説明

容量測定装置および容量測定方法

【課題】 リーク電流の大きなデバイスに対しても精度良く容量を測定することのできる容量測定装置を提供する。
【解決手段】被測定対象に電圧変動を与えるステップ電圧源として動作する第1の測定ユニットと、電圧変動の前後に被測定対象を流れるリーク電流及び電圧変動時に被測定対象を流れる充電電流を測定する電流計として動作する第2の測定ユニットに加え、被測定対象の抵抗成分を流れる電流を吸収するための電流源として動作する第3の測定ユニットを設ける。電流源の出力電流値には1ステップ前の出力電流値に1ステップ前のリーク電流の測定値を加えた値が設定される。電流計で測定される電流のうち被測定対象の抵抗成分を流れるリーク電流の大部分が電流源で吸収されるので、電流計には充電電流と前のステップでのリーク電流値と現在のステップでのリーク電流の差分のみが流れる。このため精度良く容量測定を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスや半導体プロセスの開発において容量素子の擬似静的な容量測定に用いられる容量測定装置および容量測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや半導体プロセスの開発では、半導体デバイスや半導体プロセスの評価のために被測定対象(DUT:Device Under Test)の容量測定が行われている。被測定対象の容量測定には、大きく分けて、高周波での容量測定と低周波(quasi-static)での容量測定とがある。低周波での容量測定においては、近年の半導体プロセスの微細化などにより、測定する容量も小さくなり、高精度の測定を行える技術が要求されている。
【0003】
ステップ電圧法は、被測定対象に印加する電圧を変化させることにより生じる充電電荷の変化量を測定し、その充電電荷の変化量と印加電圧の変化量から被測定対象の容量値を求める手法であり、例えば特許文献1などに、このステップ電圧法に関連する技術が開示されている。
【0004】
ところで、半導体プロセスの微細化に伴い、特に低周波での容量測定の場合には、被測定対象に流れる充電電流を測定するための電流計に、被測定対象の抵抗成分による大きなリーク電流が流れ込み、これが容量測定に誤差をもたらすという課題がある。図10にこのリーク電流の影響の例を示す。被測定対象に印加する電圧を変化させると被測定対象に充電電流が流れて充電電荷(図10の電流(I)グラフの面積部分)が変化する。リーク電流がない場合には、電流計に流れ込む電流は被測定対象を通して流れる充電電流のみであるが、リーク電流が発生している場合には被測定対象を通して流れる充電電流に加えてリーク電流も電流計に流れ込み、結果的に被測定対象の充電電荷の変化量を正しく測定できない。そこで、このリーク電流分の電荷の補正を行うことが可能な容量測定方法が求められている。以下に、リーク電流分の補正を行うことが可能な容量測定方法の従来例を示す。
【0005】
被測定対象の容量C(単位F)、充電電荷Q(単位C)、印加電圧V(単位V)の関係は下式で表される。
Q=CV ・・・(1)
【0006】
被測定対象の容量Cが一定であると仮定した場合、被測定対象への印加電圧Vをある電圧Vset1から異なる電圧Vset2に変化させると、被測定対象の充電電荷もある値Q1から異なる値Q2に変化する。すなわち、充電電荷はΔQ(=Q2−Q1)だけ変化する。この充電電荷の変化量ΔQは、次式のように充電電流Iを積分して求められる。
ΔQ=∫Idt ・・・(2)
【0007】
図11は印加電圧を変化させたときの充電電荷の変化量ΔQをPLC(Power Line Cycle)の所定の整数倍として定められた期間ΔtPLCごとの長方形近似によって求める場合の例を示す図である。ΔtPLCは、電源電圧の周波数が50Hzである時には例えば20msであり、電源電圧の周波数が60Hzである時には例えば16.67msである。この場合、充電電荷の変化量ΔQは次式で近似的に表される。
ΔQ≒ΣI*ΔtPLC ・・・(3)
ただし、k=1,2,…,Tcinteg/ΔtPLCである。Tcintegは充電電流の積分区間である。
【0008】
