説明

宛先局及びチャネル推定方法

【課題】発信局と中継局とで同一のタイミングで異なる信号を送信する協調伝送システムにおいて、宛先局におけるチャネル情報の推定精度を向上させる。
【解決手段】第1のタイミングで発信局から送信された第1信号と、第1のタイミングの後に到来する第2のタイミングで発信局から送信された第2信号と、第2のタイミングで中継局によって中継された第1信号と、を受信し、第1信号に含まれる既知信号に基づいて第1チャネル情報を推定し、第1チャネル情報の推定結果と、第1送信電力及び第2送信電力と、に基づいて第2チャネル情報を推定し、第1チャネル情報及び第2チャネル情報の推定結果と、第1送信電力及び第2送信電力と、に基づいて第3チャネル情報を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発信局と中継局とが宛先局に対して無線信号を送信する協調伝送の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発信局と宛先局以外の無線局(中継局)に協調中継伝送(協調伝送)を行わせる事で通信特性を向上させる協調伝送(協調通信方式)が注目を集めている。協調伝送のシステムモデルは、主に中継局フォワード方式、協調システム構成、協調プロトコルの三要素により決定づけられる。
【0003】
中継局フォワード方式は、中継局が受信した信号に対してどのような信号処理を行い宛先局へ転送するかを示す。中継局フォワード方式の具体例として、DF(Decode-and-Forward)法と、AF(Amplify-and-Forward)法の二つがある。DF法では、中継局は受信した信号に対して復号と再生を行ってから宛先局へ転送する。AF法では、中継局は受信した信号に対して復号及び再生を行わず、単に増幅のみを行ってから宛先局へ転送する。
【0004】
協調システム構成は、協調伝送のシステム(協調伝送システム)を構成する無線局(発信局、中継局、宛先局)の個数と、協調伝送システム内で行われる協調中継のホップ数を示す。最も単純な協調システム構成は、発信局(Source;S)と宛先局(Destination;D)との間に一つの中継局(Relay;R)が存在する構成である。このような構成は、1−Relay 2−Hop(1R2H)と呼ばれる。1R2H構成では、発信局から中継局への通信と、中継局から宛先局への通信とに無線資源(時間又は周波数)の1スロットがそれぞれ割り当てられることが一般的である。そのため、協調システム全体の1周期は2スロットであるとして考察がなされる事が多い。
【0005】
協調プロトコルは、協調伝送システム全体の1周期内の無線局同士の送受信関係の組み合わせを示す。
このような協調伝送については、例えば非特許文献1や非特許文献2に記載されるように、通信特性を向上させる技術として多くの研究が行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R. U. Nabar, H. Bolcskei, and F.W. Kneubuhler, “Fading relay channels: Performance limits and space-time signal design,” IEEE J. Sel. Areas Commun., vol. 22, no. 6, pp. 1099-1109, Jun. 2004.
