説明

家電製品用温度調整不織布吸音シート材

【課題】
モーターやコンプレッサーなどが発する振動、騒音を効率よく吸収すると共にモーターやコンプレッサーの発熱による効率低下等を抑制することができる家電製品用不織布吸音シート材を提供する。
【解決手段】
ガラス転移温度55〜75℃のポリエステル系繊維からなる不織布シート材であり、シート材の表面にはバインダー樹脂を介して融点40〜80℃のパラフィンワックスを封入したマイクロカプセルが5〜40重量%付着されてなるものであって、比容積が3×10−3〜2×10−1/kgであり、繊維絡合部が融着していないことを特徴とする家電製品用温度調整不織布吸音シート材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は家電製品の振動、騒音を効率良く吸収し、かつ温度上昇による効率低下を抑制する家電製品用温度調整不織布吸音シート材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電気掃除機、電気洗濯機、衣類乾燥機、電気冷蔵庫及びエアーコンディショナーなどの一般家電製品はモーターやコンプレッサーなどが発する振動、低周波発生や騒音などが問題となっている。昨今の住宅事情等々を考慮し、制振性や防音性を向上させるため、制振材料の採用、ダイレクトドライブインバーターモーターの採用、モーターや洗濯槽等へのオイルサスペンションやオイルダンパー、制振ゴムダンパーの導入など様々な改善策が検討されている。
【0003】
しかしながら、電気洗濯機の場合は洗濯、脱水及び乾燥において40〜60dB程度、電気掃除機の場合は45〜65dB程度、エアーコンディショナーの場合は室内機で40〜55dB、同室外機で45〜65dB程度の騒音が発生する。また振動も同時に生じる為、制振性及び防音性の向上は一般家電製品の分野においても大きな課題となっている。
【0004】
かかる問題を解決する為にメルトブロー法による不織布の内部に短繊維を吹込んで複合化させた不織布を制振、防音材料として用いる方法が提案されている(例えば特許文献1、特許文献2参照。)。しかしながら、メルトブロー法による不織布は繊維絡合が融着によってなるものであり、立体成形時の絞りが深い(深絞り)場合は変形に追随しきれず破壊に至るという問題があり、成形性の点で大きな制約がある。またメルトブロー法による不織布は一般に融点が比較的低い重合体を用いる場合が多く、モーターなど発熱体に接触する用途では安全性に問題があり適用し難い。
【0005】
更には上記方法では不織布の空間空気層における空気の粘性摩擦を受けて騒音や振動のエネルギーの一部が熱エネルギーに変換された結果、制振効果、吸音効果が与えられるが、繊維絡合が融着によってなるメルトブロー法による不織布では繊維絡合が融着や接着によらないニードルパンチ法やウォータージェットパンチ(垂直高圧水流絡合法)法などによる不織布対比で伸縮変形し難いため、制振効果及び吸音効果が後者対比で小さく留まる。
【0006】
またモーターやコンプレッサーの発熱による温度上昇並びに振動や騒音のエネルギーを熱に変換することによって、不織布自体が温度上昇し、モーターやコンプレッサーなどの負荷上昇、効率低下を引き起こし、エネルギーロスが生じるという問題を抱える。
【特許文献1】特許第3126840号公報
【特許文献2】特許第3126841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる従来技術の問題を解消するために創案されたものであり、その目的は電気掃除機、電気洗濯機、衣類乾燥機、電気冷蔵庫及びエアーコンディショナーなど家電製品の制振、吸音部材として好適な不織布シート材を提供することであり、特にモーターやコンプレッサーなどが発する振動、騒音を効率良く吸収すると共に温度上昇によるモーターやコンプレッサーなどの効率低下を抑制する家電製品用温度調整不織布吸音シート材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はかかる目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明の完成に至った。