図14は、従来のステップ電圧法による測定を行う際のブロック図であり、可変電圧源82の出力が被測定対象(DUT)81の一端に接続され、被測定対象81の他端には、電流計84を介して接地端子に接続されている。他方、可変電圧源82の出力には、電圧計83が接続されている。図12は従来のステップ電圧法による測定シーケンスを示す図であり、一回の測定ステップの印加電圧の変化を示している。なお、可変電圧源82及び電圧計83には第1の測定ユニットが用いられ、電流計84には第2の測定ユニットが用いられている。まず、第1の測定ユニットで印加電圧の値がある値Vset1に設定される。印加電圧の設定から予め決められた時間delay1が経過したとき、第1の測定ユニットによる印加電圧V1の測定が行われ、続いて電流計である第2の測定ユニットによるリーク電流IL1の測定が行われる。このように印加電圧V1の測定とリーク電流IL1の測定とが順に行われるのは、第1の測定ユニットと第2の測定ユニットとで一つのA/D変換器を共有しているためである。印加電圧V1の測定後、第2の測定ユニットによる充電電流の測定が開始されるとともに、印加電圧の設定値が異なる値Vset2に変更される。これにより印加電圧が増加して行く。
【0009】
第2の測定ユニットによる充電電流の測定はΔtPLC間隔でTcinteg/ΔtPLCの回数繰り返され、その積分値が充電電荷の変化量ΔQtotalとして求められる。充電電流の測定が終了すると、電圧源で印加電圧V2の測定が行われ、次いで、第2の測定ユニットでリーク電流IL2の測定が行われる。
【0010】
容量値Cは以下の式を用いて求められる。
C=ΔQ/ΔV=(ΔQtotal−ΔQLeak+Qcorrection)/(V2−V1) ・・・(4)
={(ΣI*ΔtPLC)−ΔQLeak}/(V2−V1) ・・・(5)
ここで、ΔQLeakはリーク電流による充電電荷の変化量であり、これは図13に示すように、充電電荷が時間的に線形に増加するという仮定をもとに、台形近似を使って次式により求められる。
【0011】
ΔQLeak=1/2(IL1+IL2)τ+IL2(Tcinteg−τ) ・・・(6)
ここで、τは被測定対象への充電時間であり、この時間は以下のようにして決められる。
【0012】
本測定では、第2の測定ユニットが充電電流をΔtPLCごとに測定する同時に第2の測定ユニットの状態をモニターすなわち監視し、出力電圧と設定電圧値とが等しくないなら充電中であると判断し、出力電圧と設定電圧値とが等しくなった時点(以下、この状態をVloop状態と呼ぶ)をもって充電が完了したとみなしている。
【0013】
なお、期間ΔtPLCごとに充電電流を測定することおよび第2の測定ユニットの状態をモニターするのは、パワーラインノイズによる影響をキャンセルするためである。
【0014】
式(4)においてQcorrectionは、第2の測定ユニットの内部のレンジ抵抗並列容量に充電される電荷量である。
【0015】
第2の測定ユニットでのリーク電流IL2の測定が完了したとき、決められた時間delay2の経過を待って、次のステップすなわち電圧設定値を上げて同様の測定が行われる。
【特許文献1】特開2002−168893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記従来の容量測定方法では、充電電流に比較して、リーク電流が大きくなってくると、電流計を流れる電流のうちがリーク電流の占める割合が支配的となり、充電電流が電流計の測定レンジのうちのわずかとなり、ダイナミックレンジ及びS/N(信号雑音比)が低下するという問題が出てきた。
本発明はかかる事情を鑑み、リーク電流の大きなデバイスに対しても精度良く容量を測定することのできる容量測定装置および容量測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明の容量測定装置は、被測定対象に電圧変動を付与する電圧源と、前記被測定対象の抵抗成分を流れる電流を吸収する電流源と、前記電圧変動の前後に前記被測定対象を流れるリーク電流及び前記電圧変動によって前記被測定対象を流れる充電電流を測定する電流計とを具備することを特徴とする。
【0018】
前記電流源は、両端が前記被測定対象の両端とそれぞれ接続されたフローティング電流源としてもよい。
【0019】
前記電圧源は、前記電圧変動によって前記被測定対象を充電電流が流れる期間の印加電圧を測定する手段を有し、前記電流計の電流測定結果及び前記電圧源の電圧測定結果をもとに前記被測定対象の充電時のリーク電流値を算出し、このリーク電流値を用いて前記被測定対象の容量値を算出する演算手段をさらに具備するものであってもよい。
【0020】
また、本発明の別の観点に基づく容量測定方法は、ステップ電圧法によって被測定対象の容量を測定する方法であって、電圧源が前記被測定対象に電圧変動を付与するステップと、1ステップ前の電流源の出力電流値に1ステップ前のリーク電流の測定値を加えた値を、前記被測定対象の抵抗成分を流れる電流を吸収する電流源の出力電流値として設定するステップと、前記電圧変動の前後に前記被測定対象を流れるリーク電流及び前記電圧変動によって前記被測定対象を流れる充電電流を電流計が測定するステップとを具備する。