【非特許文献2】"Wireless LAN Medium Access Control (MAC) and Physical Layer (PHY) Specifications: High-speed Physical Layer in the 5GHz band," IEEE Std. 802.11a-1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
協調伝送システムでは、同一のタイムスロットにおいて発信局と中継局とが異なる信号を送信する。この場合、宛先局は、発信局が送信した信号と中継局が送信した信号との合成波を受信する。そのため、各信号に付されていたトレーニング信号が互いに干渉し合い、チャネル情報の推定精度が下がってしまう。その結果、発信局から送信された信号と中継局から送信された信号との復号精度が低下してしまうという問題があった。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、発信局と中継局とで同一のタイミングで異なる信号を送信する協調伝送システムにおいて、宛先局におけるチャネル情報の推定精度を向上させる技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、第1のタイミングで発信局から送信された第1信号と、前記第1のタイミングの後に到来する第2のタイミングで前記発信局から送信された第2信号と、前記第2のタイミングで中継局によって中継された前記第1信号と、を受信する信号受信部と、前記第1のタイミングで前記発信局から送信された前記第1信号に含まれる既知信号に基づいて、前記第1のタイミングで前記発信局から送信された前記第1信号に関するチャネル情報である第1チャネル情報を推定する第1チャネル推定部と、前記第1チャネル情報の推定結果と、前記第1のタイミングで前記発信局が前記第1信号を送信した際の送信電力である第1送信電力と、前記第2のタイミングで前記発信局が前記第2信号を送信した際の送信電力である第2送信電力と、に基づいて前記第2のタイミングで前記発信局から送信された前記第2信号に関するチャネル情報である第2チャネル情報を推定する第2チャネル推定部と、前記第1チャネル情報及び前記第2チャネル情報の推定結果と、前記第1送信電力及び前記第2送信電力と、に基づいて、前記第1のタイミングで前記発信局から送信され前記第2のタイミングで前記中継局によって中継された前記第1信号に関するチャネル情報である第3チャネル情報を推定する第3チャネル推定部と、を備える宛先局である。
【0010】
本発明の一態様は、第1のタイミングで発信局から送信された第1信号と、前記第1のタイミングの後に到来する第2のタイミングで前記発信局から送信された第2信号と、前記第2のタイミングで中継局によって中継された前記第1信号と、を受信する信号受信ステップと、前記第1のタイミングで前記発信局から送信された前記第1信号に含まれる既知信号に基づいて、前記第1のタイミングで前記発信局から送信された前記第1信号に関するチャネル情報である第1チャネル情報を推定する第1チャネル推定ステップと、前記第1チャネル情報の推定結果と、前記第1のタイミングで前記発信局が前記第1信号を送信した際の送信電力である第1送信電力と、前記第2のタイミングで前記発信局が前記第2信号を送信した際の送信電力である第2送信電力と、に基づいて前記第2のタイミングで前記発信局から送信された前記第2信号に関するチャネル情報である第2チャネル情報を推定する第2チャネル推定ステップと、前記第1チャネル情報及び前記第2チャネル情報の推定結果と、前記第1送信電力及び前記第2送信電力と、に基づいて、前記第1のタイミングで前記発信局から送信され前記第2のタイミングで前記中継局によって中継された前記第1信号に関するチャネル情報である第3チャネル情報を推定する第3チャネル推定ステップと、を有するチャネル推定方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、発信局と中継局とで同一のタイミングで異なる信号を送信する協調伝送システムにおいて、チャネル情報の推定精度を向上させることが可能となる。したがって、協調伝送システムにおいて同一のタイミングで送信された異なる信号を受信した宛先局において、それぞれの信号を精度良く分離することが可能となる。これにより、協調伝送によるダイバーシチ利得を得ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態における協調伝送システムのシステム構成を表すシステム構成図である。