即ち、本発明はガラス転移温度55〜75℃のポリエステル系繊維からなる不織布シート材であり、シート材の表面にはバインダー樹脂を介して融点40〜80℃のパラフィンワックスを封入したマイクロカプセルが5〜40重量%付着されてなるものであって、比容積が3×10−3〜2×10−1/kgであり、繊維絡合部が融着していないことを特徴とする家電製品用温度調整不織布吸音シート材である。
また、本発明の家電製品用温度調整不織布吸音シート材の好ましい態様では、ポリエステル系繊維の単繊維繊度が1.0〜12dtexであり、JIS A1405(垂直入射法)に基づく吸音率が周波数2000Hz及び周波数4000Hzにおいてそれぞれ40%以上、60%以上であり、繊維の断面形状が3〜10葉の多葉断面である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の不織布シート材を構成する繊維のガラス転移温度は55〜75℃の範囲、より好ましくは60〜70℃の範囲である。重合体はガラス転移温度付近での粘弾性効果により、振動や騒音などのエネルギー吸収が最も大きくなる。家電製品に使用されるモーターなどの発熱は表面温度として50〜60℃になると言われており、振動及び騒音を吸収し熱エネルギーに変換する効果も加味すれば、該ガラス転移温度が55〜75℃の範囲であることが好ましく、繊維の構成重合体としては汎用性のあるポリエステル系重合体が特に好ましく用いられる。
【0010】
ポリエステル系重合体としてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどホモポリマーの他、これらのコポリマー、ブレンドポリマーなどが例示される。また必要に応じて艶消材や酸化防止材、その他改質材が混合していても構わない。本発明における改質はポリマー練込や共重合の他、吸尽法やパッド法による後加工も包含される。
【0011】
また本発明の不織布シート材表面には融点40〜80℃のパラフィンワックスを封入したマイクロカプセルが5〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%、バインダー樹脂を介して付着されていることが必要である。パラフィンワックスの融点が40℃未満では夏季の気温においても溶解し液相となっている為、融解熱(吸熱反応)による温度低下を利用できない。また80℃を超過する範囲では、モーターやコンプレッサーが稼動時の表面温度(稼動時で約60〜70℃になると言われている)以上となってしまい相転移現象による融解熱を温度低下に寄与させることができない。
【0012】
パラフィンワックスとしては融点40〜80℃、より好ましくは50〜80℃に調整された脂肪族炭化水素化合物、芳香族炭化水素化合物、脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪アミン、脂肪酸のアルキルエステル、ハロゲン化炭化水素等が挙げられる。特に分枝状より線状ポリマー(直鎖状)がより好ましく、n−ペンタデカン、n−ヘキサデカン、n−オクタデカン、n−ノナデカン、n−ドコサン等が例示される。これらは単独物のみならず適宜混合し用いても構わない。
【0013】
マイクロカプセルの製造法は公知のin situ重合により製造可能である。具体的にはマイクロカプセルの壁を構成する為のアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル及びジビニルモノマー、ポリビニルモノマーなどのモノマー成分、加硫酸アンモニウム、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリルなどのラジカル重合開始剤、カプセル中に封入する親油性物質(パラフィンワックス成分)を調整してO/W型エマルションとし、モノマーの重合を加熱によって開始させることにより、その際に生成する重合体(ポリマー)が親油性物質(パラフィンワックス成分)を取り囲むカプセル壁を形成してマイクロカプセルを得る。
【0014】
得られたマイクロカプセルは不織布シート材の表面に5〜40重量%の範囲でバインダー樹脂を介して付着されていることが必要である。マイクロカプセルの付着量が5重量%未満の範囲では相転移(固相→液相)融解熱による寄与が小さく留まり、表面温度上昇を抑制することができない。また40重量%を超過する範囲では不織布表面からマイクロパウダーが脱落し易く、発塵やひいてはモーターなどの作動不良、故障の要因となり好ましくない。
【0015】
マイクロカプセルを不織布シート材に付着させる為のバインダー樹脂としてはエポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂などが好ましく例示され、該樹脂溶液中にマイクロカプセルが分散された系で不織布シート材の加工に適用される。マイクロカプセルを分散した樹脂溶液を不織布シート材に処理する処理法についてはパッドドライ法、フローティングナイフやコンマロールコーター、キスロールコーターを用いたコーティング法など公知のいずれの方法によっても構わない。
【0016】
本発明の不織布シート材の比容積は3×10−3〜2×10−1/kg、より好ましくは1×10−2〜5×10−2/kgであることが制振性、防音性を向上させる観点で望ましい。防音及び制振の効果は不織布の空間空気層における空気の粘性摩擦を受けて騒音及び振動エネルギーの一部が熱エネルギーに変換されることによって達成されるものである。該比容積が3×10−3/kg未満では不織布における繊維充填量が多くなり過ぎる為、空間空気量が小さくなり結果として十分な防音、制振効果を与えることができない。また該比容積が2×10−1/kgを超過する範囲では不織布の空間空気量は大きくなるものの繊維充填量が少なく留まる為、形態安定性が損なわれ好ましくない。
【0017】
本発明の不織布シート材を構成する繊維は長繊維及び短繊維のいずれの形態であってもよいが、短繊維の使用が更に好ましい。特に短繊維は機械的捲縮などによる微細クリンプを有する為に嵩高効果を得やすいためである。繊維の絡合部が融着や接着により一体化されているもの、いわゆるメルトブロー法、フラッシュ紡糸法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法等の方法は上記の如く深絞り成形により破壊されるなど賦型性に難があるため、より賦型し易いニードルパンチ法、ウォータージェットパンチ法(垂直高圧水流絡合法)によるものが好ましい。短繊維を本発明の不織布シート材に用いる場合は、繊維長として38〜150mm、好ましくは50〜100mmとすることがカード機等の操業性を考えても好ましい。
【0018】
繊維の断面は公知のいずれの断面によってもよいが、特に3〜10葉、好ましくは3〜8葉の多葉断面の異型断面繊維が好ましく採用される。異型度が高くなれば該繊維表面と空気の接触面積が大きくなり、丸断面糸対比では粘性摩擦が向上する。繊維と空気の粘性摩擦が大きくなる効果によって制振効果及び吸音効果の向上が期待できる。3葉未満では繊維と空気の接触面積が小さく留まる他、曲げ剛性に乏しいものとなり形態安定性等の観点で好ましくなく、10葉を超過する範囲では技術的に凹凸差を大きく採ることが困難でありコスト的にも生産性の観点からも不利なものとなる。言うまでもなく中実繊維のみならず中空繊維も勿論、本発明の繊維に包含される。
【0019】
本発明の不織布シート材はJIS A1405(垂直入射法)に準じる方法で評価した吸音率が周波数2000Hz及び4000Hzにおいてそれぞれ40%以上、60%以上であることが望ましい。周波数500Hz程度の低周波数領域は不織布にフィルム状のシートを積層することにより吸音率を向上させることが可能であるが、逆に2000Hz以上の高周波数領域の吸音率が極端に悪くなってしまうという相反する位置にある。騒音成分として高周波数成分が多いモーターやコンプレッサーなどによる騒音を防止することを念頭におき、高周波数成分の吸音率を上げつつ低周波数成分の吸音率も可能な限り向上させるべく検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0020】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、周波数2000Hz及び周波数4000Hzの吸音率をそれぞれ40%以上、60%以上、より好ましくはそれぞれ50%以上、80%以上とすることによって高周波数成分が主たる騒音成分となるモーターやコンプレッサーの発する騒音を可能な限り抑制することができることを見出した。周波数2000Hz及び周波数4000Hzの吸音率がそれぞれ40%未満、60%未満の領域では吸音効果が少なく留まり、不快感を伴うものとなり好ましくない。高周波数領域の吸音率がそれぞれ上記の範囲内に存在することによって不快な騒音、振動を抑制することが可能となる。
【0021】
本発明の不織布シート材に用いるポリエステル系繊維の単繊維繊度は1.0〜12dtex、より好ましくは1.0〜8.0dtexである。該単繊維繊度が1.0dtex未満の細繊度ではヘタリ易く形態安定性が悪いものとなり嵩高性を維持し難く、12dtexを超過するものは吸音性能に対する寄与が小さいものとなり吸音材として好ましいものにはならない。また言うまでもなく単繊維繊度や繊維断面は一様である必要はなく、複数の繊度のものを混合して使用したり、異なる断面形状を有するものを混合して使用しても構わない。また必要に応じて複数のウェッブを積層しニードルパンチ法など繊維絡合部が融着、接着によらない絡合によって一体化した不織布シート材も本発明に包含される。勿論、上記ウェッブは単一のものでなくてもよく異種の組合せによるものも使用できる。
【実施例】
【0022】
本発明を下記実施例により更に詳細に説明する。尚、本文中及び実施例中の特性値は下記測定方法に準じて評価されるものである。また言うまでもないが本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0023】
(比容積)
不織布シート材を20cm角に切出し、その重量を秤量し1m当たりに換算し目付(g/m)を得た。次いで20g/cmの荷重下で厚み(mm)を求め、厚みと目付から比容積(m/kg)に単位換算して求めた。
【0024】
(ガラス転移温度)
オリエンテック社製RHEOVIBRON MODEL RHEO−1021及びDDV−01FPを用いて内部透過損失(tanδ)のピーク温度を求めた。
【0025】
(吸音率)
JIS A1405(垂直入射法)に準じた方法で吸音率を評価した。測定周波数として500Hz、2000Hz、4000Hzの値を採用した。
【0026】
(パラフィンワックスの融点)
マイクロカプセル分散液を空気中にて乾燥しセイコーインスツルメンツ社製示差走査熱量計DSC−6200型を用い、昇温速度2℃/分で評価した。
【0027】
(実施例1)
単繊維繊度3.3dtex、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレートセミダル丸断面短繊維(ガラス転移温度62℃)を用い開繊機及びカード機を通した後、常法に従いニードルパンチ不織布を得た。直鎖アルカン系化合物を混合調整したパラフィンワックス(融点62℃)を封入したマイクロカプセルをウレタン樹脂溶液に分散した後、パッドドライ法によって得られたニードルパンチ不織布に処理した。パディングにおける絞り率は80%、乾燥条件は100℃×300秒間、キュアリング条件は150℃×100秒間であり、マイクロカプセルの付与量は加工された不織布シート材総重量に対して10重量%であった。
【0028】
乾燥後のマイクロカプセル付与加工不織布シートの比容積は2.0×10−2/kgであり、繊維絡合部には融着が見られなかった。更に吸音率は周波数500Hzで12%、2000Hzで81%、4000Hzで97%と低周波数側の吸音性能はやや乏しかったが、高周波数側は吸音性能としても良好なものであった。該マイクロカプセル付与加工不織布シート材を家庭用電気掃除機のモーターハウジング外周部に取り付けて30分間の連続運転を実施した。連続運転直後のモーターハウジング表面温度は58〜60℃と部位によりややバラツキがあったが、総じてモーター効率を低下させる領域までの温度上昇は確認されなかった。
【0029】
(実施例2)
単繊維繊度4.5dtex、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレートセミダル6葉断面短繊維(ガラス転移温度60℃)を用い開繊機及びカード機を通した後、常法に従いニードルパンチ不織布を得た。直鎖アルカン系化合物を混合調整したパラフィンワックス(融点58℃)を封入したマイクロカプセルをウレタン樹脂溶液に分散した後、パッドドライ法によって得られたニードルパンチ不織布に処理した。パディングにおける絞り率は80%、乾燥条件は100℃×300秒間、キュアリング条件は150℃×100秒間であり、マイクロカプセルの付与量は加工された不織布シート材総重量に対して12重量%であった。
【0030】
