説明

容積流体分配装置用の使い捨て定温槽

【課題】 周囲環境を管理する必要のない、容積測定分配装置における流体の温度を制御するためのシステム及び方法を提供する。
【解決手段】 分配前の流体を保つ槽12は、水ジャケット100を使用することにより、一定温度に維持される。これは、粘性及び濃度といった流体特性が均一であることを確実なものとし、そのため、正確な量が分配されることを保証する。水ジャケット100を通って水が循環する。槽12と連通する充填管36は該槽と閉ループを形成する。充填管36には、充填管36内への流体の流れを調節するための充填弁30と、充填管36内の流体のレベルを検出するためのセンサー32、34が設置される。また、充填管36内の流体を分配するための排出弁28が設けられる。コントローラはセンサー32、34に応答し、充填弁30を作動させて充填管36に流体を導入し、また、排出弁28を作動させて充填管36から流体を分配する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容積測定流体分配装置で使用するための一定温度の使い捨て槽(リザーバ)に関する。
【背景技術】
【0002】
瓶及び他の容器に充填するための色々なタイプの分配装置がある。そのような装置の一タイプは、容積式充填機(詰込み機/注入器)である。これらの装置は、シリンダー及びピストン構成を用い、これらは流体と接触してこれを分配する。一般に、流体は、ピストンの上方移動中にシリンダーに入り、該上方移動は、入口を通って流体が入り込む真空を作り出す。ピントンの下方移動は、流体を出口から追い出す。この工程は、その後、繰り返され得る。回転ポンプを用いるような他の容積式充填機の具体形態も存在する。
【0003】
これらの充填機はスピード及び正確さのため評判がよいが、それらの用途は、特に製薬分野において制限される。これらの装置は洗浄が非常に難しく、また、一般に、滅菌のために分解されなければならない。該装置はまた、実際に流体と接触するので、汚染のリスクが常にある。
【0004】
分配装置の別のタイプは、時間/圧力充填機である。これらは、一般に、一定圧力下に保たれる流体室を含む。流体は、ピンチ(つまみ)型弁で制御される吐出管を通って分配される。該弁は、流体を分配するため、正確な時間の間、開放される。圧力が一定に保たれ、また、時間間隔が一定なので、分配される流体量も一定のはずである。しかしながら、経時的な機器の変動及び吐出管の変形により、これらのシステムは、精度が、多くの用途で要求されるものよりも低い。
【0005】
第3のタイプの分配装置は、米国特許第5,480,063号に示されるような容積分配装置である。該文献は参照によりここに組み込まれる。これら装置は、所定量の流体を測定して分配する。これらシステムは、非常に正確であり、また、流体と接触する移動部材が無いため、容積式装置と共通の汚染の問題を回避する。
【0006】
これらのシステムは、それらが正確で汚染リスクが無いため、製薬分野での使用に十分に適している。しかしながら、それらには欠点がある。これらは、分配期間の間ずっと流体の粘性(粘度)が一定のままである限り、非常に正確である。しかしながら、流体の粘性が変化した場合、分配量も変わるであろう。この変動はわずか1%であるかもしれないが、これは、製薬分野では受け入れられないであろう。
【0007】
一般的な使用において、これらの装置は、「クリーンルーム」のような管理(制御)された環境内に保たれ、該環境は、比較的一定の温度及び湿度を維持する。その際、流体の粘性も一定に維持し、これにより、非常に正確な結果をもたらす。その上、多くの製薬流体は、それらの有効性を最大にする特定の温度もしくは温度範囲で処理される必要がある。これはまた、一定の環境設定を使用することによって実現する。
【特許文献1】米国特許第5,480,063号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、「クリーンルーム」を設定し維持することは、費用がかさみ、実際的ではないことがある。ある施設は、そのような環境を据え付けるのに必要なスペース又は設備を有していないかもしれない。別の施設では、そのような環境のコストが法外に高いことが判明するかもしれない。しかしながら、この管理された温度環境無しでは、上記二つの欠点、すなわち、変化する粘性、及び製薬流体の有効性の非最適化が生じてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記先行技術の問題点は本発明によって克服される。本発明は、周囲環境を管理する必要のない、容積測定分配装置における流体の温度を制御するためのシステム及び方法を提供する。分配前の流体を保つために用いる槽(リザーバ)は、水(ウォーター)ジャケット等の温度管理された周囲(包囲体)を使用することにより、一定温度に維持される。これは、粘性及び濃度といった流体特性が均一であることを確実なものとし、そのため、正確な容積(量)が分配されることを保証する。包囲された槽内の温度を制御するための方法も開示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
