手段】回転ステージ2を回転させるサーボモータ4と、回転ステージ2又は回転ステージ2と一体に動く物体に設けられたスケール3と、スケール3を検知して信号を出力する複数の読取りヘッド8a〜8hと、複数の読取りヘッド8a〜8hの各出力信号に基づいて回転角度データの平均値を演算しその平均値を信号S1として出力するデータ処理部9と、回転角度の平均値の信号S1に基づいてモータ4の回転を制御するサーボアンプ6とを有する定量移動装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体を所望の移動量で移動させる定量移動装置、例えば、回転体を所望の角度で回転させる測角器のような定量移動装置に関する。また、本発明はその定量移動装置を有して成るX線測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械、自動車、ロボット、計測機器、等といった各種の産業分野において、移動体を所望の移動量で移動させるための定量移動装置が広く用いられている。例えば、計測機器の分野において、測定対象である試料を支持している移動体としての回転ステージを所望の角度で回転させる際に、定量移動装置としての測角器を用いてその回転ステージを回転させることがある。
【0003】
このような測角器は、例えば回転ステージを回転させる動力源としての電動モータと、回転ステージの回転角度を検出する角度検出器とを有している。このような角度検出器として、従来、特許文献1に開示されたものが知られている。この角度検出器では、基準となる1つの角度データ検出用ヘッドと、複数のN次誤差成分検出用ヘッドとを回転ディスクの周囲に配置し、複数のN次誤差成分検出用ヘッドのそれぞれの出力データを所定の演算式に適用することによってN次誤差成分を求め、上記基準ヘッドの出力データからそのN次誤差成分を減算することで、その出力データを校正して、誤差の少ない高精度の角度データを求めている。必要に応じて、N次誤差成分と角度値によって構成されるテーブルを活用することも特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1は、上記のようにして求められた校正後の角度データの活用方法については触れていない。そのような校正後の角度データの活用方法として、一般的には、普及型のパーソナルコンピュータを用いた図14に示すような処理システムが考えられる。このシステムでは、目盛り(すなわちスケール)を備えたエンコーダディスク101の周囲に基準の検出用ヘッド102aを含んだ複数の検出用ヘッド102a〜102dが適宜の角度間隔で配置されている。
【0005】
エンコーダディスク101は電動モータであるサーボモータ109によって駆動される回転体(図示せず)に一体的に接続されており、その回転体と一体に回転する。サーボモータ109の回転角度はサーボアンプ108によって制御され、そのサーボモータ108はコントローラ107から送られる角度指示信号S0に基づいてサーボモータ109の回転角度を制御する。コントローラ107は第2のパーソナルコンピュータ110へ角度信号Saを伝送する。
【0006】
各検出用ヘッド102a〜102dからのアナログ出力信号はADC(Analog-Digital Converter/アナログデジタル変換器)103によってデジタル信号に変換され、逓倍回路(Interpolate Circuit)104によって周波数がn倍(すなわちn逓倍)される。逓倍処理後のデータに対してパーソナルコンピュータ105によって所定の演算を行って角度校正用のデータを求め、そのデータを第2のパーソナルコンピュータ110へ伝送する。パーソナルコンピュータ110は、伝送されたデータに基づいて角度校正用テーブル106を作成する。
【0007】
第2のパーソナルコンピュータ110はコントローラ107から送られた角度信号Saを角度校正テーブル106に格納された校正データによって校正し、その校正後の角度データを正しい角度データとする。この正しい角度データは、例えば、出力機器であるディスプレイ111の画面上に反映される。なお、図14に示した角度校正テーブル106の活用方法は一例であり、活用方法はこれ以外にも種々に考えられる。
【0008】
一般に、図14の角度データ処理システムが複数ある場合、それらのシステムを構成する機械系及び電気系の構成要素が全く同じであっても、出来上がった角度データ処理システムの特性にはバラツキがある。このため、通常は、角度校正テーブル106内に格納される校正用データは角度データ処理システムごとに異なったデータとなる。
【0009】
また、角度データ処理システムの機械的及び電気的な特性は、経時的に変化するものであり、従って原則として、角度校正テーブル106の内容は経時的に変更されなければならない。さらに、エンコーダディスク101が取り付けられた移動体(例えば回転ステージ)にオプションとして付加的な荷重が載る場合には、偏荷重の影響で移動体が歪むことが考えられ、その都度、角度校正テーブル106を作り直す必要がある。
【0010】
以上のように角度校正テーブル106内の校正用データは角度制御システムごとに作成しなければならないし、1つの制御システムについても経時的に変更しなければならず、角度校正テーブル106の管理は非常に煩雑である。
【0011】
従来、図14に示した角度データ処理システムで用いられている角度検出器と同様の角度検出器が、特許文献2及び特許文献3に開示されている。特許文献3は特許文献2を基礎とする米国特許明細書である。これらの文献には、エンコーダディスクに相当する目盛り盤の周囲に、基準となる1個の第2目盛り読み取りヘッドと複数の第1目盛り読み取りヘッドとを配置して成る角度データ処理システムが開示されている。この処理システムにおいては、1個の第2目盛り読み取りヘッドと各第1目盛り読み取りヘッドとの計測差を求め、それらの平均値を求め、それらの平均値に基づいて校正曲線を求め、そして、基準である第2目盛り読み取りヘッドの出力データをこの校正曲線を用いて校正して最終的な角度データとしている。
【0012】
特許文献2及び特許文献3も、上記のようにして求められた校正後の角度データの活用方法については触れていない。一般的には、既述の図14に示したような角度データ処理システム、すなわち、コントローラ107からの角度信号Saを必要なときに角度校正テーブル106によって校正して出力するという処理を行うシステムが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−262518号公報(第2〜3頁、図1〜図4)
【特許文献2】特開2006−098392号公報(第3〜5頁、図1)
【特許文献3】米国特許第7,143,518号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
