説明

家畜用マットおよび家畜用家屋の床面塗料

【課題】抗菌作用が発揮される微生物の種類が多く効率的な抗菌作用を発揮し人体・家畜や環境に悪影響のない抗菌性組成物を含有する家畜用マットを提供する。
【解決手段】イミダゾール系の有機系抗菌剤のみから選ばれた2種と、無機系抗菌剤と、からなる抗菌性組成物で、有機系抗菌剤として2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルを使用でき、無機系抗菌剤として銀担持リン酸ジルコニウムおよび酸化亜鉛を使用できる。抗菌性組成物とゴムとを混練してシート状に成型する。2種のイミダゾール系の有機系抗菌剤自体および無機系抗菌剤自体の抗菌作用と、これらの併用による相乗効果とにて、低いMIC値でも格段に広い抗菌スペクトルを示し、良好な家畜の床環境を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機系抗菌剤および無機系抗菌剤を含有する抗菌性組成物を含有する家畜用マットおよび家畜用家屋の床面塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌などの原核生物、カビ、酵母などの真核生物、さらには藻類などの微生物を除去や忌避する抗菌性組成物として、各微生物に対して2種類以上の薬剤を組み合わせることで、相乗効果が得られることが知られている。すなわち、2種類以上の薬剤を併用することで、抗菌スペクトルが拡大したり、最小生育阻止濃度(MIC値:Minimum Inhibitory Concentrationの略)(ppm)が各薬剤を単独使用する場合に比して減少したりするといった相乗効果を奏する。そして、異なる種類の薬剤を併用する方法として、有機系抗菌剤および無機系抗菌剤を用いる構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載のものは、銀、銅、亜鉛などの金属成分と、この金属成分以外の無機酸化物とからなり抗菌・防黴・防藻性作用を有する無機酸化物微粒子と、チアゾール系化合物およびイミダゾール系化合物のうちの少なくともいずれか一方の有機系抗菌・防黴・防藻剤と、を含有している。そして、無機酸化物微粒子は、分散性や被処理物の表面色調などに及ぼす影響により、平均粒子径を500nm以下としている。また、無機酸化物微粒子の含有量は、併用する効果のために0.001重量%以上としている。
【0004】
ところで、抗菌性組成物は、生活環境中に使用されるものであることから、例えば、被処理物に抗菌性組成物を塗布するなどの際に皮膚に付着したり、抗菌性組成物を塗布あるいは含有した成形体に利用者が接触したりしても、かぶれるなどの人体に影響がない薬剤を用いる必要がある。また、抗菌性組成物を塗布あるいは含有した成形体を例えば焼却処理する際に、ダイオキシンなどの有害物質が発生しない薬剤を用いる必要がある。
【0005】
一方、抗菌性組成物を調製する際や抗菌性組成物を含有する成形体を成形する際などの製造工程において、混合する際の容器や整形時の金型など、製造設備の腐食を生じない薬剤が望ましい。すなわち、製造設備に耐腐食性の材料を用いるなど、製造設備に特別な装置が必要となって製造設備の構築性が低下したりコストが増大したりするなどの不都合が生じない薬剤を対象とすることが望ましい。
【0006】
また、牛舎や豚舎などの床面には、ゴムやウレタン製の家畜用の床部材が用いられている。これら家畜用の床部材は、牛や豚などの家畜の足を保護したり保温性を高めたりするなどの目的で使用されている。
そして、これら家畜用の床部材として、家畜の疾病予防のために抗菌剤を含有した構成が知られている(例えば、特許文献2,3参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2004−339102号公報
【特許文献2】特開2000−41513号公報
【特許文献3】特開平10−248423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1に記載のような従来の有機系および無機系を併用して効果を得る抗菌性組成物として、組み合わせによって十分な相乗効果が発揮できず、限られた微生物にのみしか相乗効果が得られない。すなわち、抗菌スペクトルを大きく拡大できない。さらには、抗菌スペクトルが拡大する抗菌性を発揮させるためには、MIC値が増大、すなわち添加量が増大し、効率的な抗菌作用が得られないとともに、添加量の増大による成形体の成形性が困難となるなどの不都合も生じるおそれがある。また、2−(n−オクチル)−4−イソチアゾール−3−オン(略称OIT)などのアレルギー性物質も用いられている。
また、特許文献2,3に記載の家畜用の床材でも、広い抗菌スペクトルは得られず、特に各種カビのみならず、各種細菌も繁殖し易く、悪臭などの環境への悪影響、さらには家畜の疾病などの家畜自体への悪影響などが生じやすい家畜用の床環境では、十分な抗菌作用が得られず、さらなる家畜用の床環境の改善が望まれている。
【0009】
本発明の目的は、抗菌作用が発揮される微生物の種類が多く効率的な抗菌作用が得られ人体や環境に影響のなく、家畜に対して良好な床環境を提供できる家畜用マットおよび家畜用家屋の床面塗料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に記載の家畜用マットは、イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた少なくとも2種と、無機系抗菌剤と、を含む抗菌組成物がマット基材に含有されたことを特徴とする。
この発明では、少なくとも2種のイミダゾール系の有機系抗菌剤と、無機系抗菌剤とを併用しているので、皮膚刺激性が認められず、人体や環境に影響がなく、かつ、相乗効果による低い最小育成素子濃度(MIC値)でも格段に広い抗菌スペクトルが得られ、効率よく高い抗菌作用が容易に得られる。特に、少なくとも2種のイミダゾール系の有機抗菌性抗菌剤のみと、無機系抗菌剤とを併用することが、より効率よく高い抗菌性作用が得られるので好ましい。
従来は、抗菌スペクトルを広げるには、化学的に異種な抗菌剤を用いることが必要であるが、本発明では、イミダゾール系単一の抗菌剤の組み合わせにより、著しく広い抗菌スペクトルを達成している。これは、公知知見からは全く予想できない効果である。
なお、本発明において、「抗菌性(抗菌効果)」とは、真菌や細菌などの菌類の生育や繁殖を阻止するといった抗菌効果そのものに加え、防カビ・抗カビ効果や、防藻効果といったものも含むものである。
このように、人体や環境に影響がなく、抗菌スペクトルが広く、高い抗菌作用の抗菌組成物にて、特に細菌やカビなどが発生しやすく、これら細菌やカビによる悪臭、さらには家畜自体に悪影響を与え易い床環境を効率よく改善できる。
【0011】
そして、本発明では、前記抗菌組成物が前記マット基材に塗布および混合のうちの少なくともいずれか一方で含有された構成とすることが好ましい。
この発明では、マット基材に塗布したり、マット基材を構成する基材に混合してマット状に成形したりするなどにより、家畜が良好に活動・休息できる床環境を提供するための抗菌効果を有するマットの成形が容易で、従来の家畜用のマットの製法を利用でき、容易に家畜用のマットを製造できる。
【0012】
また、本発明では、前記マット基材は、弾性樹脂部材である構成とすることが好ましい。
この発明では、マット基材として弾性樹脂材料を用いるので、家畜がより良好に活動・休息できる床環境を提供できる。
【0013】
さらに、本発明では、前記マット基材は、ゴムである構成とすることが好ましい。
