説明

害虫防除システム

【課題】農作物栽培圃場における防虫技術を提供する。
【解決手段】圃場80の超音波防虫システム10は、複数の超音波発生装置20と、それらを制御するシステム制御部30とを備える。システム制御部30は、システム通信部32を有し、そのシステム通信部32を介して超音波発生装置20の動作を制御する。超音波発生装置20は、振動素子22と、制御部24と、通信部26とを備える。超音波発生装置20は、圃場80において支柱等に取り付けられ、システム制御部30によって超音波出力の制御がなされ、夜間に害虫90の果樹85等への接触等を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫防除システムに係り、特に超音波を用いて農作物栽培圃場における害虫の防除を行う害虫防除システムに関する。
【背景技術】
【0002】
農業生産現場においては、自然環境に調和し、持続的な生産を可能とする農業技術の確立が課題とされ、特に、農作物の病害虫防除に対しては、農薬に過度に依存しない、環境保全的な防除技術の開発が要望されている。さらに、消費者からは、食品の安全及び安心の確保について強い要望がある。言い換えると、農作物の生産現場に対して、可能な限り農薬使用を抑えて安全で安心な農作物が提供するよう要望されている。
【0003】
ところで、近辺の雑木林や雑草地が飛来性害虫の生息地となっている果樹園や野菜畑等へは、生息地からそれらの害虫が飛来し、果実や作物体に大きな被害を与えている。特に、ヤガ類が生息する雑木林に近いモモ、ナシ、リンゴ等の果樹園では、ヤガ類が園内に夜間に飛来し、収穫前の果実を吸汁することにより、大きな被害が発生している。一般に、このようなヤガ類の果実被害を防ぐためには、防虫網が用いられている。これは次の理由による。つまり、ヤガ類が近隣の雑木林で繁殖し、成虫が夜間にのみ果樹園へ飛来して加害する。このため、農薬散布による防除が現実的な作業として困難であるという背景のためである。また、野菜畑等でも、夜間に飛来し、野菜上に産卵するタイプの害虫については、幼虫には農薬による防除が有効である。しかし、夜間に飛来する成虫については農薬散布による防除が困難であり、作業現場における防除負荷が大きくなる要因となっている。
【0004】
ここで、果樹を加害するヤガ類への一般的な防除技術について簡単に述べる。上述のように、果樹園の周囲に防虫網を設置する方法が広く用いられている。しかし、防虫網は、支柱を含めた設置のコストが高いこと、管理作業等で作業性が損なわれること、さらに、気象災害(台風等の強風害や雹や積雪による過重での倒壊など)に弱いこと等の課題がある。
【0005】
また、夜間に飛来し、花卉や果実から吸汁により加害するヤガ類は、黄色光が一定照度以上である空間に進入しない特性(忌避特性)を有する。そこで、施設園芸(主に花卉)や果樹園(主にナシ)において、黄色光を発光する蛍光灯や高圧ナトリウムランプ等を用いたヤガ類の加害回避技術が導入されている。
【0006】
さらに、害虫の雄と雌の誘因に介在する性フェロモンを用いた交信かく乱技術あるいは害虫の個体を誘引して捕殺するフェロモントラップ等も普及している。しかし、誘引源となる性フェロモンはそれぞれの害虫の種類で個別のものであり、利用可能な害虫の種類は限られている。
【0007】
そこで、上述の課題を解消すべく超音波を用いた害虫忌避技術が提案されている。例えば、ガ類が超音波を感知した場合にとる忌避行動に関する研究(Roederら、1975、Hoyら、1989、Millerら、2001)が知られている。この研究では、ガ類は超音波を感知した際に忌避行動をとることが明らかにされ、超音波の強度や方向等によって忌避行動が変化することも確認されている。また、ガ類以外の甲虫やハエ等も超音波に対して忌避行動を示すことが明らかにされている。
【0008】
また、超音波を用いた害虫忌避技術として、害虫の天敵であるこうもりの発生する超音波を擬似的に発生させることによって、野菜畑に害虫が寄り付くのを防止する技術が開示されている(特許文献1参照)。この技術によって残留農薬や農薬散布の害の軽減を図るっている。さらに、効果持続のために超音波発生をランダムに行うことによって虫の慣れを抑制している。
【0009】