以上のように、従来は、複数の検出用ヘッドを用いて精度の高い移動量の検出を行う場合、複数の検出用ヘッドの中から基準となる検出用ヘッドを決め、基準ヘッドとそれ以外のヘッドとの誤差を求め、それらの誤差に基づいて基準ヘッドのための校正曲線を求め、基準ヘッドによる実測の検出結果をその校正曲線を使って校正することにより、回転ステージの正しい移動量を求めるという検出手法が用いられていた。
【0015】
しかしながら、この方法においては、実測データに対する処理過程が複雑であり、短時間での演算が困難であり、そのため、フィードバック制御を活用することが困難であった。従って、複数の検出用ヘッドによって実測データが検出された後、それらのデータに基づいて即時に(すなわちリアルタイムで)回転ステージの回転を制御することができなかった。
【0016】
本発明は、従来装置における上記の問題点に鑑みて成されたものであって、複数の検出用ヘッドを用いて正しい移動量を演算によって求める際に、処理過程を単純化して処理時間を短縮化することにより、フィードバック制御を実現可能とし、これにより回転ステージのような移動体を所望の移動量(例えば回転角度)で高精度に移動(例えば回転)させることができる定量移動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る定量移動装置は、移動体を所望の移動量で移動させる定量移動装置であって、前記移動体を移動させる移動体駆動手段と、前記移動体又は前記移動体と一体に動く物体に設けられたスケールと、当該スケールを検知して信号を出力する複数のスケール検知手段と、当該複数のスケール検知手段の各出力信号に基づいて前記移動量の平均値を演算し当該移動量の平均値を信号として出力する演算手段と、前記移動量平均値の信号に基づいて前記移動体駆動手段を制御する制御手段と、を有することを特徴とする。
【0018】
本発明では、複数のスケール検知手段からの情報を平均化して誤差をなくし、そのようにして誤差をなくした情報を制御手段へ伝送してフィードバック制御を行っている。上記構成において、移動体駆動手段はサーボモータとすることができ、場合によってはステッピングモータ、DCモータ、超音波モータ、リニアモータ等とすることもできる。
【0019】
上記移動体は、例えば回転体、直進移動体、その他の移動体である。「移動量」は、回転体の場合は回転角度であり、直進移動体の場合は直線的な移動量である。回転体としては、例えば自身の中心軸線を中心として回転する回転ステージがある。直進移動体としては、例えばボールネジ等といったネジ軸を用いた移動体がある。また、直進移動体として、リニアモータの移動子がある。この場合には、リニアモータが移動体駆動手段として機能する。直進移動体の場合は、単に機械誤差等の影響を複数の検出器で検出する。誤差要因としてはスケールの取付け誤差や加工誤差等が考えられる。
【0020】
本発明によれば、複数のスケール検知手段の出力信号に基づいて演算手段が移動量の平均値を演算するので、スケール検知手段が1つだけの場合に比べて、移動量を高精度に求めることができる。この場合に実行される演算は、単に平均値を求めるだけという簡単なものであり、短時間に行うことができる。しかも演算手段はこの演算結果を1つの信号として出力するので、この出力信号を用いてフィードバック制御を行うことができる。これにより、移動体を所望の移動量で高精度に移動させることができる。
【0021】
本発明に係る定量移動装置において、前記演算手段は、前記スケール検知手段の出力信号を逓倍処理するソフトウエアを有していることが望ましい。この構成により、逓倍処理ユニットを専用のハードウエアによって構成した場合に比べて、複数のスケール検知手段を用いた演算処理を高速で行うことができ、フィードバック制御を実現できるようになり、高精度の移動量制御を行うことが可能となった。
また、逓倍処理をハードウエアではなくソフトウエアで実現することにより、定量移動装置の全体のコストを低く抑えることができる。
【0022】
本発明に係る定量移動装置において、前記演算手段は、プログラムとデータとが別々のキャッシュメモリに格納され、プログラムバスとデータバスとが異なっている構成のコンピュータによって構成されることが望ましい。この構成により、さらに高速の演算処理を実現できる。このような構成のコンピュータはハーバード型のコンピュータと呼ばれて、ノイマン型のコンピュータと区別されている。
【0023】
また、前記演算手段は、RISC(Reduced Instruction Set Computer)型のCPU(Central Processing Unit)によって演算制御を行うことが望ましい。RISC型はCISC(Complex Instruction Set Computer)型に比べて処理する命令が単純であり、さらに高速の演算処理を実現できる。なお、CISC型でも高速処理が可能なものがあるので、そのようなCISC型を使用することもできる。
【0024】
本発明に係る定量移動装置において、前記演算手段が前記スケール検知手段の出力を受けてから当該演算手段が前記補正された角度データ信号を出力するまでの時間は20μs以下であることが望ましい。この構成により、フルクローズド制御を確実に実現できる。
【0025】
本発明に係る定量移動装置において、前記移動体は回転体であり、前記スケールは当該移動体の周囲に直接設けられるか又は当該移動体と一体に動く物体に設けられており、前記複数のスケール検知手段は前記回転体の周囲に設けられるという構成を採用できる。この構成により、回転体の回転角度制御を行うことができる。
【0026】
本発明に係る定量移動装置において、前記複数のスケール検知手段は等間隔で配置されたn個(nは2,3,5,…の素数)のスケール検知手段を1つのグループとして含んでおり、前記グループの持つn次の誤差成分より高次の成分を記憶したデータ記憶テーブルをさらに有しており、前記演算手段によって求められた角度データと前記データ記憶テーブルに記憶された誤差成分とを合成する、という構成を採用できる。
この構成により、高次のフーリエ誤差成分を補完して高精度の角度データを得ることができる。
【0027】
上記のデータ記憶テーブルを用いた本発明に係る定量移動装置において、前記複数のスケール検知手段は、nの値が異なる複数のスケール検知手段のグループを含むように構成できる。これにより、より高次の誤差の検出ができるようになる。
さらに、前記複数のスケール検知手段のグループのそれぞれは、他のグループにも属するスケール検知手段を少なくとも1つ有することができる。これにより、スケール検知手段の数を減らして、スペースの節減及びコストダウンを図ることができる。
【0028】
本発明に係る定量移動装置において、前記周期波信号は、コサイン波であるA相と、サイン波であるB相とを含んで成るAB信号、又は前記A相及び前記B相に加えて基準位置を示すZ信号を含んで成るABZ信号とすることができる。