【0021】
すなわち、本発明は、電流計で測定される電流のうち、被測定対象の抵抗成分を流れるリーク電流の大部分が電流源で吸収されるので、電流計には、充電電流と、前のステップでのリーク電流値と現在のステップでのリーク電流の差分のみが流れる。このため、電流計の測定レンジを充電電流の測定に最適化することができ、充電電流の値を再現するダイナミックレンジの向上及びS/N(信号雑音比)の向上を図ることができる。
【0022】
また、本発明は、電流源として、両端が被測定対象の両端とそれぞれ接続されたフローティング電流源を用いることによって、ノイズに対して両端子の電位が同相に動くため、電流源がノイズの影響を受けにくく出力電流が安定する。これにより、ノイズが加わった状況においても安定して容量測定を行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の容量測定装置および容量測定方法によれば、リーク電流の大きなデバイスに対しても精度良く容量を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面をもとに説明する。
図1は本発明の実施の形態にかかる容量測定装置と被測定対象との接続の構成を示す図である。同図に示すように、この容量測定装置は、被測定対象1に電圧変動を与えるようにステップ電圧を印加するステップ電圧源として動作する第1の測定ユニット2と、電圧変動の前後に被測定対象1を流れるリーク電流及び電圧変動時に被測定対象1を流れる充電電流を測定する電流計として動作する第2の測定ユニット3と、被測定対象1の抵抗成分Rxを流れる電流を吸収するための電流源として動作する第3の測定ユニット4とで構成される。Cxは被測定対象1の容量成分、Rxは被測定対象1の抵抗成分である。被測定対象1は複数の接続端子を有しており、第1の測定ユニット2は被測定対象1の複数の接続端子の一方に接続され、第2の測定ユニット3と第3の測定ユニット4は他方の接続端子に接続される。
【0025】
図2は第1の測定ユニット2、第2の測定ユニット3、及び第3の測定ユニット4の構成を示す図である。第1の測定ユニット2、第2の測定ユニット3、及び第3の測定ユニット4は同じハードウェアで構成される。なお、図2には第1の測定ユニット2、第2の測定ユニット3、及び第3の測定ユニット4のうちの一つの構成だけが示されている。
【0026】
第1の測定ユニット2、第2の測定ユニット3、及び第3の測定ユニット4は、VDAC(電圧値デジタル/アナログコンバータ)11、IDAC(電流値デジタル/アナログコンバータ)12、V/I誤差アンプ13、パワーアンプ14、電流モニター回路15、VMバッファアンプ16、電流モニターアンプ17、電圧モニターアンプ18、及び2つのADC(アナログ/デジタルコンバータ)19,20、制御ロジック部21で構成される。
【0027】
VDAC11は、制御ロジック部21を通じてコントローラ22より与えられたデジタルの電圧値をアナログ値に変換してV/I誤差アンプ13に出力する。IDAC12は、制御ロジック部21を通じてコントローラ22より与えられたデジタルの電流値をアナログ値に変換してV/I誤差アンプ13に出力する。
【0028】
V/I誤差アンプ13は、VLoop状態、すなわち出力電圧と設定電圧値が等しい状態においてVDAC11より出力された電圧値とVMバッファアンプ16の出力との差分をとって設定電圧値が被測定対象1の接続端子23に出力されるようにパワーアンプ14を制御する。また、V/I誤差アンプ13は、非VLoop状態、すなわち出力電圧と設定電圧値が等しくない状態において、IDAC12より出力された電流値と電流モニターアンプ17の出力との差分をとって設定電流値が被測定対象1の接続端子23に出力されるようにパワーアンプ14を制御する。
【0029】
パワーアンプ14は、V/I誤差アンプ13の出力をもとに被測定対象1の接続端子23に出力する電圧または電流を制御する。電流モニター回路15は、被測定対象1に流れる電流を観測する回路である。この電流モニター回路15は被測定対象1に流れる電流に応じて電流感度(電流レンジ)を切り替える機能を持つ。
【0030】
VMバッファアンプ16は、被測定対象1の接続端子23の電圧を観測する。電流モニターアンプ17は、電流モニター回路15で測定された電流値をA/D変換できるように正規化するアンプである。電圧モニターアンプ18は、VMバッファアンプ16で測定された電圧値をA/D変換できるように正規化するアンプである。
