説明

宝石物質の鑑別方法及び宝石物質の鑑別書

【課題】宝石物質に含まれる内包物の撮像と同定を行う際に、両方の作業プロセスにおいて内包物の同一性を確保でき、これにより、その内包物及びそれを含む宝石物質の鑑別結果の信頼性を高めることができる宝石物質の鑑別方法等を提供する。
【解決手段】本発明においては、定性分析用のプローブ光としてのレーザー光が照射される光軸上に宝石物質を設置し、可視光がその宝石物質を透過するように、可視光を光軸に対して側方から宝石物質に照射しながら宝石物質を顕微観察し、レーザー照射光学系及び顕微観察光学系を内包物に合焦させ、その合焦位置において、内包物の画像を撮像する撮像し、かつ、その同じ合焦位置において、内包物のラマンスペクトルを測定する等して内包物の種類を同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド等の宝石物質を鑑別する方法、及び、その鑑別書に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然ダイヤモンド等の宝石物質の品質を評価・鑑別(鑑定)する手法として、鑑別対象である宝石物質のカット形状、カットグレード(等級)、寸法、重量、カラーグレード、クラリティーグレード等を、寸法計測装置や分光分析装置で測定し、それらの測定及び分析結果を、鑑別対象である宝石物質の画像とともに、鑑別書(グレーティングレポート)に掲載したものを発行することが行われている。例えば、特許文献1には、ダイヤモンド・グレーティング・レポートの一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−42964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、宝石物質としては、天然起源(由来)のもの、合成物、人造物、模造物等が存在するが、それらの宝石物質のなかでも特に天然起源のものには、その内部に、宝石物質の主鉱物(マトリックス物質)とは異なる物質からなるインクルージョンと呼ばれる微小な内包物を含有しているものが多く見られ、かかる内包物の種類(鉱物種)、形状、カラー等は千差万別である。このような内包物の存在は、宝石物質が天然起源のものであることを示すばかりではなく、その内包物の性状そのものが個々の宝石物質に固有(特有)のものであって、その宝石物質が形成された環境や産地等の貴重な情報を示すものでもある。そこで、上述したような宝石物質の一般的な測定・分析結果(鑑別結果)に加えて、その宝石物質に含まれる内包物を拡大して撮像し、その画像を鑑別書(グレーティングレポート)に掲載すること、さらには、宝石物質に含まれるそのような内包物の種類を同定することが試みられつつある。
【0005】
しかし、宝石物質に含まれる内包物の撮像と、その同定を行うための分析は、それぞれ異なる作業プロセスとして実施される傾向にあり、換言すれば、撮像された内包物と分析された内包物の同一性に疑義が生じ得るおそれがある。この点に関し、一般に、宝石物質に含まれる内包物の数量が少なかったり、形状や性状等が他の内包物と峻別し易い特異的なものであったりする場合には、宝石物質の鑑別を行う技能者にとってみれば、目的とする内包物を、他の内包物と混同することなく一意に特定し得る場合が多いと言えないこともない。
【0006】
しかしながら、上述の如く、宝石物質に含まれる内包物の撮像とその同定を異なる作業プロセスで行う場合、例えば、分析装置で宝石物質に含まれる内包物を特定し、その同定分析を行った後、その宝石物質を、分析装置の作業ステージ(作業架台)から一旦取り出し、異なる装置(内包物の拡大像を撮像する装置)の作業ステージに移し替えてから、内包物の撮像を行う際には、分析対象であった内包物とは異なる内包物を撮像してしまうことも否めない。
【0007】
すなわち、宝石物質に含まれる内包物は、極めて微小(例えば、数μmから数百μmオーダーの外形寸法)な形状を有していることが多々あり、肉眼では確実な確認を行うことは困難であることから、分析装置においても撮像装置においても、宝石物質を微視的に拡大観察することにより、内包物を特定する必要があるところ、例えば、分析装置で分析対象とした内包物にマーキングを行うことは不可能であるので、分析装置から一旦取り外した宝石物質を、撮像装置で拡大観察するときに、形状や性状が類似した異なる内包物を間違えて特定し、それを撮像してしまう可能性が全くないとは言い難い。
【0008】
