説明

実体顕微鏡

【課題】倍率の異なる複数の対物レンズを切り替えて使用する場合にも、効率良く、標本を一様に照明できる実体顕微鏡を提供する。
【解決手段】対物レンズ23と、一対のズームレンズ(変倍光学系)24a,24bと、左右の像28a,28bを形成する一対の結像レンズ25a,25bと、標本21を照明する照明装置を有する実体顕微鏡であって、前記照明装置は1次元方向に周期的な構造を持ち、照明用光源からの照明光束をズームレンズ24a,24bの光軸を含む平面と平行な方向に分散して標本21を照明する光束分散部材17を有し、以下の条件式を満足する。d/{2(flow)}≦(n−1)・δave≦d/{2(fhigh)}但し、d:ズームレンズ24a,24bの光軸間距離、flow、fhigh:最低倍、最高倍の対物レンズ23の焦点距離、δave:光束分散部材17の各構造への入射角δの平均値、n:光束分散部材17の屈折率。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実体顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
実体顕微鏡は、標本からの光を平行光束に変換する対物レンズと、対物レンズからの光束を受けて平行光束を射出する左眼用と右眼用の一対の変倍光学系と、これら一対の変倍光学系からの光束を受けて左右の像を形成する左眼用と右眼用の一対の結像レンズと、これら一対の結像レンズにより形成された像を観察するための左眼用と右眼用の一対の接眼レンズとを有し、立体的な標本像を観察できるように構成されている。
【0003】
近年、実体顕微鏡において、変倍光学系の軸間距離を広げ、開口数を大きくすることが要求されている。この場合、対物レンズの入射瞳位置はより標本面に近くなり、標本面の左右での主光線の角度の差が大きくなる。したがって、照明光の角度が不足すると、左右方向に非対称な照明むらが生じてしまう。また、角度の大きな光で標本を照明するためには、照明装置そのものが大型化してしまう。
【0004】
そこで、照明装置の最も標本側に配置されたレンズの近傍にプリズムシートを配置し、面光源からプリズムシートまでの距離と面光源の有効径との関係を最適にすることにより、左右方向により大きな面光源を形成し、より大きな開口角で標本を照明することができるようにしたものが開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−151351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の照明装置では、左右方向により大きな面光源を形成するための条件は考慮されているが、対物レンズと変倍光学系と結像レンズとからなる結像光学系に必要とされる光線を供給するための条件は考慮されていない。例えば、瞳位置が比較的標本面から遠い低倍の対物レンズでは主光線の角度は小さいため、面光源を拡大しすぎると効率が悪化し、明るさが低下してしまう。一方、瞳位置が標本面に近い高倍の対物レンズでは主光線の角度が大きいため、面光源の拡大が不十分だと左右方向のシェーディングが生じてしまう。特に、軸間距離が大きな実体顕微鏡においては、低倍の対物レンズの瞳位置と高倍の対物レンズの瞳位置との差が大きくなり、主光線の角度の違いが大きくなるため、結像光学系に合わせて最適な条件で照明することが必要とされる。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、倍率の異なる複数の対物レンズを切り替えて使用する場合にも、効率良く、標本を一様に照明することが可能な実体顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するため、本発明は、ステージ上に載置された標本からの光を略平行光束に変換する対物レンズと、前記対物レンズからの光束を受けて平行光束を射出する左眼用と右眼用の一対の変倍光学系と、前記一対の変倍光学系からの光束を受けて左右の像を形成する左眼用と右眼用の一対の結像レンズと、前記対物レンズと対向する方向から前記標本を照明する照明装置とを有する実体顕微鏡であって、前記照明装置は、1次元
方向に周期的な構造を持ち、照明用光源からの照明光束を前記一対の変倍光学系の光軸を含む平面と略平行な面内を異なる方向に延びる光束に分散して前記標本を照明する光束分散部材を有し、以下の条件式を満足する。