ここで、理想的なコサイン波とサイン波は位相が互いに90°ずれている波形であることを考慮すれば、前記周期波信号は、相の異なる2相であるA相及びB相を含んで成るAB信号とすることもできる。
【0029】
次に、本発明に係るX線測定装置は、X線源とX線検出器とを所定の角度で回転させるゴニオメータを有しているX線測定装置において、前記ゴニオメータは、以上に記載した構成のいずれか1つに記載の定量移動装置によって構成された第1の定量移動装置と、それらのいずれか1つに記載の定量移動装置によって構成された第2の定量移動装置とを有しており、前記第1の定量移動装置及び前記第2の定量移動装置に含まれる前記移動体は、自身を通過する軸線を中心として回転する回転ステージであり、前記X線源は前記第1の定量移動装置に含まれる前記回転ステージに支持されており、前記X線検出器は前記第2の定量移動装置に含まれる前記回転ステージに支持されていることを特徴とする。
【0030】
このX線測定装置によれば、逓倍処理をソフトウエアで行うことにより、複数のスケール検知手段を用いた演算処理を高速で行うようにしたので、フィードバック制御を実際上で実現できるようになり、回転ステージの回転角度制御を高精度で行うことが可能となった。
また、逓倍処理をハードウエアではなくソフトウエアで実現しているので、X線測定装置の全体のコストを低く抑えることができた。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、複数のスケール検知手段の出力信号に基づいて演算手段が移動量の平均値を演算するので、スケール検知手段が1つだけの場合に比べて、移動量を高精度に求めることができる。この場合に実行される演算は、単に平均値を求めるだけという簡単なものであり、短時間に行うことができる。しかも演算手段はこの演算結果を1つの信号として出力するので、この出力信号を用いてフィードバック制御を行うことができる。これにより、移動体を所望の移動量で高精度に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る定量移動装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】スケール検知手段の複数の配置形態を示す図である。
【図3】スケール検知手段で検出される周期波信号の一例を示すグラフである。
【図4】図1の主要部であるデータ処理部の内部構成を示すブロック図である。
【図5】図4の回路で実現される主要なソフトウエアである逓倍処理を機能的に示すブロック図である。
【図6】図4の回路で実現される他の主要なソフトウエアである角度演算処理を機能的に示すブロック図である。
【図7】本発明に係る定量移動装置の他の実施形態で用いる角度演算処理を機能的に示すブロック図である。
【図8】本発明に係る定量移動装置のさらに他の実施形態で用いる角度演算処理を機能的に示すブロック図である。
【図9】本発明に係る定量移動装置のさらに他の実施形態で用いる角度演算処理を機能的に示すブロック図である。
【図10】図9の実施形態を説明するための回転角度の誤差を示す図である。
【図11】本発明に係る定量移動装置のさらに他の実施形態を示すブロック図である。
【図12】本発明に係る定量移動装置のさらに他の実施形態を示すブロック図である。
【図13】本発明に係るX線測定装置の一実施形態を示す正面図である。
【図14】本発明に係る定量移動装置の従来の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る定量移動装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、これ以降の説明では図面を参照するが、その図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0034】
(定量移動装置の第1の実施形態)
図1は本発明に係る定量移動装置の一実施形態を示している。この定量移動装置1は、軸線X0を中心として回転する移動体としての回転ステージ2の回転角度(すなわち移動量)を高精度に制御する装置である。軸線X0は、図1の紙面と直交する方向(すなわち紙面を貫通する方向)に延びている。回転ステージ2の周囲には、部分拡大図(a)に示すように、一定間隔で複数のスケール(すなわち目盛り)3が設けられている。複数のスケール3は適宜の構成のマーキング装置によって形成されている。本実施形態ではスケール3が移動体としての回転ステージ2に直接に形成されているが、これに代えて、回転ステージ2にエンコーダディスクを接続した上でそのエンコーダディスクにスケールを設けることも可能である。
【0035】
<定量移動装置の全体構成>
定量移動装置1は、移動体としての回転ステージ2を駆動して回転させる移動体駆動手段としてのサーボモータ4と、サーボモータ4の回転角度を制御する制御手段としてのサーボアンプ6と、サーボアンプ6へ角度指示信号S0を供給するコントローラ7とを有している。角度指示信号S0は、回転ステージ2を軸線X0を中心として何度回転させるかを指示するための信号である。
【0036】
定量移動装置1は、さらに、回転ステージ2のスケール3を読み取るスケール検知手段としての複数(本実施形態では8個)の読取りヘッド8a〜8hと、各読取りヘッドの出力を受け取って回転角度信号S1を出力する演算手段としてのデータ処理部9とを有している。回転角度信号S1は、回転ステージ2の回転角度を示す信号であり、各読取りヘッド8a〜8hがスケール3に基づいて検出した実測の回転角度に対して所定の演算を行うことによって得られた演算処理後の角度信号である。
【0037】
読取りヘッド8a〜8hは、例えば、発光素子から出てスケール3で反射した光を受光素子によって受光する構成の反射型光センサによって構成されている。もちろん、スケール3の形態に応じて、透過型光センサ、その他適宜の構造のセンサを用いることができる。
【0038】
データ処理部9による演算処理後の回転角度信号S1はサーボアンプ6の制御信号入力端子へ伝送される。サーボアンプ6は、コントローラ7から送られてきた角度指示信号S0を目標値とし、演算処理後の回転角度信号S1を制御条件値として、サーボモータ4へ駆動信号を供給する。これにより、回転ステージ2が、例えば矢印Aで示す方向へ演算処理後の正しい角度で回転する。
【0039】
<フルクローズド制御>
一般に、回転制御方法として、オープンループ制御、セミクローズド制御、そしてフルクローズド制御が知られている。オープンループ制御は、駆動源であるパルスモータ(すなわちステッピングモータ)に供給する入力パルスを制御することで、そのパルスモータによって駆動される移動体の移動量(例えば回転角度)を制御する方法である。
【0040】