【図2】本発明の一実施形態における協調伝送システムの各装置の機能構成を表す概略ブロック図である。
【図3】協調伝送システムにおける通信の概略を示す図である。
【図4】各スロットにおいて送信される信号の具体例を示す図である。
【図5】各スロットにおいて送信される信号の送信タイミングの具体例を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態における協調伝送システムの宛先局の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態における協調伝送システム1のシステム構成を表すシステム構成図である。協調伝送システム1は、発信局1−1、中継局1−2、宛先局1−3を備える。協調伝送システム1は、1R2H(1−Relay 2−Hop)の協調システム構成を有している。協調伝送システム1では、発信局1−1から中継局1−2及び宛先局1−3への通信と、中継局1−2から宛先局1−3への通信とに、それぞれ無線資源(時間又は周波数)の1スロットが割り当てられる。
【0014】
図2は、本発明の一実施形態における協調伝送システム1の各装置の機能構成を表す概略ブロック図である。まず、協調伝送システム1の各装置の構成について説明する。発信局1−1、中継局1−2、宛先局1−3は、いずれもバスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、所定のプログラムを実行することによって機能する。なお、各装置が備える各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されても良い。各装置のプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。各装置のプログラムは電気通信回線を介して伝送されても良い。
【0015】
発信局1−1は、チャネル符号化部11、データ変調部12、分配部13、トレーニング付加部14、パスバンド変換部15、アンテナ16を備える。宛先局1−3は、アンテナ31、ベースバンド変換部32、チャネル推定部33、データ復調部34、チャネル復号部35を備える。
【0016】
図3は、協調伝送システム1における通信の概略を示す図である。スロットは、無線局(発信局1−1、中継局1−2、宛先局1−3の総称)が通信を行うタイミングを表す。スロット1は、スロット2の一つ前のスロットである。時刻T1、時刻T2は、それぞれスロット1、スロット2が開始する時刻に相当する。スロット1では、発信局1−1が中継局1−2及び宛先局1−3に対して信号P1をブロードキャスト送信する。スロット1の次に到来するスロット2では、発信局1−1及び中継局1−2が宛先局1−3へ信号を送信する。このとき、発信局1−1は信号P2を送信し、中継局1−2は信号P1を送信する。信号P1と信号P2とは異なる信号である。そのため、宛先局1−3は、スロット2において、発信局1−1から送信された信号P2と中継局1−2から送信された信号P1との合成波を受信する。以下、宛先局1−3がスロット2で受信する上記の合成波を受信信号と言う。
【0017】
宛先局1−3は、スロット1及びスロット2において、二種類の信号(信号P1及び信号P2)を受信している。このような協調プロトコルは、プロトコルIまたはMIMO(Multiple Input Multiple Output)型と呼ばれる。
【0018】
以下、図2及び図3を用いて協調伝送システム1における通信の流れについて説明する。まず始めに、発信局1−1のチャネル符号化部11が、送信の対象となる情報ビットストリームに対してチャネル符号化処理を行い、符号化ビットを生成する。続いて、発信局1−1のデータ変調部12が、符号化ビットを任意の規則(たとえば、グレイ符号化等)でコンスタレーションマッピングし、複素QAMシンボルを生成する。発信局1−1の分配部13は、複素QAMシンボルを二つの異なるストリーム(複素QAMシンボルストリーム)に分配する。
【0019】