このように状況によって、撮像された内包物と分析された内包物が異なってしまう場合、つまり、両者の同一性が確実に保証(担保)されない場合、鑑別書(グレーティングレポート)には、それに画像が掲載された内包物とは異なる別の内包物の分析に基づく同定結果が掲載されることとなってしまうので、内包物の鑑別結果の信頼性、ひいては宝石物質の鑑別結果及び鑑別書自体の信頼性が損なわれてしまうおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、宝石物質に含まれる内包物(インクルージョン)の撮像と同定を行う場合において、両方の作業プロセスにおいて内包物の同一性を確保でき、これにより、その内包物及びそれを含む宝石物質の鑑別結果の信頼性が損なわれることを確実に防止することができる、言い換えれば、宝石物質の鑑別結果の信頼性を十分に高めることができる宝石物質の鑑別方法、及び、そのような鑑別方法に基づいて作成される信頼性に優れた宝石物質の鑑別書を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するため、本発明による宝石物質の鑑別方法は、宝石物質に含まれる内包物を定性分析により同定し、かつ、その内包物の画像を撮像する方法であって、(A)定性分析用のプローブ光が照射される光軸上に宝石物質を設置する設置工程と、(B)可視光が宝石物質を透過するようにその可視光を光軸に対して側方から宝石物質に照射(投射)しながら宝石物質を顕微観察し、その宝石物質に含まれる内包物にプローブ光を照射するための光学系、及び、その宝石物質に含まれる内包物の顕微観察を行うための光学系を合焦させる(焦点を合わせる)合焦工程と、(C)内包物の合焦位置において、その内包物の画像を撮像する撮像工程と、(D)その内包物の合焦位置と同じ合焦位置において、内包物にプローブ光を照射し、その内包物によって反射及び/又は散乱された光を計測するとともに、その計測結果に基づいて、内包物の種類を同定する同定工程とを含む。
【0011】
この場合、撮像工程及び同定工程は、上述した内包物への合焦位置から宝石物質が移動されなければ、同時に実施してもよく、ある程度の時間間隔をおいて別々に実施しても構わなず、好ましくは、その合焦位置において連続して実施すると好適である。なお、撮像工程と同定工程は、いずれを先に実施しても構わない。
【0012】
このように構成された方法においては、まず、設置工程で、定性分析用のプローブ光が照射される光軸上に宝石物質が設置され、次いで、合焦工程で、プローブ光の光軸の側方から、その宝石物質に対して可視光を照射しながら(当てながら)顕微観察が行われる。このとき、その宝石物質に含まれる内包物にプローブ光を照射するための光学系、及び、その内方物の顕微観察を行うための光学系を合焦させることにより、内包物の視認が可能になるとともに、その内包物にプローブ光を照射する準備が行われる。
【0013】
それから、撮像工程を実施することにより、その合焦位置において、内包物の画像が撮像される。そして、宝石物質がその合焦位置から移動されることなく、つまり、内包物の撮像が行われた同じ合焦位置において、同定工程を実施することにより、内包物にプローブ光を照射し、その内包物によって反射及び/又は散乱された光を計測し、その計測結果に基づいて、撮像の対象とされた内包物の種類が同定される。
【0014】
或いは、上述したように、撮像工程に先立って同定工程を実施し、上記合焦位置において、宝石物質の内包物にプローブ光を照射し、その内包物から反射及び/又は散乱された光の計測結果に基づいて内包物の種類を先に同定し、その合焦位置から宝石物質を移動させることなく、撮像工程を続けて実行することにより、内包物の画像が撮像されてもよい。さらには、これらの撮像工程と同定工程を同時に実施して、内包物の撮像とその種類の同定を一時に行なってもよい。
【0015】
また、本発明による宝石物質の鑑別書は、本発明の宝石物質の鑑別方法を用いて有効に作成されるものであり、上述した宝石物質の鑑別方法における撮像工程において撮像された内包物の画像と、同じく上述した同定工程において同定された内包物の種類(同定結果)とを含むものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の宝石物質の鑑別方法によれば、宝石物質の内包物に、プローブ光を照射するための光学系、及び、顕微観察を行うための光学系を合焦させ、その合焦位置において、その内包物の同定及び撮像を行うので、両方の作業プロセスにおいて内包物の同一性を確保でき、これにより、その内包物及びそれを含む宝石物質の鑑別結果の信頼性が損なわれることを確実に防止することが可能となる。また、本発明による宝石物質の鑑別書は、かかる本発明による宝石物質の鑑別方法に基づいて作成されるので、鑑別書に記載された事項の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による宝石物質の鑑別方法に係る好適な一実施形態によって、宝石物質を鑑別する手順の一例を示す工程図(フロー図)である。