この発明では、マット基材として、広く利用され入手・加工が容易なゴムを用いるので、例えば大型の家畜から小型の家畜まで、各種家畜に適度な弾性による良好な活動・休息を容易に提供できるとともに、各種家畜の床材としても損傷しにくく長期間安定して利用でき、安価に提供できる。
【0014】
また、本発明では、前記抗菌組成物は、前記イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた2種は、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものと、ベンゾイミダゾール環にカーバメート基を有するものとであることが好ましい。
この発明では、イミダゾール系の有機系抗菌剤として、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものとカーバメート基を有するものとの2種、特に2種のみを併用するので、同一のイミダゾール系でも、人体や環境に影響がなく、かつ、相乗効果による低いMIC値でも格段に広い抗菌スペクトルが得られるという抗菌作用が容易に得られ、特にこれらの併用により顕著な抗菌性が得られる。したがって、各種細菌やカビが発生し易い家畜用の床材として用いても、優れた抗菌性を示し、良好な床環境を提供できる。
【0015】
さらに、本発明では、前記ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものは、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールであり、前記ベンゾイミダゾール環にカーバメート基を有するものは、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルであることが好ましい。
この発明では、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有する2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、カーバメート基を有する2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとの2種を併用するので、特に併用による相乗効果にて顕著な抗菌性が得られる。さらに、これら2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとは、比較的に製造しやすく入手が容易で、既に利用されている材料で安全性が認められたものであることから、容易に利用できる。
【0016】
また、本発明では、前記無機系抗菌剤は、銀系抗菌剤と酸化亜鉛とのうちの少なくともいずれか一方であることが好ましい。
この発明では、無機系抗菌剤として、イミダゾール系の有機系抗菌剤との相乗効果が得られる銀系抗菌剤と酸化亜鉛とのうちの少なくともいずれか一方を用いるので、顕著な抗菌性が容易に得られる。そして、銀系抗菌剤と酸化亜鉛とを併用することにより、銀系抗菌剤および酸化亜鉛自体による抗菌作用とともに、これら同一の無機系抗菌剤でも併用することで抗菌作用の相乗効果も得られ、より顕著な抗菌性が容易に得られる。
【0017】
さらに、本発明では、前記銀系抗菌剤は、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトであることが好ましい。
この発明では、銀系抗菌剤として銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトを用いるので、貴金属である銀が抗菌作用を発揮する必要最小限の量となり、効率よく無機系抗菌剤による抗菌作用が得られるとともに有機系抗菌剤との抗菌作用の相乗効果が得られ、コストの低減も容易に図れる。
【0018】
また、本発明では、前記無機系抗菌剤は、前記銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと前記酸化亜鉛との配合割合が、質量比で1:1〜1:10であることが好ましい。
この発明では、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと、酸化亜鉛とを併用するので、同一の無機系抗菌剤でも併用による抗菌作用の相乗効果が得られ、より顕著な抗菌性が得られる。さらに、無機系抗菌剤自体による抗菌作用と、無機系抗菌剤の併用による抗菌作用の相乗効果と、有機系抗菌剤との抗菌作用の相乗効果とが損なわれることなく、貴金属である銀の使用量が低減し、コストの低減がより容易に図れる。そして、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと酸化亜鉛との配合割合が、質量比で1:1〜1:10であることから、抗菌性が損なわれることなく適切に銀の使用量が低減する。
ここで、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと酸化亜鉛との配合割合が、質量比で1:1より酸化亜鉛が少なくなると、銀の使用量の低減による十分なコストの低減が得られにくくなる。また、銀の酸化による変色が問題となるおそれもある。一方、質量比で1:10より酸化亜鉛が多くなると、銀による十分な抗菌作用が得られにくくなるおそれがある。したがって、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと酸化亜鉛との配合割合を質量比で1:1〜1:10とすることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明では、前記イミダゾール系の有機系抗菌剤と前記無機系抗菌剤との配合割合は、質量比で1:1〜5:1であることが好ましい。
この発明では、イミダゾール系の有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合を、質量比で1:1〜5:1とすることで、有機系抗菌剤や無機系抗菌剤自体の抗菌作用とともに、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との併用による顕著な抗菌作用の相乗効果が適切に得られる。
ここで、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合が、質量比で1:1より有機系抗菌剤が少なくなると、少ないMIC値での抗菌スペクトルの拡大が得られなくなるおそれがある。一方、質量比で5:1より有機系抗菌剤が多くなると、無機系抗菌剤に比して初期抗菌性能が遅く抗菌性能の持続性が低減しやすい有機系抗菌剤の割合が多くなり、使用当初から長期間に亘って安定した顕著な抗菌性が得られなくなるおそれがある。したがって、ベンゾイミダゾール系の有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合を、質量比で1:1〜5:1とすることが好ましい。
【0020】
また、本発明では、前記抗菌性組成物は、前記マット基材に10質量ppm以上2質量%以下で含有された構成とすることが好ましい。
この発明では、抗菌性組成物をマット基材に10質量ppm以上2質量%以下、好ましくは50質量ppm以上0.2質量%以下で含有しているので、例えば強度や外観などのマットの特性を損なうことなく顕著な抗菌性を発揮する家畜用の床材を提供できる。
ここで、抗菌性組成物の含有量が10質量ppmより少なくなると、少ないMIC値での抗菌スペクトルの拡大が得られにくくなり、十分な抗菌性を発揮できなくなるおそれがある。一方、抗菌性組成物の含有量が2質量%より多くなると、マットの特性が損なわれたり、成形時における作業性が低下したりするなどの不都合を生じるおそれがある。したがって、抗菌性組成物の含有量を10質量ppm以上2質量%以下、特に50質量ppm以上0.2質量%以下とすることが好ましい。