発信局1−1のトレーニング付加部14は、二つの複素QAMシンボルストリームに対しトレーニング信号等を付加して送信用の信号(後述するサブパケットに相当)を生成する。このとき、トレーニング付加部14は、分配された二つの異なるストリームに対し、同一のトレーニング信号を付加する。パスバンド変換部15は、各信号をベースバンドからパスバンドへ変換し、それぞれ異なるスロットでアンテナ16から送信する。例えば、発信局1−1のパスバンド変換部15は、複素QAMシンボルストリーム1と複素QAMシンボルストリーム2とが生成された場合は、スロット1において複素QAMシンボルストリーム1を含む信号を送信し、スロット2において複素QAMシンボルストリーム2を含む信号を送信する。
【0020】
宛先局1−3のベースバンド変換部32は、アンテナ31を介して信号を受信する。ベースバンド変換部32は、受信した信号をパスバンドからベースバンドへ変換する。チャネル推定部33は、受信した信号のトレーニング部分に基づいてチャネル推定を行う。データ復調部34は、チャネル推定部33によるチャネル推定の結果に基づいて信号のチャネル等化を行い、データ復調処理を行う。ここで言うチャネル等化は、スロット2で発信局1−1から送信された信号と、スロット2で中継局1−2から送信された信号とが合成された信号(受信信号)から、それぞれの信号を分離する処理を含む。
【0021】
データ復調部34は、データ復調処理を行うことによって、各複素QAMシンボルに対応する検出値を生成する。チャネル復号部35は、検出値に基づいてチャネル復号処理を実行する。チャネル復号処理の実行により、チャネル復号部35は、発信局1−1において送信の対象となった情報ビットストリームを復元する。
【0022】
図4は、各スロットにおいて送信される信号の具体例を示す図である。図5は、各スロットにおいて送信される信号の送信タイミングの具体例を示す図である。以下、図2〜5を用いて、協調伝送システム1における通信処理の詳細について説明する。以下の説明では、各スロットで送信される信号を「サブパケット」と呼び、一つの情報ビットストリームから生成された複数の複素QAMシンボルストリームを含むサブパケットの集合を「パケット」と呼ぶ。例えば、複素QAMシンボルストリーム1を含む信号や複素QAMシンボルストリーム2を含む信号はそれぞれがサブパケットであり、この二つのサブパケットの集合がパケットである。
【0023】
各信号は、トレーニング信号を含む部分(トレーニング信号部分)と、送信対象の情報ビットストリームから生成されたQAMシンボルストリームを含む部分(データ部分)とを有する。図4において、「P1のトレーニング」、「P2のトレーニング」と記載されている矩形はトレーニング信号部分に相当する。「P1のデータ」、「P2のデータ」と記載されている矩形はデータ部分に相当する。データ部分は、複数のデータブロックで構成されており、各データブロックにQAMシンボルストリームが格納される。
【0024】
スロット1で発信局1−1から送信される信号P1のデータ部分に格納された複素QAMシンボル値をX1とする。スロット2で発信局1−1から送信される信号P2のデータ部分に格納された複素QAMシンボル値をX2とする。
また、トレーニング信号の複素QAMシンボル値をCとする。各信号は、ベースバンドからパスバンドへ変換され、対応するスロットで送信される。発信局1−1は、信号P1を送信した後、時間D_sの経過後に信号P2を送信する。一方、中継局1−2は、発信局1−1による信号P1の送信が終わった後、時間D_rの経過後に信号P1を送信する。
【0025】
スロット1では、発信局1−1が中継局1−2と宛先局1−3へのブロードキャスト送信を行う。スロット1の宛先局1−3での受信信号は以下の式1で表される。
なお、以下の記載において、A_Bは、Aに対して下付き文字としてBが付されていることを表す。また、[A]は、Aの平方根を表す。また、{A}は、Aの上部にハット(^)が付されていることを表し、Aの推定値を示す。
【0026】
【数1】

【0027】
P_s1は、スロット1での発信局1−1の送信電力を表す。H_sdは、発信局1−1と宛先局1−3との間のチャネル応答を表す。W_d1は、スロット1の宛先局1−3における白色付加ガウス雑音(Additive White Gaussian Noise:AWGN)を表す。P_s1の値は、宛先局1−3のチャネル推定部33において既知である。
【0028】
スロット1の中継局1−2における受信信号Y_r1は以下の式2で表される。
【数2】

【0029】
H_srは、発信局1−1と中継局1−2との間のチャネル応答を表す。W_r1は、スロット1の中継局1−2でのAWGN(白色付加ガウス雑音)を表す。スロット1で中継局1−2が受信した信号Y_r1は、増幅係数α_γで増幅され、スロット2で宛先局1−3へ送出される。