セミクローズド制御は、移動体(例えば回転体)の移動量(例えば回転角度)情報を直接に取得するのでは無く、駆動源であるサーボモータの出力軸から回転情報を取得するか、あるいはサーボモータの出力軸から移動体へ到る動力伝達系から移動量情報を取得し、その移動量情報をサーボモータへフィードバックして移動体の移動量を制御する方法である。
【0041】
フルクローズド制御は、制御目的対象である移動体(例えば回転ステージ)の移動量を直接に検出し、その移動量情報をサーボモータへフィードバックしてその移動体の移動量を制御する方法である。
【0042】
本実施形態においては、制御目的対象である回転ステージ2の回転角度をスケール3を用いて読取りヘッド8a〜8hによって直接に検出し、そうして検出した回転角度情報をサーボアンプ6へフィードバックして回転ステージ2の回転角度を制御している。従って、本実施形態では、フルクローズド制御に基づいた制御が行われていることになる。
【0043】
<ヘッド配置>
図1では8個の読取りヘッド8a〜8hの配置状態を模式的に示している。実際の読取りヘッド8a〜8hは、図2(f)に示すように、「2」,「3」,「5」といった素数の等間隔配置の組み合わせに従って回転ステージ2の周囲に配置されている。具体的には、(1)180°の等角度間隔で配置された2個のヘッド8a,8fの組と、(2)120°の等角度間隔で配置された3個のヘッド8a,8d,8gの組と、(3)72°の等角度間隔で配置された5個のヘッド8b,8c,8e,8g,8hの組、の3組のグループの組み合わせとなっている。
【0044】
このようなヘッド配置を採用した上で、後述する角度補正の演算を行うことにより、等角度間隔で配置したヘッド数の最小公倍数の整数倍を除いた高次のフーリエ成分までの補正を行うことが可能となり、高精度の回転角度検出が可能となる。各読取りヘッド8a〜8hは、図3に示すように、互いに90°の位相差を持ったコサイン波であるA相とサイン波であるB相とのA,B2相の周期波信号を出力する。また、図1(a)のスケール3の中には基準信号用のマークが含まれており、その基準マークを読み取ったヘッド8a〜8hは基準角度信号を出力する。この基準角度信号を、以下、Z信号という。
【0045】
<データ処理部>
図1のデータ処理部9は、図4に示すように、16個の差動式アンプ11(図では8個が図示されている)と、アナログセレクタ12と、1チップ型CPU13とを有している。本実施形態では1チップ型CPU13として、株式会社ルネサスエレクトニクス製の32ビットRISCマイクロコンピュータであるSHマイコンを使用するものとする。本実施形態では1チップ型CPU13を用いているが、これに代えて、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)や、大規模FPGA(Field Programmable Gate Array)を用いることもできる。但し、これらのうち1チップ型CPUが最も安価であり、コスト的に有利である。
【0046】
1チップ型CPU13は、8入力高速A/D(アナログ/デジタル)変換器14、タイマユニット16、ROM(Read Only Memory)17、RAM(Random Access Memory)18、不揮発性メモリ19、同期型シリアル通信部(SPI)21、及び非同期型シリアル通信部(SCI)22の各機能モジュールを内蔵している。つまり、1チップ型CPU13は、データ処理部のドライバ/レシーバ23、アナログアンプ11を除き、1個のLSI(Large Scale Integration)に集約されている。
【0047】
コンピュータの構成としてハーバード型とノイマン型とが知られている。ハーバード型は、プログラムバスとデータバスとが別々であり、プログラムを格納するキャッシュメモリとデータを格納するキャッシュメモリとが別々である構成のコンピュータである。一方、ノイマン型は、プログラムバスとデータバスとが共通であり、プログラムとデータとが同じメモリの中に記憶される構成のコンピュータである。ハーバード型は構成が簡単であり、高速の演算処理を実現できるので、リアルタイムの演算を目指す本実施形態には好都合である。
【0048】
図1の8個の読取りヘッド8a〜8hから出力された8チャンネルのセンサ出力23は、16個の差動式アンプ11で増幅され、アナログセレクタ12で8入力までに選択され、1チップ型CPU13に入力される。
【0049】
<ソフトウエア>
図4の1チップ型CPU13内のROM17内には、逓倍処理を行うためのソフトウエア及び8個の読取りヘッド8a〜8hが検出した実測角度データに基づいて正しい角度データを演算するためのソフトウエアが格納されている。逓倍処理は、読取りヘッド8a〜8bから出力された図3に示すA,B各相の周期波信号の周波数をn倍(nは整数)する処理である。この逓倍処理は読取り精度を高めるために行うものである。以下、逓倍ソフト及び角度演算ソフトについて説明する。
【0050】
<逓倍処理>
本実施形態では、逓倍処理は全てソフトウエア処理で行っている。図5はその逓倍処理ソフトウエアの機能をブロック図で示している。図5は1個分のフローを示しているが、全体では複数(本実施形態では最大で8個)分を時分割で行っている。
【0051】
この逓倍処理の入力信号S2は、互いに90°の位相差のA相及びB相のアナログ信号(図3参照)をA/D変換器14(図4参照)によってA/D(アナログ/デジタル)変換した結果の2つのデジタルデータである。入力されたデータはオーバーフロー検出P1を受ける。このオーバーフロー検出P1は、過大入力でA/D変換器の変換範囲を超えている状態の検出である。
【0052】
逓倍処理では、「サイン入力とコサイン入力とのゲイン差」、「オフセット」、及び「サイン入力とコサイン入力との位相差」が精度を維持するために非常に重要である。1000逓倍では、例えば、サイン入力とコサイン入力とのゲイン差は0.89%以下、オフセットの誤差は0.31%以下、サイン入力とコサイン入力との位相差は0.18%以下にする必要がある。この3つの誤差を補正する処理をステップP2〜P4で行っている。オフセットとゲインについてはサインデータ及びコサインデータのプラス側とマイナス側とのピークをホールドし(ステップP6)、時間軸で平均化してデータを更新しながら自動的に補正を行っている。
【0053】
次に、サインデータ及びコサインデータに対してアークタンジェント処理(ステップP5)を行って逓倍した角度を計算している。アークタンジェント処理において次式により位相角が計算される。
θ=tan−1(B/A)
ここで、A=コサインデータ、B=サインデータである。
例えば1000逓倍では、計算結果は360°を1000で割った単位に正規化されて出力される。一方、オーバーフロー検出P1及びピークホールド処理P6で検出されたエラーは外部へ出力される。
【0054】
