説明

容器入り調味液漬の食品及びその製造方法

【課題】調味液漬の漬物などの食品が持つパリパリとした歯切れ感などの食品が持つ本来の食感を失わせることなく、容器詰めの調味液漬の食品を得ようとするものである。
【解決手段】底部2から下方の向かって突出する凸出部3を設けた容器本体1に、調味液漬の漬物15などの食品を調味液16と共に充填する。これに蓋体10を被せ、上記容器本体1の底部2に設けた凸出部3を上方に向かって反転させて凹入部5を形成し、漬物15が入っている調味液16の上面18を容器本体1の上面7と均一状態になるようにする。上記の蓋体10を容器本体1のフランジ部4に固定して密封する。この密封された容器本体1内は、漬物15を含む調味液16によって充満された状態になって保存される。この容器内で漬物はパリパリとした歯切れ感、風味が保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器に詰めた調味液漬の食品及び容器詰め調味液漬の食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、従来より、調味液に漬けた漬物などの食品を詰め替える必要もなくそのまま利用することができ、保存、収納にも便利であり、また販売時の展示にも便利なように容器詰めした調味液漬の漬物などの食品の販売を計画してきた。
そこで、先ず、プラスチック製の小形容器内に調味液に漬けた漬物を調味液と共に詰めて、蓋シールをして密封する包装を行ったところ、漬物の持っている味が変化すると共に、何よりも漬物のパリパリとした歯切れ感が無くなってしまい、ふにゃふにゃとした感触で、その食感が全く失われてしまった。
従って、こうした方法では、調味液漬の漬物などの食品を容器詰め包装することができないことが判った。
また、こうしたことを解決するための具体的な手段はこれまでに提案されておらず、このようなことに関する特許文献も特に見当たらなかった。
【特許文献1】特になし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、調味液漬の漬物などの食品が持つ味を保持すると共に、パリパリとした歯切れ感などの食品が持つ本来の食感を失わせることなく、保存の利く容器詰めの調味液漬の食品を簡便かつ経済的に得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の如くして試作した容器詰め調味液漬の漬物においては、漬物を含む調味液が容器の下方にあり、上方には漬物や調味液の詰まっていない空間が存在していた。そこで、こうした空間の空気の存在が原因かと考えて、容器内に漬物を含む調味液を充填した後で、上記空間の空気を不活性な窒素ガスでガス置換を行って蓋を密封してみた。
しかし、この場合にも味の変化は少し抑制できたものの、上記と同様に漬物の持っているパリパリとした歯切れ感が無くなってしまい、独特の食感が全く失われてしまうことが判った。
【0005】
また、こうした調味液漬の漬物は、通常、常温で流通されているところから、その保存性を考えると容器に詰めた後で、70℃以上の環境下に15〜20分程度置いて、品温を67℃で7分以上保持して殺菌することが行われている。しかしこうした条件下に置くと、上部に空間のあるものでは容器内の圧力が上がって、シールした蓋が剥がれてしまったり、容器が変形したりすることも起こった。また、上記した70℃以上の環境下に15〜20分程度置いても、品温を67℃で7分以上保持することができず、充分な殺菌ができないことから、品質保持上も問題があることが判った。
【0006】
更に、漬物の持っているパリパリとした歯切れ感が無くなってしまうのは、漬物に対する調味液の浸透が大きいことによるのではないかと推測されたので、調味液中に水溶性食物繊維を加えるなどして調味液の浸透作用を抑える方法を検討し、種々試験を行ったが、何れも所望の効果を得ることができなかった。
【0007】
また、調味液漬の漬物を容器に詰めるのではなく、包装容器に調味液と前処理の済んだ原料漬物を入れて、包装容器内で漬物に漬込む方法を検討したところ、歯切れ感の保持には若干の効果が得られたが、漬物としての味付けにバラツキが見られ、商品として販売するには不適格なものであった。
上記したような種々の検討、試験、研究によっても、調味液漬の漬物が持つ本来の味、食感を失わせることなく容器詰めにすることがなかなか出来なかった。
【0008】