製薬流体分配システムは、適正量の流体を分配するために極めて厳しい公差を要求する。図1は、先行技術のそのような製薬流体分配システムを示す。
【0011】
槽(リザーバ/液溜め)12は、該システムによって分配されるべき流体を保有する。分配される量の変動を最小にするため、流体は、一定圧力下に保たれる。一般に、これらシステムのガス抜き孔は存在しない。むしろ、窒素等の不活性ガスが、槽内の残部容積を満たすために使用され得る。そして、該ガスと流体間のどのような反応をも防止する。液体が上記槽から分配されるにつれ、該液体は流体源18から補充される。槽レベル制御部(槽レベル制御器)22が、槽12内の流体のレベル(液位)を監視するために用いられる。該レベルが閾値より下に低下すると、槽レベル制御部22は、追加流体が加えられなければならないという信号をコントローラ(制御装置(図示せず))に送る。コントローラは、供給ソレノイド21に信号を送り、供給弁20を開放させる。一旦開放すると、流体は、流体源18から供給口14を通って槽12へと自由に移動する。槽内の適正流体レベルに達したら、槽レベル制御部22は、コントローラに信号を再度送り、これは、次いで、ソレノイド21及び供給弁20を閉じる。このようにして、槽12内の流体は一定圧力下に維持される。
【0012】
槽12は、排出口24から排出管26と連通すると共に、充填通気孔38から充填管36と連通する。上記コントローラが充填ソレノイド31に信号を送って充填弁30を開放すると、流体は、槽から排出管26へと流れ、充填管36内を登る。いくつかのセンサー、好ましくは光学センサーが充填管36に沿って設置され、これらは、充填管36内の流体の存在を検出することができる。上レベルセンサー34は、充填管の上方流体レベルを設定するために使用され、他方、下レベルセンサー32は、下方流体レベルを設定するために用いられる。操作上、充填弁30が開放すると、流体は排出管26及び充填管36に入る。一旦、該流体が上レベルセンサー34のレベルに達すると、該センサーは、コントローラに信号を送って充填弁を閉じる。充填管36が槽12と共に閉ループを形成するため、流体が槽を出て充填管36を満たすにつれ、充填管内に前から存在していたガスは槽内へと押し戻される。
【0013】
一旦、流体が上レベルセンサー34のレベルに到達して充填弁が閉じると、コントローラは、排出ソレノイド29に信号を送って開放させることにより、排出弁28を開放させる。排出弁28が開放する間、流体は、排出管26及び排出弁28を通って充填管を出る。一旦、充填管の流体レベルが下レベルセンサー32に達すると、コントローラには、排出ソレノイド29を作動させることにより、排出弁28を閉じるように信号が送られる。このようにして、上下レベルセンサー間の充填管の容積に等しい正確な流体量が分配される。
【0014】
その後、このプロセスは続き、槽12は、流体源18により供給弁20を通って満たされ、また、充填弁30及び排出弁28を開けることによって空にされる。このプロセスは、正確な液体量を分配するのに非常に有効である。更に、流体と接触する移動部材が存在しないため、機械的摩耗及び流体の汚染を無くすことができる。
【0015】
このシステムは非常に有効であるが、医薬品に対する操作に制限がある。第一に、医薬品は、著しく高い正確さで分配されなければならない。量の1%の変動さえも受け入れられないであろう。粘度及び濃度といった流体特性は、流体温度の関数として変化し得る。そのため、特定の流体量の正確な分配を保証するため、流体は、処理中、一定温度に維持されなければならない。第二に、多くの医薬品は、ある一定の温度範囲内で処理されなければならず、さもなければ、それらの有効性は損なわれるであろう。この温度は医薬品に応じて変化し得、一般に、4℃〜37℃である。
【0016】