【図2】図1に示す実施形態の鑑別方法により宝石物質を鑑別している状態の一例を示す側面図(一部断面図)である。
【図3】内包物の評価情報が記載された鑑別書の一部を構成するサブレポートの一例を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0019】
図1は、本発明による宝石物質の鑑別方法に係る好適な一実施形態によって、宝石物質を鑑別する手順の一例を示す工程図(フロー図)であり、図2は、その鑑別方法により宝石物質を鑑別している状態の一例を示す側面図(一部断面図)である。
【0020】
本実施形態の宝石物質の鑑別方法においては、まず、顕微レーザーラマン分光測定装置1の試料ステージのホルダー11に、測定対象である宝石物質D、例えば、ブリリアントカット、ステップカット、ミックスカット等の研磨処理が施された天然ダイヤモンドを、図2に示す如く設置(セット)する(図1のステップS1:設置工程)。
【0021】
図2に示す例では、ホルダー11には、宝石物質Dとしてブリリアントカットされた宝石用のダイヤモンドの外径(クラウン21とパビリオン22との境界部の径)よりも小さい径を有する開口Hが穿設されており、宝石物質Dのテーブル面23が図示上方を向くように、かつ、宝石物質Dのキューレット24が図示下方を向くように、宝石物質Dがその開口Hに嵌め込まれ、その状態が保持される。すなわち、宝石物質Dは、ホルダー11の開口Hの周縁に、パビリオン22のカット面(ファセット面)の側壁が当接した状態で、ホルダー11に支持される。
【0022】
ここで、顕微レーザーラマン分光測定装置1の機種及び構成としては、顕微観察光学系K(顕微観察を行うための光学系)と、撮像系Sと、レーザー照射光学系L(定性分析用のプローブ光としてのレーザー光を照射するための光学系)と、ラマン分光系Bを備えているものであれば、特に制限されず、より具体的には、例えば、レニショー株式会社製の顕微レーザーラマン分光測定装置 inVia ラマンマイクロスコープ等が挙げられる。
【0023】
顕微観察光学系Kは、試料ステージのホルダー11に設置された宝石物質Dを顕微観察するためのものであり、ホルダー11の開口Hに対向する位置に設けられた対物レンズ12を有している。また、撮像系Sは、顕微観察光学系Kにおける対物レンズ12の後段の部位に、光学的に結合されており、これにより、対物レンズ12を通して観察される宝石物質Dの一部の拡大像を撮像するためのものである。撮像系Sの撮像デバイスとしては、例えば所定数の素子が二次元アレイ状に配設されたCCD等が挙げられる。
【0024】
また、レーザー照射光学系Lは、宝石物質Dに向かって所定の波長(例えば、Arレーザーの場合、波長514nm)を有する定性分析用のプローブ光としてのレーザー光を出射するためのものであり、図2において一点鎖線で模式的かつ概略的に示す光軸A(プローブ光の光軸)に沿って、かつ、ホルダー11の開口Hに向かって、レーザー光を照射可能に構成されている。換言すれば、宝石物質Dは、プローブ光であるレーザー光の光軸A上に位置するように、ホルダー11に設置かつ保持される。なお、レーザー照射光学系Lは、光軸Aが顕微観察光学系Kの対物レンズ12の内部を通るように構成されていても、そのように構成されていなくてもよい。さらに、ラマン分光系Bは、宝石物質Dの内包物に照射されたレーザー光の内包物によるラマン散乱光(成分)を検出するためのものであり、照射されたレーザー光に対するラマン散乱光のシフト波長を走査して、そのラマンシフト波長に対する光強度(ラマンスペクトル)の測定、つまりラマン分光測定(ラマンスペクトロメトリー)を行なう機能を有している。
【0025】