その後の種々の試行錯誤を伴う研究・開発過程において、漬物を含む調味液を容器一杯に詰めて蓋を密封したものでは、これを保存しておいても漬物の味が変わらないし、漬物の持っているパリパリとした歯切れ感が無くなることなく、その食感が失われてしまうことがないことを発見した。
【0009】
このような固形物と調味液を含んでいる調味液漬の漬物を、包装容器の上面スレスレにまで充填して蓋体で密封することは、手作業によってゆっくりと行う場合には可能であった。しかし、実際の工場における製造の過程に乗せて機械生産を行うことは、固形物や調味液が飛び出してしまったり、細かな固形物をシール面に挟み込んでしまって確実に密封できないなどという支障が多発し、工業的な生産が極めて難しく、種々の方策を考えたが良い解決策が見つからないでいた。
その後、更に種々の研究、試作の結果、下記の手段によって、初めてこれが実現できることを見出した。
【0010】
本発明は、底部から下方に向かって突出する凸出部を設けた容器本体に、調味液漬の漬物などの食品を調味液と共に充填し、蓋体を被せ、上記容器本体の底部に設けた凸出部を上方に向かって反転させ、食品が入っている調味液の上面を容器本体の上面と均一状態になるようにし、上記の蓋体を容器本体に固定して密封し、この密封された容器本体内が食品を含む調味液によって充満されている状態にして、容器入り調味液漬の食品とするものである。
上記した底部から下方に向かって突出する凸出部を設けた容器本体に、調味液漬の食品と調味液を共に一定量を充填したときに、上記容器本体の上部に残されている調味液が満たされていない空間は、上記容器本体の底部に設けた凸出部を上方に向かって反転させたときに丁度消失し、食品が入っている調味液の上面が容器本体の上面と均一状態になるようになっている。そして、こうした状態にできるような一定量の漬物を調味液と共に、先ず底部から下方の向かって突出する凸出部を設けた容器本体に充填するようにするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、上記したように、上記容器本体の底部に設けた凸出部を上方に向かって反転させることによって、漬物などの食品が漬かっている調味液の上面を容器本体の上面と均一状態になるようにすることができ、これを蓋体で被って容器本体に固定して密封すると、いつまでも調味液漬の食品が持っているパリパリとした歯切れ感などを保ち、食品本来の食感を失わせることなく保存することができ、何時でも美味しい食品を食べることができる。また、こうした容器詰め調味液漬の食品を容易かつ経済的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
調味液漬の漬物などの食品を収納する容器本体1の底部2には、下方向に向かって突出している凸出部3を設けており、上記の容器本体1の上部には、蓋体10を接着するためのフランジ4を設けている。
この容器本体1の底部に設けた凸出部3は、上方向に向かって押すと反転して、底部から上方への凹入部5を形成した状態になり、その状態を維持することができる。
【0013】
上記容器本体1は、調味液漬の漬物などの食品の種類、収納量によって適宜の形状、大きさに形成することができる。図示する容器本体1は、耐熱性、ガスバリアー性、透明若しくは半透明性を有するポリエステルシート、ポリプロピレンシートその他のプラスチックシートを使用して成形したものであって、底部2の凸出部3は、弧面を描いて下方向に突出しており、容器本体1の上部には外方向に向かって延出するフランジ部4が形成されている。
【0014】
この容器本体1は容器部分9が1つのものでもよいが、容量の小さいものであれば大きさに応じて複数の容器部分9を連結した状態に形成することができ、図示のものではフランジ部3が接続されて、2つの容器部分9が連設された状態に形成されている。
【0015】
こうした容器本体1中に調味液漬の漬物15の一定量をホッパー17から投入し、調味液16を注入すると、全体の量が容器本体1の容量よりも少ないので、特別の方法や装置を必要とすることなく従来どおりに確実に容器本体1内に収納することができ、投入しようとするものが容器の外にこぼれ出るようなことはなく、工業的にも効率よく処理することができる。
上記調味液漬の漬物15をホッパー17から投入したとき、漬物が容器本体1中で盛り上るようであれば、調味液16を注入する前に漬物15を押圧するなどして、全体を均すようにするとよい。こうして、調味液漬の漬物が収納された容器本体1内の上部には、調味液と漬物によって満たされていない空間6が残っている。
【0016】