【0021】
本発明に記載の家畜用家屋の床面塗料は、イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた少なくとも2種と、無機系抗菌剤と、を含む抗菌組成物と弾性樹脂基材とを主成分とし、家畜用家屋の床面に塗布により弾性を有したマット状に形成されることを特徴とする。
この発明では、人体や環境に影響がなく、抗菌スペクトルが広く、高い抗菌作用の抗菌組成物にて、特に細菌やカビなどが発生しやすく、これら細菌やカビによる悪臭、さらには家畜自体に悪影響を与え易い床環境を、家畜用家屋の床面に塗布する簡単な施行で、効率よく改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の家畜用マットにおける一実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態における家畜用マットは、例えば牛、豚、鶏などの畜産を対象とし、牛舎などの家畜用家屋の床面に敷き詰められる構成を例示するが、畜産に限らず、家庭用ペット、動物園など、各種家畜動物を対象とできる。さらには、牛舎などの家畜用家屋の床面に敷き詰める構成に限らず、例えば屋内ペット用のシートとして家屋の床面の一部に敷物のように利用するなどしてもよい。
【0023】
〔家畜用マットの構成〕
家畜用マットは、例えば、家畜用家屋の床面に敷き詰められるシート状に形成されている。そして、家畜用マットは、例えば、周縁部に、家畜用の家屋の床面にアンカ固定するためのアンカ固定用孔が適宜設けられている。このアンカ固定用孔は、例えば鳩目などの金属製の環状部材が開口縁に設けられて、アンカ固定による開口縁の損傷などを防止する構成となっている。なお、アンカ固定に限らず、ねじ止め、さらには接着剤にて貼り付けるなど、床面に対する固定方法はいずれの方法を利用できる。
また、家畜用マットは、家畜用家屋の床面に対向する面に下面凹凸部が設けられ、家畜用家屋の床面に敷き詰めた状態での上面に上面凹凸部が設けられている。下面凹凸部は、特段の形状の制限はないが、家畜から加わる荷重により凹凸が弾性変形して、より弾性変形に抗する幅広い反発力を家畜に作用して家畜への衝撃を和らげる形状が好ましい。上面凹凸部は、例えば家畜用マットの水洗により表面が濡れている場合でも、家畜が滑ってしまう不安定な状態が生じない滑り止めとして機能する形状が好ましい。なお、家畜用マットの上面に、上面凹凸部に代えて、滑り止めとしての例えば短毛の人工芝のような起毛状の層を設けるなどしてもよい。
【0024】
そして、家畜用マットは、例えばゴムやポリウレタン系樹脂などの比較的に大きな弾性を有する弾性樹脂材料を基材として、抗菌性組成物が適宜配合されて略均一組成に混合・混練され、公知の各種成形方法を用いてシート状に成形されたものである。基材としては、牛や豚などの比較的に体重が重い家畜を対象とする場合、家畜の体重により裂けるなどの損傷が生じにくく、比較的にマット状の成形方法が確立しており、材料も広く流通して入手しやすいゴムが特に好ましい。
なお、弾性は、樹脂材料自体の特性に限られるものではなく、例えば樹脂材料を微細発泡させて大きな弾性を付与する構成としてもよい。微細発泡させた構成では、保温性も付与できる点で好ましい。そして、公知の成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法などが例示できる。
また、家畜用マットは、詳細は後述する抗菌性組成物を10質量ppm以上2質量%以下で含有することが好ましく、50質量ppm以上0.2質量%以下で含有することが特に好ましい。
ここで、抗菌性組成物の含有量が10質量ppmより少なくなると、十分な抗菌性を発揮できなくなるおそれがある。一方、抗菌性組成物の含有量を2質量%より多くしても、家畜用の床材として抗菌性能はほとんど変化がない一方、例えば成形体となる抗菌性樹脂シートの強度が低下したり、表面の平滑性などの外観が損なわれるなどの特性に影響を及ぼしたり、成形時における作業性や成形性などが低下したりするなどの不都合を生じるおそれがある。このように、必要最小限の含有量で十分な抗菌性を発揮させつつ、抗菌性組成物の含有量の増大によるコストの増大を抑えるため、抗菌性組成物の含有量を10質量ppm以上2質量%以下、特に50質量ppm以上0.2質量%以下にすることが好ましい。
【0025】
(抗菌性組成物)
家畜用マットに含有される抗菌性組成物は、イミダゾール系の有機系抗菌剤のみから選ばれた2種と、無機系抗菌剤と、を含有するもので、特にイミダゾール系の有機系抗菌剤のみから選ばれた2種と、無機系抗菌剤と、のみからなるものが好ましい。
この抗菌性組成物は、後述する表2ないし表7に示す微生物である菌類(真菌類、細菌類、藻類など)に対して、低いMIC値でも抗菌効果を奏し格段に広い抗菌スペクトルを示す。
すなわち、MIC値を50ppm以下と厳しいレベルとしても、真菌類214種、細菌類131種、藻類27種(現時点で確認済み)を示す。
【0026】
イミダゾール系の有機系抗菌剤としては、例えばベンゾイミダゾールカルバミン酸化合物、イオウ原子含有ベンゾイミダゾール化合物、ベンゾイミダゾールの環式化合物誘導体などが例示できる。
【0027】
ベンゾイミダゾールカルバミン酸化合物としては、1H−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル、1−ブチルカルバモイル−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル、6−ベンゾイル−1H−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル、6−(2−チオフェンカルボニル)−1H−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルなどが例示できる。
イオウ原子含有ベンゾイミダゾール化合物としては、1H−2−チオシアノメチルチオベンゾイミダゾール、1−ジメチルアミノスルフォニル−2−シアノ−4−ブロモ−6−トリフロロメチルベンゾイミダゾールなどが例示できる。
ベンゾイミダゾールの環式化合物誘導体としては、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾール、2−(2−クロロフェニル)−1H−ベンゾイミダゾール、2−(1−(3,5−ジメチルピラゾリル))−1H−ベンゾイミダゾール、2−(2−フリル)−1H−ベンゾイミダゾールなどが例示できる。
【0028】
そして、イミダゾール系の有機抗菌剤としては、イミダゾール系の有機系抗菌剤のみから選ばれた少なくとも2種のみを併用する。同一のイミダゾール系でも、異なる2種を併用することにより、微生物に対して抗菌作用の相乗効果が得られ、特に、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものと、ベンゾイミダゾール環にカーバメート基を有するものと、を使用することが、顕著な相乗効果が得られることから好ましい。
チアゾリル基としては、例えば2−チアゾリル、4−チアゾリル、5−チアゾリルなどが例示できる。また、カーバメート基としては、このカーバメート基における炭化水素基が、例えば、メチル、エチル、n−2プロピル、iso−プロピル、などのアルキル基が好ましく、特にメチル基あるいはエチル基を有するものが特に好ましい。