しかしながら、図1に示すように、分配システムの性質は、適切な操作のため、流体は槽内に保たれなければならい。そのため、流体は、分配システムの利用法に応じて、長期間、槽内に留まり得る。極端な場合、該システムは、標準的な週休2日制の(5日の作業日の)間、一作業シフト(一作業交代制)中でのみ使用され得る。一日の作業シフトの終了時の槽内の流体は、次の日の作業シフトの開始まで槽内に留まる。この期間は、流体が週末の間槽内に残った場合、更に長くなり得る。更には、流体は、シフト変更時及びコーヒー休憩や昼休みのような日中の活動の無い期間、槽内に残るであろう。
【0017】
そのため、槽内の流体は、これが適切な温度にあることを保証するため、迅速に使用されなければならず、又は、槽の周囲環境が望ましい温度に保たれなければならない。この成り行きを実現する一方法は、温度が管理されたクリーンルームなどの管理された環境内に分配システムを保つことである。実際には、これらいずれの選択枝も可能ではなく、又は、経済的に実現できないであろう。例えば、ある流体は、冷凍(冷蔵)保存されなければならない。温度管理された環境が、その冷凍(冷蔵)室と同じ温度にない場合、該流体は、時間とともに温度変化をこうむり、そのため、その特性、例えば粘性及び濃度に影響を及ぼす。従って、システムを囲む環境が管理される必要なく、システムの活動が無い長期期間でさえ流体を適切な温度で槽内に保つための機構が望まれている。
【0018】
図2は、本発明の槽の第1実施形態の拡大図を示す。槽12には、流体が一部満たされている。上述したように、追加の流体は、供給口14から槽12に入り、また、排出口24から槽12を出る。充填口38は、排出口24からの閉ループ路を提供する。
【0019】
流体を一定の均一温度に維持するため、水ジャケット100のような熱的に管理(制御)された包囲体(周囲物)が槽12を包囲する(包囲体内に入れている)。好ましくはプラスチックからなる水ジャケットは、入口102と出口104を有する。水は、特定の要求及び製薬流体の特性に基づいて、流体(水)ジャケット外部における、加熱又は冷却を含む慣用の調節手段(図示せず)などによって一定温度に維持される。この調整された水は、次に、水ジャケット100を通じて循環し、入口102からジャケットに入り、出口104からジャケットを出る。
【0020】
好ましい実施形態において、熱的に管理される包囲体は槽全体を包囲するが、別の実施形態において、該包囲体は、適切な熱伝達を保証するため、槽の表面積のかなりの部分を覆う。同様に、該包囲体の厚さは均一であることが好ましいが、不均一な厚さに設計され得る。例えば、包囲体は、上部よりも底部が多くの水を含み得る。随意的に、該熱的に管理される包囲体(熱包囲体)及び槽は、単一の構成要素として製造され得る。
【0021】
熱包囲体を通る水の最適な流量は、槽及び包囲体の熱伝達特性、並びに、該水と周囲環境との間の温度勾配、槽内の流体量、及び該流体の特性を理解することにより決定される。一般に、より大きい流量は、槽内の流体に対しより均一な温度を保証する。
【0022】
槽内の流体が適切な温度にあることを保証するために用いることができる複数の機構が存在する。一実施形態において、槽内の流体の特性と、水の流量と、周囲温度(大気温度)と、槽と上記包囲体の熱伝達特性とに基づく熱伝達計算が、熱包囲体内の水に対する適切な温度を決定するために行われる。第2実施形態において、熱包囲体内を循環する水の温度は、実験的に計算される。第3実施形態において、槽内に設置された温度センサーは、情報をコントローラに供給し、コントローラは、次いで、それに応じて、熱包囲体内の水の温度を調節する。
【0023】
水ジャケットの使用は、使用されるセンサー技術のタイプ次第で、槽レベル制御部22の動作を妨げるかもしれない。例えば、図1に示すようなフロートを用いる機構が槽内に据え付けられる場合、水ジャケットの使用は、その動作を妨げないであろう。しかしながら、レベル制御部として光学センサーもしくはキャパシタンスセンサーが用いられる場合、水ジャケットは、該ジャケット設計に対し適切な順応がなされない限り、該センサーの適切な動作を妨げ得る。
【0024】
図3は、水ジャケットと連結しての光学センサーもしくはキャパシタンスセンサーの適切な動作を許容するように適合された本発明の第2実施形態を示す。閉ループ200は、充填通気孔38及び排出口24の両方と流体連通している。閉ループ200内の流体のレベルは、槽12内の高さと同じ高さとなる。そのため、キャパシタンスセンサーもしくは光学センサー201は、槽内で現在履行される機能を実行する閉ループで用いるために使用することができる。あるいは、閉ループ200は、流体の分配用の入口及び出口とは別個の入口及び出口を利用することができる。いずれの場合も、閉ループ内の流体レベルは、槽内のレベルに等しい。