乾燥後のマイクロカプセル付与加工不織布シートの比容積は1.9×10−2/kgであり、繊維絡合部には融着が見られなかった。更に吸音率は周波数500Hzで18%、2000Hzで79%、4000Hzで94%と低周波数側の吸音性能はやや乏しかったが、高周波数側は吸音性能としても良好なものであった。該マイクロカプセル付与加工不織布シート材を家庭用電気掃除機のモーターハウジング外周部に取り付けて30分間の連続運転を実施した。連続運転直後のモーターハウジング表面温度は56〜59℃と部位によりややバラツキがあったが、総じてモーター効率を低下させる領域までの温度上昇は確認されなかった。
【0031】
(実施例3)
ポリエステル系繊維としてテレフタル酸とエチレングリコール及び2−(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−オキサイド−10−ホスファフェナントレン−10−イル)メチルコハク酸共重合物を溶融紡糸して得た、単繊維繊度3.3dtex、繊維長51mmのポリエステルセミダル丸断面短繊維(ガラス転移温度57℃)を用い開繊機及びカード機を通した後、常法に従いニードルパンチ不織布を得た。その後、直鎖アルカン系化合物を混合調整したパラフィンワックス(融点58℃)を封入したマイクロカプセルをウレタン樹脂溶液に分散した後、パッドドライ法によって得られたニードルパンチ不織布に処理した。パディングにおける絞り率は80%、乾燥条件は110℃×300秒間、キュアリング条件は160℃×100秒間であり、マイクロカプセルの付与量は加工された不織布シート材総重量に対して10重量%であった。
【0032】
該マイクロカプセル付与加工不織布シートの比容積は2.3×10−2/kgであり、繊維絡合部には融着が見られなかった。更に吸音率は周波数500Hzで9%、2000Hzで78%、4000Hzで90%と低周波数側の吸音性能はやや乏しかったが、高周波数側は吸音性能としても良好なものであった。該マイクロカプセル付与加工不織布シート材を家庭用電気掃除機のモーターハウジング外周部に取り付けて30分間の連続運転を実施した。連続運転直後のモーターハウジング表面温度は58〜60℃と部位によりややバラツキがあったが、総じてモーター効率を低下させる領域までの温度上昇は確認されなかった。
【0033】
(実施例4)
単繊維繊度7.5dtex、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレートセミダル8葉断面短繊維(ガラス転移温度62℃)を用いた他は実施例1と同様の方法でマイクロカプセル付与加工不織布シート材を得た。付与したマイクロカプセルの重量はマイクロカプセル付与加工不織布シート材総重量に対して9重量%であった。また該シート材の比容積は1.8×10−2/kgであり、繊維絡合部には融着が見られなかった。更に吸音率は周波数500Hzで10%、2000Hzで79%、4000Hzで86%と低周波数側の吸音性能がやや乏しかったが、高周波数側は吸音性能として良好なものであった。該マイクロカプセル付与加工不織布シート材を家庭用電気掃除機のモーターハウジング外周部に取り付けて30分間の連続運転を実施した。連続運転直後のモーターハウジング表面温度は58〜60℃と部位によりややバラツキがあったが、総じてモーター効率を低下させる領域までの温度上昇は確認されなかった。
【0034】
(実施例5)
単繊維繊度2.5dtex、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレートセミダル丸断面短繊維(ガラス転移温度70℃)を用いた他は実施例1と同様の方法でマイクロカプセル付与加工不織布シート材を得た。付与したマイクロカプセルの重量はマイクロカプセル付与加工不織布シート材総重量に対して12重量%であった。また該シート材の比容積は4.6×10−2/kgであり、繊維絡合部には融着が見られなかった。更に吸音率は周波数500Hzで16%、2000Hzで86%、4000Hzで96%と低周波数側の吸音性能がやや乏しかったが、高周波数側は吸音性能として良好なものであった。該マイクロカプセル付与加工不織布シート材を家庭用電気掃除機のモーターハウジング外周部に取り付けて30分間の連続運転を実施した。連続運転直後のモーターハウジング表面温度は57〜59℃と部位によりややバラツキがあったが、総じてモーター効率を低下させる領域までの温度上昇は確認されなかった。
【0035】
(実施例6)
実施例1で用いたパラフィンワックス(融点62℃)を封入したマイクロカプセルのウレタン樹脂溶液内含有量を増加させた他は実施例1と同様の方法で実施例1同様の方法でマイクロカプセル付与加工不織布シート材を得た。付与したマイクロカプセルの重量はマイクロカプセル付与加工不織布シート材総重量に対して28重量%であった。また該シート材の比容積は1.8×10−2/kgであり、繊維絡合部には融着が見られなかった。更に吸音率は周波数500Hzで10%、2000Hzで78%、4000Hzで96%と低周波数側の吸音性能がやや乏しかったが、高周波数側は吸音性能として良好なものであった。該マイクロカプセル付与加工不織布シート材を家庭用電気掃除機のモーターハウジング外周部に取り付けて30分間の連続運転を実施した。連続運転直後のモーターハウジング表面温度は55〜56℃と部位によりややバラツキがあったが、総じてモーター効率を低下させる領域までの温度上昇は確認されなかった。
【0036】
(実施例7)
パラフィンワックス封入マイクロカプセル内のパラフィンワックスの融点を77℃のものに変更した以外は実施例1と同様の方法でマイクロカプセル付与加工不織布シート材を得た。付与したマイクロカプセルの重量はマイクロカプセル付与加工不織布シート材総重量に対して28重量%であった。また該シート材の比容積は2.0×10−2/kgであり、繊維絡合部には融着が見られなかった。更に吸音率は周波数500Hzで12%、2000Hzで82%、4000Hzで96%と低周波数側の吸音性能がやや乏しかったが、高周波数側は吸音性能として良好なものであった。該マイクロカプセル付与加工不織布シート材を家庭用電気掃除機のモーターハウジング外周部に取り付けて30分間の連続運転を実施した。連続運転直後のモーターハウジング表面温度は59〜61℃と部位によりややバラツキがあったが、総じてモーター効率を低下させる領域までの温度上昇は確認されなかった。
【0037】
(比較例1)
ポリエステル系繊維としてテレフタル酸とエチレングリコール及び5−ナトリウムスルフォイソフタル酸共重合物を溶融紡糸して得た、単繊維繊度3.3dtex、繊維長51mmのポリエステルセミダル丸断面短繊維(ガラス転移温度50℃)を用いた他は実施例1と同様の方法でマイクロカプセル付与加工不織布シート材を得た。マイクロカプセルの付与量はマイクロカプセル付与加工不織布シート材総重量に対して10重量%であった。乾燥後のマイクロカプセル加工不織布シートの比容積は3.0×10−2/kgであり、繊維絡合部には融着が見られなかった。吸音率は周波数500Hzで7%、2000Hzで36%、4000Hzで73%と低周波数側、高周波数側とも吸音率は低いものに留まり、吸音効果に乏しいものであった。該マイクロカプセル付与加工不織布シート材を家庭用電気掃除機のモーターハウジング外周部に取り付けて30分間の連続運転を実施した。連続運転直後のモーターハウジング表面温度は58〜60℃と部位によりややバラツキがあったが、総じてモーター効率を低下させる領域までの温度上昇は確認されなかった。
【0038】
(比較例2)
比容積のみ2.6×10−3/kgに変更した他は実施例1と同様の方法でマイクロカプセル付与加工不織布シート材を得た。マイクロカプセル付与量はマイクロカプセル付与加工不織布総重量に対して10重量%であった。また、該不織布シートの繊維絡合部には融着が見られなかった。吸音率は周波数500Hzで12%、2000Hzで70%、4000Hzで90%と低周波数側の吸音性能はやや乏しかったが、高周波数側は吸音性能としても良好なものであった。しかしながら、比容積が小さいために形態安定性に乏しく、家電製品向け不織布吸音シート材としては好ましいものとはならなかった。該マイクロカプセル付与加工不織布シート材を家庭用電気掃除機のモーターハウジング外周部に取り付けて30分間の連続運転を実施した。連続運転直後のモーターハウジング表面温度は56〜59℃と部位によりややバラツキがあったが、総じてモーター効率を低下させる領域までの温度上昇は確認されなかった。
【0039】
(比較例3)
比容積のみ2.5×10−1/kgに変更した他は実施例1と同様の方法でマイクロカプセル付与加工不織布シートを得た。マイクロカプセル付与量はマイクロカプセル付与加工不織布シート総重量に対して11重量%であった。また該不織布シートの繊維絡合部には融着が見られなかった。吸音率は周波数500Hzで14%、2000Hzで35%、4000Hzで58%と低周波数側、高周波数側共に吸音性能に乏しいものであった。また自重が大きくなり家電製品自体の重量増につながり、家電製品向け不織布吸音シート材としては好ましいものにはならなかった。因みに該マイクロカプセル付与加工不織布シート材を家庭用電気掃除機のモーターハウジング外周部に取り付けて30分間の連続運転を実施した。連続運転直後のモーターハウジング表面温度は60〜63℃と部位によりややバラツキがあったが、総じてモーター効率を低下させる領域までの温度上昇は確認されなかった。
【0040】
(比較例4)
マイクロカプセルに封入するパラフィンワックスを融点28℃のものに変更した他は実施例1同様の方法でマイクロカプセル付与加工不織布シートを得た。マイクロカプセル付与量はマイクロカプセル付与量はマイクロカプセル付与加工不織布シート総重量に対して11重量%であった。また該不織布シートの繊維絡合部には融着が見られなかった。吸音率は周波数500Hzで12%、2000Hzで80%、4000Hzで95%と低周波数側の吸音性能はやや乏しかったが、高周波数側は吸音性能としても良好なものであった。該マイクロカプセル付与加工不織布シート材を家庭用電気掃除機のモーターハウジング外周部に取り付けて30分間の連続運転を実施した。連続運転直後のモーターハウジング表面温度は68〜70℃でありマイクロカプセルに封入したパラフィンワックスの相転移の効果(吸熱効果)を活かすことができなかった。
【0041】
(比較例5)
マイクロカプセルに封入するパラフィンワックスを融点86℃のものに変更した他は実施例1同様の方法でマイクロカプセル付与加工不織布シートを得た。マイクロカプセル付与量はマイクロカプセル付与量はマイクロカプセル付与加工不織布シート総重量に対して10重量%であった。また該不織布シートの繊維絡合部には融着が見られなかった。吸音率は周波数500Hzで10%、2000Hzで80%、4000Hzで94%と低周波数側の吸音性能はやや乏しかったが、高周波数側は吸音性能としても良好なものであった。該マイクロカプセル付与加工不織布シート材を家庭用電気掃除機のモーターハウジング外周部に取り付けて30分間の連続運転を実施した。連続運転直後のモーターハウジング表面温度は68〜71℃でありマイクロカプセルに封入したパラフィンワックスの相転移の効果(吸熱効果)を活かすことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の不織布吸音シート材は軽量で賦型性が良く、モーターやコンプレッサーなどが発する振動、騒音を効率よく吸収することができる。また相転移現象を利用した吸熱効果によってモーターやコンプレッサーの発熱による効率低下を効果的に抑制することができ、電気掃除機、電気洗濯機、衣類乾燥機、電気冷蔵庫及びエアーコンディショナーなど家電製品の制振、吸音部材として優れた効果が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度55〜75℃のポリエステル系繊維からなる不織布シート材であり、シート材の表面にはバインダー樹脂を介して融点40〜80℃のパラフィンワックスを封入したマイクロカプセルが5〜40重量%付着されてなるものであって、比容積が3×10−3〜2×10−1/kgであり、繊維絡合部が融着していないことを特徴とする家電製品用温度調整不織布吸音シート材。
【請求項2】
ポリエステル系繊維の単繊維繊度が1.0〜12dtexであり、JIS A1405(垂直入射法)に基づく吸音率が周波数2000Hz及び周波数4000Hzにおいてそれぞれ40%以上、60%以上であることを特徴とする請求項1に記載の家電製品用温度調整不織布吸音シート材。
【請求項3】
繊維の断面形状が3〜10葉の多葉断面であることを特徴とする請求項1または2に記載の家電製品用温度調整不織布吸音シート材。

【公開番号】特開2006−144159(P2006−144159A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334455(P2004−334455)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(595010932)東洋染色工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】