d/{2(flow)}≦(n−1)・δave≦d/{2(fhigh)}
但し、d:一対の変倍光学系の光軸間距離、flow:最低倍の前記対物レンズの焦点距離、fhigh:最高倍の前記対物レンズの焦点距離、δave:前記光束分散部材の各構造への入射光が入射面の法線となす角δの平均値、n:前記光束分散部材の屈折率。
【0009】
なお、本発明において、前記照明装置は、偏斜照明用の機構を備えていることが好ましい。
【0010】
また、本発明において、前記偏斜照明用の機構は、前記コレクタレンズと前記光束分散部材との間に配置され、前記コレクタレンズからの光束の一部を遮蔽する遮蔽部材を有することが好ましい。
【0011】
また、本発明において、前記遮蔽部材は、前記対物レンズの瞳共役位置に配置されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明において、前記偏斜照明用の機構は、前記コレクタレンズと前記光束分散部材との間に配置され、前記コレクタレンズからの光束を前記標本に向けて偏向する偏向ミラーを有し、前記偏向ミラーは、回転可能であり、反射後の照明光束の方向を調整し得るものであり、前記光束分散部材は、前記偏向ミラーにより角度が調整された照明光束を、前記一対の変倍光学系の光軸を含む平面と略平行な面内を異なる方向に延びる光束に分散して前記標本を直接照明することが好ましい。
【0013】
また、本発明において、前記光束分散部材は、断面が山形をなす複数の細長プリズムを平行に並べて構成された表面と、平坦なシート裏面とを備えたプリズムシートであり、前記プリズムシートは、前記照明光束が前記プリズムの形成された表面から入射して前記シート裏面から射出し、且つ、前記各プリズムの稜線が前記一対の変倍光学系の光軸を含む平面に対して垂直な方向に延びるように配置されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明において、前記光束分散部材は、複数の細長シリンドリカルレンズを平行に並べて構成された表面と、平坦なシート裏面とを備えたレンチキュラーシートであり、
前記レンチキュラーシートは、前記照明光束が前記シリンドリカルレンズの形成された表面から入射して前記シート裏面から射出し、且つ、前記各シリンドリカルレンズの長手方向が前記一対の変倍光学系の光軸を含む平面に対して垂直な方向に延びるように配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、倍率の異なる複数の対物レンズを切り替えて使用する場合にも、効率良く、標本を一様に照明することが可能な実体顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態に係る照明装置の構成概略図であり、(a)はYZ断面図を、(b)はXZ断面図をそれぞれ示す。
【図2】本実施形態に係る照明装置を有する実体顕微鏡の構成概略図である。
【図3】本実施形態に係る照明装置を構成するプリズムシートを示す斜視図である。
【図4】本実施形態に係る照明装置を構成するプリズムシートの作用を示す断面図である。
【図5】本実施形態に係る照明装置における遮蔽板の作用を説明する図であり、(a)は遮蔽板が光路中に挿入されていない場合を、(b)は遮蔽板が光路中に挿入された場合をそれぞれ示す。
【図6】本実施形態に係る照明装置が複数のコンデンサレンズを有する場合の構成概略図であり、(a)はYZ断面図を、(b)はXZ断面図をそれぞれ示す。
【図7】本実施形態に係る照明装置が複数のコンデンサレンズと複数のプリズムシートとを有する場合の構成概略図であり、(a)はYZ断面図を、(b)はXZ断面図をそれぞれ示す。
【図8】本実施形態に係る照明装置がコンデンサレンズとプリズムシートとからなる複数のユニットを有する場合の構成概略図であり、(a)はYZ断面図を、(b)はXZ断面図をそれぞれ示す。
【図9】本実施形態に係る実体顕微鏡の標本面からズームレンズに至るまでの光学系の概略構成図とこのときの対物レンズの開口数について説明する図であり、(a)は最低倍の対物レンズを利用した場合を、(b)は最高倍の対物レンズを利用した場合をそれぞれ示す。
【図10】本実施形態に係る照明装置を構成するレンチキュラーシートの説明図であり、(a)はレンチキュラーシートの作用を示す断面図を、(b)はレンチキュラーシートの一部を拡大した図を、(c)はレンチキュラーシート表面に形成されたシリンドリカルレンズにおける光線の入射位置xと入射角度δとの関係を示す図をそれぞれ示す。
【図11】他の実施形態に係る照明装置の構成概略図であり、(a)はYZ断面図を、(b)はXZ断面図をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を用いて説明する。本実施形態に係る照明装置は、図1に示すように、照明用光源11と、コレクタレンズ12と、リレーレンズ13と、遮蔽板14と、固定の偏向ミラー15と、コンデンサレンズ16と、光束分散部材17とを有する。
【0018】
実体顕微鏡は、図2に示すように、前記照明装置と、標本21を保持するステージガラス22と、一対の観察光学系とを有する。前記一対の観察光学系は、開き角βで設定された光軸27a,27b上にそれぞれ配置された、標本21からの光を平行光束に変換する対物レンズ23と、対物レンズ23からの光束を受けて平行光束を射出する左眼用と右眼用の一対のズームレンズ24a,24bと、これら一対のズームレンズ24a,24bからの光束を受けて左右の像を形成する左眼用と右眼用の一対の結像レンズ25a,25bと、これら一対の結像レンズ25a,25bにより形成された像を観察するための左眼用と右眼用の一対の接眼レンズ26a,26bとを有する。また、光軸27a,27bは、照明装置の光軸18の延長線である対称軸27を中心として対称に位置している。
【0019】
前記照明装置を構成する光束分散部材17は、図3に示すように、断面が山形をなす複数の細長プリズム17pを平行に並べて構成された表面と、平坦なシート裏面とを備えたプリズムシートである。各細長プリズム17pは、一対の傾斜面17a,17bから構成され、これらの傾斜面17a,17bの交線は細長プリズム17pの稜線17cである。このプリズムシート17は、照明光束が複数の細長プリズム17pが形成された表面から入射してシート裏面から射出し、且つ、各細長プリズム17pの稜線17cが一対の観察光学系の光軸27a,27b(図2参照)を含む平面に対して垂直な方向に延びるように、ステージガラス22と照明装置のコンデンサレンズ16との間に配置される。また、図4に示すように、前記プリズムシート17に平行光束が入射すると、射出光束は偏向角αだけ偏向される。
【0020】
なお、各プリズム17pの頂角θは、観察光学系の光軸27aと27bとの開き角βと前記偏向角αとの関係がα=β/2となるように、前記開き角βや、材料の屈折率等を考
慮して設定する。
【0021】
前記照明装置を構成する遮蔽板14は、実体顕微鏡の対物レンズ23の瞳位置に対して略共役な位置に配置され、(対物レンズ23の瞳の共役像に対して)上下に移動させることによって、対物レンズ23の瞳を部分的に遮蔽し、偏斜照明を行う。
【0022】
ここで、遮蔽板14を使った偏斜照明について、図5(a),(b)を用いて説明する。図5(a),(b)はそれぞれ、図1に示す照明装置において遮蔽板14付近に形成される光源像からステージ22に至る光学系をX方向から見た図であり、図中の一点鎖線は光源像の中心Aから、二点鎖線は光源像の周辺Bから、点線は光源像の周辺Cから射出した光線をそれぞれ示す。
【0023】
図5(a)に示すように、遮蔽板14が光路に挿入されていない場合は、光源像の中心A、周辺B、周辺Cからの光線はそれぞれ偏向ミラー15で反射された後、コンデンサレンズ16によって、それぞれ異なる角度を持った略平行光束となり、プリズムシート17を通過する。このときプリズムシート17は、YZ面内における光線の角度を変えない。したがって、それぞれの平行光束は、その角度を保ったまま、ステージガラス22上に載置された標本21を照明する。
【0024】
一方、図5(b)に示すように、遮光板14が光路に挿入され、光源像の中心A、周辺Bからの光線がそれぞれ遮光された場合、周辺Cから射出した光線のみが偏向ミラー15で反射された後、コンデンサレンズ16によってある特定の角度を持った略平行光束となり、プリズムシート17を通過する。このとき上記と同様に、プリズムシート17は、YZ面内における光線の角度を変えない。したがって、周辺Cから射出した光線は、特定の角度を持つ平行光束となって標本21を斜めから照明するので、偏斜照明が可能となる。
【0025】
続いて、実体顕微鏡の動作を説明する。図1に示すように、照明用光源11からの照明光束は、コレクタレンズ12により略平行光束に変換され、リレーレンズ13、遮蔽板14を順に通過して、固定の偏向ミラー15により反射偏向され、コンデンサレンズ16を介して、プリズムシート17へと導かれて一対の観察光学系の光軸27a,27bを含む平面と略平行な面内を異なる方向に延びる光束に分散され、ステージガラス22を通して標本21を直接(偏斜)照明する。
【0026】
標本21を透過した光は、対物レンズ23に入射した後、ズームレンズ24a,24bを介して、結像レンズ25a,25bにより結像される。結像レンズ25a,25bにより結像された標本像28a,28bは、観察者30により接眼レンズ26a,26bを介して観察される。
【0027】
また、上記のように、遮蔽板14を上下方向に移動させてその位置を変えることで標本21への照明光束の入射状態を変更し、対物レンズ23の瞳の一部を遮光することによって偏斜照明を行い、標本21にコントラストを付けて観察することができる。
【0028】
なお、プリズムシート17における分散は、観察光学系の光軸27aと27bとを含む平面(紙面)およびこの紙面に平行な面内において分散されるのであって、光軸27aを含み前記紙面と直交する垂直平面内、または光軸27bを含み前記紙面と直交する垂直平面内においては、分散されない。したがって、プリズムシート17を用いた前記照明装置は、コンデンサレンズ16からの光束のほぼ全光束を光軸27a,27bに対して略平行な方向にのみ偏向するため、極めて照明効率が良く、偏向された照明光束は光軸27a,27bにほぼ沿った照明光束となるので照明ムラもない。また、実体顕微鏡の全体構成を考えた場合に、標本21の下方にプリズムシート17を配置するだけの簡単な構成で済む
ため、従来のものと比べて装置が大型化する心配もない。
【0029】
本実施形態において、前記照明装置は、図6(a),(b)に示すように、倍率の異なる複数の対物レンズ23(不図示)と、ターレット状の金物19Aに収められ、前記対物レンズ23に応じた焦点距離の異なる複数のコンデンサレンズ16、16´とを有し、対物レンズ23が交換された場合には、ターレット19Aを回転させて前記対物レンズ23に応じたコンデンサレンズ16(16´)に交換できるように構成することも可能である。このような構成によれば、対物レンズ23を交換しても、瞳共役位置を常に遮蔽板14の近傍に設定することができる。
【0030】
また、本実施形態において、前記照明装置は、図7(a),(b)に示すように、倍率の異なる複数の対物レンズ23(不図示)と、ターレット状の金物19Bに収められ、焦点距離の異なる複数のコンデンサレンズ16、16´と、ターレット状の金物19Cに収められ、表面に形成された細長プリズム(不図示)の頂角が異なる複数のプリズムシート17、17´とを有し、対物レンズ23が交換された場合には、前記ターレット19B、19Cをそれぞれ回転させて、前記対物レンズ23に応じたコンデンサレンズおよびプリズムシートに交換できるように構成することも可能である。このような構成によれば、対物レンズ23を交換しても、瞳共役位置を、常に遮蔽板14の近傍に設定することができる。また、照明光束の偏向角の調整が可能であるため、照明ムラを良好に抑えることができる。
【0031】
また、本実施形態において、前記照明装置は、図8(a),(b)に示すように、倍率の異なる複数の対物レンズ23(不図示)と、ターレット状の金物19Dに収められ、前記対物レンズに応じてコンデンサレンズ16(16´)とプリズムシート17(17´)とが組み合わされた複数のユニットとを有し、対物レンズ23が交換された場合にはそれに応じたユニットに交換できるように構成することも可能である。このような構成によれば、対物レンズ23を交換しても、瞳共役位置を、常に遮蔽板14の近傍に設定することが可能となる。また、コンデンサレンズ16とプリズムシート17とがユニット化されているため、これらの交換作業を容易に行うことができる。
【0032】
なお、上記のように、倍率の異なる複数の対物レンズ23(不図示)を有する場合、一対のズームレンズ24a,24bの軸間距離をdとし、最低倍の対物レンズ23(23L)の焦点距離をflowとし、最高倍の対物レンズ23(23H)の焦点距離をfhighとし、プリズムシート17の表面に形成された細長プリズム17pの頂角をθとし、プリズムシート17の屈折率をnとしたとき、以下の条件式(1)を満足することが望ましい。
【0033】
d/{2(flow)}≦(n−1)・(π−θ)/2≦d/{2(fhigh)}…(1)
【0034】
各細長プリズム17Pへの入射光が入射面の法線となす角をδとし、その平均値をδaveとすると、(π−θ)/2=δなので、以下の条件式(1´)となる。
【0035】
d/{2(flow)}≦(n−1)・δave≦d/{2(fhigh)}…(1´)
【0036】
上記条件式(1)は、プリズムシート17の頂角θと、対物レンズ23の開口数とに関する条件式である。この条件式(1)の効果について、図4および図9(a),(b)を用いて説明する。
【0037】
図4に示すように、プリズムシート17の各細長プリズム17pの頂角をθとし、プリズムシート17の屈折率をnとしたとき、該プリズムシート17への入射光と射出光とのなす角度α(偏向角)は、sinθ≒θと近似すると、以下の式(2)で表される。
【0038】
α=(n−1)・(π−θ)/2 …(2)
【0039】
図9(a)に示すように、最低倍の対物レンズ23Lの焦点距離をflowとし、軸間距離、すなわち一対のズームレンズ24a,24bの光軸27a,27b間の距離をdとしたとき、ズームレンズ24a,24bの光軸27a,27bを通る光線の標本21からの射出角NAlowは、以下の式(3)で表される。
【0040】
NAlow=d/{2(flow)} …(3)
【0041】
また、図9(b)に示すように、最高倍の対物レンズ23Hの焦点距離をfhighとし、軸間距離、すなわち2本のズームレンズ24a,24bの光軸27a,27b間の距離をdとしたとき、ズームレンズ24a,24bの光軸27a,27bを通る光線の標本21からの射出角NAhighは、以下の式(4)で表される。
【0042】
NAhigh=d/{2(fhigh)} …(4)
【0043】
このような複数の対物レンズに対して同一のプリズムシート17を用いる場合は、照明光束の角度αが、最低倍の対物レンズ23Lでの開口数と最高倍の対物レンズ23Hでの開口数との間となるように設定すること、すなわち以下の式(5)を満たすことが最適となる。
【0044】
NAlow ≦ α ≦ NAhigh …(5)
【0045】
式(5)に、式(2)〜式(4)を代入すれば、上記の条件式(1)が得られる。したがって、プリズムシート17は、条件式(1)を満たすことで、射出する照明光束の角度を最適とすることが可能となる。
【0046】
例えば、軸間距離が26mm、最低倍の対物レンズ23Lの焦点距離が160mm、最高倍の対物レンズ23Hの焦点距離が40mmの実体顕微鏡においては、屈折率が1.5、頂角が105〜160度のプリズムシートを用いればよい。
【0047】
また、図7や図8に示すように、対物レンズ23の倍率に応じて複数のプリズムシート17を切り換えて用いる場合、使用する対物レンズ23の焦点距離をfとし、これに対応するプリズムシート17の表面に形成された各プリズム17pの頂角θとしたとき、下記の条件式(6)を満たすことが望ましい。
【0048】
0.8d/2f<(n−1)・(π−θ)/2<1.2d/2f … (6)
【0049】
上記の条件式(6)を満たすようなプリズムシート17を用いることで、各対物レンズ23の開口数に合わせた最適な角度の照明光束を得ることが可能となる。
【0050】
例えば、軸間距離が26mmの実体顕微鏡において、焦点距離が80mmの対物レンズ23を用いる場合には、屈折率が1.5、頂角が135〜150度のプリズムシート17を用いればよい。また、焦点距離が40mmの対物レンズ23を用いる場合には、屈折率が1.5、頂角が90〜120度のプリズムシートを用いればよい。
【0051】
本実施形態では、光束分散部材17として、プリズムシートに換えて、レンチキュラーシートを用いることも可能である。
【0052】
図10(a)に示すように、レンチキュラーシート37は、複数の細長シリンドリカルレンズ37aを平行に並べて構成された表面と、平坦なシート裏面とを備えて構成されたものであり、照明光束が複数の細長シリンドリカルレンズ37aが形成された表面から入射してシート裏面から射出し、且つ、各細長シリンドリカルレンズ37aの長手方向が一対の観察光学系の光軸27a,27b(図2参照)を含む平面に対して垂直な方向に延びるように、ステージガラス22と照明装置のコンデンサレンズ16との間に配置される。また、このレンチキュラーシート37に平行光束が入射すると、射出光束はその入射位置にしたがって偏向角αだけ偏向される。すなわち、レンチキュラーシート37は、上記のプリズムシートと同様に、コンデンサレンズ16からの光束のほぼ全光束を光軸27a,27bに対して略平行な方向にのみ偏向角αだけ偏向するため、極めて照明効率が良く、偏向された照明光束は光軸27a,27bにほぼ沿った照明光束となるので照明ムラもない。
【0053】
前記レンチキュラーシート37を光束分散部材として採用した照明装置において、倍率の異なる複数の対物レンズ23(不図示)を有する場合、一対のズームレンズ24a,24bの軸間距離をdとし、最低倍の対物レンズ23(23L)の焦点距離をflowとし、最高倍の対物レンズ23(23H)の焦点距離をfhighとし、各細長シリンドリカルレンズ37aへの入射光が入射面の法線となす角δの平均値をδaveとし、レンチキュラーシート37の屈折率をnとしたとき、下記の条件式(7)を満たすことが望ましい。
【0054】
d/{2(flow)}≦(n−1)・δave≦d/{2(fhigh)} …(7)
【0055】
上記条件式(7)は、レンチキュラーシート37への入射光が入射面の法線となす角δと、対物レンズ23の開口数とに関する条件式である。この条件式(7)の効果について、図10(a)〜(c)を用いて説明する。
【0056】
図10(a),(b)に示すように、レンチキュラーシート37の各細長シリンドリカルレンズ37aへの入射光が入射面の法線となす角をδとし、該レンチキュラーシート37の屈折率をnとしたとき、各細長シリンドリカルレンズ37aへの入射光と射出光とのなす角α(偏向角)は、sinθ≒θと近似すると、以下の式(8)で表される。
【0057】
α=(n−1)・δ …(8)
【0058】
レンチキュラーシート37は、プリズムシートと異なり、光線の入射位置によって入射面に対する前記入射光線の角度が異なる。図10(c)に、光線の入射位置x(細長シリンドリカルレンズ37aの円弧中心軸37mからの距離)と入射角度δとの関係の一例を示すように、x=0(すなわち円弧中心軸37m)ではδ=0となり、xが大きくなる(すなわち円弧中心軸37mから離れる)につれてδも大きくなる。この図に示すレンチキュラーシート37においては、入射角度δの平均値δaveは0.22rad(12.6度)となる。このような性質を持つレンチキュラーシート37に入射する照明光束の角度の平均値αaveは、以下の式(9)で表される。
【0059】
αave=(n−1)・δave …(9)
【0060】
ここで、最低倍の対物レンズ23Lの焦点距離をflowとし、軸間距離、すなわち一対のズームレンズ24a,24bの光軸間の距離をdとしたとき、ズームレンズ24a,24bの光軸を通る光線の前記対物レンズ23Lへの入射角NAlowは、上記のプリズムシートの場合と同様に(図9(a)参照)、以下の式(3)´で表される。
【0061】
NAlow=d/{2(flow)} …(3)´
【0062】
また、最高倍の対物レンズ23Hの焦点距離をfhighとし、軸間距離、すなわち2本のズームレンズ24a,24bの光軸間の距離をdとしたとき、ズームレンズ24a,24bの光軸を通る光線の前記対物レンズ23Hへの入射角NAhighは、上記のプリズムシートの場合と同様に(図9(b)参照)、以下の式(4)´で表される。
【0063】
NAhigh=d/{2(fhigh)} …(4)´
【0064】
このような複数の対物レンズに対して同一のレンチキュラーシート37を用いる場合は、照明光束の角度αが、最低倍の対物レンズ23Lでの開口数と最高倍の対物レンズ23Hでの開口数との間となるように設定すること、すなわち以下の式(10)を満たすことが最適となる。
【0065】
NAlow ≦ αave ≦ NAhigh …(10)
【0066】
式(10)に、式(3)´、式(4)´および式(9)を代入すれば、上記の条件式(7)が得られる。したがって、レンチキュラーシート37は、条件式(7)を満たすことで、射出する照明光束の角度を最適とすることが可能となる。
【0067】
例えば、軸間距離が26mm、最低倍の対物レンズ23Lの焦点距離が160mm、最高倍の対物レンズ23Hの焦点距離が40mmの実体顕微鏡においては、屈折率が1.5、各シリンドリカルレンズ37pへの入射光が入射面の法線となす角の平均値が9〜37度のレンチキュラーシート37を用いればよい。
【0068】
また、前記レンチキュラーシート37を光束分散部材として採用した照明装置において、対物レンズ23の倍率に応じて複数のレンチキュラーシート37を切り換えて用いる場合、使用する対物レンズ23の焦点距離をfとし、これに対応するレンチキュラーシート37の表面に形成された各細長シリンドリカルレンズ37aへの入射光が入射面の法線となる角の平均値をδaveとしたとき、以下の条件式(11)を満たすことが望ましい。
【0069】
0.8d/2f≦(n−1)δave≦1.2d/2f …(11)
【0070】
上記の条件式(11)を満たすようなレンチキュラーシート37を用いることで、各対物レンズ23の開口数に合わせた最適な角度の照明光束を得ることが可能となる。
【0071】
例えば、軸間距離が26mmの実体顕微鏡において、焦点距離が80mmの対物レンズ23を用いる場合には、屈折率が1.5、各シリンドリカルレンズ37aへの入射光が入射面の法線となす角の平均値が15〜22度のレンチキュラーシート37を用いればよい。また、焦点距離が40mmの対物レンズ23を用いる場合には、屈折率が1.5、各シリンドリカルレンズ37aへの入射光が入射面の法線となす角の平均値が30〜45度のレンチキュラーシート37を用いればよい。
【0072】
また、本実施形態においては、プリズムシート17(またはレンチキュラーシート37)からステージ22までの距離をDとし、プリズムシート17の表面に並設された各細長プリズム17p(レンチキュラーシート37の場合は、その表面に並設された各シリンドリカルレンズ37a)のピッチをpとし、照明光束の主波長をλとしたとき、以下の条件式(12)を満たすことが望ましい。
【0073】
2p2<λD …(12)
【0074】
上記条件式(12)は、プリズムシート17の各プリズム17p(またはレンチキュラーシート37の各シリンドリカルレンズ37a)のピッチとその配置位置に関する条件式である。
【0075】
標本21を観察する際にプリズムシート17(またはレンチキュラーシート37)の構造が見えないようにするためには、プリズムシート17(またはレンチキュラーシート37)から標本21を載置しているステージ22までの距離を対物レンズ23の焦点深度より深くする必要がある。すなわち、プリズムシート17(またはレンチキュラーシート37)からステージ22までの距離をDとし、対物レンズ23の開口数をNAとし、照明光束の主波長をλとしたとき、以下の式(13)を満たす必要がある。
【0076】
λ/{2(NA)2}<D …(13)
【0077】
また、プリズムシート17の各プリズム17p(またはレンチキュラーシート37の各シリンドリカルレンズ37a)のピッチpが、対物レンズ23の分解能より小さければ、その構造が見えることはない。したがって、以下の式(14)を満たせばよい。
【0078】
p<λ/{2(NA)} …(14)
【0079】
式(13),(14)からそれぞれNAを消去すると、上記の条件式(12)が得られる。この条件式(12)を満たすように照明装置を構成すれば、対物レンズ23の開口数NAに関わらず、プリズムシート17(またはレンチキュラーシート37)の構造が見えることはない。
【0080】
例えば、ピッチが30μmの場合は、プリズムシート17(またはレンチキュラーシート37)を3.3mm以上ステージ22から離して配置することが望ましい。また、ピッチが50μmの場合は、プリズムシート17(またはレンチキュラーシート37)を9.1mm以上ステージ22から離して配置することが望ましい。
【0081】
なお、本実施形態においては、(上記のように遮蔽板14を用いるのではなく)回転可能な偏向ミラー15´を用いて、偏斜照明を行うように照明装置を構成することも可能である。図11に示すように、照明用光源11から光束分散部材17までの間に、コレクタレンズ12と、コレクタレンズ12からの光束を標本に向けて偏向する偏向ミラー15´とを配置する。この偏向ミラー15´は、X軸周りに回転可能であり、反射後の照明光束の方向を調整し得るものである。この構成によれば、光源11から射出された光は、コレクタレンズ12によって略平行光束となった後、偏向ミラー15´によって反射されて光束分散部材17を通過し、ステージガラス22の上に載置された標本21を下方から照明する。そして、偏向ミラー15´を回転させることで、標本21への照明光束の入射角度を変え、偏斜照明を実施することが可能である。
【0082】
また、本実施形態の照明装置は、照明用光源11と、コレクタレンズ12と、リレーレンズ13と、遮蔽板14と、固定の偏向ミラー15と、コンデンサレンズ16と、光束分散部材17を有する例を用いて説明したが、照明用光源及び導光板からなる面光源部と、光束分散部材とを有する照明装置であってもよい。