【0030】
スロット2では、発信局1−1及び中継局1−2が宛先局1−3に信号を送信する。双方から同時に送信されるため、スロット2の宛先局1−3における受信信号Y_d2は以下の式3で表される。
【数3】

【0031】
ここで、P_r2は、スロット2の中継局1−2の送信電力を表す。したがって、[(P_s1)(P_r2)]は、スロット1の発信局1−1の送信電力と、スロット2の中継局1−2の送信電力との積を表す。P_s2は、スロット2の発信局1−1の送信電力を表す。P_s2及びP_r2の値は、P_s1の値と同様に、宛先局1−3のチャネル推定部33において既知である。
【0032】
式1と式3より、以下の式4が成立する。
【数4】

【0033】
式4において、H_11はスロット1における発信局1−1と宛先局1−3との間の伝搬経路のチャネル情報(以下、「第1チャネル情報」という。)を表し、H_21はスロット1において発信局1−1から送信されスロット2において中継局1−2を経由して宛先局1−3に届く伝搬経路のチャネル情報(以下、「第3チャネル情報」という。)を表し、H_22はスロット2における発信局1−1と宛先局1−3との間の伝搬経路のチャネル情報(以下、「第2チャネル情報」という。)を表す。各値は、それぞれ以下のように表される。
【0034】
【数5】

【数6】

【数7】

【0035】
宛先局1−3のチャネル推定部33は、H_11(第1チャネル情報)、H_21(第3チャネル情報)、H_22(第2チャネル情報)の各値を推定する。各値の推定処理は以下の通りである。
【0036】
まず、チャネル推定部33は、スロット1で受信したトレーニング信号を用いて、式1に基づき、第1チャネル情報を推定する。具体的には、チャネル推定部33は、式1のX_1に対してトレーニング信号Cを代入することによって、第1チャネル情報を推定する。チャネル推定部33は、トレーニング信号及びP_s1を予め記憶している。チャネル推定部33は、記憶している値や受信したトレーニング信号に基づいて、LS法やLMMSE法などの推定法を用いて、第1チャネル情報の推定値{H_11}を算出する。スロット1では、中継局1−2はトレーニング信号を送信していない。そのため、チャネル推定部33は、干渉を受けていないトレーニング信号に基づいて第1チャネル情報を推定できる。したがって、チャネル推定部33は、精度良く第1チャネル情報を推定できる。
【0037】
次に、チャネル推定部33は、第2チャネル情報を推定する。チャネル推定部33は、スロット1及びスロット2の期間において、発信局1−1と宛先局1−3との間のチャネル応答(H_sd)は一定であるという前提で処理を行う。スロット1及びスロット2の期間は短いため、チャネル応答の変化は微小である。そのため、このような前提で処理を行ったとしてもチャネル情報の推定精度に大きな悪影響はない。このような前提に基づいて式5及び式7を変形すると、以下に示す式8が得られる。チャネル推定部33は、以下の式8に対し、算出した{H_11}と、予め記憶しているP_s1及びP_s2を代入することによって、第2チャネル情報の推定値{H_22}を算出する。
【0038】
【数8】

【0039】
すなわち、チャネル推定部33は、スロット1における信号P1の送信電力P_s1と、スロット2における信号P2の送信電力P_s2との比(それぞれの値の平方根の比)を第1チャネル情報の推定値{H_11}に乗じることによって、第2チャネル情報の推定値{H_22}を算出する。
【0040】
次に、チャネル推定部33は、第3チャネル情報を推定する。以下、第3チャネル情報の推定処理について二つの推定処理(第1推定処理、第2推定処理)を説明する。チャネル推定部33は、第1推定処理を行うことによって第3チャネル情報を推定しても良いし、第2推定処理を行うことによって第3チャネル情報を推定しても良い。
【0041】
<第1推定処理>
式3の右辺及び左辺において、{H_22}Cを減算すると、式9が得られる。なお、Cはチャネル推定部33が予め記憶しているトレーニング信号である。
【数9】

【0042】
式9の右辺第2項は推定誤差による雑音成分であり、式9の右辺第3項は雑音成分AWGNである。第1推定処理において、チャネル推定部33は、この二つの項の値がゼロとみなして推定を行う。いずれの項の値も理想状態ではゼロとなるため、このような前提で推定処理を行っても推定精度に大きな悪影響は無い。
【0043】