【0031】
2つのADC19,20のうちの一方のADC19は、電圧モニターアンプ18で正規化されたアナログの電圧値をデジタルの電圧値に変換する回路である。他方のADC20は、電流モニターアンプ17で正規化されたアナログの電流値をデジタルの電流値に変換する回路である。
【0032】
制御ロジック部21は、コントローラ22からの制御命令を処理する論理回路である。制御ロジック部21は、コントローラ22からの制御命令に従って、例えば、VDAC11に対する電圧値の設定、IDAC12に対する電流値の設定などや、2つのADC19,20の出力をコントローラ22に伝送する制御などを行う。
【0033】
上記の構成を有することによって、第1の測定ユニット2は、電流制限を行う機能、被測定対象1に印加する電圧値を設定する機能、印加電圧を測定する機能を有する電圧源として動作し、第2の測定ユニット3は、被測定対象1の充電電流を測定する電流計として動作し、第3の測定ユニット4は電力値の設定が可能な電流源として動作する。
【0034】
コントローラ22は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力部などで構成されている。ROMにはステップ電圧法による容量測定のための処理手順であるプログラム及び各種のパラメータ情報などのファームウェアが格納されている。コントローラ22は、入出力部を通じて、第1の測定ユニット2、第2の測定ユニット3、及び第3の測定ユニット4それぞれの制御ロジック部21や、マンマシンインタフェース24、外部インタフェース25などと通信が可能なように接続されている。CPUはROMに格納されたファームウェアに従って、第1の測定ユニット2及び第2の測定ユニット3の出力をもとに被測定対象1の容量を測定するための制御命令の発行及び演算処理を実行し、その容量の測定結果を、入出力部を通じてマンマシンインタフェース24、外部インタフェース25などに出力する。また、CPUはROMに格納されたファームウェアに従って、電流源として動作する第3の測定ユニット4の電流値を設定する。
【0035】
マンマシンインタフェース24は、ユーザとの間で入出力を行うためのインタフェースであり、具体的にはディスプレイなどの表示装置、キーボードなどの入力装置などを含むものである。外部インタフェース25は、本測定装置に通信ケーブルを介して接続された機器との間で入出力を行うためのインタフェースである。接続された機器としては、記録媒体に記録を行うための記録装置などである。
【0036】
次に、この実施形態の容量測定装置の動作を説明する。
【0037】
図3は本実施形態の容量測定装置による容量測定シーケンスであり、一回の測定ステップの印加電圧の変化を示している。この容量測定装置は、一回の測定ステップごとに、電圧変動の前後に被測定対象1を流れるリーク電流及び電圧変動時に被測定対象1を流れる充電電流及び印加電圧を測定して容量値を測定し、この測定ステップを、印加電圧の設定値を変更しながらnステップ繰り返す。たとえば、容量測定装置は、電圧源の印加電圧を0Vから10Vまで0.1Vごとにスイープさせる。この場合、0.1Vの電圧変動ごとの測定がn(=100)回繰り返される。
【0038】
図4は連続する複数の測定ステップにおける、電圧源の印加電圧、被測定対象と流れる電流、電流源の電流、及び電流計の測定電流の関係を示す図である。図5は容量測定のフローチャートである。
【0039】
初回のステップの測定において、コントローラ22は、電圧源である第1の測定ユニット2の印加電圧の値を、初期値として決められた設定値Vset1(1)に設定する(ステップS01)。なお、以下本明細書では、特定の回の測定ステップでの電流、電圧、容量等を表現する場合には、例えばVset1(1)のように、これら電流、電圧、容量などの測定値、設定値あるいは計算値の名称に、括弧で囲んだ測定ステップ回数を付して表記する。次に、コントローラ22は電流源である第3の測定ユニット4をオフ(電流値をゼロに設定)にしたまま電流計である第2の測定ユニット3にてリーク電流Ioffset(1)の測定を自動レンジで行わせる(ステップS02)。次に、コントローラ22は、第2の測定ユニット3の測定結果であるリーク電流Ioffset(1)の値を電流源である第3の測定ユニット4の出力電流値として設定する(ステップS03)。
【0040】