さらに、コウモリの音声の特徴を利用した防虫装置として、周波数が減少する期間又は増加する期間を含む超音波信号を出力する技術が開示されている(特許文献2参照)。この技術によって、人体への悪影響を軽減しつつ、建物内での作業性を損なうことなく、効果的に防虫するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−48717号公報
【特許文献2】特開2003−304797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述の害虫忌避技術は一定の効果を実現にしているものの、いくつかの課題が残っており別の技術が求められていた。つまり、防虫網を用いる技術では、支柱を含めた設置のコストが高いこと、管理作業等で作業性が損なわれること、気象災害(台風等の強風害や雹や積雪による過重での倒壊など)に弱い事等の課題があった。
【0012】
また、黄色光に対する忌避作用を利用して、黄色蛍光灯や黄色高圧ナトリウムランプ等を圃場あるいは園芸施設の周辺や内部に設置する方法は、黄色光に対する忌避特性をもつ昆虫の防除としては有効である。しかし、黄色光に誘引特性をもつ害虫(一部のカメムシ類等)も存在するのでそれらに対しては別途対応が必要となり別の技術が求められていた。また、一つの光源で防除できる圃場面積は限られるため、圃場の規模に比例して設置コストが増加するという課題があった。
【0013】
交信かく乱技術やフェロモントラップを用いた技術では、誘引源となるフェロモンが実用化(市販化)されている害虫に限られるという課題があった。
【0014】
コウモリの発する超音波に類似した音波を発信して害虫忌避する技術については、基本的な研究は提案されているものの、実際の果樹園や野菜畑等の農作物栽培圃場への侵入を阻害するために必要な超音波発信源の設置や利用の方法については何らの技術も開示されていない。そして、果樹園や野菜畑等の農作物栽培圃場関係者からは、実際に導入するに際して必要とされる技術に対する要望が強くあがっていた。
【0015】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、農作物栽培圃場における防虫技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る装置は、農作物栽培圃場の害虫防除システムに関する。この害虫防除システムは、コウモリが発する超音波の波長域の超音波を発生させて出力する超音波発信手段と、前記超音波発信手段を移動させる移動手段と、前記超音波発信手段及び前記移動手段の動作を制御する制御手段と、を備える。
また、前記移動手段は前記農作物栽培圃場の所定の領域に設置された軌道上を移動してもよい。
また、前記超音波発信手段は、前記移動手段としての自走車両に搭載されてもよい。
また、黄色光を発する防虫灯を備えてもよい。
また、前記防虫灯の黄色光を検知する光センサを備え、前記制御手段は前記光センサの検知結果に基づいて、前記移動手段の動作及び前記超音波発信手段の動作を制御してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、農作物栽培圃場における防虫技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係る、超音波発振装置の試験区への設置状態を示した図である。
【図2】実施形態に係る、超音波発振装置の試験区における調査果へのヤガ飛来個体数の調査結果を示した図である。
【図3】実施形態に係る、防除効果調査の被害痕数と音圧との関係を示した図である。
【図4】実施形態に係る、無処理区の被害果率と、処理後(超音波区)の被害果率の関係を示した図である。
【図5】実施形態に係る、超音波区と対照区とのヤガ類飛来数の関係を示した図である。
【図6】実施形態に係る、防虫灯と超音波発振装置との効果の比較を示した図である。
【図7】第1の実施形態に係る、超音波防虫システムの概要を示した図である。
【図8】第2の実施形態に係る、超音波防虫システムの概要を示した図である。
【図9】第3の実施形態に係る、超音波防虫システムの概要を示した図である。
【図10】第4の実施形態に係る、超音波防虫システムの概要を示した図である。
【図11】第5の実施形態に係る、超音波防虫システムの概要を示した図である。
【図12】第6の実施形態に係る、超音波防虫システムの概要を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」という)を、図面を参照して具体的に説明する。以下の実施形態では、天敵(捕食者)であるコウモリの発する超音波を感知した場合にヤガ類等の飛来性害虫(以下、単に「害虫」という)がとる忌避行動を利用して、ヤガ類等の果樹園や野菜畑等の農作物栽培圃場あるいは園芸施設内への侵入を阻害することにより、それら害虫による農作物の被害を阻止または抑制するシステムを提案する。まず、基本技術として人工的にコウモリに似た超音波を発振する装置を実際の圃場に適用したときの効果について説明し、つづいて、第1〜第6の実施形態において圃場に適用するシステムについて例示する。
【0020】
<基本技術>、
まず、基本技術として、人工的にコウモリが発する超音波に似た超音波を発振する装置によるヤガ類防除技術について説明する。ここでは、ヤガ類にとって天敵であるコウモリの超音波を感知した際にとる忌避行動を利用し、人工的にコウモリが発する超音波に似た超音波を発振する装置を中山間地果樹園(モモ等果実園)に適用した。
【0021】
超音波発振装置によるヤガ類防除技術の特徴は以下の通りである。
超音波発振装置は、コウモリの発する超音波の波長域に対応する超音波を出力する。この波長域の超音波は、ヤガ類の行動を抑制することができる。具体的には、超音波の特性は、周波数40kHz、断続的パルス波形である。そして、超音波振動子1〜4基を電源100V/ACの出力アンプに接続した。
【0022】
(1)まず、高出力型(A型:超音波発振素子から距離2mにおける平均音圧87.8dB)及び低出力型(B型:同平均音圧54.8dB)の2種類のランジュバン型超音波発振装置を開発して用いた。
【0023】
(2)超音波発振装置(振動子16基、出力アンプ4台)を、徳島県果樹研究所のモモ園試験区(面積約200m)周囲の高さ2mの位置におよそ3.5〜4.0m間隔で設置し、モモ果実に飛来するヤガ類の頭数を調査した。図1に、超音波発振装置をモモ園試験区に設置した状態を示す。
【0024】
(3)さらに、超音波の音圧を上げるため、ランジュバン型と磁歪フェライト型の超音波振動子を利用する超音波発振装置を開発した。ランジュバン型超音波発振装置と磁歪フェライト型超音波発振装置(電源100V/AC、消費電力100W)を上記と同様の態様で設置し、音圧設定をランジュバン型で90dBと95dB、磁歪フェライト型で105dBの3段階で駆動して防除効果試験を行った。防除効果調査は、モモ果実を供試1樹当たり20個(計120個)設置し、ヤガ吸汁による調査果への被害痕数及び被害果率を調査した。
【0025】
(4)高音圧の超音波を発振する磁歪フェライト型の超音波発振装置(平均音圧105dB)を上記2)の方法で設置し、モモ果実に対するヤガ類の被害痕数、被害果率、果実に飛来するヤガ類の頭数を調査した。また、同試験区に黄色防ガ灯を4灯設置し、防除効果を比較調査した。
【0026】
(5)セラミック素子型の超音波発振装置を試作し、磁歪フェライト型の超音波発振装置と防除効果(被害痕数、被害果率、飛来数)の比較試験を行った。
【0027】
<結果の概要>
(1)図2(a)に示すように、高出力型のA型の超音波区では飛来総数26頭と対照区の飛来数132頭の約1/5となった。また、図2(b)に示すように、低出力型のB型の区は、飛来総数76頭に対して対照区が134頭の約1/2となった。超音波発振装置はともにヤガの飛来を抑制する効果が認められたが、超音波音圧が高いA型の効果が高いことが確認された。
【0028】
(2)これまでランジュバン型振動子を用いた高出力タイプでも音圧は88dBに止まっていたが、改良したランジュバン型で96dB、新たに試作した磁歪フェライト型では105dBまで向上することができた。図3に示すように、防除効果調査の被害痕数(対照区被害痕数を100とした時の相対被害痕数)は音圧105dBで25〜30分の1まで減少した。また、図4に示すように、ヤガ類による被害果率が100%程度に達したモモ園に超音波発振装置を設置した場合、モモ果実の被害果率は30%以下に抑制された。
【0029】
(3)さらにまた、図5に示すように、8月上旬から9月上旬までの間に、超音波区におけるヤガ類飛来数は、対照区と比較して約1/20に抑制できた。さらに図6に示すように、超音波発振装置を設置した場合、果実被害痕数及び被害果率は、同園地に防虫灯(防ガ灯)を設置した場合と比較して約3/4程度に低減された。
【0030】
(4)磁歪フェライト型超音波発振装置を設置した場合のヤガ類に対する防除効果は、セラミック素子型超音波発振装置を設置した場合よりも高かった。以上より、超音波発振装置のヤガ類防除効果が最も高いことが確認された。
【0031】
以上の結果をまとめると、磁歪フェライト型超音波発生装置を用いて、コウモリに似た超音波を発振することによって、農薬による防除が困難なヤガ類の効果的な防除が可能となり、果樹園におけるヤガ類の被害が軽減される。特に、ヤガ類の多い中山間地等においては、収益性の高い果樹の栽培が可能である。以下の実施形態で、実際の圃場への適用例を示す。
【0032】
<第1の実施形態>
本実施形態では、害虫に忌避効果のある超音波を発生する振動素子を、農作物栽培圃場または施設の周辺ないしは内部に複数個設置するシステムについて説明する。なお、以降の実施形態では、主に夜間における害虫の防除を想定しているが、昼間の害虫の防除にも適用可能である。
【0033】
図7は、本実施形態に係る超音波防虫システム10の概要を示している。図7(a)は、圃場80への超音波発生装置20の設置態様を示している。超音波発生装置20は、支柱の所定の高さ部分に取り付けられている。また、図7(b)は超音波防虫システム10の機能ブロック図を主に制御系に着目して示し、動力源等については一般的な構成で実現できるので省略している。
【0034】
図7(b)に示すように、超音波防虫システム10は、複数の超音波発生装置20と、それらを制御するシステム制御部30とを備える。システム制御部30は、システム通信部32を有し、そのシステム通信部32を介して超音波発生装置20の動作を制御する。
【0035】
超音波発生装置20は、振動素子22と、制御部24と、通信部26とを備える。振動素子22は、磁歪フェライト型振動子であるが、超音波発生装置20の設置数や設置場所によっては、磁歪フェライト型振動子より低出力のランジュバン型振動子であってもいし、また、セラミック型振動素子であってもよい。通信部26は、システム制御部30のシステム通信部32と通信する。システム制御部30のシステム通信部32と超音波発生装置20の通信部26との通信は、有線または無線のどちらの形態であってもよい。
【0036】
そして、超音波発生装置20は、図7(a)に示すように、圃場80の周囲及び内部に複数個設置される。ここでは、圃場80の四隅に4基と内部に2基設置されている。設置間隔は一定であってもよいし、果樹85の間隔や生育状態にあわせて適宜調整してもよい。そして、システム制御部30は、超音波発生装置20を制御して、所定のタイミング、例えば、夜間に振動素子22から害虫90に忌避効果のある超音波を出力する。なお、出力タイミングや発振出力の大きさ、周波数、パルス周期やパルス変動を、ユーザがシステム制御部30を設定変更することで、所望の制御条件に変更することができる。また、システム制御部30は、超音波発生装置20のそれぞれに対して、異なる動作をするように制御することもできる。例えば、害虫90が飛来してくる傾向が強い方向に対して超音波を出力する振動素子22については、強力な発振出力に制御してもよい。
【0037】
このような超音波防虫システム10によると、圃場80等への害虫90の侵入あるいは農作物個体への接触や食害を阻止あるいは抑制することができる。なお、超音波発生装置20は、高さ及び向きを変更可能な機能を有してもよい。システム制御部30は、果樹85の生育状況や害虫90の飛来経路に対応して、振動素子22を適切な位置及び向きに制御することができる。
【0038】
<第2の実施形態>
図8に本実施形態の超音波防虫システム10の概要を示す。本実施形態では、図8(a)に示すように、超音波発生装置20を果樹85の個体の周辺及び果樹85直接に複数個設置する。なお、図8(b)に超音波防虫システム10の機能ブロック図を示す。この超音波防虫システム10の各構成要素の制御及び動作は第1の実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0039】
本実施形態によると、第1の実施形態と同様の効果が得られるとともに、果樹85個々の防虫がより効果的にできる。なお、第1の実施形態において、圃場80の内部に設置される超音波発生装置20に関して、本実施形態のような設置態様とされてもよい。そのような設置態様とすることで、より精密な防虫制御が可能となる。
【0040】
<第3の実施形態>
図9に本実施形態の超音波防虫システム110の概要を示す。図9(a)に示すように、圃場80にはレール42が設けられており、超音波発生装置120がそのレール42を移動する。その移動はシステム制御部30によってシステム通信部32を介して制御される。なお、レール42は、地面から所定高さに配置されているが、その設置位置(主に高さ)が果樹85の生育状況に応じて変更可能に構成されていてもよい。
【0041】
図9(b)は本実施形態の超音波発生装置20の機能ブロック図を示している。超音波発生装置120は、本実施形態特有な構成として、上述の移動装置40を備えている。この移動装置40によって、超音波発生装置20はレール42を移動する。なお、システム制御部30は、超音波発生装置20の位置に関して、所定の発信装置やレール42に設けられた所定のセンサ等を用いた公知の技術によって特定可能になっている。
【0042】
なお、超音波発生装置20の移動は、それぞれ独立に制御されてもよいし、複数の超音波発生装置20が連動するように制御されてもよい。例えば、圃場80内や圃場80から所定距離離れた領域において、常に所定の音圧が得られるように制御することが挙げられる。さらに、ある期間において所定の音圧が観測される割合が所定以上になるように制御がなされてもよい。このような設定は、一般的なシミュレーション技術を利用することで実現できる。さらに、そのような設定の際に、熟した果実が多い果樹85の周囲を重点的に超音波が出力されるように、超音波発生装置20の移動が制御されてもよい。さらに、モータ等によって振動素子22の向きを変えることができる機構が備わっていれば、超音波発生装置20の移動にあわせて振動素子22の向きを変更するように制御がなされてもよい。
【0043】
<第4の実施形態>
図10に本実施形態の超音波防虫システム210の概要を示す。図10(a)に示すように、超音波発生装置220を搭載した自走車両50が1台または複数で圃場80に植わる果樹85の間を縫うように移動し、超音波を発信出力する。
【0044】
図10(b)は、超音波防虫システム210の概要構成を示す機能ブロック図である。自走車両50は、走行手段52と、車両制御部54と、システム制御部30と無線通信する通信部56と、超音波発生装置220とを備える。車両制御部54は、自走車両50を統括的に制御すると共に、超音波発生装置220を制御する。
【0045】
この自走車両50は、システム制御部30の制御に基づいて決まった経路を走行してもよいし、自律的にランダムに走行してもよい。圃場における自走車両50の自律走行は既に実現されているので、その公知の技術を利用することで超音波発生装置220による超音波出力を行いながら自律走行を行うことができる。さらに、複数の自走車両50にて超音波防虫システム10が運用される場合には、自走車両50同士が互いの位置を所定距離に一時しつつ移動するように制御されてもよい。
【0046】
本実施形態によると、上述の実施形態と同様の効果が得られる。また、自走車両50を用いることで、超音波発生装置220による超音波発振がより柔軟に行うことができる。つまり、第3の実施形態では、超音波発生装置120の位置は移動するものの、レール42を設置した位置に限定されてしまい、果樹85の生育状況や果実の位置等に応じた対応が難しかった。しかし、本実施形態では、果樹85の生育状況や果実の位置等に応じて、適切な位置に超音波を出力することができる。なお、第3の実施形態と本実施形態とをあわせて、圃場80の外周部分や急斜面等にはレール42を用いた移動を行い、比較的整地となっている部分を自走車両50により移動するシステムとしてもよい。