さらに、本実施形態においては、顕微レーザーラマン分光測定装置1とは別に、宝石物質Dのクラウン21及びパビリオン22のカット面の側方から、宝石物質Dに向かって、図示矢印で示す可視光Vを当射するための可視光源V1,V2が用いられる。可視光源V1,V2としては、可視光Vが、宝石物質Dにおけるクラウン21及びパビリオン22のカット面の側壁面から入射して宝石物質D内を透過するように構成されたものであればよく、一般的な電球や、或いは、可視光レーザー及びその導波系(光ファイバー等の光学部品)を用いることもできる。また、可視光源V1,V2は、必ずしも両方を用いる必要はなく、いずれか一方のみを用いてもよく、顕微観察において、宝石物質Dに含まれる鑑別対象となる目的の内包物Eを視認し易い構成を、適宜選択することが可能である。
【0026】
次に、かかる可視光源V1,V2を点灯し、ホルダー11に設置した宝石物質Dに対して、上述の如く、可視光Vを照射し、宝石物質Dの内部を顕微観察する(ステップS2)。このとき、宝石物質Dに含まれる内包物Eの拡大像が顕微観察光学系Kによって観測できるように、可視光源V1,V2からの可視光Vの照射方向等を調整しつつ、その内包物Eに顕微観察光学系Kの焦点を合わせる(合焦させる)。また、顕微観察光学系Kが内包物Eに合焦した場合に、それと同時に、レーザー照射光学系Lが内包物Eに合焦するように、顕微レーザーラマン分光測定装置1を構成しておくことにより、レーザー照射光学系Lの焦点も内包物Eに合焦させることができる(ステップS3)。このように、ステップS2,S3から、合焦工程が構成されている。
【0027】
次に、その合焦位置に宝石物質Dを保持した状態で、レーザー照射光学系Lからのレーザー光を内包物Eに照射し、その内包物Eに対するラマン分光測定を行なう。そして、得られたラマンスペクトルの測定結果を、予め組成や成分が判明している既知の鉱物に対する種々のラマンスペクトル(参照スペクトルのライブラリやデータベースを用いることができる)と比較・照合することにより、その内包物Eの同定を行なう(ステップS4:同定工程)。また、その同定工程と同時に、或いは、同定工程に前後して、内包物Eの拡大像を撮像系Sで撮像する(ステップS4:撮像工程)。
【0028】
なお、顕微観察光学系Kによって観察される宝石物質D中の内包物Eの拡大像は、対物レンズ12の後段に配置された接眼レンズ(図示せず)によって視認することもでき、或いは、撮像系Sの撮像デバイスからの画像情報をインターフェースを介してコンピュータ等に送出し、それに接続されたモニター(いずれも図示せず)等に表示させてもよい。この場合、撮像系Sが顕微観察光学系Kの一部を兼ねており、また、撮像系Sを通して写し出された内包物Eの拡大像を撮像系Sで撮像することによっても、撮像工程を実施することができる。
【0029】
こうして得られた内包物Eの撮像画像、並びに、同定工程で取得された内包物Eのラマンスペクトル、及び、同定結果である内包物Eの種類は、いずれも電子データとして、適宜のインターフェースを介して適宜の記憶手段に保存することができ、さらに、本実施形態では、それらのうち内包物Eの撮像画像、及び、同定された内包物Eの種類を、宝石物質Dの鑑別項目の一部として鑑別書に掲載する(ステップS5)。図3は、このような内包物Eの評価情報が記載された鑑別書(グレーティングレポート)の一部を構成するサブレポートの一例を模式的に示す概略図である。このサブレポート3においては、鑑別対象である宝石物質Dに含まれる内包物Eの拡大撮像画像31とその種類32が、同じ紙面に並記されている。
【0030】
以上のように構成された宝石物質の鑑別方法によれば、宝石物質Dに含まれる内包物Eに、レーザー照射光学系L及び顕微観察光学系Kを合焦させ、その合焦位置において、内包物Eの同定及び撮像を行うので、両方の作業プロセスにおいて内包物Eの同一性を確保でき、換言すれば、撮像した内包物Eと同定した内包物Eを確実に関連付けることができる。したがって、内包物E及びそれを含む宝石物質Dの鑑別結果の信頼性が損なわれることを確実に防止することが可能となる。また、そのようにして得られた内包物Eの評価情報がサブレポート3に掲載されるので、そのサブレポート3を含めて作成された鑑別書に記載された事項の信頼性を向上させることができる。
【0031】
さらに、内包物Eの同定と撮像を、同じ合焦位置において、宝石物質Dを移動させることなく、顕微レーザーラマン分光測定装置1によって連続して又は同時に行なうので、作業の手間を軽減することができ、これにより、鑑別にかかる時間を短縮して作業性を改善することができる。
【0032】