具体的には、チアゾリル基を有するものとして、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾール(チアベンダゾール:Thiabendazole(TBZ))などが例示できる。また、カーバメート基を有するものとして、メチル−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル(カルベンダジム:Carbendazim(BCM))、エチル−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルなどが例示できる。特に、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとは、熱的安定性が比較的に高く、特に樹脂成形体として利用することが容易であり、また例えばグレープフルーツやオレンジ、バナナなどの防かび剤(食品添加物)としても既に利用され、人体への影響が比較的に小さい材料として確認されたものであることから、特に好ましい。
【0029】
そして、これらイミダゾール系の有機系抗菌剤はハロゲンを含まないため、抗菌性組成物や抗菌性成形体である抗菌性樹脂シートを例えば焼却処理した場合であってもダイオキシンなどの有害物質が生成せず、環境への影響がなく好ましい。また、抗菌性組成物を樹脂材料に含有させて抗菌性樹脂シートを成形する場合に成形金型などの製造ラインにおける金属部品を腐食するなどの不都合が生じず、製造設備に特別な材料を用いた装置が不要で製造設備の簡略化や製造性の向上、装置コストの低減なども容易に得ることができるので好ましい。
また、これらイミダゾール系の有機系抗菌剤は実質的に水に不溶であるため、例えば雨露に曝されるなどの使用条件でも流れ落ちて長期間安定した抗菌性を提供できなくなるなどの不都合がない。さらに、樹脂材料と良好に混合されて抗菌性を有した成形体を提供することが容易となり、汎用性の向上も容易に図ることができる。
【0030】
一方、無機系抗菌剤としては、亜酸化銅、銅粉、チオシアン酸銅、炭酸銅、塩化銅、硫酸銅、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、硫酸ニッケル、銅−ニッケル合金などの無機金属化合物や、リン酸ジルコニウム、金属を担持したゼオライト、またはその塩であるリン酸ジルコニウムなどを使用することができる。特に、金属として銀または銅を担持したリン酸ジルコニウムが好ましく、より好ましくは抗菌性の高い銀系抗菌剤である銀を担持したリン酸ジルコニウムを使用する。なお、銀系抗菌剤としては、担持した形態に限らず、金属単体の銀なども対象とすることができる。
銀や銅といった金属を担持したリン酸ジルコニウムやゼオライトは、人体への安全性に優れ、抗菌速度も速く抗菌性能に優れているとともに、リン酸ジルコニウムやゼオライトに貴金属である銀を担持させることによるコストの低減などが得られるために好ましい。
特に、銀担持リン酸ジルコニウムやゼオライトを利用する場合、酸化亜鉛を併用することがより好ましい。銀担持リン酸ジルコニウムと酸化亜鉛との併用により、銀担持リン酸ジルコニウム自体および酸化亜鉛自体の抗菌作用とともに、同一の無機系である無機系抗菌剤でも併用による抗菌作用の相乗効果が得られ、より顕著な抗菌性が得られることから好ましい。さらに、酸化亜鉛との併用により、銀担持リン酸ジルコニウムやゼオライトの含有量を低減でき、貴金属である銀の使用量の低減によりコストの低減も容易に得られるので好ましい。また、銀の酸化による変色を防ぐこともできる。
【0031】
そして、抗菌性組成物は、イミダゾール系の有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合を、質量比で1:1〜5:1、特に2:1とすることが好ましい。
ここで、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合が質量比で1:1より有機系抗菌剤が少なくなると、少ないMIC値での抗菌スペクトルの拡大が得られなくなるおそれがある。一方、質量比で5:1より有機系抗菌剤が多くなると、無機系抗菌剤に比して初期抗菌性能が遅く抗菌性能の持続性が低減しやすい有機系抗菌剤の割合が多くなり、使用当初から長期間に亘って安定した顕著な抗菌性が得られなくなるおそれがある。このことから、ベンゾイミダゾール系の有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との配合割合を、質量比で1:1〜5:1とし、有機系抗菌剤や無機系抗菌剤自体の抗菌作用とともに、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との併用による顕著な抗菌作用の相乗効果を適切に発揮させることが好ましい。
【0032】
また、イミダゾール系の有機系抗菌剤として、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとを併用する場合、これらの配合割合を質量比で1:1〜5:1とすることが好ましい。
ここで、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとの配合割合が質量比で1:1より2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールが少なくなる、あるいは5:1より2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールが多くなると、低いMIC値で抗菌作用を示す抗菌スペクトルの数が減少、すなわち抗菌性組成物の添加量が増大するおそれがある。このことから、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとの配合割合を質量比で1:1〜5:1とすることが好ましい。
【0033】
さらに、無機系抗菌剤として、銀を担持したリン酸ジルコニウムやゼオライトと酸化亜鉛とを併用する場合、これらの配合割合を質量比で好ましくは1:1〜1:10、より好ましくは約1:2とする。
ここで、銀担持リン酸ジルコニウムやゼオライトと酸化亜鉛との配合割合が質量比で1:1より酸化亜鉛が少なくなると、貴金属である銀の使用量の低減による十分なコストの低減が得られにくくなる。また、銀の酸化による変色も防止できる。一方、質量比で1:10より酸化亜鉛が多くなると、銀による十分な抗菌作用が得られにくくなって、抗菌性組成物の添加量が増大するおそれがある。このことから、銀担持リン酸ジルコニウムやゼオライトと酸化亜鉛との配合割合を質量比で1:1〜1:10として、併用による顕著な抗菌作用の相乗効果を適切に発揮させることが好ましい。
【0034】
〔実施の形態の作用効果〕
このような本発明の家畜用マットによれば、ハロゲン基を有さず皮膚刺激性が認められない少なくとも2種のイミダゾール系の有機系抗菌剤と、無機系抗菌剤とを併用しているので、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤との併用による相乗効果に加え、同一のイミダゾール系でも2種の有機系抗菌剤、特に2種のみを併用することによる相乗効果を得ることができる。
このため、仮に抗菌性組成物が家畜の飼育者の皮膚や家畜の表皮に付着したり、抗菌性組成物を含有する成形体である家畜用マットに家畜や飼育者、製造者が接触したりしても、かぶれるなどの人体・家畜に影響がなく、また焼却処理などの際にダイオキシンなどの有害物質が発生せず、環境汚染を良好に抑制でき、人体・家畜や環境に影響がなく安全性に優れた良好な抗菌作用を提供できる。さらに、2種のイミダゾール系の有機系抗菌剤自体および無機系抗菌剤自体の抗菌作用とともに、単独では繁殖を阻止できなかった菌類に対しても、有機系抗菌剤および無機系抗菌剤の併用による相乗効果の抗菌性を示し、低いMIC値でも格段に広い抗菌スペクトルが得られ、10質量ppm以上2質量%以下の極めて少ない含有量でも効率よく高い抗菌作用を容易に得ることができる。したがって、特に細菌やカビなどが発生しやすく、これら細菌やカビによる悪臭、さらには家畜自体に悪影響を与え易い床環境でも、敷き詰める簡単な施行で細菌やカビなどの微生物の発生を防止して悪臭や家畜の疾病などを防止でき、効率よく良好な家畜用の床環境を提供できる。さらには、少ない含有量でも高い抗菌作用が得られるので、コストの増大を抑制できるとともに、製造性が損なわれる不都合も防止できる。
【0035】
そして、抗菌性組成物のイミダゾール系の有機系抗菌剤として、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものとカーバメート基を有するものとの2種を併用するので、同一のイミダゾール系でも、人体や環境に影響がなく、かつ、相乗効果による低いMIC値でも格段に広い抗菌スペクトルが得られるという抗菌作用が容易に得られ、特にこれらの併用により顕著な抗菌性が得られる。
特に、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有する2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、カーバメート基を有する2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとの2種を併用するので、併用による相乗効果にて顕著な抗菌性を発揮できる。さらに、これら2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールおよび2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルは、比較的に製造しやすく入手が容易で、既に利用されている材料で安全性が認められたものであることから、容易に利用でき、汎用性を向上できる。
また、抗菌性組成物の無機系抗菌剤として、イミダゾール系の有機系抗菌剤との相乗効果が得られる銀担持リン酸ジルコニウムと酸化亜鉛とのうちの少なくともいずれか一方を用いるので、顕著な抗菌性が容易に得られる。特に、銀担持リン酸ジルコニウムと酸化亜鉛とを併用することにより、銀担持リン酸ジルコニウム自体および酸化亜鉛自体による抗菌作用とともに、これら同一系である無機系抗菌剤でも、併用することで抗菌作用の相乗効果も得られ、より顕著な抗菌性を発揮できる。また、銀担持リン酸ジルコニウムと酸化亜鉛との併用により、抗菌性を損なうことなく、貴金属である銀の使用量を低減でき、コストをより容易に低減できる。
さらに、高い抗菌性を示す銀の使用形態として、リン酸ジルコニウムに銀を担持させた形態としている。このため、必要最小限の量で貴金属である銀による抗菌作用を発揮でき、無機系抗菌剤による抗菌作用および有機系抗菌剤との抗菌作用の相乗効果を効率よく発揮でき、コストをより容易に低減できる。
【0036】
また、本発明の家畜用マットによれば、マット基材となる弾性樹脂材料に混合してシート状に成形しているので、家畜が良好に活動・休息できる床環境を提供するための抗菌効果を有するマットの成形が、従来の家畜用のマットの製法を利用でき、容易に製造できる。さらには、家畜からの衝撃や洗浄などにより表面が摩耗などしても、抗菌効果は損なわれず、長期間安定した良好な床環境を提供できる。
特に、マット基材として弾性樹脂材料を用いるので、家畜の活動・休息時の衝撃を和らげ、より良好に活動・休息できる床環境を提供できる。
また、弾性樹脂材料として広く利用され入手・加工が容易なゴムを用いることにより、例えば大型の家畜から小型の家畜まで、各種家畜に適度な弾性による良好な活動・休息を容易に提供できるとともに、体重が比較的に重い大型の家畜である牛や豚などでも、裂けるなどの損傷が生じにくく長期間安定して床材として機能でき、シート状の加工方法も確立しており製造が容易で、安価に提供できる。
さらに、本発明の家畜用マットによれば、下面凹凸部および上面凹凸部を設けている。このため、家畜への衝撃のさらなる低減や、滑り止めによる家畜へのストレス防止、さらには家畜の怪我の防止が得られ、より良好な床環境を提供できる。
【0037】
〔実施の形態の変形例〕
なお、以上に説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造および形状などは、本発明の目的および効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状などとしても問題はない。
【0038】
すなわち、本発明の家畜用マットとして、弾性樹脂材料に抗菌性組成物を混合してシート状に成形したが、例えば弾性樹脂材料をシート状に成形したマット基材に抗菌性組成物を塗布してもよい。この構成によれば、抗菌性組成物の使用量を低減でき、コストを低減でき、安価に提供できる。なお、塗工としては、スプレーコーティング、ナイフコーティング、グラビアコーティング、フローコーティング、ダイコーティング、コンマコーティングなどの各種コーティング方法や、スクリーン印刷、パッド印刷、オフセット印刷などの各種印刷方法を利用できる。
また、シート状に形成したが、例えば下面および上面をゴム層として間によりポリウレタンなどの低反発の弾性樹脂層を設けた多層構造や、内部のみに発泡若しくは空洞部分を設けて表面は比較的に硬質で衝撃による損傷を防止しつつ内部の発泡や空洞により好適な弾性を付与するようにしてもよい。
【0039】
さらに、成形品として説明したが、例えば、本発明の抗菌性組成物を含有する弾性樹脂材料を家畜用家屋の床面に直接塗布して、床用面に弾性および高い抗菌性を有する層を設ける構成としてもよい。この場合の塗工についても、上述したように、各種コーティング方法や印刷方法を利用できる。
そして、マット基材としては、抗菌性組成物のみを含有する構成に限らず、繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastic:FRP)、ガラスファイバや樹脂ファイバ、インクなどの顔料など、機能干渉せずに独立して機能する添加部材を加えてもよい。
【0040】
また、イミダゾール系の有機系抗菌剤としては、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールと、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルとに限らず、上述した各種ベンゾイミダゾール系の組成物を組み合わせた構成として適用することができる。
さらに、各配合割合についても、利用部位や用途などに対応して適宜設定することができる。
【0041】
その他、本発明の実施における具体的な構造および形状などは、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例などを挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例などの内容に何ら限定されるものではない。
【0043】
〔実験1〕
(実施例1および比較例1,2)
表1に記載される処方の各成分を混合して、実施例1および比較例1,2の抗菌性組成物を調製した。
なお、比較例1の構成は、実施例1において無機系抗菌剤を配合せず、各成分を等量(1/2)ずつ混合したものである。また、比較例2の構成は、実施例1において有機系抗菌剤を配合せず、実施例1における無機系抗菌剤の各成分と同一の成分にて適宜配合したものである(銀担持リン酸ジルコニウム33質量%、酸化亜鉛67質量%)。
【0044】
(抗菌性組成物の処方)
【表1】

【0045】
(試験方法)
抗菌性組成物の抗菌性能試験を実施した。
抗菌性能試験としては、実施例1および比較例1,2で得られた抗菌性組成物について、下記の試験方法に従って最小生育阻止濃度(MIC値:ppm)を測定し、抗菌性能を評価した。
【0046】
(1)抗菌性組成物を所定の濃度(1000ppm、100ppm、50ppmなど)となるように、ジメチルスルホキシドで希釈して抗菌剤懸濁液を調製した。
(2)9cmシャーレに、121℃で20分オートクレーブ殺菌した寒天培地を9ml流し込み、(1)で調製した抗菌剤懸濁液を1ml添加して攪拌した。そして、シャーレを室温で放置して、寒天培地を固化させた。
(3)また、別途、1×106CFU/mlとなるように試験菌株を希釈して、この試験菌株と40℃で保温した減菌済0.9%寒天培地5mlとを混合して、試験菌株含有寒天溶液を調製した。
(4)(2)の寒天培地上に(3)で調製した試験菌株含有寒天溶液を重層して、固化させた。インキュベータ内にて、真菌は27℃、72時間培養後、また、細菌は30℃、24時間培養後それぞれ生育を確認した。このうち、試験菌が生育しない培地の中でもっとも抗菌性組成物の濃度の低いものを最低生育阻止濃度(MIC値:ppm)とした。結果を表2〜表7に示す。
【0047】
【表2】

(結果:真菌類(1))
【0048】
【表3】

(結果:真菌類(2))
【0049】
【表4】

(結果:真菌類(3))
【0050】
【表5】

(結果:細菌類(1))
【0051】
【表6】

(結果:細菌類(2))
【0052】
【表7】

(結果:藻類)
【0053】
通常、固形分への添加濃度は、MIC値の100倍以上であることから、経済性を考慮すると、本実施例ではMIC値を50ppmと定義した。
すなわち、社団法人繊維評価技術協議会の定義(規格値)は800ppm以下ならば抗菌剤として合格レベルであるが、800ppmの100倍では8質量%配合することとなり、経済性や、抗菌性成形物あるいは抗菌性溶液としての物性的にも影響が生じるおそれがある。
上述したように、表2ないし表7に示す結果からわかるように、実施例1の抗菌性組成物はいずれの試験菌類(真菌類、細菌類、藻類)に対しても、MIC値が50ppm以下であり、極めて低い濃度で多くの各種試験菌類の増殖を阻止することができた。このように、実施例1の抗菌性組成物が幅広い抗菌スペクトルを有し、幅広い菌類に対しても効果的に対応することが可能であることが確認できた。
【0054】
〔実験2〕
(実施例2〜6、比較例3)
本発明の家畜用マットを作製し、抗菌性について比較評価した。
実施例2〜6として、天然ゴム17質量%、合成ゴム39質量%、カーボンブラック28質量%、プロセスオイル14質量%、加硫促進剤2質量%の割合で配合した原料を、130℃で加熱溶解した。そして、この溶解したゴムに、実施例1の抗菌性組成物を表11に示す含有量で配合し、加圧ニーダー(株式会社鈴鹿エンジニアリング製)で8分間混練し、シート状に分出した後、プレス成型機(株式会社鈴鹿エンジニアリング製)により160℃で加圧プレスし、縦寸法20cm、横寸法20cm、厚さ寸法3mmに成型し、試料となる抗菌性ゴムマットを作製した。
比較例3として、実施例1の抗菌性組成物を混合せずにプレス成型して得られたゴムマットを用いた。
【0055】
(評価方法)
(1)無機塩培地の調製
表8に示す無機塩培地を調製し、これを121℃で20分間オートクレーブ殺菌後、苛性ソーダ水溶液(NaOH水溶液)によりpHが6.0〜6.5となるように調整した。
【0056】
【表8】

(無機塩培地)
【0057】
(2)混合胞子液の調製
以下の表9に示した菌株からなるカビの胞子を減菌水に懸濁させ、ろ過して濃度が約1×106cell/mlの混合胞子液を調製した。なお、胞子の懸濁には、ラウリル硫酸ナトリウムを用いて分散を行うようにした。
【0058】
【表9】