アークタンジェント処理においては、上記式の通り、A値及びB値に基づいてアークタンジェント値を算出してθ値とする。本実施形態で用いるソフトウエアでは、アークタンジェント値を算出するステップにおいて実際にその都度、アークタンジェントの数式演算をするのではなく、予めアークタンジェントのテーブルを準備しておき、A値及びB値に対するθ値をそのテーブルから引出すことにした。これにより、アークタンジェント処理のための処理時間を大きく短縮できた。
【0055】
図1の定量移動装置1においてフルクローズド制御を実現するためには、データ処理部9が各読取りヘッド8a〜8hから実測角度信号を受けてから補正後の角度信号S1を演算して出力するまでの時間、すなわちシステムディレイ(System Delay)が所定時間内でなければならない。この所定時間を越えてしまうような演算が行われると、回転ステージ2を取り巻く機械系の慣性力、その他の影響により、実質的なフルクローズド制御を行うことができなくなる。一般的には、システムディレイが20μs以下であればそのようなフルクローズド制御が可能である。
【0056】
一般に、システムディレイを規定する因子としては、サイン波のS/N比を上げるためのLPF(ローパスフィルタ)によるディレイと、逓倍処理を行うためのディレイとが考えられる。ローパスフィルタによるディレイは、通常、10μs程度であるので、逓倍処理のための時間を10μs以下に抑えられれば、フルクローズド制御を実現するための20μs以下のシステムディレイを実現できる。
【0057】
図14に示す従来のハードウエアを用いた逓倍処理では、処理時間を10μs以下にすることが難しかった。本実施形態では、マイクロコンピュータを用いて構成したデータ処理部9内でソフトウエアによって逓倍処理を行い、しかも逓倍処理に係るアークタンジェントの演算をテーブルを用いて行うようにしたので、逓倍処理時間を10μs以下に抑えることができた。この結果、システムディレイを20μs以下に抑えることができ、フルクローズド制御を実現できた。
【0058】
<自己補正処理による角度演算処理>
図6はCPU13(図4)によって実現される角度演算処理の機能をブロック図で示している。この角度演算処理において、Ch1逓倍処理ステップP11、Ch2逓倍処理ステップP12、Ch3逓倍処理ステップP13、Ch4逓倍処理ステップP14、Ch5逓倍処理ステップP15、Ch6逓倍処理ステップP16、Ch7逓倍処理ステップP17、そしてCh8逓倍処理ステップP18は、それぞれ、図2(f)の読取りヘッド8a,8b,8c,8d,8e,8f,8g,8hの出力信号に対する逓倍処理のステップを示している。本実施形態では、任意の1つの読取りヘッド、例えば読取りヘッド8aを、ヘッド位置の評価用の及びリセット用の基準の読取りヘッドとして考える。
【0059】
なお、ここで「基準の読取りヘッド」と言っているのは、各読取りヘッド8a,8b,8c,8d,8e,8f,8g,8hの配置位置を評価する際や、リセット信号を発生させる際に基準の読取りヘッドとなることの意味であり、回転ステージ2の回転角度を演算処理する際に1つの読取りヘッドを基準の読取りヘッドとして考えるという意味ではない。本実施形態では、各読取りヘッド8a,8b,8c,8d,8e,8f,8g,8hがそれぞれ独立して演算の基礎として使用されるものであり、どれか1つの読取りヘッドが演算の基準として設定されるものではない。なお、本実施形態で言う「基準の読取りヘッド」は読取りヘッド8a以外の任意の読取りヘッドとすることもできる。
【0060】
これらの各ステップでの逓倍処理によって得られた角度データは、1つ前のデータとの差分をとり、それぞれに対応したカウンタP21、P22、P23、P24、P25,P26,P27,P28に加算される。この加算により各カウンタの出力として、それぞれ、Count1,Count2,Count3,Count4,Count5,Count6,Count7,Count8 が得られる。
【0061】
既述の通り、本実施形態の8個の読取りヘッドは、180°の等角度間隔で配置された2個のヘッド8a,8fの組と、120°の等角度間隔で配置された3個のヘッド8a,8d,8gの組と、72°の等角度間隔で配置された5個のヘッド8b,8c,8e,8g,8hの組、の3組のグループの組み合わせとなっている。
【0062】
演算ステップP31は、各グループの平均値を取り、さらにそれらの平均をとって、次のカウント値 Count_c を算出する。

Count_c=[{(Count1+Count5)/2}+{(Count1+Count3+Count7)/3}
+{(Count2+Count4+Count5+Count6+Count8)/5}]/3・・・(1)

なお、単純な平均をとることに代えて、重み付平均をとることもできる。
上記のカウント値Count_c が回転ステージ2(図1)の補正された正しい角度データであり、図1の回転角度信号S1として出力され、フィードバック制御の制御条件値とされる。
全ての読取りヘッドに対応したカウント値は特定の読取りヘッド、例えばCount1 に対応する読取りヘッド8aのZ信号によってリセットされる。
【0063】
補正されたカウント値 Count_c についての基準読取りヘッド8aのCount1 との差分(補正分)Δcount は、
Δcount=Count_c−Count1
によって求められる。この差分値Δcount は、個々の読取りヘッドの特性や配置位置を評価する際に利用される。
【0064】
上記(1)式に従った演算処理の結果である補正された角度データは外部へ出力される。また、基準読取りヘッド8aとの差分出力ΔcountをABZ生成モジュールP32へ送る。これにより、ABZ出力は校正された出力となる。
【0065】
本実施形態の定量移動装置1は以上のように構成されているので、図1において、コントローラ7からサーボアンプ6へ角度指示信号S0が伝送され、サーボアンプ6がその角度指示信号S0に従ってサーボモータ4へ駆動信号を伝送し、これにより、回転ステージ2がサーボモータ4に駆動されて軸線X0を中心として指示された目標角度に向かって矢印Aのように回転する。この回転の際、スケール3が各読取りヘッド8a〜8hによって読み取られ、それらの出力端子に実測角度データが図3のようなA相(コサイン波)及びB相(サイン波)の周期波信号として出力される。この読取りヘッドの出力には基準点すなわちゼロ点を示すZ信号が含まれている。
【0066】
各読取りヘッドからの実測角度データは、図4のCPU13に含まれているA/D変換器14によってA/D変換され、図5の逓倍処理ソフトウエアによって逓倍処理を受けて、例えば周波数が1000倍に逓倍される。逓倍処理された各実測角度データは図6の演算処理ソフトウエアによって上記(1)式に従って演算される。その結果、補正された角度データ Count_c が求められ、この Count_c が図1の回転角度信号S1としてサーボアンプ6の制御信号入力端子に伝送される。