またさらに、顕微レーザーラマン分光測定装置1による内包物Eの撮像及び同定を行なう際に、可視光Vを、宝石物質Dのクラウン21及びパビリオン22のカット面の側方から、宝石物質Dに対して照射するので、宝石物質Dのクラウン21のテーブル面23側、或いは、宝石物質Dのパビリオン22のキューレット24側から可視光を照射する場合に比して、宝石物質のDの内部にする存在する内包物Eの拡大像をより鮮明に捕らえることが可能となる。特に、図2に示すようなカット形状の宝石物質Dの場合、宝石物質Dの側方以外の方向から可視光Vを照射すると、カット面(ファセット面)において、可視光が全反射又は全反射に近い状態で反射されてしまうため、宝石物質Dの側方から宝石物質Dの内部を透過するように可視光Vを照射することは、内包物Eの撮像に対して極めて有用である。
【0033】
なお、上述したとおり、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において様々な変形が可能である。例えば、宝石物質Dとしては、研磨されたものに限られず、また、天然ダイヤモンドにも限定されない。また、内包物Eは、図2に示す如く粒状の鉱物結晶に限定されず、いわゆるシルクと言われる線状のもの、異なる鉱物組成が層構造をなすもの等であってもよい。さらに、内包物Eの同定に用いる定性分析手法としては、ラマン分光測定の他に、例えば、蛍光分光測定等の他の分光測定法を適宜用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上説明したとおり、本発明の宝石物質の鑑別方法及び宝石物質の鑑別書によれば、宝石物質に含まれる内包物の撮像及び同定において、その内包物の同一性を確実に担保することができ、その際の作業性をも向上させることができるので、内包物を含む各種の宝石物質の鑑別(鑑定)、及び、その結果を報告・証明するための鑑別書の作成等を行なう分野に広く応用かつ利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…顕微レーザーラマン分光測定装置、3…サブレポート、11…ホルダー、12…対物レンズ、21…クラウン、22…パビリオン、23…テーブル面、24…キューレット、31…内包物Eの拡大撮像画像、32…内包物Eの種類、A…光軸(プローブ光としてのレーザー光の光軸)、B…ラマン分光系、D…宝石物質、E…内包物、H…開口、K…顕微観察光学系、L…レーザー照射光学系、S…撮像系、S1〜S4…ステップ、V…可視光、V1,V2…可視光源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宝石物質に含まれる内包物を定性分析により同定し、かつ、該内包物の画像を撮像する宝石物質の鑑別方法であって、
前記定性分析用のプローブ光が照射される光軸上に前記宝石物質を設置する設置工程と、
可視光が前記宝石物質を透過するように該可視光を前記光軸に対して側方から前記宝石物質に照射しながら前記宝石物質を顕微観察し、該宝石物質に含まれる前記内包物に前記プローブ光を照射するための光学系、及び、該宝石物質に含まれる前記内包物の顕微観察を行うための光学系を合焦させる合焦工程と、
前記内包物の合焦位置において、該内包物の画像を撮像する撮像工程と、
前記内包物の合焦位置と同じ合焦位置において、該内包物に前記プローブ光を照射し、該内包物によって反射及び/又は散乱された光を計測するとともに、該計測結果に基づいて、前記内包物の種類を同定する同定工程と、
を含む宝石物質の鑑別方法。
【請求項2】
前記撮像工程及び前記同定工程を、前記合焦位置において連続して実施する、
請求項1記載の宝石物質の鑑別方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の宝石物質の鑑別方法における前記撮像工程において撮像された前記内包物の画像と、
前記宝石物質の鑑別方法における前記同定工程において同定された前記内包物の種類と、
を含む宝石物質の鑑別書。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−43472(P2011−43472A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193303(P2009−193303)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(397036789)株式会社エージーティ・ジェム・ラボラトリー (1)
【Fターム(参考)】