第1推定処理を行うチャネル推定部33は、式9のY_d2に対して、スロット2で受信したトレーニング信号を代入することによって、第3チャネル情報H_21の値を推定する。すなわち、第1推定処理を行うチャネル推定部33は、スロット2で受信した合成信号から、トレーニング信号と第2チャネル情報の推定値との乗算結果を減算する。そして、チャネル推定部33は、減算結果と、予め記憶しているトレーニング信号との比に基づいて第3チャネル情報を推定する。
【0044】
<第2推定処理>
式4において、Y_d1(スロット1で受信されたトレーニング信号)に所定の係数(送信電力比:[P_s2]/[P_s1])を乗算してY_d2(スロット2で受信されたトレーニング信号)から減算すると、式10が得られる。
【数10】

【0045】
ここで、スロット1における発信局1−1の送信電力(P_s1)と、スロット2における発信局1−1の送信電力(P_s2)とは、いずれも宛先局1−3のチャネル推定部33によって予め記憶されている。また、右辺の第2項の値及び右辺の第3項の値は、いずれも雑音成分AWGNである。第2推定処理において、この二つの項の値はゼロとみなして推定を行う。いずれの項の値も理想状態ではゼロとなるため、このような推定処理を行っても推定精度に大きな悪影響は無い。
【0046】
第2推定処理を行うチャネル推定部33は、式10に基づいて第3チャネル情報を推定する。すなわち、第2推定処理を行うチャネル推定部33は、スロット2で受信した合成信号におけるトレーニング信号から、スロット1で受信したトレーニング信号と送信電力比との乗算結果を減算する。そして、チャネル推定部33は、減算結果と、予め記憶しているトレーニング信号との比に基づいて第3チャネル情報を推定する。
【0047】
図6は、本発明の一実施形態における協調伝送システム1の宛先局1−3の処理の流れを示すフローチャートである。まず、ベースバンド変換部32が、スロット1のタイミングでアンテナ31を介して信号P1を受信する(ステップS101)。次に、ベースバンド変換部32が、スロット2のタイミングでアンテナ31を介して合成信号を受信する(ステップS102)。ベースバンド変換部32は、受信した各信号をパスバンドからベースバンドへ変換する。
【0048】
チャネル推定部33は、スロット1で受信した信号P1のトレーニング部分に基づいて、第1チャネル情報を推定する(ステップS103)。次に、チャネル推定部33は、第1チャネル情報の推定値に基づいて、第2チャネル情報を推定する(ステップS104)。そして、チャネル推定部33は、スロット2で受信した合成信号のトレーニング部分に基づいて、第3チャネル情報を推定する(ステップS105)。
【0049】
データ復調部34は、チャネル推定部33によるチャネル推定の結果に基づいて信号のチャネル等化を行い、データ復調処理を行う(ステップS106)。データ復調部34は、データ復調処理を行うことによって、各複素QAMシンボルに対応する検出値を生成する。チャネル復号部35は、検出値に基づいてチャネル復号処理を実行する(ステップS107)。チャネル復号処理の実行により、チャネル復号部35は、発信局1−1において送信の対象となった情報ビットストリームを復元する。
【0050】
以下、このように構成された宛先局1−3による効果について説明する。
スロット2では、発信局1−1から送信された信号と中継局1−2から送信された信号とが合成されて宛先局1−3によって受信される。そのため、それぞれの信号のトレーニング信号部分についても相互干渉が生じる。したがって、従来の協調伝送システムでは、宛先局1−3において、H_21及びH_22を適正に推定することができなかった。これに対し、本願発明の一実施形態における協調伝送システム1の宛先局1−3は、上述した構成により、H_11のみならず、H_21及びH_22の値を精度良く推定することができる。すなわち、上記構成の宛先局1−3は、発信局1−1及び中継局1−2から受信したそれぞれのトレーニング信号を分離し、チャネル情報の推定精度を向上させることができる。
【0051】
<変形例>
マルチキャリアシステムには、様々な種類がある。例えば、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)システム、直交周波数分割多元接続(Orthogonal Frequency Division Multiple Access:OFDMA)システム、マルチキャリア符号分割多元接続(Multi Carrier-Code Division Multiple Access:MC−CDMA)システム等がある。上述したチャネル推定部33の処理は、これらのマルチキャリア方式に適用されても良い。