(菌株の種類)
【0059】
(3)(1)で調製した無機塩培地に(2)で調製した混合胞子液をまいた後、上から家畜用のマットとして作製した実施例2〜6および比較例3をそれぞれのせた後、温度を28℃、湿度を85%RH以上とした状態で28日間カビを培養させた。そして、カビの生育状況を目視で確認し、表10に示す判定基準を用いて評価した。その結果を表11に併せて示す。
【0060】
【表10】

(判定基準)
【0061】
【表11】

(評価結果)
【0062】
この表11に示すように、本発明の家畜用マットである抗菌性ゴムマットは、実施例2の抗菌性組成物を5質量ppmと極少量で含有させても、抗菌作用が認められ、実施例5の0.1質量%含有したものでは、カビの発育は全く認められなかった。
【0063】
〔実験3〕
(実施例7,8、比較例4)
実施例1の抗菌性組成物を0.02質量%(実施例7)、0.1質量%(実施例8)でそれぞれ配合し、実験2と同様な方法で、縦寸法180cm、横寸法90cm、厚さ寸法30mmにプレス成型し、抗菌性ゴムマットを作製した。また、比較例4として、抗菌性組成物を混有させずに同様にプレス成型して得られたゴムマットを用いた。
【0064】
(評価方法)
抗菌性の評価方法および判定基準は、JIS Z2801に準拠し、指示細菌として大腸菌、黄色ブドウ球菌を用いた。
その結果を、表12に示す。
【0065】
【表12】

(結果)
【0066】
この表12に示すように、抗菌性組成物が0.02質量%(実施例7)、0.1質量%(実施例8)と少ない含有量でも、大腸菌および黄色ブドウ球菌の2種類の細菌に対して良好な抗菌効果が認められた。
【0067】
〔実験3〕
(実施例9,10、比較例5)
実施例1の抗菌性組成物を0.02質量%(実施例9)、0.1質量%(実施例10)でそれぞれ配合し、実験2と同様な方法で、縦寸法180cm、横寸法90cm、厚さ寸法30mmにプレス成型し、抗菌性ゴムマットを作製した。また、比較例5として、抗菌性組成物を混有させずに同様にプレス成型して得られたゴムマットを用いた。
【0068】
(評価方法)
抗菌性の評価方法および判定基準は、JIS Z2801に準拠し、指示細菌として病原菌であるサルモネラ菌、連鎖球菌、ウエルシュ菌を用いた。なお、ウエルシュ菌は、嫌気条件下での混釈平板培地法を行った後、形成集落数を測定した。
その結果を、表13に示す。
【0069】
【表13】

(結果)
【0070】
この表12に示すように、抗菌性組成物が0.02質量%(実施例9)、0.1質量%(実施例10)と少ない含有量でも、サルモネラ菌、連鎖球菌、ウエルシュ菌の3種類の病原菌である細菌に対して良好な抗菌効果が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた少なくとも2種と、無機系抗菌剤と、を含む抗菌組成物がマット基材に含有された
ことを特徴とした家畜用マット。
【請求項2】
請求項1に記載の家畜用マットであって、
前記抗菌組成物が前記マット基材に塗布および混合のうちの少なくともいずれか一方で含有された
ことを特徴とした家畜用マット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の家畜用マットであって、
前記マット基材は、弾性樹脂部材である
ことを特徴とした家畜用マット。
【請求項4】
請求項3に記載の家畜用マットであって、
前記マット基材は、ゴムである
ことを特徴とした家畜用マット。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の家畜用マットであって、
前記抗菌組成物は、前記イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた2種は、ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものと、ベンゾイミダゾール環にカーバメート基を有するものとである
ことを特徴とした家畜用マット。
【請求項6】
請求項5に記載の家畜用マットであって、
前記ベンゾイミダゾール環にチアゾリル基を有するものは、2−(4−チアゾリル)−1H−ベンゾイミダゾールであり、
前記ベンゾイミダゾール環にカーバメート基を有するものは、2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチルである
ことを特徴とした家畜用マット。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の家畜用マットであって、
前記無機系抗菌剤は、銀系抗菌剤と酸化亜鉛とのうちの少なくともいずれか一方である
ことを特徴とした家畜用マット。
【請求項8】
請求項7に記載の家畜用マットであって、
前記銀系抗菌剤は、銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトである
ことを特徴とした家畜用マット。
【請求項9】
請求項8に記載の家畜用マットであって、
前記無機系抗菌剤は、前記銀を担持したジルコニウムまたはその塩あるいはゼオライトと前記酸化亜鉛との配合割合が、質量比で1:1〜1:10である
ことを特徴とした家畜用マット。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の家畜用マットであって、
前記イミダゾール系の有機系抗菌剤と前記無機系抗菌剤との配合割合は、質量比で1:1〜5:1である
ことを特徴とした家畜用マット。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の家畜用マットであって、
前記抗菌性組成物は、前記マット基材に10質量ppm以上2質量%以下で含有された
ことを特徴とした家畜用マット。
【請求項12】
イミダゾール系の有機系抗菌剤から選ばれた少なくとも2種と、無機系抗菌剤と、を含む抗菌組成物と弾性樹脂基材とを主成分とし、家畜用家屋の床面に塗布により弾性を有したマット状に形成される
ことを特徴とした家畜用家屋の床面塗料。

【公開番号】特開2009−65913(P2009−65913A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238527(P2007−238527)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】