【0067】
サーボアンプ6は伝送された回転角度信号S1に基づいてサーボモータ4への入力信号を制御して、回転ステージ2の回転角度を制御する。こうして、フルクローズド制御方式に従ったフィードバック制御が実行されて、回転ステージ2が所望の回転角度まで高精度で回転する。
【0068】
本実施形態では、データ処理部9が各読取りヘッド8a〜8hから実測角度信号を受けてから補正後の回転角度信号S1を出力するまでの時間、すなわちシステムディレイが20μs以下に抑えられている。すなわち、リアルタイムの角度演算処理が実現されている。このため、図1に示すフルクローズド制御が実質的に実現可能となっている。
【0069】
本発明者の実験によれば、図1において1つの読取りヘッド8aだけを用いて、角度補正演算を行うことなく、実測の角度検出データ(すなわち誤差を含むデータ)だけでフィードバック制御を行った場合には、±(2/1000)°の誤差精度しか得られなかった。これに対し、リアルタイムの角度演算処理を実現することにより、複数の読取りヘッドから得られる実測角度データから正しい角度データを演算によって求め、この補正された角度データに基づいてフィードバック制御を行うようにした本実施形態によれば、±(2/10000)°の誤差精度、すなわち従来の角度演算処理を行わない場合に比べて10倍の精度が得られることが分かった。
【0070】
また、本実施形態では、安価であるマイクロコンピュータを用いてデータ処理部9を構成し、さらに逓倍処理も専用のハードウエアではなくマイクロコンピュータ内のソフトウエアで実現しているので、定量移動装置の全体のコストを低く抑えることができた。
【0071】
また、本実施形態で用いているデータ処理部9は、CISC型よりも処理命令が単純で高速処理可能であるRISC型であり、さらにプログラムバスとデータバスとが別々であって高速処理可能であるハーバード型である。これらのため、演算処理速度が非常に高速であり、システムディレイが20μs以下である、リアルタイムの演算処理を達成でき、それ故、リアルタイムのフィードバック制御が可能になっている。
【0072】
(定量移動装置の第2の実施形態)
上記実施形態では図6において、演算ステップP31でΔcount値を求め、これをABZ生成モジュールP32へ伝送して、校正されたABZ出力を求めた。しかしながらこれに代えて、図7に示すように、演算ステップP31による補正後の出力からABZ出力を直接に作ることも可能である。
【0073】
(定量移動装置の第3の実施形態)
また、読取りヘッドの数を少なくしても高次の歪まで校正する手段として次の方法がある。すなわち、8チャンネルの読取りヘッドを取り付け、8チャンネルの校正データの差分を測定し、それをメモリに記憶させる。メモリの容量は有限なので通常、スケールの数万分の一程度の単位で記憶する。
【0074】
次に、読取りヘッドの数を、例えば4個以下に減らし、その補正データを再度測定し、8チャンネルの補正データとの差分を計算し、これを不揮発性メモリに記憶させる。もし減らした読取りヘッドの位置が8チャンネルのサブセットであれば差分の抽出は測定時に同時に行うことができる。校正時にはこの記憶された差分データでリアルタイム、すなわちフルクローズド制御を実現可能な処理時間内、より具体的には20μs以下の時間内、に補正する。
【0075】
(定量移動装置の第4の実施形態)
上記の実施形態では図2(f)に示したように、8個の読取りヘッド8a〜8hを「2」,「3」,「5」の素数の等間隔配置の組み合わせに従って回転ステージ2の周囲に配置した。本実施形態では8個ではなく、4個の読取りヘッドを用いることにする。そして、4個の読取りヘッドの配置として、図2(c)に示すように、4個の読取りヘッド8a〜8dを「2」,「3」の素数の等間隔配置の組み合わせに従って回転ステージ2の周囲に配置している。具体的には、180°の等角度間隔で配置された2個のヘッド8a,8cの組と、120°の等角度間隔で配置された3個のヘッド8a,8b,8dの組と、の2組のグループの組み合わせとなっている。
【0076】
本実施形態で採用する定量移動装置の全体構成は基本的には図1の構成と同じである。但し、読取りヘッドの数を8個から4個に変更するか、あるいは8個のうちの4個を使用する。また、データ処理部9内の構成は基本的には図4に示した構成と同じである。但し、本実施形態では、読取りヘッドの数を8個から4個に変更するか、あるいは8個のうちの4個を使用する。
【0077】
ROM17内には第1の実施形態で用いた図5の逓倍処理ソフトウエアと同じ逓倍処理ソフトウエアが格納されている。逓倍処理を受けた各角度データは、図8に示す角度演算処理ソフトウエアによって演算処理を受ける。具体的には、演算ステップP33により次式に従って平均のカウント値 Count_c が計算される。

Count_c=[{(Count1+Count3)/2}+{(Count1+Count2+Count4)/3}]/2
…(2)
【0078】
(定量移動装置の第5の実施形態)
一般に、n個の読取りヘッドを等間隔に並べて角度検出を行う場合、それらの平均をとって校正を行って角度を算出したとき、n次のフーリエ成分とさらにその整数倍の高次のフーリエ成分とが校正できず、それらのフーリエ成分が未知のままで誤差として残る。
【0079】
例えば、回転ステージに設けられたスケールが示す真の角度が図10のグラフの曲線Aであるとする。この曲線Aは回転ステージにスケールを形成する際の形成誤差に応じて発生するものであり、この形成誤差はスケールの製作時に認識できる。
【0080】
次に、そのようにして製作されたスケールを用いて、例えば、等間隔に配置された5個の読取りヘッドを用いて、例えば図6に示す演算ステップP31によって角度を検出したときの補正された回転角度データが曲線Bである。曲線Bと曲線Aとは一般に一致しない部分を含んでいる。つまり、曲線Aは誤差成分を含んでいる。
【0081】
この誤差成分だけを取り出すと曲線Cのようになる。この曲線Cのような誤差は、5個の読取りヘッドに起因する5次のフーリエ成分とそれの高次(例えば10次、15次、…)のフーリエ成分とが校正されずに残ってしまった結果として発生したものである。曲線Cは予めの実際の測定によって求めることができる。
【0082】
本実施形態では、実際に1,2,3,4,…,n個の読取りヘッドを、それぞれ、回転ステージ2の周囲に等角度間隔で配置して成る定量移動装置を個々に製作し、個々の定量移動装置に対して図10の曲線Cのような補正用データを求め、それらをn値ごとに図4の不揮発性メモリ19に補正用テーブルとして格納しておく。
【0083】
そして、図9の演算ステップP31において所定の演算を行って Count_c (すなわち曲線B)を求めた後、メモリ19内に格納した補正用テーブルから対応するn値の補正用データを読み出して、その補正用データと Count_cとを合成処理することにより、高次の誤差成分を補完した絶対角校正済みの角度信号を求めることができる。この校正済みの角度信号に基づいて回転角を制御することができ、この場合には非常に高精度の回転制御を行うことができる。
【0084】
なお、図2(a)のように2個の等角度配置の場合にはn=2の補正用データを利用し、図2(b)のように3個の等角度配置の場合にはn=3の補正用データを利用し、図2(c)のような4個の角度配置の場合にはn=2とn=3の補正用データを利用し、図2(d)のように5個の等角度配置の場合にはn=5の補正用データを利用し、図2(e)のような6個の角度配置の場合にはn=2とn=5の補正用データを利用し、図2(f)のような8個の角度配置の場合にはn=2とn=3とn=5の補正用データを利用する。
【0085】
図2(c)の場合は1つの読取りヘッド8aが2個のグループと3個のグループとに共通している読取りヘッドとなっているが、各グループで共通する読取りヘッドを持たないように設定することも可能である。この場合には、結局のところ、読取りヘッドの数が5個なる。また、図2(f)の場合は、読取りヘッド8aが2個のグループと3個のグループとに共通し、読取りヘッド8gが3個のグループと5個のグループとに共通している。
【0086】
複数のグループ間で1つ又は複数の読取りヘッドを共通に設定すれば、使用する読取りヘッドの数を減らすことができるので、スペース的に有利であり、コスト的にも有利である。
【0087】
(定量移動装置の第6の実施形態)
図11は、定量移動装置のさらに他の実施形態を示している。本実施形態に係る定量移動装置30は、以上に説明した回転ステージ2の回転角度の定量移動制御に加えて、回転ステージ2の回転軸のブレ量を検出する機能を有している。以下、詳しく説明する。
【0088】
移動体としての回転ステージ2の周囲に、複数(本実施形態では4個)の読取りヘッド8a,8b,8c,8dが90°の等角度間隔で配置されている。これらの読取りヘッドを用いて図5で説明した逓倍処理、及び図8で示した角度演算処理が行われる。
【0089】
さらに、読取りヘッド8aの検出量を「A」とし、それに対向している読取りヘッド8cの検出量を「B」とし、読取りヘッド8bの検出量を「C」とし、それに対向している読取りヘッド8dの検出量を「D」としたとき、横方向(すなわち水平方向)の変位量ΔX及び縦方向(すなわち垂直方向)の変位量ΔYを、それぞれ、次式によって検出する。
ΔX=(A−B)/2
ΔY=(C−D)/2 …(3)
【0090】
回転ステージ2が回転している場合、読取りヘッド8a,8b,8c,8dの全ては同じ方向の移動量を検出する。他方、中心軸線X0が平行ブレを起こすと、縦方向で互いに対向している読取りヘッド8aの検出量と読取りヘッド8bの検出量は互いに反対方向になる。また、横方向で互いに対向している読取りヘッド8bの検出量と読取りヘッド8dの検出量も互いに反対方向になる。従って、上式(3)のように縦方向でも横方向でも、変異量A,B,C,Dを引いて「2」で割れば、回転量は相殺され、平行ブレ量を求めることができる。こうして、正確な回転角度データS1を出力できることに加えて、軸の芯ブレ量S4を出力することも可能となる。
【0091】
(変形例)
以上のようにして求められた軸の芯ブレ量(すなわち平行ブレ量)を示すデータS4を、図12に示す定量移動装置31のように、ピエゾステージコントローラ26へ伝送することができる。ピエゾステージコントローラ26は回転ステージ2に取り付けたX方向ピエゾアクチュエータ27a及びY方向ピエゾアクチュエータ27bの動作を個別に制御する。ピエゾアクチュエータ27a,27bは、ピエゾ素子(圧電素子)へ印加する電圧を制御することにより、そのピエゾ素子が取り付けられた可動部材を印加電圧に応じて移動させる要素である。
【0092】
上式(3)に示されるΔXデータ及びΔYデータを含む芯ブレ量データの信号S4を受けたピエゾステージコントローラ26は、ΔXを補完するための信号をX方向ピエゾアクチュエータ27aへ伝送し、ΔYを補完するための信号をY方向ピエゾアクチュエータ27bへ伝送する。これにより、回転ステージ2の芯ブレを、ピエゾステージコントローラ26及びピエゾアクチュエータ27a,27bによってリアルタイムに補正できる。ここで、リアルタイムとは、読取りヘッド8a〜8dから出力された回転角度データに基づいてサーボアンプ6によってフルクローズド制御が実現できる時間、具体的には20μs以下の時間である。
【0093】
なお、回転ステージ2を軸ブレ補完のために微小距離で移動させる手段としては、ピエゾアクチュエータを用いた上記の手段に限られず、目的や必要に応じて適宜の構成を採用することができる。
【0094】
(X線測定装置の第1の実施形態)
図13は、本発明に係るX線測定装置の一実施形態を示している。このX線測定装置41は、試料42を支持する試料台43と、試料42に入射するX線を発生するX線管44と、試料42から出たX線、例えば回折X線を検出するX線検出器46とを有している。X線管44及びX線検出器46はゴニオメータ(測角器)47によって支持されている。
【0095】
ゴニオメータ47は、試料42に対するX線管44の見込み角度θ、及び試料42に対するX線検出器46の見込み角度θ1の両方を制御する。通常は、絶対値においてθ=θ1である。X線管44の見込み角度θは、X線管44から出たX線が試料42へ入射する角度(すなわち、「X線入射角度」)である。ゴニオメータ47は、X線入射角度θを所望の角速度で変化させると共に、入射X線光軸X1に対するX線検出器46の角度2θがX線入射角度θの2倍の角度を維持するようにX線検出器46の見込み角度θ1を制御する。入射X線光軸X1に対するX線検出器46の角度2θは、試料42から出る回折X線を検出できる角度であり、このためこの角度2θは「回折角度」と呼ばれている。
【0096】
ゴニオメータ47は、X線管44に関するθ値を測角する入射側測角部と、X線検出器46に関するθ1値を測角する受光側測角部とを有している。入射側測角部は、移動体としての回転ステージ2aと、この回転ステージ2aから延びていてX線管44を支持している入射側アーム部材48と、回転ステージ2aを所望の移動量(すなわち回転角度)で移動(すなわち回転)させる定量移動装置1aとを有している。
【0097】
受光側測角部は、移動体としての回転ステージ2bと、この回転ステージ2bから延びていてX線検出器46を支持している受光側アーム部材49と、回転ステージ2bを所望の移動量(すなわち回転角度)で移動(すなわち回転)させる定量移動装置1bとを有している。
【0098】