【0052】
上述した協調伝送システム1では、中継局フォワード方式としてAF法が適用されている。しかしながら、他の中継局フォワード方式が適用されても良い。例えば、CF(Compress-and-Forward)法やDF法などが適用されても良い。
【0053】
上述した協調伝送システム1では、各無線局のアンテナ数が1本ずつである。すなわち、SISO(Single Input Single Output)システムの適用例について説明した。これに対し、各無線局の全て又は一部が複数本のアンテナを持つように構成されても良い。すなわち、協調伝送システム1は、MIMOシステムとして構成されても良い。
上述した協調伝送システム1の構成は1R2Hであるが、協調伝送システム1の構成はこれに限定されない。
上述した協調伝送システム1の構成では、チャネル推定部33は既知の値(P_s1、P_s2、P_r2)を予め記憶しているが、チャネル推定部33は受信した信号に含まれる情報に基づいて上記各既知の値を取得しても良い。
【0054】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1…協調伝送システム,1−1…発信局,1−2…中継局,1−3…宛先局, 11…チャネル符号化部, 12…データ変調部, 13…分配部, 14…トレーニング付加部, 15…パスバンド変換部, 16,31…アンテナ, 32…ベースバンド変換部, 33…チャネル推定部, 34…データ復調部, 35…チャネル復号部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のタイミングで発信局から送信された第1信号と、前記第1のタイミングの後に到来する第2のタイミングで前記発信局から送信された第2信号と、前記第2のタイミングで中継局によって中継された前記第1信号と、を受信する信号受信部と、
前記第1のタイミングで前記発信局から送信された前記第1信号に含まれる既知信号に基づいて、前記第1のタイミングで前記発信局から送信された前記第1信号に関するチャネル情報である第1チャネル情報を推定する第1チャネル推定部と、
前記第1チャネル情報の推定結果と、前記第1のタイミングで前記発信局が前記第1信号を送信した際の送信電力である第1送信電力と、前記第2のタイミングで前記発信局が前記第2信号を送信した際の送信電力である第2送信電力と、に基づいて前記第2のタイミングで前記発信局から送信された前記第2信号に関するチャネル情報である第2チャネル情報を推定する第2チャネル推定部と、
前記第1チャネル情報及び前記第2チャネル情報の推定結果と、前記第1送信電力及び前記第2送信電力と、に基づいて、前記第1のタイミングで前記発信局から送信され前記第2のタイミングで前記中継局によって中継された前記第1信号に関するチャネル情報である第3チャネル情報を推定する第3チャネル推定部と、
を備える宛先局。
【請求項2】
第1のタイミングで発信局から送信された第1信号と、前記第1のタイミングの後に到来する第2のタイミングで前記発信局から送信された第2信号と、前記第2のタイミングで中継局によって中継された前記第1信号と、を受信する信号受信ステップと、
前記第1のタイミングで前記発信局から送信された前記第1信号に含まれる既知信号に基づいて、前記第1のタイミングで前記発信局から送信された前記第1信号に関するチャネル情報である第1チャネル情報を推定する第1チャネル推定ステップと、
前記第1チャネル情報の推定結果と、前記第1のタイミングで前記発信局が前記第1信号を送信した際の送信電力である第1送信電力と、前記第2のタイミングで前記発信局が前記第2信号を送信した際の送信電力である第2送信電力と、に基づいて前記第2のタイミングで前記発信局から送信された前記第2信号に関するチャネル情報である第2チャネル情報を推定する第2チャネル推定ステップと、
前記第1チャネル情報及び前記第2チャネル情報の推定結果と、前記第1送信電力及び前記第2送信電力と、に基づいて、前記第1のタイミングで前記発信局から送信され前記第2のタイミングで前記中継局によって中継された前記第1信号に関するチャネル情報である第3チャネル情報を推定する第3チャネル推定ステップと、
を有するチャネル推定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate