説明

実質的に非多孔性のイオン伝導性膜を有するナトリウム−硫黄電池および高機能カソード利用

本発明の1つの実施態様として、ナトリウム含有アノード(102)及び元素状硫黄からなるカソード(104)を含むナトリウム−硫黄電池(100)が開示される。カソード(104)は、元素状硫黄およびNaの少なくとも一部を溶解するように選択された少なくとも1種の溶媒を含む。実質的に非多孔性ナトリウムイオン伝導膜(106)がアノード(102)とカソード(104)との間に配置され、硫黄または他の反応性物質がそれらの間を移動することを防ぐ。ある実施態様において、ナトリウム−硫黄電池(100)は、アノード(102)と非多孔性ナトリウムイオン伝導膜(106)との間にセパレーターを有する。セパレーターは、アノード(102)中のナトリウムが非多孔性ナトリウムイオン伝導膜(106)と反応することを防ぐ。ある実施態様において、セパレーターは、ナトリウムイオン伝導電解質が浸透した多孔性セパレーターである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、「実質的に非多孔性のイオン伝導性膜を有するナトリウム−硫黄電池および高機能カソード利用」という発明の名称を有する2009年3月16日出願の米国仮特許出願第61/160621号を優先権主張する出願である。この仮特許出願は、「非多孔性セパレーターを有する高レートリチウム−硫黄電池」という発明の名称を有する2007年9月5日出願の米国仮特許出願第60/970178号を優先権主張する、「実質的に非多孔性のイオン伝導性膜を有するリチウム−硫黄電池および高機能カソード利用」という発明の名称を有する2008年9月5日出願の米国特許出願第12/205759号を優先権主張する継続出願でもある。これらの出願は本発明に参照として引用される。
【0002】
本発明は電池に関し、詳しくは、性能を改良したナトリウム−硫黄電池の装置および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
今日の社会では、コンピューター、携帯電話、携帯音楽プレーヤー、照明器具、更には数多くの電子部品などの無数の装置への電源供給のための電池(バッテリー)への依存が高まってきている。それにもかかわらず、電池技術における更なる進歩の必要性が継続している。例えば、自動車を駆動させたり、風力、太陽光または他のエネルギー技術のための負荷平準化能力を供給できる経済的な電池の必要性が、今なお重要である。更に、「情報化時代」において、より軽く、高エネルギーで、放電時間が長く、サイクル数がより多く、より小型化特注生産可能な携帯エネルギー源の要求がますます高まっている。これらの進歩を達成するために、技術者は、安全であり、電力密度、コストやその他の必要な性能について許容できるより高いエネルギー密度を有する電池の開発に従事している。
【0004】
ナトリウム−硫黄(Na−S)電池は、上述の必要性の多くに合致する大きな可能性を提供する。ナトリウム−硫黄電池の理論的な比エネルギーは792W時/kgであり、以下の反応が想定されている。
【0005】
2Na+3S→Na
【0006】
これは、非ガス成分を使用するバッテリーにおける比エネルギーが最も高いものの1つとして知られている。これらのバッテリーを製造するのに必要とされる材料は、軽く、エネルギーに富み、安価であり、容易に入手できる。ほとんどのカソード材料と対照的に、硫黄は比較的毒性も無く、これらの電池は人間が触れても比較的安全である。
【0007】
ナトリウム−硫黄電池は、作動温度250℃を超え、典型的には300〜350℃であるが、有る程度商用化しつつある。電池は、高温での良好な伝導性が必要とされるために、βアルミナ又はβアルミナ膜を使用する。更に、ナトリウムアノード及び硫黄カソードはこれらの温度において融解する。何人かの研究者は、多孔性膜セパレーターを使用した低温ナトリウム−硫黄電池を研究している。そのような再充電可能なナトリウム−硫黄電池は、幾つかの問題点により商用化に至っていない。これらの問題点とは、(1)サイクルにより急速に容量が低下、(2)高い自己放電、および(3)低いカソードの利用効率である。(1)、(2)の問題点はサイクルによる容量減少と高自己放電に関するものである。ナトリウムポリスルフィド等のカソードの構成の幾つかが、特に電解質に可溶であるために、これらの問題が主として生じる。多孔性または細孔性セパレーターを使用した場合、これらのカソード構成材は、サイクルを重ねる毎にアノード移動する傾向があり、その結果、不可逆的な容量損失を引起す。上述の見地から、必要とされていることは、サイクルによる容量減少および自己放電を減少させた良好なカソードの利用を有するリチウム−硫黄電池である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑み、上記技術分野において未だに十分に解決されていない問題、すなわち、現在のナトリウム−硫黄電池、特に200℃未満での作動を意図した現在のナトリウム−硫黄電池では解決できていない上記問題点と必要性に応えるためになされたものである。従って、本発明は、ナトリウム−硫黄電池の性能を改善する装置および方法を提供するものである。本発明の要旨および効果は、以下の記載および添付の特許請求の範囲により十分に明らかになるであろう。また、以下に記載される発明を実践することによってもわかるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述に一致し、ここに幅広く具体化され、記載される本発明に従い、ナトリウム含有アノードと元素状硫黄から成るカソードを含むナトリウム−硫黄電池が本発明の1実施態様として開示される。カソードは、元素状硫黄およびNaを少なくとも一部溶解する少なくとも1種の溶媒を含む。実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜がアノードとカソードとの間に配置され、硫黄や他の反応性物質がアノードとカソードとの間を移動しないようにする。電池は、約200℃未満の温度で操作されるように構成されている。
【0010】
ある実施態様において、ナトリウム−硫黄電池は、アノードと実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜との間にセパレーターを有する。これは、アノード中のナトリウムと実質的に非多孔性のイオン伝導性膜とが反応しないようにする。ある実施態様において、セパレーターは、ナトリウムイオン伝導電解質を浸透させた多孔性セパレーターである。
【0011】
ある実施態様において、非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜は薄いNASICON膜である。ある実施態様において、NASICON膜は封孔剤で孔を充填処理してわずかに多孔性を有し、それにより膜を実質的に非多孔性とする。ある実施態様において、例えば1つ以上の多孔性NASICON層のような多孔性構造層が実質的に非多孔性のイオン伝導性膜の少なくとも片面に接続されており、実質的に非多孔性のイオン伝導性膜を支持する。
【0012】
他の実施態様において、本発明に従った方法は、ナトリウム含有アノードにおいてナトリウムイオンを発生させる工程を含む。これらのナトリウムイオンは、実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜を介してカソードに移送される。カソードにおいては、少なくとも1種の溶媒に少なくとも一部が溶解する元素状硫黄と、ナトリウムイオンとが反応する。この反応はNaを発生させ、少なくとも1種の溶媒に少なくとも一部のNaもまた溶解する。ある実施態様において、この方法は、更に、ナトリウム含有アノードが実質的に非多孔性のイオン伝導性膜と反応しないように、ナトリウム含有アノードと実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜との間を分離する工程を含む。この分離する工程は、例えば、ナトリウム含有アノードと実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜との間に多孔性セパレーターを配置することで達成される。
【0013】
本発明は、従来のナトリウム−硫黄電池における種々の制限を克服した改良されたナトリウム−硫黄電池を提供する。本発明の要旨および利点は以下の記載および付随する特許請求の範囲によって、または以下に記載の発明を実践することにより明らかになるであろう。
【0014】
本発明の利点をより分かりやすく理解するために、上述簡単に記載した本発明のより詳細な記載を、添付の図面に図示された特定の実施態様を参照することによって表す。これらの図面は本発明の代表的な実施態様を示すものであり、本発明の要旨はこれらに限定ないと理解すべきである。本発明は、添付の図面の使用を通じ、更なる特徴や詳細が記載・説明される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、現在のナトリウム−硫黄電池、特に200℃未満での作動を意図した現在のナトリウム−硫黄電池における問題点を解決したナトリウム−硫黄電池の性能を改善する装置および方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、負荷をかけたナトリウム−硫黄電池の1実施態様を示すハイレベル・ブロック図である。
【図2】図2は、充電中のナトリウム−硫黄電池の1実施態様を示すハイレベル・ブロック図である。
【図3】図3は、非多孔性のイオン伝導性膜とナトリウム含有アニオンとの間にセパレーターを有するナトリウム−硫黄電池の1実施態様を示すハイレベル・ブロック図である。
【図4】図4は、本発明のナトリウム−硫黄電池の他の実施態様を示すハイレベル・ブロック図である。
【図5】図5は、本発明のナトリウム−硫黄電池の1実施態様の斜視図である。
【図6】図6は、図5のナトリウム−硫黄電池の部分垂直断面図である。
【図7】図7は、本発明のナトリウム−硫黄電池に使用されるNASICONセラミックの1処方の固体状態を示すプロットである。
【図8】図8は、非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜を有するナトリウム−硫黄電池の作動における充放電特性を示すプロットである。
【図9】図9は、電流密度を変化させた際の比エネルギー対サイクル数を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に記載され、図面に図示される本発明の構成要素は、幅広く種々の異なる構造に配置および設計することが出来ることは容易に理解できるであろう。それ故、以下の図面に代表される本発明の実施態様のより詳細な説明は、特許請求の範囲の本発明を限定するものではなく、本発明に従い現在予期される実施態様のある実施例の代表に過ぎない。明細書を通じて、類似の構成要素は類似の符号で表され、ここに記載された実施態様は図面を参照することにより最もよく理解できるであろう。
【0018】
図1は、負荷をかけたナトリウム−硫黄電池100の1実施態様を示す。一般に、従来技術における種々の問題点を解決した本発明のナトリウム−硫黄電池100は、ナトリウム含有アノード102、硫黄含有カソード104及び実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜106を含む。この実施態様において、実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜106は、薄くて高密度の実質的に非多孔性の層106aが、それより厚くてより密度の低い多孔性の層106b及び106cに直接または近傍で挟まれた構成を有する。多孔性の層106b及び106cは、非多孔性の層106の機械的支持能を付与するだけでなく、多孔性の層の孔が液体電解質(例えばカソード及び/又はアノード電解質)を透過させることにも寄与する。金属スクリーン又はメッシュ等の集電体108及び110はアノード102及びカソード104内にそれぞれ接触または組込むように配置させ、アノード102及びカソード104へ及びそれらから電流を導通させる。
【0019】
ある実施態様において、ナトリウム含有アノード102は、ナトリウム金属、ナトリウム金属を含有する炭素マトリックス又は他のナトリウム含有材料または複合材を有する。ある実施態様において、電池100の特異な設計では、金属ナトリウムアノードの使用が可能である。金属ナトリウムアノード102の安全性は以下のようにして保つ。先ず、実質的に非多孔性の膜106が、樹状のショートを防ぐ(ショート(漏電、短絡)は薄い針状ナトリウム結晶が再充電の際に形成し、微小孔性セパレーターを突き抜けた時に起る)。第2に、塩化ナトリウムやヨウ化ナトリウム等の非還元性塩が、アノード102中の電解質として使用され、アノード102がそれらと反応する可能性を減じている。
【0020】
カソード104は、元素状硫黄(代表的には固体状S分子)およびNа(ナトリウムモノスルフィド及び/又はポリスルフィド)と、元素状硫黄およびNаを少なくとも部分的に溶解する1つ以上の溶媒を有する。溶媒は、元素状硫黄およびNаの移動性を向上させ、カソードにおいて起る反応に十分に加わることを助ける働きがある。この移動性の向上はカソードの有効利用を特に改良する。ある実施態様において、スーパーPカーボン等の電子伝導体が溶媒混合物の電子伝導性を向上させるために溶媒に添加される。
【0021】
ある実施態様において、元素状硫黄および/またはNаを少なくとも部分的に溶解するために、1つ以上の溶媒が選択される。溶媒は、更に、理想的には比較的高い沸点を有する。Nаは極性を有するため、ある実施態様において、Nаを少なくとも部分的に溶解するために、極性溶媒が選択される。同様に、元素状硫黄は非極性のため、元素状硫黄を少なくとも部分的に溶解するために、非極性溶媒が選択される。というものの、一般的に、これらの溶媒は、元素状硫黄および/またはNаを少なくとも部分的に溶解するのに効果的である単独または混合溶媒を含む。
【0022】
例えば、本発明者等は、Naを溶解するのに好適な極性溶媒であるテトラグリム(TG)もまた、硫黄をかなり部分的に溶解することを発見した。それ故、テトラグリム単独または、他の極性溶媒と組合せて、カソード104中の溶媒または混合溶媒としてもっぱらこれのみで使用されてもよい。テトラグリム(及び可能である他の極性溶媒)のこのような性質は従来技術には開示されていない。更に、テトラグリムは、1気圧中、−30℃〜275℃という幅広い温度範囲において液体である。テトラグリムの溶解性は、実質的に非多孔性の膜106を使用した際に特に有効である。カソード104中に使用できる他の溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)及び/又はジメチルアニリン(DMA)が挙げられ、溶解性について以下の表1及び2に示す。DMAは非極性溶媒であり、同じく高い沸点を有し、特に効果的に元素状硫黄を溶解できる。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
上述の様に、電池100は、実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導膜106aを含む。従来の多孔性膜を使用したナトリウム−硫黄電池とは異なり、非多孔性膜106aは、不可逆的な容量損失をもたらす原因である、カソード構成要素が膜106を介してアノード102に移動するのを防ぐ。実質的に非多孔性の膜106aは、カソード混合溶媒が、カソード構成要素を最適な状態で溶解出来るように最適化でき、カソード構成要素がより良いレート特性および/または比容量のために最適化される。例えば、実質的に非多孔性の膜106aを使用することにより、カソード104において、粘性溶媒またはポリ酢酸ビニル(PVA)等のバインダーが不要となる。更に、実質的に非多孔性の膜106aを使用することにより、アノードサイクル特性により適した溶媒および電解質塩をアノード102で使用できる。実質的に非多孔性の膜106aは、幾分、孔を有していてもよく、その孔は例えばポリマー等の封孔剤で充填されて、孔が消されて、アノード102へのカソード構成要素の移動を防いでもよい。
【0026】
ある特定の実施態様において、実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導膜106は、セラマテック・インク(ソルトレークシティー、ユタ州)社製、ナトリウム超イオン伝導体(NASICON)である。この処方に限定されないが、NASICONの一般的組成は、Na1+xZrSi3−x12(0<x,3)である。種々のドーパントがNASICONに添加され、強度、伝導性および/または焼結を改良する。セラマテック社製NASICON材料は、常温で良好なイオン伝導性を示す。この伝導度は固体ポリマー電解質よりも高い値である。更に、NASICON膜106aは、多孔性またはリブ構造の106b、106cを支持すると共に数10ミクロンの厚さで作られ、強度および樹枝状ナトリウム結晶に対する機械的バリヤーを付与する(アノード102上で形成する薄い金属結晶)。セラマテック社製の特殊なNASICON処方のイオン伝導性を以下の表3に示す。更に、図7に、ある処方の固体状態の伝導度のアレニウスプロット(Arrhenius plot)を示す。
【0027】
【表3】

【0028】
NASICON膜106aは、実質的に非多孔性でナトリウムイオン伝導性である1つの材料の候補として挙げたが、膜106aはこれに限定されるわけではない。実際に、他の実質的に非多孔性ナトリウムイオン伝導性材料を膜106aとして使用してもよい。
【0029】
電池100の放電の際、ナトリウム金属がアノード102において酸化され、以下の式に従ってナトリウムイオンと電子が生じる。
【0030】
Na → Na + e
【0031】
発生した電子は負荷112を通して通じ、ナトリウムイオンは膜106を通してカソード104に通じる。カソード104において、ナトリウムイオンは硫黄と反応して高ポリスルフィド(高多硫化物)を形成する(例えば、Na、x=6又は8)。このような高多硫化物は、還元されて低ポリスルフィド(低多硫化物)を形成する(例えば、Na、y=x−2)。低ポリスルフィド(低多硫化物)は更に還元されて、硫化ナトリウム(NaS)を形成する。一般的に、カソード104における反応は、以下の式で示される。
【0032】
初期反応:Na + x/16S + e → 1/2Na
x=4、6又は8
【0033】
中間反応:Na + 1/2Na + e → 1/2Na
x=4、6又は8、y=x−2
【0034】
最終反応:Na + 1/2Na + e → Na
x=4、6又は8
【0035】
全体として、図1に示すように、カソード104において生じる反応は以下の一般式で示される。
【0036】
全体の式:1/16S + Na + e → 1/2Na
【0037】
最初に、カソード104において硫黄がポリスルフィド(多硫化物)に還元されるため、電池の電圧は約2.5Vでスタートする。この電圧は、高ポリスルフィド(高多硫化物)が低ポリスルフィド(低多硫化物)に還元されるために約2.1Vに降圧する。この作用は図8に示す電池放電特性により明らかである。硫化ナトリウムが沈殿するため、電池は分極し、電圧が顕著に降下する。NaがNaSに還元されないことにより、系の容量損失が40%までとなる。それ故、これらの反応生成物を幾分溶解できるカソード溶媒を選択することが重要である。適切に溶媒を選択することにより、硫化ナトリウムの形成の際に認められる分極を減少でき、実質的に避けることが出来る。
【0038】
図2を参照すると、放電中に、NaSがカソードにおいて分解され、以下の式に従って元素状硫黄、ナトリウムイオン及び電子が生成する。
【0039】
1/2NaS → 1/16S + Na + e
【0040】
電子は電源200を介して流れ、ナトリウムイオンは膜106を介してアノード102に流れる。アノード102において、ナトリウムイオンは電子と反応して以下の式に示すようにナトリウム金属を形成する。
【0041】
Na + e → Na
【0042】
カソード104における元素状硫黄およびNaの移動性の改良のため、及び、カソード構成要素がアノード102に移動することを防ぐ又は減じるために、電池100は、(1)サイクルにおいての容量低下が減少し、(2)自己放電が減少し、(3)カソード利用が改良される。これは、従来のナトリウム−硫黄電池と比較して顕著な改良である。
【0043】
図3を参照すると、ある特定の実施態様において、本発明のナトリウム−硫黄電池100は、アノード102と膜106との間にセパレーター300を有し、アノード102において膜106中の構成要素が反応することを防ぐ。例えば、ナトリウム含有アノード102と接触した際にNASICON及び他の材料は完全に安定ではないかもしれない。特に、アノード102中のナトリウムは、NASICONの処方においてある構成要素、特にチタンと反応しやすい。それ故、装置および方法において、NASICON膜106とアノード102中のナトリウムとが反応することを防ぐ必要がある。
【0044】
本発明に従ったある特定の実施態様において、微細孔セパレーター300(例えばCell Guard 2400又は2600或いは他の微細孔セパレーター300)等のセパレーター300を、膜106とナトリウム含有アノード102との間に配置してもよい。微細孔セパレーター300は、テトラグリム等の溶媒および6フッ化リン酸ナトリウム等の無機ナトリウム塩が注入され(例えば浸漬やスプレーにより)、アノード102と膜106との間にナトリウムイオン伝導通路を付与する。一般的に、セパレーター300はアノード102と膜106との間に、ナトリウムイオン伝導しながら空間的隔離を付与する。
【0045】
図4を参照すると、ある実施態様において、本発明に従ったナトリウム−硫黄電池の物理的な実現は、ハウジング400を有し、400aと400bのハーフ体2つに分けられている。片方のハーフ体400bは、ナトリウム含有アノード102及びアノード102に接続またはアノード102内に埋設された集電体110(例えば銅スクリーン)を有する。他ハーフ体400aは、カソード構成要素104、すなわち、少なくとも一部が溶媒に溶解している元素状硫黄および反応生成物Naを有する。集電体108(例えばアルミニウムスクリーン)がカソード104に電気的に連結している。ある実施態様において、ハーフ体400a、400bは電気的伝導性を有し、電池100の電極として作用する。他の実施態様において、ハーフ体400a、400bは絶縁性である。このような実施態様において、電線や他の導電体により集電体108、110に接続し、ハウジング400を介して電流を流す。
【0046】
ある実施態様において、実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜106は、2つのハーフ体400a、400bに挟まれて封じられ、カソード材料104がアノード102から隔離されている。ある実施態様において、プラスチック製またはエラストマー製のグロメット(はとめ)または他の適切な材料が、膜106を2つのハーフ体400a、400bによって挟むのに使用される。ある実施態様において、クリップ、バンド、圧着材などの挟み部材404が、膜106を2つのハーフ体400a、400bによって挟むのに使用され、ハーフ体400a、400bを所定の位置に把持する。電池100を作動させるために必要とされる全ての構成要素は、ハウジング400内に含まれていてもよく、電池100は、ある実施態様において密閉系であってもよい。
【0047】
図5及び6を参照すると、他の実施態様において、ナトリウム−硫黄電池100は。可撓性で電気的絶縁性の外殻またはポリエチレン性ハウジング600a、600b等のハウジング600a、600bを有していてもよい。このような可撓性ハウジング600a、600bは、広い温度範囲によって生じる容積変化を許容できる。前述の例で、ハウジング600a、600bは、ある選択された実施態様において、ハーフ体600a、600bとして分割され、一方のハーフ体600aがカソード104を収納し、他のハーフ体600bがアノード102を収納する。緻密層106aが2つの多孔層106b、106cにより挟まれた構成を有する非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜106は、カソード104とアノード102とに分離されていてもよい。ある実施態様においてナトリウムイオン伝導セパレーター300は、アノード102と膜106との空間的分離に使用される。
【0048】
図4を参照すると、ある実施態様において、本発明のナトリウム−硫黄電池の物理的な実現では、2つのハーフ体400a、400bに分割されたハウジング400を含む。一方のハーフ体400bはナトリウム含有アノード102及びアノード102に接続または埋込まれた集電体110(例えば銅スクリーン)を含む。他方のハーフ体400aはカソード構成要素104、すなわち、少なくとも部分的に溶媒に溶解した元素状硫黄と反応生成物Naを含む。集電体108(例えばアルミニウムスクリーン)は、カソード104に電気的に接続されている。ある実施態様において、ハーフ体400a、400bは電気伝導性であってもよく、電池100の電極として働いてもよい。他の実施態様において、ハーフ体400a、400bは電気絶縁性であってもよい。そのような態様において、電線や他の導電体が集電体108、110に接続され、ハウジング400を介して電流を流す。
【0049】
他の実施態様において、実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜106は、2つのハーフ体400a、400bの間に挟まれていてもよく、カソード物質104をアノード102からシール又は絶縁する。ある実施態様において、プラスチック又はエラストマー製グロメット(はとめ)又は他の好適な材料が、2つのハーフ体400a、400bを膜106にシールするために使用される。ある実施態様において、クリップ、バンド、圧着材などの締め付け部材404を使用してハーフ体400a、400bを膜106に締め付け、ハーフ体400a、400bを所定位置に把持する。電池100の作動のために必要とされる全ての構成要素はハウジング400内に含まれてもよく、電池100は、ある実施態様において密閉系である。
【0050】
図5及び6を参照すると、他の実施態様において、ナトリウム−硫黄電池100は、例えばポリエチレンハウジング600a、600bのような可撓性、電気絶縁性外殻またはハウジング600a、600bを有していてもよい。そのような可撓性ハウジング600a、600bは、幅広い温度変化による容積変化に絶えることが出来る。前述の実施例のように、ハウジング600a、600bは、ある特定の実施態様において、2つのハーフ体600a、600bに分けられていてもよく、一方のハーフ体600aはカソード104を収納し、他方のハーフ体600bはアノード102を収納する。本実施例において緻密層106aが2つの多孔性層106b、106cに挟まれている非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜106は、カソード104とアノード102を分離する。ある実施態様において、ナトリウムイオン伝導性セパレーター300がアノード102を膜106から空間的に隔離する。
【0051】
ある特定の実施態様において、例えばポリエチレンやセラミック製リング等の電気的絶縁性支持リング602又はクランプ602が、膜106の外部環境に対して結合またはシールを行ってもよい。この支持リング602は、更に、ハウジング600a、600bのフランジ604a、604bに締め付け固定、結合およびシールされ、膜106に効果的なシールを付与し、カソード及びアノード区画102、104をシールする。ある実施態様において、電気伝導性タブ606a、606bが、アノード102及びカソード104にそれぞれ結合または埋込まれている集電体(図示せず)に電気的に結合している。
【0052】
ある実施態様において、本発明に従った電池の操作方法は、ナトリウムイオンをナトリウム含有アノードにおいて発生させることを含む。次いで、ナトリウムイオンは、実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜を介してカソードに移送され、カソードにおいてナトリウムイオンは元素状硫黄と反応し、Naを発生する。元素状硫黄およびNaは、少なくとも一部がカソードにおいて少なくとも1種の溶媒に溶解する。本方法は、更に、実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜からナトリウム含有アノードを分離し、ナトリウム含有アノードが実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜と反応することを防ぐ。分離工程は、ナトリウム含有アノードと実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜との間に多孔性セパレーターを配置する。更に、上記多孔性セパレーターにナトリウムイオン移動電解質を透過させる工程を含んでもよい。ある実施態様において、実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜がNASICON膜である。NASICON膜の孔の一部または全部を封孔剤で充填する工程を含んでもよい。更に、多孔性構造層によって実質的に非多孔性のイオン伝導性膜を支持する工程を含んでもよい。ある実施態様において、多孔性構造層が多孔性NASICON層である。上記少なくとも1種の溶媒が、元素状硫黄を溶解する無極性溶媒とNaを溶解する極性溶媒とから成っていてもよい。ある実施態様において、上記少なくとも1種の溶媒が、元素状硫黄およびNaを少なくとも一部溶解する少なくとも1種の極性溶媒から成る。上記少なくとも1種の溶媒がテトラグリムから成っていてもよい。
【0053】
図8を参照すると、カソード溶媒としてトリグリムを使用したナトリウム−硫黄電池100の充放電特性を示すプロットが図示されている。この実施例において、プロットは、0.03mA/cmの放電電流における50サイクルの放電特性を示している。この実施例において、カソード104は、60重量%の硫黄、20重量%の導電性カーボン、20重量%のプラスチックバインダーの60:20:20の固体成分の不均一ブレンドから成っていた。1mm厚みのNASICONセラミックディスクが電極間のセパレーターとして使用された。プロットから明らかなように、ナトリウム−硫黄電池100の容量は最初の10サイクルで減少したが、次の40サイクルでは実質的に安定となった。
【0054】
図9を参照すると、カソード溶媒としてトリグリムを使用し、1mm厚みのNASICONセラミックディスクが電極間のセパレーターとして使用し、室温にて作動させた電池は、図8で使用した電池と同じ特性が示されている。このプロットは、比エネルギー対種々の充放電電流密度における初期150サイクルを表す。高電流密度において、非常に厚い膜を使用しているために比エネルギーは一部減少しているが、電流密度を低くすると、比エネルギーは若干のサイクル減衰が認められるが回復した。
【0055】
本発明は、本発明の基本原理や基本特性を逸脱することなく他の形態において実施してもよい。記載された実施態様は例示であり、これに限定されないと考えるべきである。本発明の範囲は、前述の記載よりも、添付の請求の範囲によって示されるものである。請求の範囲の手段や均等の範囲内におけるあらゆる変更が本発明の範囲内に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムを含有するアノードと、元素状硫黄を含有するカソードと、カソードからアノードを分離する実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜とから成るナトリウム−硫黄電池であって、上記カソードは、更に元素状硫黄およびNaを少なくとも一部溶解する少なくとも1種の溶媒から成り、上記電池は、約200℃未満の温度で操作されるように構成されていることを特徴とするナトリウム−硫黄電池。
【請求項2】
更に、アノードが実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜と反応しないように、アノードと実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜との間にセパレーターを有する請求項1に記載のナトリウム−硫黄電池。
【請求項3】
上記セパレーターが多孔性セパレーターである請求項2に記載のナトリウム−硫黄電池。
【請求項4】
多孔性セパレーターがナトリウムイオン伝導電解質を透過させる請求項3に記載のナトリウム−硫黄電池。
【請求項5】
実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜がNASICON膜である請求項1に記載のナトリウム−硫黄電池。
【請求項6】
実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜が、封孔剤で孔を充填処理しているNASICON膜である請求項1に記載のナトリウム−硫黄電池。
【請求項7】
更に、実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜を支持するために、多孔性構造層が実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜の少なくとも片面に接続されている請求項1に記載のナトリウム−硫黄電池。
【請求項8】
多孔性構造層が多孔性NASICON層である請求項7に記載のナトリウム−硫黄電池。
【請求項9】
上記少なくとも1種の溶媒が、元素状硫黄を溶解する無極性溶媒とNaを溶解する極性溶媒とから成る請求項1に記載のナトリウム−硫黄電池。
【請求項10】
請求項1に記載のナトリウム−硫黄電池。上記少なくとも1種の溶媒が、元素状硫黄およびNaを少なくとも一部溶解する少なくとも1種の極性溶媒から成る請求項1に記載のナトリウム−硫黄電池。
【請求項11】
上記少なくとも1種の溶媒がテトラグリムから成る請求項1に記載のナトリウム−硫黄電池。
【請求項12】
ナトリウム含有アノードにおいてナトリウムイオンを発生させる工程と、実質的に非多孔性のイオン伝導性膜を介してナトリウムイオンをカソードに移送する工程と、カソードにおいてナトリウムイオンを元素状硫黄と反応させ、Naを発生させる工程とから成る電池の操作方法であって、カソードにおける少なくとも1種の溶媒に元素状硫黄およびNaが少なくとも一部溶解することを特徴とする電池の操作方法。
【請求項13】
更に、ナトリウム含有アノードが実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜と反応しないように、ナトリウム含有アノードと実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜との間を分離する工程を含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記分離する工程が、ナトリウム含有アノードと実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜との間に多孔性セパレーターを配置する工程である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
更に、上記多孔性セパレーターにナトリウムイオン移動電解質を透過させる工程を含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
実質的に非多孔性のナトリウムイオン伝導性膜がNASICON膜である請求項12に記載の方法。
【請求項17】
NASICON膜の孔を封孔剤で充填する工程を含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
更に、多孔性構造層によって実質的に非多孔性のイオン伝導性膜を支持する工程を含む請求項12に記載の方法。
【請求項19】
多孔性構造層が多孔性NASICON層である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
上記少なくとも1種の溶媒が、元素状硫黄を溶解する無極性溶媒とNaを溶解する極性溶媒とから成る請求項12に記載の方法。
【請求項21】
上記少なくとも1種の溶媒が、元素状硫黄およびNaを少なくとも一部溶解する少なくとも1種の極性溶媒から成る請求項12に記載の方法。
【請求項22】
上記少なくとも1種の溶媒がテトラグリムから成る請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−521073(P2012−521073A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500901(P2012−500901)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/027535
【国際公開番号】WO2010/107833
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(508011511)セラマテック・インク (29)
【Fターム(参考)】