入射側測角部を構成する回転ステージ2aと定量移動装置1aとの組み合わせの構成は、例えば図1、図11、図12を用いて説明した実施形態の構成と同じである。また、受光側測角部を構成する回転ステージ2bと定量移動装置1bとの組み合わせの構成も、それらと同じ構成である。以上の構成により、X線管44及びX線検出器46をそれぞれに所望の角度で極めて正確に回転させることができ、その結果、極めて信頼性の高いX線回折測定を行うことができる。
【0099】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
【0100】
以上の実施形態では、読取りヘッドの配置形態として図2(c)に示す4個の配置、及び図2(f)に示す8個の配置を採用した。しかしながら、複数の読取りヘッドの配置形態はそれらに限定されるものでなく、必要に応じて任意に設定される。例えば、図2(a)に示す2個の配置や、図2(b)に示す3個の配置や、図2(d)に示す5個の配置や、図2(e)に示す6個の配置、等を採用できる。
【0101】
図2(a)に示す配置では、2個(素数)の読取りヘッド8a,8bが180°の等角度間隔で配置されている。図2(b)に示す配置では、3個(素数)の読取りヘッド8a,8b,8cが120°の等角度間隔で配置されている。図2(d)に示す配置では、5個(素数)の読取りヘッド8a〜8eが72°の等角度間隔で配置されている。図2(e)に示す配置では、2個の読取りヘッド8a,8dが180°の等角度間隔で配置され、さらに5個の読取りヘッド8a,8b,8c,8e,8fが72°の等角度間隔で配置されている。
【0102】
以上の実施形態では、移動体である回転ステージ2の回転角度を移動量として、その移動量を制御した。しかしながら、これに限られず、ボールネジ等といったネジ軸によって回転移動を直線移動に変換する機械系において、直線移動体の直線移動量を制御しても良い。
【符号の説明】
【0103】
1.定量移動装置、 2.回転ステージ(移動体)、 3.スケール(目盛り)、 4.サーボモータ(移動体駆動手段)、 6.サーボアンプ(制御手段)、 7.コントローラ、 8a〜8h.読取りヘッド(スケール検知手段)、 9.データ処理部(演算手段)、 11.差動式アンプ、 12.アナログセレクタ、 13.1チップ型CPU、 26.ピエゾステージコントローラ、 27a,27b.ピエゾアクチュエータ、 30,31.定量移動装置、 41.X線測定装置、 42.試料、 43.試料支持台、 44.X線管、 46.X線検出器、 47.ゴニオメータ、 48.入射側アーム部材、 49.受光側アーム部材、 X0.軸線、 X1.入射X線光軸、 Sa.角度信号、 S0.角度指示信号、 S1.回転角度信号、 S2.逓倍入力信号、 S4.軸の芯ブレ量データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を所望の移動量で移動させる定量移動装置であって、
前記移動体を移動させる移動体駆動手段と、
前記移動体又は前記移動体と一体に動く物体に設けられたスケールと、
当該スケールを検知して信号を出力する複数のスケール検知手段と、
当該複数のスケール検知手段の各出力信号に基づいて前記移動量の平均値を演算し当該移動量の平均値を信号として出力する演算手段と、
前記移動量平均値の信号に基づいて前記移動体駆動手段を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする定量移動装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記スケール検知手段の出力信号を逓倍処理するソフトウエアを有していることを特徴とする請求項1記載の定量移動装置。
【請求項3】
前記演算手段は、プログラムとデータとが別々のキャッシュメモリに格納され、プログラムバスとデータバスとが異なっている構成のコンピュータによって構成されていることを特徴とする請求項1記載の定量移動装置。
【請求項4】
前記演算手段が前記スケール検知手段の出力を受けてから当該演算手段が前記補正された角度データ信号を出力するまでの時間は20μs以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の定量移動装置。
【請求項5】
前記移動体は回転体であり、
前記スケールは当該移動体の周囲に直接設けられるか又は当該移動体と一体に動く物体に設けられており、
前記複数のスケール検知手段は前記回転体の周囲に設けられている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の定量移動装置。
【請求項6】
前記複数のスケール検知手段は等間隔で配置されたn個(nは2,3,5,…の素数)の読取りヘッドを1つのグループとして含んでおり、
前記グループの持つn次の誤差成分より高次の成分を記憶したデータ記憶テーブルをさらに有しており、
前記演算手段によって求められた角度データと前記データ記憶テーブルに記憶された誤差成分とを合成する
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の定量移動装置。
【請求項7】
前記複数のスケール検知手段は、nの値が異なる複数の読取りヘッドのグループを含んでいることを特徴とする請求項6記載の定量移動装置。
【請求項8】
前記複数のスケール検知手段のグループのそれぞれは、他のグループにも属する読取りヘッドを少なくとも1つ有していることを特徴とする請求項7記載の定量移動装置。
【請求項9】
前記スケール検知手段の各出力信号は周期波信号であり、相の異なる2相であるA相及びB相を含んで成るAB信号であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1つに記載の定量移動装置。
【請求項10】
前記スケール検知手段の各出力信号は周期波信号であり、コサイン波であるA相と、サイン波であるB相とを含んで成るAB信号、又は前記A相及び前記B相に加えて基準位置を示すZ信号を含んで成るABZ信号であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1つに記載の定量移動装置。
【請求項11】
X線源とX線検出器とを所定の角度で回転させるゴニオメータを有しているX線測定装置において、
前記ゴニオメータは、請求項1から請求項10のいずれか1つに記載の定量移動装置によって構成された第1の定量移動装置と、請求項1から請求項10のいずれか1つに記載の定量移動装置によって構成された第2の定量移動装置とを有しており、
前記第1の定量移動装置及び前記第2の定量移動装置に含まれる前記移動体は、自身を通過する軸線を中心として回転する回転ステージであり、
前記X線源は前記第1の定量移動装置に含まれる前記回転ステージに支持されており、
前記X線検出器は前記第2の定量移動装置に含まれる前記回転ステージに支持されている
ことを特徴とするX線測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate