説明

害虫防除体及び害虫防除方法

【課題】蒸気圧の低い薬剤を用いた場合であっても、また蒸発し易い薬剤を用いた場合であっても、短くとも2×10分の効果保持時間において、形状を保持しつつ薬剤を蒸散し続けることのできる害虫防除体及び害虫防除方法を提供すること。
【解決手段】繊維長が1〜50mmである繊維を含有し、かつ厚みが3〜15mmである板状保持体と、害虫を防除する薬剤とを備え、前記薬剤は、前記板状保持体及び前記薬剤の重量に対して5〜50重量%であることを特徴とする害虫防除体及びそれを用いた害虫防除方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、害虫防除体及び害虫防除方法に関し、更に詳しくは、蒸気圧の低い薬剤を用いた場合であっても、また蒸発し易い薬剤を用いた場合であっても、長期間に亘って害虫の防除効果を発揮することができる害虫防除体と、その害虫防除体を用いた害虫防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「合成繊維及び/又は天然繊維からなる繊維状の素材を・・・厚さ0.02〜1mmに加工した薬剤保持材に、・・・薬剤を保持せしめ、単位空間容積当りの蒸散量を・・・調整したことを特徴とする薬剤蒸散剤」が記載されている(特許文献1の請求項1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の発明では、害虫の防除効果を発揮することはできるが、短期間で防除効果が消失してしまう可能性があった。
【0004】
防除効果の長期化を達成する発明として、特許文献2には、「常温揮散性を有するエンペントリンが保持されたポリオレフィン系樹脂から成る害虫防除体において、上記ポリオレフィン系樹脂には、上記エンペントリンの該ポリオレフィン系樹脂の表面へのブリードをコントロールする、カルボン酸エステル単量体単位が含有されていることを特徴とする害虫防除体」が記載されている(特許文献2の請求項1参照)。また、特許文献2に記載の「害虫防除体」は、薬剤の含有量が0.1〜25重量%であると記載されていた(特許文献2の請求項3参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の発明では、樹脂から薬剤が蒸散するには蒸気圧の高い薬剤を用いる必要があった。更に言うと、本発明者らの知見では、10重量%を超える程度の薬剤を樹脂に練り込もうとしても成形が困難であり、逆に薬剤の量を減らすと充分な防除効果を得ることができなかった。
【0006】
また、特許文献3及び4には、防虫剤又は殺虫剤含有の樹脂組成物をネット状に成形し、雨水枡及び蚊帳として用いる害虫防除方法が記載されている。しかしながら、特許文献3及び4に記載の害虫防除方法においては、表面に防虫剤又は殺虫剤がブリードするネットを使用しているので、人体の皮膚等にネットが接触すると、防虫剤又は殺虫剤が皮膚等に付着してしまうことがあった。また、本発明者らの知見では、特許文献3及び4に記載の雨水枡及び蚊帳も、充分な防除効果を得ることができなかった。
【0007】
これに鑑みて、蒸気圧の低い薬剤を用いた場合であっても、また蒸発し易い薬剤を用いた場合であっても、長期間に亘って害虫の防除効果を発揮することができる害虫防除体が要求されていた。なお、特に人間の生活圏において、人間の生活に悪影響を及ぼす害虫を防除することのできる害虫防除体が求められていた。更に、前記害虫防除体の防除効果を効果的にかつ安全に発揮することのできる害虫防除方法も望まれていた。
【0008】
【特許文献1】特開2000−189032号公報
【特許文献2】特開2006−256997号公報
【特許文献3】特開2006−129820号公報
【特許文献4】特開2008−092944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明が解決しようとする課題は、蒸気圧の低い薬剤を用いた場合であっても、また蒸発し易い薬剤を用いた場合であっても、短くとも2×10分の効果保持時間において、形状を保持しつつ薬剤を蒸散し続けることのできる害虫防除体を提供することである。
【0010】
また、この発明が解決しようとする別の課題は、所望の場所に前記薬剤を拡散し易い害虫防除方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段としては、
請求項1は、「繊維長が1〜50mmである繊維を含有し、かつ厚みが3〜15mmである板状保持体と、害虫を防除する薬剤とを備え、
前記薬剤は、前記板状保持体及び前記薬剤の重量に対して5〜50重量%であることを特徴とする害虫防除体」であり、
請求項2は、「前記薬剤が、ピレスロイド系化合物を含有する請求項1に記載の害虫防除体」であり、
請求項3は、「請求項1又は2に記載の害虫防除体の前記薬剤を、気流により拡散させることを特徴とする害虫防除方法」であり、
請求項4は、「請求項1又は2に記載の害虫防除体を、吊下することを特徴とする害虫防除方法」である。
【発明の効果】
【0012】
この発明によると、蒸気圧の低い薬剤を用いた場合であっても、また蒸発し易い薬剤を用いた場合であっても、短くとも2×10分の効果保持時間において、形状を保持しつつ薬剤を蒸散し続けることのできる害虫防除体を提供することができる。
【0013】
また、この発明によると、所望の場所に前記薬剤を拡散し易い害虫防除方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明に係る害虫防除体は、板状保持体と薬剤とから形成されている。
【0015】
前記板状保持体は、繊維集合体である。板状保持体の材料となる繊維としては、繊維を集合体とした場合に、後述の薬剤を含浸させることができ、薬剤によって変質せず、更に効果保持時間が短くとも2×10分である繊維を選択すればよい。板状保持体の材料としては、天然繊維又は化学繊維を用いることができる。更に言うと、板状保持体の材料としては、例えば木材パルプ、バガスパルプ及びワラパルプ等の非木材パルプ、古紙パルプ、綿、麻、羊毛並びに絹等の天然繊維、レーヨン、キュプラ、及びアセテート等の再生繊維又は半合成繊維、並びにアクリル繊維等の合成繊維等を挙げることができる。特に好ましいのは、木材パルプ、及びレーヨン等の良好な吸湿性及び吸水性を有する天然繊維、再生繊維である。木材パルプを用いて形成される板状保持体は、薬剤は均等に分散し易く、薬剤が安定して蒸散し易くなるので好ましい。なお、合成繊維を用いる場合には、板状保持体を形成したときに吸湿性及び吸水性が良好な材料を選択すると、繊維を製造する際に蒸気圧の高い薬剤を練り込む必要がなくなるので好ましい。前記繊維は、上述した繊維から1種類のみ選択して用いても良く、複数種選択して用いても良い。前記効果保持時間としては、この発明に係る害虫防除体が害虫を防除することのできる期間を示す。
【0016】
前記板状保持体を形成する繊維の繊維長は、1〜50mmであり、好ましくは3〜40mmであり、更に好ましくは3〜25mmであると良い。繊維長が1〜50mmの範囲内であると、繊維の配向性を調整し易く、高い形状安定性が得られると共に薬剤の蒸散量を調整し易い。なお、板状保持体の形状安定性が高いと、所望の期間において板状保持体の形状が維持されるので、薬剤が蒸散し易い形状に一旦成形すれば、この発明に係る害虫防除体を設置した後においても防除効果を安定して発揮することができる。板状保持体の繊維長が1mm未満であると、繊維同士が絡み難いので、板状保持体の成形が困難になることがある。また、保持体の繊維長が50mmを超えると、繊維同士の絡み度合いにムラが生じ易いので、形状安定性が低下することがある。
【0017】
前記板状保持体は、織物、編物又は不織布のいずれであっても良い。前記板状保持体の形成方法としては、交錯、絡合、接着又は絡合及び/又は接着以外の非交錯等を挙げることができる。また、織物、編物、フェルト、パイル、タフトを形成した繊維集合体及び不織布の薄い保持体を先ず形成し、薄い保持体を積層することにより板状保持体を形成しても良い。この板状保持体は、単層体であっても積層体であっても良い。
【0018】
積層体に形成された前記板状保持体の態様としては、例えば、木材パルプ繊維を空気中に分散させてエアレイド方式により積層マットを形成し、適宜のバインダによりマットの両面を接着する第1態様、木材パルプ繊維を用いてエアレイド方式によりマットを形成し、そのマットの片面又は両面に長繊維又はレーヨン等の異種繊維を積層し、適宜のバインダにより積層部分に表面を接着する第2態様、及び、木材パルプ繊維と熱融着性の合成繊維との混合物を用いてエアレイド方式によりマットを形成し、適宜のバインダによりマットの両面を接着する第3態様等を挙げることができる。
【0019】
前記第1態様の板状保持体は、パルプ繊維が重畳的に押し固められて成る中心層と、パルプ繊維が脱落しないように中心層の両面をバインダで接着されて成る接着層とを有する。第1態様の板状保持体は、パルプ繊維が全方向に均一に分散しているので、嵩高くなる。なお、板状保持体が嵩高いと、高い吸水性及び吸湿性を達成することができ、少ない原料で板状保持体を製造することができる。また、中心層と接着層とを有する板状保持体の性状としては、例えば3層構造であり、坪量が100〜1500g/mであり、保水量が20〜30倍であることが挙げられる。
【0020】
前記第2態様の板状保持体は、上述の中心層と、中心層の表面に設けられて成る異種繊維層と、パルプ繊維及び異種繊維が脱落しないように異種繊維層の表面をバインダで接着されて成る接着層とを有する。第2態様の板状保持体は、嵩高いだけでなく、中心層の表面に異種繊維層を積層していることにより、中心層が異種繊維層で支持されるので、高い形状安定性を有する。また、中心層と異種繊維層と接着層とを有する板状保持体の性状としては、例えば4層構造又は5層構造であり、坪量が100〜1500g/mであり、保水量が10〜20倍であることが挙げられる。
【0021】
前記第3態様の板状保持体は、パルプ繊維と合成繊維との混合物が押し固められて成る混成層と、前記混合物が脱落しないように混成層の両面をバインダで接着されて成る接着層とを有する。好ましくは、適当な熱処理を混成層に施すことにより、合成繊維が熱融着するので、混成層が補強される。第3態様の板状保持体は、嵩高いだけでなく、合成繊維が補強材として混成層全体を支持するので、高い形状安定性を有する。また、混成層と接着層とを有する板状保持体の性状としては、例えば3層構造であり、坪量が150〜1500g/mであり、保水量が10〜20倍であることが挙げられる。
【0022】
前記板状保持体の形状は、板状である限り、平面形状には特に制限がなく、矩形、円形、多角形等を挙げることができる。板状保持体の平面形状が矩形であると、板状保持体の製造工程を簡略化することができると共に、成形する際に切れ端が生じ難いので材料の削減にも寄与することができる。
【0023】
前記板状保持体の厚みは、3〜15mmである。板状保持体の厚みが3〜15mmであると、高い形状安定性が得られると共に、短くとも2×10分に亘って蒸散可能な量の薬剤を含有させることができる。なお、板状保持体の厚みが3mm未満であると、形状安定性が低下すると共に、効果保持時間が低下することがある。また、板状保持体の厚みが10mmを超えると、薬剤を含有させたときの重量が大きくなり、この発明に係る害虫防除体を設置し難いことがある。
【0024】
前記板状保持体は、害虫を防除することのできる薬剤を含有する。
【0025】
前記薬剤としては、特に制限は無く、この発明に係る害虫防除体の設置場所の気圧及び温度並びに駆除する害虫の種類等に応じて決定すれば良い。
【0026】
この発明に係る害虫防除体の防除対象となる害虫としては、例えばハエ類、イエバエ類、チョウバエ類、蚊類、ゴキブリ類、ノミ類及び衣料害虫等を挙げることができる。特に、この発明に係る害虫防除体は、人間の生活圏に生息し、かつ人間の生活に悪影響を及ぼす害虫を効果的に防除することができる。
【0027】
前記害虫を防除する薬剤としては、例えばピレスロイド系化合物、カルバメート系化合物、ネオニコチノイド系化合物、昆虫生育制御剤、マクロライド系化合物及びフェニルピラゾール系化合物等を用いることができる。更に詳しく言うと、ピレスロイド系化合物としては、例えばメトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルスリン、テラレスリン、フタルスリン、イミプロスリン、アレスリン、D−テトラメトリン、レスメトリン、フラメトリン、フェノトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、ブラトリン、エトフェンプロックス、シルフトリン、シクロプロトリン、フェンバレレート、エスフェンバレレート、シラフルオフェン、アクリナトリン、フェンプロパトリン、テフルトリン及びエンペンスリン等を用いることができる。カルバメート系化合物としては、例えばカルボスルファン、ベンフラカルブ及びチオジカルブ等を用いることができる。ネオニコチノイド系化合物としては、例えばアセタミプリド、イミダクロプリド、チアクロプリド、ニテンピラム、クロチアニジン、チアメトキサム及びジノテフラン等を用いることができる。昆虫生育制御剤としては、例えばクロルフルアズロン、フルフェノクスロン、ルフェヌロン、ブプロフェジン、ピリプロキシフェン、テブフェノジド、メトキシフェノジド及びクロマフェノジド等を用いることができる。マクロライド系化合物としては、例えばアバメクチン、エマメクチン安息香酸塩及びスピノサド等を用いることができる。フェニルピラゾール系化合物としては、例えばフィプロニルを用いることができる。
【0028】
前記保持体が含有する薬剤は、上述した化合物から1種類のみ選択して用いても良く、防除効果が低下又は消失しない組み合わせで複数種選択して用いても良い。
【0029】
なお、前記薬剤には、上述した化合物の他に、害虫を引き寄せる害虫誘引剤も混合して用いることができる。併用可能な害虫誘引剤としては例えばダイアモルア、ピーチフルア、スウィートビルア及びメチルオイゲノール等を挙げることができる。
【0030】
前記薬剤は、上述した化合物を水溶液又はその他のゾル状態とした後に前記板状保持体に含有させれば良い。なお、前記薬剤を前記板状保持体に含有させる方法としては、適宜に選択すれば良く、例えば板状保持体に薬剤を滴下する方法、板状保持体に薬剤を塗布する方法及び板状保持体を薬剤中に浸す方法等を挙げることができる。
【0031】
前記薬剤の含有量は、板状保持体と薬剤との全重量に対して5〜50重量%の範囲内であり、好ましいのは10〜50重量%であり、更に好ましいのは15〜50重量%である。薬剤の含有量が5〜50重量%であると、所望の効果保持時間、例えば短くとも2×10分の間に防除効果を発揮し続けることができる。薬剤の含有量が5重量%未満であると、所望の防除効果を発揮することができないことがあり、逆に50重量%を超えると、薬剤の含有量が増加するに従って防除効果が薬剤の含有量に比例し難くなることがある。
【0032】
更に言うと、この発明に係る害虫防除体は、薬剤を繊維に練り込む必要が無いので、蒸気圧の低い薬剤を使用した場合であっても、充分な害虫の防除効果を得ることができる。また、この発明に係る害虫防除体は、適当な長さの繊維が絡み合いかつ適当な厚みを有する板状保持体を備えているので、蒸発し易い薬剤を使用した場合であっても、効果保持時間が極端に短くなることが無く、害虫の防除効果が持続する。
【0033】
この発明に係る害虫防除体の一実施態様を、図面を用いて説明する。
【0034】
図1には、害虫防除体1が示されている。害虫防除体1は、板状保持体2と薬剤(図示せず)とを備える。図1に示すように、板状保持体2は平面形状が矩形を成す板状体である。板状保持体2は、繊維集合体であるので、使用者が鋏等を用いて容易に成形することができる。薬剤は、板状保持体2全体に均一に分散しているのが好ましい。
【0035】
図2には、保護材3で被覆した板状保持体2を備える害虫防除体10が示されている。板状保持体2を図1に示される状態で扱う場合、使用者に薬剤が付着することがある。前記保護材3は網状の樹脂成形物であり、板状保持体2全体を被覆しているので、使用者が害虫防除体10を把持しても、薬剤の手等への付着を保護材3が防止する。保護材3の材料としては、薬剤により変質せず、かつ薬剤が浸透しない材料であれば良く、例えば樹脂、セラミックス、金属及びプラスチック等を挙げることができる。なお、保護材3は、薬剤の蒸発を妨げない形状が好ましく、特に図2に示す網状が好ましい。
【0036】
図3には、傘状部材4を保護材3の上部に装着した害虫防除体100が示されている。板状保持体2には薬剤が含まれており、板状保持体2全体を樹脂成形物である保護材3が被覆している。保護材3の上部には、屈曲して成る矩形片の傘状部材4が装着されている。野外、特に雨に晒され易い場所に害虫防除体100を設置する場合、傘状部材4は、板状保持体2が雨に晒されるのを防ぐことができる。板状保持体2が雨に晒されなければ、薬剤が雨と共に流出することも無くなる。傘状部材4の大きさは、板状保持体2及び保護材3の大きさに合わせて設計変更が可能である。傘状部材4の材料としては、雨に濡れても変形及び変質しない材料が好ましく、例えば防水性の紙、樹脂、セラミックス、金属及びプラスチック等を挙げることができる。傘状部材4の形状は、板状保持体2及び保護材3の上部に装着可能な形状であれば良く、図3に示す屈曲形状以外に、半球形状、円錐形状又は多角錘形状を採用することができる。
【0037】
この発明に係る害虫防除体の使用方法、すなわちこの発明に係る害虫防除方法としては、気流により前記薬剤を拡散させる方法と、前記害虫防除体を吊下する方法とを挙げることができる。
【0038】
先ず、この発明に係る害虫防除方法が、気流により薬剤を拡散させる方法である場合について、図4を参照しつつ説明することとする。
図4に示す害虫防除装置5は、この発明に係る害虫防除方法を実現する装置の一例である。害虫防除装置5は、図1に示した害虫防除体1と、吸い込み口6と、拡散手段7と、吹き出し口8と、筐体9とを備えている。
【0039】
吸い込み口6及び吹き出し口8は、害虫防除装置5の内部及び外部が連通するように設けられた通気口である。筐体9は、例えば樹脂、プラスチック又は金属等から成る箱体であり、害虫防除体1及び拡散手段7を内蔵している。吸い込み口6は、筐体9内に吸入される外気の通気口であり、吹き出し口8は、筐体9外に排出される薬剤含有気流の通気口である。
【0040】
拡散手段7は、吸い込み口6から吹き出し口7に向って気流を発生させることができる。吸い込み口6及び吹き出し口7は筐体9の内外が連通するように設けられているので、拡散手段7が気流を発生させることにより、吸い込み口6を介して外気が筐体9内に流入すると共に吹き出し口8を介して筐体9外に気体が流出することとなる。拡散手段7が発生させる気流の流路中に害虫防除体1を設置しているので、害虫防除体1から蒸発した薬剤が拡散手段7の発生させる気流により害虫防除装置5外に送出される。前記拡散手段7は、気流により薬剤を拡散させる手段の一例である。薬剤を気流により拡散させる手段としては、例えば薬剤を含有する板状保持体2に向けて送風し、送風する気流中に薬剤を含ませる送風機、又は、前記板状保持体2を設置した筐体9内を減圧することにより薬剤の有効成分を揮発させ、前記有効成分を含んだ気体を送風により送出する減圧送風機等を挙げることができる。また、害虫防除体1は脱着可能であるのが好ましく、効果保持時間を経過した後においては、新たな害虫防除体1に交換すると良い。
【0041】
害虫防除装置5の設置場所は、防除する害虫の種類に応じて適宜決定すれば良い。例えば、防除する害虫が飛翔可能である場合は、地面若しくは床面から離れた高い位置に害虫防除装置5を設置する態様、又は、地面若しくは床面に設置し、害虫の飛翔領域に吹き出し口8を向ける態様等を採用することができる。また、防除する害虫が地面又は床面を歩行する場合は、地面又は床面に沿って気流が発生するように吹き出し口8を地面又は床面に向ける態様を採用することができる。
【0042】
害虫防除装置5を設置する具体的な場所としては、食物を保存及び貯蔵する倉庫、物置、飲食店の厨房並びに廃棄物収集所等を挙げることができる。飲食店の厨房等では使用者の活動時間帯と非活動時間帯とに分けられることが多いので、好ましくは、使用者の非活動時間帯に薬剤を気流により拡散させ、使用者の活動時間帯には薬剤の拡散を停止しておくと、使用者の薬剤への接触及び吸入を低減することができ、結果としてこの発明に係る害虫防除方法の安全性が向上する。なお、害虫防除装置5における吸い込み口6及び吹き出し口7が開閉自由であると、使用者の活動時間帯に吸い込み口6及び吹き出し口7を閉鎖しておけば、使用者の薬剤への接触及び吸入を最小限にとどめることができる。また、時限装置等を備える電子制御により拡散手段7の駆動を制御すると、害虫防除装置5の設置場所が薬剤雰囲気であるときに使用者が害虫防除装置5を操作する必要が無いので、更にこの発明に係る害虫防除方法の安全性が向上する。
【0043】
続いて、この発明に係る害虫防除方法が、この発明に係る害虫防除体を吊下する方法である場合について説明する。
【0044】
この発明に係る害虫防除体を吊下する手段としては、例えば薬剤を含有する板状保持体に連結する条体、図2に示すような保護材3に連結する条体及び前記板状保持体の一部を把持する把持部材等を挙げることができる。
【0045】
この発明に係る害虫防除体を吊下する場所は、防除する害虫の種類、及びこの発明に係る害虫防除体の使用者の行動場所に応じて適宜決定すれば良い。例えば、食物を保存及び貯蔵する倉庫、物置、飲食店の厨房並びに廃棄物収集所等に定点設置が可能である。また、農作業、ゴルフ、ハイキング及びその他の比較的長時間に亘る野外活動においては、使用者の腰部分等に吊下しておけば良い。使用者に接触することがあるような場所にこの発明に係る害虫防除体を吊下する場合は、図2に示すような保護材3を装着すると良い。なお、野外にこの発明に係る害虫防除体を設置する場合には、雨天時に薬剤が雨水と共に流出する可能性があるので、板状保持体の上方に図3に示すような傘状部材4等を取り付けるのが好ましい。
【実施例】
【0046】
ここで、この発明に係る害虫防除体の実施例を示す。実験1では、薬剤の分散性、薬剤の浸透性及び板状保持体の形状安定性の評価を行った。次に実験2では、薬剤の蒸散傾向の評価を行った。続いて実験3では、この発明に係る害虫防除体の防除効果の評価を行った。
【0047】
<実験1>
先ず、実験1においては、材料又は厚みを変更しつつ複数個作製した板状の保持体に薬剤をそれぞれ含有させた試料を用意した。平均繊維長が5mmである天然の木材パルプ繊維を積層し、1mm、4mm及び6mmの厚みを有する保持体をそれぞれ用意した。また、吸湿性及び吸水性が低い合成樹脂繊維を使用した積層体も作製した。詳しく言うと、厚み6mmのポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と称することがある)繊維の積層体と、厚み6mmのポリプロピレン(以下、「PP」と称することがある)繊維の積層体とを用意した。更に、厚み6mmのポリスチレン(以下、「PS」と称することがある)樹脂の発泡体を板状に成形してなる保持体も用意した。
【0048】
薬剤の分散性評価は、用意した保持体を長さ20mm、幅20mmに成形し、エンペンスリン含有の薬剤200μlを含有させた際の、薬剤の分散の有無を目視により観察した。薬剤の浸透性評価は、前記薬剤を保持体に含有させる際の、薬剤の浸透速度を目視により観察した。また、保持体の形状安定性評価は、用意した保持体を、吊下したときの形状安定性について目視により観察した。実験1の結果を表1に示す。
【0049】
なお、分散性評価においては、薬剤が分散した場合には「+」で示し、かつ薬剤が分散しなかった場合には「−」で示すこととした。浸透性評価においては、薬剤が迅速に浸透した場合には「+」で示し、かつ薬剤が浸透しなかった場合又は浸透が遅かった場合には「−」で示すこととした。更に、形状安定性においては、形状安定性に優れている場合には「+++」で示し、やや優れている場合には「++」で示し、優れている場合には「+」で示し、優れていない場合には「−」で示すこととした。
【0050】
【表1】

表1中、試料1及び6は比較例である。
【0051】
実験1の結果においては、比較例である試料6は、ある程度の形状安定性を有しているが、分散性及び浸透性が良好ではないので、保持体中に薬剤を均一でかつ迅速に含ませることができないので、長期間、例えば短くとも2×10分間に亘って薬剤を安定して蒸散させ続けることは難しい。また、比較例である試料1は、厚みが3〜15mmの範囲外であるので、形状安定性が低下している。これに対して、実施例である試料2〜5は、薬剤の分散性及び板状保持体の形状安定性が良好である。吸湿性及び吸水性に優れた天然パルプを用いた試料2及び3は、浸透性が良好であり、吸湿性及び吸水性が比較的低いPET及びPPを用いた試料4及び5は、試料2及び3に比べて浸透性が低下していた。
【0052】
また、天然パルプを用いることにより分散性が向上したこと、及び積層体にすることにより形状安定性にも優れていたことから、この発明に係る害虫防除方法が板状保持体を吊下する態様であっても、長期間の吊下に耐え得る板状保持体が薬剤を安定して蒸散させ続けることができると分かる。
【0053】
<実験2>
続いて、実験2においては、平均繊維長が5mmである天然の木材パルプ繊維を積層し、長さ150mm、幅80mm、厚み6mmを有する板状の保持体を4枚用意した。それぞれの保持体に実験1と同一の薬剤を、エンペンスリンの含有量が5.2重量%、1.2重量%、0.12重量%及び0.01重量%となるように含有させた。
【0054】
薬剤の蒸散傾向の評価は、薬剤を含有させた保持体を、縦3.5m、横2.6m、高さ3mの容積27.3mである試験室内に底面から1.5mの高さに吊下した後、薬剤の残存量を計測することにより蒸散の傾向を追跡した。薬剤の残存量の計測は、吊下を開始する直前、吊下開始から1.7×10分後、2.9×10分後、3.6×10分後及び4.8×10分後の保持体の重量を電子天秤により秤量した結果と、保持体の薬剤無含有の重量との差から算出した。実験2の結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

表2中、試料8〜10は比較例である。
【0056】
表2の結果を、図5にグラフとして示す。図5に示したグラフでは、実施例である試料7が効果保持時間の長期化を達成していることが分かる。なお、図5に示した試料7のグラフを延長すると、試料7の効果保持時間は1.7×10分程度であると予測することができるので、長期間にわたって害虫の防除効果を発揮することができると分かる。試料7は、薬剤の含有量が5重量%以上であるので、効果保持時間の長期化を達成することができており、試料7よりも薬剤の含有量を多くすれば更なる効果保持時間の長期化を達成可能であると予測できる。
【0057】
実験2の結果において、比較例である試料8及び9は、薬剤の蒸散を確認することはできるが、短くとも2×10分間に亘って害虫を防除可能な量の薬剤を安定的に蒸散させ続けているとは判断し難い。試料7のように、薬剤が少なくとも5重量%以上含まれていれば、害虫を防除可能な量の薬剤が長期間に亘って安定的に蒸散し続けていることが分かる。また、害虫の防除効果は、設置場所及び設置環境に左右されるが、薬剤の含有量が5重量%未満であると充分でない。
【0058】
<実験3>
次に、実験3においては、平均繊維長が5mmである天然の木材パルプ繊維を積層し、長さ100mm、幅65mm、厚み6mmを有する板状の保持体を8枚用意した。用意した保持体の内の6枚には、実験1と同一の薬剤をエンペンスリンの含有量が8.5重量%、16重量%及び27重量%となるようにそれぞれ2枚づつ含浸させた。また、用意した保持体の内の2枚には、実験1と同一の薬剤をエンペンスリンの含有量が16重量%となるように含有させた。各保持体は、図2に示す網状の保護材により被覆した。
【0059】
次いで、薬剤を含有させた8枚の保持体の内、エンペンスリンの含有量が8.5重量%、16重量%及び27重量%である保持体を1枚づつ、2セットに分けた。先ず、保持体の1セットは、雨に晒され難いベランダに2×10分間設置した後に回収した。保持体の残りの1セットは、前記ベランダに4×10分間設置した後に回収した。また、エンペンスリンの含有量が16重量%である内の1枚は、図3に示す傘状部材を装着した上で、雨に晒され易い野外に2×10分間設置した後に回収した。また、エンペンスリンの含有量が16重量%である内の残りの1枚は、前記傘状部材を装着した上で、野外に4×10分間設置した後に回収した。
【0060】
害虫の防除効果の評価は、イエバエに対する効力を調べることにより行った。
【0061】
先ず、回収後の各保持体と、雌のイエバエ5頭を放った網状の球形容器とを、容積200Lの密閉チャンバ内に設置した。設置してから90分経過するまでのイエバエに対する防除効果の有無を調べた。防除効果の有無の判定は、球形容器内のイエバエが飛翔能力を失い腹部を上位に向け脚部をばたつかせるような異常活動が認められた際、ノックダウン効果が有りと判定し、そのノックダウン率を求めた。なお、上述した8枚の保持体を更に1セット用意し、同一条件下で防除効果の評価を行った。すなわち、実験3の結果としては、2回行った防除効果の評価の平均値である。実験3の結果を表3に示した。
【0062】
【表3】

【0063】
表3によると、試料11〜16については、ベランダに設置した後であっても充分な害虫の防除効果を発揮している。ベランダに短くとも2×10分設置していた場合も、一定の防除効果を得ることができたので、害虫を防除可能な量の薬剤が長期間に亘って安定して蒸散し続けていることが分かる。更に、試料17及び18は、野外に設置した後であっても害虫の防除効果を発揮した。
【0064】
したがって、この発明の害虫防除体は、板状保持体が繊維長が1〜50mmである繊維を含有し、かつ厚みが3〜15mmであり、前記板状保持体が薬剤を5〜50重量%含有することにより、長期間に亘って安定的に薬剤を蒸散させ続けることができる。効果保持時間を、短くとも2×10分間は持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、この発明に係る害虫防除体の一実施態様を示す概略図である。
【図2】図2は、この発明に係る害虫防除体の他の実施態様を示す概略図である。
【図3】図3は、この発明に係る害虫防除体の他の実施態様を示す概略図である。
【図4】図4は、この発明に係る害虫防除方法を実現する装置の一例を示す概略図である。
【図5】図5は、実験2の結果を示す経過時間と薬剤残存量との関係図である。
【符号の説明】
【0066】
1、10、100 害虫防除体
2 板状保持体
3 保護材
4 傘状部材
5 害虫防除装置
6 吸い込み口
7 拡散手段
8 吹き出し口
9 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長が1〜50mmである繊維を含有し、厚みが3〜15mmである板状保持体と、害虫を防除する薬剤とを備え、
前記薬剤は、前記板状保持体及び前記薬剤の重量に対して5〜50重量%であることを特徴とする害虫防除体。
【請求項2】
前記薬剤が、ピレスロイド系化合物を含有する請求項1に記載の害虫防除体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の害虫防除体の前記薬剤を、気流により拡散させることを特徴とする害虫防除方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の害虫防除体を、吊下することを特徴とする害虫防除方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−105987(P2010−105987A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281731(P2008−281731)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(390016056)国際衛生株式会社 (9)
【Fターム(参考)】