この後、コントローラ22は、測定ステップ回数の変数を1(n=1)にセットし(ステップS04)、印加電圧を設定値Vset1(n)(最初のステップでは設定値Vset1(1))に設定してから一定の遅延時間delay1が経過後に第2の測定ユニット3によって測定された電流値を電圧変動前のリーク電流の値IL1(n)として取り込むとともに、第1の測定ユニット2にて測定された電圧値を電圧変動前の印加電圧の値V1(n)として取り込む(ステップS05)。このように第1の測定ユニット2の測定結果と第2の測定ユニット3の測定結果を同時に取り込むことが出来るように、第1の測定ユニット2及び第2の測定ユニット3が、それぞれ独立に動作して測定結果を出力できる構成を有している。なお、これらの測定が同時に行われることは、本発明において必須の事項ではない。
【0041】
次に、コントローラ22は、第1の測定ユニット2にて測定された電圧値を充電時の印加電圧の値として取り込むことを開始するとともに、第2の測定ユニット3にて測定された電流値を充電電流の値として取り込むことを開始する(ステップS06)。これと同時 あるいはほぼ同時に、コントローラ22は、印加電圧の設定値を予め決められた異なる設定値Vset2(n)に変更する(ステップS07)。充電時の印加電圧及び充電電流の各測定は予め決められた時間Tcinteg続けられる(ステップS08)。この時間Tcintegは、たとえば、Vset1(n)からVset2(n)への電圧変動に対して被測定対象1の印加電圧がVset2(n)まで達するまでの見込み時間にマージンを加えた値とされている。
【0042】
次に、コントローラ22は、第1の測定ユニット2によって測定された電圧値を電圧変動後の印加電圧V2(n)の値として取り込むとともに、第2の測定ユニット3によって測定された電流値を電圧変動後のリーク電流IL2(n)の値として取り込む(ステップS09)。コントローラ22は、上記のように第1の測定ユニット2の測定結果及び第2の測定ユニット3の測定結果をそれぞれ取り込んでRAMに記憶し、ROMに格納されたファームウェアに従って被測定対象1の容量値C(n)を計算する(ステップS10)。この後、コントローラ22は、決められた時間delay2が経過するのを待って、次のステップすなわち電圧設定値を上げて同様の測定を行うように制御を行う。
【0043】
次に、コントローラ22は、測定ステップ回数の変数nの値をインクリメントして、次のステップの測定の動作を開始する(ステップS11)。コントローラ22は、電圧源である第1の測定ユニット2の印加電圧の値を、次のステップの設定値Vset1(n)に設定する(ステップS12)。続いて、コントローラ22は、電流源である第3の測定ユニット4の出力電流をIoffset(n-1)+IL2(n-1)に設定する(ステップS13)。すなわち、前回のステップの電流源の出力電流値Ioffset(n-1)に前回のステップで電流計で測定されたリーク電流IL2(n-1)を加えた電流値を、今回のステップの電流源である第3の測定ユニット4の出力電流Ioffset(n)とする。
【0044】
この後はステップS05に戻って、コントローラ22は、電圧変動前のリーク電流の値IL1(n)及び印加電圧の値V1(n)の取り込み、充電時の印加電圧の値と充電電流の値の取り込み、電圧変動後のリーク電流の値IL2(n)及び印加電圧の値V2(n)の取り込み、容量値C(n)の計算を繰り返す。以上の動作が最終のステップまで繰り返される。
【0045】
これにより、電流計である第2の測定ユニット3で測定される電流の大部分が電流源である第3の測定ユニット4で吸収される。結果的に電流計である第2の測定ユニット3には、充電電流と、前のステップでのリーク電流値と現在のステップでのリーク電流の差分のみが流れる。
【0046】
容量値Cは以下の式で求められる。
C=ΔQ/ΔV={(I−ILeak)*Tcinteg+Qcorrection}/(V2−V1) ・・・(7)
【0047】
ここで、Iは第2の測定ユニット3でTcinteg 時間の間に測定された充電電流値、ILeakは充電時のリーク電流、Tcintegは充電時間、Qcorrectionは第2の測定ユニット3の内部のレンジ抵抗並列容量に充電される電荷量である。充電時のリーク電流ILeakは、充電電流の測定と同時に測定された印加電圧からその平均値Vavrgを求め、この印加電圧の平均値Vavrgを用いて次式により求められる。
【0048】
Leak=IL1+(IL2−IL1)*(Vavrg−V1)/(V2 −V1 ) ・・・(8)
【0049】
1は電圧変動前の第1の測定ユニット2の出力電圧、V2は電圧変動後の第1の測定ユニット2の出力電圧、IL1は電圧変動前の第2の測定ユニット3によって測定されたリーク電流、IL2は電圧変動後に第2の測定ユニット3によって測定されたリーク電流である。