上記の容器本体1内に調味液漬の漬物を投入した後で、蓋体10を被せ、容器本体1の底部2に設けてある凸出部3を上方に押し上げるようにすると、この凸出部3は反転して容器本体1内に持ち上がって凹入部5を形成するようになり、漬物の入った調味液の液面18は容器本体1の上面7一杯まで上昇して均一状態となる。
すなわち、上記容器本体1内へ投入する漬物入りの調味液の量は、容器本体1底面の凸出部3を反転したときに、調味液の液面18が容器本体1の上面7と均一状態となるような量としている。
【0017】
漬物の入った調味液の液面18を容器本体1の上面7と均一状態にすると共に、蓋体10をフランジ部4に接着して密封すれば、容器本体1内にあった空間6は消滅し、容器本体1内の全体が漬物15の入った調味液16によって満たされた状態になる。
上記蓋体10をフランジ部4に接着する際に、蓋体10を容器本体1の上面7と均一状態にある調味液の液面18に接するようにしてやれば、容器本体1内に空間6が残ることを一層少なくすることができ、一層効率的である。
本発明において、容器本体1内が漬物などの食品の入った調味液によって全体が満たされた状態とは、操作上から調味液によって満たされていない空間6が僅かに残っていることを排除するものではなく、実質的に漬物の入った調味液によって全体が満たされている状態を示す。
【0018】
図示の容器本体1のフランジ部4には、容器の収納部の上面開口から少し離れた位置に、容器開口を取囲むように、細幅の小突起5を設けている。この小突起8は、上記凸出部3を反転したときに上昇する調味液がフランジ部4から外側にこぼれ出ることを防いで、容器本体1の上部空間6内の空気を排除しながら、蓋体10が調味液16に接触することを更に良好にしている。また、上記凸出部3を反転したときに上昇する調味液が容器本体1から若干こぼれ出ることもあるが、そうした際にも例えば、ごま、細く刻まれた生姜等の薬味野菜などが、この小突起8によって外側にこぼれ出ることを防ぐので、蓋体10をシールする場合に、シール面に固形物を挟んでシールが不完全になったりすることを防ぐことができる。
【0019】
上記蓋体10は、耐熱性、ガスバリアー性があって、容器本体1と溶着可能であり、開封しようとするときに剥離の容易な多層フイルムシートなどを使用するとよく、容器本体にシールバー19などによって接着されるが、こうした接着を行う際にも、上記したフランジ部に設けた細幅の小突起8によって蓋体10との接着性が一層向上し、上記の如く調味液面が高くても密着性を良好にして接着することができる。
【0020】
こうして包装した調味液漬の漬物は、容器本体1内において全体が調味液に満たされた状態に保持することができるようになる。この包装した調味液漬の漬物は、常温保存性を持たせる場合、上記したように70℃以上の環境下に15〜20分程度置いて、容器本体1内の調味液漬の漬物の品温を67℃で7分以上保持することができるので、充分な殺菌を行うことができる。こうして、少なくとも通常、数ヶ月程度の賞味期間以上に、本来の調味液漬の漬物などの食品が持っている味と、パリパリとした歯切れ感などを保ち、その食感が失われるようなことがない。
【0021】
これを食べる場合には、容器本体1を覆っている蓋体10を剥がすようにして取除いてやれば、容器本体1に調味液漬の食品が収納されている状態に開封されるので、この容器本体1から適宜に食品を取出して食べることができるし、この容器本体1はそのまま食べるときの食品容器として利用することもできる。
図示のものでは、蓋体10の四隅に摘み片11を設けているので、ここを摘まんで蓋体フイルムを四隅の何処からでも容易に開封することができる。また、2つの容器部分9を連結しているフランジ部4およびその蓋体10には、不連続切線12を設けているので、一方の容器部分9側の蓋体10だけを開封することができるし、フランジ部4から切離して2つの容器本体1に分けて利用することもできる。
【0022】
図のものでは、きゅうりを醤油味の調味液に漬けた漬物を容器内に充填するようにしたものを示しているが、これは福神漬、ピクルス、その他の各種調味液漬けの食品に広く応用することができる。
【0023】
(試験)
本発明の容器入り調味液漬の漬物と上部に空間の存在する容器入り調味液漬の漬物について、殺菌状態及び保存状態を調べるための試験を行った。
(試験材料)
1.本発明品(本発明の容器入り調味液漬の漬物):きゅうりの調味液漬の漬物〔出願会社製の新きゅうりのキューちゃん(商品名);固形分36g、調味液14g〕、容器本体内の空間量2%以下。
2.対照品(上部に空間の存在する容器入り調味液漬の漬物):きゅうりの調味液漬の漬物〔出願会社製の新きゅうりのキューちゃん(商品名);固形分36g、調味液14g〕、容器本体内の空間量20%。
【0024】
(加熱殺菌試験)
本発明品と対照品について、加熱殺菌機において加熱を行い、加熱殺菌機の槽内温度、本発明品の内部温度、対照品の内部温度を経時的に測定した。
(試験結果)
試験の結果は、図8に示すとおりであり、図中、Aが加熱殺菌機の槽内温度、Bが本発明品の内部温度、Cが対照品の内部温度である。
(考察)
加熱殺菌機内の温度は、3分20秒後〜20分40秒まで17分以上70℃以上に保たれている。
本発明品の内部温度は、11分40秒〜21分50秒まで10分間、67〜70℃に保たれており、基準とされている67℃で7分以上の条件を満たし充分な加熱殺菌が行われている。一方、対照品の内部温度は、17分10秒〜21分20秒まで4分10秒間しか67℃以上に保たれておらず、上記基準を満たさず空間の存在により充分な加熱殺菌が行われていないことが判る。
【0025】
(保存試験における官能評価)
本発明品と対照品について、製造直後、及び55℃の促進試験によって30日経過相当、70日経過相当、110日経過相当、150日経過相当の各時点において官能試験を行った。
(試験結果)
試験の結果は、表1に示すとおりである。
【表1】

(考察)
本発明品は、包装直後から150日経過まで良好なる味質・風味・歯切れ感を保持しているが、対照品では、30日経過後から劣化が始まり、110日経過までその品質を保持しておくことは不可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例の容器入り調味液漬けの食品の斜視図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1の調味液漬けの食品が充填されていない状態の容器本体を示す斜視図である。
【図4】図3に示す容器本体の平面図である。
【図5】図3に示す容器本体の縦断面図である。
【図6】図3に示す容器本体の横断面図である。
【図7】図1に示す容器入り調味液漬けの食品を製造する方法を示す説明図である。
【図8】加熱殺菌試験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 容器本体
2 底部
3 凸出部
4 フランジ部
5 凹入部
6 空間
7 容器上面
8 小突起
9 容器部分
10 蓋体
11 摘み片
12 不連続切線
15 漬物
16 調味液
17 ホッパー
18 液面
19 シールバー
20 容器入り調味液漬けの食品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調味液漬の食品を調味液と共に充填した下方に向かって底部から突出する凸出部を設けた容器本体を有し、上記凸出部は上記容器本体内の調味液の上面が容器本体の上面と均一状態になるように上方に向かって反転可能に形成され、上記凸出部を反転した容器本体の上面を覆って容器内が食品の入った調味液によって充満されている状態に蓋体で密封した容器入り調味液漬の食品。
【請求項2】
上記調味液漬の食品が、きゅうりの刻み調味液漬の漬物である請求項1に記載の容器入り調味液漬の食品。
【請求項3】
底部から下方の向かって突出する凸出部を設けた容器本体に、調味液漬の食品を調味液と共に充填し、蓋体を被せ、上記容器本体の底部に設けた凸出部を上方に向かって反転させ、食品が入っている調味液の上面を容器本体の上面と均一状態になるようにし、上記蓋体を容器本体に固定して密封し、この密封容器内が食品の入った調味液によって充満されている状態にすることを特徴とする容器入り調味液漬の食品の製造方法。
【請求項4】
上記蓋体を容器本体に固定して密封するとき、この蓋体が容器本体の上面と均一状態になるように上昇した調味液の上面に接している請求項3に記載の容器入り調味液漬の食品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−125011(P2009−125011A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304128(P2007−304128)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(399061916)東海漬物株式会社 (5)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】