【0083】
これまで図面を参照しながら本発明の実施形態を述べたが、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0084】
11 照明用光源
12 コレクタレンズ
13 リレーレンズ
14 遮蔽板
15,15´ 偏向ミラー
16 コンデンサレンズ
17 プリズムシート(光束分散部材)
21 標本
22 ステージガラス
23 対物レンズ
24a,24b ズームレンズ(変倍光学系)
25a,25b 結像レンズ
26a,26b 接眼レンズ
37 レンチキュラーシート(光束分散部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージ上に載置された標本からの光を略平行光束に変換する対物レンズと、
前記対物レンズからの光束を受けて平行光束を射出する左眼用と右眼用の一対の変倍光学系と、
前記一対の変倍光学系からの光束を受けて左右の像を形成する左眼用と右眼用の一対の結像レンズと、
前記対物レンズと対向する方向から前記標本を照明する照明装置とを有する実体顕微鏡であって、
前記照明装置は、1次元方向に周期的な構造を持ち、照明用光源からの照明光束を前記一対の変倍光学系の光軸を含む平面と略平行な面内を異なる方向に延びる光束に分散して前記標本を照明する光束分散部材を有し、以下の条件式を満足することを特徴とする実体顕微鏡。
d/{2(flow)}≦(n−1)・δave≦d/{2(fhigh)}
但し、
d:一対の変倍光学系の光軸間距離、
low:最低倍の前記対物レンズの焦点距離、
high:最高倍の前記対物レンズの焦点距離、
δave:前記光束分散部材の各構造への入射光が入射面の法線となす角δの平均値、
n:前記光束分散部材の屈折率。
【請求項2】
前記照明装置は、偏斜照明用の機構を備えていることを特徴とする請求項1に記載の実体顕微鏡。
【請求項3】
前記偏斜照明用の機構は、前記コレクタレンズと前記光束分散部材との間に配置され、前記コレクタレンズからの光束の一部を遮蔽する遮蔽部材を有することを特徴とする請求項2に記載の実体顕微鏡。
【請求項4】
前記遮蔽部材は、前記対物レンズの瞳共役位置に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の実体顕微鏡。
【請求項5】
前記偏斜照明用の機構は、前記コレクタレンズと前記光束分散部材との間に配置され、前記コレクタレンズからの光束を前記標本に向けて偏向する偏向ミラーを有し、
前記偏向ミラーは、回転可能であり、反射後の照明光束の方向を調整し得るものであり、
前記光束分散部材は、前記偏向ミラーにより角度が調整された照明光束を、前記一対の変倍光学系の光軸を含む平面と略平行な面内を異なる方向に延びる光束に分散して前記標本を直接照明することを特徴とする請求項2に記載の実体顕微鏡。
【請求項6】
前記光束分散部材は、断面が山形をなす複数の細長プリズムを平行に並べて構成された表面と、平坦なシート裏面とを備えたプリズムシートであり、
前記プリズムシートは、前記照明光束が前記プリズムの形成された表面から入射して前記シート裏面から射出し、且つ、前記各プリズムの稜線が前記一対の変倍光学系の光軸を含む平面に対して垂直な方向に延びるように配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の実体顕微鏡。
【請求項7】
前記光束分散部材は、複数の細長シリンドリカルレンズを平行に並べて構成された表面と、平坦なシート裏面とを備えたレンチキュラーシートであり、
前記レンチキュラーシートは、前記照明光束が前記シリンドリカルレンズの形成された表面から入射して前記シート裏面から射出し、且つ、前記各シリンドリカルレンズの長手
方向が前記一対の変倍光学系の光軸を含む平面に対して垂直な方向に延びるように配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の実体顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−168302(P2012−168302A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28193(P2011−28193)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】