【0047】
<第5の実施形態>
図11に本実施形態の超音波防虫システム310の概要を示す。図11(a)は、圃場80における超音波防虫システム310の設置態様を示し、図11(b)に超音波防虫システム310の概略構成を示す機能ブロック図を示している。図示のように、超音波発生装置320では、高周波振動を発生する振動発生部322からの振動を支柱や支柱間に張られた鋼線あるいは網等の振動部324に伝導させる。そして、それらの振動部324の表面から、害虫90に対して忌避効果のある超音波が発生する。
【0048】
なお、超音波発生装置320が複数で構成される場合、同時に同じ特性の超音波が出力されてもよいし、異なる特性の超音波が出力されてもよい。ここで超音波の特性として、出力(音圧)やパルス周期、出力期間等がある。
【0049】
本実施形態でも上述の実施形態と同様の効果が得られる。また、振動部324に網を用いた場合、防風機能を併せ持たせることができるため、最終的な収穫に大きく貢献することができる。
【0050】
<第6の実施形態>
本実施形態は、上述した第1〜第5の実施形態に防虫灯(ナトリウム灯)と各種センサを導入し、それらセンサの検出結果を利用することで、超音波による防虫効果を向上させるものである。ここでは、代表例として第3の実施形態に防虫灯と各種センサを導入したシステムについて例示する。
【0051】
図12に本実施形態の超音波防虫システム410の概要を示す。図12(a)に示すように、圃場80にはレール42が設けられており、超音波発生装置420がそのレール42を移動する。さらに、防虫灯490が図示左上の支柱部分に設けられている。防虫灯490は、害虫90の忌避作用として黄色光が有効であることを利用するものであり、黄色蛍光灯や黄色高圧ナトリウムランプ等を用いることができる。
【0052】
図12(b)は、超音波防虫システム410の概略構成を示す機能ブロック図である。超音波防虫システム410は、レール42を移動可能な複数の超音波発生装置420と、防虫灯490と、システム制御部30と、圃場センサ部480とを有する。
【0053】
超音波発生装置420は、第3の実施形態と同様の構成として、振動素子22と、制御部24と、通信部26と、移動装置40とを有する。さらに、超音波発生装置420は、センサ群460を有する。センサ群460は、超音波検知センサ462と、光センサ464と、環境センサ466と、対物センサ468と、CCDセンサ470とを備える。なお、圃場80には、センサ群460と同様の機能を有する圃場センサ部480が設置されている。つまり、圃場センサ部480は、超音波検知センサ482と、光センサ484と、環境センサ486と、対物センサ488と、CCDセンサ491とを備える。なお、センサ群460と圃場センサ部480は、それぞれ全てのセンサを有する必要はなく、制御内容や設置場所等に応じて必要なセンサが備わればよい。
【0054】
超音波検知センサ462は、他の超音波発生装置420が出力する超音波を検知する。制御部24は、その検知結果より、他の超音波発生装置420の距離や、超音波の強さの分布を算出する。なお、超音波発生装置420ごとに、出力する超音波に固有の識別信号を重畳させることで、どの超音波発生装置420からの信号であるかを容易に判別することもできる。また、システム制御部30は、センサ群460に備わる超音波検知センサ462の検出結果と圃場センサ部480の超音波検知センサ482の検出結果とを両方取得して利用することで、圃場80における超音波の音圧分布を適切に把握することが可能である。そして、システム制御部30は、超音波の音圧分布に応じて最適な位置に超音波発生装置420を移動させたり、振動素子22の向きを変えたりする制御を実行することができる。
【0055】
センサ群460の光センサ464及び圃場センサ部480の光センサ484は、防虫灯490の光を検出する。光センサ464、484の検出結果を利用することで、防虫灯490の光が照射されていない又は弱い領域を重点的に、移動能力を有する超音波発生装置420を配置させることができる。
【0056】
環境センサ466、486は、温度センサ、湿度センサ、風力センサを備えて構成されている。温度や湿度、風力、風向き等によって害虫90の飛来経路や飛来数などが変わることがある。例えば、湿度が高い場合には、比較的低い位置を経路として飛来する可能性が高い。それらの傾向にあわせて、超音波発生装置420や防虫灯490の出力を制御することで、より効果的な防虫が行える。また、風力や風向きによって超音波の出力は大きく影響を受けることがある。そこで、振動素子22の向きや出力を調整することで、圃場80内外の超音波の音圧分布を適切に調整することができる。また、圃場80では、果樹85の蒸散等の影響により、局所的に温度が異なる空気層が生じることがある。そのような異なる空気層の境界では、超音波は屈折をしたりするため、なんら対策をしないと所望の音圧分布とならないこともある。そこで、システム制御部30が、予め異なる空気層の境界での超音波の動きをシミュレートしておくことで、その影響を低減するように制御することができる。
【0057】
対物センサ468、488やCCDセンサ470、491は、物体を検知するセンサである。特に、CCDセンサ470、491は映像による物体の検知を行い、害虫90の飛来を検出することができる。例えば、CCDセンサ470、491で撮影した映像を解析するときに、防虫対象の害虫90の形態と共にその特有の動きにもとづいて、害虫90の飛来を精度よく判定することができる。また、CCDセンサ470、491によって果樹85における果実の位置を昼間に予め撮影し、システム制御部30で所定のマップを生成することができる。そのマップが夜間における超音波防虫システム10の防虫制御に反映されてもよい。また、果樹85の成長状態を撮影した画像で推定し、その成長状態に応じて、例えば、枝の高さや、葉の量、果実の位置や数等に応じ、重点的に防虫すべき果樹85を特定することができる。なお、対物センサ468、488の出力波として振動素子22の出力波を利用することができる。つまり、振動素子22を通常は対物センサ468の一部として機能させ、害虫90を検知したときに、防虫のための超音波発振手段として機能させてもよい。
【0058】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0059】
10、110、210、310、410 超音波防虫システム
20、120、220、320、420 超音波発生装置
22 振動素子
24 制御部
26、56 通信部
30 システム制御部
32 システム通信部
40 移動装置
42 レール
50 自走車両
52 走行手段
54 車両制御部
460 センサ群
462、482 超音波検知センサ
464、484 光センサ
466、486 環境センサ
468、488 対物センサ
470、491 CCDセンサ
490 防虫灯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作物栽培圃場における害虫防除システムであって、
コウモリが発する超音波の波長域の超音波を発生させて出力する超音波発信手段と、
前記超音波発信手段を移動させる移動手段と、
前記超音波発信手段及び前記移動手段の動作を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする害虫防除システム。
【請求項2】
前記移動手段は前記農作物栽培圃場の所定の領域に設置された軌道上を移動することを特徴とする請求項1に記載の害虫防除システム。
【請求項3】
前記超音波発信手段は、前記移動手段としての自走車両に搭載されることを特徴とする請求項1に記載の害虫防除システム。
【請求項4】
黄色光を発する防虫灯を備えることを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の害虫防除システム。
【請求項5】
前記防虫灯の黄色光を検知する光センサを備え、
前記制御手段は前記光センサの検知結果に基づいて、前記移動手段の動作及び前記超音波発信手段の動作を制御することを特徴とする請求項4に記載の害虫防除システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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