【0050】
なお、(7)式、(8)式で、容量値C、リーク電流値ILeakのそれぞれの計算に、測定された印加電圧の値V1、V2を使用しているのは、電圧設定の分解能より印加電圧の測定分解能の方が高いためである。電圧設定の分解能が十分高いのならば、設定電圧の値Vset1、Vset2を用いてもよい。
【0051】
以上説明したように、この実施形態の容量測定装置によれば、電流計である第2の測定ユニット3で測定される電流のうち、被測定対象1の抵抗成分Rxを流れるリーク電流の大部分が電流源である第3の測定ユニット4で吸収されるので、電流計である第2の測定ユニット3には、充電電流と、前のステップでのリーク電流値と現在のステップでのリーク電流の差分のみが流れる。このため、電流計である第2の測定ユニット3の測定レンジを充電電流の測定に最適化することができ、充電電流の値を再現するダイナミックレンジの向上及びS/N(信号雑音比)の向上を図ることができる。
【0052】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。
図6は被測定対象1の一つの接続端子だけに容量測定のための各ユニットを接続した例である。また、個々の測定ユニットは、同じハードウェア構成を備えており、それぞれ電圧源、電流計、電流源として動作させることが可能であるので、一つの測定ユニット2を電圧源と電流計として動作させることとしている。
【0053】
図7及び図8はオフセット用の電流源として測定ユニットではなくフローティング電流源4aを被測定対象1に対して並列に接続した容量測定装置の例である。このフローティング電流源4aをオフセット用の電流源として用いた場合の効果を説明する。
【0054】
ここで、被測定対象1の容量が浮遊容量や測定ユニットの入力容量に対して比較的大きく、被測定対象1の両端の電位はAC的なノイズに対して同相で動くものとする。GND系にノイズが乗っている場合、例えば図6に示すように、フローティングではない電流源を用いた場合では、電流源の出力アドミッタンスによって電流源の電流値が変動してしまい、測定値に影響を与える。これは、図6の電流源はノイズの乗っていない静かな測定器系のGNDを基準に動作しているため、被測定対象1との接続端子に現れたノイズに反応しまうためである。特に、微細で、ゲート酸化膜が薄く、リーク電流の大きなデバイスでは、電流源の電流(Ioffset)よりも測定しようとする電流(充電電流)の方がはるかに小さいので、ノイズによる電流(Ioffset)の変動は測定しようとする電流(充電電流)の測定値に大きな影響を与える。これに対して、フローティング電流源4aを被測定対象1に対して並列に接続した構成では、そのフローティング電流源4aの両端が被測定対象1の両端にそれぞれ接続されてため、ノイズに対して両端子の電位が同相に動くため、電流源がノイズの影響を受けにくく出力電流(Ioffset)が安定する。すなわち、フローティング電流源4aは、ノイズそのものではなくノイズによって誘起される被測定対象1の両端の電位差のみに影響されるだけに過ぎないので、測定に与える影響は非常に小さい。
【0055】
図9は被測定対象1として4端子のMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)を用いた場合の容量測定装置の例である。この例では、MOSFETのゲートとサブストレート、ソース、ドレインの各端子に、電流計である第2の測定ユニット3−1,3−2,3−3と電流源である第3の測定ユニット4−1,4−2,4−3がそれぞれ接続されている。それぞれの電流源である第3の測定ユニット4−1,4−2,4−3で、MOSFETのゲートとサブストレート、ソース、ドレインの各端子ごとの抵抗成分によるリーク電流の大部分が吸収されることで、それぞれの電流計である第2の測定ユニット3−1,3−2,3−3において高精度に充電電流を測定することができ、容量を精度良く測定することができる。
【0056】
なお、本発明は、上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、ADC19と20は、上述の実施形態では各測定ユニットに1つずつ備わっているとして説明したが、これに限らず、各測定ユニット内に1つだけのADCとして実装し、スイッチで切り替えて電流または電圧を測定するようにすることもできる。また、各測定ユニット上のADC19と20のいずれかあるいは両方を、各測定ユニット外の容量測定装置上に1つずつ備えられているように実装し、各測定ユニットから切り替えて接続するようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態にかかる容量測定装置と被測定対象との接続を示す図である。