【0025】
水が水ジャケット内で用いる好ましい媒体であるが、本発明はこれに限定されない。必要な効果を作り出すため、気体を含むどのような他の適当な流体も、それらが比較的不活性であり、かつ、そのようなシステムでの使用が適正な政府機関(例えばFDA)によって認可される限り、使用され得る。そのような流体は、コーン油もしくはカノーラ油等の食品用油、鉱油等を含むが、これらに限定はされない。気体は、冷却された空気もしくは加熱された空気、フレオン(デュポン社の登録商標)、フレオンのような冷媒(冷却剤)等を含み得る。従って、当業者は、次の点を理解するであろう。すなわち、水ジャケットの使用は単に模範例にすぎず、ジャケット内の流体が水に限定されると解釈されるべきではない。
【0026】
別の実施形態において、槽内の流体の温度は電子制御される。サーミスタ及び電熱冷却機(固体ヒートポンプ)のような電気機器が、温度管理された周囲(環境)を作り出すために使用される。これらの機器は、槽に直接配置することができ、あるいは槽を包囲する包囲体中に配置することができる。これらの機器は、コントローラと通信し、コントローラは、必要に応じて上記機器を作動させることにより槽内の流体の温度を調節する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】先行技術の製薬流体分配システムを示す概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態を示す概略図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0028】
12 槽
14 供給口
22 槽レベル制御部
24 排出口
28 排出弁
32 下レベルセンサー
34 上レベルセンサー
30 充填弁
36 充填管
38 充填通気孔(充填口)
100 水ジャケット
102 入口
104 出口
200 (第2)閉ループ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1流体が所定温度に維持される、所定量の第1流体を分配するための装置であって、
分配されるべき第1流体を収容する流体室と、
流体室を包囲する温度管理される包囲体であって、流体室内の第1流体を一定の温度及び粘性に維持するために一定温度の第2流体が該包囲体を通って循環する当該包囲体と、
流体室と連通し、該流体室と閉ループを形成する充填管と、
充填管内への第1流体の流れを調節するために充填管に設置される充填弁と、
充填管内の第1流体のレベルを検出するための検出手段と、
充填管の内容物を分配するための排出弁と、
充填管に充填するために充填弁を作動させると共に、充填管から第1流体を分配するために排出弁を作動させるため、検出手段に応答する電子コントローラとを備えた装置。
【請求項2】
前記第2流体は水である請求項1の装置。
【請求項3】
前記流体室と連通する第2閉ループを更に備え、第2閉ループは、流体室内の第1流体のレベルに相当する第2閉ループ内の第1流体のレベルを検出するための検出手段を更に備える請求項1の装置。
【請求項4】
流体が所定温度に維持される、所定量の流体を分配するための装置であって、
分配されるべき流体を収容する流体室と、
作動時に流体ジャケットを加熱することにより、流体室内の流体を一定の温度及び粘性に維持するように適合された、流体ジャケットと熱的に連通する電子手段と、
流体室と連通し、流体室と閉ループを形成する充填管と、
充填管内への流体の流れを調節するために充填管に設置される充填弁と、
充填管内の流体のレベルを検出するための検出手段と、
充填管の内容物を分配するための排出弁と、
充填管に充填するために充填弁を作動させ、かつ、充填管から流体を分配するために排出弁を作動させるため、検出手段に応答する電子コントローラとを備えた装置。
【請求項5】
前記電子手段はサーミスタを含む請求項4の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−15339(P2006−15339A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184868(P2005−184868)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(390019585)ミリポア・コーポレイション (212)
【氏名又は名称原語表記】MILLIPORE CORPORATION
【Fターム(参考)】