【図2】図1における第1の測定ユニット及び第2の測定ユニットの構成を示す図である。
【図3】本実施形態の容量測定装置による容量測定シーケンスである。
【図4】連続する複数の測定ステップにおける、電圧源の印加電圧、被測定対象と流れる電流、電流源の電流、及び電流計の測定電流の関係を示す図である。
【図5】本実施形態の容量測定装置による容量測定のフローチャートである。
【図6】被測定対象の一つの接続端子だけに容量測定のための各ユニットを接続した例を示す図である。
【図7】オフセット用の電流源としてフローティング電流源を用いた容量測定装置の例を示す図である。
【図8】オフセット用の電流源としてフローティング電流源を用いた容量測定装置の別の例を示す図である。
【図9】被測定対象として4端子のMOSFETを用いた場合の容量測定装置の構成を示す図である。
【図10】被測定対象の充電電流へのリーク電流の影響を示す図である。
【図11】充電電荷の変化量の測定方法を示す図である。
【図12】従来のステップ電圧法による測定シーケンスを示す図である。
【図13】図12の測定方法において想定されるリーク電流の変化を示す図である。
【図14】図12の測定方法におけるブロック図を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 被測定対象
2 第1の測定ユニット(電圧源)
3 第2の測定ユニット(電流計)
4 第3の測定ユニット(電流源)
4a フローティング電流源
11 VDAC
12 IDAC
13 V/I誤差アンプ
14 パワーアンプ
15 電流モニター回路
16 VMバッファアンプ
17 電流モニターアンプ
18 電圧モニターアンプ
19,20 ADC
21 制御ロジック部
22 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象に電圧変動を付与する電圧源と、
前記被測定対象の抵抗成分を流れる電流を吸収する電流源と、
前記電圧変動の前後に前記被測定対象を流れるリーク電流及び前記電圧変動によって前記被測定対象を流れる充電電流を測定する電流計と
を具備することを特徴とする容量測定装置。
【請求項2】
前記電流源は、両端が前記被測定対象の両端とそれぞれ接続されたフローティング電流源であることを特徴とする請求項1に記載の容量測定装置。
【請求項3】
前記電圧源は、前記電圧変動によって前記被測定対象を充電電流が流れる期間の印加電圧を測定する手段を有し、
前記電流計の電流測定結果及び前記電圧源の電圧測定結果をもとに前記被測定対象の充電時のリーク電流値を算出し、このリーク電流値を用いて前記被測定対象の容量値を算出する演算部をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の容量測定装置。
【請求項4】
前記被測定対象が複数の接続端子を有し、
前記電圧源は前記被測定対象の一方の前記接続端子に接続され、
前記電流源及び前記電流計は前記被測定対象の他方の前記接続端子に接続されることを特徴とする請求項1に記載の容量測定装置。
【請求項5】
前記被測定対象が複数の接続端子を有し、
前記電流源は、前記被測定対象の一方の前記接続端子に接続され、
前記電流計及び前記電圧源は、前記被測定対象の前記一方の接続端子に直列に接続され、
前記電流源及び前記電流計は前記被測定対象の他方の前記接続端子に接続されることを特徴とする請求項1に記載の容量測定装置。
【請求項6】
ステップ電圧法によって被測定対象の容量を測定する方法であって、
電圧源が前記被測定対象に電圧変動を付与するステップと、
1ステップ前の電流源の出力電流値に1ステップ前のリーク電流の測定値を加えた値を、前記被測定対象の抵抗成分を流れる電流を吸収する電流源の出力電流値として設定するステップと、
前記電圧変動の前後に前記被測定対象を流れるリーク電流及び前記電圧変動によって前記被測定対象を流れる充電電流を電流計が測定するステップと
を具備することを特徴とする容量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−70307(P2008−70307A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250872(P2006−250872)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】